香り
ごろり。
ブルーカバーに掛かった読みかけの本を、肌触りの良いソファの上で寝読みする。
行儀は悪いが、今は常に威厳と尊厳を持ち始終緊張感に縛られる総帥任務から離れた、やっとのフリー時間。
こんな時まで、小さい事を咎める無粋者もいない。
いや、一人いるか。妙に行儀に煩いヤツ。
しかも目の前に。
何でも専門分野の研究の一つで、すっげー困難だったものらしかったがやっと目処の立ちそうな結果が導き出せそうだとかで、
コッチの脳みそがショートしそうな程意味不明な横列の報告書類を、
四方八方に―――けれどごちゃごちゃにしてるんじゃなくて綺麗に―――並べて、ノートパソコンと対峙している。
この部屋の主で、数年前まで俺と同体だった従兄弟。
従兄弟と言うより双子が近いんじゃないかと思う。
見た目は全く似ちゃいないけど。
俺とキンタローは任務以外でも一緒にいる。こうしてプライベートでも。
理由は『ずっと一緒に居たいから』と至ってシンプル。
当然と言えば当然だ。俺達は≪恋人同士≫だし。
好きなら常に一緒に時間を共有したいって思うだろ?
それを記憶からは薄れた誰かに言ったら、そいつには「常にってのは嫌だ」とか「飽きる」「うざったく感じる時だってある」
と言われた。
確かにあるな、そう感じる時。
けどそれは仕事の時には思っても、こうしたプライベートではうざいと感じた事はない。
それはコイツも同じだろう。
じゃなきゃ俺がコイツのトコに行かないと、自分の方から毎日でも来るって事ないよな。
いつもキンタローの部屋にいる訳じゃなく、お互いの気分次第で変わる。
昨日はキンタローが俺の部屋に来た。
それが嬉しくて………悔しい。
あー、馬鹿だ。
どうしようもなく馬鹿だ、俺。
コイツの事、マジで惚れまくっちゃっうなんてさ。
コタローを越える存在なんて、生涯絶対ないと思ってたのに。
コタローが一番のつもりなんだが、………コタローは特別の別格ってヤツで、キンタローは…………最愛?てか最恋??
いや、それもなんだかなー。
理由はよく分からないが、一緒に居ると安心するんだよな。
やっぱ好きだからだろうか。
と、今までパソコン向きだったキンタローの顔が俺に向いた。
こんな事すら嬉しい、なんて。
「何だ?」
「は?」
何だって、何が。
「いや、さっきから人の事を凝視してくるからな。何かと思った」
そういう事か。
特に何もないと答えると、あっさりと納得したらしい。
言えないだろ。見惚れてたなんて。
「邪魔したか、悪ィな」
本はまだ手に納めたまま、よいしょっと声を出して起き上がった。
「構わない。たった今終わらせた」
言いながら背後に回って俺の肩を抱くのは、キンタローの癖らしい。
いつもの事だから驚きはしないが、何かいつも以上に顔を寄せられてる気がする。
僅かに感じるコイツの吐息。
「何だよ?」
「いい匂いがする」
「どこから」
「お前からだ」
俺から?
まだシャワーは浴びてねえからシャンプーの匂いって訳じゃないだろうな。
けど香水類はつけてねーし。
くん、と自分の髪の一房を掬い、鼻先に近付けてみるが特に何も匂わないぜ?
「何の匂いだ?」
「さあな、分からない」
「何だよそれ」
分からない匂いなのに『いい匂い』なのか?
石鹸とか花とか、食べ物の何かとか………それのどれかとかと聞くと、どれとも違うと言う。
結局結構長い時間その体勢が続き、「良い匂いがする」と言い続けてきた。
悪い気は起きないが、すっきりしない問いと出ない答えが尾を引いた。
翌日、おやつに誘いに来たグンマに昨日の事を何となく話すと、最初は「う~ん………何だろうねぇ…」と眉を押せて可笑しい程真剣に悩んでいたが、急にパチンと嬉しそうに手を叩いて身を乗り出した。
「分かった!それってさ、“シンちゃんの匂い”なんだよ!」
いや、だからさ。
「俺の匂いって何の匂いだよ」
「だ~か~らぁ~、“シンちゃんの匂い”なんだって!う~ん…………そうだね、体臭?が一番近い表現かな?」
あんまり表現良くないけど、と付け足す。
体臭ってったって何も匂いつけてないぞ?
「僕もね、感じる事あるもん。シンちゃんから」
結局正確な答えは望めなかった。
悶々としたまま疑問は解けず終いで今日がもうすぐ終わる。
職務から解放された俺の傍にはやっぱりキンタロー。
今日は俺の部屋で一昨日借りてきたビデオ鑑賞。
それももうEDだ。
真っ黒画面に白い文字でキャスティングがスクロールされる。
そんなものは見ても別に面白くない。
興味を失った画面から目を互いに外し、唇を寄せ合う。
―――あ…。
思ったというより気付いた。
『理解した』が的確な表現か?
唇が離れ、銀絃が名残惜しげに泣き別れた。
「……そうか」
「どうした」
「あー、成る程ね」
グンマの言ってた事、こういう事か。
一体何だ。何を自己満足してるんだと眉間に皺寄せするキンタローに90度背を向けて笑った。
「何だ、一体」
「くく……っ、別にィ」
安心出来るいい香りを感じたんだ、お前から。
けどさ、花とか香水とかシャンプーの匂いとかじゃないんだよな。
体臭?ん~、よく分かんねーけど、感じたのは
“キンタローの匂い”
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* 風邪はお大事に *
よく晴れた日の事でした。
「え~!?シンちゃん風邪引いたの!?」
「なら見舞いが必「うつるといけませんから絶対に駄目です。キンタロー様。グンマ様もですよ」
「えぇ~!?」
「シンタローの風邪ならうつっても別に構わ「駄目です!いくらお二人の頼みでも駄目です!!
せめてもう少し熱が下がってからでないとシンタロー様にも負担がかかるんですよ?」
「…はぁ~い……」
「……………」
「あ~……、…だりぃ」
ごろり
寝返りするのも頭に響く。
ギリギリまで全然気付かなかった。
いや、確かに一昨日からなんかだりぃな~とは感じてたけど。
チョコレートロマンスからの書類を受け取って…………………………それからの記憶がない。
突然視界が暗くなったんだっけかな?
……で、気付いたらここ(医務室)に居てこうして寝ている、と。
はあ……、親父が居なくて良かったな。
俺が倒れたと知ったらどうなるか、嫌と言うほど行動パターンが分かりきってるし。
熱は運ばれた時よりは下がってるんだが、まだ絶対安静だとかドクターに釘打たれた。
いくら俺でもここまで体調悪いって理解したら、今後の効率を考えれば今日はもう仕事はしねーんだけど。
下がったってたってまだ38.5分あるし。(倒れた時は39.5分だったらしい)
「だからってせめて簡単の書類の10枚くらい、目を通したいんだがなー…」
それも駄目だと言われた。
反論しようとしても一言話すのにもすっげー労力要って辛い。
何より普段はあのおちゃらけたドクターにあんな真剣な目で押し留められれば、子どもみたいに駄々捏ねられない。
心配してるって分かるからな。
そうは分かっちゃいるしすっげー気持ち悪ィが……………………暇だ………………はぁ…。
カラリ
医務室の扉がやけに慎重に開いた。
幻聴かといぶかしむくらい小さな音。
???ドクターか?
「何だ。起きているのか。……それとも今の音で起こしたか」
あ、キンタローだったのか。
「いや、別に。起きてたし。見舞いに来てくれたのか?」
「ああ。高松には入ってはいけないと言われたが。だからと言ってもお前が倒れたんだ。
駄目とは分かっているが納得は出来なかったからな」
「けど医務室の前には警備兵が数人いたろ」
どうやって入ったんだ。
ガンマ団総帥である俺が弱っているとなると、それを狙っての敵襲とかの心配があるんで警備兵の手配を(ドクターが)した筈だ。
ドクターがキンタローすらここに入ってはいけないと言ったなら、
当然警備兵達にもコイツすら入らないようにも言ったと思うんだが。
「邪魔な奴等が扉の前に居たが瞬時に手刀で気絶させた」
オイオイオイ~~~………そりゃあヤバイんじゃねぇか?後々に色々と…。
何か色々と思うところがあり過ぎてガックリと肩を落とした―――と。
ぐぃ
「!?」
ゆっくりだけど突然にキンタローの胸に抱き込まれた。
何だよ!?いきなりどうしたって……っ!
わたわたと狼狽している俺に、気にせず言ってくれたその言葉。
「俺がいる。いつもお前の傍に俺が居るんだ」
キンタロー……。
「安心して休め。何も気に咎めるな」
仕事の事もそれ以外も何もかも、との言葉が柔らかい。
まるで母親のように俺の頭を優しく撫でた。
…そうだ………いつだってコイツは俺の傍にいる。
嫌と言うほど知ってる筈なのに、こうして改めて教えられると初めて知ったような初々しい想いに駆られるのは何故なんだろうか。
「ん」
小さく頷いて笑顔を見せる。
だってよ。マジ嬉しいし。
俺のこんな表情を見せてやるのはコイツの前だけだ。
「シンタロー」
ああ……、声の音がこんなにも優しい。
きっとコイツだって俺の前でしかこんな声色を出さない。
自惚れじゃねえよ、ちゃんと俺は知ってるんだよ。
大好きな声にふらふらと誘われて、胸に押し付けられていた顔を躊躇いなくあげる。
そんなに強く抱きしめられてた訳じゃない。
「何だよ――――~~~んっ!」
触れた、熱いコイツの唇――――ってえぇ!?まてマテ待て――――!!!!
「ぷはぁ!」
そんなに長くでもないし舌も入れてねえけど、弱ってる身体にはかなり苦しい行為。
軽いソレだけど肩でゼエゼエと荒息を吐き出す。
擦ってくれるキンタローの手が優しい………………………って、おい。
「~~~馬鹿ッ!風邪マジにうつったらどうするんだよ!」
「うつせばいいだろう。うつっても俺は全然構わない。たかが病原菌よりお前が苦しむ姿の方がずっと耐えられないからな」
お前のいち早い回復した姿は俺の為でもあるんだと言うコイツに……俺は……
ゴンッ!
力の限り頭を殴ってやった。
風邪で力全然出てないからそんなに痛くない筈だが。
「何をする」
「大馬鹿者」
「それが殴った相手に言う言葉か」
かなり心外と言った顔で俺を軽く睨んでくるが俺の方何倍も怒ってるんだよ。
何でコイツは分からないんだよ。
頭いいと思ってたが、ホントは馬鹿じゃねえの!?
「そんな事言われて俺が嬉しいと思うのか?お前は」
「思うか思わないかは知らな…」
途端、あ、という表情で固まったコイツは
「すまん」
と一言。
自分がどんな無神経な事を言ったか、やっと気付いたかよ。
「お前が風邪引いたら、今度は俺が苦しいんだよ」
お前が俺の苦しみが耐えられないのと同じで、俺だってお前が風邪で倒れたら辛いんだよ!!
俺の為だとか言って、そんなの押し付けの愛情だ。
いらないイラナイ要らねえよ!!!んな気遣いなんかッ。
きっと今より苦し過ぎる。
「…そうだな。すまなかった。確かに失言だった……」
馬鹿だ…。
「だから泣くな」
は?俺は別に。
ぽたり
・
・
・
え?
ぽたり
ぽたり
・
・
・
・
・
ふと言われて気付けば、シーツと俺の手に濡れて出来た幾つもかの大きな染み。
「風邪の所為だ…ッ!風邪の所為で無意味に涙腺が緩むんだよ…ッ!!!」
知らずに涙が出ていた。
俺の事をこんなにも想ってくれるコイツに嬉しさと自己犠牲を何とも思わない愚かさに。
ヤベエ…ッ、止まらねえよ。
キンタローが軽く肩をぽんぽんと叩いて横になるよう促す。
吐き出す台詞は相変わらずキザっぽいのに、他のヤツラなら鳥肌モンの台詞も
コイツからは意図してるものじゃなく天然からだからなのか、そんな感じは受けない。
しつこいようだがしょうがない。
湧く感情は、ただ嬉しいだけ。
「なら風邪を早く治さないとな。お前には泣き顔より笑ってる方が……………俺は好きだ」
「分かってる」
「横になっていればそのうち眠くなる」
俺の手を壊れ物を扱うように、でもぎゅうっと握って傍に居てくれた。
小さい子どもは母親にこうしてもらうと眠れるらしい。
コイツは間違っても俺の母親じゃないし俺も子どもじゃないが、………あぁ、段々眠くなってきた……。
……………あ、そうだ。なあキンタロー。
風邪が治ったらお前が好きだって言う笑顔を沢山見せてやるよ!それと何処か出かけるぞ。
ん~、デートってヤツ?
仕事はたんまりあるけどな、少しだけでも何処か行くぞ!
だからその時風邪うつったって倒れてんなよ?
明日も、晴れるといいね。
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* 可愛い嫉妬 *
「何をしている」
「ああ、キンタローか。見て分かんねぇ?幾ら初めての体験っつたって知識として知ってるだろ。コレ」
目の前で―――未だ深い眠りについたコタローの寝室で、せっせとその作業をしているのは毎日毎日総帥職で多忙な筈の従兄弟。
コタローの事実上の義理兄。
二十四年間共に体を共有せざるを得ず、自由の身となってからも、当初は憎しみの対象にしかならなかった筈の相手と
今では恋人同士の仲なのだから、初めて世界に出ることが叶った一年前の俺から見れば驚愕ものだろう。
従兄弟であり恋人であり一応上司でもある、けれど互いに双子よりも近い彼―――シンタローは、
師走の今は普段の多忙に幾数もの輪っかをかけて時間に追われている筈が、コタローの背丈程まであるか否かの
小さめの作り物組み立てモミの木に、星やら天使やらバカデカイ靴下やら様々な飾りをせっせと飾り付けている。
「クリスマスツリーだな」
「ああ。この前遠征に行った時に丁度良い大きさのを買い物中に見つけてさ、買ってきた」
「しかし、クリスマスツリーなら毎年いつものがあるだろう」
マジック叔父貴が溺愛しているシンタローの為に彼が生まれた頃には買ったのだろう、
数百人は収容可能な大広間の天井にも届く程の巨大クリスマスツリーが。
外にもクリスマスツリーは飾られるが、それはあまりにも大き過ぎて地上から見ようとするのは首が痛くなるだけだ。
最低六階以上の部屋から見れば楽しめるらしい。
俺が提示したのは大広間に飾る方で、シンタローもそちらの方を思い出したようだ。
「あれか?あれ出すのは毎年クリスマス当日になってやっとの夜中だろ」
遅過ぎなんだよなーと眉を顰めて、けれど手は休めずに独り言のようにぼやいている。
「遅いのか?」
「あのなぁ………。クリスマス当日―――じゃなくても前日になってから飾っるってのはかなり遅いだろ」
「そうか?」
クリスマスイベントはイブを含めて24と25の二日であり、その日の為にクリスマスツリーを飾るのだろ。
ならばそれ程遅いとは思えんが。
俺の心情を察したのか会話からの繋がりからか、溜息交じりでシンタローが補足をする。
「たった二日だけ飾って直ぐしまっちまうのは呆気なさ過ぎとか思わないわけ?」
そう言われてみればそうなのかもしれない。
たった二日飾ってそれで終りと、あっさり片付けてしまうのは情緒にも欠ける。
かと言ってクリスマスの直ぐ後には正月という大行事が控えており、
その為の大掃除に25日以降にツリーを飾るのは邪魔になってしまう。
クリスマスを一日でも過ぎたツリーは意味を持たないただのオブジェと化す。
思い出せば、コイツが子どもの頃は直ぐに片付けてしまう、たった二日限りのクリスマスツリーに寂しさを覚えていた。
「だからこうして飾ってるんだよ」
語尾を言い終わる前にツリーの天辺に金の星を乗せて固定させた。
ツリーは完成したらしい。
広間のそれと比べ迫力はないが、従兄弟に組み立てからされ飾り付けられた小さなツリーは、
眺めていると不思議に穏やかな気持ちになってくる気がした。
理由は簡単だ。
従兄弟が小さな弟の為に心を込めて飾り付けをしたのだから。
シンタローにとって大事な大事な弟のコタロー。
俺にとってもその想いは変わりはしない………………………………………………………が。
「何?お前もじぶんの部屋に欲しいの?コレ」
「いや。これはコタローの傍にあればいい」
凝視と呼ぶに相応しい程ツリーに目をやっていたからかそう勘違いを起こしたらしい。
欲しくない訳ではないがツリーを欲しがるほど子どもではない。
それよりも今は。
「今俺が欲しいのはこれだな」
「うわっ!!」
ツリーよりも、もっと切望しているものは。
「離せ降ろせ――――ッッ!!!」
「飾り付けは終わったんだろう。それに大きな声を出すな。コタローが目を―――覚ますのはいいか」
「一人で自己完結するな!それよりこれからほったらかしておいた仕事に取り掛からなくちゃならねーんだよ!」
腕に抱えた愛しい体温。
「安心しろ。そう時間はかけない」
「嘘つけッ!!そう言って前も―――――――んんッ」
反論を封じ、唇を深く重ね合わせ舌を滑り込ませると、暫くすればシンタローもそれを絡めてくる。
ようやく離してやると、息苦しかったのか涙目で、しかし口元は意地悪げに微笑していた。
「お前…、嫉妬してたんだろ?コタローに」
おかし過ぎると腹を抱えて大笑いを始めたシンタローに
「ああ」
肯定してやれば笑いがぴたりと止まった。
嫉妬していたのは事実なのだ。隠す必要性もない。
嫉妬していただろうと問うてきたのだから正直に答えてやったというのに、何故かシンタローは耳まで朱に染めて
「馬鹿野郎!!ストレート過ぎだテメエは!!!!」
と怒鳴ってきた。
叱られる理由はイマイチ分からんが、あまりにも不安定な抱え方だというのに腕の中暴れるのとシンタローを欲っする想いから、
もう一度、先程より深く甘いそして略奪するような熱い口付けを落とした。
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* 狂乱の踊り子 *
物騒な言葉を、前触れも無くヤツは吐き出す。
何がキッカケという事も無い。
思い出したら口にする、ただそれだけだ。
実際有言実行に移る訳ではないし、それだったらとっくにオレかあいつかのどちらかがとっくに死体になっている。
オレに対しての暴言だが、面と向かって言われた事は殆ど無い。
主に傍に居る機会の多い高松やグンマが耳にしているらしい。
これはグンマから聞いた。
高松は慣れたように軽く嗜め、反対にグンマは焦って止めたり怒って見せたりするそうだ。
早く仲良くなってよね
困ったように数日前グンマが言ってきた。
そう言われてもなぁ………。
オレが歩み寄っても人見知りして警戒心を剥き出しにする獣のような目をされるんだぜ?
明るく「よッ」とか「調子はどうだ」とか聞いても「あぁ」だの「見て分からんか」だの素っ気無い返事しかしないんだぜ、あいつは。
なら、シンちゃんと仲良くなるように、ボクがキンちゃんを説得してくる!
飲みかけのミルクセーキを放り出して意気込むグンマの額に軽い拳を一つお見舞い。
涙目で講義してくるグンマにニヤリと含み笑いを返す。
馬ー鹿、んな事してくれんなよ。
なんでさー!だって二人共早く仲良しにならなきゃ…!シンちゃんはキンちゃん嫌いなの!?
必死なコイツには悪いと思いながらも、大丈夫だからの一言で強制的に話題を打ち切った。
反論される前にその場を立ち去ったんだが………。
いいんだよ。これはアイツとオレの事だから。
一心にオレに、オレだけに向けられる感情(コトバ)を始めは不快にしか感じなかった。
オレの知らぬところで幾つもの想いが交差しぶつかり合い時に交じり合って生まれた亀裂は奇跡。
本当に極最近、気付いた。
キンタローの殺意のメッセージに内包されているものに。
そしてその大切に包まれていた感情の喜びに。
ずっと待ち続けていた感情(コエ)に、甘く酔いしれる。
もっと、もっと
いっそ泣きたいほどに痛いくらいの想いを、オレに寄越せよ。
キンタロー。
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