平凡な日常ほどありがたいものはない。
ない、が、≪ここ≫ではそうはいかない。
≪ここ≫での平凡は外の領域からみればまた特殊で。
いくら殺し屋集団の看板を取り払ったとはいえ、
≪ここ≫―――『新生ガンマ団』とは、平凡な日常というものはまずあり得ない。
チュド―――――――ンッ
・・・今日も今日とて在るべからざる場所から放たれる青の一族の秘技が鋼鉄な本部を揺るがし大勢の団員をざわめかせ、
一部の幹部を嘆かせる。
領域・~テリトリー(前編)
在るべからざる場所―――そこはガンマ団総帥の部屋。
豪華な―――しかし現総帥が今の地位に就任する前に全体に模様替えをした為、
決して嫌味ではない装飾が施されている。
そこに佇む二人の男。
二人は全くと言っていい程似ても似つかない容貌である。
一人は長い黒髪を、以前よりは日焼けの落ちた小麦肌に滑らせた男。
歳は・・・20前後に見えるだろうか。実年齢はもう三十路を控えているのだが、
マリアナ海溝よりも深すぎる事情により外見年齢はまだ青年になったばかりというところ。
意志の強さを物語る瞳は髪色同じく黒曜石。
【G】というロゴ入りの真っ赤なスーツは前総帥から(無理矢理に)受け継がらせたもので、
それからこの男が現総帥のシンタロ―である事が伺える。
趣味の悪いと言われた新着した同デザインの総帥服だが、想像するのとは大違いに彼とマッチしている。
黒髪と相性が良いのかもしれない。
もう一人の男はシンタロ―が黒い髪・瞳に対して見事なまでの金髪に蒼瞳を持ち、
さらさらと流れるような絹を連想出来るシンタロ―の髪とは打って変わり、かなり硬質である。
服装は特に派手でもなければ地味でもない。
ただ紫を基調にしている為か、どこか攻撃的な印象を全体に与える。
銜え煙草が猛禽類のような攻撃性を助長してもいた。器用に灰は床に落ちる事はないのが不思議だ。
特に目立つのが金髪に対して、何故か自生した黒眉でそこから獅子舞又はナマハゲ―――もとい、
前ガンマ団総帥の二番目の弟であり、特選部部隊隊長のハーレムだと知れる。
両者ともその整った顔立ちによりかなり目立つ。
男女問わず、一度見たらそうそう忘れられるものではないだろう。
佇んでいると言うよりは睨み合っている―――しかも互いに戦闘準備万端と言った風であり、
実際もう互いに一族の秘技を繰り出し合うと言う真に穏やかではない事をし合っている。
「ったく。何でこんな事ばっかりすんだよアンタはッ!」
「相手が弱過ぎんだよ。とっととケリつけた方が効率いいだろうが。こちとら忙しいしな」
「どこが忙しいってんだよ!いっつもいっつも競馬と酒に溺れやがるヘビースモーカー親父ッ!!
もうガンマ団は殺し屋じゃねーって何度言わせればいいんだアンタはッ!!!」
ガンマ団が暗黒面で名を馳せていた血生臭い歴史は長い。
それだけに不殺だと公言してもなかなかに殺し屋のイメージは世間から拭う事は難しく、
試行錯誤悪戦苦闘の毎日に丈夫だと自負している胃もキリキリと痛む―――と言うのにこの叔父は、
まるで自分の足を引っ張る所業ばかりで向ける怒りも並ではない。
額に青筋をデカデカと浮かべてシンタローが人差指をびしっと向け指すと、
口元は相変わらず笑みを残しているハーレムの蒼瞳が変わる。
気付いた変化に身体が凍り付いていくような感覚。
自分は何か特別な事をしたのか?
交わされる言葉の内容はハーレムがこうして大きな問題を抱えてくる度に激しい衝突を引き起こす、
終局の見えぬ平行線。
だからこそ脱力する程の今の会話にいつもは感じられない反応を見せた叔父の心情は分からない。
分からないが―――・・・
何か、あるのだ。
目の前の男の気に触れた言の葉が。
「もう殺しはしない?―――はっ!見せかけだけの奇麗事だな」
「んだと・・・っ」
「お前だってしてるだろ。
この前893国にどデカイ眼魔砲をぶちかましてくださったのはどこのどいつだァ?」
「あれは半殺しで済んでる!誰も殺してはいねぇよ!!」
「似たようなもんだろうが」
「違うッ!生きてるか死んでるかの違いが出てくるんだぞっ!!」
それだけで大きな違いだと口にする、若き新総帥の何と幼い事か。いっそ憐れだなとも思ってしまう。
世間を知らな過ぎる器だけ大きい、けれどただそれだけの総帥。
「死ななければいい。そりゃあ違うんじゃねーの?」
胸の中に溝が出来る。
それはさらに範囲を広げ、その内部に侵入するのはマグマのような純粋な―――単純な怒り。
せき止める法をシンタロ―は知らず、今日もまたこの言葉で二人の言い争いは終結を迎える。
それはあまりにも単純であっけなく面白みもない。
「出てけ――――ッッ!!!」
あれからどれくらい経ったのだろう。
ハーレムが憎たらしいまでの笑みを浮かべて立ち去った後、シンタロ―はすぐさま今日のノルマに取り掛かろうと、
叔父との喧騒の残り火を押しのけながらもパソコンでの作業へと頭を切り替える。
が。
イライライライラ・・・。
「あ~~~!!!ムカツクゥ―――――――ッッ!!!」
シンタロ―総帥、ハーレムと別れてからこれで数十回目の叫び。
PCを立ち上げてもエラーを出し捲くるわ折角打ち込んだ文章もデリートさせてしまったりでちっとも進まないではないか。
とにかく苛々して仕様がない。頭をガシガシと乱雑に掻き回して背凭れに体重を乗せる。
ぎしっ・・・と鳴る音が妙に虚しい。そして腹ただしい。
考えるのも嫌なのだが無視ることも出来ないトラブルメーカーな叔父の事。
もう彼との衝突は日常茶飯事に達している。
今回のように任務先で目に余る事をしでかしたとのものだけでなく、プライベートな時でも、だ。
出会えば何故か二人の間に衝突が起きる。殆どハーレムから仕掛けるのだが。
シンタローがその挑発にのってしまい勃発し、先程の状況になるその繰り返し。
最後に残るのはどうしようもない、あの男に対する消化出来ない怒り。
けれど今シンタローが感じているのは、様々な身勝手言い分ばかり述べる彼に対してだけの怒りではない。
男の言葉がリフレインする。
―――見せかけだけの奇麗事だな―――――死ななければいい。そりゃあ違うんじゃねーの?――・・・
分かっている。出来るだけ相手を傷付けずに済めば良いのだと常に願っている。
いるが・・・。
その事を忘れてしまう時が確かにあるのだ。
こうして我を忘れかけるくらい感情が高ぶると、願っていない言葉もついっと出てきてしまう。
感情に流されるのは総帥として汚点他ないだろう。
願ってはいない・・・・・・けれど心の奥底、“思って”はいる。
命を奪わないで済めば相手を傷付ける事を大目にみてしまう自分がいる。
そんな愚かな事があろうか。
平和を望むなら穏やかに事を進めなければならない―――けれど、
それに目を閉じて耳を塞いで・・・行われる己の手で、指示で行われる破壊。
平和が訪れるのは事実だ。
それでも破壊の元に行われたそれは、真の平和と言えるものではない。
その事実を一番の破壊衝動者に突きつけられる。
普通の者なら気にもせず聞き流すそれを、あの男は掘り返す。
忘れるなと囁くように・・・。
それが優しさからくるものだったら、まだ素直に聞けよう。
けれど彼の場合は―――明らかに自分に対しての挑発行為からだ。
感じる、彼が自分に向けている感情に。それは殺意なのだろう。
あれほど激しいものを感じない筈がない。
男も隠す気がないのか。全てをシンタローにぶつけてくる。
その元で真実を知らしめる。奇麗事を並べて言葉と矛盾している真実の自分を。
・・・・・・・一番胸を占めているのは自分に対する怒り。
忘れていた事に対しての。
忘れようとしている自分に対しての。
意識してではないけれど結局はそうなのだから言い訳するのはあまりに惨めで無意味。
所詮口先だけのキレイゴト。
「第ッ一!!アイツは何かにつけて俺に突っかかってくるんだ!」
けれど、その全ての感情を叔父に全面向ける事でそんな自分と思考を避ける。
それが卑怯な事だと内心理解していながら、認められずに足もがく。
あまりに怒りが今は何よりも勝っている為か、言葉を掛けられるまで戸口の気配に気付かなかった。
「ご機嫌斜めなトコ、すみまへんけど・・・」
遠慮深く様子を伺うように入ってくるアラシヤマの片手には大きな封筒。
「―――っ」
消して気配を消していた訳でもないのに気付けなかった。そんな自分に更に苛立つ。
積み重なる怒り憤怒、交じり合うマーブリング迷彩色の思考。
気付けなかったのだと決して悟られてはならない。
多くの人の上に立つとはそういう者。
常に冷静な判断と威厳を保ち尊敬を浴び、人を動かせるよう勤めなければならないのだ。
自分の父がそうであったように。
「んだよ」
けれど保とうと勤める冷静さをこの男の前では欠いてしまうのは、
身近な存在として無意識な認識をしているからか。
不機嫌さを隠さずに―――隠せるものなら実際は隠したいのだが―――夜中の訪問者を苛立ちの眼光で見据える。
「苛立ってますなぁ」
「るっせーよ」
相手にも分かるあからさま溜息をつかれ、更に苛々が増してしまう。
きっと自分の心臓はグツグツと煮立っているんだろうと冷静な部分が残っている自分がいれば、
そう客観視するかもしれない。
アラシヤマがここに来たのはハーレムとシンタローの騒動を聞きつけてきた野次馬心からでなく、
先日赴いた地区での報告書を渡しにきた事は右手に納められている茶封筒から知れる。
用件はそれだけであろう。それを置いて早く立ち去れと、に言葉を鋭く乗せてやる。
しかしその程度の嫌悪態度をとられたくらいでこの男が立ち去る事はない。
それは冷たくあしらわれる事に慣れているからか、
それとも師匠の弟子いびり(・・・。)から培われた打たれ強さか。
・・・・・・どちらかを取らねければならないとすれば、後者の方がマシな気がする。
「またハーレム様どすか?」
「関係ねーだろ。テメエには」
否定しないところからして答えになっていないようだが100%肯定であるようだ。
無視を決め込もうとするがなかなか立ち去らない男に苛々し、発する言葉がつい冷たいものとなる。
普段は冷たくないのかと問われれば返答に苦しいものはあるが。
「気が散る。帰れ」
彼の深いところまでの心情を読み取り、眉を顰める。
―――これは・・・相当ご機嫌斜めみたいどすな。
いつもより、という意味で。
普段ならばもっと遠まわしな言い方で立ち去るよう言う。
例えば明日も早いのだろうから早く休息を取らないと業務に響くぞ、とか。
帰れと言われても、このような状態の彼を放っておけない。
彼でなければアラシヤマも関心を持たずに立ち去ろうが、
相手がシンタローであるならばどうにかしてやりたいと保護欲のようなものが湧く。
その原因は、やはり―――
「シンタローはんの立場―――心情を他の親しい誰かが抱いています時、
あんさんはそれを黙って見捨てる事が出来ますの?」
自分は出来ない。
親しい者は少ないが、この男とは浅い仲ではないのだと自負している。
何より自分はこの男に心底惚れ抜いているのだから余計に―――。
くるりと身体ごとアラシヤマに向けるシンタローの表情は冷たい。微かに浮かべているその笑みも。
姿勢悪く右肘を立て顔を乗せる。僅かに顔を傾けた事で、さらりと長く伸ばされた黒髪が揺れた。
「俺とお前が親しいって言うのか?」
「違います?」
「大違いだ」
即答。
けれど、知っている。気付いている。言葉とは裏の彼の本心を。それは思い上がりじゃない。
いつも自分には冷たい素振りばかり見せる彼だけれど、隠されたココロを自分は知っている。
隠そうとしても隠し切れない無駄な足掻きをどうして彼は手放さないのかも知っている。
自分をそう簡単に誤魔化せないしさせはしないのに。
―――声が聞こえますよって。
以前、誰かに自分はこう言った。
確かまだ彼の父親が総帥だった頃、まだ現総帥が一団員でしかなく、まだあの島の温もりを知る前の頃。
もう顔も声すら覚えていない一団員の男がシンタローに対して言ったのだ。
そう、その時。
何時ものように冷たくあしらわれたアラシヤマに同情しての発言。
友達はいない彼だが、彼を慕う者は皆無ではなかった。
その中の一人の男がシンタローが去った後に悔しげに漏らした。
「シンタローさんは冷たい人ですよね」
「なしてそう思いますの?」
「えっ・・・だって・・・」
彼が自分に冷たい態度を取り続けるから?
「声が聞こえますよって」
「声?」
「悲しい声どすなぁ・・・。ああ、あんさんは泣いとるんですか?」
「アラシヤマ様・・・?」
その言葉はもはや男に対してではなく、別の強情な誰かに向けて。
声が聞こえた。
それは幻聴などではなく、真実(ほんとう)の彼自身。
それを彼に言おうならば間違いなく否定され、同時に眼魔砲の一発でも撃たれるのであろうが。
だからこれは自分だけが抱くもの。
そしてシンタロー自身が気付かなければ、頑固な彼は認めないのだろう事。
彼の内面考察は今は切り離そう。それより今聞いておきたい事がある。
自分が親しいものではないと言うならば、あの男はどうなのだろう。
今、シンタローの思考の大部分を奪っている彼の事は。
彼に寄せるシンタローの想いが敬愛や親しみではない事を知っている。
二人の間に何事もなければ、
無意識博愛者であるシンタローが相手に対して負の感情を抱きはしないのだろうけれど。
憎しみの感情にすら嫉妬を感じる自分はどこまで欲深いのであろうか。
「ハーレム様より、わてはあんさんとの距離があるます言うんですか?」
「・・・何故にそこでその名前が出てくるんだ」
何故?
それは。
嫉妬という一感情。
下らないプライドがそれを相手に伝えようとはしない。
伝えなければ当然伝わらない。
これがもっと心の芯からの深い間柄ならば伝わるのかもしれない。
けれども自分達はそこまで深くはないのだと
、親しい者とは自負していても悲しきかな、否定は出来ない認識。
ただそれは年月の問題ではない。
無論年月は親近感に大きく作用するが。
最低ラインでもあの島の小さな王者ほどに、彼の心に近付かなければ。
―――えらい高いハードルですなぁ。
一年半以上。二年は経過したであろうか。
自分がシンタローを知った14から約十年。
嫌悪感と認めたくはなかった激しい憧れを抱いて、彼の傍に居た。
それに比べればずっと短い2年にも満たない歳月で、彼の親族よりも何よりも、
きっと心を砕いた最愛の弟よりも、南国の幼い王者は何の策略もなしに彼にとって最も心傾けられる存在になった。
そしてその王者もまた。そこまで思考を巡らせてはた、と気付く。
最初は彼の叔父に対して沸きあがらせられていた嫉妬心が、
いつのまにか別の人物に向けていた事に驚いた。
当初のものと随分掛け離れてしまっていた事に、しかし笑う事は出来ない。
それだけ彼は多くのものに愛され、そして彼もまた多くのものを愛する。
今、彼の怒りをかっているハーレムにも、もしかしたら・・・・・・いや、きっと・・・
「アラシヤマ?」
訝しげに自分の中に突然閉じこもってしまった青年を見やる。
いつも自分の殻に閉じ篭ってしまう事は彼には珍しい行動ではないが、それがいつもとどこかが違う。
それは―――そう、直感。確かに働く第六感。
それ程先程の問いには答え難いものであったのか。
ただ単に一例としてハーレムの名を持ってきただけなのか。
何もこんな時にその名を挙げる事もないだろとは思う。
思うが。
ともかく・・・
「アラシヤマッッ!!」
「・・・えっ!?・・・あ、な、何ですのん!!?」
「~~~~~ッ・・・。・・・・・・あのなぁ・・・何だ?はこっちの台詞だ」
質問に答えず自分の殻に閉じ篭る男の思考に割り込むように名を叫び呼ぶ。
返ってきたのが素っ頓狂な返事だった為か大きな脱力感が襲ってくるのは仕方がないのか。
段々に怒りより呆れの方が強くなった気がしないでもない。
つい漏れてしまう溜息。
相手に聞こえるか聞こえないかの小さなものだったが、
しっかりと相手には聞こえたらしく困惑の表情を見せた彼。
相手の機嫌を更に悪くさせたのだろうかと思ったからだろう。
実際は、ただ、
「もういいや。こうしてるのが何か阿保らし」
話が食い違い繋がらず更に複雑化していく彼との会話は意味不明で生産性がないのだと、
手をひらひらさせて特別意識してではないだろうけれど思いを表し、その視線は宙を仰ぐ。
ちらり、とディスクに詰まれた書類に目を配る。
自分にはまだまだ山のような仕事がある。
それの為の時間を、
例えるなら最初から繋がりもしないバラバラのジグソーピース問答の為に随分と費やしてしまった。
はっきり言えばこれ以上の無駄な時間を打ち切ろうとの意味が、言葉の中には込められている。
それをアラシヤマも気付いているのだろう。何も言わないけれど、きっとそうだと妙な確信がある。
先程から彼には冷たい又は素っ気無い言葉ばかり投げてしまっている。
アラシヤマが嫌いな訳ではない。
普段は「嫌いだ」「うっとおしい」等言ってしまうが。
そしてそれは嘘でもないけれど、真実でもない。
冷たくしてしまうのは癖みたいなもの。
不器用な一種のコミュニケーション。
それは先程も提示したが嫌いだからではなく、
不思議と親族を抜かせばこの団内では気軽に接する事が出来るから。
彼が何か自分に訴えようとしているのは何となく分かる。
根拠もないもないただの感だけれど、きっとそれはお互いにとって、大切な事。
けれど対話する程の時間の余裕がこちらにはないのだ。
そして相手も高幹部の地位。それは総帥ではない自分程でないにしても多忙を余儀なくされる身。
不器用ながらシンタローなりに気を使ったつもりなのだ。
隠された本当の思いが伝わるか伝わらないかは相手の受け取り方次第。
互いの親密の度合が深ければ深い程正しく思いを汲む事が出来る。
確かに二人はあの島で故意ではなくとも隠されていた心をお互いに見せ合えた。
全てではなく、多少歪んだものだったけれど。
確かに。
それでも。
まだ足りなかった。
―――阿保らしい事・・・?
アラシヤマの表情がおどおどしていたものから一変し、シンタローの発した言葉を心中にて反復する。
自分の想いが?
他の誰かとの彼との関わり一つ一つに対する嫌悪感が?
その全てが陳腐なものだと?
決してシンタローはそこまで思って言っているのではなかった。
けれど最初にすれ違ってしまった二人は思いが混じる事はなく、平行線を辿るでもなくすれ違い、
時間をかけず大きな亀裂を作る。
陳腐なもの。
違う。いつだって自分は真剣なのだ。
彼に関しては全て。
想いは感情的な叫びとなり、止め処もなく溢れ出す。
「阿保ちゃいます!真剣なんどすえ!?」
いきなり常ならぬ怒鳴るアラシヤマに酷く驚き、目を丸くして一変した彼を見る。
言葉にしなければ伝わらない想い。
伝えなければならない想い。
越えなければならない境界線(テリトリー)。
大きく息を吐き出し、キッと相手を見据えた。顔面だけでなく身体中が火だって熱い。
「わては・・・わては、シンタローはんの事が・・・・・・」
「俺の事?」
まだ驚きながらも確信に迫るだろう言葉を待つのはシンタロー。
伝わって欲しくて反比例して言い出せなかった想いを言の葉に乗せるのはアラシヤマ。
「~~~好・・・きなんどすッッ!!」
言い終ったが同時に、
重労働後のようにどっと疲れが噴出してその場に崩れ落ちそうになるのをぐっと堪える。
やっとの思いで吐き出した、心の小箱に大事に大事に秘めていた切望色の想い。
すっきりしたと思えたのは一瞬で、今度は一気に顔が朱に染まりまた青くもなる。
長い間伝えれずにいた想いを遂に告白してしまったとの純粋な羞恥心と、
告白に対する相手の返答に期待と不安が交差する。
―――つ、・・・遂に言うてもうたっ!
整った容貌からか、一人で居る事が多いからか、はたまたガンマ団No.2という肩書きからか、
仲の浅い者(主に部下)から見ればアラシヤマはクールな上司。
やや大げさに言えば孤高の御方と憧れ的な眼差しで見られている。
特に新幹部や士官学校生などからは決して少なくなく尊敬を受けており、(※悲しきかな、当の本人はそれを知らず)
又、親しき同僚その他から見れば執念深い根暗男と見られがちなこの青年も、
クールで孤高なお方と見られようが根暗と言われようが根っこは極めて純情。
恋愛関連に関しては友愛以上に小心であるが故、
この告白が如何に勇気を振り絞ったものだったのかは想像に難くない。
体内で煩いほど響き渡る心臓が運んでくる血流が面中心に集まる。
今直ぐにでもここから逃げ出したい衝動を押し留めながら返答をただ黙して待つ。
待って。
待って。
待って。
―――アレ?
返答なし。
更に待っても同じ事。
何故。
突然の告白に彼は戸惑ってしまったのだろうか。
無言相手に不安が更に募り、恐る恐る彼と下げていた視線を合わせた。
「シンタローはん・・・あの・・・」
「あ?」
その声色は快・不快のどちらも伺えぬもので、
決死の告白を受けた者の反応とはあっさりとし過ぎている。戸惑いの様子はまるでない。
「わて、今言うたでっしゃろ・・・。あんさんの事が・・・っ!」
「言ったな。好きって」
あまりにもけろりとした返答にはて?と疑が過ぎる。
何かが擦れ違うような―――冷風が塀の亀裂に吹き抜けるような―――何か―――。
「せやさかい、お、お返事頂きたい・・・・んどす・・・けど」
「返事?いっつも言ってるだろ」
疑が確信へと近づく。それはもしや。
「いっつも好きだの親友だの言ってるじゃねーか」
見事に嬉しくないビンゴ。
確かに普段の彼も直に『好き』とは言ってはいないが、同等な言葉を彼に投げ掛けるのは日常茶飯事だ。
だからシンタローはアラシヤマの『好き』を友愛だと判断した。
―――果たしてそうでっしゃろか。
心の亀裂が更に開く感覚。
それを抉じ開けるのは自分。
キッカケは彼。
気付きたくない。
―――知らない方が良い事だってあるのよ―――
幼い頃にそう、自分に何故か哀しそうに告げたのは誰だったのだろう。
その時頭を撫でてくれた人の顔は今ではもうぼやけてしまったけれど、口元に浮かんだ笑みは忘れない。
笑っているのに、今にも泣きそうだった。その言葉が今となってリフレインする。
気付いてしまうのは自分。
その原因なるのはシンタロー。
今までの『好き』は嘘じゃない。
けれど今まで発してきた『好き』は今抱えている恋心が生んだ『好き』とは種が全く違う。
シンタローが判断したであろう友愛の『好き』。
それは今までの『好き』。
伝えたい『好き』は違う『好き』。
踏み出そうともがく想い。
更に踏み込む彼との彼が作った境界線。
踏み出すのは怖い。
けれど。
「ならこう言えば分かります?―――・・・愛してます、シンタローはん」
踏み出さなければ、きっと何も変わらない。
「・・・・・・」
無言でこちらを見つめる彼の面は先程の告白を受けた後とは明らかに違う。
伝わった筈だ。確実に。
不思議と二度目の告白に気恥ずかしさをそれ程感じなかった。
二度目だから、ではなく、まるで愛の告白をしたと言うよりこれは説得に近いと何故か思った。
それが、無性に悲しいのは何故―――?
無言無表情でアラシヤマの視線を受け止めていたシンタローは、
硬くも感じられた面を溜息と共に切り替えた。
まるで聞き分けのない子どもに向ける顔。それそのものだった。
「なあ・・・、好きも愛してると同じじゃん。『好き』がすっげー『好き』になっただけでさ」
「シンタローはん・・・」
搾り出すように出た相手の名を呼ぶ声は、泣きそうで。
どうして哀の想いが押し寄せてくるのか、もう知っている。
何度目かの震えが両の拳に走った。
「お前、書類提出しにきただけだろ?もういい加減帰れ。
こっちだって日常会話を楽しむほどの時間の余裕はねーし」
これで打ち切りと言葉を遮断し、くるりとディスクワークに戻ろうとするシンタローの右腕を強く掴んで轢き留めたその手は、
意識するより早く。
アラシヤマの瞳に焦燥感は消えうせ、代わりに怒りに似た色が浮かんでいた。
けれどそれは決して怒りの感情ではなく。
「違いますッ!!」
「何が」
何が、違う?
今までの『好き』と今伝えた『愛している』の違いを彼は気付かないのだろうか。
そこまでシンタローという人物は人の感情に疎かっただろうか。
いや。
「本当は知っとります筈ですわ」
「知らない・・・」
伝わっている。
だからこんなにも彼は真っ直ぐなアラシヤマを見れない。
最初に『好き』だと言った時。その時は気付かなかったが、彼は一瞬だけ瞳を揺らめかせた。
けれど彼にはまだ平常心を保つだけの余裕があった。
直ぐに相手の言葉の意味に気付かぬ振りも出来た。
『愛している』と言われた時にも相手の本心を細かく探っていた。
その言葉は真実なのか否かを。
次に『愛している』と言われ、彼の瞳や声色・伝わる全てから想いの意味を知り、同時に驚愕を覚えた。
その今では言葉の震えを感じている。
彼はアラシヤマの想いに気付いている。
それは今ではもう確実。
一歩、アラシヤマはシンタローへと進む。
ほんの少しだけ、半歩もいかないがシンタローは後退する。
僅かに耳についた革靴と絨毯の擦れる音。
また、一歩近付くアラシヤマと同じく僅かに後ずさるシンタロー。
後退する事は気負いを意味してしまうが、頭では分かっていても体が動いてしまう。
出来るなら時間を掛けて事を進めれば良いのだ。
それは理想。
けれど彼はあまりにも頑固で素直でなくて自分では何も気付かないから。
ならば無理矢理にでも彼のテリトリーに入り込む。
一つ間違えてしまえば永遠に修復不可能となってもそれでも踏み込みならきっと今しかない。
チャンスは互いに何度も訪れてはくれないのだ。
互いの息が掛かるかかからないかの距離で、やっとシンタローが口を開く。
相手との距離をこれ以上進めない為に。
「何で近付くんだよ。帰れって言っただろうが」
弱々しい声。まるで何かに酷く怯えたような声。
「怖がる事は何にもあらしまへんのに」
「―――なっ」
「もう誤魔化しは効きまへんよ?わてはずっと無視出来る程にはお人好しではおまへんから」
「何を誤魔化すってんだよっ!それに怖がってなんかねえっっ!!」
ハーレムとの言葉の攻防の時のように声を荒げる彼にに臆する事はない。
むしろそんな彼を痛ましく感じる。
「どうして俺がテメエを怖がらなくちゃなんねーんだよ!!」
彼の領域を全て取り払おうとするかのように、アラシヤマは言葉を紡ぐ。
それは確実へと繋がっていく。
「強がらなくてもいいんでっせ?」
「違うって言って―――ッ!」
語尾はアラシヤマに抱き込まれた為、発する事なく霧散する。
抱く腕は強く。
自分の想いを塗り込めるように優しく。
「分かりますんや」
そっと瞳を閉じてシンタローの肩に顔を埋めると、
彼の愛用するシャンプーの匂いがふわりと微かに香った。
母が子に聞かせるような穏やかな声がシンタローを包もうとする。
「わても・・・おんなじどすから」
その一言にもゆっくりと時間が流れる。
その人の痛みは同じ痛みを持つ者にしか決して分かり合えない。
同じ痛みを知らない者の手厚い同情心は、かえって傷口を深く抉り出すのだ。
「アラシヤマ・・・?」
胸に埋めさせられた顔をゆっくりと上げて合わさったのは、驚きを表している黒曜石の瞳。
そうだろう。自分だって隠していた心中奥の奥の鎖で固く封じていた心。
友が欲しいと常日頃言う。
それは本心。
けれど。
更に奥に潜めていた一番の想いのカモフラージュでもあったのだ。
友愛が恋愛より劣る訳じゃないけれど、伝えるのはどちらが重いか。
受け止めるのはどちらが軽いか。
領域・~テリトリー(後編)
愛する事が怖いのだと、音なき泣き声が聞こえる。
愛するものを失う恐ろしさを自分は知っている。
また彼も。
ふと気が付けば、彼は沢山の多種愛を持っていた。
親愛・友愛・家族愛・敬愛・・・。
それを捨てる気はない。けれどこれ以上所有するのは辛い。
もう失いたくはない。失わない為に守る。
―――けど、それは常にギリギリだ。
込み上げてくる、泣きたくなるような衝動感情を抑えるようにアラシヤマに縋る。
この男の前で弱さを表す事は悔しいけど。
縋らずにはいられないのは、込み上げるものを抑える為か。
それとも彼と同じ想いから欲する衝動か。
―――いや、けどそれは・・・。
自分の彼に対する想いは、彼が自分を想う感情と同一のモノだろうか。
向き合う事でさえ怖いのに、それを直ぐに認識するのはきっと無理。
「急がなくてもいいんですわ」
心を読まれたかと思い、びくりと僅かに肩が震えた。
読心術なんて―――そんな筈はないのだけれど。
「わてはただちゃんと向きおうて欲しい思いましただけですわ」
少々急かしてしまった面は否めないけれどと笑う彼の顔に寄る眉間の皺が哀しく見えた。
直接的ではなく。
とても間接的に諭そうとするその姿勢は、やり方の大差はあれど、と同じだ。
―――誰と、同じ?
ちらり、と月色の影がアラシヤマ越しに脳裏に映る。
揺れる 揺れる 黄金の鬣。
―――眩しい。
顎をつい・・・っと上げ、空ろな瞳をどこからか漏れているらしい微風に揺れる黒に映す。
さらりとそれを撫で上げてみれば相手の身体がおかしなくらいにビクンと跳ねる。
構わず優しく髪を梳いた。
「・・・お前の髪も・・・硬いな、少し」
「シンタローはん・・・?」
消え入りそうな彼の声、その中にある確固たる事に気付いた自分。
不審に思い、緊張に硬くなる面を彼に向ける。
お前の髪も・・・
―――“も”。それは誰の事を言うてはりますの?
ゆっくりと身体を離す。心臓がドクドクと喧しい。
「・・・言うて、シンタローはん」
「何を」
「あんさんは・・・あんさんの―――」
誰がシンタローはんの中にいますの。
わてより先に誰が入り込みましたんどす?
あんさんの眼前にいますんはわてですのに、わてを見てくれはりませんの?
疑問系ながら実際には検討はついている。
だからこそ苦くて辛い。
「わてでは役不足でっか?」
全てが遅すぎましたのやろか・・・。
苦しく苦い想いと共に愛しい人を更に強く抱き寄せる。
―――違う。
強い想いを打ち明けた彼の肩に腕を回しながら心の中、そっと呟く。
―――そうじゃない。
役不足なんかじゃない。
彼も大事な構成物質のピース。
―――ないが・・・ただ・・・。
世界に数限りなくある言葉。
だというのに上手く想いを適切に表す言葉は見つからなくて。
自分自身ですら整理のつかない想いを、どうして彼に伝えられるのでしょうか。
開け放たれた窓からバサバサと時より強めの風が室内で踊る。
部屋の主の兄よりは落ち着いた、弟よりは飾り気のある調度品の数々、
その中心部に固定設置されたさして大きくはない白いテーブル。
そして置かれた何杯目かのコップに注がれた、
アルコール度の非常に高い、決して少なくはない無数の酒瓶。
鬣のような硬質な黄金も揺れてその度に鈍く光る。
酒に酔う事はなく、逆に酒を酔わせているのではないかと誰かにそう嫌味として咎められたが、
あながち間違いではなさそうだ。
アルコールが齎す浮遊感も甘さも、いつの頃からか薄れていった。
面白みが半減したと知っていても呷り続ける酒。
浴びるように飲む。
確かにその言葉通り、服のあちらこちらに点々と酒の水滴がばら撒かれている。
双子の弟のような米国紳士的に上品に飲むと言う事はない。
途中からコップは意味をなくし瓶を片手に直接口を付け喉に流し込んだ。
とっくに酔ってしまってもおかしくはない―――それ程豪快に肝臓へとドロドロと流し込んでも酔い込めない。
今日はまだ大喰らいの彼は夕食を口にしていないのだ。
空っぽのお腹に酒を入れると酔いが回るのが早くなると言われているけれど。
それは全くに訪れず。
また乱暴な手つきで注がれる酒。
硝子の中、小さくなった氷が狭い空間の中でかちりと音を立てて離れる。
そしてまたどちらからと言う事もなく引き寄せあい、懲りずにカランとぶつかる。
豪酒な彼。
しかしこれでもまだ酔えぬ原因は
「アイツの所為で何時まで経っても酔えやしねえ」
子どもみたいな八つ当たり。
想いの複雑さは世間を知る大人のものなのに。
領域は森羅万象形見えるものも違えるものとて無限ではない。
例えるなら視界に捕らえる事は叶わぬ不明確な一つの箱舟。
ある一定量を受け付けたならそれは容易く崩れ落ち、泡粒に姿を変え深海へと消える。
「とっくに限界を超えてやがるだろう。テメエは」
紡がれた言葉は驚くほど弱い。
それに反応を示したかのように、またカランと鳴り揺れた氷。
小さく、なのにとても空間全体に響く音を打ち消すように呷る。
想いの全てを流すかのように。
グラスに残った僅かな残り酒と氷に映った顔は、
波紋でよくは見えなかったが不快だけで形成された面だろう事は知れた。
快を促す酒。
不快のみ感じる男。
原因はきっとあの影がある京人。
今頃、現総帥と言う肩書きを持つ甥の元へ何かと理由を付て傍に自分の居場所を作ろうとする、
部下の弟子が甥っ子の傍に居るのだろう小さな推理は全くの感ではない。
甥との日常茶飯事ともなっている討論後。
自室に戻る際、近くに感じた彼の気配。
気は複雑に乱れ、会いに行く男とのこれからをあれやこれやと頭に描き、
期待と落胆を繰り返しているのだろう事を予測するのは常日頃の―――係わり合いが乏しい為、
その間の微かな記憶の彼と甥の関係考察と、
師匠である部下から極たまに耳にする彼の小話からの僅かな情報からだけだが―――彼から簡単に知れる。
三十にも満たない生で、両腕から溢れ出してしまう程の親愛も無責任な期待も、
殺意を含む憎しみさえも受け止め続けた甥。
彼に近付くモノ。
その大半が甥の心を気にもせず入り込んだ先には未成熟な領域(テリトリー)。
入り込んだと言うより無理やりな形の侵略だろう。
あの男なら大丈夫なのだとの無意識下での勝手な押し付けられた信頼。
受け止め、同時に失った幾つもの愛おしい存在。
もうこれ以上何かを失う事が酷く怖いのだと深い心が悲鳴を上げても、誰も気付かない。
気付こうともしない。
例え察しても黙殺し、不安定要素で構築された窮屈な領域に土足で進入する。
あの京人もまた同じなのだとハーレムは結論付けた。
けれど。
どこかでリンリンと鳴る否定の鈴音。
ちらりと視界に過る片方だけのしかし両眼に炎を宿す瞳は―――。
「シンタローに呷られたのかよ?」
アイツも。
己も。
媚びるでもなく、劣等感も優越感さえ他の者ならいざ知らないが、
甥の前には現さない抱く筈はなかった不純な想い。
意外とも思える二人の共通点はシンタロー。
それでいて、違いを生み出す原因もまた彼。
一歩後ろ又は隣で、彼を見守り支えになりたいと願うアラシヤマとは違い、
ハーレムは甥の数十歩先を歩む優越感は持とうとする。
彼のように前に進むでもなく後ろに控えるでもなく、共に並ぶ事すら望む事はない。
甥はもう子どもではないのだし自分はそこまで甘くはない。
ただ特別意識させる事なく、察する事もさせずに道を作りたかった。
例えば生い茂る道なき広大な草原を無造作に進む。
新しく出来た道を甥が進むのだ。
常に彼の前を歩き、
その先に待つ、ハーレムとシンタローの互いの位置関係は今と比べ、どう変化するのだろうか。
「一時の愚問で終わるがな」
思考はそこで途切れる。
気付かせない素振りで彼の中へ潜り込みたかった。
けれど。
シンタローの箱舟はもうぎゅうぎゅう詰めで。
それ以上は定員オーバー。
それでも、あの器用でしかし妙なところで不器用なお人好しは、自分を必要とする者を、
結局は本気では邪険に出来ず、手を差し伸べるのだ。
心が悲鳴を上げていようとも。
それに気付かぬ愚者達の為に。
それが我慢ならないというのは傲慢なのだろう。
いや。ただの我侭だろう。
シンプルに。
自分は気が短い。
十分に自覚している。事について否定する気はない。
博愛の衣で、偽り姿で、狭く広い舞台で演じ続ける甥に現実を叩きつける。
瞳を逸らすなとそれこそ容赦なく。
好印象を持たれはしないだろう。
けれど憎悪の感情は強ければ強い程、質によっては彼の心を捉える事が可能となる。
それは“自分だから”だと自負してもいる。
彼の作った固い殻もこじ開け、捉える。
シンタローの箱舟から温まっている輩を全員蹴倒してしまえば、舟内は当然がら空き。
留まるのは自分だけでいい。
他の奴らには渡したくない居場所(ソンザイ)。
歪んだ愛情だ独占欲の黒い愛と人は呼ぶのだろうか。
「まァ誰が何を言おうが勝手に思おうが、俺には関係ねぇがな」
甥は確実にこの傲慢な叔父に対し、憎悪の想いを持っている筈。
しかしそれもこの男のカリュキュレーションズアンサー。
いつかのどこかで聞いた言葉がリフレインする。
もう遠の昔に誰かの囁き。
「愛と憎しみは紙一重・・・ねぇ」
愛する事と憎しみは別モノの感情。
当時はなにを馬鹿な事だと片付け、
まるっきりに無関心だった彼が意味を理解出来ずにそのまま流してしまった、記憶に留めていない遥かな昔。
必須項目ではない蛇足。気になるもの。常に胸を占める強き想い。
それだけで手一杯なのだから。
互いに互い、思いが先走り過ぎて素直になれないままに。
あまりに強情な甥。
激しい嫌悪感と、否定し切れない、確かに抱く愛しく想う情。
気付いてしまったなら―――認めてしまったのなら、すべき事は自然と一つの道へと向かい進む。
「刻み込んでやるよ」
俺を。
癒えない傷をもっと深く与え続けてあげる。
無理矢理にでも、それでも欲しいのだから。
我慢は覚えない。欲しければ奪えば良い。
全て。
身体だけじゃ決して満足など出来ない。
もっと欲するのは。
「けっ、らしくもねぇ」
男からすればまだまだ青臭いいあんな子どもに、
こんなにも激しく執着する事し快と不快を簡単に揺さ振られるなんて。
今は忘れるようと、酒を体内に循環させる。
今、だけ。
彼を忘れる事は実際には出来やしないし、
「忘れてもやらねぇけどな」
波紋を作り続けるワインレッドの表面に自分と甥を映し、小さく笑った。
微かに覗く月は朧月。
部屋の主である男を見守るように、淡く光を降らせ続けた。
「シンタローはん」
「んだよ」
呼ばれてはじめて飽きずにアラシヤマの髪を撫でていた手動がとまる。
明らかに見せつけと分かる盛大な溜息の次には「テメエの所為で溜まってる仕事を中断させられるわ
ソレを今からヤル気は削がれちまったしで散々だぜ」と長々ぶつぶつ言ってくる。
やれやれ先程までの彼はどこへ行ってしまったのか。
そう思うのと同時にけれど虚ろ調子ではない、いつものシンタローに少なからずの安堵感。
文句を言われる謂れは
・・・・・・・・・やはりあるのだろう。
―――それに何ぞ言い返したとしてもメリットのある結果は得られへん事も先読みが出来るさかい、
素直に謝罪しておくのが何より得策でっしゃろ。
シンタローが“こういう場面”では“こうする”、
“ああいう場面”では“ああする”など舵の取り方が意識する事少なからず理解出来るようになってきている。
それだけ自分は彼を、彼だけをずっと見ているのだから。
気がつけば何時だって彼の事だけを追いかけていく自分。
今は安堵感を持たせる小言を淡い笑みを持って人差し指を彼の唇に当てて制した。
少なからず驚いたような彼は黒曜石の瞳を少し大きく開く。
「あんさんが誰を強く思うても構いまへん・・・と言うたら、まあ・・・嘘になりますけど」
言いながら触れる唇をゆっくりと優しくなぞりあげる。
アラシヤマにしては大胆過ぎる行為に対し、普段ならば十や二十、下手すれば眼魔砲を繰り出す癖に。
出来ない、しようとも思えないのは、彼の常には見られない温かさを纏った自愛な笑みについ、
毒気を抜かれたからか。
「いつかわてがトップになりますよって。期待しててくだはれv」
あの子どもよりも、最愛の弟よりも、彼の従兄弟からも他の仲間よりも、
・・・戦略的にシンタローに入り込む彼の叔父である、あの男をも越えて。
体も心も。
誰よりも自分が一番彼の傍にいたい。
「はァ?何の」
案の定。彼は気付かない。気付かれたらきっと、
「言うたらあんさん力いっぱい否定しますさかい。まだ言いまはんわ」
「んだよソレ。否定されるって分かってるんなら何のトップだか知らねーけどぜってぇーに無理だろ」
「酷いおますなぁ~。まだ何のか言うてまへんのにもう無理だ言いはるなんて」
「テメエの考える事は大概、俺にとってろくでもねえ事だし」
「ああっ!!相変わらずに殺生なお方やっ!」
冷たくさらっと言われてしまい、大袈裟によよよよ・・・と泣き真似を存分に披露する。
ただ少しからかってみただけなのに、相変わらずの彼が妙に可笑しくて、涙を瞳に溜めお腹を抱えて笑った。
彼が可笑しくて。
本当に、涙まで浮かんだのはそれだけが理由だったのだろうか。
それから少し続いた、いつも通りの二人の会話・対話とほぼ一方的ながらの言い合い。
いつも通り。
他の気心の知れた相手とならば誰とも大差な変わりのない態度。
平面だけの会話。
微量に受け取れる事の出来る想い。
それもそう遠くないうちに。
「変えてみせますよって」
「は?何を??」
誰も入り込めない、入り込ませない、二人だけの領域(テリトリー)。
END
☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:
PAPUWAキャラクター人気投票でシンちゃんが一位を獲得したと知った瞬間に、
「こりゃぁ祝うっきゃねえ!!」とばかりに書いた三位(ハーレム)vs二位(アラシヤマ)×一位(シンタロー)。
真っ黒クロスケ・・・と言う程ではありませんが、シリアスまっしぐらでした(´▽`;A゛
その口直し・・・になるのか分かりませぬが、ちょこっとおまけ↓はALLギャグ路線でGOo(≧▽≦)○☆★
★GOBLIN’SPARTY★・・・の没ネタ
★これまでのあらすじ★
ガンマ団に設置してある託児所の子ども達の為に、ハロウィンパーティを主催したシンタロー現総帥。
化け猫の仮装をして自らも積極参加。
無事に終わったハロウィンパーティだが、自室に吸血鬼の仮装をしたアラシヤマが訪れ、菓子を強請った。
邪険に対応するシンタローに、「仕方あらしまへんなぁ・・・・・・ほなら悪戯しますえv?」と襲い掛かるアラシヤマ!
どうなる!?シンタロー!!!
・
・
・
・
・
やばいヤバイや~~~べ~~~えええええよおおおぉおぉおぉおぉぉ~~~~~~~~!!!!!
脳みそをフル回転させて、この窮地を切り抜ける方法を考える。
何かある筈だろ!?どんな難解な状況でも打破する何かがッ!!思いつけ思いだせ思い・・・・・・・・・
―――あ。
あった・・・。アレがあったんだっけか!
グイッと相手の体を押し退けてベットから降りる。
「シンタローはん?」
展開に着いていけないと語るぼんやりとしたアラシヤマに背を向けてソファに向かう。
ソファの上にはさっきパーティで着用していた化け猫服(?)が無造作に投げ出してある。
少し時間が経った為か少々の皺が出来てしまっていたが、
どうせ明日にはガンマ団内に設置されているクリーニング部署に頼む予定だったから特に問題視はしていない。
しかし、クリーニングに出す前に≪コレ≫に気付けてよかったぜ。
そのまま出しちまってたらえらい事になっただろうな。
ポケットの中がべとべとしちまって。
俺が離れてしまっても、耳を塞ぐかその口を塞ぐかしたいアラシヤマお得意一人妄想語りが聞えてくる。
「何か探しものでっか?何もこないないざ本番な時にせんでもええんでっしゃろ。
それともよっぽど今すぐに必要なものですの?
ハッ・・!今入用なもの言わはったらやはりそういうもんですの!?
いややわぁ~vvシンタローはん、意外と大胆ですわぁv
そないなもんに頼らへんでもわてはちゃあぁ~んとあんさんを満足させる事出来ますよって要らへん思いますよ?
京人は手先器用が多いよってどすから。
まあ京人全員がそうとは言えまへんが、けどわては幼少期から何をやらせてもそつなくこなせましたし。
はっ!!そう言えばあんさんなしてそないな物を持っとりますの。
・・・まさか。
・・・・・・まさかとは思いますけどシンタローはん。
どこぞの誰かと使ったりしてまへんでっしゃろな!?
使う使わないは別としても、わて以外の男と―――――うわっ!!」
ぼすっ
「いい加減に黙れ」
≪コレ≫を服から取り出すただその動作時間だけで、
んなアホな想像妄想を限りなく続けられるアラシヤマの顔面めがけて化け猫服で思いっきり殴ってやった。
服はまあ、柔らかい素材で出来ているからそんなに痛くはなかっただろ。
勢いは全力でつけたから痛い“ようには”一瞬感じるかもしれねえケド。
「ほれっ」
「え?ぅわっととッッ!」
突然投げたソレを、慌ててアラシヤマが危なげな手つきでキャッチした。
手に平の中でソレが数回バウンドしている。
おいおい・・・。一回でキャッチしろよ、ガンマ団(自称)No.2の男。
ガッシリと両手に握り締めたソレをゆっくりと指を解いて凝視するこいつの顔に、
状況追跡困難色が目印のような判り易さで色濃く浮かんでいる。
俺の貞操危機(※まだあるのか信憑性はイマイチ)を救う小さなソレは。
「チロルチョコ・・・でっか?」
ハロウィンパーティで子ども達に配った菓子の中でやけに数の多かったチロルチョコ。
余った分は本部に戻すも良し、土産代わりに貰っても良しとなっている。
ハロウィンパーティー主催者は俺だが、菓子・場所手配諸々は親父の代からの総帥秘書、
名前だけは甘く仕事に関してはかなり厳しいコンビ・ティラミス&チョコレートロマンスに主な手配、運営を任せた。
菓子類は元々子供たちの為に用意したモンだし、俺は残らないように全部配ったんだが、
それでも中途半端に一つだけ余っちまったチロルを一応貰っておいた。
まさかこんなちっちゃなモンに救われるとは思わなかったぜ。
「そ。お前も知ってるだろ?チロルチョコ」
「そら、知ってはりますけど・・・はっ!?もしかしてシンタローはん・・・ッ」
「お前の予想、多分ビンゴな。どんなに小さくても菓子は菓子だろ」
「シ、シンタローはぁぁあん~~~」
あんまりに情けねえ声に、ちょっとだけ・・・本当に少しだけ意地悪だったかなと思うけど、
やっぱりそー簡単には俺の初物は渡してやんねーよ。
どうせ来るなら全てを賭ける覚悟を持って全力できな。
中途半端じゃ俺は捕まえられねえよ?
俺はお高いんだぜ?
知ってたか?
。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。。・
:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。
本当はこっちが【★GOBLIN'S PARTY★】本編になる予定でしたが、
気が付いたらアラッシー甘やかしのHAPPYENDをUPしておりました。
おっかしいですね~(゚_゚?)何の為に『何故かチロルチョコの多い菓子の袋(勿論他の菓子もあるが)を
一つを渡し~』と菓子描写をしたのやら(;´▽`A``
俺様なシンちゃん書けて幸せ~vv主婦してるシンちゃんが一番好きなんですが、俺様受もいいよねッ☆ヾ(≧∇≦*)〃
俺様受シンちゃんシンちゃんはアラッシー相手じゃないとなかなか難しいですし。(キンちゃん・・・は対等ですし)
前編≪ ≫戻る
ポイント 愛知県 興信所 資格 確定申告
ない、が、≪ここ≫ではそうはいかない。
≪ここ≫での平凡は外の領域からみればまた特殊で。
いくら殺し屋集団の看板を取り払ったとはいえ、
≪ここ≫―――『新生ガンマ団』とは、平凡な日常というものはまずあり得ない。
チュド―――――――ンッ
・・・今日も今日とて在るべからざる場所から放たれる青の一族の秘技が鋼鉄な本部を揺るがし大勢の団員をざわめかせ、
一部の幹部を嘆かせる。
領域・~テリトリー(前編)
在るべからざる場所―――そこはガンマ団総帥の部屋。
豪華な―――しかし現総帥が今の地位に就任する前に全体に模様替えをした為、
決して嫌味ではない装飾が施されている。
そこに佇む二人の男。
二人は全くと言っていい程似ても似つかない容貌である。
一人は長い黒髪を、以前よりは日焼けの落ちた小麦肌に滑らせた男。
歳は・・・20前後に見えるだろうか。実年齢はもう三十路を控えているのだが、
マリアナ海溝よりも深すぎる事情により外見年齢はまだ青年になったばかりというところ。
意志の強さを物語る瞳は髪色同じく黒曜石。
【G】というロゴ入りの真っ赤なスーツは前総帥から(無理矢理に)受け継がらせたもので、
それからこの男が現総帥のシンタロ―である事が伺える。
趣味の悪いと言われた新着した同デザインの総帥服だが、想像するのとは大違いに彼とマッチしている。
黒髪と相性が良いのかもしれない。
もう一人の男はシンタロ―が黒い髪・瞳に対して見事なまでの金髪に蒼瞳を持ち、
さらさらと流れるような絹を連想出来るシンタロ―の髪とは打って変わり、かなり硬質である。
服装は特に派手でもなければ地味でもない。
ただ紫を基調にしている為か、どこか攻撃的な印象を全体に与える。
銜え煙草が猛禽類のような攻撃性を助長してもいた。器用に灰は床に落ちる事はないのが不思議だ。
特に目立つのが金髪に対して、何故か自生した黒眉でそこから獅子舞又はナマハゲ―――もとい、
前ガンマ団総帥の二番目の弟であり、特選部部隊隊長のハーレムだと知れる。
両者ともその整った顔立ちによりかなり目立つ。
男女問わず、一度見たらそうそう忘れられるものではないだろう。
佇んでいると言うよりは睨み合っている―――しかも互いに戦闘準備万端と言った風であり、
実際もう互いに一族の秘技を繰り出し合うと言う真に穏やかではない事をし合っている。
「ったく。何でこんな事ばっかりすんだよアンタはッ!」
「相手が弱過ぎんだよ。とっととケリつけた方が効率いいだろうが。こちとら忙しいしな」
「どこが忙しいってんだよ!いっつもいっつも競馬と酒に溺れやがるヘビースモーカー親父ッ!!
もうガンマ団は殺し屋じゃねーって何度言わせればいいんだアンタはッ!!!」
ガンマ団が暗黒面で名を馳せていた血生臭い歴史は長い。
それだけに不殺だと公言してもなかなかに殺し屋のイメージは世間から拭う事は難しく、
試行錯誤悪戦苦闘の毎日に丈夫だと自負している胃もキリキリと痛む―――と言うのにこの叔父は、
まるで自分の足を引っ張る所業ばかりで向ける怒りも並ではない。
額に青筋をデカデカと浮かべてシンタローが人差指をびしっと向け指すと、
口元は相変わらず笑みを残しているハーレムの蒼瞳が変わる。
気付いた変化に身体が凍り付いていくような感覚。
自分は何か特別な事をしたのか?
交わされる言葉の内容はハーレムがこうして大きな問題を抱えてくる度に激しい衝突を引き起こす、
終局の見えぬ平行線。
だからこそ脱力する程の今の会話にいつもは感じられない反応を見せた叔父の心情は分からない。
分からないが―――・・・
何か、あるのだ。
目の前の男の気に触れた言の葉が。
「もう殺しはしない?―――はっ!見せかけだけの奇麗事だな」
「んだと・・・っ」
「お前だってしてるだろ。
この前893国にどデカイ眼魔砲をぶちかましてくださったのはどこのどいつだァ?」
「あれは半殺しで済んでる!誰も殺してはいねぇよ!!」
「似たようなもんだろうが」
「違うッ!生きてるか死んでるかの違いが出てくるんだぞっ!!」
それだけで大きな違いだと口にする、若き新総帥の何と幼い事か。いっそ憐れだなとも思ってしまう。
世間を知らな過ぎる器だけ大きい、けれどただそれだけの総帥。
「死ななければいい。そりゃあ違うんじゃねーの?」
胸の中に溝が出来る。
それはさらに範囲を広げ、その内部に侵入するのはマグマのような純粋な―――単純な怒り。
せき止める法をシンタロ―は知らず、今日もまたこの言葉で二人の言い争いは終結を迎える。
それはあまりにも単純であっけなく面白みもない。
「出てけ――――ッッ!!!」
あれからどれくらい経ったのだろう。
ハーレムが憎たらしいまでの笑みを浮かべて立ち去った後、シンタロ―はすぐさま今日のノルマに取り掛かろうと、
叔父との喧騒の残り火を押しのけながらもパソコンでの作業へと頭を切り替える。
が。
イライライライラ・・・。
「あ~~~!!!ムカツクゥ―――――――ッッ!!!」
シンタロ―総帥、ハーレムと別れてからこれで数十回目の叫び。
PCを立ち上げてもエラーを出し捲くるわ折角打ち込んだ文章もデリートさせてしまったりでちっとも進まないではないか。
とにかく苛々して仕様がない。頭をガシガシと乱雑に掻き回して背凭れに体重を乗せる。
ぎしっ・・・と鳴る音が妙に虚しい。そして腹ただしい。
考えるのも嫌なのだが無視ることも出来ないトラブルメーカーな叔父の事。
もう彼との衝突は日常茶飯事に達している。
今回のように任務先で目に余る事をしでかしたとのものだけでなく、プライベートな時でも、だ。
出会えば何故か二人の間に衝突が起きる。殆どハーレムから仕掛けるのだが。
シンタローがその挑発にのってしまい勃発し、先程の状況になるその繰り返し。
最後に残るのはどうしようもない、あの男に対する消化出来ない怒り。
けれど今シンタローが感じているのは、様々な身勝手言い分ばかり述べる彼に対してだけの怒りではない。
男の言葉がリフレインする。
―――見せかけだけの奇麗事だな―――――死ななければいい。そりゃあ違うんじゃねーの?――・・・
分かっている。出来るだけ相手を傷付けずに済めば良いのだと常に願っている。
いるが・・・。
その事を忘れてしまう時が確かにあるのだ。
こうして我を忘れかけるくらい感情が高ぶると、願っていない言葉もついっと出てきてしまう。
感情に流されるのは総帥として汚点他ないだろう。
願ってはいない・・・・・・けれど心の奥底、“思って”はいる。
命を奪わないで済めば相手を傷付ける事を大目にみてしまう自分がいる。
そんな愚かな事があろうか。
平和を望むなら穏やかに事を進めなければならない―――けれど、
それに目を閉じて耳を塞いで・・・行われる己の手で、指示で行われる破壊。
平和が訪れるのは事実だ。
それでも破壊の元に行われたそれは、真の平和と言えるものではない。
その事実を一番の破壊衝動者に突きつけられる。
普通の者なら気にもせず聞き流すそれを、あの男は掘り返す。
忘れるなと囁くように・・・。
それが優しさからくるものだったら、まだ素直に聞けよう。
けれど彼の場合は―――明らかに自分に対しての挑発行為からだ。
感じる、彼が自分に向けている感情に。それは殺意なのだろう。
あれほど激しいものを感じない筈がない。
男も隠す気がないのか。全てをシンタローにぶつけてくる。
その元で真実を知らしめる。奇麗事を並べて言葉と矛盾している真実の自分を。
・・・・・・・一番胸を占めているのは自分に対する怒り。
忘れていた事に対しての。
忘れようとしている自分に対しての。
意識してではないけれど結局はそうなのだから言い訳するのはあまりに惨めで無意味。
所詮口先だけのキレイゴト。
「第ッ一!!アイツは何かにつけて俺に突っかかってくるんだ!」
けれど、その全ての感情を叔父に全面向ける事でそんな自分と思考を避ける。
それが卑怯な事だと内心理解していながら、認められずに足もがく。
あまりに怒りが今は何よりも勝っている為か、言葉を掛けられるまで戸口の気配に気付かなかった。
「ご機嫌斜めなトコ、すみまへんけど・・・」
遠慮深く様子を伺うように入ってくるアラシヤマの片手には大きな封筒。
「―――っ」
消して気配を消していた訳でもないのに気付けなかった。そんな自分に更に苛立つ。
積み重なる怒り憤怒、交じり合うマーブリング迷彩色の思考。
気付けなかったのだと決して悟られてはならない。
多くの人の上に立つとはそういう者。
常に冷静な判断と威厳を保ち尊敬を浴び、人を動かせるよう勤めなければならないのだ。
自分の父がそうであったように。
「んだよ」
けれど保とうと勤める冷静さをこの男の前では欠いてしまうのは、
身近な存在として無意識な認識をしているからか。
不機嫌さを隠さずに―――隠せるものなら実際は隠したいのだが―――夜中の訪問者を苛立ちの眼光で見据える。
「苛立ってますなぁ」
「るっせーよ」
相手にも分かるあからさま溜息をつかれ、更に苛々が増してしまう。
きっと自分の心臓はグツグツと煮立っているんだろうと冷静な部分が残っている自分がいれば、
そう客観視するかもしれない。
アラシヤマがここに来たのはハーレムとシンタローの騒動を聞きつけてきた野次馬心からでなく、
先日赴いた地区での報告書を渡しにきた事は右手に納められている茶封筒から知れる。
用件はそれだけであろう。それを置いて早く立ち去れと、に言葉を鋭く乗せてやる。
しかしその程度の嫌悪態度をとられたくらいでこの男が立ち去る事はない。
それは冷たくあしらわれる事に慣れているからか、
それとも師匠の弟子いびり(・・・。)から培われた打たれ強さか。
・・・・・・どちらかを取らねければならないとすれば、後者の方がマシな気がする。
「またハーレム様どすか?」
「関係ねーだろ。テメエには」
否定しないところからして答えになっていないようだが100%肯定であるようだ。
無視を決め込もうとするがなかなか立ち去らない男に苛々し、発する言葉がつい冷たいものとなる。
普段は冷たくないのかと問われれば返答に苦しいものはあるが。
「気が散る。帰れ」
彼の深いところまでの心情を読み取り、眉を顰める。
―――これは・・・相当ご機嫌斜めみたいどすな。
いつもより、という意味で。
普段ならばもっと遠まわしな言い方で立ち去るよう言う。
例えば明日も早いのだろうから早く休息を取らないと業務に響くぞ、とか。
帰れと言われても、このような状態の彼を放っておけない。
彼でなければアラシヤマも関心を持たずに立ち去ろうが、
相手がシンタローであるならばどうにかしてやりたいと保護欲のようなものが湧く。
その原因は、やはり―――
「シンタローはんの立場―――心情を他の親しい誰かが抱いています時、
あんさんはそれを黙って見捨てる事が出来ますの?」
自分は出来ない。
親しい者は少ないが、この男とは浅い仲ではないのだと自負している。
何より自分はこの男に心底惚れ抜いているのだから余計に―――。
くるりと身体ごとアラシヤマに向けるシンタローの表情は冷たい。微かに浮かべているその笑みも。
姿勢悪く右肘を立て顔を乗せる。僅かに顔を傾けた事で、さらりと長く伸ばされた黒髪が揺れた。
「俺とお前が親しいって言うのか?」
「違います?」
「大違いだ」
即答。
けれど、知っている。気付いている。言葉とは裏の彼の本心を。それは思い上がりじゃない。
いつも自分には冷たい素振りばかり見せる彼だけれど、隠されたココロを自分は知っている。
隠そうとしても隠し切れない無駄な足掻きをどうして彼は手放さないのかも知っている。
自分をそう簡単に誤魔化せないしさせはしないのに。
―――声が聞こえますよって。
以前、誰かに自分はこう言った。
確かまだ彼の父親が総帥だった頃、まだ現総帥が一団員でしかなく、まだあの島の温もりを知る前の頃。
もう顔も声すら覚えていない一団員の男がシンタローに対して言ったのだ。
そう、その時。
何時ものように冷たくあしらわれたアラシヤマに同情しての発言。
友達はいない彼だが、彼を慕う者は皆無ではなかった。
その中の一人の男がシンタローが去った後に悔しげに漏らした。
「シンタローさんは冷たい人ですよね」
「なしてそう思いますの?」
「えっ・・・だって・・・」
彼が自分に冷たい態度を取り続けるから?
「声が聞こえますよって」
「声?」
「悲しい声どすなぁ・・・。ああ、あんさんは泣いとるんですか?」
「アラシヤマ様・・・?」
その言葉はもはや男に対してではなく、別の強情な誰かに向けて。
声が聞こえた。
それは幻聴などではなく、真実(ほんとう)の彼自身。
それを彼に言おうならば間違いなく否定され、同時に眼魔砲の一発でも撃たれるのであろうが。
だからこれは自分だけが抱くもの。
そしてシンタロー自身が気付かなければ、頑固な彼は認めないのだろう事。
彼の内面考察は今は切り離そう。それより今聞いておきたい事がある。
自分が親しいものではないと言うならば、あの男はどうなのだろう。
今、シンタローの思考の大部分を奪っている彼の事は。
彼に寄せるシンタローの想いが敬愛や親しみではない事を知っている。
二人の間に何事もなければ、
無意識博愛者であるシンタローが相手に対して負の感情を抱きはしないのだろうけれど。
憎しみの感情にすら嫉妬を感じる自分はどこまで欲深いのであろうか。
「ハーレム様より、わてはあんさんとの距離があるます言うんですか?」
「・・・何故にそこでその名前が出てくるんだ」
何故?
それは。
嫉妬という一感情。
下らないプライドがそれを相手に伝えようとはしない。
伝えなければ当然伝わらない。
これがもっと心の芯からの深い間柄ならば伝わるのかもしれない。
けれども自分達はそこまで深くはないのだと
、親しい者とは自負していても悲しきかな、否定は出来ない認識。
ただそれは年月の問題ではない。
無論年月は親近感に大きく作用するが。
最低ラインでもあの島の小さな王者ほどに、彼の心に近付かなければ。
―――えらい高いハードルですなぁ。
一年半以上。二年は経過したであろうか。
自分がシンタローを知った14から約十年。
嫌悪感と認めたくはなかった激しい憧れを抱いて、彼の傍に居た。
それに比べればずっと短い2年にも満たない歳月で、彼の親族よりも何よりも、
きっと心を砕いた最愛の弟よりも、南国の幼い王者は何の策略もなしに彼にとって最も心傾けられる存在になった。
そしてその王者もまた。そこまで思考を巡らせてはた、と気付く。
最初は彼の叔父に対して沸きあがらせられていた嫉妬心が、
いつのまにか別の人物に向けていた事に驚いた。
当初のものと随分掛け離れてしまっていた事に、しかし笑う事は出来ない。
それだけ彼は多くのものに愛され、そして彼もまた多くのものを愛する。
今、彼の怒りをかっているハーレムにも、もしかしたら・・・・・・いや、きっと・・・
「アラシヤマ?」
訝しげに自分の中に突然閉じこもってしまった青年を見やる。
いつも自分の殻に閉じ篭ってしまう事は彼には珍しい行動ではないが、それがいつもとどこかが違う。
それは―――そう、直感。確かに働く第六感。
それ程先程の問いには答え難いものであったのか。
ただ単に一例としてハーレムの名を持ってきただけなのか。
何もこんな時にその名を挙げる事もないだろとは思う。
思うが。
ともかく・・・
「アラシヤマッッ!!」
「・・・えっ!?・・・あ、な、何ですのん!!?」
「~~~~~ッ・・・。・・・・・・あのなぁ・・・何だ?はこっちの台詞だ」
質問に答えず自分の殻に閉じ篭る男の思考に割り込むように名を叫び呼ぶ。
返ってきたのが素っ頓狂な返事だった為か大きな脱力感が襲ってくるのは仕方がないのか。
段々に怒りより呆れの方が強くなった気がしないでもない。
つい漏れてしまう溜息。
相手に聞こえるか聞こえないかの小さなものだったが、
しっかりと相手には聞こえたらしく困惑の表情を見せた彼。
相手の機嫌を更に悪くさせたのだろうかと思ったからだろう。
実際は、ただ、
「もういいや。こうしてるのが何か阿保らし」
話が食い違い繋がらず更に複雑化していく彼との会話は意味不明で生産性がないのだと、
手をひらひらさせて特別意識してではないだろうけれど思いを表し、その視線は宙を仰ぐ。
ちらり、とディスクに詰まれた書類に目を配る。
自分にはまだまだ山のような仕事がある。
それの為の時間を、
例えるなら最初から繋がりもしないバラバラのジグソーピース問答の為に随分と費やしてしまった。
はっきり言えばこれ以上の無駄な時間を打ち切ろうとの意味が、言葉の中には込められている。
それをアラシヤマも気付いているのだろう。何も言わないけれど、きっとそうだと妙な確信がある。
先程から彼には冷たい又は素っ気無い言葉ばかり投げてしまっている。
アラシヤマが嫌いな訳ではない。
普段は「嫌いだ」「うっとおしい」等言ってしまうが。
そしてそれは嘘でもないけれど、真実でもない。
冷たくしてしまうのは癖みたいなもの。
不器用な一種のコミュニケーション。
それは先程も提示したが嫌いだからではなく、
不思議と親族を抜かせばこの団内では気軽に接する事が出来るから。
彼が何か自分に訴えようとしているのは何となく分かる。
根拠もないもないただの感だけれど、きっとそれはお互いにとって、大切な事。
けれど対話する程の時間の余裕がこちらにはないのだ。
そして相手も高幹部の地位。それは総帥ではない自分程でないにしても多忙を余儀なくされる身。
不器用ながらシンタローなりに気を使ったつもりなのだ。
隠された本当の思いが伝わるか伝わらないかは相手の受け取り方次第。
互いの親密の度合が深ければ深い程正しく思いを汲む事が出来る。
確かに二人はあの島で故意ではなくとも隠されていた心をお互いに見せ合えた。
全てではなく、多少歪んだものだったけれど。
確かに。
それでも。
まだ足りなかった。
―――阿保らしい事・・・?
アラシヤマの表情がおどおどしていたものから一変し、シンタローの発した言葉を心中にて反復する。
自分の想いが?
他の誰かとの彼との関わり一つ一つに対する嫌悪感が?
その全てが陳腐なものだと?
決してシンタローはそこまで思って言っているのではなかった。
けれど最初にすれ違ってしまった二人は思いが混じる事はなく、平行線を辿るでもなくすれ違い、
時間をかけず大きな亀裂を作る。
陳腐なもの。
違う。いつだって自分は真剣なのだ。
彼に関しては全て。
想いは感情的な叫びとなり、止め処もなく溢れ出す。
「阿保ちゃいます!真剣なんどすえ!?」
いきなり常ならぬ怒鳴るアラシヤマに酷く驚き、目を丸くして一変した彼を見る。
言葉にしなければ伝わらない想い。
伝えなければならない想い。
越えなければならない境界線(テリトリー)。
大きく息を吐き出し、キッと相手を見据えた。顔面だけでなく身体中が火だって熱い。
「わては・・・わては、シンタローはんの事が・・・・・・」
「俺の事?」
まだ驚きながらも確信に迫るだろう言葉を待つのはシンタロー。
伝わって欲しくて反比例して言い出せなかった想いを言の葉に乗せるのはアラシヤマ。
「~~~好・・・きなんどすッッ!!」
言い終ったが同時に、
重労働後のようにどっと疲れが噴出してその場に崩れ落ちそうになるのをぐっと堪える。
やっとの思いで吐き出した、心の小箱に大事に大事に秘めていた切望色の想い。
すっきりしたと思えたのは一瞬で、今度は一気に顔が朱に染まりまた青くもなる。
長い間伝えれずにいた想いを遂に告白してしまったとの純粋な羞恥心と、
告白に対する相手の返答に期待と不安が交差する。
―――つ、・・・遂に言うてもうたっ!
整った容貌からか、一人で居る事が多いからか、はたまたガンマ団No.2という肩書きからか、
仲の浅い者(主に部下)から見ればアラシヤマはクールな上司。
やや大げさに言えば孤高の御方と憧れ的な眼差しで見られている。
特に新幹部や士官学校生などからは決して少なくなく尊敬を受けており、(※悲しきかな、当の本人はそれを知らず)
又、親しき同僚その他から見れば執念深い根暗男と見られがちなこの青年も、
クールで孤高なお方と見られようが根暗と言われようが根っこは極めて純情。
恋愛関連に関しては友愛以上に小心であるが故、
この告白が如何に勇気を振り絞ったものだったのかは想像に難くない。
体内で煩いほど響き渡る心臓が運んでくる血流が面中心に集まる。
今直ぐにでもここから逃げ出したい衝動を押し留めながら返答をただ黙して待つ。
待って。
待って。
待って。
―――アレ?
返答なし。
更に待っても同じ事。
何故。
突然の告白に彼は戸惑ってしまったのだろうか。
無言相手に不安が更に募り、恐る恐る彼と下げていた視線を合わせた。
「シンタローはん・・・あの・・・」
「あ?」
その声色は快・不快のどちらも伺えぬもので、
決死の告白を受けた者の反応とはあっさりとし過ぎている。戸惑いの様子はまるでない。
「わて、今言うたでっしゃろ・・・。あんさんの事が・・・っ!」
「言ったな。好きって」
あまりにもけろりとした返答にはて?と疑が過ぎる。
何かが擦れ違うような―――冷風が塀の亀裂に吹き抜けるような―――何か―――。
「せやさかい、お、お返事頂きたい・・・・んどす・・・けど」
「返事?いっつも言ってるだろ」
疑が確信へと近づく。それはもしや。
「いっつも好きだの親友だの言ってるじゃねーか」
見事に嬉しくないビンゴ。
確かに普段の彼も直に『好き』とは言ってはいないが、同等な言葉を彼に投げ掛けるのは日常茶飯事だ。
だからシンタローはアラシヤマの『好き』を友愛だと判断した。
―――果たしてそうでっしゃろか。
心の亀裂が更に開く感覚。
それを抉じ開けるのは自分。
キッカケは彼。
気付きたくない。
―――知らない方が良い事だってあるのよ―――
幼い頃にそう、自分に何故か哀しそうに告げたのは誰だったのだろう。
その時頭を撫でてくれた人の顔は今ではもうぼやけてしまったけれど、口元に浮かんだ笑みは忘れない。
笑っているのに、今にも泣きそうだった。その言葉が今となってリフレインする。
気付いてしまうのは自分。
その原因なるのはシンタロー。
今までの『好き』は嘘じゃない。
けれど今まで発してきた『好き』は今抱えている恋心が生んだ『好き』とは種が全く違う。
シンタローが判断したであろう友愛の『好き』。
それは今までの『好き』。
伝えたい『好き』は違う『好き』。
踏み出そうともがく想い。
更に踏み込む彼との彼が作った境界線。
踏み出すのは怖い。
けれど。
「ならこう言えば分かります?―――・・・愛してます、シンタローはん」
踏み出さなければ、きっと何も変わらない。
「・・・・・・」
無言でこちらを見つめる彼の面は先程の告白を受けた後とは明らかに違う。
伝わった筈だ。確実に。
不思議と二度目の告白に気恥ずかしさをそれ程感じなかった。
二度目だから、ではなく、まるで愛の告白をしたと言うよりこれは説得に近いと何故か思った。
それが、無性に悲しいのは何故―――?
無言無表情でアラシヤマの視線を受け止めていたシンタローは、
硬くも感じられた面を溜息と共に切り替えた。
まるで聞き分けのない子どもに向ける顔。それそのものだった。
「なあ・・・、好きも愛してると同じじゃん。『好き』がすっげー『好き』になっただけでさ」
「シンタローはん・・・」
搾り出すように出た相手の名を呼ぶ声は、泣きそうで。
どうして哀の想いが押し寄せてくるのか、もう知っている。
何度目かの震えが両の拳に走った。
「お前、書類提出しにきただけだろ?もういい加減帰れ。
こっちだって日常会話を楽しむほどの時間の余裕はねーし」
これで打ち切りと言葉を遮断し、くるりとディスクワークに戻ろうとするシンタローの右腕を強く掴んで轢き留めたその手は、
意識するより早く。
アラシヤマの瞳に焦燥感は消えうせ、代わりに怒りに似た色が浮かんでいた。
けれどそれは決して怒りの感情ではなく。
「違いますッ!!」
「何が」
何が、違う?
今までの『好き』と今伝えた『愛している』の違いを彼は気付かないのだろうか。
そこまでシンタローという人物は人の感情に疎かっただろうか。
いや。
「本当は知っとります筈ですわ」
「知らない・・・」
伝わっている。
だからこんなにも彼は真っ直ぐなアラシヤマを見れない。
最初に『好き』だと言った時。その時は気付かなかったが、彼は一瞬だけ瞳を揺らめかせた。
けれど彼にはまだ平常心を保つだけの余裕があった。
直ぐに相手の言葉の意味に気付かぬ振りも出来た。
『愛している』と言われた時にも相手の本心を細かく探っていた。
その言葉は真実なのか否かを。
次に『愛している』と言われ、彼の瞳や声色・伝わる全てから想いの意味を知り、同時に驚愕を覚えた。
その今では言葉の震えを感じている。
彼はアラシヤマの想いに気付いている。
それは今ではもう確実。
一歩、アラシヤマはシンタローへと進む。
ほんの少しだけ、半歩もいかないがシンタローは後退する。
僅かに耳についた革靴と絨毯の擦れる音。
また、一歩近付くアラシヤマと同じく僅かに後ずさるシンタロー。
後退する事は気負いを意味してしまうが、頭では分かっていても体が動いてしまう。
出来るなら時間を掛けて事を進めれば良いのだ。
それは理想。
けれど彼はあまりにも頑固で素直でなくて自分では何も気付かないから。
ならば無理矢理にでも彼のテリトリーに入り込む。
一つ間違えてしまえば永遠に修復不可能となってもそれでも踏み込みならきっと今しかない。
チャンスは互いに何度も訪れてはくれないのだ。
互いの息が掛かるかかからないかの距離で、やっとシンタローが口を開く。
相手との距離をこれ以上進めない為に。
「何で近付くんだよ。帰れって言っただろうが」
弱々しい声。まるで何かに酷く怯えたような声。
「怖がる事は何にもあらしまへんのに」
「―――なっ」
「もう誤魔化しは効きまへんよ?わてはずっと無視出来る程にはお人好しではおまへんから」
「何を誤魔化すってんだよっ!それに怖がってなんかねえっっ!!」
ハーレムとの言葉の攻防の時のように声を荒げる彼にに臆する事はない。
むしろそんな彼を痛ましく感じる。
「どうして俺がテメエを怖がらなくちゃなんねーんだよ!!」
彼の領域を全て取り払おうとするかのように、アラシヤマは言葉を紡ぐ。
それは確実へと繋がっていく。
「強がらなくてもいいんでっせ?」
「違うって言って―――ッ!」
語尾はアラシヤマに抱き込まれた為、発する事なく霧散する。
抱く腕は強く。
自分の想いを塗り込めるように優しく。
「分かりますんや」
そっと瞳を閉じてシンタローの肩に顔を埋めると、
彼の愛用するシャンプーの匂いがふわりと微かに香った。
母が子に聞かせるような穏やかな声がシンタローを包もうとする。
「わても・・・おんなじどすから」
その一言にもゆっくりと時間が流れる。
その人の痛みは同じ痛みを持つ者にしか決して分かり合えない。
同じ痛みを知らない者の手厚い同情心は、かえって傷口を深く抉り出すのだ。
「アラシヤマ・・・?」
胸に埋めさせられた顔をゆっくりと上げて合わさったのは、驚きを表している黒曜石の瞳。
そうだろう。自分だって隠していた心中奥の奥の鎖で固く封じていた心。
友が欲しいと常日頃言う。
それは本心。
けれど。
更に奥に潜めていた一番の想いのカモフラージュでもあったのだ。
友愛が恋愛より劣る訳じゃないけれど、伝えるのはどちらが重いか。
受け止めるのはどちらが軽いか。
領域・~テリトリー(後編)
愛する事が怖いのだと、音なき泣き声が聞こえる。
愛するものを失う恐ろしさを自分は知っている。
また彼も。
ふと気が付けば、彼は沢山の多種愛を持っていた。
親愛・友愛・家族愛・敬愛・・・。
それを捨てる気はない。けれどこれ以上所有するのは辛い。
もう失いたくはない。失わない為に守る。
―――けど、それは常にギリギリだ。
込み上げてくる、泣きたくなるような衝動感情を抑えるようにアラシヤマに縋る。
この男の前で弱さを表す事は悔しいけど。
縋らずにはいられないのは、込み上げるものを抑える為か。
それとも彼と同じ想いから欲する衝動か。
―――いや、けどそれは・・・。
自分の彼に対する想いは、彼が自分を想う感情と同一のモノだろうか。
向き合う事でさえ怖いのに、それを直ぐに認識するのはきっと無理。
「急がなくてもいいんですわ」
心を読まれたかと思い、びくりと僅かに肩が震えた。
読心術なんて―――そんな筈はないのだけれど。
「わてはただちゃんと向きおうて欲しい思いましただけですわ」
少々急かしてしまった面は否めないけれどと笑う彼の顔に寄る眉間の皺が哀しく見えた。
直接的ではなく。
とても間接的に諭そうとするその姿勢は、やり方の大差はあれど、と同じだ。
―――誰と、同じ?
ちらり、と月色の影がアラシヤマ越しに脳裏に映る。
揺れる 揺れる 黄金の鬣。
―――眩しい。
顎をつい・・・っと上げ、空ろな瞳をどこからか漏れているらしい微風に揺れる黒に映す。
さらりとそれを撫で上げてみれば相手の身体がおかしなくらいにビクンと跳ねる。
構わず優しく髪を梳いた。
「・・・お前の髪も・・・硬いな、少し」
「シンタローはん・・・?」
消え入りそうな彼の声、その中にある確固たる事に気付いた自分。
不審に思い、緊張に硬くなる面を彼に向ける。
お前の髪も・・・
―――“も”。それは誰の事を言うてはりますの?
ゆっくりと身体を離す。心臓がドクドクと喧しい。
「・・・言うて、シンタローはん」
「何を」
「あんさんは・・・あんさんの―――」
誰がシンタローはんの中にいますの。
わてより先に誰が入り込みましたんどす?
あんさんの眼前にいますんはわてですのに、わてを見てくれはりませんの?
疑問系ながら実際には検討はついている。
だからこそ苦くて辛い。
「わてでは役不足でっか?」
全てが遅すぎましたのやろか・・・。
苦しく苦い想いと共に愛しい人を更に強く抱き寄せる。
―――違う。
強い想いを打ち明けた彼の肩に腕を回しながら心の中、そっと呟く。
―――そうじゃない。
役不足なんかじゃない。
彼も大事な構成物質のピース。
―――ないが・・・ただ・・・。
世界に数限りなくある言葉。
だというのに上手く想いを適切に表す言葉は見つからなくて。
自分自身ですら整理のつかない想いを、どうして彼に伝えられるのでしょうか。
開け放たれた窓からバサバサと時より強めの風が室内で踊る。
部屋の主の兄よりは落ち着いた、弟よりは飾り気のある調度品の数々、
その中心部に固定設置されたさして大きくはない白いテーブル。
そして置かれた何杯目かのコップに注がれた、
アルコール度の非常に高い、決して少なくはない無数の酒瓶。
鬣のような硬質な黄金も揺れてその度に鈍く光る。
酒に酔う事はなく、逆に酒を酔わせているのではないかと誰かにそう嫌味として咎められたが、
あながち間違いではなさそうだ。
アルコールが齎す浮遊感も甘さも、いつの頃からか薄れていった。
面白みが半減したと知っていても呷り続ける酒。
浴びるように飲む。
確かにその言葉通り、服のあちらこちらに点々と酒の水滴がばら撒かれている。
双子の弟のような米国紳士的に上品に飲むと言う事はない。
途中からコップは意味をなくし瓶を片手に直接口を付け喉に流し込んだ。
とっくに酔ってしまってもおかしくはない―――それ程豪快に肝臓へとドロドロと流し込んでも酔い込めない。
今日はまだ大喰らいの彼は夕食を口にしていないのだ。
空っぽのお腹に酒を入れると酔いが回るのが早くなると言われているけれど。
それは全くに訪れず。
また乱暴な手つきで注がれる酒。
硝子の中、小さくなった氷が狭い空間の中でかちりと音を立てて離れる。
そしてまたどちらからと言う事もなく引き寄せあい、懲りずにカランとぶつかる。
豪酒な彼。
しかしこれでもまだ酔えぬ原因は
「アイツの所為で何時まで経っても酔えやしねえ」
子どもみたいな八つ当たり。
想いの複雑さは世間を知る大人のものなのに。
領域は森羅万象形見えるものも違えるものとて無限ではない。
例えるなら視界に捕らえる事は叶わぬ不明確な一つの箱舟。
ある一定量を受け付けたならそれは容易く崩れ落ち、泡粒に姿を変え深海へと消える。
「とっくに限界を超えてやがるだろう。テメエは」
紡がれた言葉は驚くほど弱い。
それに反応を示したかのように、またカランと鳴り揺れた氷。
小さく、なのにとても空間全体に響く音を打ち消すように呷る。
想いの全てを流すかのように。
グラスに残った僅かな残り酒と氷に映った顔は、
波紋でよくは見えなかったが不快だけで形成された面だろう事は知れた。
快を促す酒。
不快のみ感じる男。
原因はきっとあの影がある京人。
今頃、現総帥と言う肩書きを持つ甥の元へ何かと理由を付て傍に自分の居場所を作ろうとする、
部下の弟子が甥っ子の傍に居るのだろう小さな推理は全くの感ではない。
甥との日常茶飯事ともなっている討論後。
自室に戻る際、近くに感じた彼の気配。
気は複雑に乱れ、会いに行く男とのこれからをあれやこれやと頭に描き、
期待と落胆を繰り返しているのだろう事を予測するのは常日頃の―――係わり合いが乏しい為、
その間の微かな記憶の彼と甥の関係考察と、
師匠である部下から極たまに耳にする彼の小話からの僅かな情報からだけだが―――彼から簡単に知れる。
三十にも満たない生で、両腕から溢れ出してしまう程の親愛も無責任な期待も、
殺意を含む憎しみさえも受け止め続けた甥。
彼に近付くモノ。
その大半が甥の心を気にもせず入り込んだ先には未成熟な領域(テリトリー)。
入り込んだと言うより無理やりな形の侵略だろう。
あの男なら大丈夫なのだとの無意識下での勝手な押し付けられた信頼。
受け止め、同時に失った幾つもの愛おしい存在。
もうこれ以上何かを失う事が酷く怖いのだと深い心が悲鳴を上げても、誰も気付かない。
気付こうともしない。
例え察しても黙殺し、不安定要素で構築された窮屈な領域に土足で進入する。
あの京人もまた同じなのだとハーレムは結論付けた。
けれど。
どこかでリンリンと鳴る否定の鈴音。
ちらりと視界に過る片方だけのしかし両眼に炎を宿す瞳は―――。
「シンタローに呷られたのかよ?」
アイツも。
己も。
媚びるでもなく、劣等感も優越感さえ他の者ならいざ知らないが、
甥の前には現さない抱く筈はなかった不純な想い。
意外とも思える二人の共通点はシンタロー。
それでいて、違いを生み出す原因もまた彼。
一歩後ろ又は隣で、彼を見守り支えになりたいと願うアラシヤマとは違い、
ハーレムは甥の数十歩先を歩む優越感は持とうとする。
彼のように前に進むでもなく後ろに控えるでもなく、共に並ぶ事すら望む事はない。
甥はもう子どもではないのだし自分はそこまで甘くはない。
ただ特別意識させる事なく、察する事もさせずに道を作りたかった。
例えば生い茂る道なき広大な草原を無造作に進む。
新しく出来た道を甥が進むのだ。
常に彼の前を歩き、
その先に待つ、ハーレムとシンタローの互いの位置関係は今と比べ、どう変化するのだろうか。
「一時の愚問で終わるがな」
思考はそこで途切れる。
気付かせない素振りで彼の中へ潜り込みたかった。
けれど。
シンタローの箱舟はもうぎゅうぎゅう詰めで。
それ以上は定員オーバー。
それでも、あの器用でしかし妙なところで不器用なお人好しは、自分を必要とする者を、
結局は本気では邪険に出来ず、手を差し伸べるのだ。
心が悲鳴を上げていようとも。
それに気付かぬ愚者達の為に。
それが我慢ならないというのは傲慢なのだろう。
いや。ただの我侭だろう。
シンプルに。
自分は気が短い。
十分に自覚している。事について否定する気はない。
博愛の衣で、偽り姿で、狭く広い舞台で演じ続ける甥に現実を叩きつける。
瞳を逸らすなとそれこそ容赦なく。
好印象を持たれはしないだろう。
けれど憎悪の感情は強ければ強い程、質によっては彼の心を捉える事が可能となる。
それは“自分だから”だと自負してもいる。
彼の作った固い殻もこじ開け、捉える。
シンタローの箱舟から温まっている輩を全員蹴倒してしまえば、舟内は当然がら空き。
留まるのは自分だけでいい。
他の奴らには渡したくない居場所(ソンザイ)。
歪んだ愛情だ独占欲の黒い愛と人は呼ぶのだろうか。
「まァ誰が何を言おうが勝手に思おうが、俺には関係ねぇがな」
甥は確実にこの傲慢な叔父に対し、憎悪の想いを持っている筈。
しかしそれもこの男のカリュキュレーションズアンサー。
いつかのどこかで聞いた言葉がリフレインする。
もう遠の昔に誰かの囁き。
「愛と憎しみは紙一重・・・ねぇ」
愛する事と憎しみは別モノの感情。
当時はなにを馬鹿な事だと片付け、
まるっきりに無関心だった彼が意味を理解出来ずにそのまま流してしまった、記憶に留めていない遥かな昔。
必須項目ではない蛇足。気になるもの。常に胸を占める強き想い。
それだけで手一杯なのだから。
互いに互い、思いが先走り過ぎて素直になれないままに。
あまりに強情な甥。
激しい嫌悪感と、否定し切れない、確かに抱く愛しく想う情。
気付いてしまったなら―――認めてしまったのなら、すべき事は自然と一つの道へと向かい進む。
「刻み込んでやるよ」
俺を。
癒えない傷をもっと深く与え続けてあげる。
無理矢理にでも、それでも欲しいのだから。
我慢は覚えない。欲しければ奪えば良い。
全て。
身体だけじゃ決して満足など出来ない。
もっと欲するのは。
「けっ、らしくもねぇ」
男からすればまだまだ青臭いいあんな子どもに、
こんなにも激しく執着する事し快と不快を簡単に揺さ振られるなんて。
今は忘れるようと、酒を体内に循環させる。
今、だけ。
彼を忘れる事は実際には出来やしないし、
「忘れてもやらねぇけどな」
波紋を作り続けるワインレッドの表面に自分と甥を映し、小さく笑った。
微かに覗く月は朧月。
部屋の主である男を見守るように、淡く光を降らせ続けた。
「シンタローはん」
「んだよ」
呼ばれてはじめて飽きずにアラシヤマの髪を撫でていた手動がとまる。
明らかに見せつけと分かる盛大な溜息の次には「テメエの所為で溜まってる仕事を中断させられるわ
ソレを今からヤル気は削がれちまったしで散々だぜ」と長々ぶつぶつ言ってくる。
やれやれ先程までの彼はどこへ行ってしまったのか。
そう思うのと同時にけれど虚ろ調子ではない、いつものシンタローに少なからずの安堵感。
文句を言われる謂れは
・・・・・・・・・やはりあるのだろう。
―――それに何ぞ言い返したとしてもメリットのある結果は得られへん事も先読みが出来るさかい、
素直に謝罪しておくのが何より得策でっしゃろ。
シンタローが“こういう場面”では“こうする”、
“ああいう場面”では“ああする”など舵の取り方が意識する事少なからず理解出来るようになってきている。
それだけ自分は彼を、彼だけをずっと見ているのだから。
気がつけば何時だって彼の事だけを追いかけていく自分。
今は安堵感を持たせる小言を淡い笑みを持って人差し指を彼の唇に当てて制した。
少なからず驚いたような彼は黒曜石の瞳を少し大きく開く。
「あんさんが誰を強く思うても構いまへん・・・と言うたら、まあ・・・嘘になりますけど」
言いながら触れる唇をゆっくりと優しくなぞりあげる。
アラシヤマにしては大胆過ぎる行為に対し、普段ならば十や二十、下手すれば眼魔砲を繰り出す癖に。
出来ない、しようとも思えないのは、彼の常には見られない温かさを纏った自愛な笑みについ、
毒気を抜かれたからか。
「いつかわてがトップになりますよって。期待しててくだはれv」
あの子どもよりも、最愛の弟よりも、彼の従兄弟からも他の仲間よりも、
・・・戦略的にシンタローに入り込む彼の叔父である、あの男をも越えて。
体も心も。
誰よりも自分が一番彼の傍にいたい。
「はァ?何の」
案の定。彼は気付かない。気付かれたらきっと、
「言うたらあんさん力いっぱい否定しますさかい。まだ言いまはんわ」
「んだよソレ。否定されるって分かってるんなら何のトップだか知らねーけどぜってぇーに無理だろ」
「酷いおますなぁ~。まだ何のか言うてまへんのにもう無理だ言いはるなんて」
「テメエの考える事は大概、俺にとってろくでもねえ事だし」
「ああっ!!相変わらずに殺生なお方やっ!」
冷たくさらっと言われてしまい、大袈裟によよよよ・・・と泣き真似を存分に披露する。
ただ少しからかってみただけなのに、相変わらずの彼が妙に可笑しくて、涙を瞳に溜めお腹を抱えて笑った。
彼が可笑しくて。
本当に、涙まで浮かんだのはそれだけが理由だったのだろうか。
それから少し続いた、いつも通りの二人の会話・対話とほぼ一方的ながらの言い合い。
いつも通り。
他の気心の知れた相手とならば誰とも大差な変わりのない態度。
平面だけの会話。
微量に受け取れる事の出来る想い。
それもそう遠くないうちに。
「変えてみせますよって」
「は?何を??」
誰も入り込めない、入り込ませない、二人だけの領域(テリトリー)。
END
☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:
PAPUWAキャラクター人気投票でシンちゃんが一位を獲得したと知った瞬間に、
「こりゃぁ祝うっきゃねえ!!」とばかりに書いた三位(ハーレム)vs二位(アラシヤマ)×一位(シンタロー)。
真っ黒クロスケ・・・と言う程ではありませんが、シリアスまっしぐらでした(´▽`;A゛
その口直し・・・になるのか分かりませぬが、ちょこっとおまけ↓はALLギャグ路線でGOo(≧▽≦)○☆★
★GOBLIN’SPARTY★・・・の没ネタ
★これまでのあらすじ★
ガンマ団に設置してある託児所の子ども達の為に、ハロウィンパーティを主催したシンタロー現総帥。
化け猫の仮装をして自らも積極参加。
無事に終わったハロウィンパーティだが、自室に吸血鬼の仮装をしたアラシヤマが訪れ、菓子を強請った。
邪険に対応するシンタローに、「仕方あらしまへんなぁ・・・・・・ほなら悪戯しますえv?」と襲い掛かるアラシヤマ!
どうなる!?シンタロー!!!
・
・
・
・
・
やばいヤバイや~~~べ~~~えええええよおおおぉおぉおぉおぉぉ~~~~~~~~!!!!!
脳みそをフル回転させて、この窮地を切り抜ける方法を考える。
何かある筈だろ!?どんな難解な状況でも打破する何かがッ!!思いつけ思いだせ思い・・・・・・・・・
―――あ。
あった・・・。アレがあったんだっけか!
グイッと相手の体を押し退けてベットから降りる。
「シンタローはん?」
展開に着いていけないと語るぼんやりとしたアラシヤマに背を向けてソファに向かう。
ソファの上にはさっきパーティで着用していた化け猫服(?)が無造作に投げ出してある。
少し時間が経った為か少々の皺が出来てしまっていたが、
どうせ明日にはガンマ団内に設置されているクリーニング部署に頼む予定だったから特に問題視はしていない。
しかし、クリーニングに出す前に≪コレ≫に気付けてよかったぜ。
そのまま出しちまってたらえらい事になっただろうな。
ポケットの中がべとべとしちまって。
俺が離れてしまっても、耳を塞ぐかその口を塞ぐかしたいアラシヤマお得意一人妄想語りが聞えてくる。
「何か探しものでっか?何もこないないざ本番な時にせんでもええんでっしゃろ。
それともよっぽど今すぐに必要なものですの?
ハッ・・!今入用なもの言わはったらやはりそういうもんですの!?
いややわぁ~vvシンタローはん、意外と大胆ですわぁv
そないなもんに頼らへんでもわてはちゃあぁ~んとあんさんを満足させる事出来ますよって要らへん思いますよ?
京人は手先器用が多いよってどすから。
まあ京人全員がそうとは言えまへんが、けどわては幼少期から何をやらせてもそつなくこなせましたし。
はっ!!そう言えばあんさんなしてそないな物を持っとりますの。
・・・まさか。
・・・・・・まさかとは思いますけどシンタローはん。
どこぞの誰かと使ったりしてまへんでっしゃろな!?
使う使わないは別としても、わて以外の男と―――――うわっ!!」
ぼすっ
「いい加減に黙れ」
≪コレ≫を服から取り出すただその動作時間だけで、
んなアホな想像妄想を限りなく続けられるアラシヤマの顔面めがけて化け猫服で思いっきり殴ってやった。
服はまあ、柔らかい素材で出来ているからそんなに痛くはなかっただろ。
勢いは全力でつけたから痛い“ようには”一瞬感じるかもしれねえケド。
「ほれっ」
「え?ぅわっととッッ!」
突然投げたソレを、慌ててアラシヤマが危なげな手つきでキャッチした。
手に平の中でソレが数回バウンドしている。
おいおい・・・。一回でキャッチしろよ、ガンマ団(自称)No.2の男。
ガッシリと両手に握り締めたソレをゆっくりと指を解いて凝視するこいつの顔に、
状況追跡困難色が目印のような判り易さで色濃く浮かんでいる。
俺の貞操危機(※まだあるのか信憑性はイマイチ)を救う小さなソレは。
「チロルチョコ・・・でっか?」
ハロウィンパーティで子ども達に配った菓子の中でやけに数の多かったチロルチョコ。
余った分は本部に戻すも良し、土産代わりに貰っても良しとなっている。
ハロウィンパーティー主催者は俺だが、菓子・場所手配諸々は親父の代からの総帥秘書、
名前だけは甘く仕事に関してはかなり厳しいコンビ・ティラミス&チョコレートロマンスに主な手配、運営を任せた。
菓子類は元々子供たちの為に用意したモンだし、俺は残らないように全部配ったんだが、
それでも中途半端に一つだけ余っちまったチロルを一応貰っておいた。
まさかこんなちっちゃなモンに救われるとは思わなかったぜ。
「そ。お前も知ってるだろ?チロルチョコ」
「そら、知ってはりますけど・・・はっ!?もしかしてシンタローはん・・・ッ」
「お前の予想、多分ビンゴな。どんなに小さくても菓子は菓子だろ」
「シ、シンタローはぁぁあん~~~」
あんまりに情けねえ声に、ちょっとだけ・・・本当に少しだけ意地悪だったかなと思うけど、
やっぱりそー簡単には俺の初物は渡してやんねーよ。
どうせ来るなら全てを賭ける覚悟を持って全力できな。
中途半端じゃ俺は捕まえられねえよ?
俺はお高いんだぜ?
知ってたか?
。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。。・
:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。・:*:☆・゜',。・:*:・゜'★。
本当はこっちが【★GOBLIN'S PARTY★】本編になる予定でしたが、
気が付いたらアラッシー甘やかしのHAPPYENDをUPしておりました。
おっかしいですね~(゚_゚?)何の為に『何故かチロルチョコの多い菓子の袋(勿論他の菓子もあるが)を
一つを渡し~』と菓子描写をしたのやら(;´▽`A``
俺様なシンちゃん書けて幸せ~vv主婦してるシンちゃんが一番好きなんですが、俺様受もいいよねッ☆ヾ(≧∇≦*)〃
俺様受シンちゃんシンちゃんはアラッシー相手じゃないとなかなか難しいですし。(キンちゃん・・・は対等ですし)
前編≪ ≫戻る
ポイント 愛知県 興信所 資格 確定申告
PR