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25










おやじが写真の整理をするっていうからついでに俺の恥ずかしい昔の写真とか消しちまおうと思って、
そんなつもりで手伝いをしてた。




「これはね、シンちゃんがはじめてプールにいったときの写真だよ。」

うわぁ。



俺ってばちっせえ。つか写してるところ明らかにおかしくないか?
ち…乳首とかひざとか違うだろ、顔をちゃんと写しやがれこの変態め。
とりあえず一発殴って変な写真は没収。

「ああっ。パパの大切な思い出がぁぁぁ」

「シンちゃんの鬼!悪魔!鬼畜!!ドえ…」

ガコッ



成長記録に望ましくない写真でいっぱいなアルバムの角で二発目をおみまいしてやった。



親父が気絶してるいまのうちに変な写真を処分してやるぜっっ
しかしまぁ小さい頃ってのはなんでもはじめてだったりするもんだからとにかく親はビデオとったり写真とったりするんだよナ。

俺だって俺だってコタローが生まれてからは死ぬほど写真とってやったし。


あんただっておぼえてるよな?


目の前の黄色いアルバム。油性のペンで「成長記録コタロー用」って書いてある。
あいつの字。

あまたらしい表紙をそっとめくった。

ああ
よかった。

ちゃんと写真があった。俺のに比べたら、そりゃあ少ないなんてもんじゃないく
らいの数だし、だいたいは俺が撮ったやつだけど。

でもあんた、ちゃんととっててくれたんだな。

親子三人で撮った写真、これ、俺も持ってるぜ。


なんだがホッとして嬉しくて、目がじんわりしてきた。
一番新しいページにはあの島から帰ってきて、みんなで撮った写真があった。
俺とコタローと親父とグンマとキンタローとサービスおじさんとハーレムで、コタローの部屋で撮ったヤツ。

「コタローが起きたら、このアルバムを写真でいっぱいにしなきゃね。」

いつの間にか親父が横からアルバムをのぞいてた。俺の顔は見えてないだろうけど、
目が赤くなってるのを見られるのは恥ずかしいからそのまま写真をみつづけた。



「このアルバムどころか、書斎の本棚いっぱいになるくらい撮ってやるよ。」

「うん、そうだね。」


俺はアルバムを閉じるといそいそと古いアルバムの山をかき分けた。

「ほら、さっさと片づけちまおうぜ。」



古い写真はこれ以上劣化しないようネガをデジタル処理するらしい。古いアルバムからネガを丁寧に取り出してゆく。

あれ?これってもしかして。



見つけたアルバムには「サービス17歳」とかいてある。
思わずガッツポーズ。
親父が自分の保存用に選んだ選りすぐりのサービスおじさんコレクション!!
そこには憧れのおじさんの青年時代の姿があった。
ああっ。やっぱり美しい。
あの親父もこうやって弟の成長を時折アルバムをみて確かめてたのかな。けっこうやるじゃん、アイツ。

ペラペラと一枚一枚目を皿のようにしてみる。たまに仲がよかった(らしい)若い高松とジャンがいる。

へぇ、あのドクターにもこんな時代があったんだな。ジャンの野郎は相変わらずへたれた顔してやがる。
おまえがジャマで麗しいおじさんの顔がみえないじゃないか。まったくもう。


次のページからなにも無い真っ白なページになった。これで終わりか。念のためもう一枚ページをめくった。













そこにあったのは


たくさんの写真。


でもさっきとはうって変わって、そこに写っているのはたったひとり。


たったひとり。


俺と同じ顔の男だけ。


カメラはそいつだけを追いかけるように写してる。

アルバムを持つ手が震えてきた。

体中の血がまたたくまに冷えきっていく。
この写真が誰のものかなんて考えたくなかった。



なんで。



なんで。



なんでだよ。




俺はアルバムを乱暴に閉じるとそのまま部屋をとび出した。


「シンタロー?!」


背後で自分を呼ぶ声に今はもう一秒だって耐えることはできなかった。










































































どこをどう走ったかわからない。
とにかく遠くへ。


誰もいないところに行きたかった。


気がつけば本邸とはかなりなはれた士官学校の中庭まできていた。

ようやく立ち止まると、近くにあった噴水の縁に腰掛ける。

ああ。

あんたがあのアルバムを開くとき眺めてたのはあの写真なんだな。

手に入らないあの男を、せめて写真だけでも写し取って自分のものにしたかったの?


ああもう。見なきゃよかった。

せっかく忘れかけてたのに。

もう思い出したくなかったのに!



あんたが本当にほしいのは俺じゃないなんて。


今更だと。シンタローは思った。









そんなことはあの島で知っていた。









シンタローは島から帰ってきて以来、夢を見ることがあった。

それは妙にリアルで、どこか懐かしい感じがした。

最初の夢はあの島のような、うっそうとしたジャングルだった。ぐるぐるとまわる視界。
そして最後にうつるのは赤い世界。

三度目に夢を見たときにようやくシンタローはそれが赤の番人であったあの男の記憶なのだとわかった。
夢の中の音声は、壊れたラジオのように時折聴こえては遠くか細くなり、聞き取れるコトバはすくなかったが、
夢の中の男は確かにジャンとよばれていたのだ。

おそらくあの島でジャンと融合しかけたときにジャンの記憶が一部紛れ込んだのだろう。
それが今になって、夢の中で再生されているのだ。



場面は夢を見るたびに時がバラバラで、一瞬で終わることもあれば数か月分を編集したようなものを見たこともあった。
そして、たびたび現れるサービスや高松に混じって、彼も時々現れたのだ。



その夢を見た時は、もはや笑うしかなかった。

どうして一族の証を持ってううまれてこなかった己にこんなにも執着するのか、その答えがやっとわかった。

滑稽で

惨めで

涙を流すことさえ出来なかった。


それでも生きていられたのはあの少年がいたから。果たさねばならない未来をあの少年に誓ったから。
少なくとも、幼い頃の自分への愛情は信じていた。それは父親としてのものであっただろうが、
唯一ジャンにはないものが、自分には親子としての絆があった。


でも、それ以上はきっと全てがジャンに対するものだったのだ。


自分の肩を抱き寄せて、体を小さく丸めた。こうしていないと、壊れてしまいそうだった。
ああやって目の当たりにすると、このままこの世界から消えてしまいたくなる。



さむくてさむくて しんでしまいそうだよ












どれくらいたっただろうか。気づくとあたりは日が落ちかけて、夜の帳がおりるところだった。
突然その場の空気がかわったのがわかった。
周りにあるもの全てが、徐々に近づいて来る存在に支配されていくようだった。












「ずいぶん探したよ。」













「やっとみつけた、わたしのぼうや。」






体を丸めて俯いていたシンタローにも声と気配で目の前にいることがわかった。




「お前が何を思って部屋から出て行ったのかわかっているつもりだよ。」

「きっとお前は私が何を言っても信じてはくれないだろうね。でも言うよ。それでもお前が好きだといいつづけるよ。」

いつもよりもマジックの声は幾分低かった、震えているような気さえした。
まるでとびきりの宝物をだいじにだいじに運び出すように、マジックの口から紡がれた言葉が俺の耳に吸い込まれていく。


「過去を変えることはできないけれど、それでも今この瞬間は、お前を愛してるんだ。」



「いまなら分かるよ。私はずっとお前を探していたんだ。ずっとずっと永い間、お前を、シンタローを探していたんだよ。」


膝をついて、俺の目の前にかがんだマジックが俺を見つめているのを感じた。
俯いているのにマジックの視線が俺の心臓に刺さっているみたいだ。
そして焦がれるようにゆっくりと囁いた。







「ずっと『シンタロー』に遭いたかった。」






そっと、羽毛がすべるようにマジックの指が真っ黒な髪を梳いてゆく。
俺はただその感触が泣きそうな位に心地よくて、今まで必死に抑えていたもののたがが外れてしまって
とうとう泣き出してしまった。
「っく、うっうう。うっく、ひっく、ちくしょ・・・っ」

「うん。」
「ううっ、ば、ば、ばかやっ、ううぅ」
「うん。」


「うっ、うあぁぁぁぁぁぁ・・・・・」

涙はいっこうにとまらなかった。
そのうち頭が痛くなってきて、泣きつかれてきて、しゃくりあげるのがやっとになって、
ようやく静かになった頃には空は闇に包まれていた。



俺の肩に顔をうずめて、いつのまにか俺はマジックに抱きしめられていた。






「シンちゃん・・・・どうしてもっと早く私の前に現れてくれなかったのさ。
そうしたら私はお前を、一番最初に愛する事が出来たのに。」

「今この瞬間最も愛しているのは『シンタロー』なんだって信じてもらえたのに。」




「ひどいなぁ、シンちゃんは。」






「・・・・・ホント、ひどいよ。」








「ねぇシンちゃん。知ってた?もう十二時を過ぎちゃった。パパ、これで正真正銘50歳だよ。
これ、どういう意味かわかる?」


俺はもう泣きつかれてマジックの話を聞くのがやっとで、考える余裕なんて全然なかった。






「やっと、やっとお前と出逢ってからの人生のほうが長くなったんだよ。」


「これからは歳を重ねるたびにお前と過ごした時間が私の人生の中を占めていくんだ。」







「私から離れないで。どんどん私をシンタローで埋め尽くしてよ。」




「ずっと一緒にいてよ、シンタロー。」








俺は声を出す気力さえ失っていて、
なんとか返事の代わりにマジックの肩に顔を埋めることができた。
涙と鼻水まみれだ、ばかやろう、ざまぁみろ。
やっぱりこいつの全部を信じたわけじゃないし、あんな写真をいまだにとってあるってだけで
全然俺の気持ちなんて分かっちゃいないんだろうけど


それでも



もうあの赤い夢は見ることはないだろうと思ったんだ。







2005/12/12



シンタロー25歳、マジック50歳の冬。
25年というのはマジックがシンタローと出逢うまでの年月であり、この時点でのシンタローの年齢という話。




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