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 今年最後という日、そしてこの時間帯にはたぶん人などいないだろうと思って、書類を持ったまま向かった団内の喫茶室で、思いもかけない背中を見つけた。
 比較的広々とした空間に、ぽつんと独りで。部屋の最奥、窓際の椅子ではなく机に直接腰をかけて、紅い背中は横柄に足を組みながらぼんやりと窓の外を眺めている。















『 祈 』















 軽い気分転換にと思っていたのに降ってわいた僥倖。それはともかく、何故この団の長たる男がこんな時間にこんなところにいるのかと、不思議に思いながらアラシヤマはその背に近づき、声をかける。

「何してはりますのん、こないなとこで」
「―――んだよ。よりにもよって、アラシヤマか」

 シンタローはあからさまに嫌そうな顔をしながら、向かいの椅子に腰をかけた制服姿の男に目を流す。そしてひとすじ、煙を吐き出しながら、休憩だきゅーけー、と言った。

「総帥室以外で、割と広くてタバコ喫えるとこ、ここくらいしかねーし」
 
 確かに、最近の大手企業などに倣い、「原則的に」団内の仕事場や廊下などは禁煙となっている。小さな喫煙スペースは各所に設けられているものの、そういったものはシンタローの好みにはそぐわないらしい。時折屋上などで喫っているのは知っていたが、さすがにこの寒さでは屋外に出る気にはならなかったようだ。
 机の上で足を組み後ろ手をつくような姿勢で、シンタローはアラシヤマに向かって不満そうな声で言う。

「テメエこそ、なんでいんだよ。ミヤギとコージは、この前顔合わせたとき正月は実家帰るっつってたぞ」
「わても、仕事中の気分転換どすわ。あんさんが、家族のおるもんは年末年始優先的に休暇出す言いはったから、その尻拭いでわてみたいな独りもんは休む暇もあらへんのどす」

 言いながら、アラシヤマは持っていた書類をばさりと机の上に広げる。そして胸元からボールペンを取り出して、なにやら作業の続きを始めた。
 ほんの少しだけ居心地が悪そうに、シンタローは口を堅く引き結んで、また窓の外に視線を向ける。そんな様子がおかしくて、アラシヤマは書類に向かったまま薄く笑いながら言った。

「冗談どす。心配せんでも、一月の終わりに三連休申請しとります。そんくらいのほうが静かで、わてにはええ……」
 
 かりかりと、アラシヤマが走らせるペンの音だけが、二人だけの空間にやけに大きく響く。
 ゆっくりと発されるその声は、あながちその場凌ぎの嘘というわけでもなさそうだった。確かに正月の京都といえば、なんとなく色々と行事などがあってせわしそうではある。印象の問題かもしれないが、そうした晴れやかな場よりはやや静かになった古都のほうがこの根暗男には似合いなのだろう、とも思った。

「シンタローはんこそ、家戻らんと、マジック様やらグンマはんやら淋しがっとんちゃいますか」

 アラシヤマのその問いに、あー、まあなぁと言いながら、ややバツの悪そうな顔でシンタローは視線を斜め上に向け、人差し指で頬を掻く。その様子を見れば、どうやらアラシヤマの言うとおり家族の面々からは相当なクレームを受けていたらしい。 

「ただ、年末年始ったって前線行ってるヤツらもいるしナ。クリスマスはコタローのこともあって休みもらったから、こっちくらいはいなきゃマズイだろ」
「へぇ、そら立派な心がけで」
「んだよ。嫌味な言い方しやがって」
「いや……」

 言いかけて、そのままアラシヤマは書き物をしていた書面から顔を上げた。
 そして、シンタローの顔をじっと見て、静かに微笑う。

「嬉しゅおす。こないな日に、シンタローはんの顔が見れて」
「……」

 あまりに真正面からそう言われたので、キモイと一笑に付すわけにもいかず。なんともいえない気まずさを感じて、シンタローはわざと視線をそらした。

「……オマエって、なんつーか、基本的に根性捻じ曲がってるくせに、時々直球だよな」
「返事に困る言われようどすな」
「ヤな投手だっつってんだよ」
 
 口の端に煙草を咥えたまま、苦虫を噛み潰したようにそう言うシンタローに、アラシヤマはふ、と笑って、

「捻じ曲がっとるついでに、もう一つ教えたげまひょ」

 シンタローの横顔を眺めながら机の上に肘を立て、組んだ両手の上に顎を乗せた。

「仕事たまっとるゆうのはホンマどすけどな。今日この時間まで残っとったんは、あんさんが残るて秘書はんから聞いたからどすわ」

 シンタローがほんの僅かだけ目を丸くして、アラシヤマを見る。

「年明けまでの仕事もまだ終わりきっとらんて聞いとりましたから、会えるかどうかもわかりまへんどしたけど。同じトコで年が越せるんなら、それでええかな、思うて」
「……」

 淡々と紡がれるその台詞に、シンタローは呆けたような表情をした。咥えた煙草の先から、ぽろりと一摘みの灰が落ちる。
 室内にあるのは、完全な静寂だ。その灰が地面に落ちて、散った音まで聞こえたかと錯覚するほどに。
 
「……オマエって、ホント……」

 呆けた表情のまま、シンタローは何かを言おうとし。そして軽く首を振って、眉根を寄せたいつもの顔に戻ると、それをやめた。

「いや、やっぱいーや。なんにせよアホでキモいのには変わんねぇ」

 そしてがしがしと、何かを追い払うように長い黒髪を掻く。



 そのとき、近くの壁に設置された時計が、微かに、だが確かにカチリと鳴った。
 長針と短針が、重なったのだ。

「ああ、日が変わりましたな」

 時計の方に目をやりながら、アラシヤマは言う。

「ほな、明けましておめでとさん。今年もよろしゅう」

 座ったまま律儀にぺこりと頭を下げるアラシヤマに、すでにいつもの調子を取り戻したシンタローは不敵に笑って、言葉を返す。

「ああ。去年以上にこき使ってやっから、覚悟しろヨ」

 それがこないな時間にも仕事してる人間に言う台詞どすか、と眉尻を下げながら言えば、ばーか、俺も同じだろうが、と悪戯っぽい笑顔で返された。 
 窓の外に広がるのは濃藍色の闇。遥か遠くに見える街の明りと時折走る団のサーチライトだけが、闇を不完全なものにし、生き物の存在をそこに感じさせる。
 シンタローの笑顔にアラシヤマも苦笑して、椅子から腰を上げた。そして机に直接腰掛けているシンタローの頬に手を当て、

「あんさんについてく、決めたんはわてどすから。―――仕方のうおすな」

 言いながら、ゆっくりとその顔を引き寄せる。
 シンタローも今日ばかりは特別と思ったのか、抵抗せずに目を閉じて、それを受けた。
 
 

 軽く舌を絡ませ、啄むようなキスをしながら、アラシヤマはその温度と感触を、ただ暖かい、と思う。そう、どれほどこの手を汚し、ごく稀に果てのない極寒の雪原にも似た孤独の影が心に射し込むことがあっても、シンタローのそばだけは、いつも驚くほど暖かいのだ。


 手のひらと唇に感じる確かな温度を愛おしみながら、今年もまた、どういった形であれこの人の傍らにいられますように、と、アラシヤマは祈るように願った。


































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こ、今年最後の更新は意地でアラシンで締めましたでも半分寝惚けながら書いたので意味不明な部分とかこんなんありえねえ!とかゆう部分とかだらけだったらゴメンナサイ(いつものことですが)あと色々(胡散)クサくてすみません。
管理人は届きそうで届かないアラシンも片思いのアラシンも好きですがやはりラブラブなアラシンも大好物のようです。







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