シンタローが新総帥になる少し前の話である。
ある日の昼下がり、廊下を高松とグンマが歩きながら会話をしていた。
「どうしよう~!高松―ぅ?僕達、明後日から世界ロボット学会で共同研究発表だよ?キンちゃんは、ロボットにはあまり興味が無いみたいだし、まだあまり大勢の人がいるところに行かないほうがいいと思うけど。だからといって2日間キンちゃんを1人にするのは不安だし・・・。」
眉間に皺をよせて考え込むグンマに対し、高松は、
「そうですねぇ。今回は共同発表ですので、私たちのうちどちらかがガンマ団に残るという訳にはいきませんね。キンタロー様を学会に一緒に連れて行っても、私たちが始終ついているというわけにもいきませんし・・・。うーん、ガンマ団の誰かにキンタロー様の事を頼んでいくしかないでしょうか。もちろん、キンタロー様を利用しようとする輩にはお任せできませんし、そうなると人選が難しいですねぇ・・・」
と、これまた高松が眉間に皺を寄せて考え込み、しばらく2人は無言で歩いていた。
突然、グンマが、
「うーんとォ、じゃァ、秘書はッツ?ティラミスとかチョコレートロマンスだと、おとーさまのお世話に慣れているし♪眼魔砲を受けても大丈夫でしょ?」
と叫ぶと、高松がそれに異議を唱えた。
「グンマ様。多忙な彼らにこれ以上仕事を増やすのも気の毒な気がしますが・・・」
「そっかー。お父様は・・・、シンちゃん以外の面倒を見たがるとは思えないよね。伊達衆は料理とかできなさそうだし、サービス叔父様も特選部隊も今はいないし・・・」
いくつか可能性を上げ、それらもことごとく自分自身で却下してしまったグンマはさらに腕を組んで悩んでいたが、急に何か閃いたようであった。
「あッツ!いいこと思いついちゃった!!シンちゃんはどう?シンちゃんなら信用できるし、料理もうまいし、子どもの世話に慣れてるし!それに、しばらく暇みたいだよ?」
そう、グンマが言うと、高松はまだ表情を曇らせていた。
「――――シンタロー様ですか?でも、キンタロー様は、新総帥のことを苦手というか、少々コンプレックスを感じておられるみたいですよ?あまり、上策とはいえないのでは・・・」
「大丈夫だよ~!もう、高松は心配性だなァ!ホラ、パプワ島で、僕が最初キンちゃんと仲良くしたくないって言った時、シンちゃんが仲裁してくれたデショ?だから、絶対大丈夫だよっ!シンちゃんは、過去のことをあまり根に持つタイプじゃないしサ。キンちゃんも、そろそろ僕たち以外との関わりが必要だよ」
「グンマ様がそこまで仰られるのでしたら、思い切って彼にキンタロー様のことを頼んでみますか!後は、キンタロー様をどう説得するかですね」
「大丈夫だよー。キンちゃんは、絶対シンちゃんのことを気にかけてるから、うまくいくヨ~」
「そうですね。それでは、グンマ様は、シンタローの説得の方をよろしくお願いします」
「うん。じゃぁ、また後でね♪」
そう言うと、2人は別々の方向に向かった。
キンタローは、廊下に立って、目の前のドアを開けるか開けまいかで悩んでいた。
(俺は来たくなかったんだが、結局高松に押し切られて来てしまった・・・。料理はできないが自分のことぐらい自分でできるし、帰った方がよくないだろうか?)
そう思っていると、後ろにいた高松がドアをノックし、ドアを勝手に開けた。
「新総帥。お邪魔しますよー」
「おう。入れヨ。って、もう入ってんじゃねェか。それに俺はまだ、総帥じゃねぇヨ」
部屋の中に居たシンタローが立ち上がって入り口の方に歩いてきた。
高松は、
「今日から2日間程留守にしますので、キンタロー様の事をくれぐれもよろしくお願いしますね」
と、シンタローに頼んだ。キンタローは、
「高松、俺は子どもじゃないんだし、何回も言ったように自分の事ぐらい1人でできるが・・・」
そう言ったが、高松はキンタローの傍に行き、小声で、
「キンタロー様、もう決まったことですので。それに、彼は料理上手ですよ?キンタロー様が好きなプリンも作ってもらうよう頼んでおきましたからね」
「プリンか・・・」
キンタローが何か考え込んでいる間に、高松はシンタローの方に向き直り、
「まっ、とにかく、2日間よろしくお願いしますね。それでは、今から学会に行ってきますので。キンタロー様、お土産買ってきますので、シンタロー様と仲良くお過しくださいね!!」
そう言うと、高松は部屋から出て行った。
残されたキンタローは、どうしていいか分からずに入り口付近に立っていたので、焦れたシンタローはキンタローの腕を掴んで部屋の中程まで引っ張っていき、
「とりあえず、この部屋の中の物は好きに使って良いゼ。あと、2日間の行動も俺と一緒でも別行動でもどっちでも。じゃあ、俺は今からやることがあるから」
そう言って、机の方に向かい、山のように積まれた書類を読み始めた。
キンタローは、どうしても聞きたかったことがあったので、シンタローに声を掛けた。
「シンタロー、お前は、俺を憎んではいないのか?」
それを聞いたシンタローは驚いたようで、目を丸くした。
「何?オマエ、もしかしてそんなことを悩んでずっと姿を見せなかったのか?別に、オマエのことを嫌いじゃねーヨ。そりゃ、俺だってちょっとは悩んだ時もあったけど、ずっと考えてても仕方がねぇしナ。それに、もともと同じ身体に居たっつーんなら、マァ、兄弟みたいなもんだろ?そもそも、オマエの方こそ、俺を憎んでいるんじゃなかったのかヨ?」
そう言って、シンタローは再び書類を読み始めた。
「いや、今は違う」
キンタローは、やっとのことでそう言うと、しばらく呆然とソファに座っていた。
夕方近くになると、シンタローは立ち上がって伸びをし、
「飯でも作るか」と言い、キッチンに向かった。
キンタローも、その後をついて行った。
キンタローは、シンタローが手際よく調理をしている傍らで自分だけ何もしないのは気が引けたので、
「シンタロー、俺も何か手伝う」
と言った。
「あぁ、そんじゃ、ジャガイモの皮を剥いてくんねぇ?そこに包丁あるから」
そう言われたので、キンタローは、包丁を手に取りジャガイモの皮を剥こうとしたが、
「シンタロー」
「あ゛ぁ?何だヨ!?」
忙しい中、声を掛けられたシンタローが、少々キレ気味にキンタローの方を振り向くと、そこには、無表情なまま指からダラダラと血を流しているキンタローがいた。
「血が出てきたのだが・・・」
「――――お前、料理したことがあるのか?(っていうか、それ以前に不器用なような・・・)」
「いや、料理は1回しようとしたのだが、失敗した。大抵のことは、一回やればできるのだが、料理はあまり好きではないので、それ以来料理はしていない」
そう、堂々というキンタローに、
「ハァ、さいですか。って、血――!!うわっ、かなり深くねぇか?カットバンで大丈夫かな??包帯の方がいいんじゃ・・・」
そう言って、キンタローの手をとって傷の具合を見ていたシンタローであったが、急にキンタローの指をとり、口にくわえた。
「な、なっ、何だ!?」
キンタローは、非常に狼狽した。
そんなキンタローの様子を、少しキョトンと見ていたシンタローであったが、
「何って、消毒。手近に救急箱が無かったからナ。昔、母さんに料理を習っていた時、手を切ったらこうしてくれてた癖がつい出ちまって悪ィ。よく考えたら、普通、男にこんなことされても気持ち悪いよナ!」
ガッハッハッと、豪快に笑うシンタローに、
(イヤ、全然気持ち悪くなかったのだが・・・)
とキンタローは、思ったが口には出さなかった。
結局、隣の部屋に行き、キンタローはシンタローに包帯を巻いてもらった。
「もう、何も手伝わなくていいから、そっちで待ってろ!」
(ったく、どうして俺の周りにはこう料理のできねェ奴等ばかりなんだ?一応、料理が出来るヤツでもえらい不味かったし。・・・アレは料理じゃねぇナ。母さんが、“これからの時代は男も料理ができないと駄目だ”って言って俺に料理を教えてくれたときは面倒だったけど習っといて良かった・・・。危うく自立できないダメ大人になるところだったゼ)
と、シンタローはブツブツ言っていたが、キンタローには聞こえなかったようである。
キンタローはしばらく隣の部屋に居たが、どうにも手持ち無沙汰になり、キッチンの方に戻ってきた。
「シンタロー、皿ぐらい並べるぞ」
(うーん。まァ、それぐらいだったら危険はねェだろ)
「あぁ、んじゃ頼むわ」
そう言われたキンタローは、食器を並べ終わると、椅子に座ってシンタローが料理をする姿を見ていた。
(よく分からないが、TVでみた母親というのはこんな感じだっただろうか・・・。でも、俺には母親のことが分からないから、後でシンタローに聞いてみよう)
結局、シンタローが1人で作った料理を、2人はテーブルを挟んで向かい合って食べた。
「シンタロー、これは何だ?初めて食べるぞ」
「あぁ、それは肉ジャガだ。気に入ったのか?」
「ああ。美味い。グンマや高松も料理を作ってくれたが、シンタローの方が料理が複雑だな」
「エッツ?アイツ等って料理するの?何か、とんでもないものが入ってそうでコワイな・・・。お前、よく平気で食べれるな?尊敬するゼ(それにしても、“複雑”って、誉め言葉なのか?)」
「尊敬と言われても困るのだが・・・。確かにあまり美味しくないが、ただ、一生懸命作ってくれたのが分かるから食べている」
「・・・そうか。マァ、ここにあるのも食っとけ。残したら許さねぇゾ!」
そう言って、2人はしばらく黙々と料理を食べていた。すると、再びキンタローが、
「シンタロー、母親ってどんなものだ?俺にはさっぱり分からんが、さっきシンタローが料理する姿を見ていてなんとなく、そういうものかと思ったが」
シンタローは、箸を止め、
「うーん。俺は男だから母親というのとは違うと思うけど、母さんはよく台所にいたな。まぁ、世の中の母親が全部料理をするかというとそうでもないみたいだけどナ」
と答えると、しばらく何かを考え、キンタローに、
「そういえば、オマエ、俺と同じ身体に居たんだろ?母さんの記憶とか無いのかヨ?」
そう、不思議そうに聞いた。
「いや、俺は、お前と同じ身体に居たと言っても、暗い箱の中に閉じ込められていたようなもので、お前が感じている感情や日常生活の記憶は全く入ってこなかった。それに、お前がこの身体から出て行ったとき、脳を含め身体の細胞なども全て新しく組替えられたみたいだと高松が言っていた。お前が今まで習得した知識や事実は情報として残っているが、感情などの記憶は一切残っていない。それは、お前が全て持っているので、だから俺とお前は別の人間だと思う」
そうキンタローが言うと、シンタローは少し痛そうな顔をした。シンタローは、キンタローの顔をしばらくじっと見ると、
「そういや、お前は親父やお前の父親にソックリだよナ。俺とは全然似てねぇから、やっぱ、別の人間なんだろうな」
キンタローは、シンタローと別の人間であることが少し残念な気がしたが、一方で良かったとも思った。じっと、見つめるシンタローの灰色がかった黒い目はとても綺麗なものに思えた。
「シンタロー、俺は、シンタローが自分と似ていない所があってよかったと思うぞ。自分と全く一緒の存在がいたら、俺はたぶん好きになれないと思う。シンタローはこの世で1人で、俺もこの世で1人だ。高松がキンタローという名前をつけてくれたから、俺はキンタローだ」
キンタローが静かにそう言うと、シンタローは
「そうか」
と、一言そう言った。
次の日、キンタローが、書類をシンタローの机のすぐ傍でシンタローから借りた本を読んでいると、突然、ドンドンとドアを叩く音がし、
「シンタローはーんッツ!!お待ちかねの、あんさんのアラシヤマが帰ってきましたえ~vvvもう、今回の任務はえろう面倒でおましたが、シンタローはんに会いとうて即行で片付けてきましたさかいに!」
そう言って、シンタローが返事をする前にドアを開けて部屋に入ってきた。
そして、シンタローの傍にいるキンタローを見るなり、
「シ、シンタローはん!非道うおす!!わてがおらん間に間男をー!!」
と、叫んだが、
「眼魔砲」
アラシヤマはシンタローの眼魔砲を受け、床に倒れた。
「・・・シンタロー、何で急に眼魔砲を撃ったんだ?こいつがシンタローのものってどういうことだ?人間が人間を所有することはできないはずだ。そして、間男って何だ?」
そうキンタローが聞くと、うっと言葉に詰まったシンタローはしばし目を白黒させた後、結構な迫力で、
「いいから、気にすんな」
と、一言言った。その迫力に押され、キンタローはそれ以上質問するのを止めた。
「シンタローはーん・・・、久々に会った恋人にいきなり眼魔砲はキツイどす。もっと、こう、笑顔で迎えてくれはってもええですやろ!?」
「うるせェッツ!オマエが、教育上不適切なことを口走るからだろーが!!」
「シンタロー、お前はこいつと恋人同士なのか?それに、なんとなく俺が子ども扱いされているようだが、俺は子どもではないぞ」
「そうどすえ?だいたい、わてという恋人がありながら、あんさんは他の男に対してガードが甘いんどす!もう、いらん虫を退治するのにわてがどれほど苦労していることか・・・」
「シンタローは大人気なんだな。ところで、男同士でも恋人になれるのか?」
「あんさん、そんなことも知りまへんの?そりゃもう、あの時のシンタローはんは可愛ゆうてたまりまへんえ?」
キンタローは、ニヤニヤ笑うアラシヤマを少々不気味に思いつつも、(よく分からないがそんなに可愛いシンタローなら、俺も見てみたい)と思ったが、口には出さなかった。何故なら、隣のシンタローの様子がおかしかったからであり、なんとなく黙って壁際に避難した方がいい気がしたからである。
「――――眼魔砲ッツ!!」
さっきよりも、威力の増した眼魔砲がアラシヤマに向けられ、部屋はほぼ半壊状態となった。
「シンタロー、恋人でもそうでなくても同じガンマ団員を攻撃するのはどうかと思うが・・・」
と、キンタローが言うと、
「えっ?キンタロー、今何か言ったか?」
と、笑顔で何事もなかったかのようにシンタローは答えた。それは、さっきのドスのきいた脅しよりも数倍怖かったので、キンタローは、
「何でもない」
と応じた。
「ところで、こいつは何の用で来たんだ?」
と、キンタローがアラシヤマの方を指差すと、ものすごい回復力でどうやら立ち直ったらしいアラシヤマが、
「もちろん、シンタローはんに会いたかったからに決まってますわ。あっ、それと一応もうすぐ会議の時間やさかいに呼びにきたんどす」
と言うと、シンタローは、
「あっ、忘れてた!そういやジジィ連中から呼び出しをくらってたんだったゼ。会議が始まるまで、もうあと数分しかねぇじゃねェかヨ!?ホラ、アラシヤマ。いつまでも床に座ってないでとっとと行くゾ!あ、キンタロー、お前はどうする?一緒に来るか?会議なんて、絶対面白くねェけどヨ」
「会議というものを体験するのは初めてだ。一緒に行く」
「あまり、参考にならねぇと思うゾ?」
「シンタローはーん、どうもさっきから、わてよりも、そこのキンタローはんに優しくないどすかぁ?」
アラシヤマのその言葉はシンタローに無視され、3人は会議室に向かった。
会議の内容は、新生ガンマ団に関することであった。ガンマ団内には、暗殺集団であるガンマ団を解体することを頑なに拒む一派もいた。このような会議は、シンタローが総帥になることが決定し、新生ガンマ団の方向性を示してから、今までに何度も繰り返されていた。
3人が会議室のドアを開けて入ると、総帥席に座ったマジックや、ガンマ団の幹部である年配の将校達が座っていた。マジックは表情を変えなかったが、将校達はキンタローがシンタローと一緒にいるのを見て、皆一様にギョッとした表情であった。
その中の1人が立ち上がり、
「これはこれは、キンタローさまも御揃いで。確か、我々の前に姿をお見せになるのは初めてですな。何か、仰りたいことがおありで今日は来られたのですかな?」
と、少し揶揄するように言った。
「俺は、会議とはどのようなものかを見に来ただけだ。シンタローが示したガンマ団の方針に口出しするつもりはない」
キンタローが無表情にそう言うと、何かを期待していたような将校達は一気に鼻白んだような顔をした。
「それじゃ、始めようか」
マジックがそう声を掛け、会議は始まった。
新生ガンマ団反対派は、声高に暗殺集団であることの利点を主張し、シンタローの考え方が甘いということを非難したが、シンタローは黙ってそれを聞いていた。キンタローは、何故シンタローが黙ってきいているのかが分からず、非常に歯痒い思いをした。
そして、興奮した反対派から意見が出なくなり相手が落ち着いた所で、シンタローは自分の考え方をキッチリと述べ、時々アラシヤマが補足した。
マジックは、反対派にもシンタローにもどちらにも荷担せず、黙って成り行きを見守っていた。
反対派の大部分が、シンタローの堂々とした冷静な態度に感服し、新生ガンマ団の方針を受け入れようと心を動かしつつあるような雰囲気の中、最初にキンタローに声を掛けた中年の将校だけが、悔しそうにシンタローとアラシヤマを睨みつけながら最後まで反対意見を唱えて譲らなかった。膠着状態が続く中で、マジックが会議の終わりを告げた。
キンタローは、見ていて非常に疲れる思いがしたので、会議が終わって外に出るとホッとした。
3人が廊下に出ると、反対派の中年の将校が3人の傍まで歩いて来た。
「こんな茶番劇、何度続けても無駄ですな。他の仲間がどうであれ、私は意見を変えませんよ。実戦を何度も経験してきた立場から言わせてもらいますと、貴方の考え方は甘いです。うまくいかない結果が目に見えていますね。そう遠くない将来、伝統あるガンマ団を潰すのは貴方でしょう。そもそも、黒目黒髪の貴方がガンマ団の総帥になること自体、おかしいと思いますし。全く、本当にマジック総帥の子どもかどうかも分からないのに現総帥は寛大なお方ですな」
そう、得意気に言い切ると、シンタローの方を見据えた。
シンタローは少し痛そうな顔をしたが、それは一瞬で、何も言わずに幹部の言葉を聞いていた。
キンタローはその様子を見ていて非常に腹が立ち、シンタローをかばいたく思ったが、あまりにも腹が立ったので言葉が見つからず、思わずその幹部に殴りかかろうとした。
それに気づいたアラシヤマが、キンタローの方を見て軽く制する仕草をして首を横に振り、口を開いた。
「あんさん、さっきから聞いてますと、新総帥に向かって言いたい放題どすな。あんさんの考え方がいくらわてらと違っても、それは、あんさん個人の考えやさかい非難はしまへんけど、新総帥の外見を侮辱することや、出自を邪推することは、全く的外れやおまへんか?そこまで必死やと、何か後ろ暗いことがあるんとちがうかと痛くもない腹を探られますえ?まぁ、痛い腹かもしれまへんけど。どうも、麻薬密輸組織と組んで裏でこっそりと甘い汁を吸うてはるお方が数名いはるようですしな」
そう言われた中年将校は、顔を真っ赤にし、
「ぶ、無礼な!私がそうだとでも言うのか!?一体どこにそんな証拠があるんだ?そもそも、お前は最近、次期総帥に取り入っているが、お前こそ根っからの人殺しだろう!?以前、戦場でお前が表情一つ変えずに敵を火で燃やし殺していたのを私は見たぞ!!そんな残酷な殺し方は普通の神経では出来ないはずだッツ!!人殺しのお前なんかが、絶対、甘っちょろい新生ガンマ団でうまくやっていけるはずがないッツ!」
アラシヤマの表情は静かであり、むしろ、シンタローの方が怒りを顕わにしていた。
「勝手に、他人の人生決めつけてんじゃねェよッツ!過去がどうであれ、今は違うんだから、それでいいじゃねーか!!お前にアラシヤマのことをツベコベ言う権利も筋合いも全くねぇ!!」
その勢いに、シンタローを侮っていた将校は呆然とし、怯んだ様子を見せた。
まだ続けて、何か言おうとするシンタローをアラシヤマは止めた。
「シンタローはん、もう充分どす。わてを庇うてくれてありがとうございます。でも、これ以上言いますと、今までのわてらの我慢が水の泡ですさかいな。まぁ、この人の言う事もわての事に関してはそれほど間違いというわけでもおまへんし、わてにとってはこのぐらいの嫌味たいしたことと違います。この将校さんも、心の中では少し言い過ぎてヤバイ思てはるといった具合ですやろ?ひとつ、ここらへんでお互いにひきまへんか?」
アラシヤマの言葉に将校は明らかにホッとした様子を見せ、それでも強がった様子でその場を退出した。
シンタローはまだ納得がいかない様子であり、怒っていたが、アラシヤマは、ヘラっと笑い、
「シンタローはーん。あまりいつまでも怒ってはると、貸しにしますえ?今ポイントが5つ貯まってますさかい、10個になったら何してもらいまひょか?あぁー。楽しみどす~」
と、冗談のように言った。
キンタローはシンタローがアラシヤマに対して怒るかと思ったが、予想に反してシンタローは下を向き、
「俺は、オマエが自分自身を悪く言われても、何もなかったように振舞う所が嫌いだ」
と、ポツリと言った。
それを聞いたアラシヤマは、困ったような嬉しいような表情で、
「わては、そう言ってくれはるシンタローはんがいるおかげで、どんなことにも耐えられるんどすえ?」
と言い、苦笑しながらまだ俯いて髪で表情が見えないシンタローを抱きしめ、背中をあやすように軽く叩いた。
キンタローは、場の雰囲気になんとなく居心地が悪くなり、
「じゃぁ、俺は、高松とグンマがもうすぐ帰ってくるから帰るぞ。世話になったな、シンタロー」
と言ってその場を後にした。
高松が学会発表を終え、グンマと共にガンマ団に帰ってくると、既にキンタローが研究室の中にいた。
「キンちゃーん!ただいま~~♪僕、キンちゃんへのお土産にロボットキーホルダーとロボットサブレ買ってきたよッツvvvこれって学会限定商品で、いつも売り切れちゃうんだけど美味しいんだ♪」
「キンタロー様~!ただいま帰りましたよー!!私からのお土産はカエル饅頭ですよvvv可愛いでしょ?って、アレ?今はまだ、新総帥のところにいるはずでは・・・?」
キンタローは、どうやら何か考え込んでいる様子で、2人の声に気づいた様子は無かった。
グンマがソファーに座っているキンタローの前に回りこんで、顔をのぞき込み、
「おーい、キンちゃーんッツ!!聞こえてますか~??」
と、キンタローの目の前で手をヒラヒラと振ると、キンタローはやっと気がついた様子であった。
「あぁ、2人ともお帰り。研究発表はうまくいったか?」
と聞いたが、どこか上の空であった。
グンマと高松は顔を見合わせ、首を傾げた。
「キンタロー様、どこか具合でも悪いんですか?もしや、新総帥にいじめられたとかッツ!?それなら今すぐ文句を言いに行かなくては!!」
「ちょっと待ってよ、高松ぅ。変だナァ・・・。シンちゃんがキンちゃんをいじめるはずは無いし・・・。あッツ、わかった!!この状態ってもしかして恋!?キンちゃんシンちゃんと外に行った時、可愛い女の子に出会ったんデショ?ガンマ団には、可愛い女の子はいなくてムサイ男か女の人がいてもおばちゃんばかりだしネ?」
「なんだ、そうだったんですか。思わず、早とちりしてしまいましたよ。いいですねぇ、青春ですねェ」
2人が勝手に盛り上がっている中、キンタローはあまり話を聞いておらず、ボーっとしていた。
「キンちゃーん!!どんな子か、話を聞かせて聞かせて~♪その子、可愛い子なんでしょ??」
「確かに可愛い。だが、すでに恋人がいる。ただ、俺にはまだ、これが好きという感情かどうかが良く分からないんだが・・・」
「それって、恋だって!!キンちゃんなら、絶対、その子の方も恋人よりも好きになってくれるヨ!!あっ、こういう場合どうしたらいいか、人生の先輩の高松に聞いてみようよ~??亀の甲より年の功って言うしネッ☆」
「(グンマ様・・・。それって、私が年寄りってことですか??)そ、そうですねぇ。私は三角関係とかドロドロしたのには関わりたくないタイプなので、あまり参考になるとは思いませんが。来るもの拒まず、去るもの追わずですし・・・。まぁ、一般的に言うとそういった場合は、まず、生物学的にはやっぱり相手の男よりもレベルが上で、心理学的にはより長い時間相手の傍にいることで気持ちもグラつくのではないでしょうか?ただし、後者は相手に嫌われていると逆効果ですが。とにかく、結論から言うと、包容力がある紳士的な男性を女性は好むものではないでしょうか?マジック総帥など、若いころは女性から大変モテていましたし」
「そうか・・・。包容力のある紳士的な男が好かれるのか。グンマ、高松、協力してくれ!」
「もちろんッツ!!キンちゃん、その勢いだよ~☆」
「キンタロー様にお頼みされるとは!不肖高松、精一杯ご協力しますので!!」
3人は、キンタローの恋愛話(略して“恋話(コイバナ)”)に、大層盛り上がった。
若者2人がコイバナで盛り上がっている中、それでも年長の高松は、
「あ、そうそう。新総帥にもお世話になったことだし、明日カエル饅頭をもってご挨拶にいかなくては・・・」
と、お土産を渡す算段をしていた。
高松もグンマも、キンタローの恋(?)のお相手が、そのお土産を渡す相手だということは、まだ、知らない。
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