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 「あの……」
 片目に前髪が鬱陶しくかぶさった男は、机の向こう側にいる相手におずおずと声をかけた。
 「何だ?ハッキリ言えよ。もし、ろくでもねー用件なら即眼魔砲な」
 彼より手渡された書類から目もあげずに、シンタローはそう返事をした。
 「シンタローはん、わて、ずっと思うてたんどすが……。わてのこと、『アラッシー』って呼んでくれはっても全然かまいまへんえ?心友どすさかい、遠慮はナシどす!」
 シンタローは片手で書類の上に置いていたペーパーウェイトをわしづかみ、思いっきりアラシヤマの方へと投げた。アラシヤマはどうにかそれをかわしたが、金属製のペーパーウェイトは防弾加工がほどこされているはずの壁に何故だかめり込んでいる。
 シンタローは、そちらを見もしなかった。その場にはただ、書類をめくる音だけがしていた。
 「し、シンタローはんッツ!今のは一体どういうことなんどすかー!?」
 「んー?テメーの話をよく聞いてなかったけど、遠慮はナシなんだろ?そこだけは聞き取れたぜ」
 「あと数センチ!今壁に突き刺さってる文鎮を数センチ横に避けられへんかったら、今頃わてはあの世行きの川を渡ってますえー!」
 「うるせぇ。用がすんだなら、出て」
 「――出て行きまへん」
 じっとりと、恨みがましく自分の方へと視線を送るアラシヤマに、シンタローは我慢できなくなったのか、
 「さっきから、なんなんだよ。オマエ!?」
 と、書類を机の上に投げ出し、すわったままアラシヤマを睨みあげた。
 「そう、それどすえー!その『オマエ』どす!」
 「はぁ?」
 「どすから、シンタローはん!わてら心友どすえ?せやけど、あんさんはオマエとかテメェとかわてのことめったに名前で呼びまへんやん!?心友どすのにさみしおす……!」
 「……テメーはただのストーカーだろ?」
 シンタローが呆れたようにそう言うと、
 「またまた、シンタローはんってば照れやさんどすなぁv名前で呼ぶのが照れくさいんやったら、呼びやすいニックネームはどうでっしゃろて思いましてvvv」
 小首をかしげ、笑顔のつもりらしい表情をアラシヤマは浮かべた。
 (あー……、すっげぇウゼェ。でも部屋を直したばかりだし、眼魔砲を撃ったらあいつ等からの苦情は確実だよナ……)
 渋い表情の秘書達の顔を脳裏に思い浮かべたシンタローは、机の上をざっとみやった。トットリから貰ったペーパーナイフがわりの苦無が目に付いたので手に取り、
 「えい」
 と、間髪をおかず投げつけたが、アラシヤマは再び避けたので苦無は壁に突き刺さった。
 「……なんで避けんだヨ。的になる気遣いぐれーできんだろ?マジムカツク」
 不機嫌な様子でシンタローがそう言うと
 「――それって、忍者はんからのプレゼントでっしゃろ?」
 アラシヤマも不機嫌そうである。
 「わてかて、暗殺用の小刀をたくさん持ってますえー!シンタローはんが言うてくれはったらなんぼでもあげましたのに!」
 どうやら、アラシヤマが不機嫌な理由は生命の危機におちいったこととは無関係らしかった。
 (眼魔…いや、落ち着け俺!)
 机の下で片手に発生しかけていた光を握りつぶすと、シンタローは笑顔で、
 「あのよォ、アラシヤマ。忙しいからもう帰ってくんねぇ?俺達心友ダロ?」
 と言った。
 「し、シンタローはんッツ!わ、わてッ……!」
 「やっとわかったか!つーことで、とっとと帰れ!」
 「わて、やっぱりシンタローはんの笑顔を見たら、ますます帰りとうなくなりましたえー!」
 「眼魔砲ッツ!」
 壁には、ちょうど人の形に真ん中の部分が凹んだクレーター型の跡がついた。その付近には壁にささったままのペーパーウェイトと苦無が仲良く並んでいた。


 「うう……、死ぬかと思いましたわ。でも、シンタローはんが忍者はんからもらったもんを使いはるよりは眼魔砲の方が何倍もマシどす」
 文字通り壁から抜け出てきたアラシヤマは、壁にもたれて座り、息をついた。
 「何だ、その理屈。眼魔砲の方がダメージが大きいに決まってんダロ」
 「あの、わて、あんさんに小刀プレゼントしますさかい!苦無よりも切れあじはよろしおますえー!!」
 「聞けよ、ひとの話。それに言っとくけど、俺は換金性の高いもん以外はいらねーんだからナ!無駄口がたたけんなら、とっとと出てけヨ」
 「はぁ、ほなそろそろ失礼しますわ……」
 よいしょ、と立ち上がるアラシヤマを見たシンタローは顔をしかめた。
 「――なぁ、そういやオマエ、昔みてーに『シンタロー』って俺のこと呼び捨てにしねーな」
 その声を聞いたアラシヤマは一瞬固まり、
 「そそそれはその、……呼び捨てにしたら、あんさん、えっらい怒らはるんちゃいます?」
 と、ひきつった笑顔で答えた。
 「まぁ、当然ムカツクけど」
 「ホラ、やっぱりどす……」
 アラシヤマは俯き、何か考え込んでいる様子であった。
 (コイツ、そんな殊勝な野郎だったっけか?……いや、全然違うよナ)
 シンタローがいぶかしげにアラシヤマを睨むと、不意に顔を上げたアラシヤマは、
 「シンタロー」
 と、真摯な声音で呼んだ。
 目を丸くしたシンタローを見たアラシヤマの顔には、一瞬複雑そうな色が浮かんだがすぐに苦笑に変わり、
 「ああ、シンタローはんは、やっぱりシンタローはんでええんどすわ。えろうすみまへん。ほな、失礼しますわ」
 と言って軽く頭をさげ、部屋を出て行こうとした。
 「アラシヤマ」
 「えっ、なんどす…」
 振り向いたアラシヤマの顔面に、鈍い音を立てて何かがぶつかった。
 ばたり、と床に倒れたアラシヤマをそのままに、シンタローは彼の脇に落ちた辞書をひろいあげ、棚に戻した。
 そして、足先でアラシヤマを軽く蹴飛ばしたが、どうやら気絶しているらしい。
 「……『アラッシー』ってオメー、とことんセンスねぇナ」
 シンタローはため息をつき、総帥室を出た。










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