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 「気を付け!!」
 と、厳しい掛け声が士官候補生達へと向けて放たれた。
 疲労の色が濃く顔に滲んだ若者達は慌てて背筋を伸ばす。彼らは皆、戦闘服に身を包み、踵をくっつけた両足を少し開いた型で立っていた。
 「整列、休め!」
 の声に、いっせいに彼らは両腕を後ろへと回した。前に立った教官が鋭い目つきで一瞥したが、まずまず、といった評価だったのか口を開いた。
 「今のままでは、全員が任務偵察や後方撹乱において生き残れない。こちらが無手で敵は武装している中、たとえ一人になっても任務は完遂しなければならないことはわかっているな?各自今回の訓練を反省し、次の訓練までに反省点を改善しておくように」
 そう言って、全体を見渡した。
 先程まで、ガンマ団内の林の中では徒手格闘訓練が行われていた。射撃や野戦訓練、レンジャー訓練は体験済みの士官候補生達であったが、教官が仮想敵となる格闘訓練はまだ経験していなかった。生徒同士での型稽古とは格段に違って脱臼や骨折などの怪我も多く、何より精神的なダメージが大きかった。
 特に、野外における格闘実践訓練の教官は一切の容赦がないことで有名である。その中でも、この教官に当たったものは相当に運が悪いと生徒達の間ではささやかれていた。
 「敬礼!」
  いっせいに、生徒達の右腕が上がった。
 「直れ!!」
 号令の後、教官が訓練の終了を告げその場を立ち去ると、皆ほっと息を吐いた。緊張の糸が切れたのか、その場にへたり込む生徒もいた。


 (おかしおす……)
 先程の野外格闘訓練実習の担当教官であったアラシヤマはゆっくりとした足取りで歩いていた。
 (どうして、誰ッ一人!「アラシヤマ教官ー!お誕生日おめでとうございまーすv」って追いかけて来ぉへんのどすか!?なんでッツ!!
 わての予定どしたら、
 『どうしたんだ、お前ら!?』
 「俺達生徒一同、尊敬する強くてカッコイイアラシヤマ教官のお誕生日をお祝いしたくって!あっちでパーティーの準備をしているんです!」
 『お前らの気持ちは嬉しいが……』
 「わかりました。今から大切な方と過ごされるんですね。お気になさらないでください」
 『いや、やはりせっかく準備をしてくれた可愛い教え子達の気持ちは無下にはできん!』
 「ええっ、でも……なぁ?」
 「そうですよ!俺達のことはかまいません!待っているお方の所へ行ってあげてください!」
 『心配ない、約束は夜からだ』
 「「「「「教官ッ……!!!!」」」」
 『お前らッ…!!』
 って、こうなるはずどしたのに……!!)
 アラシヤマはしばらくその場に立ち止まってみたが、しかしいっこうに誰もやってくる気配はない。数分後、何やら陰気な様子でブツブツとつぶやき始めた。
 「――もしかして、あえてわざと無視!?ほぉ、ええ根性してますナ?あいつら全員、藁人形確定どす。いや、それよりも次から体力づくりの訓練メニューを強化して共通語レポートの提出分量を2倍にすれば一石二鳥どすー!わてって、なんて生徒想いの先生でっしゃろv」
 アラシヤマがほくそ笑んでいると、背後から

 「アラシヤマ教官」

 と、呼びかけられた。その、よくとおる聞きなじんだ声に、
 (きたッ!って、ええっ?この声って、もしかしなくても……、でっしゃろ?)
 おそるおそる、アラシヤマが振り返ると、そこには戦闘服姿のシンタローが立っていた。
 「なぁーに、間抜けなツラしてやがんだ、テメェ?バっカみてぇ!それに、一人で根暗にブツブツ言いながら歩いてっとすげぇキモイ」
 腕組みをしてそっけなくそう言うシンタローに向かって、
 「シンタローはーん!わての大切な人は誓ってあんさんだけどすえー!!」
 と、叫んだアラシヤマはものすごい勢いで駆け寄り、抱きつこうとしたが、かるくかわされた。
 「シンタローはーん……」
 「うるせぇ」
 「――そない、不機嫌そうな顔をしはらんでもええですやん」
 恨めしそうにシンタローを見たアラシヤマであったが、シンタローに睨まれ、肩をおとしてうつむいた。
 「テメェがうぜぇからだ」
 「さっきのは心友同士の軽いスキンシップをはかろうとしただけどすえ……!?さけるやなんてひどうおす~!!」
 顔を上げたアラシヤマと片方のみ視線がぶつかったシンタローは、手のひらの上に光球を形成しはじめた。
 「ええっ!?いきなり眼魔砲どすかぁ!?シンタローはんったら愛情表現が過激なんやからぁvそういや、何であんさん、総帥服やおまへんの…?」
 今まさに眼魔砲を撃とうとしていたシンタローであったが、真顔で自分を見ているアラシヤマを見て、
 「――ああ、これ。別にテメェには関係ねぇし、どーでもいいダロ?」
 面白くなさそうに答えると、手の中の光球を瞬時に消した。
 「――あんさん、わてが教官に不適格かどうか視察に来てはった、というわけやナ。どうりで全然気配が感じられへんかったわけや。流石はシンタローはんどす」
 アラシヤマの顔から波が引くように感情が失せ、低くそう言った。
 「どこの老いぼれネズミが足掻いているんか、は分かってます」
 「殺すんじゃねーぞ?あれだって、一応ガンマ団の人間なんだし」
 「いやどすなぁ、シンタローはん。殺すつもりならとっくの昔に殺してますえ?ただ、わてが許せへんのは、あんなネズミごときが、わざわざシンタローはんを煩わせたことどす」
 「お前は、教官からははずさせねぇ」
 シンタローはため息をつくと、片手を伸ばし、アラシヤマの頬を思いっきり引っ張った。
 「物騒な顔してんじゃねーヨ」
 「いひゃい!いひょうおひゃすえー!ひんはろーはん!」
 「勘違いすんな、お前の訓練を見に来たのは偶々気が向いたからだ」
 すぐに手を離したシンタローをちらっと見たアラシヤマは、
 「シンタローはん、えっらい嘘が下手どすナ……」
 と言って溜息をついて肩を落としてしゃがみ込んだ。
 「わて、めちゃくちゃ格好悪うおます~」
 「安心しろ!俺はテメェを格好いいと思ったことは一度もねーから」
 「ひどうおます、ひどうおます~…。わてはシンタローはんのことを1日50回は格好ええと思うてますえー!あ、ちなみにあと50回は可愛ええなぁと。実は他にもいろいろあるんどすけど……」
 シンタローは片足を上げると、しゃがんだままのアラシヤマを蹴り飛ばした。
 「超ウゼぇ。やっぱやめっかな……」
 「何をどすか?」
  地面に転がったままアラシヤマがそう聞くと、
 「体がなまってもなんだし、久々にテメーと格闘訓練をしようかと思ったんだけど、やっぱ、キンタローにつきあってもらうわ」
 シンタローはあっさりと踵を返し、歩き出した。
 「し、シンタローはんッツ!待っておくんなはれッ!わてがやりますー!!」
 慌ててアラシヤマは飛び起き、シンタローの後を追った。


 「別に、俺は外でもよかったんだけど……」
 「外やったら人目につきますやん?ここやったら邪魔は入らへんかと思いまして。わて、勝負に水をさされるんが大嫌いなんどす」
 「まぁ、何でもいいけどよ」
 シンタローは、長い髪をまとめながら板張りの道場の床を見渡した。
 「ルールはどないしはります?」
 「んー、技・武器の使用はナシ、徒手のみっつーことで。あとは、どっちかが3秒以上床に倒れたらその時点で終了」
 「了解どす」


 先程から数十分以上攻防を演じているが、なかなか決着がつかなかった。
 シンタローもアラシヤマも、少なからず体の各所にダメージをうけ、息も乱れがちになっていた。
 「そろそろ白黒着けよーぜ?」
 シンタローがそう言うと、アラシヤマは上着を脱ぎ捨て、両手を軽く握り、構え直した。シンタローも上着を脱ぎ捨て、床を蹴った。
 シンタローは、後ろ足の踵を上げ、腰を押し出した上げ蹴りをはなった。しかし、アラシヤマはわずかに身を引きながら、足を左掌ですくい上げた。バランスを崩したシンタローをそのまま床に押さえ込もうとしたが、シンタローは数度転がって避け、体勢を立て直した。
 「ほな、こっちから行きますえ」
 と、アラシヤマは直突きに転じ、シンタローの右面から攻撃を仕掛けたが、シンタローは左掌で拳を上方へと受け流しながら左方に体をさばき、右胴に直突きを入れた。
 「てめぇ、わざと避けなかったのかよ?」
 手ごたえは充分あったものの、背後からアラシヤマに組み付かれた。アラシヤマはシンタローの首に腕を巻きつけ、そのまま足を蹴り落として床に叩きつけるつもりらしい。
 「シンタローはんと密着どす~vvv」
 と、ふざけた調子で言うアラシヤマの脇腹めがけてヒジ打ちを叩き込み、少し体が離れた瞬間、後ろに踵を蹴りあげ金的を狙った。
 が、すんでのところで、アラシヤマはシンタローから腕を放し、飛び退った。
 「……あんさん、えげつない攻撃しはりますなぁ」
 「実戦にえげつないもクソもあっかよ?」
 「そらそうどすナ」
 「しゃべり過ぎだ」 
  シンタローは一気に間合いを詰めると、左からの横打ちと見せかけ、突き蹴りを見舞った。
 次の瞬間、アラシヤマの体は道場の端まで吹き飛んだ。
 「1、2、3、……終了ッ!テメェ、とっとと起きろヨ!」
 シンタローがそう声を書けたが、アラシヤマの体はピクリとも動かない。
 (――まさか、気ぃ失ってんのか?)
 アラシヤマの傍まで行き、足に蹴りを入れてみたがやはり目を閉じたままであった。
 もしや打ち所でも悪かったのか、と傍らに屈んで呼吸を確かめようとすると、いきなり腕を引かれ、シンタローはアラシヤマの上に倒れこんだ。
 「てっめぇ……」
 至近距離から、アラシヤマを睨みつけると、
 「せやかて、戦ってるときのシンタローはん、綺麗で色っぽうおますもん」
 アラシヤマは片腕でシンタローの頭を引き寄せ、口付けた。
 「昔は、全然色っぽいとは思わへんかったのになぁ……。わても大人になったんでっしゃろか?」
 「死ね」
 口を拭って立ち上がろうとしているシンタローを寝転がったまま目で追いながら、アラシヤマは、 
 「シンタローはん、今日はわて、誕生日なんどす」
 と言った。
 「え?オマエ、今日って誕生日なの?」
 シンタローは目を丸くして、アラシヤマを見下ろした。
 「へぇ、今日どす」
 アラシヤマは身を起こし、座った。
 「ふーん、そうなんだ」
 「ええっ!?大心友の誕生日を忘れてはって、それだけどすかー!?」
 「忘れる以前に、そもそもテメェの誕生日なんざ知らねぇし……」
 「わっ、わては、シンタローはんのスリーサイズ、身長・体重・血液型、チャームポイント、夜の寝言までバッチリどすのにー!!」
 「眼魔砲ッツ!!」
 道場の壁に大きく穴が開き、アラシヤマの姿も見えなくなった。
 シンタローは、髪を結んでいる紐をほどき、
 「あー、あの野郎、すっげぇムカツク!」
 と言った。


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