いつもつれないシンちゃん。
パパに対して言う良く言う言葉ベストランキング。
アホ、ウザイ、ムカつく。
おかしい。こんなはずじゃない。
昔はパパ思いのパパっ子で…いや!今もそうなんだけど!!
照れてるだけ。なんだけど!
パパだって不安になったりしちゃうわけ。
だから…だからしょうがない事だったんだよ。
パパは悪くないんだよ、シンちゃん。
ひとしきり自分勝手に話を纏めたマジック。
何がどうなったか、というと、まあ、ぶっちゃけた話、あまのじゃくを直す、素直になる薬を、シンタローの大好物のカレーライスに入れただけ。
食べた瞬間シンタローは机につっぷした。
スプーンを握り締めたまま。
寝てしまうのは薬を作ったお馴染み、Dr高松に聞かされていたのでマジックとしてはさして驚かなかった。
マジックはワクワクしながらシンタローを見つめる。
早く起きてパパとイチャイチャしよう!
ハートマークを飛び散らせて、マジックはシンタローが起きるのを今か今かと待ち侘びているのである。
すると、突然ガバ!と、シンタローが起き上がった。
「あ、あれ?俺…」
「どうしたの?シンちゃん。いきなり寝たからパパすっごくびっくりしちゃったよ。」
ハハハ、と、善人面で笑う。
さあ、シンタローがどう出るか。
マジックは楽しそうにシンタローの反応を待つ。
「ゴメン、父さん。」
困ったように笑うシンタローを見て、薬は成功したと核心したマジックは、シンタローの見てる前でガッツポーズを勢い良くした。
シンタローはそれに少しびっくりした様子で見るが、頭には“?”が飛び交っている。
「ね、ね、シンちゃん、パパの作ったカレーどぉ?」
ワクワクしながらすんごい笑顔で聞くと、シンタローははにかみながらマジックに微笑む。
そんな笑顔20年ぶり位に見た。
たら、と鼻血が出る。
「旨いよ。父さんが作ったカレーが世界で1番美味しい。…それより父さん鼻血大丈夫?」
心配そうに見つめ、近くにあったボックスティッシュから紙を数枚掴み、マジックの鼻を押さえた。
シンちゃんが私を心配して、尚且つティッシュまで!!
感動したらしく、青い瞳からは滝のような涙。
それだけならまだしも。
「うわ!!」
鼻血も滝のように噴いてきて。
ティッシュは何の約にも立たなくなってしまった。
「父さん大丈夫?病気?」
「うん。パパね、凄い重い病にかかってるんだよ。薬でも、湯治でも直らない病気なんだ。」
「えッッ!?」
心配そうに見上げるシンタロー。
そして、とりあえずハンカチで鼻血を止血するマジック。
「ど、どんな病気なんだ!?」
大変だ!と、あわあわしてくれる愛息子にマジックは胸がキュンキュンした!
そして、かなり嬉しく思う。
「シンちゃん大好き病っていうんだ。」
大真面目な顔でそう言うマジック。
シンタローは一瞬時が止まったようにストップしていたが、言葉を理解したらしく、マジックの肩を軽く叩いた。
「もー!ビックリさせんなよ!」
そう言って笑う。
その100万$の笑顔。
寧ろそれより上。
秘石よりも価値があるものを見て、マジックは又鼻血を吹出し悦った。
「さ、シンちゃん。早くご飯食べちゃいなさい。あ、サラダもちゃんと食べるんだよ?」
身が持たないマジックは貧血の為、椅子に腰かける。
マジックに促されるまま、シンタローはカレーとサラダをぱくぱくと平らげていく。
ご飯ときたら、次はお風呂だよね。
このゴールデンコースでいくと、
ご飯→お風呂→私。だな。
お風呂も一緒に入って、次は私がシンちゃんに入って…。
もう、50を過ぎると、下ネタでオヤジギャグを考えてしまうらしい。
それはいくらダンディでも逃れようがないのかもしれない。
「ごっそーさん!」
カラン、とカレー皿にスプーンを置く音がする。
マジックがそれを見ると、カレーもサラダも綺麗に完食していて、マジックも、作ったかいがあったな、なんて思う。
「シンちゃん。ちょっと聞きたい事があるんだけど…。」
「何?父さん。カレーもサラダも美味しかったぜ?」
「そうじゃなくて…あ、あのね?」
頬を赤らめてもじもじする様はまるで恋に臆病な女学生。
ピンクのオーラを放ちまくる。
いつものシンタローなら眼魔砲ものなのだが、素直になったシンタローは黙ってマジックの問いを待っている。
ゴクリ、と、マジックの喉仏が上下し、意を決したようにシンタローを見る。
そして…
「パパの事…好き?あ、愛しちゃったりとか…してたりする??」
恐る恐る聞いて、上目使いでシンタローを見る。
「あったり前じゃん。」
かたやシンタローはあっけらかんと肯定した。
マジックにとっては、日頃シンタローに絶対言って貰えない言葉なだけに天にも昇る気持ちに。
あったり前じゃん
あったり前じゃん
あったり前じゃん
マジックの脳内で繰替えされるシンタローの言葉。
盆と正月がいっぺんに。イヤイヤ、クリスマスと誕生日と、ゴールデンウイークも付けたしてしまえ。
その位マジックにとって革命的出来事。すなわちエボリューション!
マジックは思わずシンタローを抱きしめた。
いつもなら鉄拳ものだが、それもない。
それどころか!
マジックに身を委ねてくるではないか。
シンちゃんパパを愛で殺す気なのかな…
自分で薬を盛っておいてよく言うものである。
「父さんは?」
シンタローに声をかけられ、マジックは夢の世界から舞い戻る。
直ぐに返事をくれないのでシンタローはもう一度繰り返す。
「父さんは、俺の事好き?」
そう聞かれ、マジックは思いきりコクコクと頭を上下に振る。
ヘドバン並に。
「好きだよ!好きに決まってるじゃないか!寧ろ愛しているよ!」
ガシ、とシンタローの肩を掴み赤面しながらシンタローに必死に語りかける。
かなり危機迫っている感じ。
「良かった。」
シンタローがまたもやそうやって白い歯を見せ笑うので、マジックはもんどりうった。
可愛くて可愛くて仕方がない。
ぎゅ!と、抱きしめても殴られないし、蹴られない。
スリスリしても、ダキダキしても大丈夫!
ああ、高松ありがとう。
マジックの心理描写で、高松のドアップが青空一面に写し出され、小鳥達が生暖かい眼差しでチチチ、と鳴いていた。
「じゃあ父さん。俺、お風呂に入ってくるヨ。」
やんわりとマジックから身を離し、シンタローは部屋から出て行こうとする。
このまますんなり行かせてしまっても、風呂場で何時ものように乱入すればいいのだが、今のシンタローならば彼の了承を得てら正当に一緒にお風呂☆が楽しめるかもしれない。
今までは夢の又夢だったが、今のシンタローならば可能だ。
マジックの行動は次第にエスカレートしていく。
今まで出来なかった親子としてのスキンシップ。
スキンシップというにはかなり過剰だとは思うのだが、マジックにとっては普通であるその行為を我慢する事なく今日はできる。
マジックは気持ちがいくらか大きくなってしまっていた。
「ねぇ、シンちゃん!パパも一緒に入ってもいい?」
にこやかに聞くと、シンタローは赤面した。
かーわーいーいー!!
マジックも連られ赤面をしてしまう。
「あ、でも、そのォ、風呂場狭いから…別に父さんと一緒に入りたくないとかじゃなくて、狭いのが嫌っていうか…」
チラチラ、とマジックを見て、見る度に視線がかちあい、シンタローが又そらすという繰り返し。
癖なのか、唇を尖らせている。
意識しまくりなシンタローに、マジックにも勿論それは伝染病のように伝わってしまっていて。
二人で赤面する様は、最近の少女漫画にすら出て来ない程のハートオーラが漂う甘い雰囲気。
親子で醸し出すオーラでない事は確か。
「そ、そっかー!そーだよね!パパったら気付かなくてごめんね!」
アハハ!と笑うと、シンタローは首を横に振って少しホッとしたような顔をした。
「じゃあ、お風呂入ってくるから。」
そう言ってシンタローはその場から去っていく。
ポツンと、残された形になったマジック。
そして思う。
あああ…これは計算ミスだったよ!私の予想が大幅に外れた!!いつもより交わし方が上手くなってるじゃないかシンちゃん!中々やるなあ。
イヤ、純粋に言ってるんだろうな。その分タチが悪いよ。これじゃ、このままじゃ…
悪戯できないじゃないかッ!!
ああ、私のゴールデン計画がァッッ!食事→お風呂→私のこの計画がぁぁぁ!!
ショックを受けるマジックだが、は、と気付く。
今からでも十分修正はきくのではないだろうか。
確かにお風呂は一緒ではないが、シンタローが進んでいるコースはマジックの考えと同じ。
イケる!!
ザッパーン!と、マジックの背景に荒れた岩肌と、それにぶつかる波と、飛び散る水飛沫が映し出された。
そうと決まればシンちゃんが出てくる迄にきちんと考えておかなきゃ。ご利用は計画的にね!
フンフン、と、鼻歌を歌いながら洗いものをする。
かなりご機嫌だ。
そんな中、プシュン!と、ドアが開いたかと思うと、グンマとキンタローが神妙な面持ちで入ってきた。
「おとーさまー…」
「叔父貴…」
「どーしたの!?」
かなりの落ち込みような二人にマジックは焦る。
何があったのだろうか。
「ねー!シンちゃんに何かしたでしょ!!シンちゃん何時もと違うよぉ~!」
「そうです。何時ものアイツではなかった!」
ギックーン!!
シンタローが先程風呂に向かったさいに会ったのだろう。
さしずめ、何時ものように声をかけたら返答が違った。いや、違いすぎたんだろうとマジックは思った。
「心配する事ないよ。グンちゃん、キンタロー。すぐに元に戻るから。」
困ったように笑うマジックに、グンマは頭を振る。
「そーじゃないよ、おとーさま!」
声を荒げるグンマに、マジックは少しびっくりした。
勿論それを顔に出した訳ではないが。
「そーじゃなくて、おとーさまそれでいいの?」
悲しそうな顔。
マジックは訳が解らず不思議そうな顔をした。
それでいいって、何が?
訳が解らないので、何も言葉を発しないと、グンマはマジックを見上げる。
青い瞳同士がかちあった。
「おとーさまの好きなシンちゃんは、素直なシンちゃんなの?それとも、何時ものシンちゃんなの?素直なシンちゃんじゃなきゃ、おとーさまはシンちゃんの事好きじゃないの!?」
泣きそうになりながらマジックを見つめるグンマ。
昔からグンマはシンタローとマジックを見てきた。
自分の立場は従兄弟で、ルーザーの息子ではあったが、確かにシンタローにとって一番近い親戚で、友達でもあったに違いない。
何時も意地悪ばっかりされて、嫌な時もあったけれど、肝心な時は何時も助けてくれる優しいシンタロー。
そんなシンタローの幸せをグンマは何時も願っていた。
出来る事なら自分の手でシンタローを幸せにしてあげたかったが、シンタローが望んでいるのは自分ではないと知ってから、グンマは断腸の思いで恋敵であるマジックとシンタローの応援をしてきたのだ。
それなのに。
涙を飲んで手放したこの淡い恋心。
渡した相手がこれでは自分の思いの立つ瀬がない。
「そんな事ないよ。私はシンちゃんが何であっても愛しているよ。」
「だったら!」
グンマは俯いてしまった。
だったらそんな事しなければいいのに。
そんな事しなくたってシンちゃんはおとーさまの事大好きなんだから。
どーせ薬でも使ったんでしょ。高松にでも頼んで。
「だったら、早くシンちゃんを元に戻して、ね、おとーさま。」
又何時ものように明るく笑う。
「そうだね。」
マジックも又笑う。
シンちゃんが元に戻ったら一部始終ぜーんぶ話しちゃうんだから。
それ位の意地悪、許されるよね?
へへへ、と笑って、グンマはマジックを見た。
マジックはそんなグンマの頭を軽く撫でてやるのだ。
完全に出遅れた形となってしまったキンタローは、己の出の悪さを深く悔やんだとか。
しばらくたって、シンタローが戻って来た。
だが、どうにも様子がおかしい。
わなわなと震える腕、ヒクつく口元。
先程の素直なシンタローの面影はないに等しい。
オーラはドス黒く、そして、マゼンタみたいな色も混ざっている。
もう、ハッキリ言ってバレた。
怯えるマジックと、あーあ、やっぱりね、的な、グンマとキンタロー。
「親父ィィィ…」
地を這うような声に、ビクリと体を震わせるマジック。
自分達に被害はないのだが、余りの気迫にグンマは勿論の事、キンタローも少し怯える。
「や、やぁ、シンちゃん!怒った顔もキュートだよ☆」
無理矢理笑顔を作って手を上げるマジック。
その笑顔はミドル好きの女性が見たら失神してしまう位光り輝いていた。
が。
シンタローは女性ではないし、寧ろショタコンの気があるので効かない。
寧ろ逆効果である。
「…ンな事ほざく前に、俺に言わなきゃならない事、あるんじゃねーの?」
眼光がギラリと鈍く輝く。
「おとーさま、おとーさま!」
小声でツンツン、と、グンマがマジックの腕を肘で突く。
マジックが視線だけグンマに向けると、下にいたグンマと目が合った。
何?と、目で訴える。
今はそれどころじゃないんだよグンちゃん!見て解るだろう?
シンちゃんったら、完全にプッツンしてるんだよ!?
「謝っちゃって下さぁ~い!」
またもや小声で。
そして、マジックにとっては恐ろしい台詞を吐いた。
マジックは右手をぶんぶん振って“無理”を主張するのだが、グンマの攻めるような瞳とかちあい、ばつが悪くなって視線を反らしたが、そこにはキンタローが。
キンタローも又、グンマのソレと同じように醒めた目でマジックを見つめる…と、言うか睨みつけている。
「頼むよ、二人共ー。これ以上シンちゃんに嫌われたくないんだよー。」
「「だったらしなければ良かったでしょう!!」」
助けを二人に求めたが、二人共助けてくれない。
寧ろハモりつきで批難される。
マジックは、えー、と、漏らすが一向にシンタローに謝る気配はない。
ついにこの場の、寧ろシンタローの威圧感に耐え兼ねたグンマが動いた。
「おとーさまが薬を盛ったんだって!」
指をマジックの方に射す。
キンタローもそれを真似た。
「ああッッ!!グンちゃんとキンタローの裏切り者ッッ!」
「変な言い方しないでよ!おとーさまッッ!!」
「そうです。誤解されるような言い方は止めて頂きたい。」
グンマとキンタローに言われ、マジックは大袈裟に涙を拭く。
が。
「ほーォ。薬をねぇ…」
ピシリと空気が冷たくなる。
「アンタの料理、俺はなぁーんの疑いもなく食べてるよ。それは俺が少なからず、アンタが作ったモンに変なモンは入ってないと多少なりともアンタを信頼してるからだ。」
チラ、と、マジックを見ると、小さく縮こまるマジック。
まるで蛇に睨まれた蛙状態だ。
「シンちゃん、じゃ、僕達は自室に戻るからね~。」
「たまにはコッテリ叱ってやれ。」
「言われなくてもそのつもりだ。」
グンマとキンタローはそれだけ言うと、さっさと食堂を後にしようとする。
ああ、どうしよう!二人きりになるのは嬉しいんだけど!今は…今は嫌だ!息苦しいよ!何で行っちゃうの!お前達!!
あわあわとしているマジックを見ないようにして二人は互いに同情の目配せをして食堂から出て行った。
来た時と同じようにドアが開き、閉まった。
完全に密室。シンタローとマジックの二人だけがその空間に居る。
「アンタは俺の信頼を裏切ったんだ!」
ズビシ!と指を刺され、マジックは胸に手を当てる。
そして、うなだれる。
マジックがどう出るのかと、シンタローは見ていた。
うなだれたマジックはフラフラとシンタローへ近づいてゆき、シンタローの肩に手を置いた。
そして、がば!と顔を上げる。
「ごめん!シンちゃんごめんね?だ、だってパパ、どうしてもお前の気持ちが知りたかったんだよ!いつもいつもいーっつもお前はツンツンして、パパの事嫌がるし!パパだって…パパだって淋しかったんだよォ!シンちゃん!!」
ワーン!!と泣いてシンタローの胸にスリスリと顔を埋めれば、予想通り頭に鉄拳を喰らう。
ゴチン!と音がして、潤んだ瞳で見上げると、顔を真っ赤にしたシンタローが居た。
自分の顔が赤いと自分で自覚しているのか、腕で口元を隠している。
そんなシンタローを可愛いと思ってしまう。
顔がにやけるのを必死に我慢していると、シンタローがマジックを見た。
そして、口元を押さえながらマジックに言う。
「…ンな薬使わなくたって、俺はアンタの事大事にしてるっつーの!」
いきなりの爆弾幸せ発言にマジックは目が点になった。
理解するまで少し時間がかかる模様。
「解れよ!バーカ!!」
そして、唇を尖らせる。
理解した時はもう、嬉しくて嬉しくて、シンタローを抱きしめる。
嫌がる顔をするシンタローなんてお構いなし。
そして。
「ごめんね、シンちゃん!パパお前の事だぁーい好きだよ!も!死んでも離さないんだからッッ!!」
「あー。もー。はーいはいはい。」
どうやら一見落着したようで、その様子を聞き耳をたてて扉の向こう側から聞いていたグンマとキンタロー。
「あーあ。もう、ごちそうさまって感じ。」
「そうだな。何だかんだ言ってシンタローは素直だからな。」
もっとシンタローに怒られるであろうマジックを想像していただけに、この甘い雰囲気はよろしくない。
つまんない、と言った感じで二人はその場から本当に自室へと足を運ぶのだった。
「あ。親父。ソレと薬の件は関係ねぇからな。」
「え!?なにソレ!パパぬかよろこびだよ!!」
終わり。
パパに対して言う良く言う言葉ベストランキング。
アホ、ウザイ、ムカつく。
おかしい。こんなはずじゃない。
昔はパパ思いのパパっ子で…いや!今もそうなんだけど!!
照れてるだけ。なんだけど!
パパだって不安になったりしちゃうわけ。
だから…だからしょうがない事だったんだよ。
パパは悪くないんだよ、シンちゃん。
ひとしきり自分勝手に話を纏めたマジック。
何がどうなったか、というと、まあ、ぶっちゃけた話、あまのじゃくを直す、素直になる薬を、シンタローの大好物のカレーライスに入れただけ。
食べた瞬間シンタローは机につっぷした。
スプーンを握り締めたまま。
寝てしまうのは薬を作ったお馴染み、Dr高松に聞かされていたのでマジックとしてはさして驚かなかった。
マジックはワクワクしながらシンタローを見つめる。
早く起きてパパとイチャイチャしよう!
ハートマークを飛び散らせて、マジックはシンタローが起きるのを今か今かと待ち侘びているのである。
すると、突然ガバ!と、シンタローが起き上がった。
「あ、あれ?俺…」
「どうしたの?シンちゃん。いきなり寝たからパパすっごくびっくりしちゃったよ。」
ハハハ、と、善人面で笑う。
さあ、シンタローがどう出るか。
マジックは楽しそうにシンタローの反応を待つ。
「ゴメン、父さん。」
困ったように笑うシンタローを見て、薬は成功したと核心したマジックは、シンタローの見てる前でガッツポーズを勢い良くした。
シンタローはそれに少しびっくりした様子で見るが、頭には“?”が飛び交っている。
「ね、ね、シンちゃん、パパの作ったカレーどぉ?」
ワクワクしながらすんごい笑顔で聞くと、シンタローははにかみながらマジックに微笑む。
そんな笑顔20年ぶり位に見た。
たら、と鼻血が出る。
「旨いよ。父さんが作ったカレーが世界で1番美味しい。…それより父さん鼻血大丈夫?」
心配そうに見つめ、近くにあったボックスティッシュから紙を数枚掴み、マジックの鼻を押さえた。
シンちゃんが私を心配して、尚且つティッシュまで!!
感動したらしく、青い瞳からは滝のような涙。
それだけならまだしも。
「うわ!!」
鼻血も滝のように噴いてきて。
ティッシュは何の約にも立たなくなってしまった。
「父さん大丈夫?病気?」
「うん。パパね、凄い重い病にかかってるんだよ。薬でも、湯治でも直らない病気なんだ。」
「えッッ!?」
心配そうに見上げるシンタロー。
そして、とりあえずハンカチで鼻血を止血するマジック。
「ど、どんな病気なんだ!?」
大変だ!と、あわあわしてくれる愛息子にマジックは胸がキュンキュンした!
そして、かなり嬉しく思う。
「シンちゃん大好き病っていうんだ。」
大真面目な顔でそう言うマジック。
シンタローは一瞬時が止まったようにストップしていたが、言葉を理解したらしく、マジックの肩を軽く叩いた。
「もー!ビックリさせんなよ!」
そう言って笑う。
その100万$の笑顔。
寧ろそれより上。
秘石よりも価値があるものを見て、マジックは又鼻血を吹出し悦った。
「さ、シンちゃん。早くご飯食べちゃいなさい。あ、サラダもちゃんと食べるんだよ?」
身が持たないマジックは貧血の為、椅子に腰かける。
マジックに促されるまま、シンタローはカレーとサラダをぱくぱくと平らげていく。
ご飯ときたら、次はお風呂だよね。
このゴールデンコースでいくと、
ご飯→お風呂→私。だな。
お風呂も一緒に入って、次は私がシンちゃんに入って…。
もう、50を過ぎると、下ネタでオヤジギャグを考えてしまうらしい。
それはいくらダンディでも逃れようがないのかもしれない。
「ごっそーさん!」
カラン、とカレー皿にスプーンを置く音がする。
マジックがそれを見ると、カレーもサラダも綺麗に完食していて、マジックも、作ったかいがあったな、なんて思う。
「シンちゃん。ちょっと聞きたい事があるんだけど…。」
「何?父さん。カレーもサラダも美味しかったぜ?」
「そうじゃなくて…あ、あのね?」
頬を赤らめてもじもじする様はまるで恋に臆病な女学生。
ピンクのオーラを放ちまくる。
いつものシンタローなら眼魔砲ものなのだが、素直になったシンタローは黙ってマジックの問いを待っている。
ゴクリ、と、マジックの喉仏が上下し、意を決したようにシンタローを見る。
そして…
「パパの事…好き?あ、愛しちゃったりとか…してたりする??」
恐る恐る聞いて、上目使いでシンタローを見る。
「あったり前じゃん。」
かたやシンタローはあっけらかんと肯定した。
マジックにとっては、日頃シンタローに絶対言って貰えない言葉なだけに天にも昇る気持ちに。
あったり前じゃん
あったり前じゃん
あったり前じゃん
マジックの脳内で繰替えされるシンタローの言葉。
盆と正月がいっぺんに。イヤイヤ、クリスマスと誕生日と、ゴールデンウイークも付けたしてしまえ。
その位マジックにとって革命的出来事。すなわちエボリューション!
マジックは思わずシンタローを抱きしめた。
いつもなら鉄拳ものだが、それもない。
それどころか!
マジックに身を委ねてくるではないか。
シンちゃんパパを愛で殺す気なのかな…
自分で薬を盛っておいてよく言うものである。
「父さんは?」
シンタローに声をかけられ、マジックは夢の世界から舞い戻る。
直ぐに返事をくれないのでシンタローはもう一度繰り返す。
「父さんは、俺の事好き?」
そう聞かれ、マジックは思いきりコクコクと頭を上下に振る。
ヘドバン並に。
「好きだよ!好きに決まってるじゃないか!寧ろ愛しているよ!」
ガシ、とシンタローの肩を掴み赤面しながらシンタローに必死に語りかける。
かなり危機迫っている感じ。
「良かった。」
シンタローがまたもやそうやって白い歯を見せ笑うので、マジックはもんどりうった。
可愛くて可愛くて仕方がない。
ぎゅ!と、抱きしめても殴られないし、蹴られない。
スリスリしても、ダキダキしても大丈夫!
ああ、高松ありがとう。
マジックの心理描写で、高松のドアップが青空一面に写し出され、小鳥達が生暖かい眼差しでチチチ、と鳴いていた。
「じゃあ父さん。俺、お風呂に入ってくるヨ。」
やんわりとマジックから身を離し、シンタローは部屋から出て行こうとする。
このまますんなり行かせてしまっても、風呂場で何時ものように乱入すればいいのだが、今のシンタローならば彼の了承を得てら正当に一緒にお風呂☆が楽しめるかもしれない。
今までは夢の又夢だったが、今のシンタローならば可能だ。
マジックの行動は次第にエスカレートしていく。
今まで出来なかった親子としてのスキンシップ。
スキンシップというにはかなり過剰だとは思うのだが、マジックにとっては普通であるその行為を我慢する事なく今日はできる。
マジックは気持ちがいくらか大きくなってしまっていた。
「ねぇ、シンちゃん!パパも一緒に入ってもいい?」
にこやかに聞くと、シンタローは赤面した。
かーわーいーいー!!
マジックも連られ赤面をしてしまう。
「あ、でも、そのォ、風呂場狭いから…別に父さんと一緒に入りたくないとかじゃなくて、狭いのが嫌っていうか…」
チラチラ、とマジックを見て、見る度に視線がかちあい、シンタローが又そらすという繰り返し。
癖なのか、唇を尖らせている。
意識しまくりなシンタローに、マジックにも勿論それは伝染病のように伝わってしまっていて。
二人で赤面する様は、最近の少女漫画にすら出て来ない程のハートオーラが漂う甘い雰囲気。
親子で醸し出すオーラでない事は確か。
「そ、そっかー!そーだよね!パパったら気付かなくてごめんね!」
アハハ!と笑うと、シンタローは首を横に振って少しホッとしたような顔をした。
「じゃあ、お風呂入ってくるから。」
そう言ってシンタローはその場から去っていく。
ポツンと、残された形になったマジック。
そして思う。
あああ…これは計算ミスだったよ!私の予想が大幅に外れた!!いつもより交わし方が上手くなってるじゃないかシンちゃん!中々やるなあ。
イヤ、純粋に言ってるんだろうな。その分タチが悪いよ。これじゃ、このままじゃ…
悪戯できないじゃないかッ!!
ああ、私のゴールデン計画がァッッ!食事→お風呂→私のこの計画がぁぁぁ!!
ショックを受けるマジックだが、は、と気付く。
今からでも十分修正はきくのではないだろうか。
確かにお風呂は一緒ではないが、シンタローが進んでいるコースはマジックの考えと同じ。
イケる!!
ザッパーン!と、マジックの背景に荒れた岩肌と、それにぶつかる波と、飛び散る水飛沫が映し出された。
そうと決まればシンちゃんが出てくる迄にきちんと考えておかなきゃ。ご利用は計画的にね!
フンフン、と、鼻歌を歌いながら洗いものをする。
かなりご機嫌だ。
そんな中、プシュン!と、ドアが開いたかと思うと、グンマとキンタローが神妙な面持ちで入ってきた。
「おとーさまー…」
「叔父貴…」
「どーしたの!?」
かなりの落ち込みような二人にマジックは焦る。
何があったのだろうか。
「ねー!シンちゃんに何かしたでしょ!!シンちゃん何時もと違うよぉ~!」
「そうです。何時ものアイツではなかった!」
ギックーン!!
シンタローが先程風呂に向かったさいに会ったのだろう。
さしずめ、何時ものように声をかけたら返答が違った。いや、違いすぎたんだろうとマジックは思った。
「心配する事ないよ。グンちゃん、キンタロー。すぐに元に戻るから。」
困ったように笑うマジックに、グンマは頭を振る。
「そーじゃないよ、おとーさま!」
声を荒げるグンマに、マジックは少しびっくりした。
勿論それを顔に出した訳ではないが。
「そーじゃなくて、おとーさまそれでいいの?」
悲しそうな顔。
マジックは訳が解らず不思議そうな顔をした。
それでいいって、何が?
訳が解らないので、何も言葉を発しないと、グンマはマジックを見上げる。
青い瞳同士がかちあった。
「おとーさまの好きなシンちゃんは、素直なシンちゃんなの?それとも、何時ものシンちゃんなの?素直なシンちゃんじゃなきゃ、おとーさまはシンちゃんの事好きじゃないの!?」
泣きそうになりながらマジックを見つめるグンマ。
昔からグンマはシンタローとマジックを見てきた。
自分の立場は従兄弟で、ルーザーの息子ではあったが、確かにシンタローにとって一番近い親戚で、友達でもあったに違いない。
何時も意地悪ばっかりされて、嫌な時もあったけれど、肝心な時は何時も助けてくれる優しいシンタロー。
そんなシンタローの幸せをグンマは何時も願っていた。
出来る事なら自分の手でシンタローを幸せにしてあげたかったが、シンタローが望んでいるのは自分ではないと知ってから、グンマは断腸の思いで恋敵であるマジックとシンタローの応援をしてきたのだ。
それなのに。
涙を飲んで手放したこの淡い恋心。
渡した相手がこれでは自分の思いの立つ瀬がない。
「そんな事ないよ。私はシンちゃんが何であっても愛しているよ。」
「だったら!」
グンマは俯いてしまった。
だったらそんな事しなければいいのに。
そんな事しなくたってシンちゃんはおとーさまの事大好きなんだから。
どーせ薬でも使ったんでしょ。高松にでも頼んで。
「だったら、早くシンちゃんを元に戻して、ね、おとーさま。」
又何時ものように明るく笑う。
「そうだね。」
マジックも又笑う。
シンちゃんが元に戻ったら一部始終ぜーんぶ話しちゃうんだから。
それ位の意地悪、許されるよね?
へへへ、と笑って、グンマはマジックを見た。
マジックはそんなグンマの頭を軽く撫でてやるのだ。
完全に出遅れた形となってしまったキンタローは、己の出の悪さを深く悔やんだとか。
しばらくたって、シンタローが戻って来た。
だが、どうにも様子がおかしい。
わなわなと震える腕、ヒクつく口元。
先程の素直なシンタローの面影はないに等しい。
オーラはドス黒く、そして、マゼンタみたいな色も混ざっている。
もう、ハッキリ言ってバレた。
怯えるマジックと、あーあ、やっぱりね、的な、グンマとキンタロー。
「親父ィィィ…」
地を這うような声に、ビクリと体を震わせるマジック。
自分達に被害はないのだが、余りの気迫にグンマは勿論の事、キンタローも少し怯える。
「や、やぁ、シンちゃん!怒った顔もキュートだよ☆」
無理矢理笑顔を作って手を上げるマジック。
その笑顔はミドル好きの女性が見たら失神してしまう位光り輝いていた。
が。
シンタローは女性ではないし、寧ろショタコンの気があるので効かない。
寧ろ逆効果である。
「…ンな事ほざく前に、俺に言わなきゃならない事、あるんじゃねーの?」
眼光がギラリと鈍く輝く。
「おとーさま、おとーさま!」
小声でツンツン、と、グンマがマジックの腕を肘で突く。
マジックが視線だけグンマに向けると、下にいたグンマと目が合った。
何?と、目で訴える。
今はそれどころじゃないんだよグンちゃん!見て解るだろう?
シンちゃんったら、完全にプッツンしてるんだよ!?
「謝っちゃって下さぁ~い!」
またもや小声で。
そして、マジックにとっては恐ろしい台詞を吐いた。
マジックは右手をぶんぶん振って“無理”を主張するのだが、グンマの攻めるような瞳とかちあい、ばつが悪くなって視線を反らしたが、そこにはキンタローが。
キンタローも又、グンマのソレと同じように醒めた目でマジックを見つめる…と、言うか睨みつけている。
「頼むよ、二人共ー。これ以上シンちゃんに嫌われたくないんだよー。」
「「だったらしなければ良かったでしょう!!」」
助けを二人に求めたが、二人共助けてくれない。
寧ろハモりつきで批難される。
マジックは、えー、と、漏らすが一向にシンタローに謝る気配はない。
ついにこの場の、寧ろシンタローの威圧感に耐え兼ねたグンマが動いた。
「おとーさまが薬を盛ったんだって!」
指をマジックの方に射す。
キンタローもそれを真似た。
「ああッッ!!グンちゃんとキンタローの裏切り者ッッ!」
「変な言い方しないでよ!おとーさまッッ!!」
「そうです。誤解されるような言い方は止めて頂きたい。」
グンマとキンタローに言われ、マジックは大袈裟に涙を拭く。
が。
「ほーォ。薬をねぇ…」
ピシリと空気が冷たくなる。
「アンタの料理、俺はなぁーんの疑いもなく食べてるよ。それは俺が少なからず、アンタが作ったモンに変なモンは入ってないと多少なりともアンタを信頼してるからだ。」
チラ、と、マジックを見ると、小さく縮こまるマジック。
まるで蛇に睨まれた蛙状態だ。
「シンちゃん、じゃ、僕達は自室に戻るからね~。」
「たまにはコッテリ叱ってやれ。」
「言われなくてもそのつもりだ。」
グンマとキンタローはそれだけ言うと、さっさと食堂を後にしようとする。
ああ、どうしよう!二人きりになるのは嬉しいんだけど!今は…今は嫌だ!息苦しいよ!何で行っちゃうの!お前達!!
あわあわとしているマジックを見ないようにして二人は互いに同情の目配せをして食堂から出て行った。
来た時と同じようにドアが開き、閉まった。
完全に密室。シンタローとマジックの二人だけがその空間に居る。
「アンタは俺の信頼を裏切ったんだ!」
ズビシ!と指を刺され、マジックは胸に手を当てる。
そして、うなだれる。
マジックがどう出るのかと、シンタローは見ていた。
うなだれたマジックはフラフラとシンタローへ近づいてゆき、シンタローの肩に手を置いた。
そして、がば!と顔を上げる。
「ごめん!シンちゃんごめんね?だ、だってパパ、どうしてもお前の気持ちが知りたかったんだよ!いつもいつもいーっつもお前はツンツンして、パパの事嫌がるし!パパだって…パパだって淋しかったんだよォ!シンちゃん!!」
ワーン!!と泣いてシンタローの胸にスリスリと顔を埋めれば、予想通り頭に鉄拳を喰らう。
ゴチン!と音がして、潤んだ瞳で見上げると、顔を真っ赤にしたシンタローが居た。
自分の顔が赤いと自分で自覚しているのか、腕で口元を隠している。
そんなシンタローを可愛いと思ってしまう。
顔がにやけるのを必死に我慢していると、シンタローがマジックを見た。
そして、口元を押さえながらマジックに言う。
「…ンな薬使わなくたって、俺はアンタの事大事にしてるっつーの!」
いきなりの爆弾幸せ発言にマジックは目が点になった。
理解するまで少し時間がかかる模様。
「解れよ!バーカ!!」
そして、唇を尖らせる。
理解した時はもう、嬉しくて嬉しくて、シンタローを抱きしめる。
嫌がる顔をするシンタローなんてお構いなし。
そして。
「ごめんね、シンちゃん!パパお前の事だぁーい好きだよ!も!死んでも離さないんだからッッ!!」
「あー。もー。はーいはいはい。」
どうやら一見落着したようで、その様子を聞き耳をたてて扉の向こう側から聞いていたグンマとキンタロー。
「あーあ。もう、ごちそうさまって感じ。」
「そうだな。何だかんだ言ってシンタローは素直だからな。」
もっとシンタローに怒られるであろうマジックを想像していただけに、この甘い雰囲気はよろしくない。
つまんない、と言った感じで二人はその場から本当に自室へと足を運ぶのだった。
「あ。親父。ソレと薬の件は関係ねぇからな。」
「え!?なにソレ!パパぬかよろこびだよ!!」
終わり。
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