彼の墓にやってきた。やっと墓参りできるくらいには心の整理がついた。
墓の主の髪と良く似た色の花を供えた。
帰ろうと思って、来た道を引き返す。と、その先に立っている男がいる。漆黒の、髪を風になびかせて――…
「シンタロー…?」
バカな、彼がここにいるはずが……。
「すまねぇ…どうしても教えてくれねぇから……」
私の後をつけてきたらしい。
「誰の、墓――?」
「……」
どう答えればいいのだろう。
二人の間に沈黙が流れる。会話なく、石畳を進んでいく二人。
気まずい。
そんなことがあってここ最近、お互いなんとなく距離を置いてしまっている。シンタローは尾行してしまったことを申し訳なく思っているようだし、マジックは再びあの問いを投げかけられるのを恐れているいるからである。
どうして言えるだろうか。
私がその存在を跡形もなく消した最愛の者
今でこそシンタローを一番愛している。これは絶対だ。けれど私は、自ら最愛の人の命を奪った。
あの日不安そうな顔をして立っていたシンタロー。できることなら教えてやりたい。
でも――…
いつかは、シンタローのことを殺してしまうかもしれない。
そんな告白をして、彼は今まで通り傍にいてくれるのだろうか。
怖い。
話したら、私の傍を離れていくのではないか――?
ごめんね、シンタロー。私は、お前を失ってはいけない。もしいなくなってしまったら、きっと生きていけないよ。
お前のいない世界なんて、何の意味もないのだから。
シンタローはあれ以来あの質問をすることができなかった。
あんな風に困ったマジックは見たことがなかったから。
でも、このままではダメなことだけは分かっていたから。
今思い切ってマジックの部屋の前なのである。
ドアをノックした。
「はーい、どなた?」
「…オレだ」
「!」
シンタローだ。
普段なら一番顔を見たい相手。
今は、一番顔をあわせたくない相手。
「ゴメン、シンちゃん、今はちょっと手がはなせない……」
嘘だ、と分かった。
「親父ッ!」
ビクリとした。大声に驚いたんじゃない。逃げるな、と言われている気がしたから。
「あの…サ、こないだは、その…探るようなコトして悪かった。
そんでさ…アレ、もう忘れてくれよ」
アレとは、きっとあの質問のことに違いなかった。
「辛いなら、言わなくていいから……
そんだけ。じゃあな」
扉から離れていく気配がする。
違うんだ。卑怯な私は辛い過去を話すのを躊躇っているんじゃない。
シンタロー、お前を失うことを恐れているんだ。
「シンタロー!」
「!」
「…ゴメンね」
「…もういいっつってんだろ」
いっそ罵ってくれれば良かったのに。
――アンタの隠しごとには慣れてる
その一言の方が胸に痛い。
シンタローにはたくさんの秘密を隠してきた。
たくさん嘘をついてきた。
口には出さないけれど、シンタローは嘘を嫌がる。言えるものなら言いたい。
やっぱり彼に秘密ばっかりなのは、辛いだろうから。
「シーンちゃん。今空いてるカナ?」
マジックがひょっこりシンタローの部屋に現れた。
「何だヨ」
「ちょっとお話したいコト、あるんだケド……」
「フーン。さっさと言えよ」
「こないだのコトなんだけど……話すよ」
「!!……っもう、その話はいいんだよ…ッ」
知りたいけれど
知らない
方が良い気がする
「聞きたかったんじゃないの?」
「べ、別に……」
おかしな子だと思いながら、
「パパの一番はシンちゃんだよ」
と言ったら
知ってる、って言われちゃった。自信過剰な子で困っちゃうなぁと思う。
「親友のね、墓だったんだ」
ポツリと言う。
「彼もね、『君を守る』なんて言っちゃってね」
お、お前はッ!言ってるそばからソレかよ!
アンタは前科がありすぎて信用できねーんだよ
内心ブーブー言っていたが
しかし次の一言に言葉を失う。
「殺したんだよ」
感情のこもらない声で言われた。
「本当はね、あの墓の下に彼は埋まってはいないんだよね」
「もういい…」
「だって跡形もないくらい……コナゴナに」
「分かったからッ」
「消した」
「やめろ!!」
泣きそうに、なっていた。
「フフ……怖くなった?私のコトが」
「ケッ、今更そんなことで。…アンタ人殺しまくってたクセに」
こう言ったら困ったように笑われてしまった。
アンタが、泣かないから……
抱き寄せられて、
優しいね、シンタロー。と呟かれて、ポンポンと背を叩かれた。
恥ずかしい奴……
「何で、話したんだよ」
「いやー、パパ隠しごとするとね、シンちゃん怒るから」
「怒ってねーよ!」
「まーたそんなこと言って。素直じゃないなぁ」あっ 何だかいつものペースに戻ってきたかも
「誰が!いつ!怒ったよ。言ってみろ」
「はいはい」
「…シンタロー。
こんな話を聞いても、まだ傍にいてくれる?」
怖いくらい真面目に言うと、シンタローは一瞬キョトンとした顔をして。そうして突然吹き出した。
「えー!!何で笑うのシンちゃん!ココ笑うトコ!?」
「バカじゃねーのアンタ」
「そうだよパパはシンちゃんバカだよ!!」
「ちがぁーう!
……言っとくケドなぁ、もうアンタの最低な部分なんて見飽きてんだよ。もうアンタがどれだけきたねぇヤツかなんてよーく知ってんだよ!」
「酷い言われようだね」
「何で信じねーんだ…もっと信じろよ!
今更何か出てきて驚くと思ってんのか!」
隠さないで欲しい。
アンタのこと、知らないことばっかりだなって、思ったんだ。
「分かったよ、もう隠しごとはしない」
お前がそう言ってくれるなら。
信じるよ。
「親父。今日空いてるか?」
「もちろん!シンちゃんのためなら詰まってるスケジュールも即・空けちゃうよ!」
ティラミスとチョコレートロマンスが聞いたら泣くゾ……、と言ってやろうと思ったが無駄なのでやめにする。彼らも御愁傷様である。
「何ナニ?シンちゃんから誘ってくれるなんて珍しいねー」
「あぁ、行きたいところがあるんだ」
嗚呼!シンちゃんとデートなんて何年ぶりだろうか。数えると悲しくなるから数えないけれど。胸踊るマジックである。
「あの…シンちゃん。一つ聞いていいカナ?」
「んー?」
「コレは……パパへのあてつけでしょうか?」
「あァン?」
だって、酷いよシンちゃん!久しぶりの、久しぶりのデートがだよ!
お墓って!そりゃないよ!
「文句あんなら、帰ってもいいんだゾ」
「わわ分かったよ!」
道中も花屋に入ってキレイな花を買うから「パパにくれるんだねvV」って言ったら「眼魔砲」だからね。ワケわかんないよシンちゃん…。
ブツブツ言ってたらシンタローの姿がちっちゃくなってたので慌てて追い掛ける。
「ココは…」
親友の、墓だった。
答えないでシンタローは花を供えて――
――親父を好いてやってくれてありがとよ――
そういう彼の横顔が、とってもキレイに見えて。見とれてしまった。
「ところで親父。アンタ、オレに嫌われたくないから黙ってたんだろ?」
「……」
(図星なんだな…)
「なんで喋る気になったんだよ」
「いやー、よく考えたらね。もし!仮に!万が一!例えばの話だけどね!」
「早く言えよヨ」
「せっかちさんめ☆
あのね、シンちゃんがパパのこと嫌いになっても、パパの傍を離れようとしても。そんなこと絶対にさせてあげないんだよね」
「はぁ?」
「だーかーらー。シンちゃんが万が一、パパから離れるなんていったら
鎖に繋いででも、私だけのモノにすればいーよね、と思って。
アハハハ」
「『アハハハ』じゃない!何か今サラリと怖いコト言われた気が」
「大丈夫大丈夫。シンちゃんがパパと一緒にいてくれさえすれば」
やっぱり、これ以上マジックについて知らない方が幸せなんじゃ…。
何だか前言撤回したくなったシンタローであった。
-了-
墓の主の髪と良く似た色の花を供えた。
帰ろうと思って、来た道を引き返す。と、その先に立っている男がいる。漆黒の、髪を風になびかせて――…
「シンタロー…?」
バカな、彼がここにいるはずが……。
「すまねぇ…どうしても教えてくれねぇから……」
私の後をつけてきたらしい。
「誰の、墓――?」
「……」
どう答えればいいのだろう。
二人の間に沈黙が流れる。会話なく、石畳を進んでいく二人。
気まずい。
そんなことがあってここ最近、お互いなんとなく距離を置いてしまっている。シンタローは尾行してしまったことを申し訳なく思っているようだし、マジックは再びあの問いを投げかけられるのを恐れているいるからである。
どうして言えるだろうか。
私がその存在を跡形もなく消した最愛の者
今でこそシンタローを一番愛している。これは絶対だ。けれど私は、自ら最愛の人の命を奪った。
あの日不安そうな顔をして立っていたシンタロー。できることなら教えてやりたい。
でも――…
いつかは、シンタローのことを殺してしまうかもしれない。
そんな告白をして、彼は今まで通り傍にいてくれるのだろうか。
怖い。
話したら、私の傍を離れていくのではないか――?
ごめんね、シンタロー。私は、お前を失ってはいけない。もしいなくなってしまったら、きっと生きていけないよ。
お前のいない世界なんて、何の意味もないのだから。
シンタローはあれ以来あの質問をすることができなかった。
あんな風に困ったマジックは見たことがなかったから。
でも、このままではダメなことだけは分かっていたから。
今思い切ってマジックの部屋の前なのである。
ドアをノックした。
「はーい、どなた?」
「…オレだ」
「!」
シンタローだ。
普段なら一番顔を見たい相手。
今は、一番顔をあわせたくない相手。
「ゴメン、シンちゃん、今はちょっと手がはなせない……」
嘘だ、と分かった。
「親父ッ!」
ビクリとした。大声に驚いたんじゃない。逃げるな、と言われている気がしたから。
「あの…サ、こないだは、その…探るようなコトして悪かった。
そんでさ…アレ、もう忘れてくれよ」
アレとは、きっとあの質問のことに違いなかった。
「辛いなら、言わなくていいから……
そんだけ。じゃあな」
扉から離れていく気配がする。
違うんだ。卑怯な私は辛い過去を話すのを躊躇っているんじゃない。
シンタロー、お前を失うことを恐れているんだ。
「シンタロー!」
「!」
「…ゴメンね」
「…もういいっつってんだろ」
いっそ罵ってくれれば良かったのに。
――アンタの隠しごとには慣れてる
その一言の方が胸に痛い。
シンタローにはたくさんの秘密を隠してきた。
たくさん嘘をついてきた。
口には出さないけれど、シンタローは嘘を嫌がる。言えるものなら言いたい。
やっぱり彼に秘密ばっかりなのは、辛いだろうから。
「シーンちゃん。今空いてるカナ?」
マジックがひょっこりシンタローの部屋に現れた。
「何だヨ」
「ちょっとお話したいコト、あるんだケド……」
「フーン。さっさと言えよ」
「こないだのコトなんだけど……話すよ」
「!!……っもう、その話はいいんだよ…ッ」
知りたいけれど
知らない
方が良い気がする
「聞きたかったんじゃないの?」
「べ、別に……」
おかしな子だと思いながら、
「パパの一番はシンちゃんだよ」
と言ったら
知ってる、って言われちゃった。自信過剰な子で困っちゃうなぁと思う。
「親友のね、墓だったんだ」
ポツリと言う。
「彼もね、『君を守る』なんて言っちゃってね」
お、お前はッ!言ってるそばからソレかよ!
アンタは前科がありすぎて信用できねーんだよ
内心ブーブー言っていたが
しかし次の一言に言葉を失う。
「殺したんだよ」
感情のこもらない声で言われた。
「本当はね、あの墓の下に彼は埋まってはいないんだよね」
「もういい…」
「だって跡形もないくらい……コナゴナに」
「分かったからッ」
「消した」
「やめろ!!」
泣きそうに、なっていた。
「フフ……怖くなった?私のコトが」
「ケッ、今更そんなことで。…アンタ人殺しまくってたクセに」
こう言ったら困ったように笑われてしまった。
アンタが、泣かないから……
抱き寄せられて、
優しいね、シンタロー。と呟かれて、ポンポンと背を叩かれた。
恥ずかしい奴……
「何で、話したんだよ」
「いやー、パパ隠しごとするとね、シンちゃん怒るから」
「怒ってねーよ!」
「まーたそんなこと言って。素直じゃないなぁ」あっ 何だかいつものペースに戻ってきたかも
「誰が!いつ!怒ったよ。言ってみろ」
「はいはい」
「…シンタロー。
こんな話を聞いても、まだ傍にいてくれる?」
怖いくらい真面目に言うと、シンタローは一瞬キョトンとした顔をして。そうして突然吹き出した。
「えー!!何で笑うのシンちゃん!ココ笑うトコ!?」
「バカじゃねーのアンタ」
「そうだよパパはシンちゃんバカだよ!!」
「ちがぁーう!
……言っとくケドなぁ、もうアンタの最低な部分なんて見飽きてんだよ。もうアンタがどれだけきたねぇヤツかなんてよーく知ってんだよ!」
「酷い言われようだね」
「何で信じねーんだ…もっと信じろよ!
今更何か出てきて驚くと思ってんのか!」
隠さないで欲しい。
アンタのこと、知らないことばっかりだなって、思ったんだ。
「分かったよ、もう隠しごとはしない」
お前がそう言ってくれるなら。
信じるよ。
「親父。今日空いてるか?」
「もちろん!シンちゃんのためなら詰まってるスケジュールも即・空けちゃうよ!」
ティラミスとチョコレートロマンスが聞いたら泣くゾ……、と言ってやろうと思ったが無駄なのでやめにする。彼らも御愁傷様である。
「何ナニ?シンちゃんから誘ってくれるなんて珍しいねー」
「あぁ、行きたいところがあるんだ」
嗚呼!シンちゃんとデートなんて何年ぶりだろうか。数えると悲しくなるから数えないけれど。胸踊るマジックである。
「あの…シンちゃん。一つ聞いていいカナ?」
「んー?」
「コレは……パパへのあてつけでしょうか?」
「あァン?」
だって、酷いよシンちゃん!久しぶりの、久しぶりのデートがだよ!
お墓って!そりゃないよ!
「文句あんなら、帰ってもいいんだゾ」
「わわ分かったよ!」
道中も花屋に入ってキレイな花を買うから「パパにくれるんだねvV」って言ったら「眼魔砲」だからね。ワケわかんないよシンちゃん…。
ブツブツ言ってたらシンタローの姿がちっちゃくなってたので慌てて追い掛ける。
「ココは…」
親友の、墓だった。
答えないでシンタローは花を供えて――
――親父を好いてやってくれてありがとよ――
そういう彼の横顔が、とってもキレイに見えて。見とれてしまった。
「ところで親父。アンタ、オレに嫌われたくないから黙ってたんだろ?」
「……」
(図星なんだな…)
「なんで喋る気になったんだよ」
「いやー、よく考えたらね。もし!仮に!万が一!例えばの話だけどね!」
「早く言えよヨ」
「せっかちさんめ☆
あのね、シンちゃんがパパのこと嫌いになっても、パパの傍を離れようとしても。そんなこと絶対にさせてあげないんだよね」
「はぁ?」
「だーかーらー。シンちゃんが万が一、パパから離れるなんていったら
鎖に繋いででも、私だけのモノにすればいーよね、と思って。
アハハハ」
「『アハハハ』じゃない!何か今サラリと怖いコト言われた気が」
「大丈夫大丈夫。シンちゃんがパパと一緒にいてくれさえすれば」
やっぱり、これ以上マジックについて知らない方が幸せなんじゃ…。
何だか前言撤回したくなったシンタローであった。
-了-
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