結婚式はいつ始まっていつ終わったのか
私は何も覚えいていないよ
思い出だけが走馬燈のように駆けめぐり
私はずっと目を閉じていた
〇歳 女の子だというので少々ガッカリした
二歳 病気がちで苦労させられた
四歳 幼稚園で一番美人だと鼻を高くし
六歳 桜の下の入学式の写真
八歳 ママどうして結婚したのだと聞き
十歳 そろそろ風呂に入れるのがはばかられ
十二歳 男の手紙がみょうにふえてきて
十四歳 男女共学が危険に思われる
十六歳 ミス高校に選ばれて苦労が増え
十八歳 優しさあふれた 女学生
二十歳 「結婚はしません」と口ぐせのように言い
二十二歳 コロリと裏切って結婚してしまう
結婚式はいつ始まっていつ終わったのか
私は何も覚えいていないよ
思い出だけが走馬燈のように駆けめぐり
私はずっと目を閉じていた
――――阿久悠作詞 『22才まで』より
「パパぁ……どうしたの? なんでないてるの?」
「うん……この歌聞いててね、ちょっと…………」
「かなしいうたなの?」
「ううん……悲しいんじゃなくて、いつかシンちゃんもパパじゃなくて、
他の人の所に行っちゃうと思うと寂しくてね……」
「ぼくいかないよ! ずっとパパのそばにいる!」
「本当かい?」
「ぜったいいかない! ヤクソクする!!」
「じゃぁ……約束だよ? シンちゃん……ずっとパパのそばにいてねv」
「うん!」
「――――なーんてことがあってねぇ……」
「……何かつっこみたいところは色々あるが、とりあえず鼻拭け鼻。」
額を押さえつつ、ティッシュを指さすハーレム。
「あ、ども。」
「で――――結局! アンタは何が言いたいんだ?」
「うちの子って優しいだろうv」
「………そーだな。」
「やっぱりぃ?」
でれでれ鼻の下を伸ばしまくって久しぶりに実家を訪れた弟にのろけまくる兄。
――――ったく。大事な話があるって言うのに……こんな話を先に聞かされるとは……
今日の用事が見破られ、先制パンチを食らったような気がしたが、
とりあえず兄のペースに巻き込まれるわけには行かない。
ここで話の腰を折っておかないと。
「ところで兄貴、ちょっと渡したい物があるんだが、しかも大量に」
「ん? 何を?」
「これだっ」
どさっ!
机の上に大量の冊子が置かれる。
「何だいこれ……? 見合い写真?」
そう、銀箔が押された白の表紙に輝く金色の『寿』の文字。
間違えても寿司屋の出前メニューではない。
それが少なく見積もっても30冊。
「身を固める決心でも付いたのか?」
「俺じゃねぇ……シンタローだ。」
「は?」
きょとんと珍しく惚けたような顔をするマジック。
ハーレムはそれを無視して説明を一気にした。
「今回の遠征でふと思ったんだが、シンタローももう28才。
いい加減身を固めてもいい頃だな。」
「ハーレムだって40過ぎでどk「第一シンタローは現総帥だしな。跡継ぎは必要だろ?
他の奴らの子供を跡継ぎにしようとしても!
俺は一人に縛られるつもりはねえし、サービスは忌々しい犬と認めたくないが恋人同士だ!
グンマは結婚以前に精神的な成長がまだまだだしキンタローとくっつくだろ多分。
アンタは流石に……2人目を選ぶ気はないようだし
……コタローだってこれから先、目覚めるとは限らねぇ。」
「だからといって……」
「養子っつー案は却下! 血がつながっていないと青の一族の力はない。当然だがな
――――さて、そうなるとどうするのがいいんだ?
言って置くがこの組織をつぶすってのはナシだぞ流石に。
俺達はもちろん、団員を路頭に迷わせるつもりか?」
「………………………………………………」
言葉に詰まるマジック。
じっとハーレムが持ってきた見合い写真をにらんでいるが、力を使って消す気はないようだ。
マジックも悩んでいるのだろう。
「ま、形だけの結婚、ってのもアリだけどな。
けど、あんたが息子に幸せな結婚してほしいってのなら…………」
「私は…………」
「シンタローだってもう子供じゃねぇ。
いい加減子離れしたらどうだ?」
「…………………………………………………………」
「ま、その見合い写真は置いておくからな。なかなか粒ぞろいだぞ。
早めにシンタローに見せとけよ」
言いたいことだけを言って、押し黙ったマジックをそのままにして、ハーレムはマジックの自室から出ていった。
………………シンちゃん……やっぱり……他の人のところに行った方がいいのだろうか?
……私は……シンタローの……じゃまをしているだけなのか?
この日から1週間前後、シンタローはマジックの姿を見ることがなかった。
――――一体どういうつもりなんだ!? あの親父!!
3本目の万年筆を壊した時点で集中が完全に切れ、シンタローは父親に毒づいた。
最近マジックが総帥室に訪れなくなったのだ。
以前は毎日、決まった時間に仕事中の総帥室を訪れさんざん邪魔して帰っていったのだが。
――――いきなり来なくなったせいで休みを取る時間がわかんなくなっちまったじゃねーか!
マジックが総帥室を訪れるとき、必ずと言っていいほどおやつと一緒だった。
餌付けされているわけではないが、父親が作るオヤツは美味い。
無駄にしちゃダメだという口実で『父親が来る=小休止』となっていた。
それがある日突然、はたとなくなった。
最初の日はそれに気づかずに、肩がやけにこったと思ったら、
いつも父親が来る時間を2時間ほど過ぎていて、愕然とした。
父親に何かあったのだろうかとティラミスに聞きに行かせたら
(ちなみに悔しいので自分で行く気はなかった)
「マジック様は元気でいらっしゃいましたが、なんか…………」
そこで言葉を濁されてしまう。
次の日も、その次の日もマジックは来なかった。
病気とかそんなわけはない。もしもそうなら医務室に行っているはずだが、
少なくともここ最近の記録には残っていなかった。
一度、朝イチで食堂に行って、マジックがくるのを待っていたが、来る様子は全くなく、
結局、2時間ほど無駄にしてしまったこともある。
ちなみに、その後の調査で廊下でじっと食堂の様子をうかがうマジックがいたとの報告を受けた。
シンタローが出ていった後、すぐに食堂に行ったという。
夕食はマジックが総帥室に持ってきて、一緒に食べたりしたこともあったのだが、
もちろん、仕事が残ってない日は自室で。
総帥室に差し入れするのは、某レストランのシェフになっていた。
味はこちらの方が上だが、慣れてないせいでどうも胃にもたれる気がする。
慣れていないせいか、はたまた他に原因があるのか考える気はなかったが。
そしてとうとう昨日、いい加減堪忍袋の緒が切れかけてきて、
電話を……自分のだと向こうに名前と電話番号が出て、電話に出てくれないだろうから、ティラミスのケータイを借り、マジックの自室にある電話にかけてみた。
『もしもし? ティラミスか? 何かあっ』
「おれだ」
『シンちゃん!?』
「アンタ最近なn『あゴメンッ! 今カップラーメン作ってるんだ!後でね!』ガチャッ
「ちょっと待てーっっ!
そんな今時どこのセールスマン撃退法マニュアルにも書いてないような方法で…………」
ツーッツーッ
無情に音が鳴る電話に向かって怒鳴ってみてもどうにかなるわけではないが、そうせずにはいられなかった。
「ったく…俺にどうしてほしいッてんだよ…………」
4本目の万年筆を手に取り、書類にサインする気力もなくクルクルと指の上で回す。
――――いきなりこう来られたら、開き直るか、ずっと我慢し続けるしかねーじゃねーか。
その夜。
マジックの部屋。
――――コレ……どうしようか……?
マジックの目線の先には38冊の見合い写真。
ハーレムの言うとおり、下は18才の幼さの残るお嬢さんから、上は30半ばの妙齢の女性まで。
いずれも見目麗しく、マジックでも『この子ナカナカ……』と頷かざるをえないメンバーだった。
しかし、彼女らのうち誰かに自分が手塩にかけて育てた息子を持って行かれるとなると話は違ってくる。
「はぁ……」
最近……ハーレムが来てからため息が増えた。
弟が言うことにも一理あるからだ。
「跡継ぎ……ねぇ?」
秘石がなくなり、一族だと証明する物はこの秘石眼しかなくなった。
最大にして唯一絶対の証拠である。
秘石眼を持っていることが、力の絶対的な証明となるのであれば、養子を取るなど無理だろう。
「はぁ…………」
――――シンタローと、他の誰かとの間に産まれた子供か……。
確かに、人の親として見てみたい気もするが、
――――他の人にあげたくないしねぇ……
ふと、机の上に視線が行った。
机の上の……電話に。
昨日、愛しの息子からかかってきた電話。
本当はもっと話をしたかった。声を聞きたかった。
大好きだよと、愛していると前のように話せたら。
電話を取り、相手の声色を認識し――――目に入ったのが、見合い写真だった。
気づいたら、自分でも訳の分からない言い訳を口に出し、直ぐにきっていた。
「……………………馬鹿だねぇ……私も」
何度『この部屋に来るな』『人形を作るな』『そばに寄るな』『キスするな』『大ッ嫌いだ!』と言われても、本心じゃないと感じていた。
シンタローも、心の底では自分を好いてくれていると。
そう思っていたし……今も思っている。
お互いに親離れ、子離れしていない親子。
親以上、息子以上の感情を持っている二人。
そう思っていた。
――――ソレが……間違いだったのか?
私は……シンちゃんのそばにいない方がいいのか?
私がいない方が……シンちゃんは……シンちゃんにとっては幸せなのか?
自分は子供が出来てとても嬉しかった。
異端だといわれても、出来損ないといわれても、自分が息子を愛しているなら、ソレでいいじゃないかと。そう感じた。
――――自分の息子に、ソレを味わわせてやれないのは……
……息子を不幸にしていると同じコトなのか?
「……………………やめよう」
これ以上考えたらどんどんド壷にはまっていく……。
そう判断し、マジックは頭をすっきりさせるためシャワー室に向かった。
「ふーっ。」
だいぶのびた髪の水気を乾かすように、実際には少しでも頭の中を整理するために、軽く頭を降ってみる。
――――最近……老けたかな……
バスルームの鏡を覗き込み、そんなことを考え込む。
――――気は若いつもりだったが……やっぱりシンちゃんに会えないのは堪える……
下着とパジャマを身につけ、しみじみと思ってみたり。
「はぁ……」
――――明日は……どうしようか……
いつもなら朝起きたら、オヤツはどうしようか、晩ご飯は何を持っていこうかと年甲斐もなくうきうきした物だったが。
ソレがなくなると、生活にハリが無くなったように思えてしまう。
――――このままじゃすぐにボケるな……
髪を雑に拭き、櫛で丁寧に解かして部屋の電気を消してベッドに潜り込む。
最近作ったシンちゃん人形1/2サイズをきゅっと抱き留めて。
――――今日は……ちゃんとご飯食べたのかな……
しっかり寝てるかな……もう……布団に入ったかな……
暗い部屋は、今の自分の心情そのものだった。
オーディオ機器の表示のみが真っ暗闇になるところを寸前で止めている。
それでも、何かを探すとしたら――例えば……電気のスイッチとか……――手探りで足下に注意しつつ探さなくてはいけないだろう。
――――会いたいなぁ……
1週間以上。こんなにつらいとは思ってもいなかった。
真っ暗で、誰もいない部屋。慣れているはずなのに、天井の闇に飲み込まれそうだ。
ソレが……不安に感じさせる。
シンちゃん人形をさらに力込めて抱きしめ、ともすれば泣いてしまいそうな自分にカツを入れる。(おいおいおいッ元殺し屋集団総帥ッ!)
――――コレが……本物のシンちゃんだったら…………
「シンちゃん…………」
「呼んだか?」
不安に押しつぶされそうで、弱々しい声でとうとうぽつりと呼んだその名前。
即座に、来るはずもない返事が返ってきた。
さては目の前の人形かとマジックは目を凝らしてみたが、人形がしゃべる訳などない。
――――なら一体……?
そのとき、ベッドの横で何者かの気配がした。いや、気配どころか、部屋の電子機器のあえかな光を受け、シルエットが闇に浮かび上がる。
スラリとのびた長身に、うっすらと開いた窓から流れ込んでくる風にわずかになびく長い髪。
「シン……ちゃん…………?」
目の前の光景が信じられなくて、混乱していて、呆然とそのシルエットを見やる。
パチン
シルエットが動き、小さな音がして、闇の中に光が浮かび上がった。ベッドの側に置いてあるスタンドライトの光が。
「いよぉ。」
光に照らし出されたのは、見間違えるはずもない、最愛の息子だった。
「…………シンちゃん!? 何でここにっ!?イヤッ! 一体いつからどうしてこんな所にっ!!」
毛布を蹴飛ばし、慌てて上半身を起こす。
「アンタが、風呂入ってる間に、ベッドの下に潜り込んだんだよ。
って言うか気配で気づけよ。もうろくしたんじゃねーか?」
「…………」
――――確かに、いつもなら気づくはずだ。そんなベッドの下に隠れていれば。
イヤ、逆に盲点になっていたのかもしれないが。
自分に言い訳をして、マジックは次に質問をした。
「どうやってここに入ったんだい? 鍵はしたはず……」
「原始的な鍵じゃなくって、電子ロックだからな。
グンマに頼んでセキュリティに進入してもらったんだよ。アンタが風呂入ってる間に」
「お風呂?」
「アンタの風呂場は外に面してるだろ。
外側の窓に、高性能の盗聴器を取り付けて置いたんだよ。
ほら、今日窓ガラスの清掃業者が来たはずだぞ。」
「…………あれって……」
「ふ……髪をまとめて一本に縛って帽子の中に入れてサングラスしてマスクして……
ついでにゴム手袋してりゃぁ、流石のアンタもわかんねーだろーな。」
「何か怪しいと思ってはいたが……」
「ってかその時点で指摘しろよ。まぁ助かったけど……」
「――――で……」
とりあえず質問はなくなったので、重要なことを聞く。
「いったい何でこんなマネ……」
「ソレはこっちのセリフだクソ親父」
がっし
マジックの胸ぐらつかんでぐいっと顔を近づけるっ。
――――あ゛ー近くて嬉しいけど今はやめてぇえっ
心の中で叫ぶマジック。
「昨今のアンタの行動……しっかり説明してもらおうかぁ……え?」
「は……はひ…………」
説明中…………
「つまり――――」
一通り説明し終え、シンタローに例の38冊の見合い写真を渡し、ベッドの上で正座する父親。
ソレを珍しく見下ろし、額に青筋浮かべつつ手に持った写真を冷ややかに見下ろす息子。
「ハーレムの気まぐれを真に受けての行動だったと……」
「パ……パパはシンちゃんのためを思って断腸の思いd「おれはな!?」
「はいっ」
「アンタがよけいなコトしたせいで万年筆は5本無駄にする、飲んでも酔えない、横になっても眠れない、
おまけにこの春風吹きすさぶ中、壁にへばりついて慣れない作業したんだぞっ!!!」
「こ……後半はシンちゃんの計画が悪かったんじゃ……」
「一応過ぎたことだからまぁいいとしよう!で・だっ!!」
「はい……」
「――――アンタは俺にどうしてほしいんだ?」
「……………………………………………………」
「身を固めてほしいのか? 孫の顔が見たいのか?
団のことを心配することなく涅槃(ねはん;あの世)に行けるようにしてほしいのか?」
「涅槃……(汗)」
「ど・う・な・ん・だ!?」
「私は………………………………」
――――私は…………
目をつむって、ゆっくりと考えたいのだが、ソレは目の前の息子が許してくれそうにない。
ならば――――
「シンちゃんにはずっと私の息子でいてほしい。
他の誰にも……たとえソレがシンちゃんが認めた人であっても、渡したくない……。」
シンタローの眼を真っ向から見つめていった言葉。
前は簡単にいえたはずだが、何故かここまで追いつめられないと言えなくなってしまっていた。
「ふん。最初ッからそういえば良かったんだよ」
軽く息を吐き、くるりときびすを返すシンタロー。
「あ……シンちゃんは?」
帰りかけた息子を慌てて引き留める。
「俺が好きなのはたくましい奴だ。少なくとも、息子のぬいぐるみ抱いて泣いてるような奴じゃない。」
「泣いていた訳じゃないんだけどね。」
ぽりょぽりょと頬を書きつつ苦笑い。
「前のアンタみたいな奴ならな……別に嫌いじゃねぇぜ」
「どうも。じゃぁ……また明日ッから今まで通り」
「イチゴソースたっぷりのミルフィーユで手ぇうってやる。」
「了解。じゃぁ明日の昼に……」
「ああ。…………おやすみ」
「おやすみ」
「――――で、どうだった? 何か気に入った奴はいたのか?」
さらに2日して、ハーレムがやってきた。
数日前見た時と比べて、やたら肌がツルツルすべすべになっている兄をいぶかしく思いながら、写真の感想を聞こうとする。
「イヤ……いいよ。やっぱり私もまだまだ子離れできないみたいだし……する気もないし。」
「おい……」
「跡継ぎに関しては……とりあえず、コタローに携わっている医療メンバーを増やして、研究設備も充実させるということで。
何とかなると思うよ」
「おいおいおい…………」
「いざとなったら、体外受精でハーレムと誰かの」
「ちょっと待てぇいっっ!」
「ソレがイヤなら、ジャンを薬かなんかで女性にでもしてもらって、後はサービスにがんばってもらおう」
「鬼だなアンタ……」
「はっはっはv」
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後書き;
本当はもっと痛すぎる話になる予定でした。
しかし、パソコンで打ち込んでいると
「そんなシリアス誰が面白がって読む~
貴様に似合うのはギャグじゃぁ……ギャグを書けぇええ……」
と、天の声が聞こえまして。(ちなみに私はクリスマスも祝えば初詣にも行く典型的日本人です)
とりあえずこうなってみました。
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