「シンちゃん……シンちゃん……」
「……んぁ?」
自分の名を呼ぶ声に、シンタローは目をうっすらと開いた。
――――なんだ……? 時間は……0時……か。
昨日はマジックにしては珍しく、早くシンタローを解放してくれたので、シンタローは久しぶりにその日の内に眠ることが出来た。
もっとも……こんな早く、その日になったとたんに起こされては意味がないのだが。
「起きたかい?」
「まぁな。」
自分の体を抱きしめ、にっこりと笑う父親。
その笑顔と直接触れる相手の素肌が照れくさくて、シンタローは、まだ眠い振りをして顔を伏せ、表情を隠した。
「何なんだ? こんな時間に……俺はまだ眠い……」
ぶつくさ文句を言うと、マジックはソレを無視してシンタローの頬に口づけた。
「お……おい……ッ」
まさか続きをやる気かと慌てて引く。
流石に今日くらいは体調は万全でいたい。
今日は……
「お誕生日おめでとうv」
「……どうもよ」
そう、今日は5月24日。
29年前の今日、シンタローはこの世に誕生した。
一族の中でも異端とされる黒い髪と眼を持って。
「どうしても君に一番最初に『おめでとう』って言いたくてね。我慢できなかったんだ。
変な時間に起こして悪かったね。」
「まったくだ。」
あくびをかみ殺しながら言う。
「一応ありがとさん。けど、この年になったらそうめでたい物でもねぇだろ?」
「とんでもない」
やや芝居がかかった口調でマジックは目を見開き、布団の中に入っているシンタローの手を握りしめた。
「??」
ベッドの中でマジックが手を握って来るというのは……少ないというわけではないが、いつもなら腰や肩、背中に手を回す。
マジックは握った手を引っ張り、両手で暖めるように包んだ。
「誕生日プレゼント、すぐ渡したくてね。早く今日にならないかなってずっと起きてたんだよ」
「はぁ……」
寝起きでちょっと頭が回らないせいか、どうもピンとこない。
「昨日は……ぐっすり眠ってたみたいだね」
くすくすと笑いながらマジックは楽しそうに眼を細めた。
「誰のせいだよ」
半眼で呻く。
「手……見てごらん?」
名残惜しそうに手の甲と指を軽くなでてから、重ねていた方の自分の手を離す。
「ん……? あれ?」
包まれていた左手になにやら違和感。
ぱちんと小さな音が響いて電気スタンドが灯る。はなした方の手でマジックがつけたのだが。
「……指輪……?」
「そ。」
シンタローの左手の薬指にはまっていたのは、とろりとした乳白色の石がはまった指輪だった。
石自体はただの球体だが、スタンドの光を受けて波を打ったような不思議な光沢を生み出している。
リングの部分も細い銀糸を複雑に絡み合わせたような凝った作りになっていた。
「ムーンストーン。5月24日の誕生石だ。
今日になると同時に、寝ている君の指にはめて……」
再びシンタローの手を優しくなでながら、マジックは眼を細めて言葉を紡いでいく。
「本当なら、いつ気づくか、いつ気づくかって楽しみにするはずだったんだけどね、
どうしても我慢しきれなくて……
それに、君だってすぐに気づくだろうし、そのとき私がそばにいなかったら、何となく損したような気になる……
って自分に言い訳をして、今、君を起こしたんだよ。ごめんね。まだ眠たかったろう?」
「冴えたよ」
それだけ返事をして、自分の薬指にはまった小さな指輪を見つめた。
指の角度を変えるたびに、石の表面に筋が浮かんだり、かと思うと石の内側に光が灯ったような幻想的な絵になったりと、コロコロ変わる表情を楽しむように指をじっと見る。
「……俺の薬指にはめたってコトは……」
やっと石から眼を外し、マジックの表情を伺うようにそちらを見やる。
「うん。もちろん私のもあるんだけど……」
何かを期待するような眼でシンタローの眼をじっと見つめた。
「貸せ。はめてやる」
「どうも」
苦笑しながらマジックは枕元から指輪のケースを取り出した。
濃い藍のケースの中に入っていたのは、シルバーリングの作りはシンタローと同じ。
はまっている石は……
「ルビー?」
にしては紫がかかっている。
ちょうどヘリオトロープを薄くしたような、ピンクの石だった。
「私の誕生石。ソフトピンクジルコニア……私には合わないかなーっておもったんだけど……」
「確かに」
この男に会うのは真っ赤なルビーかガーネット。あるいはブルーダイヤだろう。
「ま、いいか。手ぇだしな」
「はい。」
年を感じさせないスラリと伸びた指に健康そのものの爪。
たまに若者の生気を吸ってんじゃないかと思う時がある。
左手を添えて、右手でゆっくりとマジックの薬指にはめていく。
「似合うかい?」
「……アンタの色じゃねーな」
照れ隠しにぽふッと胸に顔をすり寄せて表情を隠した。
「そう言えば……」
ふと思い出したようにシンタローが呟く。
「石にも花みたいに何かメッセージがあるんだよな」
「宝石言葉だね。もちろん調べてあるよ」
「…………」
女ではあるまいし、シンタローはそう言ったことに興味はないのだが、マジックが話したそうにしているので、とりあえず何も言わないで置いた。
「君のムーンストーンは『計画』」
「けいかくぅ? 何かあわねーなー」
「そうかな?」
何か不満そうな顔だが、マジックは何となく納得していた。
青の一族全員を巻き込んだ大事件。
色々ありすぎて、どこがどうだったのか渦中にいた人間ですら混乱してしまったけれど、
――――結局平和な形で……この子が望む形で一応は終わりを告げた。
「君が望んだから、あの事だってもう過去のことになったんだと思うよ?」
「計画なんか立ててねーぞ」
「頭の中で考えるんじゃなくて、君がこうした方がイイのにって思うこと自体が君の立てる計画なんだよ」
「……もっとわかりやすく話してくれ」
「君は計画なんか立ててる気はないんだろうけど、感覚で『こうした方がイイ』って選んだ物が、結局は最良の手段なんだよ。」
「……そうか?」
まだ不満そうな息子の髪をなでながら、マジックは思い出すように一言一言、ゆっくりと言う。
「以前……コタローが私を殺そうとしたとき、君は私をかばってくれただろう?」
「あー……ソレはー……でも結局なんにもならなかったろ?それどころか別に俺がかばわなくてもアンタは避けられただろうし……」
「でも結果的に君は生き返った。
もしも私がコタローの攻撃を避けるだけだったら、まずキンタローはずっと君の中にいた。
赤の秘石を探すこともなかった。ジャンに会うこともなければ、サービスもずっと苦しみ続けるだけだった。
君がとっさに選んだ手段が、最良の手段だったんだよ?」
にっこりと告げると、シンタローは目を伏せ、互いの左手を身ながらポツリと。
「…………かいかぶりすぎだ」
今度はマジックも何もいわずに、ただほほえんでシンタローを抱きしめた。
「そう言えば……アンタのピンク……ジルコン……?だっけか?宝石言葉は何なんだ?」
「ソフトピンク・ジルコニア。宝石言葉は……」
そこで初めて言葉を詰まらせる。
「?どうした?」
「…………………媚薬」
「……………………………………」
「ああ、別に何も言わなくて言いよ言いたいことは大方わかるから
『何でそんな危険な物を』とかって言いたいんだろう?
自分でもそう思ったよ。せめて『愛の~~』とか言うのだったら良かったのに」
一気にまくし立てるマジック。
「いや――――」
マジックにとって意外なことに、シンタローは落ち着いた声でマジックの左腕の指を、自分のソレと搦め、体をすり寄せた。
「シンちゃん?」
いつもだったらまずお目にかかれない仕草に逃すまいと戸惑いつつも反射的に抱きしめる。
するとすぐにマジックの唇に柔らかい物が触れた。
世にも珍しいシンタローからのキスは直ぐに終わってしまったけれども。
「アンタにぴったりだと思うぜ?
俺は……アンタとこーゆーことするのもされるのも嫌いじゃねーし……」
「シンちゃ「TPOさえ考えてくれればな」
「あう」
もちろん、しっかり釘を差すことも忘れない。
「はふ……」
シンタローが欠伸をかみ殺すと、マジックは下がってしまった掛け布団をシンタローの肩まで引っ張って再び体を抱きしめ直す。
「眠いかい?」
「ん……別に大丈夫……」
そうは言うがシンタローの眼はとろんとしてきている。
「寝た方がイイよ。明日……今日も早いんだから。起こしてゴメンね」
「……わかった……お休み……」
「お休み……ソレと……」
「?」
「これからも……ずっとよろしく」
「ん……。」
シンタローの口から、静かな寝息が聞こえたのはそれからすぐ。
最後に交わした二人の約束が確かだと言うことは……硬く組み合わされたお互いの左手と、そこで輝く石が証明している。
ありえねぇ……(禁句)
さて、今回の素材は 様から頂いております。
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