――――ということで、100000ヒット記念小説 『マジック×シンタロー』お楽しみ下さいませv
***************************************************************************
寒い。
いくら冬とは言え、布団をかぶっているのに寒い。
汗は出ているのに寒い。
つまるところこれは、
「38度5分。
完全に熱だねぇ。」
「……そうか。」
体温計の表示を見ている親父は何故か白衣だ。
聴診器も付いている。
友人が言うには、『医者は患者には優しいが、身内の病気には冷静だ』らしい。
そりゃたしかに。
レストランのマスターが『自宅の分まで料理作り何かやってられるか!』となるように、医者だって、例え身内といえど病気には見慣れているだろう。
ましてや身内ともなれば、多少冷たくしたところで、そうそう簡単に縁が切れるわけでもない。
だから、友人のこの台詞には大いに納得した物だ。
つまり、身内の病気に真摯な態度で接してくれるこの父親は、ある意味珍しいのかもしれない。
んが。
物事には限度という物がある。
「何でいきなり白衣なんだよ」
「患者を診るときの礼儀だろう?」
「……そうか。」
色々言いたいことはあったが、諦めてオレは力を抜いた。
「シンちゃん起きあがれる?」
背中に手を当てられながらゆっくりと上半身を起こす。
「じゃぁちょっと失礼。」
パジャマの裾がめくられる。
胸部を露わにされたが、暖房が効いているので寒くはない。
冷たい聴診器が当てられ、僅かに身じろいだが、親父はそんなこと気にせず聴診器を胸の上で滑らせていく。
……何で医者というのは、どんな性格の人でも、診察中は無言になるんだろう。
まぁ聴診器を当てられながら『ありゃ?』とか言われるよりは良いが。
心音を聞いてるときの親父の顔はずいぶんと真剣で、何を考えているのか全く見当も付かない。
普段見せるおちゃらけた表情とは違うため、オレは少し緊張していた。
無言のまま聴診器を外し、腹の上を軽く指で押してくる。
何か……空気が持たない。気まずい?
「はい、あーん」
「んぁ」
胸ポケットからビニール入りの木べらを取り出し、口の中を検診される。
「うーん……ちょっと喉も荒れてるなぁ……
あまり刺激的な物は食べられないか……」
「はぁ……」
「ま、ただの風邪みたいだから、今日一日ゆっくり過ごすことだね。」
ぽんっと肩を軽く叩かれ、そこで診察は終わった。
「……オレが風邪引いたのは半分以上アンタの所為だと思うんだが?」
「まぁまぁ。あ、そうだ。」
「あ?」
「解熱剤は飲んだし、もうすぐ眠くなるだろうけど、
熱が出たときはなるべく体全体は暖めて、部分部分は冷やした方が良いんだ。」
そう言って親父は、なにやら巾着を3つ取り出した。
「氷をビニール袋に入れて、冷たくなりすぎないように包んだんだよ。
脇の下とかに入れて、体を冷やすんだ。」
「そうか……」
ボーっとした頭で親父の動作を見つめる。
布団をめくり、脇の下に氷の入った袋をおく。
んー……気持ちいいかも……
残りの一袋を持ち、更に布団をめくって……
「ちょっと待て。」
「え?」
「……それをどこに置く気だ」
「……………………あのねシンちゃん。
精子は40度以上の熱でダメになっちゃうから、
男の子は熱が出たときにココを冷やすんだよ?」
「……40度もねえだろが!」
「でてからじゃ遅いだろう!!?」
「やかましいわ!くぉのセクハラドクハラ親父!」
慌てて体を起こし……
「あぅう……」
そのまま力無く布団に沈む。
「はい。残念でした。
ココは医者の私に任せてv
生兵法はケガの元。」
「くっそぉおおお……」
うー…………
下半身が冷える……
いや、ぶっちゃけヒンヤリしてちょっとはいいんだがな!?
こう精神的な物というか何というか……
まぁタオルにくるまれてるから冷たすぎるということもないし……
ずちゅーと親父が持ってきたスポーツドリンクをすすりながら、オレはだるい体を持て余していた。
(熱が出たときは汗をかくので、大量の水分接種を!水よりスポーツドリンクの方が良いです。)
喉は渇いていないと思ったが、気が付いたら500mlペットボトルが一本空になっていた。
あー……だりぃ……
ペットボトルを適当に、ベッドの脇にでも置き、再び体を横にして、目を閉じた。
目が覚めたのは、外は真っ暗という時間。
キンタローとグンマ、ついでに親父がいた。
「起こしたか。」
「まったく。だからここに来ちゃいけないよって言ったじゃないか。」
「ごめんなさいお父様。
でもどうしても心配だったの……」
「どうせ貴様が原因なんだろう?」
バレバレじゃねーかよ……親父。
や、まて。
丁度良かった。キンタローに聞きたいことが。
「キンタロー……あのさ……」
「文化祭のことなら、オレ達のクラスは喫茶店だ。
お前はウェイターでも厨房でもどっちでも問題はないだろうが、一部の要望によりウェイターだ。
オレとグンマもな。」
「そうか……あ。ソレと」
「社会学のプリントは受け取って置いた。
英語の発表は来週に持ち越しだな。
それと、数学はグンマにノートを写させてもらえ。
今回はミニテストはなかったな。」
「……………………どうもよ」
「……以心伝心だねぇ君たち……」
「双子だからな。」
「……2卵生なのに!!」
「それでも十月十日分だけ貴様よりも長く一緒にいる。」
「ふ……ふんだっ! だったら私だって夜の分だけシンちゃんと一緒んべっ!」
全身の力を込め(それでも普段の力に及ばないが)オレは枕を投げ飛ばした。
「よけいなことを言うな……」
「大丈夫だよシンちゃん! 僕たちみんな知ってるからさ!!」
「今さら隠すことでもない。気にするな。」
気にしろ……
ってかソレはフォローになっちゃいねぇ。
「ッてことは2人ともいつも覗いているのかい!?」
流石に慌てたような声に、
「あぁ!シンちゃんのあんな姿が私以外の人間に見られるなんて……!
いくら身内といえど、……いや!身内だからこそちょっと苦しいかもしれなかったりなんかしちゃったりして!」
……語尾についてはいちいちつっこまんが、
何か微妙にポイントがずれているような気がするのは何故だ!?
「声が時折漏れてる。
……しっかりドア締めろ。」
何ですと――――!!?
「あ、なんだ。覗いてたわけじゃないのか。」
「そうだよ。僕たちだってお父さんと兄弟のベッドシーンなんて見たくないもん。」
グンマ正論。
って声がって……
「そう言えば……シンちゃんの部屋に入ったりすると嬉しくてついつい戸締まりなんか気にしなくなっちゃうな。」
気にしろ!!
そう突っ込みたかったが、兄弟にまで知られていた、あまつさえ聞かれていたと言う事実に、オレの思考回路はショート寸前。
「お父様、ところでお腹空かない?」
人が人生最大のショックを受けているのにメシの心配かグンマ……。
「そうだね……そう言えばもうそんな時間か……」
「オレいらねぇ……」
半分ふてくされてそう言う。
「えー!? ちゃんと食べないと治る物も治らないよー!?」
「そうだけど……気分が悪くて食えそうにねぇんだよ」
「参ったなぁ……そんなに調子悪いのかい?」
う……ソコまで心配されると……
「い……いらねぇって。
どうせ明日には今日の分も沢山食うんだから、気にすんなって」
「でも……」
渋るグンマ。
「わかった。じゃぁ私達は適当に何かするから、シンちゃんはしっかり寝ているんだよ?」
「お父様!?」
……簡単に頷きやがったな。
「本人が食べたくないと言っているんだ。仕方ないだろう」
「キンちゃんまで……!」
心配そうにこっちを見てくるグンマとは対照的に、マジックとキンタローはさっさと部屋を出ていってしまった。
……………………別に良いけどな。
目はさえてしまったが、瞼を下ろし、文化祭のことを考える。
そうか……オレ達のクラスは喫茶店か……
どんなメニューになるんだろう……
まさか飲み物だけってコトはねぇよな。
サンドイッチとかの軽食は大丈夫だろうけど……
ラーメンやカレーがギリギリってトコロか。
……だったらその辺のヤツじゃなくて、俺に任せてもらいたいもんだな……
オレがウェイターか……
ったく……接客は苦手だっつーのに。
はぁ……
腹減ったな。
くっそぉおお……
何で病人なのにこんなひもじい思いせなあかんのじゃ!
ソレというのもアノ親父が夜遅くまで人をさんざん良いようにするから悪いんだ!
アンタの所為でオレは熱が出たんだぁあ!
腹が減ってるのはアンタのせいなんだぁあああああ!!
……元気になったら覚えてろよ……!
1週間くらいお預けしてやる!!
……ぐ~~~……
あうぅ……
布団の中で丸まって枕を抱きしめつつ無理矢理寝入ろうとする。
が、さっきさんざん寝た所為であんまり眠くない。
あぁもぅ……
ドアに背を向けた状態で、必死でオレは目を瞑った。
コンコンコンっ
『シンちゃん? 寝ちゃったかな?』
…………親父の声がしたのは、それから少しして。
「勝手に失礼するよ?」
ドアが開いて親父の声が壁越しではなく聞こえる。
と、同時に良い香り。
そちらを振り向くと、なにやらお盆を持った親父がいた。
「食べやすい物をって思ってシチューにしたんだよv
野菜とか溶けるほど煮込んでいたから遅くなっちゃったね。ごめんね?」
確かにこの香りはクリームシチュー。
「あ……でも…………」
「ん?」
「グンマ達と食事してたんじゃないのか?」
「あぁ、グンちゃん達は適当に外で食べてくるように言ったんだよ。
シンちゃんはいらないって言ったけど、何か食べた方がイイに決まってるからね。」
「今まで作ってたのか?」
「まぁね」
もしも『作るよ』なんて言ったら、俺はますますごねただろうし、
キンタローも同じ事を考えていたのだろう。だからあっさり引いた。
でも……
「……あんた食事は?」
「シンちゃんが食べ終わった後頂くよ。
まずは君からだ。」
「…………でも」
ベッドの脇にワゴンを置き、その上のシチューは美味しそうに自己主張している。
が、色々……本当に色々悪いような気がして素直に食べるのを渋る。
「食べられそうにないかい?」
スプーンの上には煮込みまくって小さくなったタマネギとシチュー。
ぐぅ
タイミング悪く腹がなった。
「はいvあーんvv」
くすりと笑い、スプーンを口の前に持ってくる。
「…………」
多少ばつが悪いながらも、オレは口を開けた。
「おいしい?」
「…………うん。」
「うわぁ可愛いよこの表情!! そんなちょっと照れくさそうに『うんv』なんて言われちゃったら!!
あぁその辺指摘したいけどそんなことやったらまず間違いなく照れ隠しで暴れるのは目に見えているし。
いや、照れ隠しで暴れるのは可愛いからソレはソレで良いんだけど、シンちゃん今病人だから無理はしない方がイイに決まってるか。
仕方ない。せっかくシンちゃんが素直になってくれているんだからココはしっかりと楽しませてもらっちゃわないと。
調子に乗りすぎないように注意しながらね。
そうよかったv
食べられるくらい元気になれば大丈夫だね。」
「あ……あぁ。」
見づらい文字が気になるが。
今日くらいは暴れずに置きたい。
ココは素直に食べさせてもらうことにする。
……食べさせてもら…………
「じ……自分で食べるからいい。」
正気に戻りスプーンを受け取ろうとすると、ひょいとかわされてしまった。
「だーめ。
今日くらい甘えてくれたって良いだろう?」
「こ……コレは『甘えている』というのとは違うだろうが。」
「どうしてもダメかい?」
「う……」
卑怯モン。
人が病気でちょっと気が弱くなってるの知ってこーゆーこと言いやがるからな……
「じゃ……じゃぁ食べさせてもらおうかな……」
「よろこんでv はいあ~んv」
「あーん」
もーどうにでもなれと思い、諦めて親父の言うとおり食べさせてもらう。
たまねぎにんじんじゃがいも……その他諸々の野菜をたっぷり煮込んだシチューは本当に美味しくて、
気が付いたらもう無くなっていた。
「御馳走様でした。」
「お粗末様でしたv
沢山食べたね。食欲が出たなら大丈夫だよv
よかったよかった。」
「アンタのシチューが美味しかったんだよ」
……このくらいなら言っても問題ないだろう。
「シンちゃん……
うわぁいやっぱり今日は妙に素直だよ。いつもの勝ち気でオレ様なシンちゃんも良いけど、 たまにこういう風に素直に可愛く返答してくれるのも新鮮で良いかもしれない。あぁもっとも私のシンちゃんはいつも可愛くてついついいじめたくなったり押し倒したくなるくらいだけど。押し倒すと言えばグンちゃん達に聞かれていたのか。流石にソレはちょっと恥ずかしいかもしれないな。いや、私のシンちゃんを自慢出来る良い機会だとも言えるけど、身内に自慢してもあんまり意味がないって言うか、やっぱりあぁ言うシンちゃんは私が独占していたいし、何よりあの2人が妙に触発されて変な関係になっちゃったら…………まぁそれはソレで家族仲が良くて良いんだけど。病院の跡継ぎは、入院中だけどコタローがいるし。
そう言ってもらえると嬉しいな。」
「さっきから気になっていたんだがその間の見にくい文字は何なんだ?」
「気にしちゃダメ。
――――この分なら明日は学校行けそうだね。」
「あぁ。」
「文化祭喫茶店なんだろう?
楽しみにしているからね。」
「オレの休みと時間が合えば中案内してやるよ。」
「……シンちゃん……(じ~~~ん……)」
「きょ……ッ今日のお礼だからなッ!!」
そう言って、熱の所為ではナシに赤くなっている顔を悟られないように、オレはぼふッと布団をかぶった。
「ふふ……ありがとうねv」
「けっ……」
サラリと髪を撫でる感触がする。
あー……この感覚……
ガキの頃いっつもこうやッて撫でられてたなー……
「シンちゃん髪の毛伸びたねー……
こうやって触っているだけでも気持ちいい……って……
シンちゃん? もう寝ちゃったのかい?」
その声は……聞こえてはいたんだが……
何だか返事を返す気がなくて、瞼を閉じたままオレは寝
「歯磨きしないとダメだよ?」
「……………………分かった。」
************************************************
何万ヒットだろうが、小説を書くと結構出る物なのです。
ボツ原稿です。
************************************************
朝起きて、何となく嫌な予感がした。
ぼーっとした頭をガシガシとかき、フラフラとした足取りで救急箱の元へ。
歩いているうちに頭もはっきりしてきて、ふと時計を見ると七時ちょっと前だった。
救急箱の中から体温計をとりだし、部屋に向かう。
向かう先はオレの部屋ではなく、マジックの部屋。
ことわりも、ノックもなくドアを開け、ベッドに向かう。
ベッドの上には、素っ裸のシンタローと、バスローブ姿のマジック。
もちろん毛布が掛かっているから、シンタローも下は何かはいているのかもしれない。
いつもそうなのか知らないが、シンタローがマジックに抱きついていた。
「おい……」
シンタローの肩に手を置き、ゆさゆさと揺する。
「んぁ……」
ボーっとした頭で、こちらを見てくるが、目の焦点が合っていない。
口元に体温計をもってくと、のたのたした動作で、はくりと口に銜えた。
「あれ?」
数秒経ってから、オレとシンタローの身体の間から、間抜けな声があがる。
「キンタローじゃないか。どうしたんだい?」
「……体がだるいみたいでな。
体温計を持ってきた。」
「……珍しいね。だいじょうぶかい?」
「オレじゃない。シンタローだ。」
「へ?」
――――シンちゃんとキンちゃんは二卵性だけど双子で、
以心伝心ってことを何故か強調したかったので、
こういう書き出しにしてみました。
んが。この後が続かなかったのでアウト。
************************************************
「シンちゃぁああんっ!
シンちゃんが倒れるなんて!!
これから先私は何を楽しみに生きていけばいいんだいっ!?」
が、中には例外もある物だ。
オレの腹の上で塞ぎ込んでおいおい泣く父親と、鈍い頭を持て余しつつも、必死でオレは叫んだ。
「いやぁましかぁあ!
人が死んだみてーに騒ぐんじゃねぇっ! げほっげほ……っ」
「ああシンちゃんっ!
やっぱり昨日お風呂から出た後も遅くまで起きてたからいけなかったんだね……!
私が調子に乗らないでしっかり服を着せてあげていればっ!!」
……自覚はあるらしい。
だったら……あー……いや、もうイイや。
どうせ言ったところで聞いちゃいないんだろうし。
「だったらアンタにまで移るといけねーからどっか行ってろよ。
……今日はもうどうせ休み取ったんだろうけど、看なきゃいけない患者もいるんだろ?
明日も休んだら大変だろうが。」
「何冷たいことを!
シンちゃんに移されるならパパは大歓迎だぞ!
患者は……まぁ私1人が休んだってどうってことないよ。
なんて言ったって、うちは各病院、診療所から引き抜いてきた精鋭達ばっかりだからね!」
あーそーかい。
誇らしげに胸を張る父親を見て、オレは目を閉じた。
だるいという前に、相手をするのがめんどくさくなったからだ。
と、父親の冷たい手が額に当てられる。
……気持ちいいかも。
「とにかく、今日一日はしっかり休んでおくんだね。
学校には連絡しておいたから安心して。」
「分かった。」
そう短く返事をして、オレは本格的に睡眠モードに入った。
…………何で没にしたんだろうこの原稿。
PR