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 季節は長月となり、秋もいよいよ深まってきた。巣鴨や雑司ヶ谷ほど大掛かりなものでないにしても、あちらこちらの町内では植木屋が大輪の菊で鶴や帆掛け舟などの細工を作り、店先に誇らしげに展示している。
 (金が要る・・・。とにかく今よりも多分に要る)
 何やら思いつめた様子で黄昏時の路を歩む男がいた。代稽古帰りの建部宗助である。懐中には代稽古の謝礼金があったが、それのみでは立ち行かない事情が建部にはあった。
 建部は大横町に足を向け、細い路地に入った。家の引き戸を開いて中に入ると、中は灯もつけないままで薄暗かった。
 「おきぬ」
 と、建部が声を掛けると、床に敷き述べてある布団から、ゆらり、と白い人影が身体を起こした。
 「建部様・・・」
 か細い声で痩せ衰えた女性が返事をした。
 「そのまま、そのまま寝ておれば良い!」
 急いで建部は部屋に上がると、そっと女性の肩を抱き、再び布団に横たわらせた。
 枕元に座った建部を、きぬは高熱があるのかぼんやりとした目で見上げ、
 「お越し頂いて、ありがとうございます」
 と言った。
 「具合はどうだ?」
 きぬは骨と皮ばかりの白い手を伸ばし、慌てて建部はその手を掴んだ。彼女はかぶりを振り、
 「建部様、もうよろしいのですよ」
 「何を言う!?薬、薬さえあれば・・・!“亦私蘭修謨斯”という薬さえ手に入れば全て良くなると、医師から聞いたぞ!?」
 きぬは、少し微笑み、
 「ありがとうございます。でも、もうよいのですよ。貴方様は、最近気になるお方ができたのでしょう?そのお方と幸せになってくださいまし」
 「嫌じゃ!俺にはお前だけだ!!そんなこと、言わないでくれ・・・」
 建部は、枕元で男泣きに泣き始めた。
 きぬは、少し身を起こし、もう片方の手を伸ばすと建部の背中を母親が子どもをあやす様に撫でた。そして、
 「建部様、きぬは幸せでござります」
 そう言った。


 現在、アラシヤマは内々に一月前に医師が殺害された件を調査していた。マジックから直々に指示があり、どうやら密貿易が関係しているらしい。おかげで、小野道場に通う事もできず、シンタローとは会えない日々が続いていた。
 色々と調べていくうちに、その医師は呆れた悪徳医師であることが分かった。密貿易で得た高価な薬は金に糸目をつけない患者に売りつけ、多くの患者には舶来物の薬と偽って高額で偽の薬を売りつけていたのである。
 アラシヤマは、医師の自宅から押収した帳簿を見ながら、
 (―――ぼろ儲けどすな。これやったら、いくら悪徳言うても、あのドクターの方がまだマシでっしゃろ。あのドクターは、金は二の次どすからな。・・・いや、やっぱり、どっちもどっちどす。この前わてに牽牛子を一服盛ったのは絶対に忘れまへんえ~!!呪ってやりまひょか)
 どうやら、アラシヤマは高松に実験台にされて酷い目に遭ったらしい。ブツブツ言いながら帳簿を捲っていると、ふと、気になる名前が目に留まった。
 (―――建部?ひょっとすると、これはあの貧乏浪人でっしゃろか?でも、ピンピンしとったさかい、高価な労咳の薬なんか買うわけないわな)
 気のせいかと思って、その考えを捨てようとしたが、中々頭から離れない。
 不意に、湯灌場で高松の検死に立ち合った際に死体の体につけられていた刀傷が、アラシヤマの脳裏に浮かんだ。
 「右顔面が、斬られとったナ・・・」
 右顔面斬りは、神道無念流の技の1つである。
 「悩んでいても、しょーもおまへんな!行きまひょか!!」
 アラシヤマは、帳簿を閉じると立ち上がり、壁に掛けられていた編み笠を取って、奉行所を出た。

 
 帳簿に書かれていた住所を頼りに、アラシヤマは番町の方角に向かった。番町は「番町にいて番町しらず」と言われるほど複雑な道筋が広がっていたので、アラシヤマは「番町絵図」を携帯していった。
 「ここやろか・・・」
 アラシヤマが木戸を潜り店の前に立つと、井戸の傍で町女房風の女が、昼餉の支度なのか鯵を捌きながら、
 「旦那、そこは空き家だよ」
 と投げるように言った。
 「此処に、建部という人が住んではるはずなんどすが、知りまへんか?」
 「たけべ?たけべだかなんだか知らないけど、そこにはおきぬさんって女が1人で住んでたよ。この頃姿を見なかったけどあれは、肺病病みだね。先日、自害したけどさ」
 「自害どすか?」
 女房は元来噂好きであったらしく、捲し立てた。
 「そうだよ、短刀で喉を一突き。わたしゃ、百両積まれたってあんな死に方いやだよ。おお、桑原桑原!・・・そういや、侍風の男が結構通ってたけど、私らとは全く付き合いがなかったねぇ。おきぬさんは、お武家の出じゃないかって私らは噂してたんだよ!」
 アラシヤマは、小包丁を振り回しながら熱弁する女房の勢いに、少々引き気味になりつつ、
 「ありがとうさんどす。少のうてすみまへんが、とっといておくれやす」
 そう言って、一朱を渡した。女房が思わぬ収入に喜んでいるのを背に、
 (やっぱり、関係がありそうやな)
 そう思いつつ、一旦、奉行所に引き返した。







  
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