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sss
接触という事象。
その存在に気付いたのは、いつだったか。




流れては消えていく音と映像。
それが全てだと思っていた。

それに手を下す事が出来るなど、想像すら出来なかった。






自我の確立は、「彼」と比べると随分と遅かっただろう。








「シンちゃんこっちだよ~よしよし、あんよがお上手♪」

「総帥ぃ~お願いですから会議はちゃんと出て下さい~」


徐々に青い目が近付く。


「到着~っ。ほら、高い高い♪」


だけど、何かが違う。
噛み合わない。






「シンちゃんは暖かいねぇ」


……アタタカイ?







大音量が響く。


「あぁ~泣かないでっ!」


それは、自分に向けられた言葉。







「パ~パ」

「シンちゃんが喋った~」


目の前の人物は、破顔する。


自分は、何も。
何も。









例えばTVの画面。
或いは映し鏡。
奥の方に、奥の方に、覗き込むだけ。

いや、違う。

……違うんだ。





享受された世界への違和感。
今思えば、それらはすべて、一つの事に帰結していたのだ。





あるべき相互作用。





「パパ」





この人が見てるのは、誰?
それは、潮が満ちるようにやって来る。

まずは音。ざわざわとした空気の震えが、膨らんでゆく。
次に光。ぼんやりとした金色が、人の輪郭を形作る。


剥がされた幕の向こう側。

―――あぁ、ここは学生食堂だ。



「シンタローさんっ。次の二人一組対抗試合、オラと組まねぇか?」

「あー悪りぃ。俺の相手っていつも、教官の指示でさ」

「そ、そうだべか……」

「がっはっはっ。見事にフラれたのう」

「うっさいべコージ!トットリ、早目に行って練習するべ!」

「……普段コンビ組んでる僕に何の断りも無く他の人誘って、断られたら何事も無かったよーに振る舞うっちゃね、ミヤギくん……」



目の前で飛び交う、返す言葉と返される言葉。
会話中の単語と、記憶の中の授業日程を照らし合わせ、誰に届く事も無い呟きを漏らす。

――前に眠りについた時から、恐らく三日、か。

己にとって時間の経過など何の意味を持たなくとも、確認せずにはいられない。



「ごっそさん」

"奴"は綺麗に平らげられた食器の乗ったトレイを指定の場所に置き、厨房内の調理員に軽く手を振ると、食堂の扉を潜った。








見慣れた廊下を進み、角を曲がると、大分年長の男が数名、正面奥からこちら側へと向かっていた。
軍人然とした歩みの彼らは、見覚えの無い顔だ。恐らく、今日の実習の為に呼ばれたガンマ団員だろう。
時期総帥と囁かれようとも、現状としてこちらは学生、相手は一兵卒だとしても団員。
進行の妨げにならぬよう僅かに端に寄り、道を開けた。


そのまま何事も無く通り過ぎようとして―――

「ジャン……っ!?」

―――内一人が、驚愕の声を上げた。


「……あ?」

訳の分からぬ単語を口走る男に、奴は一瞬素に戻り、慇懃さに欠けた声を漏らした。


しかし男達はそれを咎める事も無く、一学生を前に、一斉に滑稽なまでの慌てぶりを見せる。

「馬鹿っ!以前、上から言われただろっ!」
「あ……し、失礼しました……シンタロー様」


名乗ってもいないのにこちらの名を口にした男達は、そのまま追及の間も与えず、逃げるように去っていった。
一体、どこまでこの顔が広まっているというのか。


「なんだぁ?あいつら」

不条理な一瞬の出来事に、こちらが出来る事と言えば、ただ立ち尽くすのみ。
だが直ぐに、同じく呆気に取られた顔でこちらを見つめるギャラリーに気付くと、一先ずこの場を後にした。



普段よりやや大股で歩きながら、他者には聞こえない程度の小声で呟く。

「そういや時々、初対面で俺の顔を見るなり、妙な顔する奴がいるな……」

それは、覚醒時間の短い俺ですら稀に目にする事実だった。
この身が持つ"総帥の息子"という肩書きへの萎縮―――つまりは父親を恐れての反応かと思っていたが、それではやや説明不充分の感も否めなかった。


思考よりも遥かに早く、脳に直接叩き付けられたような―――瞬間的で強烈な驚愕。














燃え上がった日がもうじき沈む、人影も疎らな校舎の一室。
一人キーボードを叩く音が、空調機の低い唸りとは異質の高さで、部屋に響いていた。


「げーっ、こんなにいやがる」

ディスプレイに映し出された表にぎっちりと敷き詰められた小さな文字の羅列に、奴はうんざりとした声を上げた。

「まぁ、さっきの奴の年齢からして、せいぜい三十年前までには絞れるか」

ぶつくさと呟きながら、検索範囲を徐々に縮めていく。
キーワードは、昼間耳にしたあの単語。

心の引っ掛かりは、確かめなければ気が済まない性分の奴だ。
ガンマ団に縁のある者なら、一部の隠密任務の者を除いて、全て組織内の巨大ネットワークに管理されている。
そして、簡単なプロフィール程度なら、学内の端末からでも引き出せた。



この時はまだ、俺も奴も、夢にも思ってはいなかったのだ。
それが、開けてはいけないパンドラの箱だったなど。



「あれ、サービス伯父さんの同期にもいるな。どれどれ……」

心酔しているらしい叔父の名を見つけると、苛々とした空気が若干和んだ。

俺にとっては、どうでも良い存在だった。
奴に真っ直ぐな期待を寄せる男など。


―――いや、誰の存在だって、俺にとってはどうでも良いものだ。

この世界に、俺は存在しない。
あるのはただ、媒体にもならぬ、視点のみ。



カシャ、と、キーが一際高く音を鳴らした。
次の瞬間、映し出されたものは。


あぁ―――


その時、
奴と俺の境界線が、揺らいだ。



洪水のように奴から流れ込んで来たのは、俺にとっては馴染みの深い感情。

絶望。

この男の絶望は、俺の歓喜。



似ている、どころの騒ぎではない。
コイツは―――コレだ。



やはり、やはりそうだ―――

此処に在るべきなのは、俺だ。
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