穏やかな時間を守りたい
ずっと見てたい
だってこんなこと滅多にないから
「よい夢を」
シュッと軽い音を立てて、扉が開いた。
「シンタローはん、この書類のことで…」
手もとの書類を見ながら入って来たのは、顔の左半分を前髪で隠してしまっているアラシヤマだった。
書類の不備を見つけ、嬉々としてこの部屋に来た。
シンタローに逢いたくて、口実を作ってはこうして部屋を訪ねる。
うんざりした顔をしながらも、大抵はシンタローはアラシヤマを受け入れてくれる。
それが嬉しかった。
「シンタローはん?」
いつものように「また来た…」と呟く声が聞こえず、書類から目を離す。
大きな机にたくさんの書類を広げて、真剣な顔で仕事をしているシンタローの姿はそのにはなかった。
そこには、うず高く積まれた書類を机の端に寄せて、自分の腕を枕にして眠っているシンタローがいた。
適度に効いた空調の中で気持ち良さそうに眠るシンタロー。
アラシヤマは頭から仕事を切り離した。
後ろ手に、扉を内側からカギをかけてしまう。
そしてゆっくりとシンタローの机へと歩み寄る。
革靴の足音は、毛の長い絨毯に吸い込まれてしまう。
手にしていた書類を音を立てないように机に置くと、シンタローの寝顔をじっくりと見つめた。
お互いに忙しくて、最近はあまり顔を合わせられなかった。
やっと掴んだシンタローに会えるチャンス。
それがシンタローの居眠りシーンに出くわすなど、この先あるかないかの偶然だった。
飛びかかってしまいたい衝動を抑え、起こさないように黒い髪に手を伸ばす。
何度も何度も髪を触っているうちに、シンタロー本人にも触りたくなった。
理性を総動員して、恐る恐る頬へと手を伸ばす。
「ん…っ」
頬への感触に、小さく反応したシンタローに息を呑む。
起きてしまうのを覚悟してきつく目を閉じたが、どうやらまだ眠ったままらしい。
はぁ。と安堵の溜め息をつくと、再びシンタローに触れた。
こんな穏やかな時間はいつぶりだろうか。
ふとそんな事を考える。
というか、これ程までに穏やかな時間を迎えたのは初めてではないか。
あまりの感動に浸ってしまう。
「シンタローはん」
微かな声で呼び掛けてみる。
自分でも驚いてしまうような甘い声。
愛が溢れ出してしまいそうだ。
緩む頬をどうすることも出来ない。
「…アラシヤマ」
ふと、シンタローが言った。
またも息を呑んだ。
心臓が止まるかと思った。
咄嗟に手を引っ込めるが、いつまでたってもシンタローは動こうとしない。
寝言だったらしい。
理解した途端、アラシヤマは鼻を押さえた。
やばい。
非常にやばい。
鼻血が出そうなんて…。
普段見れないようなシンタローの姿に、感極まっている。
寝言で名前を呼んでくれるなんて。
夢でもみてくれているのだろうか。
幸せそうな顔をしているシンタロー。
理性が吹き飛んでしまいそうだ。
ここでシンタローを襲おうものなら、確実に溜めなしの眼魔法が打たれる。
そしてシンタローの機嫌は悪くなる。
部屋にも出入り禁止になって、半径数メートル以内の立ち入り禁止は確実だろう。
気持ちを落ち付ける為に、深呼吸をしてみる。
シンタローは相変わらず、何も知らずに眠っている。
「罪なお人やわ…」
アラシヤマはそっと微笑むと、部屋を出るためにシンタローに背を向けた。
これ以上この部屋にいたら、本当に何をするかわからない。
改めて出なおすことにした。
あとで、秘書課の人間にしばらくシンタローの部屋には誰も立ち入らせないようにしよう。
あの人の眠りを少しでも長く守ってあげたいから。
シュッと軽い音がして、扉が閉まる。
シンタローはゆっくりと腕から顔を上げた。
「なんだ。結構理性持ってんじゃねーか」
つまらなさそうに呟くと、アラシヤマが持ってきた書類を手に取る。
実はこれ、シンタローがわざと記入漏れのままアラシヤマの元まで流したのだ。
嬉々として自分のところへやって来るアラシヤマを想像しながら。
アラシヤマは気付いていないのだ。
シンタローは、アラシヤマが思っている以上にアラシヤマのことを想っていることに。
SEO 優良出会い系ガイド~サクラなしの出会えるサイト満載 花 無料レンタルサーバー ブログ SEO
PR