(南国5巻より。扉の前で)
幽霊になってまで生意気そうな面してんな。
新しい甥っ子から死んだって聞いてたけどな。やっぱ生きてやがったと思いきや、幽霊かよ。
非常識な餓鬼だぜ全く。
一族に存在するはずのない『黒』を持って産まれただけでも非常識な癖に、あの兄貴に反抗して家出した挙句がこのザマかよ。
年々『アイツ』に似てきやがって。久しぶりに見たけど、そっくりじゃねぇか。
とことんヒトの神経逆撫でする『元』甥っ子だぜ。
新しい甥っ子はこの通り、金髪で秘石眼もある。テメェはこいつの『ニセモノ』なんだってな。
ニセモノだったから黒だったのか。だから秘石眼もなかったのか。だから、俺らと違ったのか。
俺ら一族の人間は、兄貴に反抗することなんて出来ねぇ。俺も、テメェの横にいるサービスも。
テメェだけが、兄貴に真っ向から反抗した。反抗して自分の弟を助け出そうとして脱走して、でも結局その兄貴をかばって弟に撃たれて死んだんだってな。
馬鹿じゃねぇの。救い様のねぇ馬鹿。
苛々すんだよ。
アイツにそっくりなその顔も。アイツとは似ても似つかない真っ直ぐなその性格も。
散々ヒトを苛立たせておいて、あっさり死んで。
それで、幽霊かよ。
何なんだテメェ。何者なんだよ。
ニセモノってどういうことだ説明しろこの野郎。
誰かさんと違って騙せるようなタマじゃねぇだろテメェは。この餓鬼。
ああ、クソ。
それにしても暑いな、この島。
新しい甥っ子がテメェを獲物だって言うから譲るけどな、二番に立候補したい気分だぜ。
やっぱりアンタ来たんだな。
仰々しく部下引き連れて飛行船で乗り込んで来て、格好つけた隊長面しやがって。
ああコタローと『ソイツ』も連れて来たのか。
ソイツに聞いたんだろ。俺は『ニセモノ』だって。満足したか?
一族の中で一番俺の『黒』にこだわってたの、アンタだったもんな。気付いてねぇとでも思ったか。
アンタが死ぬほど憎んでるどっかの誰かさんと、偶然とは言え似てるもんはしょうがねぇって思ってたけど、こうなると偶然じゃねぇみてぇだし。まだはっきりしねぇけど。
俺を通して『黒』を憎んでたのか、『黒』である俺自体を憎んでたのか。
何考えてんだか分かねぇ奴の多い一族の中で、アンタは結構分かりやすかったんだけどよ。
そこだけは、分からなかったんだよな。
それで、どっちだったんだ? いやどっちにしろ、あんまり変わらねぇか。
わざわざ特戦部隊連れて来たってことが答えみてぇなもんだし。
憎んでた甥っ子が死んで、アンタ清々したろ。
いやもう甥っ子じゃねぇか。叔父でも甥でもねぇし。
けど、残念だったな。俺は絶対生き返る。
約束したんだ帰ってくるって。
アンタが嫌な顔しようと、これだけは守らなきゃなんねぇ。
ああ、クソ。
いつもにまして暑いな、この島。
でもコタローを保護してくれたとこだけは感謝するぜ、おっさん。
(2007.1.10)
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