いやな夢だったなあと思って、本当にいやな夢だったとため息混じりに笑みを作りながら、コーヒーメーカのスイッチを押した。
背中から、聞き慣れた声がかけられる。
少し、驚いたようなトーン。
「シンタロー、もう起きていたのか」
「ああ」
「コーヒーなら俺がやろう」
「いいよ、こんくらい」
それより今日の予定は。
午前中デスクワークで、午後からはどこに行くんだっけ。
普段通りの会話、普段通りの雰囲気に、だんだん夢の記憶は薄れていく。
でも、どうしても脳裏にこびりついて剥がれない記憶のカスは、ほんのわずか触れただけでぞわりと背中を震わせるのだった。
だから触れないようにする。
いやな夢はある意味、いやな現実よりタチが悪い。
自分でどうにかすることができない理不尽さを含んでいるから。
ふと視線を上げれば、キンタローの訝し気な表情が妙にクリアに飛び込んでくる。
そうして自分が部屋唯一の扉ばかり気にしていることに気付かされて、居心地の悪いような苛ついたような、曖昧な感情を誤魔化すように、コーヒーカップを乱暴に取り出した。
扉はまだ開かれない。
開きそうにない。
背中から、聞き慣れた声がかけられる。
少し、驚いたようなトーン。
「シンタロー、もう起きていたのか」
「ああ」
「コーヒーなら俺がやろう」
「いいよ、こんくらい」
それより今日の予定は。
午前中デスクワークで、午後からはどこに行くんだっけ。
普段通りの会話、普段通りの雰囲気に、だんだん夢の記憶は薄れていく。
でも、どうしても脳裏にこびりついて剥がれない記憶のカスは、ほんのわずか触れただけでぞわりと背中を震わせるのだった。
だから触れないようにする。
いやな夢はある意味、いやな現実よりタチが悪い。
自分でどうにかすることができない理不尽さを含んでいるから。
ふと視線を上げれば、キンタローの訝し気な表情が妙にクリアに飛び込んでくる。
そうして自分が部屋唯一の扉ばかり気にしていることに気付かされて、居心地の悪いような苛ついたような、曖昧な感情を誤魔化すように、コーヒーカップを乱暴に取り出した。
扉はまだ開かれない。
開きそうにない。
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