(何だ、コレは・・・?)
キンタローが、何か本を借りようと高松の研究室を訪れていた際、何とはなしに開いた本の間に、少し色褪せた赤と緑色の紙製の物が挟まっていた。
(・・・花、か?)
本の重みで押しつぶされたその物体は、一見花には見えないほど不恰好ではあったが、キンタローはなんとなくそう思った。
手で摘み上げ、よく見ようとすると、椅子に座って菓子を食べていたグンマが、立ち上がり、
「あっ、キンちゃん!それ、僕が子どもの時に作ったんだヨ」
キンタローの傍まで来た。
「忘れてたけど、なつかしいなぁ・・・」
そう言って、グンマは目を細め、キンタローの手の中の造花を見ていた。
「これは、花か?」
「うん、カーネーション。キンちゃんもつくってみる?教えてあげるヨ☆」
キンタローはどちらでもよかったが、彼が返事をする前に既にグンマが立ち上がり、紙やハサミを探している様子だったので、椅子に座って待った。
「探したんだけど、赤い紙はなかったヨ~。だから、ピンクで我慢してネッv」
そう言ってグンマは色紙を数枚、ハサミ、糊などを机の上に並べた。
「ここに切れ込みをたくさん入れて、こうぐるっと巻いていくんだ。わぁ、キンちゃん!上手だねッツv」
説明しながら隣で花を作っていたグンマに
「高松から教えてもらったのか?」
と聞くと、
「ううん、母の日の前に学校の図工で習ったの」
「母の日?何だそれは」
「お母さんに感謝する日だヨ☆カーネーションのお花をあげたりして大好きなお母さんに『ありがとう』の気持ちを伝えるんだよ」
グンマは、色褪せた花と作ったばかりの花を手に持ち、両方を見比べながら、
「子どもの僕、上手に作ったよねぇ?」
と言った。
「これ本当は、伯母様、じゃなくってお母様にあげようと思ってたの。―――でも、シンちゃんは僕よりもずーっと下手だったのに、シンちゃんからお花をもらったお母様はとっても嬉しそうだった。結局、僕はあげなかったんだ」
キンタローが何も言わずグンマを見ていると、その視線に気づいたグンマはエへヘと笑った。
「キンちゃん、そんな顔しないでヨ~!僕ね、このお花、今からお母様にあげに行こうかと思うの。よかったら、キンちゃんも一緒に行く?」
「俺は・・・、やめておく。だが、もし俺が一緒に行ったほうがいいというのなら、俺は行くが?」
「ありがとう、キンちゃん。僕は、大丈夫。じゃあ、行ってくるネ☆」
そう言って、手を振るとグンマは部屋から出て行った。
「母の日、か・・・」
一人になったキンタローはそう呟いたが、特に感慨といったものは湧いてはこなかった。
(母親に渡すものなのか?でも、俺は母のことなど何も知らない・・・)
手の中の花を見て、
(しかし、捨てるというのも、何とはなしに気が引ける)
と思い、彼は途方に暮れた子どものような表情になった。
しばらくしてキンタローは立ち上がり、研究室を後にした。
シンタローが執務を終え、自室へ戻ろうと廊下を歩いていると、扉の前に人影が立っていた。
「キンタロー、珍しいな?こんな時間に」
「どうしようかと、思ったのだが・・・」
キンタローは、彼にしては珍しく奥歯にものの挟まったような言い方をした。
「立ち話もなんだし、入れヨ」
「迷惑ではなかったか?」
心配気にそう言うキンタローを背に、シンタローは総帥服を脱ぎ、着替えていた。
「別に迷惑じゃねーヨ。んなこと、気にすんなって。ところで、何か用でもあんのか?」
キンタローは困った顔をし、
「・・・花は、好きか?」
と聞いた。
着替え終わったシンタローは、キンタローの意図が分からず、
「まぁ、嫌いじゃねーケド?」
そう答えると、キンタローは、花を一本、差し出した。
「紙のカーネーション?俺もガキの頃つくったことがあるけど、それと同じ花とは思えねーナ。お前、器用だなあ・・・」
受け取った花を眺めて、シンタローが感心したようにそう言うと、
「グンマと一緒に作った。本当は母親に渡すべきものかと聞いたが、俺は渡したいと思う相手が、お前しか思い浮かばなかった」
(・・・何で俺なんだ?男なのに。もし、コイツじゃなかったら、間違いなく殴ってたよナ・・・)
と思ったシンタローであったが、恐々と叱られるのを待っている子どものようなキンタローを見ていると、なんとなく気が抜けた。少し、おかしくもなり、
「ありがとナ」
と、笑顔で言うと、いきなりキンタローに強く抱きしめられた。
「お前という存在が今も在るということに、俺は感謝する」
そう、シンタローの肩口に顔を埋め、低くそう言う彼の震える背を、シンタローは宥める様に撫で、
「・・・泣くんじゃねーよ?」
と言って金色の髪をクシャクシャとかき混ぜた。
キンタローが、何か本を借りようと高松の研究室を訪れていた際、何とはなしに開いた本の間に、少し色褪せた赤と緑色の紙製の物が挟まっていた。
(・・・花、か?)
本の重みで押しつぶされたその物体は、一見花には見えないほど不恰好ではあったが、キンタローはなんとなくそう思った。
手で摘み上げ、よく見ようとすると、椅子に座って菓子を食べていたグンマが、立ち上がり、
「あっ、キンちゃん!それ、僕が子どもの時に作ったんだヨ」
キンタローの傍まで来た。
「忘れてたけど、なつかしいなぁ・・・」
そう言って、グンマは目を細め、キンタローの手の中の造花を見ていた。
「これは、花か?」
「うん、カーネーション。キンちゃんもつくってみる?教えてあげるヨ☆」
キンタローはどちらでもよかったが、彼が返事をする前に既にグンマが立ち上がり、紙やハサミを探している様子だったので、椅子に座って待った。
「探したんだけど、赤い紙はなかったヨ~。だから、ピンクで我慢してネッv」
そう言ってグンマは色紙を数枚、ハサミ、糊などを机の上に並べた。
「ここに切れ込みをたくさん入れて、こうぐるっと巻いていくんだ。わぁ、キンちゃん!上手だねッツv」
説明しながら隣で花を作っていたグンマに
「高松から教えてもらったのか?」
と聞くと、
「ううん、母の日の前に学校の図工で習ったの」
「母の日?何だそれは」
「お母さんに感謝する日だヨ☆カーネーションのお花をあげたりして大好きなお母さんに『ありがとう』の気持ちを伝えるんだよ」
グンマは、色褪せた花と作ったばかりの花を手に持ち、両方を見比べながら、
「子どもの僕、上手に作ったよねぇ?」
と言った。
「これ本当は、伯母様、じゃなくってお母様にあげようと思ってたの。―――でも、シンちゃんは僕よりもずーっと下手だったのに、シンちゃんからお花をもらったお母様はとっても嬉しそうだった。結局、僕はあげなかったんだ」
キンタローが何も言わずグンマを見ていると、その視線に気づいたグンマはエへヘと笑った。
「キンちゃん、そんな顔しないでヨ~!僕ね、このお花、今からお母様にあげに行こうかと思うの。よかったら、キンちゃんも一緒に行く?」
「俺は・・・、やめておく。だが、もし俺が一緒に行ったほうがいいというのなら、俺は行くが?」
「ありがとう、キンちゃん。僕は、大丈夫。じゃあ、行ってくるネ☆」
そう言って、手を振るとグンマは部屋から出て行った。
「母の日、か・・・」
一人になったキンタローはそう呟いたが、特に感慨といったものは湧いてはこなかった。
(母親に渡すものなのか?でも、俺は母のことなど何も知らない・・・)
手の中の花を見て、
(しかし、捨てるというのも、何とはなしに気が引ける)
と思い、彼は途方に暮れた子どものような表情になった。
しばらくしてキンタローは立ち上がり、研究室を後にした。
シンタローが執務を終え、自室へ戻ろうと廊下を歩いていると、扉の前に人影が立っていた。
「キンタロー、珍しいな?こんな時間に」
「どうしようかと、思ったのだが・・・」
キンタローは、彼にしては珍しく奥歯にものの挟まったような言い方をした。
「立ち話もなんだし、入れヨ」
「迷惑ではなかったか?」
心配気にそう言うキンタローを背に、シンタローは総帥服を脱ぎ、着替えていた。
「別に迷惑じゃねーヨ。んなこと、気にすんなって。ところで、何か用でもあんのか?」
キンタローは困った顔をし、
「・・・花は、好きか?」
と聞いた。
着替え終わったシンタローは、キンタローの意図が分からず、
「まぁ、嫌いじゃねーケド?」
そう答えると、キンタローは、花を一本、差し出した。
「紙のカーネーション?俺もガキの頃つくったことがあるけど、それと同じ花とは思えねーナ。お前、器用だなあ・・・」
受け取った花を眺めて、シンタローが感心したようにそう言うと、
「グンマと一緒に作った。本当は母親に渡すべきものかと聞いたが、俺は渡したいと思う相手が、お前しか思い浮かばなかった」
(・・・何で俺なんだ?男なのに。もし、コイツじゃなかったら、間違いなく殴ってたよナ・・・)
と思ったシンタローであったが、恐々と叱られるのを待っている子どものようなキンタローを見ていると、なんとなく気が抜けた。少し、おかしくもなり、
「ありがとナ」
と、笑顔で言うと、いきなりキンタローに強く抱きしめられた。
「お前という存在が今も在るということに、俺は感謝する」
そう、シンタローの肩口に顔を埋め、低くそう言う彼の震える背を、シンタローは宥める様に撫で、
「・・・泣くんじゃねーよ?」
と言って金色の髪をクシャクシャとかき混ぜた。
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