dialogue
case.1 彼の髪シンタローの髪が好きだ。いや、好きなのは別に髪だけではないんだが。
彼の髪は俺よりもずっと長い。腰までは行かないが、優に肩は超えている。
癖のない、真っ直ぐとした……そうまるで糸を集めたかのような髪だ。
総帥になってからは以前と違って紐でくくることをしなくなった。
なんの手も加えずに背に流された髪には紐の跡も何もついていない。
とてもきれいな髪だ。
「なんだよ?」
「いいや」
まだ終わらないのか、と凝視していたことを誤魔化すとシンタローはばつの悪そうな顔をした。
「もう少し……だな。悪いけどちょっと待てよ」
積み上げた報告書の上に今、サインし終わった物を乗せる。
ちらり、とそれを見るとサインの横に押した判が曲がっていた。
「シンタロー」
「なんだよ」
紙を捲る手を止めずにシンタローが問う。問われるままに、
「曲がっているぞ」
と答える。するとシンタローは深いため息を吐いた。
「……今読んでるのからは気をつける」
あー、ちくしょう、とがしがしと髪をシンタローが掻き回す。
黒い髪が乱れて、赤い総帥服のジャケットにばらばらと髪の房が散った。少しだけ見苦しい。
「あまり……髪を掻き回すな」
急な客が会ったらどうする、と嗜めるとシンタローは口を尖らせた。
「癖なんだから仕方ねえだろ!気に何ならお前が直せよ」
case.2 彼の口唇キレたときのキンタローほどやっかいなものはない。
ミスを犯し、一般家屋への被害が少し出て今ヤツはかなりのお冠だ。
そりゃあ、俺だって怒鳴りつけたい。
一応、ガンマ団は正義のお仕置き集団に変わったんだ。
ようやく世間に根付いてきた評価をまた昔に戻したくはない。
俺を初めて殺そうとしたときは今のように語彙が豊かでなかった。
殺してやる、とかお前を殺すだとか、まあ、そんな風にしか言ってなかった気がする。
ところが、ドクターの献身的な教育の甲斐があってかいつのまにかコイツは口が達者になってしまった。
科学者として発表の場がある所為もあるだろう。
それと、俺に同行して色々な交渉の場に着くことも多くなったからかもしれない。
ともかくキンタローは以前より格段に口が回るようになったわけだ。
それでもって、今キンタローはというと直接的なミスを犯した団員を前に情報伝達の重要さを説いている。
その態度は慇懃無礼で、俺がこの団員だったらとっくの昔に取っ組み合いになっているようなモンだ。
「キンタロー」
呼びかけるとキンタローの片眉が上がった。
顔を合わせた彼の秘石眼は辛うじて光っていないが、、口元が若干歪んでいる。
「とりあえずそいつは謹慎させておいて、帰還してから始末書を書かせるんでいいだろ。
他にも処理することはあるんだ」
下がっていいぜ、と告げると青ざめた顔で敬礼し去っていく。
司令室にはとっくに他の部下たちはいない。
怒ったキンタローほど厄介なものはいないからだ。
「謹慎?始末書?生温い処分だな」
あー、まだ口の端が上がってんな。
髪をかき上げながら、キンタローの癖を確かめる。この口元が戻らないとちょっとしたことでネチネチ言われちまう。
「処分は始末書を見てから出すんでもいいだろ。減給すんなり、配置転換すんなり、さ」
なだめるように言うとキンタローはふんと鼻を鳴らした。
まだ、あまり気が落ち着いてないようだ。
「とりあえずコーヒーでも淹れて気分転換しようぜ。今後の作戦も少し変えなきゃだめだろ」
落ち着けよ、な、と椅子を勧めて俺はジャケットを脱いだ。
キンタローは素直に従ってくれたが、機嫌が良くなったわけではない。
口元で機嫌が分かるからまだ対処のしようがあるが……。
(これで、この癖なかったら最悪だよなあ)
歪んだ口元を見ながらため息を吐くとキンタローの眉がピクリと動いた。
case.3 彼の鏡「また、見てるのか」
部屋に入るとキンタローはいつものように驚いたような表情で俺の方を振り返った。
いつの頃か、キンタローは一人でいたいときに亡き叔父の部屋の鏡を見つめるようになった。
ルーザー叔父さんの部屋はキンタローの書斎になっているし、彼がそこにいても不都合はないのだが気にはなる。
「飽きないよなあ、お前」
部屋の壁に掛けられた長方形の姿見はごく普通のものだ。
華美なことを嫌い、合理的なものを好んだという叔父の遺品らしく目立たぬ色合いの縁をしている。
「……いいだろう。べつに」
決まってこの鏡のことを言及するとキンタローは眼を逸らす。
それはなぜだか分からないけれど。
「まあ、べつにいいんだけどな。珍しくハーレムとサービス叔父さんが揃って来てるから呼びに来た」
来いよ、と誘うとキンタローの目が丸くなる。
「あの二人が?それは……珍しいな」
「親父がいないから、ドクターとグンマが相手をしてるとこ。夕飯は外へ食いに行こうってさ」
予定はないよな、と確認するとキンタローは肯定する。
「ジャケットは後で取りに来ればいいだろ。早く来いよ」
紅茶が冷めると言うとキンタローは分かったといつもどおりの声で答え、それから鏡の縁をやさしく指でなぞる。
それはいつ見ても不思議な光景だ。凝視しているのをばれないようにさり気無く扉へ向かうとキンタローも後に続く。
シャッと小気味よく自動的に扉が開く。もう一度音が聞こえるのは閉まるときだ。
だが。
扉が閉まるのはいつもゆっくりだ。
あの鏡に固執するわけはよく分からない。
それでも、部屋を去る間際にキンタローが鏡へと振り返り、扉が開け放たれたままになるのを俺はいつも見ていない振りをする。
case.4 彼が眠るときノックをした後、覗き窓から俺の姿を確認しシンタローが部屋のドアを開ける。
現れた従兄弟の姿を見て俺はもう何度目になるか分からない注意を口にする羽目になった。
「ここがどこだか分かっているのか」
五ツ星にランクするホテル、とはいえ休戦協定を結んだばかりの国で下着一枚で寝る人間がいていいんだろうか。
持参した資料の説明はそこそこに指摘するとシンタローはぷいと顔を背けた。
*
ベッドの上でシンタローは胡坐をかいている。
その所作も咎めたいところだが、これはまあいい。
寒くはない、とはいえこの国の温度は別段暑くもない。
空調が壊れているわけでも、風呂に入る直前といったわけでもないのに従兄弟は下着のみを纏った状態でいる。
「パジャマはどうしたんだ」
「ンなもん持ってきてるわけないだろ」
交渉だぜ。観光じゃないんだ。荷物は最低限でいいに決まってるだろ、とシンタローは当たり前のように口にする。
「部下たちだって私物は出来る限りセーブしてるしさ」
それでも、おまえのように下着一枚で部屋にはいないと思うがな。
思わず、そう言いたくなったがぐっと我慢した。
「百歩譲ってパジャマを持ってきてなくてもよしとしよう。
だが、部下たちだって飛空艦の中で非番のときは私服を着ているな?」
たいていはシンタローと同じようなカンフーパンツだったり、動きやすい服装だったりだが。
「おまえも総帥服を脱いでるときは私服を着ていたはずだ」
パジャマがなくても、それがあるだろうと言い募るとシンタローはひらひらと手を振った。
「あ、それ無理。今、洗っちまっててさ。第一、艦に置いてきてるし」
着る物ない、とシンタローがあっさりと言う。
頭が痛くなったが、俺は我慢した。
「洗ってしまったのなら仕方がない。
だが、このホテルの設備は一級だ。アメニティだって充実している。
服を持ってきていないおまえのことだからシャンプーだってここのを使ったんだろう?」
「シャンプー?当たり前だろ」
「それなら、その傍にバスローブがあったのを分かっているはずだな。何でそれを着ない」
何かあったら、急に誰かが訪ねて来たり、何かで避難しなくてはいけない場合どうすると畳み掛ける。
するとシンタローは悪びれることなく答えた。
「だって男のパジャマといったらこれだろ!それにパプワ島で暮らしてからすっかり癖になっちまってさ」
夜、何かを着るのは落ち着かないとあっさり言い放つシンタローに俺はもうため息しか出てこなかった。
case.5 癖になりそうな……食卓に誰かが欠けているのは珍しいことじゃない。
俺とキンタローはよく遠征へ行くし、グンマだって遠方の会議に出席することもある。
それでも長期間の不在がこうも重なることは珍しかった。
「早いな」
すっきりと身嗜みを整えたキンタローが俺に近づく。
昨日の午後から親父とグンマはそれぞれの用事でいない。それも今週末まで1週間も、だ。
「いつもどおりだろ。それより、キンタロー。なんか忘れてねえ?」
昨日約束しただろ、とからかい混じりに注意をするとキンタローは
「うっかりしていた。そうだったな。すまない」
明日から気をつけよう、とわざとらしく肩をすくめて見せる。
そして、それから俺に、
「おはよう、シンタロー」
と口にしてから軽いキスを頬にくれた。
「ん。よく出来ました」
笑いながら、キスのお返しをするとキンタローもくすぐったそうな表情をする。
「これを1週間続けるんだな」
たまにおまえは面白いゲームを思いつく、とキンタローは笑った。
「後からキッチンに入ってきた方からやるんだぜ」
やられた方は3秒以内にお返し、しかも忘れた方が朝食の用意な、と口にするとキンタローは俺に椅子を勧めた。
「今日は俺が作るとしても……どちらも覚えていたらどうするんだ?」
「そりゃ一緒に作ればいいだろ」
なに言ってるんだよ、と呆れたように答えて見せる。
それもそうだな、と特に感心したようには答えずにキンタローは首肯した。
「……それよりも」
「なんだよ?」
淹れたてのコーヒーに口をつけて先を促すとキンタローはトマトにフォークを刺した。
「このゲームは1週間も続けたら癖になりそうじゃないか?
二人が帰ってきたら気をつけろよ、とサラダを食べ進めながら口にするキンタローに俺も言ってやった。
「それを言うならおまえもだろ」
初出:2005/09/30
かな様に捧げます。
case.1 彼の髪シンタローの髪が好きだ。いや、好きなのは別に髪だけではないんだが。
彼の髪は俺よりもずっと長い。腰までは行かないが、優に肩は超えている。
癖のない、真っ直ぐとした……そうまるで糸を集めたかのような髪だ。
総帥になってからは以前と違って紐でくくることをしなくなった。
なんの手も加えずに背に流された髪には紐の跡も何もついていない。
とてもきれいな髪だ。
「なんだよ?」
「いいや」
まだ終わらないのか、と凝視していたことを誤魔化すとシンタローはばつの悪そうな顔をした。
「もう少し……だな。悪いけどちょっと待てよ」
積み上げた報告書の上に今、サインし終わった物を乗せる。
ちらり、とそれを見るとサインの横に押した判が曲がっていた。
「シンタロー」
「なんだよ」
紙を捲る手を止めずにシンタローが問う。問われるままに、
「曲がっているぞ」
と答える。するとシンタローは深いため息を吐いた。
「……今読んでるのからは気をつける」
あー、ちくしょう、とがしがしと髪をシンタローが掻き回す。
黒い髪が乱れて、赤い総帥服のジャケットにばらばらと髪の房が散った。少しだけ見苦しい。
「あまり……髪を掻き回すな」
急な客が会ったらどうする、と嗜めるとシンタローは口を尖らせた。
「癖なんだから仕方ねえだろ!気に何ならお前が直せよ」
case.2 彼の口唇キレたときのキンタローほどやっかいなものはない。
ミスを犯し、一般家屋への被害が少し出て今ヤツはかなりのお冠だ。
そりゃあ、俺だって怒鳴りつけたい。
一応、ガンマ団は正義のお仕置き集団に変わったんだ。
ようやく世間に根付いてきた評価をまた昔に戻したくはない。
俺を初めて殺そうとしたときは今のように語彙が豊かでなかった。
殺してやる、とかお前を殺すだとか、まあ、そんな風にしか言ってなかった気がする。
ところが、ドクターの献身的な教育の甲斐があってかいつのまにかコイツは口が達者になってしまった。
科学者として発表の場がある所為もあるだろう。
それと、俺に同行して色々な交渉の場に着くことも多くなったからかもしれない。
ともかくキンタローは以前より格段に口が回るようになったわけだ。
それでもって、今キンタローはというと直接的なミスを犯した団員を前に情報伝達の重要さを説いている。
その態度は慇懃無礼で、俺がこの団員だったらとっくの昔に取っ組み合いになっているようなモンだ。
「キンタロー」
呼びかけるとキンタローの片眉が上がった。
顔を合わせた彼の秘石眼は辛うじて光っていないが、、口元が若干歪んでいる。
「とりあえずそいつは謹慎させておいて、帰還してから始末書を書かせるんでいいだろ。
他にも処理することはあるんだ」
下がっていいぜ、と告げると青ざめた顔で敬礼し去っていく。
司令室にはとっくに他の部下たちはいない。
怒ったキンタローほど厄介なものはいないからだ。
「謹慎?始末書?生温い処分だな」
あー、まだ口の端が上がってんな。
髪をかき上げながら、キンタローの癖を確かめる。この口元が戻らないとちょっとしたことでネチネチ言われちまう。
「処分は始末書を見てから出すんでもいいだろ。減給すんなり、配置転換すんなり、さ」
なだめるように言うとキンタローはふんと鼻を鳴らした。
まだ、あまり気が落ち着いてないようだ。
「とりあえずコーヒーでも淹れて気分転換しようぜ。今後の作戦も少し変えなきゃだめだろ」
落ち着けよ、な、と椅子を勧めて俺はジャケットを脱いだ。
キンタローは素直に従ってくれたが、機嫌が良くなったわけではない。
口元で機嫌が分かるからまだ対処のしようがあるが……。
(これで、この癖なかったら最悪だよなあ)
歪んだ口元を見ながらため息を吐くとキンタローの眉がピクリと動いた。
case.3 彼の鏡「また、見てるのか」
部屋に入るとキンタローはいつものように驚いたような表情で俺の方を振り返った。
いつの頃か、キンタローは一人でいたいときに亡き叔父の部屋の鏡を見つめるようになった。
ルーザー叔父さんの部屋はキンタローの書斎になっているし、彼がそこにいても不都合はないのだが気にはなる。
「飽きないよなあ、お前」
部屋の壁に掛けられた長方形の姿見はごく普通のものだ。
華美なことを嫌い、合理的なものを好んだという叔父の遺品らしく目立たぬ色合いの縁をしている。
「……いいだろう。べつに」
決まってこの鏡のことを言及するとキンタローは眼を逸らす。
それはなぜだか分からないけれど。
「まあ、べつにいいんだけどな。珍しくハーレムとサービス叔父さんが揃って来てるから呼びに来た」
来いよ、と誘うとキンタローの目が丸くなる。
「あの二人が?それは……珍しいな」
「親父がいないから、ドクターとグンマが相手をしてるとこ。夕飯は外へ食いに行こうってさ」
予定はないよな、と確認するとキンタローは肯定する。
「ジャケットは後で取りに来ればいいだろ。早く来いよ」
紅茶が冷めると言うとキンタローは分かったといつもどおりの声で答え、それから鏡の縁をやさしく指でなぞる。
それはいつ見ても不思議な光景だ。凝視しているのをばれないようにさり気無く扉へ向かうとキンタローも後に続く。
シャッと小気味よく自動的に扉が開く。もう一度音が聞こえるのは閉まるときだ。
だが。
扉が閉まるのはいつもゆっくりだ。
あの鏡に固執するわけはよく分からない。
それでも、部屋を去る間際にキンタローが鏡へと振り返り、扉が開け放たれたままになるのを俺はいつも見ていない振りをする。
case.4 彼が眠るときノックをした後、覗き窓から俺の姿を確認しシンタローが部屋のドアを開ける。
現れた従兄弟の姿を見て俺はもう何度目になるか分からない注意を口にする羽目になった。
「ここがどこだか分かっているのか」
五ツ星にランクするホテル、とはいえ休戦協定を結んだばかりの国で下着一枚で寝る人間がいていいんだろうか。
持参した資料の説明はそこそこに指摘するとシンタローはぷいと顔を背けた。
*
ベッドの上でシンタローは胡坐をかいている。
その所作も咎めたいところだが、これはまあいい。
寒くはない、とはいえこの国の温度は別段暑くもない。
空調が壊れているわけでも、風呂に入る直前といったわけでもないのに従兄弟は下着のみを纏った状態でいる。
「パジャマはどうしたんだ」
「ンなもん持ってきてるわけないだろ」
交渉だぜ。観光じゃないんだ。荷物は最低限でいいに決まってるだろ、とシンタローは当たり前のように口にする。
「部下たちだって私物は出来る限りセーブしてるしさ」
それでも、おまえのように下着一枚で部屋にはいないと思うがな。
思わず、そう言いたくなったがぐっと我慢した。
「百歩譲ってパジャマを持ってきてなくてもよしとしよう。
だが、部下たちだって飛空艦の中で非番のときは私服を着ているな?」
たいていはシンタローと同じようなカンフーパンツだったり、動きやすい服装だったりだが。
「おまえも総帥服を脱いでるときは私服を着ていたはずだ」
パジャマがなくても、それがあるだろうと言い募るとシンタローはひらひらと手を振った。
「あ、それ無理。今、洗っちまっててさ。第一、艦に置いてきてるし」
着る物ない、とシンタローがあっさりと言う。
頭が痛くなったが、俺は我慢した。
「洗ってしまったのなら仕方がない。
だが、このホテルの設備は一級だ。アメニティだって充実している。
服を持ってきていないおまえのことだからシャンプーだってここのを使ったんだろう?」
「シャンプー?当たり前だろ」
「それなら、その傍にバスローブがあったのを分かっているはずだな。何でそれを着ない」
何かあったら、急に誰かが訪ねて来たり、何かで避難しなくてはいけない場合どうすると畳み掛ける。
するとシンタローは悪びれることなく答えた。
「だって男のパジャマといったらこれだろ!それにパプワ島で暮らしてからすっかり癖になっちまってさ」
夜、何かを着るのは落ち着かないとあっさり言い放つシンタローに俺はもうため息しか出てこなかった。
case.5 癖になりそうな……食卓に誰かが欠けているのは珍しいことじゃない。
俺とキンタローはよく遠征へ行くし、グンマだって遠方の会議に出席することもある。
それでも長期間の不在がこうも重なることは珍しかった。
「早いな」
すっきりと身嗜みを整えたキンタローが俺に近づく。
昨日の午後から親父とグンマはそれぞれの用事でいない。それも今週末まで1週間も、だ。
「いつもどおりだろ。それより、キンタロー。なんか忘れてねえ?」
昨日約束しただろ、とからかい混じりに注意をするとキンタローは
「うっかりしていた。そうだったな。すまない」
明日から気をつけよう、とわざとらしく肩をすくめて見せる。
そして、それから俺に、
「おはよう、シンタロー」
と口にしてから軽いキスを頬にくれた。
「ん。よく出来ました」
笑いながら、キスのお返しをするとキンタローもくすぐったそうな表情をする。
「これを1週間続けるんだな」
たまにおまえは面白いゲームを思いつく、とキンタローは笑った。
「後からキッチンに入ってきた方からやるんだぜ」
やられた方は3秒以内にお返し、しかも忘れた方が朝食の用意な、と口にするとキンタローは俺に椅子を勧めた。
「今日は俺が作るとしても……どちらも覚えていたらどうするんだ?」
「そりゃ一緒に作ればいいだろ」
なに言ってるんだよ、と呆れたように答えて見せる。
それもそうだな、と特に感心したようには答えずにキンタローは首肯した。
「……それよりも」
「なんだよ?」
淹れたてのコーヒーに口をつけて先を促すとキンタローはトマトにフォークを刺した。
「このゲームは1週間も続けたら癖になりそうじゃないか?
二人が帰ってきたら気をつけろよ、とサラダを食べ進めながら口にするキンタローに俺も言ってやった。
「それを言うならおまえもだろ」
初出:2005/09/30
かな様に捧げます。
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