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ko
 二人のキス
 case.1 甘えん坊なきス「ほな、おさきに」

名残惜しそうに陰気な男が降りると、従兄弟は深くため息を吐いた。
辛気臭い香の香りがまだそこらに漂っている気がする。

「あいつも……うざったくなけりゃあ、使える男なのにな」

幾度となく聞かされた言葉を聞き、俺は律儀にああと返す。
アラシヤマは確かにうざったい。
あれがなければ、というか極端に従兄弟に固執しなければ俺が四六時中シンタローについていかなくてもよいのだが。

「あれのどうしようもなさは今更直るものでもないだろう。我慢しろ」

あの根暗な性格を強制できるようなプログラムなどありはしない。
かといって優秀な人材を首にすることもできない現実もある。

「我慢か~」
「おまえには難しいことだろうがな」

ちらりと従兄弟の横に目を向けるとシンタローはぐっと詰まった表情をした。

「エレベーターの中では眼魔砲を撃たないくらいの分別はついているようだが」

壁には彼が苛つくあまりにめり込ませた拳の跡が残っている。
なにやらぶつぶつとシンタローは文句を言っていたが、俺が軽く睨むと口を閉じた。


「……悪かったよ」


ぶすっとした表情のまま従兄弟は組んでいた手を解く。
はあ、ともう一度深いため息をつき、彼は艶やかな髪をがしがしとかき混ぜはじめた。

赤い服に黒い髪が乱雑に散らばるのを見て、俺の方こそため息を吐きたくなる。


「シンタロー」
「なんだよ」

上目遣いに俺を伺う従兄弟に別に怒ってはいないと囁く。
髪をかき上げる動作を止めた彼の手首にくちづけを落とすとシンタローは眉を吊り上げた。

「おまえなあ、仕事中だろ」
「一応密室だ」

憮然とした表情のシンタローの眉間へともキスを落とすと彼は再びため息を吐く。


「……誰か乗ってきたらどうすんだよ」
「そのときは、そのときだ」

伯父貴でないといいな、と揶揄い混じりに耳を食むとシンタローは身を捩った。
やめろよ、と軽く手で払い、反撃してくる彼は目も口も笑っている。


笑いながら抵抗するシンタローへ俺はじゃれつくように腕を伸ばした。
抱きしめるとシンタローは「しょうがないヤツだよ。……俺の従兄弟は甘ったればっかだなあ」といいながら俺の頬に手を寄せる。

「俺もおまえも我慢が足りねぇよな」

深くくちづけを交わす前にシンタローは悪戯めいた表情でそう言った。



 case.2 戦場でのキスダ、ダ、ダダダダダ。

銃声がぱらぱらとそこらじゅうで響く。
特殊能力を持った戦闘員が多いとはいえ、なかなか防ぎきれない。
走りながら傍らの従兄弟に目を向ければ彼の左腕は銃弾が掠った所為で赤い総帥服が濃く見えた。

「キリねえよな」
きいんと弾がすぐ横の金属製の窓枠に弾かれて耳障りな音を立てる。
眼魔砲を使っちゃだめか、と伺いたててきた従兄弟に首を振ると彼は大仰に嘆息した。


「地道に作戦通りやるしかねえのかよ」
「眼魔砲はあくまで最終手段だ。貴重なデータを失いたくはない」
あきらめろ、と言いながら通路の死角から照準を合わせてきた敵兵にレーザー銃を撃つ。

「この建物は複雑な造りなんだ。崩壊したらどれだけの被害が出るか分からないぞ。
死人を出したくないのならそれで我慢しろ」
従兄弟が手に握っている最低値に設定したレーザー銃を示すとシンタローははいはいとおざなりな返事をした。



「予定通りなら夕飯前に終わるよな。まあ、お互いがんばろうぜ」
おれはこっちだったな、と二股に分かれた通路に差し掛かるとシンタローが左の方向を指差す。

「気をつけろよ、シンタロー」
「おまえもな」

じゃあな、と手を振って別れる前にシンタローがぐいっと俺の手首をつかむ。
銃に軽くキスを落とすとシンタローは悪戯めいた表情で笑った。

「おまえにはあとでやるよ」

振り返り、手を振る従兄弟に嘆息しつつ、俺はレーザー銃を握りなおした。
右の通路から足音が近づいてくる。

打ち込まれる弾丸を避けてトリガーを引くと青白いひかりが宙にラインを描いて弾けた。



case.3 病室でのキス 夜半に訪れたこともあって、病棟はしんと静まり返っている。
大きな戦闘も近頃はないためか、病棟を歩いても呻き声や苦しげな寝息は聞こえない。
コツコツと靴の音が響かぬよう、細心の注意を払って一番奥の病室へと向かう。
扉の前で指紋照合をすると、開いた扉からメルヘンチックな病室が現れた。


「お土産だよ、コタロー。ピンクのくまなんだ。かわいいだろ」
大人の手でも一抱えにもなる大きなぬいぐるみをシンタローは小さい従兄弟のベッドの下に置いた。
部屋の中にはもういくつものぬいぐるみやら洋服が所狭しと展示されている。

「最近来れなくてごめんな。お兄ちゃん、お仕事忙しかったんだよ」
ベッドの傍に置かれた椅子に腰掛けてシンタローは小さい従兄弟の髪を梳いた。
さらさらと眺めの前髪が瞼をくすぐっても小さい従兄弟は嫌がる仕草をすることがない。

少し前に訪れたときと同じように深い眠りに落ちているままだ。


ひとしきり、最近の家族のことを話すとシンタローはいつものようにコタローの頬へと軽いキスを落とした。
「おやすみ、コタロー。よい夢を」

眠り続ける弟へ意味のない動作だというのに、まるで起きている子どもをあやすようにシンタローはキスを落とす。
シンタローは寝返りも打たない彼の布団をかけなおし、髪を撫でつけた。

病室にしんとした空気が戻る。
おやすみのキスを終えてもベッドの傍から離れないシンタローにため息を吐きつつ、深刻にならないように勤めて俺は明るい声を出して、シンタローと同じように就寝前の儀式を小さな従兄弟へと行った。

「そういえば俺にはおやすみのキスをしてくれたことがないな」
コタローの額から口唇を離し、どうしてだ、とわざと子どもが駄々を捏ねるように尋ねるとシンタローは目を見張った。
立ち上がり、従兄弟の傍へ近づく。手を組んだまま小首を傾げて「シンタロー」と返事を促す。
目を丸くしていたシンタローだったが、もう一度呼びかけると彼は口角を上げた。

「そういえばそうだったな。なんだ、欲しかったんなら早く言えよ」
大人の癖に欲張りなお兄ちゃんだよな、コタローはこういう大人になっちゃだめだぞ、と従兄弟はベッドの弟へと話しかける。

「そうは言われてもな。俺は亡き父に似て慎み深いんだ。伯父貴に欲しいものを強請るときのおまえの態度はなかなか真似できない」
子どもの頃の彼の思い出をいくつか披露すると従兄弟は、
「てめえふざけんな」
と苦々しく言った。だが、すぐに何か反撃を思いついたらしく、にいっと悪戯めいたひかりを目に宿す。

「ああ、そうだ。おやすみのキスの後はついでにいつも世話になっている礼に歌でも歌ってやろうか」
高松が作ったおまえを称える歌なんてどうだ、と意地悪く従兄弟は言ってくる。
いつのまにそんなものを、と眉を顰めるとシンタローは噴出した。

「冗談だぜ、キンタロー。まあ、ドクターならやりかねねえけどな」
大仰に肩をすくめると声を立てて従兄弟は笑う。

笑い声でも小さい従兄弟が目を覚ますことはない。
くっくっくと噛み殺した笑いを響かせる従兄弟が憎らしくて、口唇に噛み付くようなキスをしてやる。
それでもシンタローは笑うことはやめず、病室からの帰り道でも俺たちは互いを遣り込めるためにからかい続ける羽目になった。



case.4 酔っ払いとのキス 扉を開けるなり、キンタローはそこから逃げ出したい衝動に駆られた。

音と色に満ち溢れている中に一際目立った集団、いや目立った男が一人いる。
煌びやかな室内にあっても目を引く派手な赤いスーツ。
ひかりを吸い込む黒い髪。
酒気を帯びた陽気な声。

その持ち主が、認めたくないことにキンタローが迎えに来た人物だった。


「大分聞こし召している様だな」
慇懃な口調で過ぎた酒量を揶揄すると赤い服の男はへらりと笑った。
俺が不機嫌なのにも気づかないわけか、と眉を顰め同席者を一瞥するとどれも皆判を押したように目を逸らす。
何人か見知った顔はいるものの殆どが初対面の者だというのに、だ。

「よ~。キンタロ!どうしてここが分かったんだよ。ま、いいや。座れ。おまえも飲もうぜ」
ほらほら、と従兄弟は隣のスペースを手で叩いた。
居合わせた連中の一人がこっそりと連絡を寄越したというのに、人の気も知らず陽気に店の人間に手を上げて合図などしている。

「あ~、えっと俺とおんなじでいいよな。さっきのワインを持って……」

誰が飲むか。
俺はおまえを迎えに来たんだ、と思わず怒鳴りたくなった。
だが、ここで言い合いになるのはよくない。
酔っていつも以上に短気なシンタローが店を破壊するのだけは避けたい。

「いや。いらない。それより、いい加減にしないと明日に障るぞ」
ほら、もうやめろ、とグラスを握る手を掴んで促す。
するとシンタローは「ぜってぇいやだ」と首を振った。

「駄々を捏ねるな。明日は朝からヘリに乗って視察に行くんだぞ」
帰って寝ろ、と隙を突いてグラスを取り上げる。
シンタローが呼んだ店員に有無を言わさず受け取らせ、シンタローの二の腕を掴む。
総帥服に皺が寄ったが、代えは何着もある。
ぐっと掴んで立ち上がらせると、シンタローは俺の胸を押した。

「明日の視察になんか影響ねえよ。俺はまだ飲むぞ。おまえは飲まないんなら帰れ」

手を離せ、と口を尖らせるシンタローに駄目だと何度も根気よく繰り返す。
それから、シンタローと「いやだ、飲む」「駄目だ、帰ろう」の言い合いを何度か繰り広げ、
「明日後悔するのはおまえだぞ。この間もそうだっただろう」
と俺が口にするとシンタローはようやく口を閉じた。


「ほら、シンタロー。帰るぞ」
やれやれと大人しくなったシンタローの手を引いて促す。

「シンタロー」
「……る」

「シンタロー?」
まだ聞かないのか、とうんざりした気持ちで従兄弟を見ると彼は耳を貸せと手招きした。


耳に当たる息が熱い。
シンタローはおもしろさを隠せない声音で俺に囁いた。

「キスしてくれたら帰ってやるよ」
できないだろ、と身を離し、シンタローは周りを見回した。

帰る帰らないの争いをしていた俺たちを店員だけでなく隣のテーブルの人間までもが見つめている。
先ほどまでの言い争いを思い出して、気まずい気持ちになった。
だが、それよりもシンタローがいそいそとテーブルの上のグラスを取ろうとしたほうが気になった。

「シンタロー」

「何だよ」
諦めたな。おまえも飲むんだろ、と勝ち誇ったかのように従兄弟は振り向いた。



「……!!」





後は知らない。
きっと酔っ払った目で見た幻覚とでも無理やりに思い込んでくれるだろう。
ガンマ団の連中は都合の悪いことは目を背けてくれる。きっと。


それよりも駐車場までずんずんと一人で進んでいくシンタローの機嫌をどうやって取るかのほうが今は重要だった。



case.5 デジャヴュのようなキスそういえば以前もこんなことがあったな、と壁に寄りかかりながらシンタローは思った。



キンタローは、とシンタローがグンマを訪ねたのはほんの数分前のことだった。
おやつというよりもハイティーの時間に差し掛かっていたが、アップルパイが焼けたと口にするとグンマは顔を綻ばせた。
夕飯前だけど、少しならいいだろ、と言うと甘いものに目がないグンマは間髪置かずにシンタローに賛成する。
試作しているロボットらしき物体を片付け、手を洗わなきゃとはしゃぐ彼にもう一人の従兄弟の居所を尋ねたのだ。

「部屋にはいなかったの?」
「ああ」

真っ先に訪ねたキンタローの部屋は応答がなかった。
てっきりグンマと一緒だとばかり思っていた、と言うとグンマは「それならあそこだよ」といった。

「ルーザー叔父様のお部屋にいると思うよ。キンちゃん、研究中でも息抜きによく行くから」
「ふーん。ルーザー叔父さんの部屋か。んじゃ、ちょっと行ってみる。おまえは先、行ってろよ」
すぐ追いつくからと別れて、シンタローは亡き叔父の部屋へと向かったのだった。


人の気配を感じ、扉が自動的に開く。
無機質な感じのする部屋には鏡と、部屋の奥に故人の蔵書やレポートが整然と並んだ本棚があるだけだ。
目当ての従兄弟は扉からすぐ見える鏡の前に佇んでいた。

「キンタロー」
呼びかけるとキンタローはすごい勢いで振り返った。
そして、シンタローへと襲い掛かるかのような勢いで駆け寄る。


「キン……ッ、おい!ちょっと待てッ!」

ぐっとシンタローの肩が壁へと押し付けられる。
扉のすぐ近くの所為か開きっ放しになり、シンタローからは廊下が横目で見えた。
肩の痛みに眉を顰めていると、ぐいっと顎を指で掴まれ、

「キンタロ……ん、ちょっ……」

待てよ、とシンタローが口にする前に言葉が従兄弟の口腔に飲み込まれていく。
どうしたんだ、と疑問を形作る舌が絡め取られ、噛み付くようにキスを挑まれてシンタローはぎゅっと目を閉じた。




口唇が離れ、荒い息を吐く。
ようやく吸い込んだ酸素に頭が回らない。
キンタローはというとシンタローと同じく荒い息を吐きながらも、顎を掴む指を緩めてはいない。



視線が合う。


何か、言わなくては。
どうしていきなり、だとか誰かに見られたらどうする、だとか。
ぐるぐるとシンタローが思い巡らせているとそれよりも先にキンタローが口を開く。


「好きだ」

シンタローの顎をつかんでいた指の力がなくなる。
さっきまで込められていた力とは打って変わった手つきで頬へと指が寄せられる。


「愛している、シンタロー」

掠めるようなキスを口唇で受けて、シンタローは同じようにキンタローの頬へと手を添えた。
互いの髪を梳く指先は優しい。


ジャケットで振動する携帯電話と開け放たれたままの扉に気をとられながらもシンタローはキンタローへとキスを贈った。



 初出:2005/09/23
eddy様に捧げます。
 
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