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kk1
 ガンマ団本部に勤務する皆が不思議に思っていることがある。
 それは新しくガンマ団総帥となったシンタローに近しい者になればなるほど、感じていることである。


 シンタローが総帥となってから大々的に改革が行われ、新制ガンマ団として新たな未来を掴むために再スタートをきった。それと同時に始まった、慌ただしいではとても済まないほど忙しい日々が、新総帥を始めとするガンマ団全体に待っていた。
 周囲の者達も皆協力を惜しまずに、一つ一つ任された仕事を確実にこなしていった。
 それでもやることは減らず、当然、現団のトップであるシンタローは周囲の者達が口を挟む隙がないほど忙殺される日々を送っている。
 来る日も来る日も遠征、会合、会議、書類の束などとの奮闘を繰り返し、ほとんど自由時間がとれない日々が何ヶ月も続いている。本人も今は仕方がないと諦めて仕事に専念しているのだが、ここで周囲の者達は疑問を抱くのだ。

 このガンマ団の新しき総帥は一体いつ休んでいるのだろうか、と。


 日が暮れ、空が真っ黒なベールを被り、月が浮かんだ。そして星々が輝き始めてから、随分と時間が経つ。辺りはしんと静まり返り、外では虫が鳴く声だけが響き渡っていた。
 日付が変わってから、一時間と少し過ぎた頃である。
 キンタローは総帥補佐官として自分が引き受けた分の書類に目を通し終わると、その束をまとめながらシンタローを見た。己の半身は、難しい顔をしながら分厚い資料に目を通しているところだ。
 キンタローが席を立つとシンタローは顔を上げて視線を向けた。
「終わったのか?いつも遅くまで悪ィな…」
 シンタローはそう言って苦笑を浮かべながら大きく伸びをする。暫く同じ姿勢で書類を読みふけっていたので、そうするだけで凝り固まった体が少しほぐれたような気がした。
 キンタローは書類の束を持ってシンタローの傍に近寄る。重厚感溢れる総帥のデスクの上に持っていた紙の束を置くと青い眼をシンタローに向けた。
「俺にとっても家業と変わらないのだからお前が気にする必要はどこにもない」
「そう言ってくれるとありがてェけど…でもお前の本業は他にあるんだからサ。気ィ使わねェで好きなことやれよ、キンタロー」
 その台詞にキンタローは何とも言えない気持ちになって反論しようとしたが、シンタローの台詞が部屋に響くほうが早かった。
「でも感謝してる。遅くまでありがとうな」
 キンタローが読み終えた書類を指しながら、シンタローは和かな微笑を浮かべた。
 先にその様な笑顔を向けられると、出かかった台詞は完全に飲み込むしかなくなる。キンタローのそんな様子に気付かないシンタローは「部屋に戻ってゆっくり休めよ」と言って再び先程まで読んでいた紙の束に視線を戻した。
 キンタローはシンタローに何か言いたかった。
 こういうとき、二人の間に自分は望まぬ壁があるような気がして胸が痛いのだ。
 普通の人間にはあるべき壁が、幸か不幸か二人の間には存在しない。
 だがしかし、この様に言われてしまうと誰よりも近くにいる分、酷い拒絶感を味わう。
 キンタローは頭の中で考えた。
 根を詰めすぎるな、とか。お前はまだ休まないのか、とか。
 頭に浮かぶ台詞はどれも陳腐に思えて、それに対するシンタローの台詞も容易に考えつく。もう少し気の利いた言い回しが出来れば、こういうときに感じる壁を難なく乗り越えて彼に近づくことが出来るのだろうか。
 何か言うことは叶わず、だからといって言われた通りに退室することも出来なくて、キンタローは青い双眸に半身の姿を映しながら立ち尽くした。
 資料に目を通していたシンタローは、動かぬ気配と痛いほど注がれている視線に再度顔を上げる。
 そこには少し恨みがましそうな顔をしたキンタローがいた。
「何だよ、どうかしたのか?」
 シンタローは訝しげな表情を浮かべる。現時点でキンタローの心情が全く掴めないため、何故その様な目で見られるのか想像がつかないのだ。だが、対するキンタローも、どうかしたのかと聞かれても答えられない。答えられないからその様な目で見ているのだ。
 従ってお互いに相手を見つめたまま沈黙の時が流れる。視線は逸らされることなく長い間二人は黙ったまま互いの半身をその目に映していた。
 そんな無言の時の中で先に動いたのはシンタローである。いつまでも直立不動で恐い表情を張りつけたままのキンタローに苦笑しながら席を立つ。
「ったく、どうしたんだよ…そんなに言いにくいこと考えてんのか?」
 キンタローの傍まで歩み寄ったシンタローは、苦笑を優しげな笑みに変えて金糸の髪に触れる。そしてそのまま頭を撫でた。
 同じ体格の二人であるから、当然キンタローの正面にシンタローの顔がくる。
 真正面でこの仕草をやられると愛しさが込み上げてきて思わず抱き締めたくなるのだが、今はそれ以上に腑甲斐ない己に対して激しい自己嫌悪に陥った。
 自分が慰められてどうするのだ、と。
 キンタローは己の頭を撫でるシンタローの手を取ると溜息を一つ吐いた。その手を握り締めたまま、漸く口を開く。
「自分に嫌気がさすな…」
「…何の話だよ?」
「お前の仕事ぶりに口を挟めずにいるのが嫌だ」
 キンタローの声は抑揚なく淡々としていて感情が顕にならない。
 いつもならそんなキンタローの心情を上手く察するシンタローなのだが、たまに全く判らなくなるときがある。
 今もそうであった。
 一体目の前の男が何を思ってそんな台詞を吐いたのか見当がつかない。
「俺の仕事に何か言いたいことがあんのか?」
「そういう意味ではない」
「じゃあ…何だ?」
 シンタローは小首を傾げながら真っ黒な目を瞬かせた。
「…いい、何でもない」
 キンタローはそう言ってシンタローを引き寄せるとその体を抱き締めた。瞬間、シンタローの匂いが鼻孔を掠め、何故だか少し切なくなる。そう感じた心が、現時点である二人の距離かとキンタローは思った。
 シンタローは、きつく抱き締めてくるキンタローにされるがまま、抵抗をしなかった。
 シンタローを腕に抱き締めたままキンタローは思う。
 これはただのエゴなのだ。
 シンタローは自分がやるべきことに一心不乱で立ち向かっている。だからといって無謀なことをしているわけでもなく、彼なりに勝算ありと考えて日々の激務をこなしているのだ。頑丈な体にものを言わせているところもあるが、それでも倒れることなく不調も訴えずに仕事をしているのだから、他人にとやかく言われる筋合いはない。たまに寝不足でおかしな言動を吐いていることもあるが、休息をとればすぐいつものシンタローに戻るのだ。
 それでももっと頼ってほしいとか、もう少し弱音を吐いてもいいのではないか等は、彼に言って良い台詞ではない。
 シンタローの能力を一番よく理解しているキンタローだからこそ、その台詞を口にすることが出来ないのであった。
 だが、総帥補佐官となればシンタローの一番近くにいるはずなのに、激務をこなす彼の中に入る余地がない現状を寂しく思う。公私共に、シンタローの傍にいるキンタローだからこそ、その距離をもどかしく思うのだ。
 総帥補佐官として、従兄弟として、恋人として、大切な相手を想うのに、それが伝わらない。伝える術も判らない。
 思考を巡らせると相反する言葉が頭の中で飛びかう。それでも己の半身を理解しているキンタローは頭に浮かんだ台詞を口にはしない。このようなところで通すような我儘ではないのだ。
「全然何でもなくねェじゃねェかよ」
 抱き締めてくるキンタローにシンタローは笑みを含みながらそう言うと、その背中に手を回した。
「シンタロー…」
「ん?」
 キンタローの問い掛けに対するシンタローの声が優しく鼓膜を震わす。
 自他共に認めるほどシンタローはキンタローに甘い。こうして二人きりでいるときなど、その様子が顕著になる。表情も声も仕草も、キンタローに向けられる全てが優しく暖かい。
 キンタローは次に紡ぐ言葉を探したが、見つけることが出来ず、シンタローを抱き締める腕に力を込めた。こうしている時間もシンタローの邪魔をしているな、と少し自虐的な思考に囚われながら、暫く黙って抱き締めた後、拘束していた腕の力を緩めてその体を解放した。
 今ここで無理矢理にでも自然に見えるような笑顔を作れる芸当があれば良かったのだが、とキンタローは思う。
 しかし現実の自分は、表情が乏しく、無表情でいれば怒っているように見られることが度々だ。
 笑顔で場を和ませるといったような付加効果は諦めて、淡々とした口調でいつも別れ際に吐く台詞を口にした。
「…では、先に休ませてもらう。お前も適当なところで休め、シンタロー」
 内心もやもやとしたものを抱えながらも、相手の目を見て言えたのは上出来だろう。
 キンタローは言い終えた後、一瞬だけ見つめると、シンタローに背を向けた。
 気配でシンタローが何か言おうとしたのが判ったが、それに気付かぬふりをして足早に部屋を出ていった。
 総帥室に一人残ったシンタローは、キンタローが出ていった後の扉を見つめながら溜め息を一つ吐く。
 キンタローがシンタローの仕事に対して何を言いたかったのか判らないが、去りぎわは明らかに無理をしていたのが判る。何でもいいから話してほしかったのだが、当のキンタローはもうここには居ない。
「遠慮するような仲じゃねェんだし、何かあんなら言ってくれりゃー良いのに…」
 小さな声で呟きながら少しの間扉を見つめていたが、数回頭を振ると、席に戻る。そうしてシンタローは再び書類へと意識を向けたのだった。

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