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「綺麗だ…」
 そう思った瞬間、身体が動いていた。




「シンタロー」
 部屋に入ってすぐ、名を呼び掛ければ、重厚な作りの机を前に座っていたガンマ団総帥はゆっくりと顔をあげた。
 少しやつれた表情。
 二日間研究室にこもっている間に、どうやら無茶をしていたようだった。久しぶりに見るその姿を観察していれば、ペンを机の上に置いたシンタローが口を開いた。
「どーしたんだよ、キンタロー。つーか、お前ちょっとやつれたか?飯はちゃんと食えよ」
 その言葉にムッとする。それはこちらの台詞である。
「お前には言われたくない。いいか、俺は今のお前にだけは言われたたくないからな! ――シンタロー、お前こそ鏡を見たらどうだ。頬が少しこけてるぞ」
 その指摘にシンタローは今気付いたとばかりに頬を撫でた。
「え!マジ?…っかしいなぁ。睡眠と食事はきちんととってるぜ」
「それが足りてないからだろう。まったく俺がいないとすぐ睡眠と食事を減らすな」
「…そういうつもりはないんだけどな」
「なかろうとも、結果はでている」
 甘い顔をすればすぐに無理をする相手だから、厳しい顔で睨み付けるようにすれば、視線を反らされた後、罰が悪そうに頭を下げた。
「悪ぃ。今度からは気を付ける。…で、お前の用はなんなんだ?今日までこっちの仕事は休みだろ」
 確かにシンタローの言う通り、今日まではガンマ団開発部で仕事だった。だが、途中で抜けてきたのだ。それは――。
「シンタロー。少し俺に付き合ってくれ」
「は?なんで…俺は今仕事中――」
「そろそろ休憩をいれる時間だろう。それとも強制的に休憩が必要な身体にしてやろうか?」
 そうすることはこちらとしては望むところである。机を回り込みシンタローの顎を軽く持ち上げてみせれば、慌てた様子で手を叩かれた。
「けっこーだ!つーわけで行くぞ。どこだ?その付き合って欲しい場所は」
そそくさと立ち上がるシンタローに、内心残念に思いつつも、キンタローは先を歩いた。
「外だ」




 連れて行きたかった場所はガンマ団本部内の端だった。
 それは研究室へ移動する窓から見えた。安全確保のためにガンマ団基地の中でもはずれに作られたそこは、建物との合間をつなぐために色んな種類の樹木を植えていた。たぶんこれもそのひとつ。だが、広大な基地の端であり危険な研究所が入っているために近づく者は早々いないここに、それはあまりにももったいないものだった。せめて自分だけでも気付いたならば、共に見たいと望む者と眺めたかった。
「あっ…」
 シンタローの顔に驚きの表情が浮かぶ。キンタローはそれを眺めほくそ笑んだ。予想していた反応だったからだ。自分もまた、これを見たときは驚いた。数メートル前までは青々とした緑溢れる常緑樹の並木道なのだ。けれど一歩角を曲がれば薄紅色のトンネルである。互いに触れ合うほどに枝を伸ばした桜達はその全てを可憐な淡い紅の花で飾っていた。辺りの空気すら染めるほど溢れる桜色。
「すげぇ…」
 漏れ出た感嘆の声にキンタローは同意するように頷いた。
「圧巻だろう」
「ああ」
 棒立ちのまま桜に魅入る相手を置いて、キンタローは移動した。そこは一際美しい桜の木下。道とは反対側に回り込み、そこへ座った。
「シンタロー、ここに来い」
 その場で手を伸ばし、名を呼べば振り返ったシンタローは頬を桜色に染めた。
「何考えてやがる!」
 キンタローが示した場所は、キンタローの股の間。キンタローが桜の幹にもたれかかって座っているように、シンタローもまたキンタローの胸にもたれかかって座れと言っているのだ。
「恥ずかしがらずとも、誰にも見られることはないぞ」
「そうかもしんねぇけどさ…」
 だからと言って素直にキンタローに身体を預けるのも照れ臭くて仕方がない。羞恥の壁に阻まれて躊躇っていれば、真っすぐな視線に貫かれた。
「嫌か? シンタロー」
 直球で尋ねられる質問。
「……ズリぃ」
 その問い掛けに、子供のように唇を尖らせた。そう思わずにはいられない。だからこそ、シンタローはキンタローの手をわざと無視して、定位置にストンて座った。
「嫌なわけねぇだろ!」
 ぶっきらぼうな答え。
 好きか嫌いかを尋ねられれば、どちらかなどわかりきったこと。こんな気持ちいい場所、他人に味あわせるのも嫌だ。
 くつろぐように背を相手の胸に預ければ、両腕が軽く回された。
「上を見ろ」
 その言葉にしたがって、頭上を仰げば、薄紅色と空色の柔らかな色彩に視界は埋められる。
 心安らぐ光景。
 漆黒の瞳と紺碧の瞳が一色に染め上げられる。
「―――お前とこうして見たかった」
「ん…」
 その気持ちが嬉しくて自然と笑みが浮かぶ。
「…シンタロー」
 名を呼ばれ振り替えれば甘い口付けが降ってきた。桜色に染まる頬を包み込み。花びらが触れるような優しいキスを何度も送られる。ようやく離れればその視線は桜ではなくキンタローのみに注がれていた。
「俺はずっと…お前とこんな綺麗な景色を共有していきたい」
真 剣に語られる言葉をシンタローはゆっくりと噛み締める。胸が熱くなるのは、その気持ちが嬉しいから。泣きたくなるのは、キンタローのことをそれだけ強く思っているからだ。
「…俺もだ――ありがとう、キンタロー」
 今日この日この時を与えてくれて、そしてこの先の美しい世界を共有出来る喜びを与えてくれて。感謝をこめて笑みが浮かぶ、その唇に深く触れた。

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