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fds

 コトリ。
 ほんのわずかな音。それでもシンタローの意識は覚醒し、閉じられていた瞼は震えるようにして上へと持ち上げられた。
「キンタロー」
 ここがどこであるかとか、今は何時だとかを認識するよりも先に、乾いた唇からその言葉が漏れる。
 視点は、見慣れた天井を移したままだったが、それでもそこに声をかけた人物がいることは、間違いなかった。
(っと、もうこんな時間か)
 首を動かせば、カーテンが淡い光を纏っていた。朝は明けてはいないが、それでもずいぶんと外は明るくなっていたようである。時刻にすれば、およそ6時前後。
 呼ばれた相手は、物音を立てるのをやめ、視線だけをこちらへと向けた。
「すまない。起こしたか」
「ん。いや、別に」
 確かに起きたのは、キンタローの立てた音が原因だったが、謝られるほど煩い音を立てられたわけでもなければ、わざと音を立てたわけでもない。それは分かっていた。
 頭は枕に置いたまま、ぐるりと身体を横にさせれば、キンタローの姿が見れた。シャツを羽織り、ボタンを中ほどまで留めていた。身支度の途中である。
 薄明かりの中でも、はっきりと分かる青い瞳は、まっすぐにこちらを見据えていた。気恥ずかしさに、シンタローは、腰の辺りまでさがっていたシーツを胸まで引っ張りあげた。
 さすがに、きちんと服を着ている相手の前で、真っ裸な自分の姿をさらすのは躊躇いがある。例えこの相手には、幾度となく生まれたてのままのこの姿を見られていたとしてもだ。
「まだ時間がある。お前は、寝てろ」
 大きく広い手が伸びてきて、自分の額に触れ、前髪を梳くように額を撫でられた。
 心地よさを感じるには、その手にすっかり慣れきってしまったためだろう。もっとも、その言葉は少しおかしいのかもしれないが。なぜなら、慣れるもなにも、その手は数年前までは、自分のものだったのだから。複雑というよりは奇妙奇天烈な展開をへて、結局は、キンタローのものとなった身体は、それでも紛れもなく元自分の身体だ。その手にうっすらと残る切り傷は、十年ほど前、自分の不注意で痕となり残ったものである。思わず目を細め、そこから視線をそらした。
(ま、色々あったってことだよな)
 その一言で、今はもう済ませてしまう。
 すでに目の前にある身体は自分のものではないのだ。そうして、こんな風に触れるだけで安らげるのも、自分の身体だからなどという理由でもない。
 キンタローだから。
 それ以外は当てはめられない事実。
 確かに、ほんの数年前――二、三年前ではありえなかったことだろうが。今では当然のことのように感じられる。
「昨日は無理させすぎたが、大丈夫か?」
「ん~、まあ…」
 まじめにそう聞いてくる相手に、シンタローは曖昧に頷いた。気遣ってくれるのは嬉しいが、素面の時に閨での出来事は尋ねて欲しくはない。確かに、腰から下にかけて鈍い痛みを伴っているが、動けないほど辛いというわけではなかった。
 顔を見るのも気恥ずかしくなり、くるりと相手に背を向ければ、それ幸いと思ったのか、朝の空気に冷えた指先が、背中に触れた。
 ビクリ。
 と、思わず背を揺らせば、その指先が少しだけ遠ざかる。
「久しぶりだったせいで、少々抑えが効かなかったが、お前も悪い」
 なじるような声。責められるとは思わなかった。
 首をねじり、背中を相手に向けたままの状態で、後ろを振り向けば、先ほど背中に触れた指先が、顔の形をなぞるように、こめかみから顎にかけて滑った。
「なんでだよ」
「分からないのか?」
 スッと指先がすべり落ち、あらわになっていた肩に触れた。その一点をキンタローは押す。痛みはないが、その行動につい視線を向ければ、シンタローは、カッと頬を染めた。そこには、くっきりと赤く色付いた痕が残っていた。キンタローがつけたものだ。それひとつを見たとたん、身体中いたるところにつけられている印を思い出してしまった。
(ったく、景気よく残してくれやがって……)
 それでも怒りをあらわにしないのは、こちらの約束どおり、総帥服を着て、見える部分には痕を残さないということだけは守ってくれているからである。
「分からないね」
 突っ張るようにそう言えば、これみよがしにため息をつかれた。
「はあ。いいか、あんな風にねだられたら、俺も我慢が出来るはずがないだろうが。もう一度言うぞ、お前があまりにも素直で可愛い行動を取ってくれるから、俺はな――」
「はいッ、それ以上は言わんでよぉーし!」
 すかさず、シンタローは起き上がり、その口を手で塞いだ。すぐに手は離してあげたが、先ほどの言葉をまた紡ぐようならば、今度は容赦なしに、その口にシーツでも突っ込んで塞ぐつもりである。
 しかし、賢明にもキンタローは、先ほどの言葉の続きはいわなかった。
「なぜだ? 俺はまだ言いたいことがあるぞ」
 その代わり、なぜ言葉を止められたのか、その理由をもとめてくる。それに、シンタローは、げっそりした表情で答えた。
「キンタロー……俺はその手のプレイはやりたくねぇんだよ」
 ここでこれ以上の言葉は羞恥プレイである。
 あまりの恥ずかしさに、耐え切れない。
「プレイ?」
「いや、分からなければいい」
 こちらの言葉が分からなかったのか、きょとんと首を傾げてくれたのが救いであった。
 そんなことは、知らなくてもいい。むしろ、一生わからなくていい。うっかり口に出してしまったが、そんなことを知れば、また何を言い出すかわかったものではない。
「それよりも、そろそろ帰らねぇとヤバイぞ」
「ああ、そうだな」
 その言葉に、キンタローは立ち上がった。いつのまにか身支度は整え終わっており、椅子の背もたれにかけていた上着に腕を通す。この部屋に訪れた時と変わらぬ姿になると、キンタローは、ベッドに膝をつき、こちらへ向かって身を乗り出した。
「お休み、シンタロー」
 またベッドに寝たシンタローに向かって、前髪をかき上げると、子供に与えるように、額に口付けて、部屋を出ていった。
「何がお休みだよ」
 先ほどのちょっとした騒動で目は覚めている。それでも、キンタローが出ていけば、少しずつ眠気も戻ってきていた。身体がまだ疲れを残しているせいだろう。後2時間ほどは、眠っていられると思うと、欠伸が出てきた。
 けれど、隣から消えて温もりだけが寂しかった。本当ならば、もう少し一緒にいてもいいのだが、キンタローとのこの関係は、誰にも秘密であるために、そうもいかなかった。
 誰にも見つかってはいけない、気付かれてはいけない秘密の関係。
 それ故に、朝早くにキンタローはそっと自室に戻るのである。
「チェッ」
 それは、自分からそうしてくれと望んだことだけれど、やはり物足りなさや寂しさも募ってくる。
 いつかは、ちゃんと告げられることができるだろうか。
 堂々と、自分とキンタローが恋人同士であることを、大切な人たちに告げることができるだろうか。
(いつかは、そうしよう――絶対にな)
 シンタローは、そう思いつつ目を閉じた。






 おまけ。
 ~朝の朝食風景より~
「……シンタロー、髪をあげてきたのか?」
「え、別にかまわねぇだろ。この服なら、襟元しっかり止めてれば、お前がつけた痕も見えねぇし。髪は、仕事の時は解くよ」
「前はな……」
「へ?」
「シンちゃ~ん。おはよう。パパだよv」
「ああ、朝からテンション高ぇな、相変わらず。おはやようさん」
「今日はポニーテールかい。可愛いねv」
「どーでもいいからくっつくなよ。飯が不味くなる」
「酷いよ、シンちゃん! ――あ? …………ねえ、シンちゃん」
「あん?」
「ねぇ、パパ、ちょーっと聞きたいんだけど――このうなじの下のキスマークは誰がつけてくれたのかなぁ?」
「ブッ! なッ……キスマ……え?」
「昨晩は出かけてなかったはずだけど……そう言えば、夜にキンちゃんが部屋に訪れてたよねぇ。シンちゃん?(怒)」
「あ、いや…それは……だから………(大汗)」

「ねえねえ、キンちゃん。まだシンちゃんは気付いてないの?」
「ああ」
「ふぅ~ん。教えてあげればいいのに。おとーさまも僕も、叔父様たちも。み~んな、キンちゃんが恋人だって知ってるって。ま、知ってても責めたくなる気持ちはわかるけどね。僕だって、相手がキンちゃんじゃなきゃ、色々やってるよ★(笑顔)」
「それは、よかったというべきなのか? グンマ―――だがしかし、シンタローは、俺達の関係を秘密にしておきたいようだからな。あえて言う必要もないだろう」
「……楽しんでるでしょ、キンちゃん」
「ああ(笑)」

「違ッ……別に俺とキンタローは……ぎゃぁ! 何しやがる。触るなッ」
「こうなったら、パパも同じところにつけるよッ! 覚悟はいいね、シンちゃん」
「あるわけねぇだろうがッ。――眼魔砲ッ!!」

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