05. 無視
1時間と26分。
アイツが黙秘権を行使してからもうそれだけ経っていた。
「オイ」
うんざりして、呼びかけたのは、二度目。
ほんの少しだけ、たじろぐように空気が揺れたが、返事はなかった。
男は部屋の隅に座ったままこの上なく陰気な空間を作り続けている。
一応、スイートルームではあるのだから、ソファはいくつも置いてある。
座ろうと思えばいくらでも快適な場所はある。
大体一人になりたいなら自分の部屋に帰りゃいいのに。
まあ、コイツに部屋の隅ってのは似合ってるっちゃ似合ってるんだが。
大きく息をついてから、口元を片手で覆った。
「……チッ……」
ッたく、どうしろってんだ。
いつものシンタローはん連呼のコイツもウザいとしか思ってなかったけど、
黙ってれば黙ってたでこれまで鬱陶しいとは。ある意味さすがと褒めてやりたい。
「オイ」
「……」
条件反射なのかなんなのか、一応、俺の声に反応はする。そのくせ、返事はしない。
よほど意固地になっているらしい。
正直、それほどコイツが不機嫌になる理由も、よくわかんねーんだけど。
からかうというほどの意識もなく、ただなんとなく叩いた軽口。
今夜の団主催のパーティーで、
珍しく、他国のお姫サマと(一応)普通に会話してて(それなりに)楽しそうだったから。
口にしたとき多少酔ってたのは、認める。
にしてもだ。
(まあコイツに限ってそんなコトあるワケねーと思いながら言ってたし)
(それに本当のところ、どっちだって俺は構わねーんだけど)
「……別に、怒るようなコトじゃねーだろが」
だが、俺のその言葉を聞いたアラシヤマは、ようやく顔を上げて。
「怒る?」
そして、心底意外だと言う顔をして、俺を見た。
「わてはあんさんの言うことに怒りたなることは殆どあらへんどすえ」
少し、悪い予感はしてた。けど。
俺もまだ酔いが完全に覚めてるわけじゃなかったし、昼間の疲れも出てきてたし。
何より、このヘンに居心地の悪い空気を終わりにしたくて、
いつもの調子で、言ってしまった。
「じゃあ、その体育座りヤメて、さっさと帰れば」
言ってから少しだけ後悔したのは
こっちに向けられているその眼がやたら人形じみて、硝子玉みたいになってたから。
その目の色を変えないまま、アイツは平坦な声でそれを口にした。
「……せやけど、傷つくことは、ないとは言いきれまへん」
ああ、馬っ鹿じゃねーの。コイツ。
そんなこと言う時ばっかり、ちゃんと人の目ぇ見やがって。
引きつりそうになる口の端を、無理やり上にもっていく。
「―――そりゃ、友達の付き合い方としては最低の部類だな」
そしてそれは、別の特殊な関係であれば比較的ありふれたものだと知ってはいたけれど、勿論そんなことは言わなかった。
1時間と26分。
アイツが黙秘権を行使してからもうそれだけ経っていた。
「オイ」
うんざりして、呼びかけたのは、二度目。
ほんの少しだけ、たじろぐように空気が揺れたが、返事はなかった。
男は部屋の隅に座ったままこの上なく陰気な空間を作り続けている。
一応、スイートルームではあるのだから、ソファはいくつも置いてある。
座ろうと思えばいくらでも快適な場所はある。
大体一人になりたいなら自分の部屋に帰りゃいいのに。
まあ、コイツに部屋の隅ってのは似合ってるっちゃ似合ってるんだが。
大きく息をついてから、口元を片手で覆った。
「……チッ……」
ッたく、どうしろってんだ。
いつものシンタローはん連呼のコイツもウザいとしか思ってなかったけど、
黙ってれば黙ってたでこれまで鬱陶しいとは。ある意味さすがと褒めてやりたい。
「オイ」
「……」
条件反射なのかなんなのか、一応、俺の声に反応はする。そのくせ、返事はしない。
よほど意固地になっているらしい。
正直、それほどコイツが不機嫌になる理由も、よくわかんねーんだけど。
からかうというほどの意識もなく、ただなんとなく叩いた軽口。
今夜の団主催のパーティーで、
珍しく、他国のお姫サマと(一応)普通に会話してて(それなりに)楽しそうだったから。
口にしたとき多少酔ってたのは、認める。
にしてもだ。
(まあコイツに限ってそんなコトあるワケねーと思いながら言ってたし)
(それに本当のところ、どっちだって俺は構わねーんだけど)
「……別に、怒るようなコトじゃねーだろが」
だが、俺のその言葉を聞いたアラシヤマは、ようやく顔を上げて。
「怒る?」
そして、心底意外だと言う顔をして、俺を見た。
「わてはあんさんの言うことに怒りたなることは殆どあらへんどすえ」
少し、悪い予感はしてた。けど。
俺もまだ酔いが完全に覚めてるわけじゃなかったし、昼間の疲れも出てきてたし。
何より、このヘンに居心地の悪い空気を終わりにしたくて、
いつもの調子で、言ってしまった。
「じゃあ、その体育座りヤメて、さっさと帰れば」
言ってから少しだけ後悔したのは
こっちに向けられているその眼がやたら人形じみて、硝子玉みたいになってたから。
その目の色を変えないまま、アイツは平坦な声でそれを口にした。
「……せやけど、傷つくことは、ないとは言いきれまへん」
ああ、馬っ鹿じゃねーの。コイツ。
そんなこと言う時ばっかり、ちゃんと人の目ぇ見やがって。
引きつりそうになる口の端を、無理やり上にもっていく。
「―――そりゃ、友達の付き合い方としては最低の部類だな」
そしてそれは、別の特殊な関係であれば比較的ありふれたものだと知ってはいたけれど、勿論そんなことは言わなかった。
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