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09. 闇の中











 久々に、アイツと思いっきり、怒鳴りあうようなケンカをした。
 とはいっても、電話口でのことだが。


 最初は一ヵ月後に予定している作戦についての打ち合わせだったハズなのだが
 そこからどう発展したものだったか、
 気付けばネクラだの俺様だのどこの小学生のものかというレベルの口ゲンカになり。


 テメーなんか一生ぜってー友達なんて思わねーからナ!と俺が怒鳴って。しばらくの沈黙の後。


 呪ってやりますえぇぇシンタローはん~~~という半泣きのアイツの声が聞こえてきたので、
 その瞬間勢いよく受話器を壁に叩きつけた。
 総帥室の壁の一部が見事にへこみ、コードレスの受話器は四散して、再起不能になった。




 大分頭が冷えてから、アイツの言ったことの内容自体にはまあ一理はあったかもしれない、とは思い、その晩、作戦の一部には渋々と修正を加えたのだが。
 謝るつもりは、さらさらなかった。
 内容の正しさとそれを告げる口調は無関係だ。その後の口ゲンカは、尚更。







***







 翌朝。
 起きようとしたら、たっぷり十分間、金縛りにあった。

 朝食に出ていたゆで卵を割った瞬間、どろりと中身が流れ出して総帥服の膝に垂れた。生だった。なぜだか見当もつかないとコックはひたすらに頭を下げていた。

 着替えて家を出ようとしたら、目の前を黒猫が横切った。(警戒用のセンサーは作動していたはずなのに)

 本部正門手前の木々の枝を埋めるように、カラスが行列を作っていた。




(……なんっか……縁起悪ィような……)


 そう思った瞬間、昨日の電話口から聞こえたアイツの陰気極まりない声が、頭に蘇る。


 
 ありえねぇありえねぇと頭を振りつついつもどおり歩いていたら、総帥室に入る前の自動ドアに思いっきりぶつかった。(本当にありえねぇ)
 チクショーと呟きつつ無理やりこじ開けて入ったらそこには既にキンタローと秘書たちがいて。
 どうしたシンタロー、と怪訝そうな顔でキンタローが訊ねてきた。
 そこのドア、ぶっ壊れてやがんじゃねーかと、痛む額を押さえながら怒鳴る。
 だが、片眉を上げたキンタローに俺は普通に入れたが、と返され、さらに実践もされた。キンタローが近づくとドアはいつもどおり、スムーズに開いた。



 腑に落ちない気分でそれでも執務机に座り、一時間ほどしたとき。
 入り口近くの机で仕事をしていた秘書の一人が、顔面蒼白でこちらにふらふらと歩いてきた。

「……総帥」

 その顔色と、ほとんど震えながらのその声に、非常に嫌な予感がする。

「……なんだ」
「昨日作成された、ベータ国侵入マップの最終データが…飛んでます。バックアップも……すべて……」 
「なにィーーーーーーーーー?!!!!」

 昨日の午前二時過ぎまで、目を充血させながら何重ものチェックを行ったデータが壊滅。


 しばらく状況が把握できず、椅子から立ち上がることすらできなかったところ、
 もうひとりの秘書が盆を手に近づいてきて、間近で思い切りけつまづき。

 持ってきた熱いコーヒーを頭から浴びせかけられた。

 ぽたぽたと髪から滴り落ちる黒い液体を慌てて拭きつつ謝罪を続ける秘書。
 怒る以前に、呆然とした。

 
 総帥室の足元につまづくようなものなどなにもなく、今までにこんなことは(当たり前だが)一度もない。





 その後の悲惨な経過は思い出したくもないが、とにかく次から次へと続くデータの故障や部下のうっかりミス、整備万端なハズの輸送機が何故か作動しなくなるといったアクシデント。

 そして合間に重なる些細な、しかし確実な不幸。

 さらにそれから二日の間、降りかかる不幸の種類こそ違え、結果としてそれとほぼ同じような日々が続き。



 仕事量としてはさして詰まっていたわけではないのに、三日目の朝、鏡を見た際には、目の下にはくっきりとしたクマが浮き出ていた。



 ―――さすがの俺も、音をあげざるをえなかった。







***







 二回のコールの後、相手が出た。
 
「シンタローはん?」

 と、何食わぬ声で前線基地にいるアイツは電話を受けた。
 かけているこちらの顔色といえば、ここ数ヶ月を見返してもないくらい焦燥しきっていたに違いない。

「……アラシヤマ」
「なんでっしゃろ」
「……この前のは……俺も、ほんのちょっっっとだけ……悪かった。だからもう呪い電波は送ってくんな!!」
「へ?電波……?て、なんのことどす?」

 相手の声はあくまで暢気で、その上どこか浮かれているようにも聞こえる。
 本当にいつもどおりの、腹が立つほど普通のアラシヤマの声だ。

「そうそう、例の作戦、ちゃんとわての意見反映させてくれはったんどすなぁ。ありがとさんどす~」

 こちらの思惑などまったく推量もせず、ここ数日のほとんど奇跡といいたいような悪夢の日々にも全く触れず。
 それどころか、

「あのときシンタローはんが友達やないなんて言わはったんも、いつもの照れ隠しでっしゃろ?わかっとります、わかっとりますわ」

 そんなことを呟きつつ、アラシヤマは回線の向こうでひとりうなずいているようだ。



「ああ~それにしてもシンタローはんからの電話、嬉しゅおす~~vvで、なんの用件どしたっけ?」
「…………」


 その言葉に、開いた口がふさがらなくなる。
 ここ数日間のアレは絶対に、自然の現象ではない。たとえ天中殺でもあれだけのことが起こり続けるわけがない。


 
 とすれば、コイツが無意識にそういった電波を送っていた。あるいは、あの、呪いますえ~の言葉にそれだけの効力があったということで。



 陰険。変態。ネクラ。妄想癖。そのくせ自信過剰で自意識過剰。
 アイツの欠点など腐るほど羅列することが出来る。だがそういった認識すら、まだ甘かったのかもしれない。



 自分は総帥。アイツは部下で、それも一応は直属。
 そして、アイツの勝手な思い込みによれば、心友。






 あれ?シンタローはん?電波悪ぅおますか?シンタローは~ん、と電話口から洩れ聞こえる声は、もうほとんど耳に入りはしない。

 ただ、殴ろうが蹴飛ばそうが眼魔砲でぶっ飛ばそうが阿呆な犬かアメーバかというように離れない相手との、この先の関係を思うと。
 まるで出口の見つからない闇の中にいるように、―――目の前が、真っ暗になった。













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