「──で。」
目の前には、茶化すこともできぬ程怒りを浮かべた笑顔の愛しい人。
「これで何度目だか分かるかな?アラシヤマ君?」
優しい口調が怖い。目も笑っていない。口の端だけを歪めてはいるものの、額に青筋が浮かんでいる。
「……四回目、どす」
ぼそりと呟くと、
「そう、四回目」
笑顔で、肩に手を置かれた。
「仏の顔も三度までって言うよな?」
「誰が仏や」というツッコミが出かけたが、喉の奥に飲み込む。
ガンマ団の制服の上から置かれた指が、肩に食い込む。
普段彼から触れてくれることなど殆どなく、喜んで抱きしめたいところだが、それを今やったら多分もう口もきいてくれなくなるだろう。
「コレ、どう責任取るつもりなのかな?」
筋肉のついた、逞しい体。その胸元の赤い痕。
それを指差して、頬の引きつった笑顔を浮かべた。
27. 炎
熱く、重く、長いアタックが実を結び、少しずつ心が開かれたらしい。
視線を向けても文句を言われない。傍にいても怒られない。
会うたびに囁く愛の言葉にも、照れたように顔を逸らす。
ついには、キスしても眼魔砲で吹き飛ばされないまでの進展を見せた。
私室に押しかけ、少しの会話の後にベッドに押し倒し、それでも眼魔砲も鉄拳もくらうこともなく、少しの罵声の後に目を逸らされたところで、耳まで真っ赤に染める姿が愛しくて、理性が飛びそうな位鼓動が高まり──
──発火した。
ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリ、ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ
ガンマ団本部にその音はけたたましく鳴り響き、一室でスプリンクラーが作動した。
シンタロー総帥の私室に備え付けの電話に、内線が入る。
降り注ぐ水を受けながらコードレスの受話器を取り、慌てた様子の団員に軽く返事をする。
「ああ、ちょっとした小火。もう消えたから報知器もスプリンクラーも止めていいぜ」
悪いな、と告げ受話器を置いて、振り向けばそこには、水びたしの室内、焦げた白いシーツ、部屋の真中で正座して俯く男の姿。
「悪いのはお前なんだけどな?」
少し間をおいて、水が止まった。
最初は一週間前、二人きりの会話にドキドキして発火。カーペットの一部を燃やす。
二回目は三日前、髪をかきあげる仕草に欲情。執務室に置いてあった書類数枚が燃える。
三回目は昨日、髪の一総にキスしてシンタローの髪を一部焦がす。
そして四回目。シーツが焦げてベッドが一部炭に変わり、触れていたシンタローの胸元に火傷を負わせた。
「お前、いいかげんにしろよ」
鼻と鼻が触れそうなくらいに近付かれて、また自らの中で高ぶる炎を感じてそれを押さえつける。
「触れられる度に燃えられちゃァ、こっちの身が持たねーんだよ」
「けど」
目を合わせられないまま、反論を試み、口を開いた。
「生まれ持った体質どすから…」
「だったら」
「俺に触れるな近付くな」
照れ隠しでもなんでもなく、本当に怒っているのは火を見るより明らかだ。
──アラシヤマにとっての一番の障害は、自分自身の中にあることを自覚することになってしまった。
(04/06/24)
目の前には、茶化すこともできぬ程怒りを浮かべた笑顔の愛しい人。
「これで何度目だか分かるかな?アラシヤマ君?」
優しい口調が怖い。目も笑っていない。口の端だけを歪めてはいるものの、額に青筋が浮かんでいる。
「……四回目、どす」
ぼそりと呟くと、
「そう、四回目」
笑顔で、肩に手を置かれた。
「仏の顔も三度までって言うよな?」
「誰が仏や」というツッコミが出かけたが、喉の奥に飲み込む。
ガンマ団の制服の上から置かれた指が、肩に食い込む。
普段彼から触れてくれることなど殆どなく、喜んで抱きしめたいところだが、それを今やったら多分もう口もきいてくれなくなるだろう。
「コレ、どう責任取るつもりなのかな?」
筋肉のついた、逞しい体。その胸元の赤い痕。
それを指差して、頬の引きつった笑顔を浮かべた。
27. 炎
熱く、重く、長いアタックが実を結び、少しずつ心が開かれたらしい。
視線を向けても文句を言われない。傍にいても怒られない。
会うたびに囁く愛の言葉にも、照れたように顔を逸らす。
ついには、キスしても眼魔砲で吹き飛ばされないまでの進展を見せた。
私室に押しかけ、少しの会話の後にベッドに押し倒し、それでも眼魔砲も鉄拳もくらうこともなく、少しの罵声の後に目を逸らされたところで、耳まで真っ赤に染める姿が愛しくて、理性が飛びそうな位鼓動が高まり──
──発火した。
ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリ、ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ
ガンマ団本部にその音はけたたましく鳴り響き、一室でスプリンクラーが作動した。
シンタロー総帥の私室に備え付けの電話に、内線が入る。
降り注ぐ水を受けながらコードレスの受話器を取り、慌てた様子の団員に軽く返事をする。
「ああ、ちょっとした小火。もう消えたから報知器もスプリンクラーも止めていいぜ」
悪いな、と告げ受話器を置いて、振り向けばそこには、水びたしの室内、焦げた白いシーツ、部屋の真中で正座して俯く男の姿。
「悪いのはお前なんだけどな?」
少し間をおいて、水が止まった。
最初は一週間前、二人きりの会話にドキドキして発火。カーペットの一部を燃やす。
二回目は三日前、髪をかきあげる仕草に欲情。執務室に置いてあった書類数枚が燃える。
三回目は昨日、髪の一総にキスしてシンタローの髪を一部焦がす。
そして四回目。シーツが焦げてベッドが一部炭に変わり、触れていたシンタローの胸元に火傷を負わせた。
「お前、いいかげんにしろよ」
鼻と鼻が触れそうなくらいに近付かれて、また自らの中で高ぶる炎を感じてそれを押さえつける。
「触れられる度に燃えられちゃァ、こっちの身が持たねーんだよ」
「けど」
目を合わせられないまま、反論を試み、口を開いた。
「生まれ持った体質どすから…」
「だったら」
「俺に触れるな近付くな」
照れ隠しでもなんでもなく、本当に怒っているのは火を見るより明らかだ。
──アラシヤマにとっての一番の障害は、自分自身の中にあることを自覚することになってしまった。
(04/06/24)
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