「シンタローはん、わての命に重さを与えとくれやす」
直接総帥に差し出した報告書の端を掴んだまま、アラシヤマはそう言った。
いつもの事だが意味の分からない突飛な言動に、シンタローは受け取って掴んだ紙束の反対側を掴んだまま、眉を顰める。
「わてな、昔から思ってましてん…ひとって簡単にくたばりますやろ?
そないなんばかり見てると、わての命の重さも分からなくなってしまうんや」
ぐ、と力を篭めてアラシヤマが報告書を引っ張ってやると、シンタローは簡単に姿勢をよろめかせて、二人の顔が急激に距離を失い、目を細めて笑ったままアラシヤマは言葉を続けた。
「…せやけど、あんさん無事に帰って来いと言いはっとるやろ。
わてにはあんさんの任務よりわての命の方が軽う思えるんどす」
シンタローが一歩踏み出た足で堪え、また少しだけ距離を取り戻す。
アラシヤマはただ、真直ぐにシンタローに言葉を投げかけるだけで、それ以上何もしようとはしない。
「せやから…あんさんの言わはる様に、無事帰ってくるだけの理由が欲しいんどすわ」
──どうにも、コイツの視線は強すぎる。
普段人の目を見ようとしない男の視線から軽く目を逸らしてみれば、いつのまにか活字の並ぶ紙束はシンタローだけが掴んでいて、それに気が付いたとき、アラシヤマの指が顎に添えられ目線を合わせられた。
「わての命、重うしてくれへんやろか」
仕方なしにシンタローも強く視線を向け、部下に対するときのように強く自信のある声色で答えた。
「テメェがくたばればそんだけ団の戦力も減るし、任務失敗すりゃ最終的に俺にまでしわ寄せがくるんだよ」
やっとシンタローが笑顔を見せ──とは言ってもアラシヤマがシンタローに向けるような甘いものではなく、強気な俺様のそれで──それと同じく強さを帯びた声にアラシヤマはただ聞き入り、どこか蕩けた視線を見せる。
「……俺の為に、死ぬな。」
欲しかった単語の欠片もなかったその言葉の、〝俺の為に〟の響きに酔いながら、アラシヤマは深く頷いた。
(05/04/07)
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