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「…と、こないなもんやろか」
すっかり戦意を喪失した、この国をつい先程まで治めていた男を見下ろして、アラシヤマは安堵の溜息を漏らす。今回の任務は元々彼の担当するエリア外の国でのことだが、侵略先の公用語が話せる幹部、ということでアラシヤマが派遣され、現在に至る。先発部隊を突入させ、その隙に上層部に侵入する後発の部隊の中に彼はいた。
降伏声明は公式に発表させたし、殺し屋軍団ではなくなったガンマ団の仕事は──アラシヤマに課せられた任務は、これで終わりだ。
褒めてくれまではしないだろうが、報告をすれば少しくらい笑顔を見せて貰えるかもしれない、と愛しい人を思い浮かべ、帰艦する為に足元の男に背を向ける。
その瞬間、衝撃と熱と乾いた破裂音がアラシヤマの左腕を掠めた。振り返ればだらしなく腰を抜かしたままの男が銃口をこちらへ向け、引き攣った笑顔で笑い声になりかけたものを口から漏らしていた。
〝この期に及んで、まだ足掻きはるん?〟
アラシヤマがこの国の言葉で、そう呟く。
軽く男の手元を指差してやると、一瞬火花が散り、男は熱さに拳銃を手放す。地に落ちたそれを軽く蹴飛ばして、アラシヤマが嗤った。
〝負け犬が必死にならはったところで、今更何や守るもんでもあるんどすか?〟
可笑しそうにアラシヤマが言うと、直後通信機からノイズ混じりに暗号で先程の銃声はどうしたか訪ねられ、小さく暗号でなんでもない、と返し、再び戦意を失い青ざめた男と視線を合わせるためにしゃがみ込んだ。
〝負けて、あんさんのしょうもないプライドも折れて、それで何をしはるて?〟
細めた右目が長い前髪の合間から覗いて、両目で射抜くように視線を向ける。
〝…無様どすなァ。わてやったら自爆してでも相手を巻き込むか、若しくは舌を噛んで自ら死にますえ〟
指先に炎を灯し、それでそっと男の服に触れた。ちりちりと焦げ、小さく煙を上げる。
〝今からでもそうしなはれ。後で後悔しとぉあらへんのやったら〟
指先が、喉元へと伸びる。触れたくもないので撫でるだけだが、それは十分な熱を持っていて、ひ、という音がその喉から漏れた。影を帯びた笑顔が、一層負の感情を纏う。
──楽しゅうて、仕方あらへんわ
そうアラシヤマが心中で呟いたとき、それを遮るように背後の木製のドアが大きな音を立てて開かれた。
アラシヤマがゆっくり視線を向ければ、そこにはシンタローが右手で扉を開き左手に眼魔砲を構えて息を切らしていて、丁度アラシヤマと目線がかち合う。
「殺すなよ」
「……殺さへんて。ちぃと仕置いとっただけどすわ」
水気を切るように手を振って炎を消して、男の腕を後ろへ捻り上げながら、アラシヤマはとぼけた笑みで言葉を返す。シンタローの掌の光球も空気に溶け、消えた。
「それより、もうそちらは終わりはったんどすの? こない早ぉ来てくれはるやなんて」
「俺が来なかったら、お前何する気だった?」
返された言葉を遮るように言えば、さも不思議そうな表情を作ってみせるアラシヤマに、シンタローは眉を顰める。アラシヤマは他人との距離を置くことになれているせいか、とぼけることだけは知っている──そうシンタローは認識していて、実際何かを誤魔化そうとするとき、アラシヤマはよく笑うのだ。
「知ってんだろ、今のガンマ団の方針。昔のやり方は通用しねェんだよ」
困惑気味に、それでもシンタローとの会話が嬉しいのが笑んだまま、アラシヤマは用意してあったロープで男を強めに縛り上げる。男が自国語で何やら喚くが、シンタローにはその意味は解らなかった。
「せやから、ちぃと仕置いとっただけやて。せやかてコイツにわて、何て言われたと思います?
 〝ガンマ団はこんな化物まで作り上げていたのか〟やて。わて生体兵器扱いどすえ」
確かにそうも言われはしたが大して気にしてはいないのに、理由をでっちあげてシンタローに告げてみれば、シンタローはそれに、あからさまに辛そうに顔を歪める。
「そら怒ってもしゃあないでっしゃろ? それでもわて、殺さへんかったどすえ」
「…………それは」
「それより、ここでの仕事は終わりましたさかい、人呼んでわてらは帰艦せな」
腰を上げ、軍服に付いた埃をぱんぱんと払って、アラシヤマが自分の腕の傷をやっと思い出したかのようにそこに視線を向けた。
「…それに、傷負うてもうたんや。シンタローはんが治療してくれはると嬉しいなーなんて」
「そんだけ言えりゃ今すぐの処置は必要ねーだろ」
やっとシンタローが唇の端を吊り上げ、軽く笑ってみせる。
日本語が理解できないらしく、転がされたままの男が不安気に二人を眺めていて、それが視界に入りアラシヤマはそちらに向けて笑顔を作ってやった。
〝──確かに化物かもしれへんわ。
  人間のふりをしてガンマ団に混じり、ただ一人につけいるために、何もかも燃やしてきたんやさかい〟
小さく何かを語りかけたアラシヤマに、通信機で連絡を取っていたシンタローが何事かと目線をやると、アラシヤマは何でもない、と手を振ってみせた。


(05/04/03)

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