額から髪の生え際に指を這わせて、長い髪に指を差し込む。
さらり、と流れに沿って髪を撫でて。
ソファーに体を預けて、新聞に目を通すシンタローの髪を、後ろから弄る。
「艶はありますけど、わての方がサラサラしとりますえ」
ホラ枝毛、と黒髪を一本掴んで。
「手入れらしい手入れはしてねーしな。
枝毛見つけたら切れよ気が利かねェな」
鋏を手渡して、新聞を捲る。
「どこの俺様どすかあんさん」
笑って、鋏を受け取って髪を一本切り落とす。
「どないして、髪伸ばしてはるんどす?」
髪の束を指先で掴んで眺めながら、アラシヤマが尋ねた。
「昔、叔父さんが伸ばしたらきっと似合うつって。」
「サービス様どすか…シンタローはんはサービス様を慕っとりますもんな…
フフフ…羨ましゅうなんかないどすえ…」
振り向かなくても、アラシヤマが涙を流しているのがシンタローには分かる。
もしかしたら鼻血も垂らしているかもしれない。
「バーカ」
確かに、伸ばし始めたのは叔父さんに言われてだけど、
今伸ばしてるのは、お前がよく触るからだよ。
なんて、口には出さないけれど。
黒髪の間からふと見えた、赤く染まった耳朶を見て、
やっぱりこの髪とあなたが好き、とアラシヤマは心の中で呟いた。
(04/06/24)
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