あんさんの身体を、抱きしめる。
筋肉質なそれは、わてのもんと殆どつくりは変わらへんのでしょうが
それがあんさんのもんであるというだけで、わては劣情をそそられますのや。
「シンタローはんの体、硬いどすなぁ」
総帥執務室で、愛しい人にじゃれつく。
後ろから、背の高いあんさんを抱きしめて。
「離れろバカ」
あんさんの黒い髪に顔を埋めると、うっすらとシャンプーの匂いがするような気ぃがして。
「離さへん」
恥じらいはって、わての事を拒む姿も愛しゅうて。
「ホンマに嫌なんどしたら、本気で抵抗しなはれや」
長い髪を耳にかけてやりながら、耳元で意地悪く呟いて、耳朶をひと舐め。
その感触に身体を固くするシンタローはんの胸元に手を──
「眼魔砲」
衝撃とともに、体が風を切って。
ついでに壁を一枚ぶちぬいて廊下まで吹き飛んだ。
「し…シンタローはんいきなり何しますのん!」
痛む体に無理やり力を入れて、よろりと立ち上がる。
「『本気で抵抗』。」
照れて、わざと怒っとることを見抜いて、益々愛しく思いますんや。
つり上がる凛々しい眉も、引き攣った口元も、全部演技なんはお見通しどすえ?
うっとりと見つめると、更に表情を険しくしはる。
そないに照れんでも、わてとシンタローはんの仲やないどすか!
「気ッ色悪ぃ真似してんじゃねーよ!」
わての舐めた耳朶を、ごしごしと赤いブレザーの袖で拭う。
「クソ、シャワー浴びてこよ…」
それは…それはまさか…
「わ、わても一緒にい」
「眼魔砲」
言葉半ばで更に吹き飛ばされ、衝撃がまた一枚壁を破って青い空が覗いた。
崩れた外壁の淵に着ていた制服の襟がひっかかりはって、首が絞まるもなんとか落下せずにすんだんは不幸中の幸い…いや、シンタローはんはきっとそこまで計算済みなんや!
「……惜しかったか」
ぼそりと照れ隠しにつぶやくあんさんも猛烈にかいらしいどすえ!
革靴の足音が遠ざかっていくのを聞きながら、わては思うたんや。
シャワー浴びてほんのり色づくシンタローはんの肌は、さぞかし綺麗なんやろうな。
二人で迎える夜に向けて、わざわざシャワー浴びはるなんて…
「眼魔砲」
体の中身が、支えを失ったようにふわりと浮く感覚。
それはわて自身が何もない空に投げ出されたことを意味していて。
それを理解した瞬間に、わては重力に従って落下を始めた。
「総帥、眼魔砲で本部を破壊するのは止めてください」
「いや何か寒気がしたんだよ。あっちの方角から変な電波を感じたというか」
「電波なんか受信しないで下さい。眼魔砲による本部の被害総額がいくらになっているのか事細かにお教えしましょうか?」
シンタローはんの愛情表現は強烈どすなぁ…!
幸せに浸りながら、わての意識はブラックアウトした。
(04/06/15)