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 突然現れた不良中年に「太腿貸せ」と言われて、早数時間。足の痺れはそろそろ限界を超えようとしている。
 そろそろこいつの頭を落としてもいいだろうかと思いながらも、気持ち良さそうに寝こけるオッサンという珍しくも面白いものに良心の呵責を覚え、シンタローはなかなかそれを実行に移せずにいた。
 見下ろせば、すぐ真下に綺麗に整った顔立ちがある。こうして見ていると、普段双子の弟である美貌の叔父様との血縁をあまり意識しないのは、その性格とそれに付随した表情のせいなのだと嫌でもわかってしまう。眼下の顔立ちは、いかにも青の一族らしく、美貌の叔父様の双子の兄らしく、年齢不詳に整然として美しかった。
 同じ青の一族、兄弟であっても、シンタローの父親のように威厳や貫禄といったものが身につかないのは、立場の違いか、それとも生来の気質のせいであろうか。この叔父とて、人の上に立つに足るだけのものを持ってはいるのだが、その統率力や人望は、叔父の性格同様虚々実々としていて、実際のところを見極めるのはひどく難しかった。
 ──例えば、こうして、ことさら親しいわけでもないシンタローの元にいきなり転がり込んでくるように。
 遠征帰りだという叔父からは、知らず、キナ臭いものが漂ってくるかのようだった。
 なぜ、帰ってきたその足でシンタローの元へとやってくるのか──戻って当然の自室ではなく、慣れ親しんだ仲間の居場所でも、行きつけの酒場でも、馴染みの女のところでもなく──なぜここに?
 そうして、その叔父を受け入れ、あまつさえ膝枕までしてやっている自分が一番不可思議だとシンタローは思った。そんな甘ったるい関係だと、互いに思っているわけもないのに。
 ふと、額の髪を除けてやろうかと、シンタローは手を上げた。起きているときならば、触ってみようなどとは欠片も考えないのだが、無防備とも言える寝顔を見ているうち、なんだか奇妙に穏やかな気分になっていた。膝枕ついでに、もう少し優しく振舞ってみてもいいのではないかと、おかしなことまで考えてしまう。
 だが、シンタローの目論みは、気配の変化を敏感に察知したらしい叔父が不意に目を開けたことで、実行されずに終わった。
 青い双眸に射竦められて鼓動が跳ね上がる。咄嗟にシンタローは上げていた手で叔父の目元を覆った。まるで悪戯の現場を目撃されてしまったような、居心地の悪い気分だった。
「……おい」
「な、なんだよ」
「なにしてやがる」
「……なにもしてねえよ」
 とは言え、手で目元を覆っておいて、「なにも」もへったくれもあったものではない。当然のように叔父に呆れたように鼻で笑われ、シンタローは半ば八つ当たり気味にむっとした。
「どうでもいいから、さっさとどけよ!」
 照れ隠しに怒鳴って、こっちはもういい加減、足痺れてんだよ、と無理して太腿を揺らせば、とうてい寝ていられる状況などではないのに叔父は強情に「イヤダ」と言い張る。
「仕事帰りの叔父様をもっと労らんか、この糞餓鬼が」
「あんたを労る気なんて、これっぽっちもないね」
 お互いに刺々しい口調で言い合うと、叔父はわざとらしくため息をついた。
「……まったく、素直じゃない子供には苦労させられるぜ」
「どういう意味だ!」
 言い返す間もあらばこそ、不意に起き上がった叔父にあっさり押し倒され、長椅子に図体のでかい男が二人、無理矢理並んで寝そべるという実に不本意な体勢にさせられてしまった。
「まだまだ甘いな、甥っ子」
 不敵に笑う叔父の顔はいかにも憎々しい。先程の美貌は錯覚だったのかと思えるほどだ。
「なにすんだ、オッサン! 放しやがれッ」
 抵抗しても、シンタローより重い叔父の身体と馬鹿力はびくともしない。下手に暴れても狭い長椅子から転げ落ちそうで、シンタローは忌々しげに舌打ちした。
「さっさとどけよ、オッサン! 重いだろ!」
「これでただの枕から抱き枕に昇格だぜ。良かったな、シンタロー」
「全然良くねえッ!!」
 しかしシンタローの身体をがっちりとつかまえた叔父は、さっさと眠りにつこうとしている。もがいても拘束がきつくなるだけで、ほとんど意味がない。悔し紛れに髪を引っ張れば、逆に首筋を噛まれた。
 シンタローがとうとう諦めて力を抜くと、叔父の腕の力も緩んだ。そこから再び抵抗しようとする気にはなれなかった。叔父の拘束から抜け出せるにしろ抜け出せないにしろ、なんだかこのやりとりがひどく馬鹿馬鹿しいことのように思われたのだ。
 叔父からはさっそく、心地良さげな寝息がもれている。その整った横顔を見つめながら、なんで結局最後にはこの叔父の我儘を許してしまうのだろうかと、シンタローは自嘲気味に思うしかなかった。

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