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酒はがぶがぶ飲むし、煙草はぷかぷか吸うし、おまけにギャンブル浸りの借金まみれ。
誠実さ、なんて言葉と対極の位置に居て、何時までも精神は子供のまま。
でも。
アイツだけが一族の中で唯一俺を俺と見てくれていたのかもしれない。
親父のように猫可愛がりをする訳でもなく、サービス叔父さんのように誰かの面影を俺に重ねる訳でもなく。
回りの人間のようにマジックの息子って肩書ごしに俺を見るんじゃなくて。
俺自身をシンタローとして見てくれた大人は、釈然としないがハーレムだけだったような気がする。
それに、ほら、あるじゃねぇか。悪い雰囲気に引かれる年頃ってやつ。
まさにソレ。
尖ったナイフって危険っぽい。でも、それに憧れる。そんな感覚。
叔父と甥の関係から一線を越えてしまった夜、ハーレムはお決まりのように煙草を加えてひと吹きした。
煙草の煙りは灰色で。
随分強いの吸ってるなぁ、なんて、熱でぼうっとした頭で思う。
「オイ、シンタロー、起きてンだろ。」
ぶっきらぼうにそう呟く。
低音の声が脳を刺激した。
「ああ。」
返事をするのが怠かったが、とりあえず答えてやる。
「責任はとってやるから安心しろ。」
「………いらねーよ。」
眠くなった頭を少し揺らしてキャンセルするが、ハーレムは「そう言うな。」と言ってシンタローの頭を撫でる。
大きなその手でガシガシと乱暴に撫でられた。
乱れた髪を余計乱されたが、不思議と嫌じゃない。
温かい手の平の体温に、シンタローは心地よくなる。
瞼が重くて目を開けてられない。
シンタローは、心地良さを感じながら睡魔に身を任せて眠りについたのだった。
眠ってしまった為、あのあとハーレムが何を言ったのか、何をしたのかは知らない。
何かあったかもしれないし、逆に何もなかったかもしれない。
「オイ、シンタロー。大丈夫かぁ?」
ぼうっと物思いにふけっていた所をハーレムの声で現実世界に引き戻される。
今日は部屋に二人きり。
何をする訳でもなく、ただ居るだけ。
でも、邪魔じゃない。
うるさいし、自分勝手だけど、それが当然というか、例えるなら空気みたいな。
そんな感じ。
ハーレムがシンタローの部屋に居るのは別段珍しくもなんともない光景であった。
昔から。
シンタローは何かあるとハーレムに相談していた。
彼の感覚の中で、ハーレムが一番自分に近い匂いを持っている、と、シンタローは知っていた。

マジックという巨大な壁にいつも勝てなくて、でも離れる事もできなくて。
サービスのように綺麗に割り切れたり、グンマのように勝てないのが当然と思う事もできなくて。
ただ、真っ直ぐに進むしか脳がない。
それをシンタローは嗅ぎわけていた。
コイツになら全てを話せて、全てを肯定してもらえて、同時に否定してもらえる。
そのカンは当たっていた。
だからこうして二人で居るのがとても心地いいのだ。
弱者の傷の舐めあいとも違う。
お互いトラウマは乗り越えてきた。
「オイ、酒ねーのかよ。」
「ねぇよ。俺の部屋で煙草吸えるだけありがたいと思え!」
そう悪態をつきながらも、シンタローは自らハーレムの側に寄る。
体をハーレムに預けるように左肩に寄り掛かった。
ハーレムもシンタローが咳込まないように煙草を少し遠ざけた。
ハーレムの側に寄ると、ハーレムの吸っている煙草の匂いが鼻に入ってくる。
この匂いイコールハーレム。の方程式が成り立つ位嗅ぎ慣れた匂いだ。
すり、と、擦り寄ると、ハーレムの大きな手がシンタローの左肩を優しく掴む。
「どうした、甥っ子。」
いつもと違う優しい声がする。
「別に……」
そう言いながらも甘えるように擦り寄る事は止めない。
正直甘えたいのだ。
この同じ匂いのする子供みたいなこの叔父に。
ベロベロに甘やかすんじゃなくて、何て言うか、自分の全てを理解して、それでも優しくしてくれる。
それをシンタローは求めていて。
ハーレムもそれを理解して、甘えさせてやる。
口に出せばこの甥っ子は甘えるのを止めてしまうだろう。
だから気付かない振りをして、受け止めてやるのだ。
何もしないでこうしてのんびり二人で過ごすのは心地良いのではあるが、ハーレムとしては少し物足りなさを感じる。

折角の休みで一緒に居るのに何もしねぇってぇのはアレだよな。

ちら、とシンタローを見ると、朧げに下を見ている。
短い睫毛と、何だか憂鬱そうな瞳がひどくハーレムには艶やかに見えた。
シンタローに触れている左手がじんわりと汗ばむ。
戸惑う事はしなかった。
元々我慢強くはない方である。
無防備なシンタローを床に倒すのはそんなに難しい事ではなかった。
トサ、と、優しく倒し、覆いかぶさると、シンタローは一瞬驚いたように目を見開いたが、直ぐに何時もの目付きになる。
これからハーレムがしようとしている事。

シンタローだってもう子供じゃないのだから解っている。
しかし。
「………いやだ。」
「俺はお前が拒むのが嫌だ。」
まるで子供の屁理屈。
そうだ。このオッサンは図体ばかりがオッサンで中身は子供なんだ。
チッと、舌打ちをして顔を背けると、ハーレムは肯定の印かと思い顔を近づける。
もう少しで唇に到達する、という所でシンタローの唇が言葉を紡ぐ。
「……やだって言ってンのにするなら親父に言い付けるゼ。」
………………。
“親父”という単語に、苦い思い出が脳裏に浮かぶハーレム。
ルーザーが彼は一番苦手ではあったが、そのルーザーですら勝てなかった長男マジックの名前が出れば分が悪い。
しかもマジックは息子のシンタローを異常に溺愛している。
二人の関係も内緒なのだ。
ばれたら……。
息子は可愛いから殴れないだろうが、ハーレムは確実に殺される一歩手間までボコボコにやられるだろう。
「テメ…何でそこで兄貴が出て来るんだ。」
「アンタが一番怖いって思っていて俺の絶対の味方だから。」
使えるモンは親でも使うゼ俺は。
勝ち誇ったように笑い、そう呟くと、ハーレムは苦虫を噛み潰したような表情をした。
体を退けると、シンタローも後から又座る。
「あ、もしかして“そんなの関係ねぇよ。”とか言って押し倒した方がよかったか?」
「……阿保か。アル中は脳みそまで発酵してンのか。」
少し距離を置かれたのが寂しい。
さっきの方が密着していたのに。
早まったかな、と、思うが、亀の甲より年の功。
ハーレムの頭がキュルキュルと高速回転した。
何やらガサガサと服のポケットを漁る。
カツンと何か固いものに指が触れたらしい。
ズボンの後ろのポケットだ。
訝しげにシンタローが見ていると、するりと取り出されたのはDVDロム。
ダビングしたものらしく、題名は書いていない。
「何、ソレ。」
指を指して嫌そうな顔をすると、すました顔でさっさとシンタローのデッキにはめ込む。
「何勝手に入れてンだ!」
AVとかならどうしよう、と、シンタローは焦った。
仮にそうだとしたら拒める自信はない。
なんだかんだ言って、イイ所のお坊ちゃまである。
そういう類いの物は余り見た事がないし、もう大人の階段を登ってはしまったが、同年代の男性と比べると、まだまだ純情なのである。

しかし、パッと写った画面は明らかに違うもので。
王手洋画メーカーのものである。

一体コイツは俺に何を見せる気なンだョ。

鼻歌混じりで上機嫌なハーレムをじとりと見る。
すると、明らかに画面がおかしい。
微妙に暗い。

ま……まさか……。

血の気が引いた。
ハーレムはといえば、そんなシンタローの百面相をニヤニヤ面白がっている。
「ホラー映画だぜ?シンちゃん。」











画面にはおびただしい量の血肉がスプラッタされている。
女性の甲高い叫び声や、男性の野太いうめき声。
所狭しと並べられている拷問器具の数々。
目をつぶっても耳を塞いでも情景が浮かぶし、聞こえてくる。
ハーレムにしっかり抱き着いて、それでも馬鹿にされないように画面を見る。
しかし、はっきりとは見れないので、見ているように見せ掛けて実は違う所を見ている。
しかし、目の端にはチラチラと赤いものが見えるし、耳をつんざく断末魔も聞こえてくる。
その度シンタローは、ビクン!ビクン!と体を震わす。
それを見ているハーレムはご満悦。
シンタローが兄貴に言えない事。
それは自分が言い訳ができない恥ずかしい事。
AVじゃハーレムが無理矢理見せた、と言って逃げられればそれでオシマイだし、実力行使も又然別。
しかし、ホラー映画は違う。
無理矢理見せたとマジックに言う→怖くてシンタローの奴俺に抱き着いてきたんだぜと、チクられる。→シンタロー恥ずかしい。
この方程式が成立するのだ。
勿論ハーレムはボコボコにされるが、シンタローは自分が恥ずかしい事はしない。
プライドの塊のような男なのだ。
ゾンビが居る暗い地下室。
知能を持った、半分白骨化したゾンビがバーナーに火が点し、いたいけな女性は鉄の仮面を被せられて声が出ない。
しかし、目だけは見える。
バーナーがゆっくりと音を立てながら女性に近づけられる。
「―――ッツ!も、嫌だっ!消せよ!消せッツ!!」
いつもならしないのに、ハーレムの少し前の開いたワイシャツに顔を埋める。
鍛えられた胸板の感触とか、そういったものは一切感じない。
ただ怖くて怖くて仕方がなかった。
「なんだよ、イイ所なのに。」
ヘラヘラと笑うハーレムをこれ程までに憎いと思った事はない。
さっきまでのゆったりとした時間は何処へ行ってしまったのか。

いや、今はそんな感傷に浸っている余裕はない。
ドンドンとステレオから流れる心臓を圧迫するようなBGMが流れている。
早く消さなければ。
リモコンを取ろうとしたが、ハーレムに先に奪われ、シンタローの指先は空を切った。
「かっ!返せッツ!俺のリモコンだッツ!!」
下から睨みつけるようにハーレムを見るが、ハーレム美ジョンでは上目使いにしか見えない。
「ヘッ!バーカ!大人しく見てろよ。それとも何か?怖いのか?」
怖いからこんな真剣に消そうとするのだが、ハッキリ怖いのか?と聞かれれば肯定しずらい。
シンタローのプライドが揺れる。
『きゃああああ!』
そんな事をしている間に話は進んでいって、耳をつんざく女性の悲鳴が聞こえ、思わず振り向き画面を直視してしまった。
しかし、バーナーは彼女に届く前にゾンビの足元に落ちた。
どうやら彼女を助けに来た男性がゾンビのバーナーを落としたらしい。
本当、間一髪。
シンタローは短い安堵の溜息を漏らす。
しかし、ゾンビ相手では圧倒的に不利で。
又シンタローは怖くなる。
「ちょ!しし舞!テメ、リモコン返せ!!」
「やーいやーい怖がりシンタロー!!」
「はりきりムカつくーーッツ!!」
いつも張り詰めた顔をして、清潔感たっぷりのこの甥の変わりようはハーレムにとって楽しいもので。
言い方は悪いかもしれないが、楽しい玩具を手に入れた感覚に似ている。
もっともその玩具は、とても大事なものなのだが。
無理矢理シンタローを自分の足の間に座らせ、画面を見させる。
顔面蒼白なシンタローを見て守ってやりたいなんて思うのはおかしな事なのだろうか?
嫌がり暴れるシンタローの腕を後ろから掴みあげ、動けないようにする。
その素早さは、流石特戦部隊の隊長なだけはあった。
DVDはクライマックスを迎える。
おぞましい血の滴るグロテスクなゾンビが男性を殺そうとするが、男性も負けじと近くにあった鉄パイプで応戦する。
『何に変えても俺が貴女を守る。』
そう呟いて戦うのだ。
女性は縛られ動けない状態で何かを叫ぶが、鉄のマスクのせいで言葉が聞き取れない。
シンタローはぎゅ、と、ハーレムの手の平を掴んだ。
ハーレムもその手を握り返す。
画面いっぱいに男性が映り、ゾンビの横っ面に改心の一撃をくらわせた。
飛び散る赤い肉片と白い骨。
ぐちゃっ、と嫌な音を立てて崩れさる。

ボスらしきゾンビを倒しても、まだ回りのゾンビが残っていて。
男性は仕掛けておいた爆薬の導火線に先程倒したゾンビが落としたバーナーで火をつける。
ジジッ……と音がしたかと思うと、男性は女性を抱き抱え階段を駆け登る。
間一髪の所で二人は無事逃げ出す事ができたのであった。
エンディングロールが流れ出す。
シンタローはほっ、と一息ついた。
そして、脱力しきったようにハーレムに寄り掛かる。
ハーレムは煙草を灰皿に押し当て、新たに火を付ける。
カチン、と、ジッポを仕舞う音がした。
「もしも、あんな状況になったとしたら……」
そう呟くと、シンタローは恐ろしい顔付きでハーレムを睨んだ。
「ふ、ふざけんナッツ!!あってたまるか!!」
「だから、もしもだって言ってるだろーが。もし、そうなったら。」
煙草を肺に染み込ませ、深く吸って吐いてから続く言葉を紡ぐ。

「俺がお前を守ってやるよ。何に変えてもな。」

そして、ニヤッと笑うので、シンタローは唖然として何も言えなかった。
まさかとは思うが、これが言いたいがためにあの映画を見せたのだろうか。
だとしたらコイツ……。
怒りを覚える反面、新たな計算高さな一面も見れてシンタローの心境は複雑であった。
でも、今はそんな事はたいした問題ではない。
シンタローの一番の問題。
それは………

夜、一人で眠れるだろうか。

これが最大のポイントであった。
時計を見ると、もう夜9:00過ぎ。
あ、寝るだけじゃない。
風呂とかトイレとかどうすればいいんだ。
28にもなって一人でビビって行けないなんて恥ずかし過ぎるにも程がある。
「どぉしたぁ?シンタロー。」
ニヤニヤと笑うハーレム。
明らかにシンタローの心境が解っての台詞だ。
苦虫をかみつぶしたように苦々しげにハーレムを見つめる。
「別にッツ!」
「あ、そ。」
別段興味なさげに相槌をうつ。
「じゃあそろそろ俺は艦に戻るかな。」
片足に手をのせ、加え煙草をしながらよっこら、と立ち上がろうとする。
「え……。」
思わず声が出てしまって、慌ててハーレムから顔を反らす。
勿論ハーレムにもそれは聞こえていたが、あえて聞こえない振りをして。
「と、思ったが、そーいや俺の部屋、こないだの襲撃くらって壊れてたんだった。悪ぃな、風呂とベッド貸してくれ。」

それがシンタローを気遣っての事だと、元々カンのいいシンタローには解っていた。
第一、艦がやられたのだって随分前の話だし、もし本当なら、今まで何処で寝てたのか、とか、コイツだけならともかく、隊員達は一体何処で風呂に入っていたのか、とか様々な疑問が浮かぶ。
こんなバレバレの嘘……。
でも、シンタローは正直嬉しかった。
コイツは二人きりの時はこうやって甘やかしてくれる。
それが酷く心地良い。
さりげない優しさが心に染みる。
きっと似た者同士だから、相手の考えている事が解るのだろう。
相手を理解できれば必然と思いやれる。
それが酷く嬉しかった。
一方ハーレムの考えは、勿論優しさとして言い出したのだが、自分が見せたホラー映画でシンタローがこれ程までに悩むとは思わなかったので、罪ほろぼしという名目も入っている。
でも、一番大きな割合を占めているのは、シンタローと少しでも一緒に居て、甘やかしてやりたい、という気持ちだった。
コイツは又明日から赤い重たい総帥服を身に纏い、上を向いて、世界各国の要人達の前でも威厳を失わないようにしなければならない。
そんな息の詰まる生活の中、少しでもシンタローを総帥としてではなく、一人のシンタローとして休ませてあげたかった。
今日は皆出掛けて居ない。
居るのはシンタローだけ。
二人を邪魔する者は誰も居ないし、邪魔する物も何もない。
「飯食って、風呂入って、早めに寝よう。」
そう呟いて、ハーレムはシンタローの髪に触れた。
思ったよりサラサラのその髪を、パラパラと滑りこませると、シンタローはくすぐったそうに目を細め、肩を竦めた。

やばい。理性が切れそうだ。

ハーレムの喉が上下に動き、唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえた気がした。
「シンタロー……」
甘い声で囁かれ、唇に一つキスを落とされる。
「ん……」
先程とは変わって、シンタローもそれを受け入れた。
脳味噌がとろけそうな濃厚で甘いキス。
奪うようなキスではなく、慈しむような。
それでいて、甘美な快楽へ誘う。
シンタローの目が、とろん、として、頬がうっすら桃色になる。
「はっ……」
軽い息継ぎの後、再びハーレムの唇が降ってくる。
舌で優しく口内をかきまぜられ、舌を吸われれば、シンタローの肩が少し震えた。
「ふ、う……」
いいか、なんて聞かない。
嫌だと言っても、もう理性が持たない。
シンタローをゆっくりと床に倒すが、今度は抵抗しなかった。
「腕、まわせ。」
そう言うと、怖ず怖ずとだが、シンタローの健康的な腕がハーレムの背中に手を回した。
ハーレムの指がシンタローのシャツの下に入る。
その時。

「シーンちゃーんッツ!お腹空いたよぉ~!」

躊躇いなくドアが開き、元気よくグンマが入ってきた。
グンマの後ろには当然のように、仏頂面のキンタローが控えている。

わ゛ーーーッツ!!

声にならない声をあげるシンタロー。
ハーレムは押しのけられ、かなりふて腐れていた。
第一、なんでこいつらが。
「お前ら学研は……」
「とっくに終わったよぉ~!今、何時だと思ってるの~?シンちゃん。それより早くご飯作ってよぉ~!」

ペコペコだよぉ~!と、お腹を叩く。
シンタローは苦笑いを浮かべてハーレムを見た。
かなりご立腹の様子で、煙草に火を点けている。
シンタローは苦笑いを浮かべたまま、触らぬ神に祟りなしとばかりにグンマ達と一緒に部屋から出ようとした。
その時、グイ、と腕を引っ張られて、シンタローだけドアから出られなかった。
「今夜覚えてろよ。」
そう、耳元で呟かれ、背中を押された。
そう。どうあがいたって今日は怖くて一人で眠れないのだ。
だったら、温もりの中で眠りにつきたい、と思い、シンタローは笑って部屋を出たのであった。
外では従兄弟達が彼の料理を待っている。
久しぶりに腕がなる。
袖を捲るジェスチャーをして、シンタローはキッチンへ向かうのだった。










終わり。


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hs

(お題「発火点」のシンタロー側。叔父甥です。女性向けです。ひっそりと裏風味です。苦手な方はご遠慮ください)




長い節くれ立った指が、黒い髪を梳いている。

こめかみの辺りの髪に触れる手で意識を浮上させられて、彼は重い瞼を開けた。状況把握に時間がかかり、ようやく定まった視線の先には腹ばいでうつ伏せに寝そべっている叔父がいた。その様子は眠っているのか、眠っているふりをしているのか判断がつきかねる。
ベッドの叔父側にあるナイトテーブルの上の灰皿からは、消しそこねたのか紫煙が立ち昇っていた。じりじりと焼けていく穂先は、赤とも黄色とも言える火をもって、残りの部分を白い灰に変えていった。火種からまっすぐ上昇する煙は、時折空調が吐き出す空気に揺れながら、天井のあたりで渦を巻き、部屋全体を白く霞ませている。明かりを落とした室内は、余計に視界が悪くなり、身体に残る倦怠感に拍車をかけた。
不本意ながら馴染んでしまった煙草の匂いにうんざりしながら、彼は身を起こし腕を伸ばして、煙草の火を完全にもみ消した。ついでにクッションに顔を沈ませて微かに寝息を立てる叔父を見下ろし、腰のあたりでたわんでいたケットを肩まで引き上げて、らしくない行動をとってしまった自らに嫌気がさして、忌々しそうに髪をかき上げた。
ベッドの上で立て膝をつき、鬱陶しそうに長い髪を後ろに流す。
眠りから覚める直前に、髪に触れていた手の感触を思い出し、まさか、という思いで隣の男を眺め、浮かんできた考えを否定するため首を振った。自己完結とも言える彼の行動に関係なく、叔父は背中を微かに上下させ、ぐっすりと眠っているように見えた。
お互いに寝入ってしまうことは酷く珍しく、そんな格好で寝てよく窒息しないものだと半ば呆れ半ば感心する気分で、彼は叔父を眺めた。一族の中でも特に色の濃い金髪は暗闇の中でも見てとれて、そう言えば小さい頃からこの金髪だけは嫌いじゃなかったと思い出し、その髪に触れようとして手を伸ばし、やめた。
中途半端に持ち上げた手のやり場を無くし、手近にあったクッションを叔父に掴んで投げつけようとして、またやめた。
自分が何がしたいのか分からなくなった彼は、溜息と共に自己嫌悪を吐き出して、気を取り直すためにバスルームへと向かおうとベッドから降りる。乱雑に脱ぎ捨てられたシャツを羽織り床に立つと、身体のあちこちに鈍痛が走り、原因を作った叔父を睨んだ。酔った訳でもないのに頭痛がし、くらくらする。足音を立てない様に注意して、彼はベッドルームを抜け出した。

立ち寄ったダイニングは、昨日の酒宴もそのままで、空になった酒瓶や余ったつまみを載せた皿がテーブルの上に取り残されている。
さしたる理由も無くなし崩しにベッドに入ったものだから、片付けは後回しになっていた。彼はグラスに三分の一ほど残ったブランデーを一口飲んで、微かにむせた。氷が溶けて薄くなった生ぬるい液体はお世辞にも美味しいものだとは言えなかったが、無性に乾いた咽喉を潤すには十分だった。
シャワーの栓を全開にし、熱いお湯を浴びる。ごしごしと顔をこすって少しでも思考を明瞭にしようと努力したが、先ほど飲んだブランデーが頭の働きを鈍くするのか、それともただの寝不足か、それは叶わなかった。妙な解放感と疲労感と倦怠がない交ぜになったままで、身体まで重い。
全て流れてしまえば良い。
叔父の指の感触も、煙草の匂いも、肌に張り付く金髪も、訳の分からない感情も、全て汗と一緒に流れてしまえば良い。
そんな自暴自棄な気分で、彼はシャワーに打たれていた。
二の腕の内側に赤紫色の痕が残っているのを発見し、わざと分かりにくい場所に残した叔父に舌打ちする。外側からは決して見えない位置に一つか二つ程度、いつも印のように残すのは、一体に何を意味しているのか。叔父なりの意味があるのだろうか。
似たもの同士の彼らは、相手が似たり寄ったりな考えをしていることに無意識的に気が付いていたが、わざと気が付かないふりを押し通していた。
お互いが何を考えているか知りたくもない。知ってしまえば恐らくこの関係は終る。曖昧なままの関係は彼にある種の苛立ちをもたらすが、だからと言ってこの感情が何を示しているのか、はっきりさせてしまうのは漠然とした恐ろしさがある。
自己嫌悪と自嘲しかもたらさないくせに、手放せないのはその裏にある感情をどこかで自覚している証拠だったが、それを認めるわけにはいかなかった。

髪からしずくを垂らしながらバスルームを出るて戻るとすでに叔父の姿はなく、ほっとしたような気分で彼はベッドに腰を下ろした。シャワーを浴びたせいか、煙草の匂いが更に敏感に鼻につく。
灰皿を見ると先ほど消したはずなのに、再び紫煙が立ち昇っていた。見ると、起きて一服したのか新しい煙草に火が点いて、そのままになっている。わざとらしく残された煙草は所在なさげにぽつんと放置され、彼の目にはそれを残して去った叔父の姿が浮かんで見えて、彼はまだ半分も吸ってないのに灰皿の上でくすぶる煙草を拾い上げ、口に咥えた。
「馬鹿じゃねぇの」
煙と共に吐き出した言葉は彼自身と叔父に向けられたもので、彼らの関係を表すかのように相変わらず部屋の空気は澱んだまま、抱く感情の所在を不確かにしていた。


(2006.6.26)

戻る

hs


(女性向けです。叔父甥です。裏風味です。苦手な方はご遠慮下さい。)





隣の男がうつぶせのまま半身を起こし、ナイトテーブルの上の煙草を掴んだ。
鬱陶しそうに金髪をかき上げながら、火をつける。ライターの火で仄暗い部屋がオレンジ色に染まり、叔父の横顔を映した。叔父はクッションの上に肘をついてだるそうに煙草を吸っている。
ナイトテーブルの上に灰皿が置かれるようになったのは、いつの頃か。
思い出そうとしても具体的なことは思い出せず、とりあえず叔父の部屋だったことと、お互いそこそこ酒が入っていたことしか記憶に無い。酒が入っていたものの、その場の勢いと言うことだけではなかったらしく、それ以来何度かベッドの中から叔父を見ていた。
叔父が何を考えているのか、回数を重ねるごと分からなくなっている。ことの最中に目を合わせると、叔父は一瞬ばつの悪そうな表情になり、それから顔を歪めて笑う。そしてすぐ首筋に顔を埋められるので、叔父がどんな表情をしているのか結局いつも判らなかった。
こっちがくすぐったさに身をよじると、ますます調子に乗ってきて、視界が叔父の金髪に占領されて何もかもがどうでも良い気分になるのに、わずかに残るなけなしの理性を最後まで手放そうとしないのは、叔父に対するせめてもの抵抗だった。
「シーツ焦がすなよ」
叔父と同じようにうつぶせになりながら、煙草の灰が落ちそうになっていたので注意すると、叔父は慌てて灰皿に手を伸ばした。むき出しの腕はうっすらと汗ばんでいて、何故か急いで目を逸らす。
「アンタってさ」
「何だよ」
こちらの言うことなど聞いて無いようで、その癖しっかり聞いていた叔父の返事は、煙草をくわえているせいでくもぐって耳に届いた。再び叔父に目をやると、相変わらず読めない表情で煙草を吸っている。せっつくように肩に肩をぶつけられたが、自分でも何が言いたかったのかはっきりしなかったので、適当に言葉を濁した。
「いつもより酒飲まねぇよな」
叔父は一応酒を飲むことを目的に部屋を訪れるはずなのに、寝室に行くようになる時は、最初からいつもより酒を飲まない。構わずにこっちが飲もうとしても、それとなく取り上げられる。前々からの疑問をぶつけると、叔父は顔を逸らして盛大に煙を吐き出してから、軽く肩を竦めた。
「酒は感覚が鈍くなるからな」
その当然と言った口調が可笑しくて、その言葉が指す意味も羞恥も忘れて声を出さずに肩を震わせて笑っていると、叔父は不機嫌そうに「けっ」と言いながら灰皿に煙草を置いた。



何がおかしいのか知らないが、肩を震わせて笑う甥が憎たらしくて、灰皿に煙草を置いてから甥の上にのしかかった。
自分の行動がよほど予想外だったのか、甥はもがいて暴れたが、しばらくすると大人しくなった。暗闇でもはっきりと判る黒髪を一房掴んで弄ぶ。
甥をどうしたいのか分からないまま、このような関係になったことに対して思うところは無いでもないが、最近では考えることも馬鹿らしいので、あえて考えないようにしている。
髪を強く引っ張って、無理やりこちらを向かせた。行為の途中、自分の真下で熱を孕みながらもどこかに一点醒めた色を浮かべる目は、今は髪を引っ張る手を離せと言葉よりも雄弁に語っている。後ろを振り向くような窮屈な格好では苦しいのだろう。
言う通りに手を離し甥が油断した隙に、顔だけでなく身体も仰向かせると、きつい目で睨み付けられた。軽いアルコールだけではない理由で、かすかに目元が染まっていたが、険のある目つきはいつもと変わらない。その気の強さに欲情する。
笑われた仕返しとばかりに、こちらも笑いながら甥の身体に指を這わせた。甥は声を上げないようにきつく唇を結んでいる。時折こぼれる吐息が肌にかかって、背筋が震えた。無駄に声を出されるよりも性質が悪い。
途中、ベッドサイドのテーブルに目をやると、煙草はすっかり灰になっていた。
自分は滅多に吸わない癖に、ナイトテーブルに灰皿を用意する甥は、何を考えているのだろう。
「アンタってさ…」
先ほどと同じ台詞を熱っぽい声で言われて、今度は返事を返さずに無視しても良かったのだが、背中に手を回されて背にかかった髪を引っ張られたので、動きを止めた。乱れたシーツや、その上に散った黒髪が薄闇でも見てとれる。汗ばんだ甥の身体は密着していると言って良いほど酷く間近にある割に、どこか現実味を欠いていた。
「何だよ」
じっとこちらを見つめる黒い目に絡め捕られて、自分が誤魔化している感情に向き合った気がしてばつが悪くなり、それを悟られないように顔を歪めて低く笑う。ぱっと手が離されたので、すぐに行為を再開した。
「何考えてんだか分かんねぇ…」
真下でぼそっと呟いた口を、「お互い様だろ」と言って塞いだ。


(2006.4.7)

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hs

(南国5巻より。扉の前で)



幽霊になってまで生意気そうな面してんな。
新しい甥っ子から死んだって聞いてたけどな。やっぱ生きてやがったと思いきや、幽霊かよ。
非常識な餓鬼だぜ全く。
一族に存在するはずのない『黒』を持って産まれただけでも非常識な癖に、あの兄貴に反抗して家出した挙句がこのザマかよ。
年々『アイツ』に似てきやがって。久しぶりに見たけど、そっくりじゃねぇか。
とことんヒトの神経逆撫でする『元』甥っ子だぜ。
新しい甥っ子はこの通り、金髪で秘石眼もある。テメェはこいつの『ニセモノ』なんだってな。
ニセモノだったから黒だったのか。だから秘石眼もなかったのか。だから、俺らと違ったのか。
俺ら一族の人間は、兄貴に反抗することなんて出来ねぇ。俺も、テメェの横にいるサービスも。
テメェだけが、兄貴に真っ向から反抗した。反抗して自分の弟を助け出そうとして脱走して、でも結局その兄貴をかばって弟に撃たれて死んだんだってな。
馬鹿じゃねぇの。救い様のねぇ馬鹿。
苛々すんだよ。
アイツにそっくりなその顔も。アイツとは似ても似つかない真っ直ぐなその性格も。
散々ヒトを苛立たせておいて、あっさり死んで。
それで、幽霊かよ。
何なんだテメェ。何者なんだよ。
ニセモノってどういうことだ説明しろこの野郎。
誰かさんと違って騙せるようなタマじゃねぇだろテメェは。この餓鬼。
ああ、クソ。
それにしても暑いな、この島。
新しい甥っ子がテメェを獲物だって言うから譲るけどな、二番に立候補したい気分だぜ。




やっぱりアンタ来たんだな。
仰々しく部下引き連れて飛行船で乗り込んで来て、格好つけた隊長面しやがって。
ああコタローと『ソイツ』も連れて来たのか。
ソイツに聞いたんだろ。俺は『ニセモノ』だって。満足したか?
一族の中で一番俺の『黒』にこだわってたの、アンタだったもんな。気付いてねぇとでも思ったか。
アンタが死ぬほど憎んでるどっかの誰かさんと、偶然とは言え似てるもんはしょうがねぇって思ってたけど、こうなると偶然じゃねぇみてぇだし。まだはっきりしねぇけど。
俺を通して『黒』を憎んでたのか、『黒』である俺自体を憎んでたのか。
何考えてんだか分かねぇ奴の多い一族の中で、アンタは結構分かりやすかったんだけどよ。
そこだけは、分からなかったんだよな。
それで、どっちだったんだ? いやどっちにしろ、あんまり変わらねぇか。
わざわざ特戦部隊連れて来たってことが答えみてぇなもんだし。
憎んでた甥っ子が死んで、アンタ清々したろ。
いやもう甥っ子じゃねぇか。叔父でも甥でもねぇし。
けど、残念だったな。俺は絶対生き返る。
約束したんだ帰ってくるって。
アンタが嫌な顔しようと、これだけは守らなきゃなんねぇ。
ああ、クソ。
いつもにまして暑いな、この島。
でもコタローを保護してくれたとこだけは感謝するぜ、おっさん。


(2007.1.10)

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hs

(お題「不意に」のハーレム側。叔父甥です。女性向けです。ひっそりと裏風味です。苦手な方はご遠慮ください)




長い黒髪が、シーツの上に散っている。

ごそごそと身を起こして、男はナイトテーブルの上の煙草を掴んだ。ライターの火をつけようとすると、ガスかオイルが不足しているのか、シュッと言う音が虚しく響くだけで、中々点火しない。やっとついた火に煙草の先を近づけて、軽く息を吸い込むと炎は煙草に燃え移り、数回の点滅の後、少々癖の強い香りが室内に充満した。
暗い部屋の中で蛍のような頼りない光が、男の手の先で揺れている。おぼつかない光源により、一切の装飾をそぎ落としたような殺風景な寝室がわずかに浮かび上がった。生活感がまるでないその内装は、寝る暇も惜しんで働いている部屋の主の日常を物語っているようで、男はベッドの隣にいる甥に視線をやった。
先ほどからやけに静かだと思っていたら、甥は男の方を向いたまま瞼を閉じていた。耳を澄ますと微かな寝息も聞こえてくる。どうやら眠っているようだ。
男は予想外のものでも見てしまったかのように大きく瞬きを繰り返すと、煙草の穂先を甥の顔の方に向けた。煙草の明かりで垣間見た甥の寝顔は、男に苛立ちと少量の優越感を同時に与え、心の中に巣食った得体の知れない感情を増幅させた。
横にいるのに気を許して眠らないで欲しいと思ってる癖に、安心したように眠る甥を起こさないよう慎重に身動きしてしまう自らの矛盾に、男は自嘲気味に唇を歪ませた。
甥の象徴のような長い黒い髪が汗で頬に張り付いている。男は煙草を持っていない左手を何の気なしに伸ばし、髪を梳いて背中に流した。
甥が髪を伸ばし始めたのはいつからだったのだろうか。髪から手を放して、男は過去の記憶を辿る。
幼少期は短かった。あの島で久しぶりにまともに向き合ったときはすでに長かった。仕官学校に入ってからは極力顔を合わさないようにしていたので定かではないが、恐らくその辺り、たぶん二十歳前後に伸ばし始めたのだろう。
異端の色をした髪を伸ばす心境を推し量り、推し量ってしまった自分に腹を立てる。同情しながら疎んでいた黒髪を、男はもう一度後ろに梳いた。
乱暴に梳いたせいか、むき出しの肩に髪がかかって、汗のせいで張り付いている。力なく放り出された甥の腕の内側に、内出血のような赤紫色をした痕を目にして、気まずそうに視線を外した。甥に対する執着心が、その小さな痕に終結されているようで苛々する。
それでも外からは決してばれない位置に残す辺りが、理性を保っている証拠かもしれない。この状況で何の理性だ、と男は自らの考えを鼻で嗤い、自虐を込めて再度甥の黒髪に触れた。
何度も髪を梳かれて覚醒したのか、甥の身じろぎを察知して、男はとっさに灰皿に煙草を投げ込んで、うつぶせに寝転がり顔をクッションに埋めて隠した。
隠れなければならないようなことをしていないのに、寝顔を見ながら髪をなでる行為が、その背景にある感情がなんであれ、男にとっては酷く自分らしくないことのように思えたせいだ。
甥はしばらくぼうっとしていたようだったが、煙を上げる煙草を見ると身を乗り出してそれをもみ消した。その後も特に何をするでもなく、ベッドの上に座っている。時折感じる視線が気まずくて、男は寝たふりをし通すことに決めた。


遠くで水音が聞こえてくる。
甥がバスルームでシャワーを浴びている音を耳にしながら、男は再度煙草に手を伸ばした。ライターの火をつけると、今回は一度で上手く発火した。煙草に火を移すことなく、男はじっと炎によって明るくなった手元に見入っていた。
ライターを持つ左手に、黒い髪が一本絡み付いている。
男はその髪を払うこともせず、忌々しそうに舌打ちをしてから、漸く煙草に火を移した。
甥の黒髪も、汗ばんだ肌も、背中に立てられた爪の感触も、こうして一人で煙草を吸っていると幻のように思えた。
甥の部屋に染み付いた、愛煙している煙草の匂いに気付くたびに、どうしても狼狽する。組織の中で喧嘩を繰り返してばかりの日常に、この関係が地続きで存在しているものとはとても思えない。
それなのに中指と薬指にかけて蛇のように絡む黒髪は、ともすれば本人よりもその存在を知らしめて、これは間違いなく現実だと男に付きつけてくる。
自嘲と自己嫌悪に悩まされると分かっているのに、酒を飲むと言う口実で、甥の部屋を訪れることを辞めない自分は何なのか。
男が幾度となく自らに問いかけた質問に、とっくに答えは出ていると頭は告げている。そして、似たような考えをする甥も、恐らく答えに気が付いているだろう。けれどそれを認めるわけにはいかなかった。
誤魔化し続けて、嘘を付き、虚構によって成立している関係こそが相応しい。
「馬鹿じゃねえの」
考え込んで結論付けた解答に対して、吐き捨てるようにそう言い放つと、男は煙草を灰皿に投げ込んで、ベッドの中から這い出した。乱雑に散らばった衣服を身に付けて、寝室を後にする。
扉を閉める前に振りかえった視線の先で、消されぬままに残された煙草の煙が揺れていた。


(2006.6.29)

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