猫
黒猫が一匹、俺の部屋で気持ち良さそうに毛繕いをし、伸びをした。
ホールにでんと設えられたソファーが気に入りの場所で、何時もそこで長くなっている。
しかし、そこは俺にとっても気に入りの場所なのだ。
例えヤツが先に居座っていても、俺に譲るのが礼儀ってもんだろう。
何と言っても俺は年長者だ。
「おい、そこどけよ」
俺の言葉にヤツは顔を僅かばかりあげると、ふんと鼻先で何とも小憎たらしい返事を返した。
勿論その意味は“NO”。
「其処は昔から俺の指定席なんだよっ!」
その背を容赦なく靴先で踏みつけると、ヤツは鳴き声の代わりに俺の足を掴みにかかった。
危うく足首を極められるのを回避すると、今だソファーに横たわるヤツの首根っこを押さえつける。
今度は身動きの取れないように羽交い絞めにしてやったから、反撃をしたくとも出来ない。
「俺様に逆らおうなんざ、100年早いんだよ」
余裕の滲む声で囁いてやったら、ヤツは心底悔しそうに喉を鳴らし、
それでも苦しい体勢から反撃を仕掛けてきた。
何時も大人になりたくて、無理してクールな振りをしてるコイツが年相応の顔で突っ掛かって来る。
そんな様子に、知らず、普段の皮肉るようなそれとは違う笑いが込上げる。
ああ、俺はコイツに嵌ってる。
引っ掻かれるのを期待して、ついつい構ってしまうのだ。
押さえ込む腕の力が弱まった瞬間、ヤツはするりと俺の胸の中から逃げ出した。
数歩飛ぶように後退り、暫くこちらの様子を伺っていたが、
やがて興味を失ったのか軽く溜息をついて扉を潜る。
それでも何度か此方を振り返り振り返りしている様が何だか可愛くて、わざと音高くキスを送る。
一瞬驚き、そして呆れた顔をしたヤツが何か呟いた。
『変なヤツ』
勿論聞こえる距離ではないが、唇の動きがそう読めた。
俺も思わず呟いた。
「変なヤツ」
e n d
copyright;三朗
◇ ◇ ◇
ハレ&シン
お互いが気になって仕方ないけど、
ちょっと素直になれないみたいな(笑)
シチュが前回と同じなのは秘密(笑)
20040802
copyright;三朗
PR
苦い。シンタローは真っ先にそう思った。
煙草のせいだ、と次に思った。
毎日体に染み込ませるように呑んでいる煙草の匂いが、きっと唇にも舌にも残って離れないでいるのだ。
ハーレムの舌が唇を割りシンタローの口を侵し始める。
手順など何も考えていない、感情のままの乱暴なキス。
それでもシンタローは、足りないと思う。
少しでも優しさの残ったキスなどいらないと批難するようにシンタローはハーレムの剥き出しの背に爪を立てる。がり、と、音はそれほど大きくないはずなのに二人の間にそれは響いた。
まるで二人にしか聞こえていなかったみたいに。
ゆっくりとハーレムの舌の動きが止み、唇が離れる。
にやりと笑うその顔に、シンタローの反抗など鋼の肉体に阻まれて何の意味も無かったのだと気づかされる。
ハーレムの体越しに見えた自分の手のその爪には叔父の血がにじんで自分で思っていた以上の強さを感じる羽目になる。
「残念」
耳元でそう囁かれ、声はぼんやりしているはずなのに音だけがやけにシンタローに響いた。
煙草のせいだ、と次に思った。
毎日体に染み込ませるように呑んでいる煙草の匂いが、きっと唇にも舌にも残って離れないでいるのだ。
ハーレムの舌が唇を割りシンタローの口を侵し始める。
手順など何も考えていない、感情のままの乱暴なキス。
それでもシンタローは、足りないと思う。
少しでも優しさの残ったキスなどいらないと批難するようにシンタローはハーレムの剥き出しの背に爪を立てる。がり、と、音はそれほど大きくないはずなのに二人の間にそれは響いた。
まるで二人にしか聞こえていなかったみたいに。
ゆっくりとハーレムの舌の動きが止み、唇が離れる。
にやりと笑うその顔に、シンタローの反抗など鋼の肉体に阻まれて何の意味も無かったのだと気づかされる。
ハーレムの体越しに見えた自分の手のその爪には叔父の血がにじんで自分で思っていた以上の強さを感じる羽目になる。
「残念」
耳元でそう囁かれ、声はぼんやりしているはずなのに音だけがやけにシンタローに響いた。
いつもは見下ろしている顔が、今はこんなに近くにある。ぐい、と顔を近づけたシンタローの乱れた髪が頬をかすめくすぐったい。
「・・・勘違いするかもしれねぇぞ」
挑発するようににやりと笑いハーレムは、見事な色の黒髪の一束をつかみ口づける。こんなところに感覚などあっただろうか、シンタローがぴくりと反応する。
うつむく顔を、無理矢理持ち上げる。はっとした顔のその色気に、ハーレムは息をのむ。舌なめずりひとつ、ハーレムは指に挟んでいた、もうすでに長さも無い煙草を灰皿に乱雑に押し付ける。最後の火が一瞬、大きく燃えるのがシンタローの目の端に映った。視線をゆっくりと合わせ、そして瞼を閉じる。キスをねだる行為など初めてだ、とシンタローは思う。そうしてゆっくりと唇が重ねられ、互いの呼吸すら奪い合うキスへと変わって行く。
「・・・っ、」
酸素を供給する暇すら与えてはくれない。自分も苦しいはずなのに。
「シンタロー」
呼吸の合間に名を呼ばれ、シンタローは伏せていた瞼を上げる。そんなことすら億劫なほど、シンタローはハーレムのキスに溺れていた。その感覚以外はいらないと思っていた。
「勘違いしたままだからな」
その言葉が何を意味するのか一瞬分かりかねたが、すぐにシンタローは理解し、両腕をハーレムの首へとまわす。背伸びをしなければ届かない距離だったが、それでも良いと思った。
遠くなりかけた意識の糸を、シンタローはためらいもなく手放した。
髪の毛萌え
「・・・勘違いするかもしれねぇぞ」
挑発するようににやりと笑いハーレムは、見事な色の黒髪の一束をつかみ口づける。こんなところに感覚などあっただろうか、シンタローがぴくりと反応する。
うつむく顔を、無理矢理持ち上げる。はっとした顔のその色気に、ハーレムは息をのむ。舌なめずりひとつ、ハーレムは指に挟んでいた、もうすでに長さも無い煙草を灰皿に乱雑に押し付ける。最後の火が一瞬、大きく燃えるのがシンタローの目の端に映った。視線をゆっくりと合わせ、そして瞼を閉じる。キスをねだる行為など初めてだ、とシンタローは思う。そうしてゆっくりと唇が重ねられ、互いの呼吸すら奪い合うキスへと変わって行く。
「・・・っ、」
酸素を供給する暇すら与えてはくれない。自分も苦しいはずなのに。
「シンタロー」
呼吸の合間に名を呼ばれ、シンタローは伏せていた瞼を上げる。そんなことすら億劫なほど、シンタローはハーレムのキスに溺れていた。その感覚以外はいらないと思っていた。
「勘違いしたままだからな」
その言葉が何を意味するのか一瞬分かりかねたが、すぐにシンタローは理解し、両腕をハーレムの首へとまわす。背伸びをしなければ届かない距離だったが、それでも良いと思った。
遠くなりかけた意識の糸を、シンタローはためらいもなく手放した。
髪の毛萌え
シンタローはハーレムを待っていた。別に自分から望んだ事でもなく、誘われたから行くだけだと言えばその通りだ。
自分の意志で街に下りるのは久しぶりだ。視察やなんかでくる事はあるものの、それまでだ。自分から来たいとも思わないし、必要な事は全部団内で事足りる。それほどに意識から遠い場所ではあったが、いざ来てみるとどこか懐かしさを覚える。記憶の奥の方に眠っていたのだろうか。
喧噪は近い。壊れかけのテレビみたいに人々は、いろんな音を発しながらシンタローの側を通り過ぎて行く。自分なんかが街に下りても大丈夫かと心配だったが、たまに振り返る者があっても、それも一瞬だった。案外顔は知られていないんだなと、シンタローは苦笑する。腕を組み直し遠くを見遣れば、赤色がだんだん近づいてくるのが見えた。シンタローが、それがハーレムの車だと気づいたのは、その車が自分の前で止まったからだった。驚きに目を丸くしていると、内側から扉が開かれた。
「乗れよ」
雑な言葉とは裏腹に、開かれたドアから見える手は優しく手招きをしているように見えた。一瞬間があいたシンタローの動作にハーレムが中側から覗き込むと、シンタローは思わず笑う。似合わないな、おっさん。シンタローが言ってみせると、ハーレムは銜え煙草で笑う。
「安全運転で頼むぜ」
後ろから急かすクラクションに、シンタローは足早に乗り込んだ。
町並みが鮮やかに流れて行く。元来そうなのか、シンタローが注意したせいかは知らないが、ハーレムは安全運転で車を走らせていた。車はと言えば、完全にハーレム仕様だった。匂いはハーレムの煙草の匂いだし、助手席の位置はハーレムの女の位置だった。ハーレムの吐き出した煙にシンタローがむせると、すまん、と一言、灰皿に煙草を押し付けた。
「・・・どうした、今日は」
普段見せぬ優しさに思わずそう聞けば、ハーレムは何も言わずハンドルを右に切った。何も言わないハーレムに、シンタローはハーレムに向けていた視線を再び窓の外に追いやった。答えろよ、とぼやく。
「デートだからな」
約5分後、シンタローが質問を忘れかけていた頃にハーレムはそう答えた。
「は?」
「デートだからな、今日は」
そしてまた5分後、シンタローは答える。
「おっさん、馬鹿か」
ウインカーの音にかき消される声だった。煙草はもう消したはずなのに、シンタローはまた咳き込んだ。
「照れるなって」
豪快に笑い飛ばすハーレムにシンタローは、あからさまに不機嫌な顔をしてやった。
ハーレムの車の色って
自分の意志で街に下りるのは久しぶりだ。視察やなんかでくる事はあるものの、それまでだ。自分から来たいとも思わないし、必要な事は全部団内で事足りる。それほどに意識から遠い場所ではあったが、いざ来てみるとどこか懐かしさを覚える。記憶の奥の方に眠っていたのだろうか。
喧噪は近い。壊れかけのテレビみたいに人々は、いろんな音を発しながらシンタローの側を通り過ぎて行く。自分なんかが街に下りても大丈夫かと心配だったが、たまに振り返る者があっても、それも一瞬だった。案外顔は知られていないんだなと、シンタローは苦笑する。腕を組み直し遠くを見遣れば、赤色がだんだん近づいてくるのが見えた。シンタローが、それがハーレムの車だと気づいたのは、その車が自分の前で止まったからだった。驚きに目を丸くしていると、内側から扉が開かれた。
「乗れよ」
雑な言葉とは裏腹に、開かれたドアから見える手は優しく手招きをしているように見えた。一瞬間があいたシンタローの動作にハーレムが中側から覗き込むと、シンタローは思わず笑う。似合わないな、おっさん。シンタローが言ってみせると、ハーレムは銜え煙草で笑う。
「安全運転で頼むぜ」
後ろから急かすクラクションに、シンタローは足早に乗り込んだ。
町並みが鮮やかに流れて行く。元来そうなのか、シンタローが注意したせいかは知らないが、ハーレムは安全運転で車を走らせていた。車はと言えば、完全にハーレム仕様だった。匂いはハーレムの煙草の匂いだし、助手席の位置はハーレムの女の位置だった。ハーレムの吐き出した煙にシンタローがむせると、すまん、と一言、灰皿に煙草を押し付けた。
「・・・どうした、今日は」
普段見せぬ優しさに思わずそう聞けば、ハーレムは何も言わずハンドルを右に切った。何も言わないハーレムに、シンタローはハーレムに向けていた視線を再び窓の外に追いやった。答えろよ、とぼやく。
「デートだからな」
約5分後、シンタローが質問を忘れかけていた頃にハーレムはそう答えた。
「は?」
「デートだからな、今日は」
そしてまた5分後、シンタローは答える。
「おっさん、馬鹿か」
ウインカーの音にかき消される声だった。煙草はもう消したはずなのに、シンタローはまた咳き込んだ。
「照れるなって」
豪快に笑い飛ばすハーレムにシンタローは、あからさまに不機嫌な顔をしてやった。
ハーレムの車の色って