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星の光も弱まる程の月明かりが眩しい夜に俺とキンタローは公園へと訪れた。仕事で訪れた知らない地で見つけた綺麗な桜の木。後で見に来ようと思ってチェックだけに留めた昼間とは違い、月の光に照らされた桜は何とも言えずに幻想的だった。舞い散る花びらが更に現実ではないような錯覚にさせ…暫くの間お互いが沈黙しながら桜の木を見上げていた。
 「綺麗なものだな」
 やがて聞こえた感嘆の声、口元に笑みを浮かべながら桜から従兄弟へと視線を移す。枝と花の間をすり抜ける月光に目を細めて見上げる表情は一見、何時もの無愛想だけど何処か嬉しそうに見えた。
 「ああ…咲き始めや満開も良いケド、桜は散り際が一番映える。もの悲しいけどな」
 「散った際の花弁は片付けるのは大事だぞ」
 ガクッ…
 こんな綺麗な景色をそんな一言で台無しにする阿呆がまさか身内にいようとは思わなかったぜ。眼魔砲を撃ちたい気持ちを抑えて取りあえず反論を試みる。
 「…情緒溢れる日本人の心を理解する努力くらいしてみせろよ」
 「生憎と、俺は英国人でな」
 「血筋はどうであろうと育ったのは日本だっつー事、綺麗に流してんなよ」
 チッ、生意気にも言い返してきやがった。しかも俺の触れたくないワードまでキッチリ出しやがって…このタイミングじゃワザとって訳でもなさそうだから怒るに怒れやしねェ。
 血筋…今の所そう呼べる者は俺と同じ顔をしたチンだけだ。それすらも怪しいものだし凄く認めたくもないが事実は事実。

 ちょっと切ない…

 いやいや、落ち着け俺。気持ちを落ち着かせようと何度か大きく呼吸をした後に再び見上げた桜…本当に綺麗だな。何か異次元へ誘われてる感じがする。あー、神隠しにあう時ってこんな気持ちなのかな…と無意味に考えてみた。
 「人間の養分を吸収して妖艶に咲き誇る花…か。こんな見事な咲き方をすりゃ、そんな記述があったって納得出来るよな」
 「…それはただの迷信ではないのか?」
 「そうとは限らねぇぜ?人だけにゃ限定しねーケド、屍には養分が沢山詰まってっから植物にはまたとないご馳走だろーし。一説には、伸ばした枝で獲物を捕らえて生きたまま養分を吸収するって言われてンな」
 敢えてキンタローの方を見る事無く他愛の無い話をする。話が逸れるなら内容なんてどうでも良かった。幾分怪談めいた言葉を出して横目で相手の様子を見ようとしたその時に、いきなり強い風が通り抜けた。その風は舞い散る薄いピンクの花弁と俺の長い黒髪を舞い上げて抜け去った。多分キンタローも花弁まみれだろう。
 …おい、風がいきなり吹き荒れるってのはアリか?おかげで俺の髪に桜の花弁が巻き込まれちまった。コレはコレで情緒があるが、どうせならコタローみたいな可愛い子でこういう姿を見たかったぜ。俺やキンタローじゃ、花まみれでも様になんねーっての。
 「シンタロー…ッ!!」
 「ン?」
 名を呼ばれて何事かと思ったが視線は桜へと向けたままで、間髪入れずに背後から伸びてきたキンタローの腕が俺を捕らえた。緩い力で抱きしめられるのに驚きはしたが拒絶するのもなんだと思って、そのままの状態で問いかける。
 「…ンだよ、どうかしたかよ?」
 返事の変わりに抱きしめてくる腕に力がこもった気がする。その腕に手を添えて、落ち着かせる為に2度程叩いてやるも返事は無くて。
 「おい、キンタロー。お前、いい加減………ッ!?」
 待ってみても返事が無い事に焦れて振り返った矢先に重ねられた唇…重ねるだけのそれでも力強いキスに反応が遅れた。そして気が付いたら俺の背中は桜の木に押し付けられていて、急な出来事についてうまく働かない思考は再び重ねられた唇を受け入れた。
 「…っ…ん……っ!は…っ、いい加減にしやがれ!」
 「……シンタロー…」
 何度もされたキスの所為か乱れる息の中どうにかキンタローの肩に手を置いて、腕を伸ばして少しの距離を取って叫んでみた。純粋に乱れる思考と呼吸を整えたい無意識な欲求からの行動だったんだが、俺に拒否されたとでも思ったのか伏せた瞳に戸惑いの色が浮かんでいた。もう一度近づいたキンタローの顔に身構えたが今度は軽く触れるかどうかのキスをするだけで、強張る身体を正面から優しく抱きしめられていた。
 「…ばーか、またしょうもねェ事でも考えてンだろ」

 キンタローは何かの拍子によく不安げになる。しっかりして来たようでもまだ、何処か不安定な所があって…まあ『キンタロー』として生きた時間はまだ少ないの言葉じゃ済まない程に短いんだからしょうがねェとかは思うケド…その度に俺が消えそうだとか感じるってのはどうかと思うんだよな。今回も間違いなくその類だよな、ったく…ホントにしょうがねー奴。

 「…キンタロー、前に俺が言った事を覚えているか?」
 「……?」
 再びの沈黙…コイツ、覚えていないのか?ヒントも与えずに悟れというのは酷いとは思うが、ピンとも来ない目の前の男が腹立だしくて…離れようと身体を捩らせたが力で抑え付けられた。
 チクショー、俺とキンタローの力はほぼ互角。なら今の体勢は多いに不利だ。
 「シンタロー…頼む、俺から離れるな」
 何処か縋るようなその言葉に逃れようと動かした身体を止めて、自由にならない腕をどうにか動かして背中を擦ってやる。それでも切なげな空気も俺を捕らえる腕の力も緩む気配が無くて…
 「…俺は居なくならない。不安ならしっかり捕まえておけって言っただろーが!」
思わずぽろりと漏らした回答。口に出した瞬間に恥ずかしくなって、視線を合わさないように俯く。何で俺がこんな事言わないといけないんだよッ!駄目だ…頬が火照って来た…
 「だが俺はまだ、お前を捕まえる事が出来ないでいる…」

 …は?何言ってンだ、コイツ。
 一年以上も俺の傍らに居たお前が本当に気付いてないのか?大体好きでもねェ奴に、幾ら強引にとはいえキスなんかさせっかよ!させたとしても即眼魔砲決定だっつーの。
 …俺はお前の事が…

 そこでふと気が付いた。
 ………そういやキンタローが俺を好きだと言ってくれる時はあっても俺がそうと言った事は無かったような気がする…
 「シンタロー?」
 一気に脱力した俺に心配げに聞いてきたキンタローに何でも無いと首を横に振る。
 あー…だから捕まえきれてないだなんて思うのか?にしたって、少し位は態度で察しやがれ。
 言いたい事は山ほどある気もするが苛立ちと焦れったい気持ちでうまく纏まらねェ。でも代わりに…
 「…ッ、シンタロー!?」
 ほんの一瞬の隙をついて俺を拘束していた腕を振り払って、その場を離れるでもなく伸ばした腕を首に絡めて唇を奪う。驚いているキンタローに何も言わずに離れるとすぐさま背を向ける。
 触れるか触れないかの軽いキス、それでもかなりの勇気が要った…って、俺はどこぞの乙女か。
 「シン…」
 「あー…五月蝿ェよ!人の名前を安売りバーゲンセールの商品みたく連呼してンじゃねーヨ!」
 火照った頬を誤魔化すように両頬をペチペチと叩く、痛い位に叩くのは今は気持ちが良い気がする。なのにキンタローはその手を遮り俺の頬に触れてきた、背中から伸びた掌を振り払い損ねて、そっと頬を滑る指先の感触に更に加速して熱を帯びた。
 「…すまない、別にそんなつもりは無かったんだが…それとシンタロー、さっきのはどういう…」
 「…ちったぁ自分で考えやがれ」
 気持ちの良いキンタローの指を振り払い振り返ると挑戦的に笑ってみせた。少なくとも俺的にはであって成功したかどうかの自信はねェ。
 また吹き抜ける風、でも今度は髪を揺らす程度の強さだった。キンタローはその風に浮いた髪の一束に指を絡めて、それにキスをした。直接された訳でもないのに髪の一筋一筋に神経が通ったみたいにくすぐったくて、恥ずかしかった…
 「…少なくとも、今は俺がお前を捕まえていても良いと言うことか?」
 「さあな…」
 視線を逸らし曖昧に答える。俺は狡い…
 「シンタロー…」
 「…ンだよ」
 「俺はお前が好きだ」
 「知ってる」
 「そしてお前は俺が好きだ、間違っているか?」
 「一々確認するな、今更だろーが!」
 「そうだとは思ったんだが確信が無かったんだ」
 「………何時、気付いた?」
 「お前が総帥になってすぐ位…か?」
 「俺に聞くな。それと自意識過剰だ、阿呆。そん時は従兄弟としてしか見てなかったっつーの」
 …鋭い…あながち嘘じゃねぇケド、解ってて解らない振りをしてたのが悔しくて誤魔化した。
 「今はどうなんだ?」
 「………」
 「お前の口から聞きたい」
 …言えと言われて言うとその言葉が軽く思えて嫌だ。
 「お前が自発的に言う男なら俺だって今、此処で無理に聞きはしない。いいか、そもそもお前が心に留めず言っていれば俺もあんな無理強いしたキスなど…」
 「だーッ!二度も言わんでよし、勝手に人の心を読むな!そんで思い出させんな!」
 「俺は思い出してほしかったんだがな」
 …おい、さっきまでの不安げなお前は何処に消えたよ。確証を得ただけでなんでそんなに強気なんだ、ゲンキンな奴。
 黙ったまま俺の言葉を待つキンタロー。視線を逸らしても尚感じる気配に深々と溜息を吐いた。
 「…あー、もう!滅多に言わねぇからよーく聞いとけよ!俺は…」
 頭をガシガシと掻き乱すと意を決してキンタローの首に腕を回して耳元へと囁く。小さく、それでも確実に相手に届くように告げた俺の本心…これが恋だか愛だかは解らないけれど、大事だと思うのは真実だから…
言った直後にまた抱きしめられた。力強く包み込みような抱擁に静かに目を閉じて、俺もそっと抱き返した。
 「シンタロー、俺はお前が安心して頼れる男になる。必ずお前を護る…ずっとお前の側に居るさ」
 付け足された言葉に俺は頷いて心の中で思った…俺もお前を護るから、お前だけは俺の側に居ろ…
 暫くの間、時間を忘れてお互いを抱きしめていた。
 時折舞い散る桜の花弁が綺麗だと思った…

 

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