「黄色い薔薇ァ?」
総帥室でシンタローの仕事の補佐をしながら何気に聞いた言葉。よほど驚いたのか、突然問われた内容を聞き返す従兄弟。不思議そうに見つめる視線が何となくおかしくて、声を押さえて笑うと従兄弟は俺を一睨みしてすぐに視線を外す。
「ンだよ…ソレがどうかしたのかヨ、キンタロー。」
書類に視線を落としたままそっけなく言い放つ言葉も拗ねてると解れば愛しい限りで…それを悟られない様にと、見つめていた視線をごく自然に逸らすと笑いを収めて促されるままに言葉を続ける。
「いや、高松がよく俺に黄色い薔薇をくれるんだ。赤でもなく白でもなく黄色の薔薇だけを。不思議に思ったからグンマや当人に聞いてみたんだが、教えてくれなくてな。」
総帥である従兄弟から回って来た決裁済みの書類に印を押すべく印を取ると、その手を止めてシンタローを見て言外に聞き直してみる。
「バーカ、少しは雑学も頭に入れておけヨ」
深い溜息と共に吐きだされる言葉。確かに人生経験が少ない俺は雑学もそう詰め込んではいない。だから反論こそはしなかったがやはり少し悔しい。心中が態度に出てしまったのか、相手の瞳に映る呆れた色が深くなった様な気がする。
「お前、相当大事にされてんのナ。確か…黄色の薔薇は『家族愛』だったと思う。そんで白い薔薇は『死者へ手向ける愛』赤い薔薇が『恋人・伴侶への愛』…花言葉だとそうなるんだ。要するに愛する家族って事で黄色い薔薇を送ってたんじゃねェ?」
「花言葉…?」
予想にしなかった返答に俺は驚く反面、恐らく『豆鉄砲を喰らった鳩』とはこの事を言うんだろうなと冷静に思う自分を感じた。
家族…俺の肉親は居ても家族はもう居ない。そう、どれだけ望んでいても手に入るものでは無い筈の存在。なのに何故此処でその単語が出るのかが不思議で仕方が無い…暫しの間思考を巡らせていると紙が落ちる音が聞こえ、シンタローの方を見遣る。従兄弟は手にしていた書類を机の上に放り出し、呆れた眼差しを隠そうともせず向けていた。
「お前はルーザー叔父さんの息子だしお互いの立場上言えねーんだろうケド、高松にとっちゃお前は息子同然って事じゃねぇの?血は繋がってなくても親子…か。良かったな、キンタロー」
「…その台詞をそのままお前に返しても良いか?」
「五月蝿ェよ。」
今や家族とは血の繋がり所か存在さえも不安定な目の前の男は短く反論するとそっぽを向いてしまった。その態度が少し切なそうで…
「シンタロー…」
呼んでも振り向きもしない従兄弟に机を挟むように近づいて、腕を伸ばして頭を抱える様に己の胸に引き寄せる。吃驚して離れようとするシンタローを抱き締める腕に僅かな力を込めて囁く。
「ありがとう…俺は幸せだな。俺を一族の一員と認めて貰って、家族と思ってくれる俺も大事な高松が居て」
そこで一度言葉を止めて、腕の中の人物を見る。高鳴る心臓の音が聞こえやしないかとハラハラしたが、シンタローは至って冷静そうで。軽く落胆の吐息を吐くと瞳を伏せて額に口付けて言葉を続ける。
「そしてお前が居る…」
言葉の所為か行動の所為かは判断がつかなかったが、明らかに照れたシンタローは力いっぱい俺を押し退けると一つ咳払いをして放り投げた書類を手に取る。
「…ホラ、早くやんねーと終わンねーだろ」
明らかに話題を逸らした相手にそれ以上言うつもりの無かった俺は従う事にして、再び仕事に取り掛かる。
しばらくして小さな声で聞こえた小さな礼の言葉。僅かに笑みを浮かべたが聞こえない振りをして…
-シンタローを大事に想う気持ちはまだ己の中に秘めておこう
少なくともこの気持ちに自信が持てるまでは-
総帥室でシンタローの仕事の補佐をしながら何気に聞いた言葉。よほど驚いたのか、突然問われた内容を聞き返す従兄弟。不思議そうに見つめる視線が何となくおかしくて、声を押さえて笑うと従兄弟は俺を一睨みしてすぐに視線を外す。
「ンだよ…ソレがどうかしたのかヨ、キンタロー。」
書類に視線を落としたままそっけなく言い放つ言葉も拗ねてると解れば愛しい限りで…それを悟られない様にと、見つめていた視線をごく自然に逸らすと笑いを収めて促されるままに言葉を続ける。
「いや、高松がよく俺に黄色い薔薇をくれるんだ。赤でもなく白でもなく黄色の薔薇だけを。不思議に思ったからグンマや当人に聞いてみたんだが、教えてくれなくてな。」
総帥である従兄弟から回って来た決裁済みの書類に印を押すべく印を取ると、その手を止めてシンタローを見て言外に聞き直してみる。
「バーカ、少しは雑学も頭に入れておけヨ」
深い溜息と共に吐きだされる言葉。確かに人生経験が少ない俺は雑学もそう詰め込んではいない。だから反論こそはしなかったがやはり少し悔しい。心中が態度に出てしまったのか、相手の瞳に映る呆れた色が深くなった様な気がする。
「お前、相当大事にされてんのナ。確か…黄色の薔薇は『家族愛』だったと思う。そんで白い薔薇は『死者へ手向ける愛』赤い薔薇が『恋人・伴侶への愛』…花言葉だとそうなるんだ。要するに愛する家族って事で黄色い薔薇を送ってたんじゃねェ?」
「花言葉…?」
予想にしなかった返答に俺は驚く反面、恐らく『豆鉄砲を喰らった鳩』とはこの事を言うんだろうなと冷静に思う自分を感じた。
家族…俺の肉親は居ても家族はもう居ない。そう、どれだけ望んでいても手に入るものでは無い筈の存在。なのに何故此処でその単語が出るのかが不思議で仕方が無い…暫しの間思考を巡らせていると紙が落ちる音が聞こえ、シンタローの方を見遣る。従兄弟は手にしていた書類を机の上に放り出し、呆れた眼差しを隠そうともせず向けていた。
「お前はルーザー叔父さんの息子だしお互いの立場上言えねーんだろうケド、高松にとっちゃお前は息子同然って事じゃねぇの?血は繋がってなくても親子…か。良かったな、キンタロー」
「…その台詞をそのままお前に返しても良いか?」
「五月蝿ェよ。」
今や家族とは血の繋がり所か存在さえも不安定な目の前の男は短く反論するとそっぽを向いてしまった。その態度が少し切なそうで…
「シンタロー…」
呼んでも振り向きもしない従兄弟に机を挟むように近づいて、腕を伸ばして頭を抱える様に己の胸に引き寄せる。吃驚して離れようとするシンタローを抱き締める腕に僅かな力を込めて囁く。
「ありがとう…俺は幸せだな。俺を一族の一員と認めて貰って、家族と思ってくれる俺も大事な高松が居て」
そこで一度言葉を止めて、腕の中の人物を見る。高鳴る心臓の音が聞こえやしないかとハラハラしたが、シンタローは至って冷静そうで。軽く落胆の吐息を吐くと瞳を伏せて額に口付けて言葉を続ける。
「そしてお前が居る…」
言葉の所為か行動の所為かは判断がつかなかったが、明らかに照れたシンタローは力いっぱい俺を押し退けると一つ咳払いをして放り投げた書類を手に取る。
「…ホラ、早くやんねーと終わンねーだろ」
明らかに話題を逸らした相手にそれ以上言うつもりの無かった俺は従う事にして、再び仕事に取り掛かる。
しばらくして小さな声で聞こえた小さな礼の言葉。僅かに笑みを浮かべたが聞こえない振りをして…
-シンタローを大事に想う気持ちはまだ己の中に秘めておこう
少なくともこの気持ちに自信が持てるまでは-
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