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kk
-ふいに倒れる身体 いきなり引かれる腕-

 気が付けば抱かかえられるように己の頭は従兄弟の腕中にあった。頬に触れる胸からは定期的なリズムで心地良い音が響く。
 何事かと顔を上げ様とするものの、相手の腕にこもる力がそれを許さない。
 こんな態度を取るのは大抵が照れ隠しであって、今回も間違いないだろう。
 「シンタロー…?」
 このままではラチがあきそうにない。仕方が無いので俺から問うと意外な言葉が返ってきた。
 「…お前、さっき泣きそうだっただろう…?」
 「なっ…」
 本当に驚いた…図星だったから…

 舞い散る花びらの中に佇むシンタロー。
 赤い服に映える長い黒髪を流して…そして掌に収まる薄ピンクの花びら…
 その情景が余りにも綺麗で…綺麗過ぎて…

 そのままアイツが消えるかと思った。その瞬間心が痛くて、泣きそうだと思った。

 -そして今に至る-

 「…なんでお前がそんな哀しそうに俺を見たのかは知らねーケド…俺の胸位は貸してやっから、一人で泣くんじゃねーよ」
 「…シンタ……」
 その一言に、また泣きそうになる。
 お前は狡い。お前は頼んでも弱みを見せる事など無い癖に…
 そう言葉にしたいのを唇を噛み締めて飲み込む。その様子が解ったのだろうか、シンタローは深々と息を吐いた。
 「俺が甘えさせるのはお前とコタローだけ。俺が甘えるのはお前とサービス叔父さんだけなんだよ」
 「え?」
 小さくてもはっきりと聞こえた言葉に疑問で応え、腕が緩んだのを感じると顔を上げて従兄弟を見る。
 俺を放した手で乱暴に髪を掻き上げて、照れた様子でそっぽを向いていた。
 「あー…うん、何だ。そういう事だ、そんでさっきの言葉は忘れろ」
 「シンタロー…」
 「……ンだよ」
 「お前はマジック叔父貴には十分甘えているし、俺には甘えて無いと思うんだが…?」
 素直な感想を投げかけた瞬間に照れていた表情が固まり、次いで顔を俺に向けて睨みだした。
 …俺は言葉を選び損ねたかのか…?何を怒っているんだ?
 シンタローの痛い程の視線を浴びて、ただ訳の解らないままに見つめ返すしかなかった。
 「…キンタロー」
 長い沈黙の後、ようやく口を開いた。それが嬉しくて一歩踏み寄った瞬間、渾身の力で頭上から殴られた。
 「シ…シンタロー…ッ!?」
 反射的に殴り返す事はしなかったが、反動で無様にも地へと突っ伏した。その際、先程幻想的に見せた花びらがふわりと舞った。
 ずくずくと痛む頭上に手を置きながら、上半身を起こすとシンタローを見上げる。相手も見下ろすように俺を見ていて、合った視線はまたすぐに逸らされてしまった。俺は一体何をしたんだろうか…?
 「親父に甘えてるように見えるンなら、一回眼科に行って来いよ。良い医者を紹介してやる」
 きぱりと断言するとくるりと踵を返して向けられた背に視線を送る。
 良い医者なら高松が居る…という言葉を飲み込んで相手の言葉の続きを待つ、程なくして聞こえた声。
 「…それに俺はとっくに頼りきって甘えてるんだよ、お前に。少しは自覚しろよな」
 余りに小さな声、それでもその言葉は耳に届いた。きっと真っ赤になっているであろう表情のシンタローを思い浮かべれば自然と笑みが零れる。その所為か不機嫌な声で、柄にでも無い事をするんじゃなかったとかもう二度としないとかブツブツと言っている。それがまた微笑ましかった。
 「…お前が消えそうだと思った。俺の側から居なくなるんじゃないかと不安だった…」
 己の唐突な自白にシンタローが振り返る。その動きに合わせて流れる結わえられていない髪に付く花びら。シンタローによく映える…
 すくっと立ち上がりズボンの泥を払うとそのままシンタローをそっと抱きしめる。戸惑いながらも抵抗はしなかった…それがまた嬉しかった。
 「でもお前は俺の心に気付いた…お前は居なくならないよな?」
 我ながらおかしな事を聞いていると自覚はあったが、聞かずには居られなかった。伸びてきたシンタローの手が俺の髪をくしゃりと撫でると、俺の胸を押して離れる。離したくは無かったが逆らう事無く腕から開放する。シンタローは可笑しそうに笑いだして。
 「バーカ、居なくなって欲しくなかったら、俺をしっかりと捕まえとけヨ」
 「シンタロー、それはどういう…」
 「あ、そろそろ休憩も終わりだな。時間が経つのが早いってのもなんだよなー」
 腕時計を確認してみるとまだ終わりには時間がある。確信犯的に誤魔化したのが解るからそれ以上は何も聞けず、代わりに苦笑いを浮かべた。
 「…そうだな、少々早い気もするが行くか」
 促すように歩き出すと話を逸らせる事に成功した所為か、満足げに頷いたシンタローが横に並んで歩き始める。
 先程の温もり、安心出来る音、声…

 -何時かは俺だけのものになるのだろうか…-
 

 

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