シンタローはんが久々に士官学校の朝礼に出席してからの帰り路、近道ということでガンマ団内の公園を通った。
シンタローはんの長い髪が風で揺れるのを(えらい、綺麗なもんやな)と感心しつつ、道のり半分ほど歩いたところ、前を歩いていたシンタローはんはだんだん足早になり、
「寒いッツ!」
と不機嫌そうに言わはった。
「そうどすな。今日は、もしかしたら初雪が降るかもしれまへんナ。シンタローはん、とっておきの暖かくなる方法、教えてあげまひょか?」
わてがそう言うと、シンタローはんは立ち止まり、わてをいかにも胡散臭げに見た。
「何だヨ!?」
本当に寒そうで苛々してはるシンタローはんに今、(わてが暖めてあげますえー)とか言うと、眼魔砲だけではすまされないような予感がしたのと、去年と同じことを言うのも芸のない話やと思い、
「―――2つ方法があるんどすが。1つは、10回“暑い”言うてみはったらどうですやろか?」
急遽、ウィットに富んだジョークを言ってみると、シンタローはんは呆れたような顔をして、
「・・・オマエ、ソレ本気で言ってんの?小学生のガキかよ。―――もし、あったかくなんなかったら、覚悟はできてんだろーナ!?」
と言い、おもむろに、
「暑い、暑い・・・」
早口で10回唱え、
「やっぱ、サムイッツ!」
と言って、わてを殴った。手加減してはったんかもしれへんけど、結構痛うおましたえ・・・。
「シンタローはん、非道ッ!ほんの可愛いジョークどしたのに~~!!」
「どこがジョークなんだヨ!?オマエのせいで気温が氷点下になったじゃねーか!ホラ、雪まで降ってきたし!!」
「ひ、ひどうおます~!」
わての言い方が情けなかったからなのか、シンタローはんは、
「ぜってー、オマエがサムイせいだかんな!」
と決め付け、どうもガキ大将のような悪戯そうな顔で笑わはった。
そんな笑顔は、久々に見た気がした。そもそも、わての前では滅多に笑いはらへんけどナ。
わてが、(何で、カメラ持ってこんかったんやッ・・・!)と、えろう後悔していたら、シンタローはんは、
「オラ、とっとと行くぞ!」
と言って歩き出した。
地面がうっすらと白くなった上に、シンタローはんの足跡が点々と続いてゆく。
それを見ていたら、そんなに寒うなかったわてまでも、何だか寒さを感じた。
足跡とわてとの距離が広がらないうちに、わては慌てて走り出した。
「シンタローは~んっ!」
「何だ?」
「あの、やっぱり、もう1つのあったこうなる方法試してみてもええどすか!?」
「・・・一応、言ってみろ」
「わてが、あんさんを暖めてあげますえー!ってことで、即実践どす~!!」
シンタローはんを抱き寄せようとすると、
「ウザイ。眼魔砲ッツ!!」
ドウッツ!と爆音が響いた。
「―――シンタローはーん。わて、ここで倒れたままやと凍死するような気が非常にするんどすが・・・」
「―――ガンマ団内で凍死って、スゲェ間抜けだナ。遊んでねーで、さっさと建物内に戻るゾ」
(いや、結構なダメージをうけたんどすが・・・)
少し歩き出していたシンタローはんは、一度だけ振り返らはった。
「早く、来い」
(そんな呼び方されたら、例え死んでても行かへんわけにはいきまへんやん・・・)
わては、(やっぱり、かなわんなぁ)と思いつつも起き上がり、
「今いきますえーvvv」
シンタローはんに駆け寄り、横に並んだ。
足元を見ると、2人分の足跡が続いていた。今度は、寒くなかった。
わざと、はずみのようにわてより少し冷たいシンタローはんの手を握ると、(ものすごく振りほどきたそうどしたけど)しばらくはそのままにさせてくれはったので、冬という季節も、そうまんざらではないような気がした。
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