(―――それにしても、えらいムカつくわ)
午後遅く、試合を終えたアラシヤマは無言で靴の先を睨んで歩きながらそう思っていた。
戦った相手は上級生であったが、勝負はアラシヤマに軍配が上がった。試合直後の挨拶の際、対戦相手は、
「ちょっと特殊能力が使えるからって、調子にのんなよ」
と小声で吐き捨てるように言った。
アラシヤマが、
「負け犬の遠吠えは見苦しおす」
馬鹿にしたようにそう言うと、彼はアラシヤマを一睨みし、去っていった。
(わても、まだまだ修行が足りへんわ)
思わず炎が出そうになる片掌を見、そのまま握り潰すように拳をつくった。
アラシヤマは着替えた後、一人、会場の外に出た。
いつのまにか足先は自然と人気のない寮の裏の林に向いていた。一歩足を踏み出すごとに、足下でカサカサと枯葉の擦れ合う音がした。
誰もいないと思っていたが、意外にも先客がいることに気づいた。彼は、落ち葉の厚く積もった樹の下に寝転び、どうやら眠っているようであった。その傍には太ったトラ猫が気持ち良さそうに丸くなっており、どうにも平和な光景である。
「シンタロー・・・」
なんとなく気抜けしたアラシヤマが思わずそう呟くと、眠っていた猫が目を覚まし、アラシヤマの方を見た。(コイツ、絶対野良どすな!)と思うようないかにもふてぶてしそうな面構えであったが、警戒心が強いのか、アラシヤマが一歩近づくと不満そうに唸り、逃げていった。
シンタローはまだ気持ち良さそうに眠っている。
アラシヤマは、先程よりも熱が鎮まっているのに気づいた。
(べ、別に放っといてもええんどすが、もう夕方やし、一声かけとこか)
そう思い、
「シンタロー」
と数度呼びかけると、渋々といった様子で目を擦りながら起きたシンタローはぼんやりと彼の方を見、
「なんだ、アラシヤマか」
と言った。
その声を聞いた途端、先程までのやり場のない熱は嘘のように鎮まっていた。
「なんだとは、なんどすか!あんさん、何こんなとこでサボってますんや?」
シンタローは服にくっついた落ち葉を払い落としながら立ち上がり、
「だって、俺試合は明日だし」
と言って伸びをした。そして、ふと気づいたように、
「なんで、オマエがこんなとこに居んだ?」
とアラシヤマの顔をマジマジと見て不思議そうに聞いた。
アラシヤマは、思わず発火しそうになりかけたが、必死で堪え、
「べ、別に俺のことはどうでもええやろ?お互い様どす!」
とそっぽを向いた。
「まぁ、どーでもいいけど。じゃーナ!」
シンタローの後姿を見ながら、アラシヤマは何かは分からなかったが先程とは別種の熱が中々治まらないことに焦っていた。
ふと、遠ざかるシンタローの髪に公孫樹の葉が一枚、髪飾りのようにくっ付いているのに気がついた。
(シンタローは、気づいてへんのやろか?)
そう思うと、アラシヤマは少し嬉しくなった。
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