シンタローは、クボタ君の卵をとりにいくため、籠を背負って森の中を一人歩いていた。
(ったく、パプワのヤツ、俺をこき使いやがって・・・。これも、あのヤンキーがとっとと洗濯を終わらせねーからだナ。―――アイツ、帰ったらシメてやろう)
何やら物騒なことを考えながら道を歩いていると、地面の様子が少々他の部分と違うことに気づいた。ものすごく巧妙ではあるが、シンタローの目から見れば明らかに罠であった。
(―――こんな陰険ワナを仕掛けるヤローは、)
シンタローが足を止めると不意に後ろから抱き上げられ、その直後、空中に浮かんでいた。そして、そのまま移動し罠を越えた辺りで地面に下ろされた。
「あ、ノブオさん。もしかして、助けてくれたのか?サンキュ」
と、シンタローが自分を運んだ相手を見上げてそう言うと、彼はコクリと頷いた。
その時、木の陰から突然、
「ちょっと待っておくれやすぅ~~~!!」
と、ものすごい勢いでその場の雰囲気に待ったをかけた者が居た。
「なっ、なんどすかっ!そんな至近距離で見つめあいはって!?シンタローはんッツ、わてというものがありながら、援交とはひどうおます―――!!」
「眼魔砲ッツ!!」
ドウッツ!と音がし、アラシヤマは遠くに吹き飛ばされた。シンタローが笑顔で、
「―――今の、気にしねーでくれ。ただの空き缶だし!」
そう言うと、サングラスに隠れて表情はよく分からなかったが、彼は、
「ハッピーチャイルド、気にしない」
と答えた。
シンタローは崖に向かって歩いていたが、籠を下ろし、不意にピタリと足を止めた。
「―――何か文句があんなら、コソコソしてねーで、出て来い」
と藪の方に向かって言うと、ガサガサと音がし、
「シンタローはーん・・・」
と、何やらおどろおどろしい様子のアラシヤマが道に出てきた。
「さっきの陰険な罠は何なんだヨ?道のど真ん中にあんなもん作んじゃねぇッツ!」
「アレは、腐れチワワを退治しようと・・・。って、そんなことよりもシンタローはんッツ!あの中年腹のオヤジは何なんどすかッツ!?」
「何って、誰だろーが何だろーが、オマエには関係ねーダロ?」
シンタローが、詰め寄ってきたアラシヤマに対してアッサリとそう言うと、アラシヤマは俯き、
「関係ない・・・。そうどすか」
と言った。
これで話は終わったのかと、アラシヤマに背を向け籠を背負おうとすると、不意に抱き寄せられ、片手を重ねて握られた。
「テメー、もう一回眼魔砲をくらいてーのか?今すぐ離せ」
「嫌どす。確かめなあかん事があるんどす」
アラシヤマは何とか逃れようとするシンタローを離さなかった。
「シンタローはん、今から質問しますけど答えてくれはります?もし嘘を言いはっても、掌の発汗でわかりますさかい、正直に答えておくんなはれ。ちなみに、逃げようとしはったら、あんさんが怖がってるんやと思いますえ?」
シンタローはアラシヤマの言葉にムッとしたのか、
「上等じゃねーか!」
と喧嘩腰に答えた。
「ほな、第一問どす。さっきの中年腹オヤジのこと、好きどすか?」
「テメーよりは、ずっと好き!」
しばらくアラシヤマは無言であったが、
「シンタローはん」
不意に呼びかけた。
「わては、あんさんが全部好きどすが、シンタローはんは、わてのことちょっとでも好きどすか?」
しばらく、シンタローは無言の後、
「・・・嫌いだ」
とようやく言った。
その返答を聞いたアラシヤマは、
「あんさん、やっぱり可愛いすぎますえ~vvv」
と非常に嬉しそうであった。
「あっ、ちなみに、掌の発汗の話は嘘どす♪」
「・・・」
「もしかして、信じはりました??」
シンタローは、アラシヤマの腕を振り解き、
「―――死にやがれッツ!!眼魔砲ッツ!!!」
眼魔砲を撃つと、伸びているアラシヤマの方を一瞥もせずに怒ったように去っていった。
「嫌いじゃなくて、大っ嫌いだかんな!金輪際俺の半径50メートル以内に近寄んなッツ!!!」
との訂正が遠くの方からなされたが、幸せそうに伸びているアラシヤマに聞こえていたかどうかは定かではなかった。
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