「遠征先より、マジック様からお電話です」
執事の言葉に、ただでさえ元々不機嫌なシンタローの眉間に一層濃い皺が寄る。
何日ぶりだろうか。あの男の声を聞くのは。
傍にいると喧しいし暑苦しいのに、いなければいないでイライラして何もかもが上手くいかない。
どうしてあんなアホ親父のために自分が振り回されなければならないんだ。
マジックのくせに。
シンタローは執事を追い払おうと『あっちへ行け』の動作を片手でやりながら無言で悪態をついた。
彼が部屋から出て行くと、満足げに椅子の背もたれに寄りかかって足を組んで読みかけの本に目を通す。
暫らく経ってからもう一度執事が部屋を訪れた。
ここまではシンタローも予想していたから、アイツはどんな言葉でオレを呼び出すつもりなのかと
興味深げに身を乗り出す。すると、執事は極めて淡々とした口調で
「『私の愛しいベイビーちゃんは居留守を決め込むつもりなのかな?』と、申しております。」
と、彼に言ってのけた。
何故そんな台詞を恥ずかしがらずに無表情で伝えられるのか不思議でたまらない。
シンタローはと言えば椅子から転げ落ちて床に突っ伏していた。
怒りにまかせて電話のところまで走ると、受話器を持って叫んだ。
「このクソ親父!」
「やっと出てきたね。
久しぶりだって言うのにどうしてシンタローはそんなに素っ気無い態度をとるのかな?
パパの声が聞きたくないのかい?」
悪びれた様子も見せずにいつもの調子で語りかける父親に肩がわななく。
ちょっとは疲れた様子でも見せやがれ!と、シンタローは思った。
「あーあー、別に望んじゃいなかったよ。
それより他所様に変な言葉を吹き込まないで下さい迷惑です。」
「変な言葉・・・?おかしいな。パパは日本語は愚か母国語含めて軽く8カ国語はペラペラのはずなんだけれど。
何か問題が?」
「オ、マ、エって何でそームカつく言い回ししかできねぇんだ?!
何が‘愛しのベイビーちゃん’だ!オレを幾つだと思ってやがるッ」
「‘ベイビー’は赤ん坊って意味じゃなくて、口説き文句で言ったんだよ。シンタロー」
マジックが軽く笑うと、シンタローは威勢良く‘アホか!’と怒鳴った。
「どこの世界に息子に向かって口説き文句を言う父親がいるっつぅんだよ!」
「ここにいるよ。」
「オマエ・・・頭どっか可笑しいんじゃねーの?いや、今さらだったか・・・。」
「そう、パパは狂ってる。
シンちゃんと話す時は、いつだってシンちゃんを口説くつもりで話しているからね。」
マジックの気違い染みた言動に、シンタローはますます頭に血を昇らせる。
だが、頬が紅いのは怒りのせいだけではない。
その事を認めたくなくて早く電話を切ってしまいたいのに
マジックはそうさせてくれなかった。
「もう、とっとと仕事戻れよ。暇じゃないんだろ?」
「おや、珍しいね。パパに気を遣ってくれているの?」
「~~~~切るぞ、良いな?」
「帰ったら一番に抱きしめるよ。」
独特の低い、掠れた声で告げられた言葉に
シンタローは返事をせずに受話器を置いた。
とんでもない親父だと呆れながら、その男に心を乱される自分が確かにいて
マジックの声が耳から離れてくれない。
シンタローは今日も眠れぬ夜を過ごす事になるだろう。
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