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6.糸   53*28


 


 


 


 


 


 「仕事だったんだから仕方ないだろ」


溜息とともに吐き出された言葉が疲れ切っているのは分かる。


実際ここ数日の彼は忙しくて、それが得意とは言い難いデスクワークが重なっているからだということも分かっている。


家に帰ることが出来ないほどではないにしろ、長時間座っているばかりの毎日に飽きているし、そんな風に思う自分を不甲斐ないと嫌悪してもいるのだろう。長引く会議の合間に煙草を持ってくるよう要求されたと零したグンマは、『勿論、渡してないけど』と付け加えることを忘れはしなかった。


誰にでも得手不得手はあって、彼にとってはそれが苦手なだけのこと。


慰めることは簡単だが、口にすれば意地を張ることが分かっているのでなにも言えなくなる。穏やかにいて欲しいのに、そんな自分が一番に追い詰める側に回ることは出来ない。


なんて厄介な子だろう。


なんて面倒なんだろう。


そして、なんて。


 


 「パパは、いつでもシンちゃんと一緒にいたいだけだよ」


 


なんて、愛しいのだろう。


 


 


 「…ばかじゃねぇの」


視線を逸らして呟いた横顔がほんのり赤くなっている。


近付いて、腕を取って、指を絡めて。


抱き寄せて抱き締めて口付けて。


欲しいのは言葉。


欲しいのは触れ合い。


欲しいのは思い。


欲しいのはすべて。


ほしいのは。


 


ほしいのは、いつだって。


 


 「父の日って、母の日よりあとに出来たんだよ」


 「へー」


 「男手ひとつで育てられた娘が、母親に感謝する日はあるのに、どうして父親に感謝を捧げる日がないのかって言いだしたのが起源なんだって」


 「…へー」


 「シンちゃんは私が育てたけど…でも、感謝されるようなことは、なにもしてないからね。嫌がられることの方が多いし」


 「自覚、あるんなら治せよ」


 「ははは、治せるならとっくにそうしてるって」


抱き締めれば大人しく腕の中にいてくれる、それが彼にとってどれほど大きなことか分かっているので、思う気持ちは強くなっていくばかりだ。


 「どうしたらシンちゃんと、片時でも離れないでいられるのかなぁ」


 「こんなウザイやつと四六時中一緒にいたら思考回路が焼き付く」


 「パパはお前と離れていると、糸の切れた操り人形になってしまうよ」


黙り込む。


 「そんなにパパのことが嫌なら、切れた糸をどこかに結びつけてしまえばいいのに。そうしたら二度とお前に近付けなくて、なにもかもから楽になれるのに」


跳ね上がる肩が傷付いたことを知らせてくる。


でも、彼から付けられる傷だって決して浅くはないのだ。


 「父の日だから感謝しろと言ってるんじゃないよ。ただ、待っていたんだ。お前の帰りを。帰ってきてくれるのを。待っていたんだよ、ずっと」


意地を張るから、だから手折ってしまいたくなる。


なにも見えないようにして、ただ縋らせたくなってしまう。


そんなの、望んでなどいないくせに。


そんな彼を手に入れたい訳では決してないのに。


 「私は…お前を、悲しませてばかりだ」


切れてしまえばいい。


本当に、糸など。


心など。


繋がりなど。


 「優しくされたいのに、憎まれることばかりしてしまう」


 「分かってる、なら…ああもうっ」


それまで大人しくしていたシンタローが、マジックの腕を振り払い正面に立った。


黒い瞳が輝いていて、棘のあるそれはこんな時でもとても美しかった。


 「拗ねるのは勝手だけど、そんなことくらいでここまで落ち込まれるのは迷惑だっ」


 「迷惑?私、シンタローにとってはそんなに無駄なもの?」


 「あーっ!ウザイ!はりきりウザっ!真夜中過ぎにめっちゃウザ!疲れて帰ってきたのにすっげぇウザ!!」


言いながら、伸ばされる腕。


自分を抱き締める腕。


愛するものの。


シンタローの。


 「一日遅れても、…まあ場合によっちゃ二日遅れても、ちゃんと父の日してやるから大人しくしてろ!」


 「パパ、感謝しろって言ってるんじゃないよ?」


 「うるせえ、とどのつまりは構って欲しいだけだろがっ」


 「…ばれてた?」


 「あんたはっ!…そういう奴だよ、ったく」


 


回した腕にぎゅっと力を籠めて、それからポイと放り出す。


掌で、ぺちん、と頬を叩かれた。


 「言っとくけどな、俺をこういう風に育てたのはあんただからな。恨むなら自分の教育方針を恨め」


 「うーん、そう言われると少しばかりパパが悪いのかなって気がしてきた」


 「アホウ」


 


 


 


二人でいたい。


いつだって“ひとつ”でありたい。


切れない絆をどんなときでも意識して、離れることはないと思いたいのだ。


どんなに細い糸であっても。


もしかしたら、自分自身の手で引きちぎることになるかも知れない脆い糸でも。


それでも。


 


きみを、求めているから。


 


 


 


 


END


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