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俺等一族は、実は吸血鬼だッ!!

って、言ってもよ、昼間は普通に生活できるし、寝るところは棺桶じゃなくてベッドの上。

ニンニクなんて、スパゲティに入れて喰ってるし、クリスチャンだから十字架も恐くねえ。

だったら、どこが吸血鬼かっていうとだな、長寿だし、人間の血を飲む。

長寿っていっても、成人するまでは普通に成長するし、人間の血なんて成人してから飲むもんで、それを飲んで初めて吸血鬼として認められる。

そこで、成長が止まるというよりかなり遅くなる。

あと、血を飲むって言っても、首の頸動脈に歯を突き立ててなんてものはしない。

まぁ、好きな人に対しては首から血を吸うけどな。

それは、まぁ、セックスみたいな物ではなくて、口付けのような儀式みたいなもの。

そんな一族に生まれた俺は、一族の長マジックの息子として生まれてきた。

親父は、今までの長の中でも優れた能力者で、闇の眷属の種族の中でも頂点に立つスッゲェ奴だ。

それなのに、俺ときたら一族の証の金髪も、青い瞳も持たない。

不信がる親戚を無視して、親父は俺を可愛がってくれた。

どがすぎるくらい。

けど、まぁ、イヤじゃなかった。

あいつとの、セックス以外はイヤじゃない。

しつこいんだよなぁ…。

それはそうと、今日、俺は成人式を迎える。

大人として体が出来上がった24歳に、その儀式を迎えることが許される。

なぜかって?

世の中のことを自分の眼で見て考えられる年にならねえと、その力で意味もなく人を殺してしまうからだ。

ほら、ガキがよく嫌いとか言うだろ?

いなくなっちゃえばいいのにって思って行動してみろ。

この世の中、死体だらけだぜ?

だから、大人になってから。

ちょっと前に、従兄のグンマが成人式を迎えた。

そいつは、金髪青眼で、頭のいいバカ。

父親が早くに蒸発(人間の女と駈け落ち)してからというもの、同族でもある一族お抱え主治医に育てられた。

特に甘いものがスキで、この前ウインナーコーヒーを作ってくれた時なんて、コーヒーの上に甘いホイップクレーム、コーヒーは粘り気のある甘さの物だった。

よく今まで、糖尿病にならなかったのか不思議なくらいだ。

さてと、俺の回想はここまで。

もうすぐ、成人式が始まるから、用意しねえとな。



今日は満月。

俺の成人式。

待ちに待った成人式。


「これで、俺も立派な吸血鬼になれるな」

「そうだね~。シンちゃんの、黒いマント姿格好いいだろうなぁ!」

グンマが黒いマントをひらひらさせながら、儀式前の俺にうれしいこと言ってくれるもんだから、ちょっと照れちまう。

それによ、グンマが今着ている黒いマントも、成人を迎えないと着ることができない。

色々決まりごとがあって、面倒だけどそれも吸血鬼だからこそ。

「ああ、早く時間がこねえかなぁ」

そんなことをぼやいた時、俺らのいる部屋をノックする音が聞こえた。

「シンちゃん、時間だよ」

親父の声が聞こえた。

「シンちゃん!」

グンマの眼が輝いていた。

「おう!」

俺も高鳴る鼓動を抑えることができない。

やっと、大人になれる!

どんなにこの日をまったことか。

俺は早く自立をして、親父のそばから離れたいんだ。

大人にならないと自分の身を守る力なんてねえし、自立できないしよ。

「いくぜ!」

俺はグンマの背中を強く叩いてドアを開けた。

「待ってよ!」

グンマが遅れて、あとをついてくる。

本当は、昔は、グンマが成人するまでは、これぐらいの力で背中を叩いていたら、グンマはむせていたのに今はなんともなのがすごくつらかった。





式が滞りなく行われ、後は俺が人間の血を飲むところまで来た。

ここが、一番の見せ場。

クライマックスだ!

この式を執り行なっているのは、一族の長でもある俺の親父で、式の合間に俺に小声で励ましたり、俺に血を捧げた女が憎いからさっき殺してしまったなんて言ってきては、俺の表情の変化を楽しんでいた。

「これより、シンタロー。お前は一族のものとしての証のため、この赤き水を飲み干し、一族の長である私に誓いをたてなさい」

金の杯に入れられた赤い血が、ゆらりと揺れながら俺の手のなかに収まった。

「さ、飲みなさい」

ゆっくりと口を近づけ、杯のなかの赤い水の芳香な匂いを胸いっぱいに吸い込んだとき、俺はある異変に気がついた。




気分が悪い。




おかしい。

親父の血をたまに飲んだりしたときは、確かに甘くおいしく、そして芳醇な香りに歯止めが利かないときもあった。

しかし、今、俺が手にしているのは人間の血。

同族の血よりも、甘いはずだというのに。

そんな俺の異変に、最初に気がついたのは親父だった。

「シンちゃん、そんなに緊張しなくていいんだよ」

小声でそっといわれ、俺は意を決してそれを飲んだ。

飲まないと大人にはなれない。

いや、飲もうとした。

「ぐっ!」

口の中に広がる、なんともいえない臭さとまずさに俺はその場で口に含んだものを吐き出した。

「げほっ!」

「シンちゃん!」

親父のあせった声と、式典に参列していた人達のざわめきが耳には届くんだが、体が言うことを利かない。

熱くて、痛くて、そして・・・

自分の正体を感じた。

白い羽が宙を舞い、親父の表情はどこか悲しそうで、俺はごめんとあやまっていた。

「いいよ、シンちゃん。シンちゃんが、天使でも女の子になっても、パパはゆるすよ」

俺は、白い羽を背に持った光の眷属だったんだ。

しかも、女の子。

後ろにいる野次馬たちから、歓声の声があがっていた。

そう、天使の血は最高の食事だから。






「この子の扱いについては、長である私が決めるッ!!異義あるものは、明日の朝聞く。それでは、失礼する」

親父は、座り込んでいる俺を抱き上げその場を去ろうとした。

「…待ってくださいッ!!」

この世の中で、親父に異議申し立てをできる奴なんていないと思っていた。

そんな命知らずな奴は誰なんだと、会場の方を見てみればグンマがいつものへらへら顔ではなく、引き締まった顔で俺等を見ている。

これが、吸血鬼の顔なんだと実感した。

「なんだい?」

それに律儀に答える親父だけど、すごく緊張しているのがひしひしと伝わってくる。

「叔父様、光の眷属を食料とすれば寿命がのびる。そして、一族に取り込めば繁栄と強き力を手に入れれるます。一族のために、あなたはどちらを選ぶのですか?」

辺りはシンと静まり返った。

親父は厳しい目でグンマを見ている。

「もし、取り込むと言うのでしたら、シンちゃんを僕のお嫁さんにしたいんです」

ぴくりと親父の肩が動いた。

周りの奴らは、それがいいと賛同し始めた。

「シンちゃんを僕にください!」

俺がグンマと結婚?

親父以外とセックスをすると言うのか?

「…イヤだ」

イヤだ。

「シンちゃん?」

絶対にイヤ。

「イヤだッ!!」

親父以外なんて、イヤだ。

何か溢れてくる力を、無我夢中で掻き集めグンマに向けて放った。

すごく眩しい光がグンマに向かって…


気がついたら、グンマは壁にのめりこんでいた。

俺は、無意識のうちに出していた右手をみつめた。

そこには今、大きな光を出した形跡はまったくない。

今のは一体何だったのか、考えるだけで体が震えてきた。

もしかしたら、この力は吸血鬼のものではなく光の眷属のものなのではないのかと。

そう考え出したら、きりがない。

かなりの高い可能性でそれなのだから。

ああ、誰か俺を助けてよ。


「シンちゃん、眼魔砲を打てるんだ・・・」

親父の驚いた声が聞こえてきた。

「は?」

そんな名前初めて聞いたぞ。

「何だよそれ?」

俺の質問にうれしそうな笑顔を浮かべながら、眼魔砲について説明をし始めた。

「私たち一族の、それも一部の者にしか使えない一族伝統の技だよ。当たり前のことながら、パパは使えるけど、グンちゃんはまったくてんでだめなんだよね。それにしても、シンちゃんが使えるだなんてパパ驚き桃の木山椒の木だな」

親父のその言葉に、俺は首を傾げた。

言っている意味が全くと言っていいほど判らないからだ。

「光の眷属のお前が、私たちの一族の秘儀を使えたということはお前は、私と同じヴァンパイアだよ。ただ、羽が付いているのは・・・お前の母さんのご先祖様が光の眷属だったのかもしれないね。すごく綺麗だよ。お前は、私たちのような黒よりも白が本当に似合う」

俺のこの羽のことをまったく気にしていないように話す親父が、すごく暖かくて、この人が俺を助けてくれる人なんだと実感した。

「しかも、女の子になっちゃうだなんて・・・・」

「父さん」

「ん?」

頬に手をやり、そっと口付けた。

「シンちゃん?」

「あんただけだと俺は思う」

そう、この世界にはあんただけ。

俺を助けてくれるのは。

「俺を・・・」

「ん?」

「父さんの妻にして」
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俺がまだ赤ん坊だった頃、この家の前に捨てられていた。

この家は、貴族のなかでも上級にあたり、所有している近郊にある葡萄畑から毎年採れる上質のワインは、王室の人々に愛され続けている。

だからなのであらうか、ここの家の住人全てが普通の人とは違った生活習慣をしていようが、誰も何も言わないのは。




「…アーメン」

俺は毎朝、主へのお祈りは欠かせない。

俺がこうして、今日まで生きてこれたのも主のお導きがあったからこそだ。

「毎朝、お祈り熱心だね」

背後から、優しい声が聞こえた。

「父さん。おはようございます」

後ろを振り返り、挨拶をすると、青い眼を細め笑う。

金髪に太陽の光が反射して、主のお姿に見間違えてしまう。

「ああ、お早よう」

この人は、ガンマ家当主マジック。

俺を拾い育ててくれた、父であり恩人でもある人。

「シンタロー、私は今から寝るよ」

「はい。お父さん、お休みなさ…」

習慣でもあるお休みの口付けを交わす。

「ん…ふぁ…、お休みなさい」

「…ん、お休み」

この家の主人でもあるマジックや召使達は皆、朝になると眠りにつき、日が沈むとともに目を覚ます。

貴族の暮らしは夜に開かれる、舞踏会や晩餐会が主流だからだとマジックは俺に言う。

小さい頃はその生活をしていたが、主へのお祈りを望む俺は、マジックに無理をいって普通の人が送る生活、太陽の目覚めとともに起き、太陽が沈むとともに眠りにつく生活をしている。

俺が毎朝お祈りを欠かせないのは、2年程ここの家から離れ、神父として学び、今では近くの小さな教会でミサを開いているからでもある。

俺が神父の道を進むことを、マジックは賛成しなかった。

どうしても行きたいという俺に、マジックは一つの条件を出してきた。

俺はその条件を、のんだ。

『24歳になったら、お前の全てを私のモノにするよ』

もうすぐ、24歳の誕生日になる。

全てをマジックのものにするということは、俺は俺でなくなるのか?

そんな不安と、別の感情が心の奥底に沸き上がる。

「ミサに行かないとな…」

全ての人が眠りにつき、静かになってしまった城内を一人歩き出す。



24歳の誕生日まで、後3日。

教会に行くため、あぜ道を歩きながら、道沿いに生えている雑草と分類される草花に、自然と目が行く。

普段の俺なら、習慣となったその行動のなかで、花々の美しさに心奪われていたのだが、今日は別のことが支配をしてしまい、花の美しさを感じることができなかった。

あと3日で俺のすべてが、父さんのものになるということが、頭のなかで渦を巻く。

体ならとっくの昔に、すべて奪われた。

心は体よりも前に、奪われていた。

自分に何が残っているのだろうと、自問自答を繰り返す。

神への祈りを辞めろといわれれえば、そんなもの何時だって辞めることができる。

ただ、あの人への気持ちが欲情となって暴走する己への、戒めなのだ。

今のような季節だった6年前、場内の人々が眠りに就いている真上に太陽が上った時、俺は眠っているあの人を襲った。

日が沈めば、次に日が顔を出すまで抱いてもらえると分かっているのに、体はあの人を求め、渇き、気が付けば飢えた獣のようにあの人の上にまたがっていた。

鏡に映る、乱れた己の姿が浅ましく、俺は神父になることを決意した。

神など、この世にはいない。

だが、己のなかの欲望を抑えるための道がそれしかなかったのだ。

「神父さま」

「今日も、お話して」

無邪気な子供が、俺の足にまとわり付く。

「…ああ、そうだね。…それじゃ、今日は何の話をしようか」










神の話など夢物語そのもの


現実は、苦悩ばかり


卑猥なものなどない、神の話


処女で神の子を宿した聖母


本当は誰の子だったのだろうか


真実を打ち明けられなかった聖母は、『聖母』と言えるのだろうか


『言葉は神の存在を語り、心は神の存在を否定している』

昔、その言葉を俺に言った奴がいる。

同じ寮だった彼は、学校内で常にNo.2の成績だった。

いつも一人で友達もおらず、暗く、そして心の強い男だった。

噂では悪魔信仰があるなど、事実と異なる噂を立てられていた。

そんな彼が俺に言った言葉が、的を得ていたなど、同寮達も予想がつかなかっただろう。

「…さ、今日のお話はここまでだ」

「はい。神父さま」

「ごきげんよう。神父さま」

「さようなら。神父さま」

「さようなら」

子供たちを見送る。

空を見上げれば、太陽は天高く輝いている。

この太陽が恨めしい。

早く、沈んでしまえ。

早く、闇になれ。

早く、あの人を起こしてくれ。

早く、父さん、俺を抱いてよ。

そのたくましい、腕で壊れるくらいに、俺を抱いて。




「お天道様を恨めしそうに、見てはりますな」

「ア、アラシヤマ?」


p3

そこは真っ白な世界。

俺がただ一人、ぽつんと立っているだけの世界。

そして、段々と俺の目の前に人影ができていく。

それは、知った人だった。

  「兄さんを怒らして、苦しめて、そんなに楽しいの?」

開口一番に、優しい声で冷たく言われた。

  「あなたに、言われたくない」

ふいっと、視線をはずしてもその人は必ず、俺の視界の真ん中に移動する。

  「兄さんは…犠牲者なんだ。それぐらい君だってわかっていたはずだろう!」

大きな声で言われ、それがどんな意味を含んでいるのか痛いほど分かっている俺の身体が、小さく震えた。

  「わかってる。だから・・・・」

冷たい瞳がなおも俺を射抜く。

  「なら、何故、兄さんを苦しめるんだ」

  「あなたも、同じだろ?俺は、親父が幸せになると思って、『シンタロー』を殺したんだっ!!」

冷たい瞳が、哀れみの色に変わる。

  「…シンタロー」

もう、その声には冷たさは感じられなかった。

  「その名前で呼ばないでください。俺には名前なんてないんです。“シンタロー”は、グンマかあなたの息子の名前だ」

  「…いいや。君がシンタローだ」

温かさを含んだ声が、俺の心に触れてくる。

  「いいえ、俺はただの『ダミー』です」

  「それでも、ここに来てしまった君は、どうするんだ?私のように、さ迷い歩くつもりか」

ここがどこか、いまいち分かっていない俺にそんな質問をしてくるなよ。

  「いいえ。俺は時機にに消滅しますよ」

  「?」

どうせ、ここはあの世とこの世の境目なんだろうけどさ。

  「もともと、無かったものですから」

驚愕に開く眼は、やはり綺麗な青い瞳だ。

  「それで君は、満足か?」

その瞳、親父と同じだな。

  「元に戻るだけです。そう、俺は無に帰るだけ」

  「まだだ」

搾り出すような声が、少しキンタローに似ている気がした。

  「いいえ、もうすぐです」

やっぱり、同じなんだな。

  「まだ、君の体は消滅していない」

子供っていうのは、どんなに親に似ていてもクローンではない。

  「時間の問題ですよ」

だから、違うところも持っているけど似ているところも持っている。

  「今、キンタローや高松が懸命に治療を施してくれている。君は帰るチャンスがあるんだ」

ふとしたところが、親に似るんだろうな。

  「…無理です」

親を知らなくても、親の仕草に似てくる。

それが、血の繋がりって奴なのかもしれない。

俺、似てねえや。

  「シンタロー」

  「俺自身が、もう無理」

うらやましいや。

  「何故?」

  「・・・だって、あの人の最後の言葉が、My hated Mr. vicarious victim(私の嫌いなダミーさん)だったから」

本当の親子なら、こんなこと言えるはずもねえ。

  「・・・」

  「永遠に眠れって言われちゃったんだ。俺、気にしていないように見えるかもしんねぇけど、本当は…今まで、信じていたんだ。愛してくれていると」

永遠になんて、酷すぎるだろ。

  「そうだね」

  「俺は、そんなつもりでこの世に生まれてきたんじゃないのに・・・」

生まれてこなければよかったなんて、この年で思いたくもなかった。

  「君は、頑張ったんだね」

  「誰も俺のこと認めていない」

この人の温かい言葉が、胸に染み渡ってくる。

  「もういいよ。君は頑張った。私よりも。そして、ほかの誰よりも」

嘘をついていない。

本心からそう、言ってくれている。

  「・・・ありがとう」

  「こちらこそ、ありがとう」

何だか、やっと落ち着けたって感じだ。

  「じゃ、行くね」

  「気をつけてね」

まっすぐ、この人の顔を見て笑った。

  「うん。さよなら。ルーザーおじさん」



続く




反省
ルーザーさんがいい人に~~








「ん・・・」

まぶしい。

白い光が、瞼に直接当たって痛い。

「あ、起きた!」

この声は、グンマ?

「キンちゃん!シンちゃんが起きたよ!」

嬉しそうに弾む声で、キンタローを呼ぶグンマの様子は、眼を開けなくとも分かってしまう。

「グンマ、それをいうなら目を覚ました、もしくは意識が戻ったといったほうが適切だと・・」

足音が近づいてくると同時に、キンタローの声も大きくなる。

「ぐ~」

それに、ゆっくりと眼を開けた。

白い天上が見えた。

そして、少し横を見れば半分眠りかけのグンマと、呆れ顔のキンタローがいた。

ああ、なんだ俺、生きてるんだ。

「やっと目が覚めたか。シンタロー、お前はどうして俺たちの肝を冷やかせるようなことばかりするんだ。もう少し総帥としての自覚を持って行動をしてほしい」

眉間に皺を寄せながら、いつものように話し始めるキンタローの目の下には、薄っすらと隈が浮かんでいた。

「・・・親父は?」

意識が戻って第一声がこれとは、心配してくれた従兄弟には申し訳ないが、仕方ないだろう。

「叔父貴は…」

珍しく、キンタローの歯切れの悪い言葉に、吉報ではない知らせが耳に入る覚悟をした。

「あまり、朗報といえるものではないのかも知れない」

キンタローは淡々と話し始めた。

もう少し話し方に抑揚をつけてほしいと思ったのは、時計の短針が一周したときだった。

「・・・それで叔父貴は、比叡山延暦寺に坐禅を組むといって、翌朝8時初の電車に乗り込むと言い出した。俺は、坐禅を本当に組むというのなら、禅宗の寺に決まっているだろうと言うと、叔父貴は曹洞宗のお寺に行くと言い、ついでに茶道をたしなんでこようといい始めた。そこで・・・」

「お前は、臨済宗が発祥だから福岡まで行ったほうがいいと助言したんだな?」

明るかった外は、真っ暗になってもこいつの話は止まない。

どうやら、自殺未遂した俺は運よくたまたま部屋に訪問したキンタローに発見され、すぐに手術を行い一命を取り留め、5日ほど意識不明だったということだ。

親父は、意識不明の俺を目の前にして、初めて後悔し始め、このゆがんだ気持ちを正すのは滝に打たれればと思ったらしい。

そして、キンタローの要らぬ世話のオンパレード。

12時間と30分。

やっと、話は俺が意識不明になって3日まで進んだ。

あと2日。

聞くのがだるい。

「そうだ、それで・・・・」

まだ進むのか・・・。

「叔父貴は、ジャンを・・・・」

そこで、キンタローの言葉がとまった。

俺に気を使ってんだろう。

だというなら、ジャンに何かあったということが。

「いいから、進めろよ」

「ああ、叔父貴はジャンを・・・・・・・殺した」



「は?」



冗談だろと聞けば、首を横に振られた。

「すべての元凶はジャンであって、シンタローではないと言って、ジャンを殺した」

そんな、おかしいだろ?

原因なんてジャンではないことは明白だ。

「とめなかったのか?」

「皆、賛同した」

俺に気を使って言っているのか。

冗談だろ。

あれだけ、手に入れたかったジャンを簡単に殺せるはずないだろう。

「夢に親父が、俺の親父が出てきたんだ。皆の夢の中に。お前と父さんが話している夢が・・・。それを見て、最初は反対していた皆が賛成し始めた」

あの会話が?

「お前が、マジック叔父貴のことが大好きでたまらないと泣きじゃくっていた。そして、ダミーといわれたのがショックでたまらないから、消えてやるとダダをこねていた」

そんな風に見えたのか?

あれが?

まあ、そんな風にも見えるのかもしれないな。

「安心しろ。皆、お前の味方だ」

なにか、都合がよすぎないか?

ジャンを親父が殺した。

皆が味方?

都合がよすぎる。

そのとき、ドアを叩く音とが聞こえた。

「入るよ」

親父の声が聞こえた。

「シンちゃん、久しぶりというべきなのかな?それとも、謝ったほうがいいのかな?」

そういいながら、前と変わらぬ笑顔で親父が入ってきた。

「親父・・・」

「ごめんね」

そう言って、俺が横たわるベッドに腰掛けた。

「俺は退室する。何かあったら呼んでくれ」

キンタローは俺に気を使っているのか、それともマジックに使っているのか、話を途中で切り上げ眠りこけているグンマを抱えあげ、そのまま部屋を出て行った。

都合、良すぎるよな?

「シンちゃん」

親父が俺のほほをなでる。

優しい手。

そして、以前感じた殺意は微塵も感じられなかった。

あるのは、俺に対するあふれんばかりの愛情。

ジャンを見ていた、あの瞳。

「ごめんね。お前がいなくなってから、私はお前に対する感情を再認識させられた。本当にお前のことを愛しているのだと・・」

都合よすぎるよ。

ねえ、ルーザーおじさん。

あんた、何かしただろう。

「シンタロー、お前が許してくれるというなら、私は一生をかけてお前を愛し、罪を償うよ」

違う。

あんたはそんな風になれない人間だ。

都合が良すぎる。

これは俺が作り出した、もしくはルーザーおじさんが作り出した、幻想の世界だ。

俺を苦しめないように作られた。

「シンタロー」

「違う!違う!違う!」

「シンちゃん?」

こんなの、違う。

「こんなの絶対、違う!親父はこんな風に俺を見ない!キンタローも、誰もかも俺を味方じゃない!」

「シンタロー!」

俺は逃げたかった。

望んでいたのは、こんな世界かもしれない。

だけど、嘘で作り上げられた世界なんて要らない。

だから、眼魔砲で窓を壊し、そんな俺をとめる「あの人」に似た幻想の世界の親父の腕を振り払い、俺は窓から飛び降りた。

予想通り、ここは一族専用の医療ルーム。

冗談抜きで地上20階の高さからのダイブ。

「シンタロー!」


悲痛な叫び声に、俺は笑った。


偽りの世界だったとしても、そんな風に呼ばれるの嬉しいからさ。


ばいばい。






    「なぜ、戻ってきた」


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とても軽くなった頭。

やはり違和感が残るが、それでもそんなことを微塵も態度に出すことなく、俺は親父の執務室に向かって歩いていた。

いつもの赤いジャケットは脱ぎ、白衣を羽織って。

「あ、ジャン博士」

「おぅ~」

誰もが俺をジャンと思い、声をかけてくる。

「ジャン博士、先日のあのメカ、美観的にどうかと思う意見がありますよ」

「ははははは! あれは、芸術品なんだよ!」

それに、あいつらしいすっごい馬鹿みたいな救いようのない笑顔で応じながら、鳥肌をたてつつ親父の執務室の前まで来た。

「死にそう・・・いや、ちょっと死に掛けた・・・」

涙があふれ出そうになるが、そこは男だから何とか堪える。

「よし」

今日は、ジャンはまだ上る時間ではないので、鉢合わせの可能性はまずないだろう。

それは、さっきグンマにも確認済みだ。

高鳴る心臓を押さえるため、小さく深呼吸をしドアをノックする。

ドアの右に設置されているドーム型の小型カメラが、ぐるりと回転し俺の姿を捕らえると、ロックの解除音と共にドアが自動的に開いた。

「どうしたんだい?」

何度か訪れたことのあるその部屋の窓際に設置されたデスクに、すまし顔で微笑む親父がいた。

いつものピンク色のジャケットに身を包み、大き目の椅子に深々と座り俺を見ている。

そんな姿が様になるのは、悔しいがさまになっている。

「今日は、仕事が早く終わったので」

「ふふふ・・、可愛いことを言う」

そう言うと、椅子から立ち上がり俺のいるところまでゆっくりと歩いてくる。

「愛しい、ジャン。そんなに私を煽らないでおくれ。どこかに押し込めたくなる」

俺の目の前に夏と、前髪を一房つままれ、何をするのか不思議に思いただ無表情にそれを見ていると、段々と顔が近づいてくる。

それをするのが当たり前のように、そこに口付けが落とされた。

「お前だけを、愛しているよ」

正直驚いて、表情に出したかった。

何とか必死に堪えながら、親父を見つめる。

だって、髪に口付けなんてされたことがなかった。

そんなに、熱を帯びた目で見つめられることなんてなかった。

「ジャン、愛してる」

俺は、段々自分が誰だか分からなくなってくる。

その口から、囁かれる他人への始めて聞く感情の篭もった愛の告白。

一瞬自分のことかと錯覚してしまったが、親父の瞳に写っている俺に、否応無しに現実に引き戻される。

それは、どう見てもジャンそのものだった。

「シンタローは、いいんですか?」

微笑みながら、親父の首に両腕を回す。

「おや、妬いているのかい?」

その質問に俺は、なるべく余裕ぶった笑みを浮かべながら、小さく頷く。

「こう見えても、ナイーブなんですよ」

親父は満足そうに笑い、そして俺の腰に腕を回してきた。

「私をた試すのは、やめなさい」

ばれたのかと、思ったがそれは思い違いだった。

「何度もいうが、私はお前そっくりなあの子を、殺したいほど・・・憎い。そして、邪魔な存在だよ」

その言葉に、俺はゆっくりと瞼を閉じた。

「ああ、貴方は本当に・・・・」

暗くなったその世界にあるのは、ただの闇だけだった。



続く



反省
暗いくらい、暗くするのは大好きよ~~






「ジャン、嫌なことを思い出させるね」

その声にゆっくりと瞼を上げると、青い瞳が冷く憎悪でぎらぎらと光る。

「その、ぎらぎらした眼・・・・とてもいいですよ」

その視線の先にあるのは、俺の幻影なのだろう。

どれほど憎んでいるのか、良く分かる。

「憎すぎて、憎すぎてたまらない。殺してしまいたいが、お前と同じ顔だから私の手では殺せない・・・・」

憎くても、最愛の人の顔だから殺せないのだと、その声は甘く囁く。

ジャンの顔だから、今まで殺せなかったその真実に、俺は悲しくはなかった。

「じゃあ、俺が貴方の代わりに『シンタロー』を殺して差し上げます」





グンマが俺に笑って言った。

「お父様は、シンちゃんのことが大好きだね」

キンタローが気難しそうな表情で言った。

「叔父貴は、お前のことしか頭に無いみたいだ」

コタローが呆れ顔で言った。

「パパったら、お兄ちゃんのことばっか」

サービスおじさんが微笑み囁いた。

「兄さんは、お前に出会って変わったよ」

ハーレムが酒の席で酒瓶片手に叫んだ。

「アニキはお前に甘い!!」

高松が小さく溜息をつきながら漏らした。

「マジック様は相変わらず貴方だけですね」

ジャンが余裕たっぷりの笑みで宣言した。

「どうしても、手に入れたかったんだろう」




俺は、ジャンのその言葉の意味を取り違えていたことを、今になってようやく気がついた。

あいつが言っていたのは、俺のことではなく、あいつ自身のことだったなんて。

何故、あのときのあの笑みで気がつかなかったんだ。

息子でなかったとしても、親父の愛情が俺だけのものだと、なんでそんな風に思っていたんだろう。

俺を見るあの瞳は、殺意が篭もっていたなんて、何故気がつかなかったんだ。

みんなが嫌いだと、昔のコタローが言った。

世間も良く知らなかったから、そんなことを言っていたのだと、今は笑って話している。

だがな、今の俺はその通りだと思う。

だって、そうだろう?

今の俺は、皆が嫌いだ。

そして、俺自身も嫌いだ。





続く


反省
1話、1話が短くてスイマセン





お前の言葉に、賛同している俺だけど、コタロー、お前も嫌いなんだ。

俺の求めていたものを生まれてきたときから、持っている。

生まれた当初は、可愛い弟って思ってた。

時がたつにつれ、お前が幽閉されたことを知った時、俺はお前を幽閉した親父を憎んでいたが、それ以上にお前自身に対して嫉妬に狂いそうになった。

お前は苦しい思いをしなくても、親父の子として認められ、そして親父から特別扱いを受けている。

それが許せなかった。

そして、俺自身の秘密を知ってしまって、さらにお前がいやになった。

俺にもあると信じていた、『血族』の称号。

親父からの、愛情。

だから、コタロー。

今の俺は、死ぬほどお前が嫌いんだよ。

だけど、そんな素振りを僅かでも見せれば、親父が俺を嫌いになるかもしれない。

だから、俺はいい子ぶってお前を好きだと言ってあげるよ。

鼻血だって、本当は殺したいほど憎いこの怒りの血潮が、鼻から血液を流すだけ。

「あの人」を真似たこの、方法。

うまく言っていると思わないか?



「シンちゃんは、本当にコタローが好きだね」

「ああ」

「パパのほうを選んでくれたっていいのに…」

「嫌だよ」

「シンちゃんのいけず」

ほら、親父が鼻血を出している。

けどね、それは俺が憎いから。

体中の血液が煮えたぎっているから。

手に入れることができなかった、ジャンを俺と重ねているから。

だから本当は、「あの人」はコタローが大好きなんだよ。

だって、自分と同じものを持った身内だぜ?

血のつながりを大切にする、青の一族だ。

部外者で愛されるのは、ほんとまれなこと。

俺はあの島の一件以来、血のつながりが消え親父のなかでは嫌悪の対象に入っていたことぐらい、本当は分かっていたさ。



「シンちゃん、愛してるよ」



戯言。

皆を騙すための、言葉。

以前のように振舞うため、わざとそんなことを口にする。

嫌っている俺に、囁く言葉。

もう、うんざりだ。

こんなに苦しい思いをしたって、どうしても手に入らないものがあることぐらい俺だって分かっているさ。

だから、あの時の俺は親父に『シンタロー』を殺してやるって、約束したんだ。

まさに、滑稽な話だよな。

俺を俺が殺してやるって、約束するなんて。

あのときの親父の顔ったら、とっても嬉しそうに微笑んで「それなら、是非見学したいね」なんていいやがって。

別に、いいさ。

どうせ、俺の命はあの時にパプワ島で消える運命だったんだ。

だから、今消えたって誰も文句は言わないだろう。


続く


反省
暗い・・・・ってか、精神的に病みすぎな感じが・・・






「シンちゃんは、パパに愛してるって言ってくれないの?」

あれから数日たった夜、親父が俺のベッドの上でいつもの口癖を漏らした。

裸のままそのまま眠りに入ろうかとしていた俺は、身体の疲れに逆らうことなくその話題を早く切り上げるべく、いつものような返事を返そうかと思ったが、ふと思い立って空いていた口を閉じた。

ここで、愛していると答えたら、親父はどんな風になるんだろう。

怒り狂う?

それとも、喜んだふり?

言ってあげようかな。

どんな風になるのか、見てみたい。

だから、言ってあげるよ。

「愛しているよ。父さん」

だって、もう、疲れたんだ。

  「シン・・・・タ・・・・」

そんなに震えなくてもいいのに。

疲れすぎたんだよ。

あなたの本心を知ってもなお、貴方を愛して、そして戯言に振り回される日々が。

  「俺の、返事はそんなに嫌だった?」

あなたの殺気に満ちた瞳に、毎日に睨まれるのが。

疲れたんだ。

  「イヤだな、嬉しいよ・・・」

一生懸命、嘘をつく。

予定外の言葉に、貴方は動揺を隠せないまま。

  「俺のこと嫌いだったのに?」

  「・・・・知っていたのか」

いつの間にか震えていた声は、平静を取り戻していた。

  「知っていたよ」


あなたを愛していると答えたら、

・・・あなたは、俺の感情を殺してくれるから。

終わりにしよう。

このふざけた物語を。

秘石に操られた俺の人生を。


ゆっくりと、頭につけていた鬘をはずし、親父のその冷たい瞳に視線を合わせ笑ってやった。

「あんたにとって俺は、殺したいほど憎く、そして邪魔な存在なんだろ?」

カツラをベッドから床に落とす音と共に、部屋の空気が重たいものに変わっていく。

「でも、俺は愛してるよ」

「ジャンと同じ顔で、違うお前が言うな…」

低い声で否定をする。

   「でも、愛しているんだ」

顔も、髪型もジャンそのもので、でも中身が違うから否定される。

「それを言うな!」

それでも俺は、本当にあなたを愛してしまったから。

「誰よりも、あなただけを愛して・・・」

どんなに貴方が俺を、憎んでいてもこの気持ちは奪えない。

「SILENCE!」

だから、その気持ちまでも否定されたら、俺は存在できないんだ。

「愛してる」

「When not stopping the chattering, I kill you.(そのお喋りを止めないと、私はお前を殺すよ)」

親父の口から出た殺意の篭もったその言葉に、俺は笑いながら首を横に振った。

「ダメだよ。でも、愛していることは否定しないで欲しい」

   「It will kill if wanting to die.」

すごく恐い顔で俺を見ている。

「ダメだ。それじゃ、約束が守れない」

その言葉に、すごい恐い顔だった親父の表情が少しだけ、和らいだ気がした。

   「シンタロー?」

いや、ただ驚いているだけなんだろうけど。

それでも、俺にはそんな風に映ってしまう。

   「約束だから、あんたに俺を殺させない」

あの時、親父に約束をした。

俺が、親父の代わりに『シンタロー』を殺してあげるって。

そう、約束したのを、もう忘れてしまっているのかな。

   「俺、約束だけは守るから」

枕の下に隠し持っていたナイフを取り出し、そして首元に当てた。

   「シンタロー」

一生懸命、俺にできるとびっきりの笑顔を作りながら、それをゆっくり頚動脈のある皮膚に差し込んでいく。

ぶつっと嫌な感触と音が同時に頭の中に響いてくるが、それにかまわず刃を進めていくと、身体が急に熱くなってくる。

   「今まで、生かしてくれて、ありがとう」

一気にその刃を、横に進めれば色んなものが切れて、そして肺に入り込んでくる。

咽たいが、咽ることもできない。

熱くなった身体は、流れ出るものと同時に冷たくなっていく。

一生懸命、笑顔のまま親父を見つめていると、あいつは笑っていた。

   「Good-bye. Eternal sleep.
My hated Mr. vicarious victim」


親父の最後に聞いた声


あんたらしいよ、でもさ、


よかった。


あんたに、看取ってもらえて。


最高の、幸せモノじゃん。


もう、疲れきっていたけどさ、


最後にいいことあった


別れの言葉は、酷かったけど、


もう、苦しまなくていいから


だから、気にしないさ


世界が段々霞んでいって、


真っ赤な世界が広がって、


そして暗くなった。


ああ、俺は死ねたんだ。


そして、俺はやっと“無”に帰れるのか。




続く




反省
元々は、マジックがシンタローを殺すシーンでした。
ってか、自害かよ。

りお様ごめんなさい。

なんか、違う話のように感じてしまうかもしれません。

ゴメンナサイ。
p1

「ジャン」

布のこすれる音。

何をしているのか、分かってしまう音に、耳を塞げないままの俺。

「あぁ、マジック様」

荒い息遣いで、相手の名前を呼ぶ黒髪の男。

その息遣いは、知っている。

「あああ、そんな・・・」

頬を高揚させ、潤んだ瞳は相手を誘う武器。

同じものを、俺も持っているから良く分かる。

「ふふ・・、お前は本当に可愛いね」

その色香にワザと引っかかった振りをする。

俺のときも、そうするから。

「もっと・・ああ、そこ」

背を仰け反らせながら、相手を奥へ奥へと誘うその姿はまるで娼婦そのもの。

俺も、そうだから・・・・。




俺はそれ以上見ることができず、その扉を閉じた。




朝は、イヤでも毎日訪れてしまう。

けたたましい音で起床時間を知らせる時計のスイッチを押し、その五月蝿い音を止めた。

長い髪が、体中に纏わりついてくる感触に、眉を寄せる。

夢なんて覚えてもいないが、どうも夢身が悪かったのだろう。

張り付いた髪を取ろうと、額に手をやれば大量の汗がその甲についた。

「最悪だ・・・・」

なんとなくではあるが、薄々分かっていたことが本当だったという確証を得ただけだというのに、どうしてこんなに胸が痛むんだ。

起きたくなかった。

起きて、台所にいる親父に合いたくなかった。

「シンちゃ~ん、朝だよ~」

日課となったその声に、溜息を吐いてしまう。

仕方なく朝食に向かうべく、汗を流すため浴室に向かった。








「シンちゃん!パパね頑張ったよ~」

朝食の時間、テーブルの上には、いつものように和食の朝食が用意されていた。

そして起きてきた俺に、ピンク色の声で話しかけてくる。

「うるせえ」

それに、いつもの態度で、いつもの言葉で返し、手に持っていたジャケットを椅子の背にかけると、俺は自分の席に座った。

「ひどい」

ぶつぶつといいながら、俺の前に温かい白いご飯と、味噌汁と配膳をしながら、また「ひどいよ」と呟かれた。

それを無視しながら、手を合わせ「いただきます」と一言言えば相手は上機嫌になり、ニコニコ笑顔で俺の顔を見つめてくる。

テーブルには、俺と親父だけ。

グンマたちは、いつも気を遣って俺よりも先に朝食を済ませているので、このテーブルで皆が集まって朝食をとったことはなかった。

「シンちゃんて、酷い子だね~。パパ、悲しいな」

無視を決め込みながら、箸を動かす。

「鬼~、意地悪~」

いつもの態度に小さく溜息を吐き、まだ食べかけだった食事を前に、食べる気などとうの昔に失せてしまった俺は、持っていた箸をテーブルに置き席を立つ。

「ごっそさん」

「あれ、もういいの?」

全く食べていない食事に、親父の眉間に皺がよる。

少し、眼の色が冷たくなった気がした。

「ああ」

「悲しいよ、パパが一生懸命作ったのに・・・・」

泣きまねを始めようと準備をし始めたため、俺はこのままかかわりを避けるためさっさと仕事に向かうことにした。

椅子の背にかけてあったジャケットを取り、「いってきます」と小さな声で挨拶をして部屋を出た。

背後では親父が五月蝿く「残すなんて、ひどいよう~」と泣きまねをする声が、ドアを閉めるまで聞こえた。




続く



反省
・・・・味噌汁のみたい。







仕事をしている時間が、今の俺にとって一番幸せなのかもしれない。

余計なことを、考えなくて済む。

昨晩、たまには俺のほうから誘ってやろうかと、俺らしくないことをふいに思いついた。

親父の部屋に乗り込んで驚かし、いつものすました表情を崩したまま、そのまま立ち去ってやるのも良いし、それからなし崩しにやってもいいなと、意気揚々向かった部屋。

気配も消して、音も立てずに開けたドアの向こうには、すでに親父の上に俺がいた。

いや、『俺』であって『俺』ではない、誰か。

俺を支えていた足元の、何かが、全部崩れ落ちた。

それは繊細な雨細工よりもろく、親父の存在で何とか俺を形成していたもの。

それに名前をつけるなら、『無償の愛情』。

それに対する無意識の依存。

いや、当たり前だった。

どんなに俺が、ジャンと同じ顔だからと言って、親父は俺がいる限りジャンのほうなんて、見向きもしないと安心していた。

だって、俺は血がつながっていなくても、24年間は本当の親子として生活していたんだから。

周りがあきれるぐらい、可愛がられて、愛されて育ってきたはずだ。



「総帥、本日はこれぐらいで」

秘書のティラミスが俺が判を押した書類を抱え、「今日はお仕事がかなりはかどりましたので、ご褒美ですよ」と、どちらが上司か分からないことを微笑みながら言ってきた。

「いや、もう少し・・・・」

このまま部屋に戻りたくなかった俺は、いつもなら山のように溜まっている書類を捜したのだが、それが全く見当たらない。

「総帥が全部片付けたので、我々もすることがほとんど無くなってしまったんですよ」

チョコレートロマンスが苦笑している。

「そっか」

いつも残業をさせている秘書達も、今日は珍しく定時に上がれるという期待に目を光らせている。

そんな期待に応えないのも悪い気がして、俺は定時前に上がった。

予定では、今日も残業だったから、親父も俺が今終わっているということ知らないはず。

そんなことを考えた俺の脳裏に、ふと悪魔の囁きが聞こえた。

『あれを試せ』と。

前々から考えていた、『あれ』。

裏切ることになるかもしれない行為が、怖かくてできなかった。

だが俺の土台が亡くなった今、怖いものなんて何もない。

今の心が痛むこの状況で、ただ何もせずそこにいることができなかった。




つづく



反省
暗いくらい・・・





それは、準備が必要なこと。

準備といったって、大それたものではなくとても簡単なものだ。

俺のちっぽけな『自尊心』をゴミ箱に捨て、少し大きめの手鏡とハサミを準備し、あとは白衣を着るぐらいで十分。

それを実行に移すため、総帥室から出た俺は高松のところに立ち寄り、グンマからハサミと手鏡、あとは白衣を借りた。

「前髪が邪魔だから、切るっていうのはよく分かるけど、何で白衣が必要なの?」

「お前も大人になったら、わかんだよ」

それ以上聞くなと、頭を軽く叩いてその部屋を後にする。

そのまま、一般団員用に設けられたトレーニングルーム横のシャワー室に忍び込み、誰も使用していないことを確認すると、そのまま一番奥の個室に入った。

ここまで上手くいくと、なんだか見られているのではないかという錯覚に陥ってしまう。

「考えすぎか」

自虐的な笑みが出てしまうのは、精神的にどん底まで落ちている今を考えれば仕方のないことだ。

「さて・・・」

誰かが来る前に、早く行動に移そうと手に持っていた手鏡とハサミを見つめた。

「・・・・ったく、バカらしいよな」

親父が好きだといってくれた髪。

少し伸びたときから邪魔になり、何度も切ろうと思ったが、親父が「とても、好きだから切らないで欲しい」とそんな戯言に心躍らされ、今まで伸ばしてきた。

  
  『邪魔なんだよ』

  『パパは、シンちゃんの髪が好きだよ』

  『俺が、いやなの』

  『ダメ、このまま伸ばして。ね?』


それは、結局ジャンと見分けがつくためだったんだろ?

「信じて、いたんだ・・・ずっと・・・・」

俺であるための土台でもある、この髪。

「だから、だから、俺は・・・・」

そう思いたくないから、俺は親父を試す。

「ゴメン、父さん」

そして、自分の髪を一房掴みそれに鋏の歯を当てた。

「・・・・・・さよなら、だな。自分」

鏡の中の俺は、今まで見てきた己の顔の中で、一番酷いものだった。





続く


反省




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