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sss

全く、ソイツはロクでもないことしか教えねえ。

コイツもコイツだ。俺はそんなことに付き合う暇は、ねえんだよ!







髪結い亭主








以上の意味を目一杯込めて睨む俺を、2組の青い瞳が、これまた、じとっとねめつけている。

同じ青でも微妙に色合いが異なる。例えて表現するならば、空の青と海の青だろうか。

そして、それらが含む感情も、2者で違う。

先刻から、じーっと俺を、正しくは俺の髪を、穴が開くほどに見つめる海の青。一点集中した熱視線が痛いんですけど。

ハゲたら、どうしてくれる。オマエのそれは秘石眼だから、シャレになんねえんだよ!

「・・・ンだよ。オメーだって、そんな暇はねえだろうーが!!」

苛立たしげに怒号すれば、デカイ図体が肩を落とした。

コイツは俺と対照的に、ほとんど感情を表立てしない。急速な教育の賜物だろうが、元々、素質もあったのだろう。

4年前は大差なかったのに、何とも劇的な変身だ。

そういうことで、一見、動じていないようだが、悄然とした内心は、俺にはわかる。

俺だけではない。一族と教育を施したドクターには、この微妙な変化が読める。

「シンちゃん! そういう言い方ってないでしょ! 子供の意欲を削ぐようなこと、言っちゃいけないんだよ!」

空の青が、育児書に掲載されるような文句で援護する。

・・・誰が子供なんだよ。オマエより、どう見たってデカイじゃねえか・・・。

というか、オマエ、育児書読んでんのか?

と、突っ込みたいところを、ぐっと耐えた。

確かに、そこの大男は外見は立派な紳士だが、中身は幼児だ。どんなに仕事ができようと、素晴らしい論文を書こうと、実生活面は4歳児だ。

天才と何とかは紙一重とは、良く言ったものだと思う。何しろここには、実例がふたりもいるのだ。

そのふたりが、揃って俺に無理難題を仕掛けてきた。

「あのなあ・・・キンタローのしたいことをさせるのは構わねえけどな、俺を巻き込むな。」

もういい。怒鳴っても堪えないコイツらだ。

所詮、天才様の思考回路は、凡人の俺には理解できねえよ。

とにかく、ここは穏便に引き下がってもらおうと、やんわり断った。

しかし、

「だってシンちゃんじゃないと適任者がいないんだもん。」

ねー、と、可愛らしく小首を曲げて隣人に同意を求めれば、相手も、これまたこくりと頷く。

おいおい。28歳の男の仕草じゃねえよ・・・。

話を戻して、コイツらの難題の条件を鑑みれば、俺は範囲内だ。うん、確かに。

だがしかし、俺だけではない。他にもいる。

「何も俺だけじゃねえだろ? それなら――ドクターにでも頼めよ。あの人なら鼻血出して喜ぶぜ。」

言った後で、あまりにもリアルに想像できて、自己発言ながら、げんなりとした。

ところが、すかさず反論がある。

「高松はダメだよ。拗ねちゃって、僕たちに会ってくれないもん。」

ああ、そういえばそうだったな。オマエらにお払い箱にされて、ここを出たんだったな。

研究所に篭ったとか何とか、サービス叔父様が言ってたっけ。

えーと、叔父様と同い年だから――47歳か。

いくら鼻血を垂れ流すくらいに溺愛するコイツらから用無しと言い渡されたからって、いい年したオッサンが拗ねんなよ。

待てよ。サービス叔父様も47歳・・・見えねえなあ。いつまでも綺麗だよな、叔父様――。

思考があらぬ方向へ飛んでいた俺を、ぼそりと零された言葉が現実に引き戻した。

「俺は、シンタローがいい・・・。」

控えめながら、しっかりとした主張の先には、大型犬がいた。

耳を垂れさせ、同じく垂れた尻尾が、ぱたんぱたんと床を叩く。

澄んだ青い目が構って欲しいと語っている――。

ああ、もう!

その命令待ちの犬のツラはよせと、いつも言っているのに――その表情に俺が弱いことを知った上での計算とわかっているのに――折れるしかねえじゃねーか!

重い溜息を吐き、決心して言ってやった。決心――というより、自棄だな。

「・・・仕事が溜まっているから、俺は休まねーぞ。だから、じっと大人しく協力、なんてしねえ。

それでよけりゃ、勝手にしろ。」

言い終わった後、少し後悔した。

キンタロー・・・何つー顔すんだよ。目を細めて、僅かに口元を綻ばせて。

グンマの、如何にも笑顔、とは違うが、滅多に見せない穏やかなそれが、却って歓喜を伝えている。

何か・・・こっちが照れる。

自制しようにも勝手に熱くなる頬を見られたくなく、椅子を回して身体ごとそっぽを向ければ、

「よかったねー、キンちゃん。」

と、能天気な声音が背後からした。

――どうやら気づかれなかったようだ。

ほっと胸を撫で下ろしていると、ふわり、髪を持ち上げられる感覚がした。

丁寧に、適度に引っ張り梳かれるそれは意外にも心地よく、思わず身を任せそうになる。

渋々承知した手前、そんなことはおくびにも出さず、むっつりと手にした紙面を追う視界の端で、金色がちらちらと揺れている。

キンタローは真後ろに陣取り、グンマが左隣に立って指導しているのだ。

「・・・オマエで充分、事足りてるんじゃねーのか? 何で俺を使うんだよ?」

頭は動かさず、上目遣いで示した金糸は、普段の巻き髪ではなく緩やかに波打っている。

指導者は自前を教材に提供したと言った。だったら、今もそれを使えよ。

俺の質問は至極当然だと思ったが、

「今回はレベルアップを目指して、ふたつに結い上げるの。これはバランスが難しいからね、僕も見えるほうがいいんだよ。」

・・・何の為のレベルアップなんだよ。

何事も出来ないよりは出来たほうがいいとは思うが、これが出来たからといって、オマエは何を得るというんだよ? キンタロー。

脱力感に心の中で突っ込んだ。が、またしても別の意味での追い討ちが俺を襲う。

「それにね、キンちゃんがシンちゃんの髪に触りたいって。」

なっ・・・!

絶句――今の心情を表すならば、この一言に尽きる。

何でわざわざ――疑問が思考を席巻し、書類の内容なんか、ちっとも頭に入ってこない。

触りたいって・・・そんなの、いつだって――。

触れているじゃないかと心内で続けた途端、状況も脳裏に浮かんで、もうその後は思考すらも止めたくなった。

そんな俺の葛藤を他所に、ふたりは頭上で「こうか?」だの「そうそう。あ、そっち側、少し崩れているよ。」だの、勝手に盛り上がっている。

それが、寧ろ救いだった。とにかく今は構わないで欲しい。

頬ばかりでなく顔全体赤くなっていると自覚しているのだ。絶対気づいてくれるな。

心持ち俯いて書類に没頭しているポーズを取る。左頭上から、くすりと笑う音がした気もするが、ただひたすら時間が過ぎることを願った。







それは、ものの10分程度だったろうが、俺には随分と長く感じられた。

「出来た。」

後方から満足げな声と弄られていた感触が無くなったことで、終了だとわかる。

「わー。キンちゃん、上手に出来たねえ。」

喜ぶグンマの姿は、幼子を褒める親だな。

俺も、漸くこの忍耐とおさらばのようで嬉しいぞ。

「ところで、俺はどんな頭になってんだよ?」

この頃には平静に戻っていたので、素直に気になる事柄を訊いた。

いやに頭頂が重い。自分ではあまり髪を上げないからな。

「はい。」

と、眼前に差し出された鏡を覗く――これは――熊、か?

熊の耳のように、ふたつのだんごが天辺に乗っかっている。――いや、そこから一部下ろしてあるな。

「セーラー○―ンにしてみました。シンちゃん、髪長いから、全部結うのは大変なんだよね。」

・・・セー○―ムーン・・・。

一拍後、俺は机に突っ伏した。何が悲しくて、ガンマ団総帥が美少女戦士にならなきゃならんのだ・・・。

心でさめざめと泣く俺はどうでもいいらしく、ふたりの話題は、キンタローの作品に向いている。

「キンちゃんは本当に器用だねー。これなら美容師になれるよ。『髪結いの亭主』だねっ。」

「それは違うぞ。グンマ。

『髪結い』は、妻に掛かるんだ。『髪結いの亭主』は、妻が美容師なんだぞ。」

「え? そーなの? じゃあキンちゃんは、『髪結い亭主』?」

何とも、のどかで馬鹿馬鹿しい会話が繰り広げられている。

『髪結いの亭主』でも『髪結い亭主』でも何でもいいから、早く帰れ・・・。

怒る気も失せている俺だったが、続くグンマのとんでもない発言に、気力を取り戻した。

というより、何だそれは!?

「で、シンちゃんが『髪結いの奥さん』だ。」

「はあ!?」

がばり跳ね起きた俺を、「あ、起きた。」などと呑気に構えるオマエの脳内、見せてみろ!

「どういう根拠なんだよ!」

噛みつく俺も何のその、逆に反論が心外とばかりに、むっと眉根を寄せる。

「だってシンちゃん、ご飯作ってくれるし、お洗濯もお掃除も上手だよ?」

「・・・そりゃ『奥さん』じゃなくて、『お母さん』だ・・・。」

やっぱりコイツはバカだ。天才と何とかの、何とかだ・・・。

激しく脱力しつつ訂正してやった。けれども、納得いかない表情のまま、何か言いたそうにしている。

不服だってのか? だったら、俺が充分納得できる理由を言ってみろよ。

「・・・何だ? 文句あるか?」

多少凄みをつけて促せば、もごもごと歯切れ悪く切り出した。

「んー・・・とね――。」

さっと先程の鏡を取り出し、再度俺が映るように見せる。

これが何だ? 別におかしい――いや、確かに髪型は笑えるが、まさかこれが理由ってワケじゃねーよな。

疑問一杯の自分の顔を眺めていると、つい、と首筋に指が当てられる像が映った。

「ここ。赤いよ?」



!!

瞬時に察した。慌てて手を宛がい隠すも、後の祭りだ。

声も出せずに見やるグンマは、苦笑いを返している。

「シンちゃん、気をつけなよ? 総帥服って襟合わせが開いているから、割合見えるんだよね。首とか胸元とか。

まあ、これはシンちゃんだけじゃなくて、キンちゃんも注意してね。」

「ああ、以後気をつける。」

傍から見ると、子供を窘めているようなんだが――なんだが、どうしてそんなに平常でいられるんだよ、オマエら!

特に、キンタロー!! 半分はオマエにも責任あンだぞ!!

ギッと睨みつける俺の視線に気づいたのか、

「そんなに怒るな。今後注意すればいいだろう。」

――って、何、澄ましてんだっ!!

殴ってやりたい衝動に駆られるが、それよりも先に確認しておかなくてはならないことがある。

出来れば知りたくないのだが、それで平然としていられるわけねえ。

「・・・グンマ・・・俺と・・・その、キンタローのことなんだが・・・オマエの他に、気づいているヤツは――。」

このときの俺は、とてつもなく情けない顔をしていることだろう。でも、背に腹は変えられない。

頼むから、コイツだけであって欲しいと藁をも縋る思いが、実に無残にも、最悪の事態であることを直後に知る。

「先刻も言った通りに、シンちゃん、丸見えなんだもん。近くにいる人は粗方気づいているんじゃない?

相手が誰だかわからなくてもさ、ふたりの雰囲気で、何となあ~くって。」

「以心伝心、熟年夫婦って感じだもんね。」と呆気らかんに答える兄が憎い。

いや、元はと言えば迂闊な自身が悪い。それとキンタロー。

ああ、そうさ。誰が悪いわけじゃない――だがな・・・ぎゃーっっ!!



私は貝になりたい・・・。

現実逃避を始めた俺の耳に、最も嫌な事実が。

「お父様も知っているよ。

『子供なんて、大きくなったら親よりも好きな男を選ぶもんだねえ。』って、この前、僕に泣きついてきたもの。」

親父・・・それは娘の場合に使うセリフじゃ・・・。

「そうか。では、マジック伯父貴にきちんと挨拶しないといけないな。こういうことは、けじめが大事だからな。」

天然も、そこまでくれば立派だぜ・・・キンタロー・・・。

全てがどうでもいいと投げやりな気分に陥った俺は、思考を無理やり停止させた。

「シンタロー!?」

「シンちゃん!?」

真っ白い視界の中で呼ばれているようだが、何もかも放棄して、ただただ、この悪夢から逃れる為に、強制的に眠りに落ちていった。












目覚めたときは、見慣れた天井、自分の部屋だった。

「目が覚めたか。」

振ってきた声に首を巡らすと、ベッドサイドに腰掛けた、薄闇の中でも仄かに輝く金髪が目に入った。

「驚いたぞ。急に倒れるから何事かと思ってな。軽い疲労だそうだ。休養をとれば、直に治る。」

「キンタロー・・・今、何時だ?」

「夜の7時を回ったばかりだ。」

げっ。まだ仕事終わってねえよ。今からなら、まだ間に合うな。

もぞもぞと起き出す俺の背に手が添えられる。病人ではないが、こういう気遣いは少し嬉しい。

だが、上半身を起こしきったところで、やんわりと肩を押さえられた。

「決裁のことならば心配しなくていい。俺が済ませておいた。

さすがに総帥でないといけないものは残してあるがな、微々たるものだ。」

コイツは俺の考えを読み取ることが出来る。24年間共にあったのだから、俺の思考パターンがわかるらしい。

それにしても、あの短時間で終わらせたというのか。グンマと一緒にやって来たのは、夕方に差し掛かった時刻だった。

あんなに幼稚な面があっても、仕事となると、その能力は凌駕している。

「そっか・・・サンキュ。」

一安心した俺の目の前に、骨太い指が翳される。ぼんやりと眺めていると、それが横にスライドして暗い視界が幾分明るくなった。

それで、顔に掛かった髪が払われたのだと理解した。

さすがに今は、あのふざけた髪型ではなく、いつもの下ろし髪になっている。指はそのまま身体に沿って髪を撫でながら下りていった。

意識を手放した後は、コイツが運んでくれたのだろうか。あ、グンマかもな。あのバカ力があるから。

しかし、疲労というより、心労だよなあ。

グンマの爆弾発言から時間が経ったおかげで、何とか冷静になれる。

覆水、盆に帰らずで、対処しようにも、もうどうしようもないのだと諦めの境地ができた。

遠くに目線を投げていると、不意に抱き締められた。包み込むように優しく、かといって逃れられるほど緩くはなく。

「根を詰めるな。倒れたときは、どうしようかと思ったぞ。」

肩口に顔を埋めて呟く声。

詰め込みで、こなしていることは認めるが、倒れたのは、それが原因ではない。

原因の半分でもあるこの男に真相を言ってやりたい気もしたが、心底案じている態度に、心に押し留め微笑して答えた。

「ああ、悪かった。」

こちらも腕を回して、広い背中をあやすように叩く。すると、ますます抱く力が増し、その手はゆっくりと上下した。

まるで俺の存在を確かめる如く。



不安――なんだろう。俺にも覚えがある。

コイツの中身と同じ年の頃、父親は絶対の存在だった。今はあんなアーパー親父でも、決して揺るぎなく堂々と立っている。そんな存在だったのだ。

その父が過労で倒れたことがあり、そのときの不安は筆舌できない程。

自分の世界が、自分を支えてくれているものが崩れてしまうと幼心に恐怖したのだ。

『キンちゃんにとって、シンちゃんはお母さんなんだよね。文字通り、シンちゃんから生まれたんだものね。』

いつだったか、そうグンマが比喩するのに、「馬鹿言ってんじゃねえ!」と一蹴したものだが、そうなんだろうなとも、おぼろげに納得した。

まだキンタローの世界は、俺という『母体』から独立できないでいるのだろう。

それでも、これでコイツの精神が安定するのなら、易いものだな――。



気が済むまで好きにさせていたが、ふと思いついた。

「・・・なあ。」

「・・・何だ?」

未だに緩めず動く腕は、撫でるというより髪を梳く状態になっている。それで、思い出したのだが。

「・・・オマエ、俺の髪に触りたいってグンマが言っていたよな? 何で改まって、そう言ったんだ? いつも――今だって触っているだろうが。」

あのときは、その質問をすれば自ずと俺たちの関係を暴露することに繋がる為、敢えて噤んだが、ずっと引っ掛かっていた。

今ここでなら、第三者に聞かれる心配はない。

尤も、先程もそれは杞憂に過ぎなかった。何しろ、第3の男は全てお見通しだったのだから。

そのことで、未練がましくも、ほんの少し溜息を漏らし、返答を待つ。

それが、ある意味墓穴を掘る結果になることとは。

「・・・いつもじゃない。」

小さく、囁きに近い答えが切ない色を含んでいると取れたのは、気のせいだろうか。

「は? 何言ってんだ? そりゃ・・・毎日ってワケじゃねーけど、結構・・・夜には・・・。」

ダメだ。これ以上言えない。如何に濁らせた表現だろうと、内容は、はしたない。

恥ずかしさに言葉を止めた俺を、再びキンタローが否定する。

「夜、だけだ。」

「え?」

「夜だけしか、こうしてオマエを抱き締められない。触れさせてくれない。

昼間少しでも触ろうものなら、オマエは避けるだろう?」



「あっ――!」

――たりめーだ!! 何処で誰が見てんのか、わかんねーんだぞ!

只でさえ、前回(「兄と弟」参照)のことがあンだぞ!

もっと恐ろしくおぞましい噂が立つに決まっているだろーが!!



以上を一気に捲し立ててやろうかと、身じろいで相手の顔を覗き込めば――大型犬がいた。

飼い主の勘気を感じ取って、気落ちしている犬だ。

俺はこの怒りを、大きな大きな溜息に変えて消し去るしかなかった。

「・・・あー、その、何だ。・・・仕事中は拙いけどよ、それ以外なら・・・な。あ、でも人前は止めろよ。」

譲歩しつつも釘を刺すことは忘れない。が、それでもまだ不満らしく、耳が垂れ下がったまま。

どうしろってんだよ! これでも破格の条件なんだぜ!

もうコイツの我儘に付き合ってらんねーよ。甘やかすとつけ上がる、この4歳児に。

子供相手に大人気ないと言いたきゃ、言え。ここで負けてたまるかと、俺は睨みつけ、強固な態度を示した。

すると、

「髪・・・。」

ぽつり零れた単語。

「髪?」

コイツは研究や仕事に関しては雄弁になるが、基本的にボキャブラリーが少ない。それは感情を伝える術が、発展途上である裏付けだ。

鸚鵡返しに問えば、俺の黒髪を一房掴んだ。

「オマエの髪を、毎朝俺に整えさせてくれないか? グンマが上手いと褒めてくれたから、腕は保証済だ。

それくらい、いいだろう?」

グンマの保証・・・ねえ・・・。

何だか怪しげだが、実際に目にした俺も器用なものだと感心した。まあ、ただ梳くだけに、腕も何もありゃしないのだが。

それに、実は俺くらいの長さになると、梳くだけでも結構厄介だったりする。他人にやってもらえれば、有難いといえば、有難い。

「別にいいけどな。あんなふざけた髪型にしないのならな。」

快諾したときのコイツの顔といったら――またあの笑みを浮かべる。

不覚にも見惚れているうちに、視界がゆっくりと動いて――キンタローの背後に天井が見えるんですけど。

「おっ、おいっ!!」

いつの間に乗り上がっているんだ!? つーか、この体勢はっ! って、待て待てっ!!

「俺っ、まだメシ食ってねえっ!!」

「安心しろ。俺もだ。」

何を安心しろってんだよ! こんなときまでテキパキと動きやがって! こらっ、脱がせんなっ!

必死で暴れていると、ぴたりキンタローの手が止まった。



不審に思い、見上げたそこには、見捨てないでと訴える犬の目と、ダメ押しの一言。

「嫌か・・・?」

~~~!!

わかっていて、わざと逃げ場のない訊き方してるだろ!!

そう言われて、俺が肯定するわけないと、コイツは確信している。しかもご丁寧に、俺の弱点をついた演技まで入れてやがる。

そこまで読めていながら拒絶できない自分が、恨めしいやら情けないやら。

「・・・痕、つけんなよ?」

意趣返しに今後の最重要事項を突きつけておく。

けれども、

「見えないところなら構わんだろう?」

と言い返してきやがった。

あーもー、生意気だな。自我が目覚める年頃だからな。第一次反抗期ってやつか?

軽く睨んでも、口端は笑みを象ってしまう。これでは効果なしだな。

無駄な抵抗は止め了承の意で瞼を閉じる際に、俺の目は、返すキンタローの微笑みと、ぱたぱたと忙しなく揺れる尻尾を捉えていた。








次の日から、俺に『髪結い亭主』が出来た。










この話は、びぃどろ広場のうりうさほ里さんが描かれた従兄弟マンガが元ネタです。

グンマがキンタローに三つ編みを教えたという内容なのですが、最終的な被害はシンタローへ(笑)

それを見て、ネタが浮かびました。

うりうさん、ありがとうございます~vv







そして、おまけ。その頃の親子

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