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 もう結構前のことになる、リキッドに付き合ってくれと言われたのは。
 あまりに唐突だったので最初は冗談かとも思ったが、考えてみれば彼がそんな冗談を言えるはずがない。けれど本気だとしたらそれはそれで、どんな返事をすれば良いのか分からなかった。
 だからそのときは適当に誤魔化してしまったのだけれど。
 それ以来、リキッドはあのときと同じような言葉を一度も口にしていない。やはり冗談だったのか、それとももう諦めたのか。
 多分、どちらも違う。
 催促して得る答えに意味がないことを分かっていて、何も言わずにただ大人しく返事を待っているのだろう。何事もなかったような顔をして、今まで通りに暮らしながら。


 正直、シンタローは困っていた。


 気にしないことにしようと思っても気になってしまう。平然としているリキッドが本当はいつも自分の返事を待っているのだと思うと、それだけで自分の方が落ち着いていられなくなってしまう。
 絶対に表には出さないけれど。
 最近はいつの間にかリキッドのことばかり考えている。その事実が腹立たしい。


 付き合ってくれと言われたあの日と同じように、パプワとチャッピーが出掛けてしまって家にリキッドと二人きりになった。そしてやはりあの日と同じように、リキッドは一人で皿を洗っている。
 床に座ってその様子を眺めていたシンタローは、意を決したようにその背に声を掛けた。
「なあ」
 短い呼び掛けにリキッドは皿を洗う手を止め、律儀に流していた水も止めてから振り向いて返事をする。
「何すか、シンタローさん」
 呼び掛けに応える嬉しそうな顔はいつも通り。シンタローは一瞬躊躇ったような間を置いてから、それでも出来る限り何でもない事のように話を切り出した。
「オマエこないだ、付き合ってくれって言ったよな?」
 途端、リキッドは更に笑みを深める。
「覚えててくれたんですか?嬉しいッす!」
「……俺がそんなに物忘れ酷いように見えんのか?」
「あッ、すみません!そういう意味じゃ……!」
 声を低くすれば慌てて弁解する。シンタローは呆れたように溜息を吐いた。
 今のリキッドの慌て方に呆れたわけではない。
 あんな風に言われて忘れるはずがないだろう、と思ったからだ。
 ストレートな言葉は嫌でも印象に残ってしまうし、実際リキッドはシンタローに忘れさせないためにそういう告白の仕方をしたのだろう。それも多分、計算ではなく天然で。
 こういうタイプが一番厄介だ、と思ってしまう。
「まあいいや。それで一つ訊きたいんだけどよ、オマエは俺と付き合って何がしたいワケ?」
 それでも余計なことを考えるのは止めて、本題の問いを口にした。本来リキッドの言葉に答えを返す立場なのは自分の方だけれど、その前に確かめておきたいことがある。それによって自分の答えも変わってくるのだから。
「え、何って……」
「だって俺達ってその辺の恋人同士なんかよりよっぽど一緒にいる時間長いんだぜ。これ以上どうしたいんだ?」
 不思議そうな顔をするリキッドに更に言葉を続ける。
 付き合ってくれと言うリキッドが一体何を求めているのか、それがシンタローには分からなかった。
 もし彼の求めているものが自分にはどうすることも出来ないようなものだったとしたら、付き合ってみたとしても良いことなんて何もないだろうと思う。自分は今のところ彼に何も求めてはいないけれど、実際に付き合ってみた後で期待外れだったというような反応をされるのだけは困る。
「でも一緒に住んでても夫婦っていうよりは嫁と姑ッすよね……」
 問いに答えず、リキッドはやや情けない表情でそう呟いた。会話が成立していないこととあまりに唐突な単語の入った言葉に苛立って、シンタローはリキッドに手の平を向ける。
「夫婦みたいだなんて一言も言ってねぇよ」
「すんません、調子に乗り過ぎました」
 このままでは眼魔砲が飛んでくると判断して、リキッドは即座に土下座した。
 シンタローは溜息を吐いて手を下ろす。
「で、どうしたいのか言ってみろよ」
 同じ問いを繰り返すと、誤魔化せないことを悟ったらしいリキッドは少しだけ困ったように笑った。
「そッすねー……デートとかしてみたいッす」
「デート?」
「俺としてはランドとか行くのが理想的ッすね!」
「オマエはこの島の番人だろーが」
 聞き返しても嬉しそうに続けるリキッドに、シンタローは呆れたように苦笑を浮かべる。パプワ島の番人である彼が、この島から出られるはずがないのだ。
「ええ、だからただの夢なんすけど――」
 当然、そんなことはリキッド本人も分かっている。落ち込むわけでも反発するわけでもなく笑ったまま、漸く本当の答えが返される。
「本当は、シンタローさんが恋人になってくれたらそれだけで充分だと思ってます」
 贅沢な望みがあるわけではなく、今まで通り一緒にいられて、そして少しだけ特別な存在になれたら良い。
 その言葉にシンタローは黙って立ち上がり、リキッドの隣で徐に蛇口を捻って残りの皿を洗い始めた。
「し、シンタローさん?そんなの俺がやりま……」
「これが終わったら俺達も散歩に行こーぜ」
 突然のことに困惑しながらも慌てて止めようとするリキッドに対し、シンタローは振り向くこともなくそう告げる。真意が分からず、リキッドは不思議そうな顔をした。
「シンタローさん……?」
「付き合ってやるよ。出掛けんのはパプワ島内限定だけどな」
 相変わらず目を合わせることもなく、まるで日常会話の中の一言のようにあっさりと告げられた言葉。けれどそれは、確かにずっと待っていたシンタローからの返事だ。
 リキッドは一瞬思考が停止したかのように固まったが、すぐに我に返って勢い良くシンタローの顔を覗き込む。
「ほッ、ほんとですか!?」
「こんなことで嘘なんか吐くか!だからオメーもさっさと皿洗え!」
「はッ、はい!今すぐにッ!」
 リキッドが慌てて皿を洗い始めた後も、シンタローはリキッドの方を見ようとはしなかった。自分の言葉に動揺してしまっている、今の表情を絶対に見られたくないと思う。
 けれど、告げた答えに後悔はない。
 そして彼ならば、これからも自分に後悔をさせることはないだろうと信じている。

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