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※シンちゃん、かわいそうです。




『シンタロー君。君、本当にマジック様の子供かい?』

入学式の次の日、これから始まる学校生活に大きな期待と、希望と、不安をランドセルに入れ込め真新しいそれを背負い、ウキウキ気分で行った小学校。

すごくドキドキしながら楽しみにしていた最初の授業。

それは、自己紹介。

最初の子が顔を真っ赤にさせながら、その自己紹介は始まった。

自分も上手に自己紹介ができるのか不安になりながらも、順番をまつ。

シンタローの順番が回ってきたのは、それから程なくしての事だった。

心臓がはじけそうなほどドキドキしながら、クラスのみんなの前で自分の名前と父親が誰かを言った時、担任の先生からそんなことを言われた。

僕は、その先生の表情が
イヤだった。

泣きたくなった。

けど、我慢したんだ。

だって、パパの子供だから。

ガンマ団総帥マジックの息子だから。

『似てないね』

言われたくない一言。

それで、僕は学校が嫌いになった。

先生ともう顔を、合わしたくない。

教室のみんなも、いやな表情で僕を見てくるんだ。

嘘つきって、言ってくる。

嘘なんてついてないって言ったら、それが嘘だと言われた。






その日僕は、一人家に帰った。







一緒に帰る友達なんて、できなかった。





僕は嘘つきだから。






部屋に行って、ランドセルを机の上に置く。

教室よりも広い、僕だけの部屋。

自慢の部屋。

だけど、今はそれがすごく淋しかった。

独りぼっち。






「シンちゃん、学校どうだった?」

夕食の時、パパがそんなことを聞いてきた。

食事がうまく喉を通らないのに、そんなこと聞いてこないでよ。

「…もう、行きたくない」

同じテーブルに付いているグンマが、口の周りを真っ白にして「何で?」って聞いてくる。

パパも同じように、聞いてくる。


『似ているね』


同じがイヤだ。


「クソガキ、おまえいじめられたのか?」

今日、たまたま帰ってきた獅子舞も聞いてくる。


『同じだよ』


獅子舞も同じ。

だから、止めてほしかった。

「いじめ…ですか。グンマ様を、入学させなくてよかったです。可愛いグンマ様だったら、いじめの標的になるやもしれませんッ!!」


『ほら、おかしいよ』


おかしい。

すごく。

鼻血を垂らしながら、高松が言う言葉に、僕はたまたまあることに気が付いた。

「パパ…」

「なんだい?」

やさしい笑顔のパパ。


『青い目をした男』


僕と全然、似ていないパパ。

「グンマはなんで、小学校に行かないの?」


『騙されないで』


「高松が、ダメだっていうからね」


『その人は…』


頭のいいパパ。

「何で、グンマはお出かけするときも、遊ぶときも警護がつくの?僕にはつかないよ?」


『嘘つきだから』


「高松が、心配性だからね」

僕が言いたいこと、わかっているよね。

「グンマは何で……」

「シンちゃん、それ以上は言わないでおくれ。グンちゃんは、パパがいないから高松が過保護に…」

すべて、高松のせい?

僕に警護が付かないのも?

僕は、ガンマ団総帥の息子なんだよ。

「高松が可愛がっているから、僕よりも後からお菓子を食べるの?遊具で遊ぶときも、車に乗るときも、家に入るのも…何で僕、グンマより先なの…グンマは何でも、僕よりも後からなのッ!?」

ほら、パパがいつもと同じこと言うよ。

「それは、シンちゃんがパパの息子だから何でも一番に…」

いつも、同じだ。


『息子じゃないのに、息子と言うよ』


「同じ答えばかり、みんな、みんな、いつもッ!!本当は皆して、僕のことパパの子供って思ってないんでしょッ!?ほら見てよッ!!髪の毛は真っ黒で、パパと似ているところなんて一つもないじゃんッ!!僕はパパが、どこかの施設から貰ってきた子供なんでしょ?だったら、その施設に帰してよッ!!本当のパパとママに会わせてよッ!!」

止まらなくなった僕の口を止めたのは、獅子舞だった。

ほっぺたが痛かった。

「お前な、兄貴がどんな思いでお前を育ててきたと、思ってるんだよッ!!一番苦しいのは、お前じゃなくて兄貴なんだぜッ!!」

真っ赤な顔の獅子舞。


『その人は僕を見てくれない人』


パパの方を見ると、冷たい眼で僕を見ている。

知らないパパ。

「シンタロー、この話は止めよう」

否定しないんだ。

「…やっぱ、グンマがパパの本当の子供なんだ?」

「違うよ」

「違わない!だったらなぜ、僕は黒いのッ?パパの子供じゃないんでしょ?だったら、僕なんか施設にでも預けて、グンマを息子にしちゃえばいいじゃんかッ!!グンマ、パパにそっくりだよッ!!」

ナフキンをパパに投げ付け、僕は走って部屋を出た。

誰も、呼び止めなかった。

名前、呼んでくれなかった。







僕はガンマ団を抜け出して、一人で町を歩いていた。

居場所なんて、なかったから。

周りを見れば、親子連れがいっぱいいる。

皆、顔のどこかが似ている。

羨ましい。

『僕はいつも一人』

そう、いつも一人なんだ。

ガンマ団のなかにいても、僕をパパの息子と表面では扱ってくれるけど、僕がいなくなった後、すぐに僕はパパの子供じゃないって噂していることくらい知っている。

だけど、信じていたかった。

パパを。

僕は気が付いたら、古ぼけた教会の前にいた。

確か、教会は身なし子や虐待により親元を離れた子、家出をした子達を保護してくれたはず。

僕も受け入れてくれるかな?

重たいドアを、ゆっくりと開けた。



ここから、僕の新しい人生が始まることを祈って…。



「シンタロー、あなたは本気なのですか?」

その声に振り替えると、俺の育ての親でもある神父様が、荷造りをしている俺を心配そうに見ていた。

「本気です。これ以上、ガンマ団にこの国を壊されたくないんです」

「そうですか」

ここはもともと、小さな、平和な国だった。

ガンマ団支部があっても、この国を占領などしなかった。

しかし、18年前状況が一変した。

今まで占領などする気配がなかったガンマ団は、力のない国民に銃を向けた。

小さな軍事力もないこの国は、その侵略攻撃に半年もせずに降伏宣言をした。

そんな情けない首相に市民は怒り、ゲリラ戦が度々起きていた。

そして、俺は今年24歳になるのを機に、ゲリラ隊に入ることを決めた。

「この国を守りたいんですッ!!」

「‥わかりました。あなたのその情熱は、私の愛するこの国を守りたいと、あなたの愛するこの国を元に戻すための戦いへ赴く兵士としての、ものなのですね」

「はい」

勝つ自信はない。

だけど、ここで俺等が戦わないと、あの金髪の悪魔にこの国民は根絶やしにされてしまう。

「それでは戦場へ行ってしまう貴方の贐に少し、昔の話をしましょうか?」

神父さまのその暖かい心遣いに、胸が熱くなった。

まるで、本当の父親のように旅立つ俺に、小さかった頃の俺の話をしてくれると言うんだ。

「…あなたは、そう、18年前、ここの教会の扉を開いたのです」






小一時間、昔話に俺等は花を咲かせていた。

懐かしかった。

楽しかった。

暖かかった。

昔、俺が暖かさを望んで扉を開いたここには、その暖かさがある。

両親がいない俺が、望んで、恋い焦がれた暖かさ。

「それでは、昔話はこのぐらいでお開きにしましょう」

明日は早いのですから、お休みなさいと、言い残して神父さまは部屋からでていった。


「お休みなさい」


そして、今までありがとうございました。


ゲリラ隊に参加した俺に待っているのは、死のみだけど後悔はしないから。





夢の中で悲鳴が聞こえた。

これは夢だってわかっている俺がいる。

部屋のなかにいるのに、すごく体がふわふわしていた。

ドアを開けて、悲鳴のしたほうに行くと、あの‘G’の腕章を付けた男が俺に気付いて、銃口を向けてくる。

なにか大声で言っているのに、何を言っているのか分からない。

だから、俺は…

「…ぅ、夢?」

目を開けば、見慣れた天井。

「やっぱ、夢か―」

部屋を見回した俺は、我が目を疑った。

「おはようと言うべきかな?」

あの、金髪の悪魔がそこにいた。

「マジックッ!!」

憎しみをこめ睨み付けるが、相手はそんな俺を無視するかのように、近くにいた部下だと思われる男に何か指示を出したあと、品定めをするかのような冷たい視線で俺を見る。

「威勢がいいね」

人を馬鹿にしたようなしゃべり方に腹が立つ。

腕を動かしたいのに、体が思うように動かない。

青い冷たい瞳から、言いようのない圧力が感じられる。

あれが、噂に聞く秘石眼か。

「そんなところは、昔と変わっていないね」

昔?

何を言っているんだこいつは。

俺は、初めて会ったというのに。

「覚えていないという顔だね」

「俺は、あんたなんか知らない!」

青い瞳が怪しく光る。

「知らない?」

「ああ、知らない!」

男の表情から、笑みが消えた。

「お前を探すために、どれだけの人間が犠牲になっていると思っているんだい?」

私もその一人だよと、うなるような低い声で囁き、動くことを忘れた俺の上にのしかかってきた。

「知らないものは、知らない!」

「ほう?」

頭の中で警告音が鳴り響いている。

男が言っていることを何か思い出さないと、やばい。

だけど、思い出すことができない。

「お前を探すために、私は12の国をつぶしたよ。お前と同じような子供をすべて、殺していったよ。お前と同じ、黒い髪の人間を根絶やしにしていったよ。お前が憎いから…。私の元から逃げおおせたお前がね…」

言っている意味がわかんない。

何故、俺のせいで?

この男と俺の接点がわからない。

「憎い憎いと思っていたのに、実際本人に会ってみるとどうしてこう、愛おしいと思えるのか。お前は昔から、私の心をかき乱すんだろうね」

憎いなら、殺せというと、男は笑った。

「殺すはずがないだろう。私の可愛い坊や」


こいつが父親?

接点が、類似点がねえ。

頭が思うようにうごかない。


抵抗する気力を失ったそんな俺を、男はあの笑みを絶やすことなく犯した。

「愛しているよ」

そう、男は俺の耳元で囁いた。

熱い塊が俺の中で暴れながら、そんなことを言うものだから頭のなかがおかしくなっていく。

「あ…、もぅ…むりぃ」

「まだだよ。シンタロー、もっとお前を味合わせておくれ」

動きがだんだんと早くなっていく。

何か、熱いものがこみ上げて、目頭が熱くなる。

「ひゃ・・、いやぁ…」

「何が、嫌なんだい?本当は嬉しいくせに」

あれから、どれくらい時が過ぎたんだろう。

あの教会から連れ出された俺は、ガンマ団本部のこいつの部屋で犯され続けていた。

行為の途中で、神父さまの生首を見せ付けられた。

教会を燃やしたとも聞かされた。

涙があふれて、前が見えなかった。

何故、俺なんだと何度も自問自答した。

答えはこの目の前の悪魔が持っているというのに、聞くことが出来ない。

この男は絶対的権力者の力で、俺をねじ伏せる。

親子だなんてうそだ。

俺にはそんな力なんて無い。

髪の色だって全然違うじゃないか・・・・。

顔だって似てない。

 『本当は、グンマがパパの本当の子供なんだ!』

グンマ?

 『マジック様に似てないね』

似てない?

 『何故、いつも僕ばかりが最初なの?』

いつも?

 『僕はパパの子供なのに、警護の人なんて―』




 思い出した



 俺は、こいつの子供として育てられた・・・・。


 遠い昔に。


「シンタロー・・」

甘い囁きが耳をくすぐる。

思い出してしまったことを、この男に告げてもいいのだろうか。

それとも、告げないほうが俺にとって幸せなのではないだろうか。

「愛してるよ」

こいつの言っていることは、嘘の塊。

信じたら死んでしまう。

「お前だけだ」



 「うそ・・・つ・・・き」


自然ともれた言葉に、男は笑っていた。





「思い出したんだね?」

嬉しそうに笑う、悪魔。

「私がどれだけお前を、愛しているのかわかっただろう?」

「あんたは、うそつきだ!俺はアンタの子供じゃねえ!昔、アンタは俺を影武者として扱ってじゃねえか!それが実子に対するものか?愛してる?いい加減にしろ、俺はあんたなんてただの悪魔にしか思えねえ!」

その悪魔の腕から逃れるため、俺は暴れた。

だが、その腕の力は強く逃げ出すことを許さなかった。

「また、逃げるのかい?」

笑っている。

こいつ、頭おかしい。

「離せ!」

「手を離したらお前はどこかに行ってしまう」

話が通じない。

「それとも、また見つけ出して捕まえて欲しいのかい?」

国を潰して行きながらお前を探し出すよと、耳元で囁かれたとき何故か俺は笑っていた。

「楽しそうだね、シンタロー?」

楽しいのか?

嬉しいのか?

「何か良いことあったのかい?」




 『この世界が、僕とパパだけになってしまえば良いのに』



どこでそれを願ったのかは覚えていない、ただアンタのその言葉が嬉しくて、そして楽しかった。

「また、追いかけっこするか?俺は、逃げるの得意だぜ?」

「ふふふ。私も追いかけるのは得意だよ」

そう、屍を作りながらこの世に俺とアンタだけの世界を作りたい。

「ああ、その前に父さん・・・」

「なんだい?」

「ただいま、そして愛してる」

軽く唇に触れるだけのキスをする。

「ああ、お帰り。私の愛しい人」

そしてアンタは、深い口付けをする。



似ていないなんて、そんなのはどうでもいい。





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 そのときシンタロー(七歳)は非常に困っていた。
 今、彼がいるところは狭くて薄暗い通路。幅は大人が何とかすれ違える程度しかなく、床はリノリウム張りで壁にはよくわからない配管が走っている。窓はなく、まだ昼間だというのに天井では剥き出しの蛍光灯が広い間隔で通路を照らしているが、どうやら切れかかっているものもあるらしく、時々不規則に瞬いている。
 シンタローは知らなかったが、そこはビルメンテナンス用の通路だった。
 シンタローは自分が今来た道と先に続く道を何度も見比べてから、意を決して先に進むべく駆け出した。
 突き当りを右に曲がり、さらにその先を右へ曲がると十字路に行き当たり―――。とうとう途方にくれた。
「やっぱりダメだ…」

 事の起こりは小一時時間ほど前。グンマと始めたかくれんぼが原因だった。ふだんは最上階のVIP居住区以外に出入りすることなどないのだが、よりよい隠れ場所を探しているうちに、自分がどこにいるのかわからなくなってしまっていた。早い話が自分の家の中で迷子になってしまったのだ。
 シンタローは壁にもたれかかると足を投げ出して座り込んだ。
 そのうち出口か、もしくは誰か大人に見つけられると思って歩いていたのだが、出口も大人も見つからない。右も左もわからない。もう歩き疲れたし、喉も乾いた。
 ふっと、シンタローは自分を探しているグンマの事を思い浮かべた。
 もしかすると見つからなくて泣いているかもしれない。大泣きに泣いているところを誰かが見つけて、泣きながらシンタローがいなくなったことを訴えるかも。そうしたらきっとマジックが大騒ぎするだろう。なんとしてでも探し出してくれるに違いない。
 そう。きっと見つけ出してくれる。でも、それはいつのことだろう。まさかこんな所にいるなんて、彼らは思っていないはずだから。
 シンタローが心細さに膝を抱いた時、遠くの方でかすかに物音がした気がした。少しずつ、音が近付いてくるとそれがはっきりと足音だとわかる。。
『誰か探しにきてくれた!』
 シンタローは喜んで立ち上がりかけたが、すぐに何かがおかしいことに気付いた。
 そう、足音がひとつしかしないことだ。
 シンタローを探しにきたのなら声をかけながら歩くだろうし、この通路自体がもっと賑やかになっていいはずだ。それなのに足音はただ一つでしかもひどくゆっくりと近づいてくるのだ。
 何かがおかしい、と思ったときにはシンタローの頭の中にはあらゆる想像が錯綜していた。
 そう言えば昨夜テレビで見た映画では誰かが持ち込んだ地球外生命体が基地を徘徊し、人間を食べ尽くす内容だった。始めは犬くらいの大きさで俊敏に犠牲者に襲いかかり、骨ごとゴリゴリ人間を食らう。映画では大人を襲って手足を食べ残していたが、シンタローは子供なのできっと食べつくされてしまうに違いない。
 いやいや、もしかしたらこの通路に住み着いた狂人がいるのかもしれない。狂人は血に飢えていて、やけに手入れのいいピカピカのナイフを誰かの体に突き立てたくてたまらないのだ。きっとその異常な嗅覚で久々の獲物が迷い込んだことを察知したに違いない。
 それとも―――――
 次々と思い浮かぶB級映画な想像に震えながらシンタローは逃げ出すことを忘れていた。
 気がつくと足音がすぐそこまで聞こえていた。曲がり角の向うに蛍光灯に照らされた薄い影が見える。
 何かの影はその歩みに合わせてゆらりゆらりと揺れながらゆっくりと近付いてくる。
 シンタローは壁に背中を押し付けながら立ち上がった。
 戦って勝てるだろうか。シンタローはそう思ったが武器はなく、細い腕には力などあろうはずもない。
 だが、戦わなくては。もし、自分が哀れな屍をさらしたとしても、果敢に戦ったとわかれば、マジックはそれを褒めてくれるかもしれない。「さすが私の子だ」と言ってくれるかもしれない。
 小さな拳を握りしめ、じりじりと影ににじり寄る。
 あと数歩もすれば影の主が姿をあらわす。そうしたらその瞬間に不意打ちで飛びかかればいい。相手もまさか反撃してくるとは夢にも思っていないに違いない。
 耳を澄まして歩数を数える。
 一歩。二歩。相手の靴の爪先がほんのわずかに見えた。今だ!
 シンタローが飛びかかったその瞬間!!
「おや、シンタローさ…ほごぉ!」
「ド、ドクター!?」
 シンタローの小さな右の拳が高松の顎に見事に決まっていた。




 何か夢を見ていた気がするが、それが何の夢だったかは覚えていない。気がつけばぼやけた視界には、なぜか必死な顔をした子供の顔があった。
「あ、ドクター! うわぁぁん、よかった―――!」
「…シンタロー様?」
「死んだのかと思ったよ――――!!」
「勝手に殺さないでください。…っつつ…」
 高松は顔をしかめながら後頭部をさすった。
 自分に縋りつきながら泣きべそをかいているシンタローを見て全てを思い出した。顎がヒリヒリと痛む。頭は倒れた時にぶつけたのだろう。子供の力でも急所に当たればそれなりに効果がある証拠だ。
「ところでシンタロー様はこんな所で何を?」
 ピタリとシンタローが泣き止む。そしてばつが悪そうに顔を背けると、ボソリと一言だけ発した。
「………かくれんぼ」
「お一人でですか?」
「そんなわけないでしょ! グンマとだよ!! その…ここなら見つからないと思って……」
 ごにょごにょと口ごもるシンタローを見て高松は大方の予想がついて吹きだしそうになるのをぐっと堪えた。
「そうでしたか。では私は戻りますが、どーぞシンタロー様はごゆっくり。ここに隠れていらっしゃるのは誰にも!言いませんのでご安心を」
「待って、ドクター!置いてかないで~~!!」
 すたすたと歩いていく背中を慌てて追いかけて腕に縋りつき、半べそをかきながら高松を見上げて訴える。
「かくれんぼで見つかっちゃマズイでしょう?」
「連れて帰って~」
 置いていかれまいと必死なシンタローを見て高松は頭を掻く。
「そうしてさしあげたいのは山々なんですがねぇ…」
「?」
 きょとんとした顔で見上げるシンタローの目を覗き込みながら申し訳なさそうに苦笑する。
「実は私も道に迷ってるんですよねぇ」
 さして困っている風でもなくしれっと言ってのけた高松の顔をまじまじと見つめていたかと思うと、大きな目から滝のように涙が噴き出した。
「ぶえ~ん! ドクターの役立たずー! 何のために来たんだよー!」
「ただ近道をしようとしたらシンタロー様を見つけただけですよ。別に一緒にいらっしゃらなくても結構ですよ」
「ついて行くもん!」
 盛大に鼻をすすり上げながら高松の白衣の裾をしっかりと握りしめる。そのさまを見て高松はやれやれと肩をすくめた。

 二人は結局連れ立って歩き出した。どこまで続くかもわからない廊下に二人の足音と、時おりシンタローが鼻をすする音が響く。特に何を話すということはなかった。それが不自然だとも苦痛だとも思わない。むしろ自然なような気がしてきた時、ふと、高松が口を開いた。
「シンタロー様」
 呼びかけに答えて顔を上げた。高松は笑っている。
「迷子になった時の鉄則を知ってますか?」
「…その場所から動かないこと」
 以前、マジックに言い聞かされたことをそのままにシンタローは答えた。だが今回に限っては当てはまらないような気がして首をかしげた。高松は相変わらず笑いながら満足そうに頷いた。
「その通りです。遊園地だろうが、山の中だろうが、それが一番正しい。もちろん、基地の中でもね」
 そう言って高松は器用にウィンクして見せた。愉快そうな高松の顔を見てシンタローはチェッと舌を鳴らしてそっぽを向いた。小さい子みたいに泣きじゃくって高松にしがみついたことを思い出して顔が赤くなる。
「でも貴方が大人になって、もし何かに迷ってしまったら、その時は前に進みなさい。しっかりと前を見据えて、前進するのです。出口のない道などないのですから」
「…? うん」
 意味がわからないまま頷くシンタローに高松は微笑みかける。その微笑の裏にある感情が何なのかは混濁していて彼自身もわからない。もしかすると免罪を求めているのかもしれない。しでかした罪の重さをごまかすために、自分自身に対する欺瞞かもしれない。今更どうしようもないのに。
 シンタローに知られないよう自嘲してまた前を向いた。
「おや。どうやらこのあたりに見覚えが…。もう少しで出口のようですね」
「ホントに!? じゃあ早くこんなトコロ出ちゃおうよ、ドクター。早く早く!」
「貴方が私を引っ張ってどうするんです。また迷子になりたいんですか?」
 引っ張り引っ張られしつつ十分ほど歩いて出口にたどり着いた。高松が自分のIDナンバーを入力し、カードキーを取り出した。シンタローは待ちきれないといわんばかりに足踏みをしている。カードキーをスライドさせようとした手をふと止めて、シンタローを見た。
「シンタロー様」
「なぁに。ドクター?」
 キラキラとした目で見上げられて、高松は一瞬逡巡した。だが思い直したように首を振る。
「いえ、何でもありません。さぁ、出口ですよ!」
 スリットにカードをスライドさせると目の前の扉からガションとカギが外れる音がして、ほんの少しだけ隙間が開いた。高松はその隙間に手をかけると少し重そうに扉を引いた。
 外に出ればシンタローのよく見知った廊下に出た。シンタローたち一族が生活をする最上階のフロアだ。
「やったぁ!」
 シンタローは廊下に出るなり歓喜の声をあげて走り出し、廊下の角を曲がった所で立ち止まった。
 その先ではグンマが盛大に泣きまくり「シンちゃんが~シンちゃんが~」と言ってはまた泣きじゃっている。そのそばでマジックがおろおろし、周囲の部下達に何か指示を飛ばしていた。
 そんな二人を見てシンタローは思わず笑ってしまった。想像していたとおりの光景だったからだ。
「おーい、グンマー。パパー」
 シンタローが廊下の端から声をかけるとこちらを向いた二人が涙とハナミズで顔をぐちゃぐちゃにして駆け寄ってくる。
「「シンちゃ―――ん!!」」
「こーさんって何回もゆったのにシンちゃんいなくてボク、ボク…」
「どこにいたのシンちゃん! パパはシンちゃんが誘拐されたんじゃないかって心配で心配で…。もうパパにナイショでどっか行っちゃダメだよ――!」
「ごめんね~。パパ、グンマ」
 二人に抱きつかれているシンタローを見ながら高松は煙草に火を点けた。マジックへの細かい報告は後のほうがいいだろうと判断して煙草を吸いながら背を向けかけた時、シンタローがとてとてと駆けて来た。
「ドクター!」
「おや。どうしましたシンタロー様」
「あのね、お礼を言うのを忘れてたから。ありがとう、ドクター」
「どーいたしまして」
「ドクターの言ったとおりだったね」
「は?」
「『出口のない道はない』って」
 シンタローの言葉を聞いて高松は一瞬目を点にして、それから思わず吹きだした。笑いを堪えきれず肩を震わせる高松を見てシンタローが愛らしい唇を尖らせて拗ねる。
「なに? 何か変なこと言った?」
「いえいえ、別に……」
「ねぇドクター。今日のことみんなにはナイショにしといてくれない?」
「シンタロー様が迷子になってビービー泣いてたことですか?」
「べっ別に迷子になったから泣いてたわけじゃないやい!」
「おやそうでしたっけ?」
「もう! イジワルだなぁ。ね、お願い!」
 目をキラキラさせながら見上げられると高松もさすがに断り辛くて頭を掻く。
「ま、いいでしょう。貴方に貸しを作っておくのは悪くない」
「絶対、絶対、約束だよ!」
「はいはい」
 手を振りながらマジックとグンマのところに戻るシンタローを見送りながら高松は溜め息をつくように煙を吐き出した。

『出口のない道などないのですから』

 まったく、何を思ってそんなことを言ったのだか。
 高松は自分の言った台詞に苦笑した。本当にそう思っているのか、それともそう思いたいだけなのか。あるいは―――。
 踵を返し、高松は歩き出した。煙草の煙を燻らせながら。
 彼の前に道がある。それがどこに続くのかは高松自身も知らない。





END。。。。。






『その道の先』












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というわけでまぁ、高松ってば相変わらず暗いっていうか…。自嘲癖があるっていうか…
『出口のない道はない』と高松は思っているけど、自分に出口が用意されているわけがないとも思っていそうな、そんな感じです。
審判の日がきた時、高松は笑ってそれを受け入れるつもりだったんだろうな。
運命は思いがけない方へ向かっていたんですけど……。


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 彼がドアを開けた時、部屋の主である子供は子供ながらに真剣な顔で腕組みをしてじっとテーブルにあるものを見つめていた。あまりに真剣になりすぎていたために彼が部屋にドアを開けたことすら気がつかないらしい。わずかに苦笑して開いたドアを改めてノックした。
「シンタロー、入ってもいいかな?」
「叔父さん!」
 シンタローは目を輝かして椅子から飛び降りると転がるようにしてサービスの足元へ駆け寄って彼を見上げた。
「いつ帰ってきたの?」
「ついさっきさ。シンタローはノックも聞こえないほど、なにに夢中になっていたんだい?」
 シンタローはちょっとはにかんで笑うと叔父の手を引いてテーブルへと誘った。
「これ見てよ、叔父さん」
 テーブルの上には完成した飛行機の模型が置かれていた。ずいぶん苦労して組み立てたらしく、説明書にシワが目立つ。
「上手に出来ているじゃないか」
 褒めてほしいのだと思ってサービスはそう言ったのだが、シンタローは腕組みをして子供ながらに難しい顔をしながら言う。
「だけど見てよ、これ」
 シンタローが指差した先には小さなネジが一つ転がっていた。
「ちゃんと出来上がったのにさ、ネジが一個余っちゃったんだ。作り直してもどうしても余るんだよ。なんでだろ?」
「予備の部品じゃないのか?」
「ちがうよ! だって僕、組み立てる前に部品の数を数えたんだもん。余りなんてなかったよ」
「へえ」
 サービスは少し意外そうな顔をしてシンタローを見た。
「ちゃんと数を確認するなんて、シンタローはえらいね」
「前に部品が足りなかったことがあったんだ。それからちゃんと数えるようにしてるんだよ。今度はネジが余ったから一度組み立てなおしてみたんだけど、やっぱり余っちゃうんだ」
 シンタローは小さな指先でネジを転がしながら不思議そうに首をかしげる。その姿を微笑ましく見ながらサービスはシンタローの頭を撫でた。
「でも、とても上手に出来ているよ。組み立て直しても余ったのなら、きっと予備の部品なんだろう」
「そうかな?」
「きっとそうさ」
 サービスが確信をもって肯くのでシンタローもやっと納得したのか、幼い顔いっぱいに笑顔を浮かべる。
「叔父さんがそういうんなら、きっとそうなんだね! 出来上がったらグンマに見せてあげるって約束してたんだ」
「じゃあ、行ってたくさん自慢しておいで」
「叔父さんも一緒に来てくれる?」
 愛らしいおねだりにサービスは優しく微笑む。
「兄さんにまだ挨拶していないからね。先に行っておいで。あとから必ず行くから」
「うん。きっとだよ!」
 シンタローは完成したての模型を大事そうに抱えて部屋を飛び出していった。
 あとに残されたのは模型の残骸と一つ余ったというネジ。サービスは小さなネジを手のひらで転がしてクスリと笑う。
 手のひらのネジはおそらく予備などではないのだろう。子供のおもちゃ程度の模型に予備の部品などあろうはずがない。そうするとシンタロー自身がどこかのネジを締め忘れたのだ。これがもし、本物の飛行機であったらどうなるであろう。最悪、飛行中にトラブルを起こし、墜落してしまうかもしれない。たった一つのネジのために運命が変わる――。
 サービスは喉で低く笑う。
 数年前、自分が抜いた一本のネジがどのような結果をもたらすのか。あとはただ座して待てばいい。どんな終末であったとしても、きっと冷たく笑っていられる。
 たとえそれが、全ての崩壊であったとしても――。







END。。。。。






『ネジ』












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『螺旋』に『ネジ』。そのまんまですね。
初め高松と子グンマでいこうと思っていましたが、ちょっと方向変えてみました。
まさかサービスもあんな結末が待っているとは思わなかったに違いない。
外れてしまったのはサービス自身のネジだったのかも……。


tta


 いつも勝気でまっすぐな瞳をした彼が、そのときはまるで何かを堪えるような顔で俯いていた。
 ちょっといいかな、と幼い顔に不似合いな暗い声で断って入室してから、勧めた椅子にも座らず入り口でただ立ち尽くしている。せっかく入れた紅茶も大分温んでいた。
 私はなにも言わず、なにも探らず、また促すこともしなかった。わかっているのだ。彼がなにをしに来たのか。なにを聞きに来たのか。この瞬間をもうずっと以前から覚悟していたから。
 どれくらいたった頃だろう。彼が引き結んだ唇から震える声を絞り出す。
「ねぇ、ドクター…」
「はい?」
 カルテを書き付けながら私は顔も上げずに返事を返す。このままなにも言わずに、なにも聞かずに帰ってくれればいいのに、なんて虫のいいことを考えながら。
 けれども無情にも彼はその重い口を開く。
「僕は…本当に父さんの子なの?」
「どうしてそんなことを聞くんです?」
「みんなが、いうんだ。一族に黒髪の子が生まれるわけがない。父さんの子じゃないって…」
 私は手を止めペンを置いてゆっくりと彼の方を向いた。静かな部屋に椅子の軋む音がずいぶん重く響いた。
「ソレ、母君にも聞かれましたか?」
「そんなこと……!」
 彼は俯いていた顔を勢いよく上げて、そう怒鳴った。だがその声とは裏腹に瞳は今にも泣き出しそうだ。
 そう、聞けるわけがない。わかっている。真実を知るのはたった一人だと理解していても、聞けるわけがないのだ。だから私の許にきた。全ては彼の予想通り。
「ひとつだけ聞きたいんですがね」
「…なに?」
「どうして私のところにきたんです」
 訊ねると彼は初めて戸惑いの色を見せた。言われてみれば確かにどうして、なのだ。ほかに聞く相手がいないわけではない。二人の叔父たちに聞いてたってよかったはずだ。だが彼は私のところにきた。一族に近しくあっても、赤の他人の私のところに。
「わからない…」
 彼はまるで迷子のように不安げな顔で、けれどまっすぐに私を見た。
「けど、ドクターはつまらない嘘をつかないと思うから」




――ああ。




 私は心の中でため息をつく。




 この子は一族としてはたしかに奇異な存在だ。
 その色ではなく、その心が。
 一族はみな、冷酷で冷淡で。誰かを信頼する事を知らない。私が養育する子ですらそんなきらいがある。だがこの子はまっすぐが瞳で私を見ながら私を心から信頼している。それが彼の強さになるのか、弱さになるのかはまだわからない。だが純粋なこの心が、いつの日か壊れてしまう、壊されてしまうと思うと、ひどく胸が痛んだ。
「ドクター?」
 不安そうに首を傾げる彼。私はいつものように口元を笑いの形にした。
「あなたがあまりに嬉しいことを言ってくださるから、浸ってしまいましたよ」
「からかわないでよ」
「あなたは間違いなくマジックさまのお子様です」
 唐突に答える。
 彼は一瞬、理解できずにただ目を丸くしていた。
「それ、本当?」
「嘘をついても私になんの得もありませんよ」
「絶対に?」
「あなたを取り上げたのは私です。間違いありません」
 そう言いきってもまだ絶対とは思えないのか、彼は探るように私を見る。私はわざとらしくため息をついて、消毒用アルコールを浸した脱脂綿と注射器を取り出した。
「そんなに疑わしければDNA鑑定をしましょう。さ、腕を出して」
 そう言って注射器を構えると彼は思わず後退る。そして大きく息を吐いてようやく笑った。
「ごめん、ドクター。疑って」
「おや、鑑定しないんですか?」
「うん。ドクターがそこまで言うんなら、きっと嘘じゃないと思う」
「それは残念。今、血液サンプルを採っている最中だったのに」
「もう!」
 愛らしい頬を膨らまし、それから彼は明るく笑った。私も笑いながらすっかり冷めてしまった紅茶に口をつけた。
「でもね」
 彼がイタズラっぽく笑う。
「ドクターが僕の父さんなら、僕、それでもいいって思ったんだ」
 思いがけないセリフを聞いて口に含んだ紅茶を思い切り吹き出した。
「な、なにを言い出すんです! あなたって人は!」
「知らないの? そういう噂、あるんだよ」
「事実無根です!」
「うん。僕もそう思う」
 そう言って笑うと彼は身を翻し部屋を出ると、ひょい、と顔だけ覗かせて笑った。
「ごめんね、ドクター。ありがとう」
 そして残されたのは紅茶で噎せ返る私と子供の軽い足音。
 とりあえず明日にはとんでもない噂の出所を調査して捻り潰しておかないと。
 そう。彼はこの滑稽な噂の真相を探りにきたのだ。真実はもっと残酷だというのに。




 全ては彼の思惑通り。
 彼はとても純粋に育っている。
 彼は絶望に突き落とすための駒。あの純粋な駒を作るために私は罪を侵し、そしてまた罪を重ねる。
 私もまた、駒なのだ。意思なく罪を侵す『駒』
 だからといってこの罪が許されるわけもないけれど。




「私はあとどれほど罪を侵すのでしょうね」




 そのつぶやきに、答える声はない。







END。。。。。






『神よ、この罪の深さを』












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 高松とシンタロー。シンタローは10歳くらいでしょうか。
 始めは12歳くらいの気持ちで書いていたのですが、あまりにも口調が幼くなったため、一人称を全部「僕」にしてしまいました。
 またしてもマジック←高松前提SSです。
 高松はサービスの全てを理解してルーザーの復讐に手を貸していたのでしょうか。
 そうでなければいいのに。

 この話はいずれ丸々流用予定……。

tms
Liar.





「嘘吐き」

「パパは、お前に嘘なんか吐かないよ」

「嘘吐き」

「…シンちゃん」

「嘘吐き」

涙を耐えて見上げてくる目がどこまでもまっすぐで、
胸を静かに突き刺し痛みを伝える。


「…シンちゃん、パパのこと嫌い?」

誤魔化すように問えば、
シンタローは悔しそうに唇を噛み締め俯いた。

瞬間、ぽたりと一滴の涙が落ちた。


ごめんね、
と、呟きそうになる口を同じように噛み締めて耐えた。

謝れば、
嘘を認めることになるから。

まだもう少しだけ、
シンタローの好きな優しいパパでいたかった
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