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14

月の雫

心と頭が連動してくれない。
ぐるぐると回るこの気持ちは、一体どう処理するべきなのだろう。
これは意地とかではなく、受け止められないからだと分かって呆然としてしまう。

従兄弟じゃなかったとか、血が繋がっていないとか関係ない。
このまま帰ってしまえば解決すると思ったがやはりそういうわけにもいかなかった。
今までの、シンタローという人物は影だという。
知らない人が知らない声であざ笑うかのように、いや、実際にこちらを見下していたのだろう。
でもそんなことは、問題じゃない。
必要なのは、こんな知らない人からの評価じゃなくって、笑っている彼からのもの。
番人だろうが、影だろうが関係ない。

従兄弟の“シンタロー”は彼だけなのだから。


鶏の背に乗り、空を飛ぶ。
頬に当たる風が気持ちよく、少しだけ気分が軽くなった。
一番の要因は彼が戻ってきたからだけど。
それでも全快しない理由は、何か言いたげにしている視線があるからだろう。
そして、もう一人の、本当の従兄弟。
どうやら高松の説明に納得したらしい従兄弟は、しかしまだシンタローに拘っている。
それは今の彼に何もないからだろう。
幸いシンタローが取り合わないから、笑って済ませられるといったところか。
ただ、グンマもそれどころではないというのが現状だ。
頭の中が整頓できずにいるのは確かだ。
否、してしまうのが怖いのだ。
「おい」
シンタローから声をかけてくれるなんて、常ならばないことなのに、なぜか心はざわついたまま。
「顔色悪いぞ」
頬に触れる手が、彼がここにいることを教えてくれる。
暖かい手。
言葉に出せない一言が頭に過ぎり、ふわりと笑う。
その手に、自分の手を重ねることにより、彼がここにいることを確認する。

もう、恐れるものはない。
彼はここに在る。


皆、気がつくべきなのだ。
「僕の従兄弟はシンちゃんだけだ」
だって、君は違う。
24年間、閉じ込められていたという彼に対して、グンマは手厳しい。
彼がしていることは無駄に時間を空費しているだけ。
今までの自分のようになって欲しくないから。
過去を振り返るな、なんてことは言えない。
過去があるからこその人であり、その積み重ねが認識されることだから。
だからこそ、気がついて欲しい。

名前とか、誰の子供であるかが重要なんじゃない。
本当に大切なこと。

おそらくは生死をかけた戦いに、グンマがついていくことに困惑された。
戦闘に不向きである以上残るべきだといわれたが、どうしても自分の目で見たかっのだ。
「それに、もう一人のシンちゃんが行くのに何で僕が行っちゃいけないの?」
そう、この島を破壊しようときた彼も行くというのに、自分を止める理由などないはずだ。
「あのなぁ…」
「何か問題でもあるの?」
「在りますとも!もしグンマ様に何かあったらこの高松…!」
「僕はもう、ルーザー叔父様の息子じゃないよ」
その一言で押し黙るのをみて、息を大きく吐く。
しかし気にかかっているのは一人、否二人。
「何で君は行くの?」
不意に声をかけられ、虚に突かれたのように驚く。
もう一人の従兄弟はしかし、何も言うことができないのか口を幾度か動かしただけで何も言わない。
誰も何も言わない。
それは彼が叔父たちと戦う理由がないことを知っているからだ。
「ね?」
にこり、と今までと態度を一変させたグンマに皆があっけに取られる。
その様子をしってかしらずか、グンマは胸を張って続ける。
「彼が行くなら、僕も行くよ。僕だってこの島を守りたいんだから」
何がどのようにして繋がっているのかわからない。
その沈黙を破るかのように、シンタローがグンマの頭をぐしゃりとかき混ぜた。
「ったく、自分のことは自分で何とかしろよ?」
「うん!」


いってやりたかった一言がある。
その力ゆえに彼を悩ませ、自分の家族達が数奇な運命をたどった。
生まれてついたその能力に身を滅ぼしたもの、蝕まれ今もなお縛られているもの。
――死んでからも開放されぬその魂。
「僕達は、石ころのおもちゃなんかじゃない」
知っていた、この力を。
総てを破壊してしまうほどに大きく、それゆえ無意識に抑えていた力。
怖かった、争うこと、奪うことが。
けれども、今は違う。
逃げることによって避けていたこの力を今。


道を開くために使おう。



――始めて見たその光は、とても綺麗で、悲しい色だった。










<後書>
捏造部分が薄いです。
グンマさんってば、一族対決のときが一番男前だなと思います。
PAPUWAでは、仲のよい家族をやっていますが、このあたりではちと違う感じ。
彼が守りたいのは、シンタローさんしかいないので(笑)

ここまでお付き合いありがとうございました。
一応、次で最後、というか後日談風になります。
…いつからかいてたっけこのシリーズ…
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13

月の雫

つかの間の休息は秘石眼から発せられる痛みによって、終わりを告げられた。
シンタローが戻ってきてから、重傷の為に暫く床に伏せていたトットリ、全身に大火傷を負ったアラシヤマと決して平穏無事ではなかったが、それに乗じて敵が攻めてくるということがなかった。
しかし今、この眼の痛みが何かを知らせようとしているようだった。これから始まる、何かを。
「とりあえず、高松を探すか」
ぼろぼろと涙を流し始めたグンマを見て、やれやれと立ち上がるシンタローのズボンを慌てて掴む。
「僕も~」
何とか立ち上がり、よろよろと歩く姿にシンタローがため息をついてその肩を持った。
「ったく、大変なのに我侭言うんじゃねぇよ」
「へへへ~」
歩くのを支えてもらったグンマは上機嫌だ。
眼が痛いにもかかわらず、うれしそうに笑っている。
あまりの浮かれぶりに、手を離してやろうかと、思っていると話し声が聞こえた。
それはその場にいた全員に聞こえたところから、空耳ではないらしい。
「あ、高松の声だ!」
どこにいるのかと耳を澄まそうとした瞬間、グンマの声によって遮られる。
あまりのタイミングの良さに、それが意図的であることに気がついたものはいない。
自分の父親の名前が聞こえてきたからだ。
グンマは父親を知らない。それは生まれる前に亡くなったから。
だから不思議だった。今、このタイミングでその名が出てきたことに。
幸い色々あったものの、グンマの涙によってその話し合いは中断され、さらに拍車をかけるかの様にサービスが止めを刺したためジャンはどこかに消えていった。
「ああ、グンマ様!御可哀想に」
一族全体が眼を痛めているという時に、両目から涙を流す。
そのことに、グンマは罪悪感を感じた。なぜか両目が痛いことも不思議だが、そのことを突っ込んでくるものはいない。
ちらり、とシンタローのほうを見るが気にしているわけでもなく、ほっとする。
「どうかしたのかよ?」
不機嫌そうな声に、慌てて眼にタオルを当てる。
「わ~ん、高松~!シンちゃんが因縁をつける~!」
「ちょっとあんた、グンマ様が何をしたって言うんですか!グンマ様は目が痛いんですからいたわるのが当たり前でしょう?」
その後も口喧嘩は続いていたが、手が出る様子もなさそうなので、グンマは眼の痛みが引くことを祈りながらタオルの位置をずらす。
そしてひと段落もついたころには、痛みもある程度収まり、そして漸く先ほどの疑問について整理することが出来た。
「ねぇ、高松。お父様ってどんな方だったの?」
そのときの二人の言葉に気がつくべきだったのかもしれない。
自分の目の痛みよりも、もっと重大なことに。


自分の出生とそして本当の自分の父親を聞いて、怒りよりも彼の居場所を奪ってしまったという事実のほうがショックだった。
嘘だと否定する声が心の中で大音量で鳴り響いているが、片隅にある冷静な部分が肯定をし始めている。
なぜ、いまさらそんな話をする?
きっと駒としての価値がなくなったから。シンタローが本当にルーザーの息子であり、総帥のあとを継いだときにでも言うつもりだったのだろう。
しかしシンタローが番人であるならば、関係はなくなる。
なぜ、ここに高松がいない?
きっと、もう一人のシンタローの元へ向かったのだろう。本当の、敬愛なる師の息子を迎えに。
考えてみれば、シンタローに対する態度はグンマを除いた他の人たちとどこか違った気がする。
それもこの取替え話を聞けば合点がいく。
段々と声は収まり、ただ虚しさだけが残った。
結局、自分のしてきたことがどれだけ意味の為さないことだったかということが浮き彫りになったというだけだ。
昔から叔父であるはずのサービスがシンタローだけをかまっていてもグンマは少し寂しいと思っても、彼が認められていると思えば心から喜べた。
しかし、それがもし復讐のためだと言うのなら、誰も彼を見ていなかったということではないか?
結局はただの人形としか、他の誰よりもひどい扱いを彼に強いてきたのだ。
そんなことにも気がつけず、驕り高ぶっていた自分が悔しかった。
「…高松」
わかっていたはずだった、あの保護者がコタローを閉じ込めるのに一役買っていたということに。
それでもそれは命令だからだと信じていたかったが、きっと心の中ではこの愚かな喜劇を楽しんでいたのだろう。
そうとは知らずに、シンタローに強くなってほしいと思っていたグンマなど、彼らの望んだ以上に滑稽なものだったに違いない。
けれども、そんなことが問題ではない。
見抜けなかった自分が悪いのだからと、ある程度の諦めがつく。
そんな些細なことではなく一番大切なことは、彼らのしたことが成功していたとき、いったい誰が傷ついていたかということだ。
煙が上がってから暫く経つ。
それでも、グンマには関係なかった。
一方、話を切り出したサービスは、その異変がいったい何なのか対処できずにいた。
いまさら家族として仲良くするなど考えられなかった。
あの二人は大切なものを奪ったのだから。
しかし今、この目の前にいる甥から感じる圧力は何事であるかわからなかった。
先ほどまで泣いていたはずだった。自分が信じていたものの名前を呼びながら。
確かにこの甥に対して、高松は何かと眼をかけていた。そして本当にルーザーの息子であるかのように研究者としての道を歩み始めた。
しかしサービスが知っている限りでは、まるで夢を見るような発明をし、失敗作しか作っていない、悪く言うならばそれこそ出来損ないだった。
一族の特徴である、金と青を持っているにも拘らず、その力の恩恵に恵まれず、そして弱弱しい性格。
もし、マジックがおよそ一族の子供とは思えないグンマが息子だと知ったら。
何よりもガンマ団、そして一族の血を重んじるマジックにどれだけの衝撃を与えることが出来るかと、いつも考えていた。
ショックに打ちひしがれる姿を見て、この甥に対して多少の罪悪感を感じたものの、それよりも今この場にいないジャンや下の爆音のほうが気になった。
高松もまだ戻らない。
だから一度下に降りようかと思った瞬間、じわりと力を感じた。
ありえなかった。
生まれてから何度も検査を受け、何度も陰性という結果になったと聞いている。
サービスもこの甥から今までこの甥が一度も力を使っているところを見たことはない。
秘石眼を持っているならば、感情が高ぶった際には青く光り、さらにはその力によって物を破壊したりすることがある。
しかし、グンマにいたっては今までそんなことはなかったはずだ。

「…叔父様」
一段と負荷が増す。
「なんだい?」
努めて平静に、しかしグンマを見ることが出来ずにる自分に驚きを隠せない。
一体、何におびえているというのだろう?
得体の知れない、しかしよく知っているこの力の正体。
「僕は、ずっと信じていました。叔父様はシンちゃんを裏切らないって」
俯いていたその顔がゆっくりと持ち上げられる。
「でも違ったんですね。叔父様たちは、最初からシンちゃんを裏切っていたんだ」
顔がその瞳がサービスを捉える。
「僕は、あなた達を――」
「僕達も行くぞ」
思わぬ声にグンマのその先を言えずに、思わず声の主にそのままの眼を向けてしまった。
しかし、パプワは怯むこともなくその視線を受け止めた。
「どうかしたのか?」
「でも、シンちゃんを待つんじゃないの?」
戸惑いを隠せないグンマからは、最早先ほどのような圧力は微塵も感じない。
「僕は皆を安全な場所に連れて行くと約束したからな。だから行くんだ。お前はどうする?」
「うん…」
ちらり、とグンマはサービスのほうへと目線を向けるが、そこにあるのはいつものように空色の瞳があるのみ。
まだまだ非難の色は浮かんでいるところから、サービスと行動することを望んでいないことがありありとわかる。
「そんなに嫌いなんだな」
「まあね」
それでもどこか抵抗があるのは、きっと。
「シンちゃんは、そんなこと思わないんだろうけどね」
今更、血の繋がり等気にしていないだろう、シンタローは裏切られたと思ったとしても関係ないことだ。
「だから、いいんだ」
そう、きっと彼は望まない。グンマが筋違いの復讐をすることを。
それにここで仲間割れをしても仕方がないのだから、とすぐに気持ちを切り替えたのだ。
「パプワ君、ありがとう」
「ははは」
二人はチャッピーと共に爆音が相変わらず響く場所へと足を向けた。
サービスも漸く立ち直り、その後を追いかけようとしたが、ちらりと振り返ったグンマの目に足を止めてしまった。
力は感じないのに、確かに蒼く光る両の眼が、まだこちらを赦していないと語っていた。





<後書>
え~、山場?
グンマさんの怖さに漸く気がついた一番最初の人です(別名犠牲者)
日記と違うのは私自身があの展開に疑問を持ったからです。す、すみませ…
こっちのほうが自然な気がしたので変えました。

次は従兄弟ズ(トリオ)が揃います。(予定)


12

月の雫

着いた途端に生き生きとし始めた彼に、ほっとしつつも一抹の寂しさを覚える。
きっと、先ほど来たときには要点だけを言ったのだろう。少年とシンタローの会話はとても暖かい。
「ちゃんとメシは食ってたのか?」
「当たり前だろう。なんせ」
「育ち盛りだもんな」
屈託のない笑顔。朗らかな、笑顔。
視線を合わせるために屈み込んでいるその姿は、この島での彼のあるべき姿。
柔らかな雰囲気は、それが一朝一夕で出来たものでないことを如実にあらわしている。
否、時間だけではない。一緒に過ごしてきた長さでいえば、グンマとの方が明らかに長いはずだ。
問題はいかに過ごしてきたかだ。
そのことがあまりにも悔しくて、屈みこんでいるシンタローの隣に強引に座り込む。
「シンちゃん、紹介してくれるんでしょ?」
「僕はお前のことを知っているぞ。グンマって言うんだろう」
ごく自然に、けれどもあからさまに邪魔をしたのに、返ってきた反応はあっけらかんとしたもの。
素直な反応に、拍子抜けすると共にちくりと針が刺す。子供相手に自分は警戒し、そして嫉妬している。
「うん、僕も知っているけどちゃんと挨拶するのは初めてだからね」
「うむ。中々礼儀正しいな。どこかの誰かとは大違いだ」
誰を対象にした嫌味かあからさまに漂わせたその一言は、しかし結果通り相手に届いたというのにパプワはじぃっとグンマを見つめる。
その視線は、ごく純粋に見ているようにも、そして何かを判別するかのような、心の奥底をのぞかれている気分になる。
「コンニチハ」
けして不自然ではない、しかし人形のような完璧な挨拶。
視線に負けたわけではない。ただ、緊張している自分がいる。
「うむ、これからよろしくな」
なのに、その返事はとても素直。気がついているはずなのに、と思うのは買い被りだったのかとその緊張を解きへらりと笑うと小さな手が指し伸ばされた。
「そのほうがいいな」
「…ありがとう」
気を緩めてしまったこと、そしてそのことに気が付かれた事に反応するものの笑ってその手をとった。
この、小さな手が変えたものがどれだけグンマにとって大切なものであるかと思えば、何もいえなくなる。
感謝の気持ちを込めて軽く握りなおすと、分かっているよといわんばかりに微笑まれた。
たったそれだけで、自分が完敗したことがよく分かった。
そしてそのお陰で振り切ることが出来た。

―――気がした。


祠から地下通路を通って抜け出す。
グンマの中には彼が帰ってこないという不安はない。
否、それは嘘だと自分をあざ笑う声がどこかから聞こえた。
“確かに、シンタローは帰ってくるだろう。しかし、それは本当に、自分の知っているシンタローだといえるのか?”
その声は囁いてくる。
あのジャンという番人と融合したら、そこにいるのはシンタローなのかそれともジャンなのか。あるいはまったく別の人格なのか。
あれ程、彼の体を望んでいたのに今では精神のままでいいからそばにいて欲しかった。
シンタローが体をなくした後。触れられないことで彼がこのままではないかという思いが生じ、躊躇いが生まれた。
双方が傷つくならば、伸ばした手を引っ込めればいいと思っていた。
でも、パプワと話すシンタローを見てよく解ってしまった。
必要なことは、きちんとコミュニケーションを取れること。そして、相手を思う気持ちがそこに存在することなのだと。
なんて簡単で、難しいことなんだろうか。
そのさじ加減を、パプワはごく自然にやって見せた。
結果は瞭然としている。

「ねえ、高松」
体力のないグンマを気遣いながら隣を走っている高松に声を掛ける。
「僕は、この島に来てよかったと思っているよ」
走っているせいでいつものようなトーンでは話せなかったが何とか笑うことが出来た。


たとえ、赤の番人でもなんでも。
シンタローが従兄弟であると、グンマはこれから先も思えるだろう。


そしてなにより。

心が決まった。


彼のためならば、何でもできる気がした。
今まで見たいに隠れてではなく、堂々と。

それがたとえ嫌われる結果になったとしても。
離れていくかもしれなくとも。




笑顔でいてくれるとするならば、それでいい。







<後書>
ようやく二人が顔をあわせましたグンマさんとパプワ君。
仲は良いでしょう。きっと。
このときにはすでに戦闘モードに入っていたので、グンマさんも戦いに参加する決心はついていたかなと。


相変わらず、ぶつ切りですみません…


次は、え~と。

…ようやくサービス叔父様との話し合いかな?(昔、日記で書いていたのですよ)

11

月の雫

いつもよりも大きな衝撃。
その爆発音に驚くが、慣れてしまっていて直に作業を開始した研究員をよそになぜかグンマだけは何かを感じ取った。
それが何かはわからなかったが、ただ何故か、そう何故かあの従兄弟が絡んでいるような気がして、今まさに動かそうとしていたロボットのリモコンを研究員からもぎ取ると部屋から飛び出した。

数日前に、彼らの叔父であるサービスがあの島に行った時、手詰まりだと思った。
シンタローがあの叔父に弱いことは知っている。憧れであるあの叔父に説得されたらきっと戻ってくるだろうと簡単に予測できた。
それに切り札がある。
コタローの秘密。
グンマはサービスの失われた片目についてはシンタローからそれこそ耳にたこが出来るくらい聞いていた。
もし、秘石眼の危険性をあの叔父から再度諭されたら、それに応じる可能性はきわめて高かった。
それでも、どこかで信じていた。

彼があの島で生きることを。

しかし、それはいつものように極秘情報を傍受して裏切られたことを知った。
そのときに、あるひとつの思いが浮かび、グンマを呆然とさせた。
そのことを考えないようにと、帰って来たならば自分も会わせてもらおうと思いながら過ごした数日。
総帥室とは違う、どこか別の場所で起きた爆発音を頼りにそちらに向かう。
かなり奥まった場所から聞こえた気がしたそれに、グンマはいやな予感がする。
そういえば、コタローの情報が最近頓に少なくなった気がした。
グンマは、シンタローがあの島にいる限り奪われる必要はないと思って現状維持をしたのだと思っていたが、もしかしたら違うのかもしれない。
「いったい何が…」
日頃の運動不足がたたり、体が思うように動かない。
ようやくのことで、エレベータに乗り込み、息を吸い込んだ瞬間。
大きな何かを感じた。
先ほど感じたような刹那的な何かではなく、抑えることを知らないような力強い何か。
そこから感じられる悪意にぞっとしながら、今まで気がつかなかったことに驚く。
その力は間違いなく一族のもの。しかし、こんなに周辺にまき散らかすかのような力は初めてだった。
その力を受けて、グンマはただならぬことが起きたことを改めて意識した。


大きな穴が開いていた。
焦げた匂いと、希薄な従兄弟。
すっかりとげとげしさがなくなった彼はそんな姿になっても“彼”であることに気がつき、グンマは何かが剥がれ落ちるのを感じた。
当たり前のことが、ようやく分かった気がした。
「それでは、行きますかの」
漫才がひと段落着いたところでこれまた希薄なふくろうが号令をかける。
行き先は、あの島。
なにやら複雑そうな顔をしているシンタローを尻目に、グンマは勢いよく手を上げる。
「僕も行くね」
無邪気な台詞とあまりにも当然という雰囲気に頷きかけた皆はそんなグンマを凝視する。
たった一人、何事にも無関心な叔父を除いて。
「お前、何考えてんだよ!」
「そうですよ、何かあったらこの高松、どうしたらよいのか…」
「グンちゃん、これは遠足じゃないんだよ?」
三者三様の言葉に、無邪気に首を傾げる。その仕草からは、彼が何も考えていないようにしか見えない。
「何で皆心配してるの?ただあそこに行くだけでしょ?」
「あのな~――」
「ほら、早く行こうよ~」
何かを言おうとするシンタローを制し、にこりと笑うと高松の手を取る。
「もちろん、高松も行くよね?」
「――ええ、当たり前じゃないですか」
一瞬の返答の遅れに、しかし気がついたのはグンマのみ。
「って、お前ら待てよ!」
さくさくと進む事態に当事者がはたと気がつき、慌ててその後を追いかけてた。


戦艦に乗り込んで、ようやく何とかシンタローと二人っきりになれ、グンマはニコニコと笑っていた。
「なんだよ、気色悪ぃ」
「え~、シンちゃんとこうやって話すの久し振りなんだもん」
島にいる間、シンタローはパプワの横にずっといたので、二人だけということは決してなかった。
そしてそれ以前のシンタローは、何を話しかけても、むっすりとしていて表情を動かすことすらなかった。それがどれだけ、グンマの心を痛めていたかなんて、きっとシンタローは夢にも思わないだろう。
だからこそ昔に戻れたようで、気持ちを抑えることなんて出来ない。
「ったく俺が死んだっていうのに、酷ぇな」
ため息をつき、壁に寄りかかる。
例えば、人が触れようとすればすり抜けてしまうのに、こうして寄りかかれるというのはなんとも不思議である。
その仕草に少しだけグンマが眉を顰めたが、気がつかせないように笑って言葉を紡いだ。
「でも、あっちに帰れば体があるんでしょ?」
「他にも問題はあるぜ、例えばあの金髪の男とかよ」
コタローを連れて行った男がこれから何をするつもりなのかわからない。
いや、おおよそ予測は出来た。それは、もしあの男が自分と同じ記憶を共有していたとしたらの予測だが、多分あっているだろう。
あの島が、秘石と係わり合いがあるということ。青の秘石があの島にあるということ。
自分が良かれとしたことが裏目に出てしまったことにシンタローは後悔している。
あの島を、巻き込むことだけはしたくなかったのに。
知らず知らずのうちに、手に力が篭る。
「大丈夫だよ、シンちゃん」
しかし、まるで心を読んだかのようにグンマが声をかけた。
「僕の従兄弟はシンちゃんだけなんだから」
椅子に座って足をぶらぶらさせていたグンマは立ち上がると、シンタローの頬に触れるか触れないかの距離まで手を伸ばす。
「シンちゃんはね、僕の自慢の従兄弟だから」
なぜだか照れくさくなり、シンタローはそっぽを向いた。
「何言ってやがる、この前まで俺のことを連れ戻そうとしてたくせによ」
「え~、違うよ。遊びに行っただけだもん」
ぷー、と膨らませた顔はどう見ても同い年には見えない。
あまりにも似合いすぎるその仕草に、本当にそうだったのかもしれない思ってしまい、こらえきれずに笑ってしまった。
「その割には、俺にロボットをけしかけてくるよな」
「だって用事がないと、シンちゃん構ってくれないじゃんかー」
まるで子供の発想である。
グンマは真剣であるが、それゆえにシンタローは呆れるしかない。
大きく溜め息をつくと、頭をぽんっと叩いた。
「そんなことせんでも遊んでやるよ」
「ほんとー!やったー!」
ぴょんぴょんと跳ねながら喜びを表すグンマに苦笑する。
「あ、シンちゃん。じゃあ今度はシンちゃんのお友達をちゃんと紹介してね」
くるりと、振り向いてシンタローに笑いかける。
これから、その島に行くのだからそんなことを言われなくともそのつもりだった。
「当たり前だろ。怖くって泣くんじゃねーぞ」
「うん」
嬉しそうにニコニコと笑い続けるその姿に、シンタローはそんなに嬉しいものかね、と思ってしまう。
しかし、それは半分正しく、半分間違いであった。
シンタローは気付いているだろうか?
これほどリラックスして一族のものと話すのが久し振りであるのかということに。
それが、どれだけグンマにとって嬉しいことであるかということに。

ただ、ほんの少しのことだというのに…


とっさに伸ばした手を引っ込めるわけにも行かず、その先にいた高松の手を取った。
それはきっと自然に見えるだろうと踏んで。
肉体のない彼に触れることが、躊躇われて。そして触れられないという事実が怖くって。
しかし、その行動がもたらしたものは二つ。
高松の意識が逸れていたこと。
シンタローのためならばなんでもしそうなマジックの行動が遅いこと。
否、マジックの方に関してはある程度は分かっていた。
暴走するかもしれないコタローに対してどうするかで、悩んでいるのだろう。
一旦ここから抜け出した以上、マジックがとる方法はひとつ。
しかしそれをシンタローの前で行うことに対して躊躇している。
だからこそ、あの時はとっさに動けなかったのだろう。
ならば、高松は?
一体何が彼の意識を逸らした?
一人で物思いに耽っていると、隣に誰かが座った。
「グンマ様、本当によろしかったんですか?」
「も~、高松は心配性だな~。大丈夫だよ」
とたんに意識を切り替え、いつものように笑うグンマ。
意識して切り替えているわけではない、自然にモードが変わるのだ。
「ですが…」
「それにね、これは僕の感だけど――行かなきゃいけない気がしたんだ」
いつもの笑顔のままなのに、雰囲気が変わる。
はっと高松はグンマを凝視した。
高松は度々、このような場面に遭遇したが今回はいつもとはどこかが違っていた。
気のせいかもしれないし、勘違いかもしれない。
ただそんなときのグンマは、まるで彼の本当の父親を思い出させる。
「さてと、そろそろつく頃だね」
シンちゃんが、桜が見れるって行ってたんだよね~、と笑いながら言うその姿はもはや先程とは別人で。
従兄弟の元へと向かったグンマを見送ると、手のひらを広げる。
うっすらとかいた汗をふき取ると、軽く息を吸い込む。
何かに行き当たったのかもしれないと思うと、グンマの怖さを知ってる分、どうしようもなく気が沈んだ。
それでも誓いを立てたのは真実だから。
一抹の恐れを抱きながら、忠誠を誓った彼の後に従った。












<後書>
私のところの高松はグンマを皆のように馬鹿とは考えていないとと思います。
敬いながらも恐れている、そんな形でしょうか。
唯一、本当のグンマを知っている人。
でも多分全貌は知らないので、その部分が怖い。
本質を知っている分、暴走しないと分かっていてももしも、が怖いんでしょうね。
その上、裏切り行為を働いているから更に二倍。

触れる云々については次回。
何がグンマから剥れたかはそのうち…

わーい、課題がたまるたまる~。




10

月の雫

それはいつからだろうか。
気が付いていた、彼らの関係。
仲の良い、友であり従兄弟である彼らの関係がいつの間にか変貌していた。

力の無い彼はその強さに憧れ、その強さを妬む者にあるときは自分を通して、またあるときは偶然を装って報復を果たしていた。
持ち得なかった色に劣等感を持っていた彼は、自らの父を目指すことによってその力を変え、やがてその方向性を失っていった。
そして、彼らの進む道をただ見ることしか出来なかった自分が、ある時ついに道を示した。

それが、数ヶ月前のこと。



帰ってきたらまず、研究室にいるはずのグンマの元へと向かう。
「グンマ様~!お元気でしたか?」
しかし、応えは無い。
勝手にロックを開け、中に入るが誰もいない。
おかしいと訝しみ、探してみるがどこにも見つからない。
「…シマネ」
留守を任せていた自分の部下に極力抑えた声で問いただす。
先ほどから様子のおかしかった彼は、名を呼ばれただけですくみ上がる。
「グンマ様はどこにいるんです?」
落ち着いたトーンの中に、どす黒いオーラを感じる。
「あの、その、実は――」

「一人で、あの島に向かったんですか」
説明を受け黙り込んだ高松は、確認を取るでなくポツリと一言呟いた。
あの日以来、高松はシンタローに会っていない。シンタローに日本支部での爆発を教えたとき以来…
そしてガンマ団を脱出したことを知った。秘石を持って逃げた彼がどのような動きを見せるのかと続報を気にしていた。
しかし、ある島に行ってからそこから動こうとしない彼に、じれったくもこのまま戻ってこなければよいと思っていた。
幸せになれるのであれば、それでよいからだ。
第一、危険であるコタローから離れられるというのだから心配事のひとつが解消されるというもの。
しかし、そこにグンマが向かったとなれば別だ。
ここ数年、仲の悪かった二人が会ったならば、きっとグンマが無事であるはずがない。
「…どうやら、命が惜しくないようですね、あなた」
物騒な台詞をメスを携えながらいわれ、覚悟を決めたシマネ。
しかし、そこに救いの手が差し伸べられた。
「高松~!!」
唐突にドアが開き、泣きながら入ってきたのはいわずと知れた、グンマ。
そのまま高松に抱きついて子供のように泣きじゃくる。
「どうなされたのですか?」
優しくあやす手に落ち着いたのか顔を上げたグンマは総帥よりも先にあの島で起きたことを語り始めた。


そして、見ることができた彼の姿。
その姿は、ある親友を思い出す。
本部にいたときよりも強く感じるのは、同じように南国の風を纏っていたからだろう。
違うものだと信じる身にはとても辛い、感覚だった。
それでも、生き生きとしているその様に安堵したのも事実。


親友に似ていることで、救われたのは自分なのかもしれない。
グンマを守りながらの逃走は安易に出来た。それは彼らがこちらを傷つけるつもりがないからだろう。
それが、益々高松の傷を癒していくようだった。
「シンちゃん、元気だったでしょ」
あっけらかんに笑うその姿はただ無邪気にしか感じられない。
しかし、高松は知っている。この笑顔の下に隠されている、怖いほどの決意を。
もし誰かにたずねることが出来るのならば、彼はこう聞いただろう。
生まれつき善悪の区別をつけることがなかったものと、常識を知りなおかつそれでも罪を負おうとしようとしているもの。どちらがより罪深いだろうか、と。
恐らく、グンマは何かを掴んでいるのだと高松は確信している。だからこそ、自分をあの島へと連れて行ったのだと。
「高松?」
「いえ、なんでもありませんよ」
不安そうに見上げてくる被保護者に笑いかける。
その性格ゆえに、秘石眼を持たぬその瞳に一族として軽んじられている青年は、しかし誰よりも怖い存在だ。
「大丈夫ですよ」
そして知ってしまってからの高松の立場は変わってきた。
「総て私に任せた下さればいいんですよ」
彼に、何かをさせてはならない。
それが高松の結論だった。
もしも誰かにグンマのことを知られた場合、その神輿に祭り上げられないとは限らない。
誰よりも怖いとはいえ、世間から隔絶されたグンマはまだまだ甘いところがある。そして研究一筋だったその体は純粋な力には敵う事がない。
だから、遠ざける。彼を傷つけると思われる総てものから。
「うん、分かった」
その答えがどれだけ虚しいものだと知っていても。



「それが事の顛末か」
彼は6つの碧眼を知っている。
そのどれもが違う色を宿しているが、その中でもっとも深く激しい色を持っているのは目の前に君臨している覇者だけだろう。
「ええ。グンマ様が望まれましたので」
しかし、その視線を受けても怯まず、笑っていられる自分も相当の狸なのだろう。
島に向かったのはグンマが帰ってきてから直。必要なものだけを揃えて、そのまま出発したのだ。総帥の許可も得ず。
「自分のしたことが命令外のことだということは分かっているのか?」
「どこがです?私はグンマ様の望まれたことをしただけ。そしてグンマ様はシンタロー様を連れ戻すために私を連れて行ったのですよ」
内心はともかく、伊達に年を重ねてきたわけではない。平常心を装い受け流す。
普段であればその態度に笑って許すマジックだが今回だけはそうもいかない。
マジックを常でいられなくするものが、あの島にはあるのだから。
「……今回は許そう。しかし、次はないと思え」
「ええ、分かっていますよ。私も命が惜しいのですからね」
心持引き締まった口元に、ようやく怒りを納めたマジックだったがふとある疑問を思い出した。
それは1年以上前の不可解な出来事についてだ。
「ひとつ、尋ねるが…」
「なんです?今回の成果については報告した以上のものはありませんよ」」
「いや、グンマのことだが――本当に秘石眼はないのだな?」
その問いに、眉をひそめる。
あの瞳に関してならば、ある程度の研究は進められているものの一族の感知能力に比べればまだまだ拙いもの。つまり、彼らが感じたのでなければ他のものが分かるわけがない。
「ええ。もしかしてグンマ様からも何か感じ取られたのですか?」
だとしたら状況は一変する。
シンタローが本部からいなくなったということを知っているものは実は一握りしかいない。
混乱を恐れたための処置だがそれもここまで長期化すると隠すことが困難になってきている。
そこへ今まで秘石眼を持っていないとされていたグンマにその反応があったとしたら?
悪条件が重なりすぎている。
それは誰よりもグンマの好まぬ展開だ。
そんな心中を知ってか、ゆっくりと頭を振る。
「いや、只気になっただけだ」
そして手で退出を促され、高松は一抹の不安を抱えながら戻るべきラボへと向かった。


このとき、二人は知る由もなかった。
それは過去にそのような例がなかったからといえるだろう。
そう、彼は一族の中でも稀に見る、否、もしかした始まって以来の逸材であることを。








<後書>
お待たせしたのに、なぜかミドル二人のお話…
いやはや、日記のままでやったほうが楽だったな~と思いつつ、結構熱中してます。
…ついてきている人が少ないと分かっていても、楽しいものは楽しいんですよ。

趣味に走って申し訳ないと思うのですが、まだまだ続きます(でも、後少しかな?)
最終目標は、髪を切って弟分が出来た頃までを目安に。


…前にグンマ様はあの島が手に入れたものに自分の意思を伝える勇気みたいなことを書きましたが、もしかしたらそれ以上のものを手に入れたのかもしれないと思う、今日この頃でした。


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