士官学校時代からとても気になっていて。
彼の黒い艶のある髪だとか、真っ直ぐな気性とか、総てが自分には輝いて見えた。
でも、彼は自分の所属する団の総帥であるマジックの息子で。
一生報われない恋心を軋む胸に抱いているしかなく。
好きと伝える事すら許されないこの気持ち。
彼が唯一自分に興味を持ってくれたのは、日本人にあるまじき金色の髪と青い瞳。
その色、いいよな。と、言ってくれたから、特に好きでもなかったこの色が自慢になって。
いつしか伸ばすようになっていた。
憧れの人。
彼に話しかけてもらえた、会話してくれた、それだけで今日が素晴らしく意味のあるものになっていく。
なのに。
突然届いた訃報に、ミヤギは愕然とするのだった。
“シンタローが秘石を持って逃げ出した”
その情報に耳を疑った。
シンタローは頭のいい奴で。
どうしてそんな馬鹿な真似をしたのだろうと、ミヤギは普段殆ど使われない頭を使って考えた。
例え総帥の息子であろうとも、総帥の物を盗んだとなれば罰を受ける。
それはシンタローも解っているはずなのに。
しかし、悲しいかな、自分が忠誠を誓ったのはシンタローではなくマジック。
団がシンタローを連れ戻し処分を決定すると言われればそれに従わなければならない。
総帥が右と言ったら右、左と言ったら左。
団とはそうゆうものであり、ミヤギも又、ガンマ団の士官学校でそう教わった。
裏切り者には死を。
これは教訓。
世界一の殺し屋集団なのだ。
その位は当たり前だろう。
「そっちにシンタローは居ただぁらかミヤギ君!」
「いや、こっちには居ねぇべ!」
警報機がやけに煩くなり響く。
団員達が血眼になって探したにも関わらず逃げおおせたシンタローに、ミヤギは素直に流石だと関心する。
程なくして、シンタローと士官学校時代の同期がマジックに呼び出された。
集まったのは100名。
数人かけているのは戦いで殉職した者がいるからだ。
「君達に集まって貰ったのは他でもない。シンタローを連れ戻して来られる人選を探している。君達はシンタローと同期だ。シンタローのパターンを他の者達よりは知っているだろう。勿論連れ帰って来たあかつきにはそれ相当のご褒美をあげるよ。誰か行ける者は居るかい?」
“褒美”という甘美な響きにざわついた。
行くか行かないか。迷う所でもある。
行って運良くシンタローを連れ戻して来られれば英雄だろう。
しかし、その可能性は限りなく低い。
なんていったって、相手はガンマ団No.1の殺し屋なのだ。
失敗すれば二度とガンマ団には戻れないだろう。
運が悪ければ殺される危険性もある。
しかし。
皆が悩んでいる間、ミヤギはスッと手を上げた。
褒美が欲しいとか、そんな理由じゃない。
ただ単にシンタローに真相を聞きたかったから。
あの頭はいいが、真っ直ぐで、自分の意思を貫く彼が何故こんな騒動を起こしたのか。
大体の予想はついている。
多分、弟の事だろう。
でも、それだけだろうか?
シンタローはマジックを恐れながらも愛している。
それは家族だけが持つ無償の愛で。
だからこそシンタローはマジックから離れる事ができなかった。
例え弟を監禁する父親であっても。
「ミヤギ、だったね。解った。第一の刺客は君に任せよう。」
マジックは少しだけ笑いを讃え、そのまま背を向け、そのまま去っていった。
マジックの姿が見えなくなると、隣に居たトットリがミヤギの腕を掴んだ。
「どうしたんだぁらか、ミヤギ君ッツ!シンタローに僕達が敵う訳ないっちゃ!」
「そっだらこと解んねーべ!オラは行くっつったら行く!」
「褒美だって、命あっての物種だっちゃよ。」
「褒美とかそんなん関係ねぇ!オラはスンタローに勝ってNo.1の座を取りたいだけだべ!」
嘘だった。
本当はシンタローに会いたい、ただそれだけ。
いつも見てしまう。
居ないはずの黒髪を。
あの声を。
ガンマ団を取るかシンタローを取るか、まだ答えは見つからないが、それでもシンタローに会いたい気持ちは本物で。
心配するトットリには申し訳ないが、ミヤギの決心は変わりなく。
「僕等離れててもベストフレンドだっちゃよ。」
「勿論だべ、トットリ。」
ガッシリと熱い友情の言葉と握手を交わしたのだった。
出発は今すぐらしく、ミヤギは簡単に荷物を纏めるとまるたに乗ってシンタローの元へと出発した。
パプワ島についてからいろいろあった。
しゃべる生物に無敵のちみっ子。
そしてそのちみっ子にめちゃめちゃこき使われているが、見た事もない位生き生きとしたシンタロー。
全力で戦ったがあっさり負けて植物にされた事もあった。
次々と新しい刺客が現れたりもした。
それでもシンタローは全戦全勝。
No.1の名は伊達ではなかった。
シンタローにリベンジする為、トットリとミヤギはよくコンビを組んであれやこれやと考える。
いつも失敗するのだが、それでもやるのだ。
「ミヤギ君、僕そろそろバイトの時間だっちゃ。」
「こげな夜遅くにか?」
「遅くって…そんなに遅くないっちゃよ。」
「それもそうだべな。」
パプワ島には時計がない。
だがら日が沈むと、とっぷりと暗くなったように思える。
トットリを送り出した後、ミヤギは何もする事がなく、横にごろんと寝転がった。
星が近くに見える。
手を伸ばせばそこにある気がした。
「何してんだ、オメー。」
気を抜いていたのだろう。
ミヤギは声をかけられて初めてシンタローの存在を知った。
食料を取りに来たのか、大きな、蔓で編んだ籠をしょっている。
「ス、スンタロー!!」
いきなり目の前に現れた人物に、思わず大声を出した。
そして、素早く起き上がる。
「な、なすてオメーがここに居るべ!!」
そう言って、生き字引の筆の柄に手をかける。
戦闘体制だ。
しかし、当のシンタローは特に気にした様子もなく、さっさとミヤギの場所から離れて行く。
どうやら、ただ通り道だっただけらしい。
オラ、めちゃくちゃ意識しすぎだべ……!
むしろ、シンタローが俺様過ぎるだけなのだが、惚れた弱みというか、なんというか。
それだけでなく、ミヤギの頭が弱いというか……。
「無視すんでねーべ!スンタローッツ!!」
「アアン?何だヨ。」
「クッ……自分から質問投げかけてきたくせにこの仕打ちはねーべ……」
悔しがるミヤギにシンタローはたいした興味もないとばかりにちらっと一瞥してさっさと行こうとした。
なので、慌ててシンタローの腕を掴む。
「き、今日こそオメを倒すてガンマ団No.1の座を頂くべ!!」
シンタローの腕を掴んだまま、生き字引の筆を抜こうとした時。
「お前に俺を倒せる訳ねーだろ。……だってお前、俺に惚れてるもんナ。」
…………
…………
…………
一瞬時が止まったと思った。
サワサワと風が木々を揺らす音すら聞こえない。
「……な、なすて……」
声が裏返ってしまう。
隠せてた。隠し通せてた。
確かにそう思ったのに。
どうしてこの男には解ってしまうのだろう。
考えを読まれてしまうのだろう。
「えッ、マジで?」
「は?」
ミヤギの慌てぶりを見たシンタローは内心慌てた。
冗談で言った言葉。
ミヤギとは士官学校時代からの知り合いであった。
昔からシンタローに対して尊敬しているような所があって。
シンタローと同じ学年の人間は三つのパターンがあった。
一つはガンマ団総帥の息子である自分に気に入られようと媚びを売る人間。
もう一つは、そんなシンタローを疎ましく思う人間。
そして、最後の一人は、シンタローをシンタローとして見て尊敬する人間。
ミヤギはこの三番目のタイプの人間であった。
だが、まさか惚れてるなんて。
「騙したんだべか!スンタロー!!」
「人聞きの悪い言い方すんなよナ。オメーが勝手にベラベラ喋ったんじゃねーか!」
「オラ、ベラベラなんて喋ってねーべ!」
「喋ったからこーなったンじゃねーかッツ!」
「それはスンタローが知ってるよーな口ぶりだったからだべ!」
「だからー……やめよう。水掛け論だ。」
ふぅ、と一息ついて、シンタローはその場に腰を落とした。
背負っていた籠を横に置いてミヤギを見上げる恰好になる。
立ち尽くしていたミヤギだったが、自分だけ立っているのも、と思い、地面に座った。
「ま、一回位なら抱かせてやってもいいぜ。」
「は?」
ミヤギが座ったと同時に言われ、これでもかという位、間抜けな顔をした。
何て言った?
パチクリと目をしばたかせた。
「俺、お前嫌いじゃねーし、お前の髪と目の色、結構好きだし。」
「え、と……」
これはスンタローも好き、とかいう美味しい展開なんだべか。
ドキドキしながらシンタローを見る。
動悸がしてるのだから当然顔も熱くなってきた。
静まれ~!静まるベ!オラの心臓ッツ!!
ゴクリと生唾を飲み込む。
そんな雰囲気のせいか、はたまた動悸のせいか、いつもよりシンタローが色っぽく見えた。
「だけど付き合うとか、そーゆーのはナシな。」
え。
シンタローの言葉にミヤギは固まった。
それは俗に言う体だけの関係ってやつだべか?
「………馬鹿にすんでねーべスンタロー。そんなの要らない。オメも、もっと自分の体、大切にすろ!」
そうだ、そんな心が伴っていない関係なんてなりたくない。
両思いかも、なんて浮かれていた自分が恥ずかしい。
「恋人なんてのになっちまったらその時点から別れのカウントダウンだぜ。俺はお前とはそうなりたくない。」
真面目な顔つきで言われた。
「そ、そんな事言われても騙されねーべ。心が大事なんだ!」
「俺はきっと誰とも付き合えない。オメーも解ってンだろ?秘石取り戻して、コタローを外の世界に出せたとしても、結局俺はマジックに掴まっちまう。そうゆう運命なんだよ。」
そう吐き捨てるように言うシンタロー。
オラと一緒に逃げよう。コタロー様の事は忘れちまえ!
そう言いたいのを喉元まで出かかって言うのを止めた。
言える訳がない。
だって、そうだろう?
コタローの為に危険を犯して、父であり、総帥であるマジックから逃げ出した。
そして。
ミヤギは思い出す。
学生時代、コタローを監禁された時のシンタローを。
あんなに明るくて元気だったシンタローが人が変わったようにニコリともしなくなった。
その位弟が大切なのだ。
自分はどうなってもいいから弟を助けたいのだろう。
ああ、そうか。
それが秘石を持ち出した理由か。
答えはこんなに簡単だったのだ。
「オメーだってガンマ団の人間である以上、総帥であるマジックには逆らえねーだろ。」
その腕を握って逃げていける程自分は強くもないし、弟を見捨てろ、なんて言える権利もない。
体だけの関係はシンタローにとっての最大限の愛情の証なのだと気付いた。
やはりシンタローは頭がいい。
常に自分の一歩先を見ている。
「で、すンの?しねーの?言っとくが、したからってイイ事なんて一つもねーぜ?」
少し間が開いてから、ミヤギの形の良い唇が動く。
「する。」
「ん、ふ、ぁッ!」
控え目な鼻にかかった声が辺りに漏れた。
既に暗くなっているので、ナマモノも家に帰っているらしく、昼間の喧騒が嘘のように静まりかえっていた。
街頭なんてものもないから、明かりは空に浮かぶ三日月だけ。
その三日月も雲に隠れようものなら辺りは真っ暗になってしまう。
体だけの関係をあれ程拒んでいたミヤギではあったが、それがシンタローの最大の譲歩だと気付いたお陰か熱くシンタローを抱く。
南国の島だから開放的になっているのも加わるが、真ん中の芯の部分は憧れの人を抱いている高揚感。
今オラが触ってる髪も、顔も、胸も、四肢も全てスンタローのモンだ。
そう考えると、益々興奮する。
「あ、あふ、ミ、ミヤギ……ッツ!」
「スンタロー……」
確かめるようにシンタローの顔を指で撫でる。
ミヤギの金色の髪がサラリとシンタローの汗ばんだ腹に落ちる。
シンタローの黒髪も辺りに散らばるように流れた。
「あ、あ、」
ツンと尖った乳首に手をかける。
一差し指と親指で摘んでやればさらに固くなって指を押し返す。
体を揺らし、シンタローの中へ既に入っている己の雄は内側から締まる肉に絡められ正直直ぐに達してしまいそうだった。
下と上。
その両方を犯されて、シンタローも気が狂いそうな程感じでいて。
ミヤギの事は昔から目についていた。
その金色の髪と青い目が好きだった。
そして何より、その屈託のない笑顔。
秘石眼とは違う温かい青い瞳。
隠す事のないお国言葉。
彼が自分を好きだという事は昔から知っていたが、恋愛対象として見ている事は知らなかった。
だが、そんなミヤギに今自分は抱かれている。
「……大丈夫だべか?スンタロー……」
白い肌だから頬が赤いのがよく解る。
「大丈夫に……ッツき、決まってんだろ……?」
そう言ってシンタローはミヤギを抱きしめた。
鍛え抜かれた肌がミヤギの布一枚ごしに密着する。
熱い吐息がミヤギの耳にかかり、益々興奮した。
そして。
「ミヤギッツ……もっと、もっと、激しく…ッツ!!忘れさせて……!!」
「……ッツ!!」
悲しくなった。
それはシンタローの気持ちがここにはないと勘違いした訳じゃない。
ダイレクトに気持ちが伝わったから。
この思い運命から逃れられないシンタロー。
一時でいいから全て忘れたいのだろう。
何も考えず、ただ子供のように全て忘れたいのだ。
あの頃に戻りたいのだ。
「ン、ふッツ!」
「いくぞ、スンタロー……。」
シンタローの足を思いきり開かせ、膝を肩の方まで折り曲げる。
流石に恥ずかしいのか、シンタローは己の手の甲で顔を隠した。
「オラが忘れさすてやるべ。」
今にも泣きそうなシンタローにそう投げかけ、ミヤギは自信をギリギリまで抜き取ると一気に貫いた。
「ああああああッツ!!」
声をあらわにシンタローが叫ぶ。
「んんッツ!!」
その瞬間、キュウウッ!と内壁が締まり、ミヤギは力を入れて堪えた。
シンタローの顔を伺うと、うっすらと涙で濡れている。
そのまま激しく揺さぶると、ガクガクと腰が揺れ、ビクビクと足が震えていた。
可愛いという思いと、可哀相という思いが交差する。
汗ばんでピッタリとくっついている黒髪の上からおでこにキスをした。
「ふ、う、」
そして、涙を舌で掬った後、唇にも。
「スンタロー、少し口さ開けるべ。」
情にまみれた熱い声で言うと、おずおずとだが、シンタローが口を開く。
そこにミヤギは舌を入れた。
「ん、ンンッツ……!ん、ふッツ!」
くちゅくちゅという水音が聴覚を刺激し、ぬめりとしたミヤギの舌が快感をより一層強いものにしていく。
トロンとした目がやけに官能的だった。
「スンタロー………」
唇を離すと、はっ、はっ、と息を吸うシンタロー。
溢れた唾液がシンタローの唇から流れ落ちた。
「あ、あ、ミヤギッツ!も、もぉやべぇ……ッツ!!俺、も、イッちゃ……!」
ヒクヒクとシンタローは体を痙攣させたかと思うと、ミヤギの服の端を強く握った。
「アッ、アッ、アアッ!いっちゃッツ―――!!」
「――ッツ!!」
ビクビクと体をわななかせ、シンタローは白濁の液体を思いきり吐いた。
その官能的な表情を見たミヤギも又、シンタローの中に己の精を吐き出したのであった。
事が終わり、肩で息をする二人。
荒い息遣いがやけに響いているな、と感じた。
トットリはまだ帰って来ない。
この有様を見せる訳にもいかなかったから良いのだが。
ほんの数分熱に浮かれた体を寄せ合っていた二人であったが、シンタローは直ぐに衣服を整え始めた。
それを止めたいミヤギであったが、止める術を彼は知らない。
恋焦がれていたシンタローを先程までこの腕で抱いていたのに。
一気に現実に戻される気分だった。
夢でも見ていたような気分になる。
唯一夢でないと理解出来る事があるとすれば、まだ覚めやらぬ熱と、中にまだ残る快感。
「忘れろとかは言わねぇ。この事は誰にも言うな、とも言わねぇ。」
見出した衣服を完璧に整え、腰の紐を縛りながらシンタローが呟いた。
シュ、と、布の擦れる音がした。
既に一つに縛った髪が暗闇より黒くて、振り向いた解きに綺麗に弧を描く。
「確かに俺はお前に抱かれてお前は俺を抱いた。でも、それ以上にはなれない。」
「解ってるべ。それを承知でオメを抱いたんだ。」
「だけど俺はお前を……」
最後の言葉は聞こえなかった。
言わなかっただけかもしれない。
ミヤギも衣服を整えた。
その間帰ろうとしたシンタローの後ろからミヤギの声が聞こえる。
「オラはオメが好きだ。」
「――ッツ!!」
ビクンとシンタローは肩を一瞬震わせた。
「サンキュ。」
消えそうな声でシンタローは走り出す。
ミヤギは止めなかったし、シンタローも振り向かなかった。
月明かりだけが二人を平等に照らす。
なんでこの道を選んでしまったんだろう。
二人の思いは交差するばかり。
終わり
彼の黒い艶のある髪だとか、真っ直ぐな気性とか、総てが自分には輝いて見えた。
でも、彼は自分の所属する団の総帥であるマジックの息子で。
一生報われない恋心を軋む胸に抱いているしかなく。
好きと伝える事すら許されないこの気持ち。
彼が唯一自分に興味を持ってくれたのは、日本人にあるまじき金色の髪と青い瞳。
その色、いいよな。と、言ってくれたから、特に好きでもなかったこの色が自慢になって。
いつしか伸ばすようになっていた。
憧れの人。
彼に話しかけてもらえた、会話してくれた、それだけで今日が素晴らしく意味のあるものになっていく。
なのに。
突然届いた訃報に、ミヤギは愕然とするのだった。
“シンタローが秘石を持って逃げ出した”
その情報に耳を疑った。
シンタローは頭のいい奴で。
どうしてそんな馬鹿な真似をしたのだろうと、ミヤギは普段殆ど使われない頭を使って考えた。
例え総帥の息子であろうとも、総帥の物を盗んだとなれば罰を受ける。
それはシンタローも解っているはずなのに。
しかし、悲しいかな、自分が忠誠を誓ったのはシンタローではなくマジック。
団がシンタローを連れ戻し処分を決定すると言われればそれに従わなければならない。
総帥が右と言ったら右、左と言ったら左。
団とはそうゆうものであり、ミヤギも又、ガンマ団の士官学校でそう教わった。
裏切り者には死を。
これは教訓。
世界一の殺し屋集団なのだ。
その位は当たり前だろう。
「そっちにシンタローは居ただぁらかミヤギ君!」
「いや、こっちには居ねぇべ!」
警報機がやけに煩くなり響く。
団員達が血眼になって探したにも関わらず逃げおおせたシンタローに、ミヤギは素直に流石だと関心する。
程なくして、シンタローと士官学校時代の同期がマジックに呼び出された。
集まったのは100名。
数人かけているのは戦いで殉職した者がいるからだ。
「君達に集まって貰ったのは他でもない。シンタローを連れ戻して来られる人選を探している。君達はシンタローと同期だ。シンタローのパターンを他の者達よりは知っているだろう。勿論連れ帰って来たあかつきにはそれ相当のご褒美をあげるよ。誰か行ける者は居るかい?」
“褒美”という甘美な響きにざわついた。
行くか行かないか。迷う所でもある。
行って運良くシンタローを連れ戻して来られれば英雄だろう。
しかし、その可能性は限りなく低い。
なんていったって、相手はガンマ団No.1の殺し屋なのだ。
失敗すれば二度とガンマ団には戻れないだろう。
運が悪ければ殺される危険性もある。
しかし。
皆が悩んでいる間、ミヤギはスッと手を上げた。
褒美が欲しいとか、そんな理由じゃない。
ただ単にシンタローに真相を聞きたかったから。
あの頭はいいが、真っ直ぐで、自分の意思を貫く彼が何故こんな騒動を起こしたのか。
大体の予想はついている。
多分、弟の事だろう。
でも、それだけだろうか?
シンタローはマジックを恐れながらも愛している。
それは家族だけが持つ無償の愛で。
だからこそシンタローはマジックから離れる事ができなかった。
例え弟を監禁する父親であっても。
「ミヤギ、だったね。解った。第一の刺客は君に任せよう。」
マジックは少しだけ笑いを讃え、そのまま背を向け、そのまま去っていった。
マジックの姿が見えなくなると、隣に居たトットリがミヤギの腕を掴んだ。
「どうしたんだぁらか、ミヤギ君ッツ!シンタローに僕達が敵う訳ないっちゃ!」
「そっだらこと解んねーべ!オラは行くっつったら行く!」
「褒美だって、命あっての物種だっちゃよ。」
「褒美とかそんなん関係ねぇ!オラはスンタローに勝ってNo.1の座を取りたいだけだべ!」
嘘だった。
本当はシンタローに会いたい、ただそれだけ。
いつも見てしまう。
居ないはずの黒髪を。
あの声を。
ガンマ団を取るかシンタローを取るか、まだ答えは見つからないが、それでもシンタローに会いたい気持ちは本物で。
心配するトットリには申し訳ないが、ミヤギの決心は変わりなく。
「僕等離れててもベストフレンドだっちゃよ。」
「勿論だべ、トットリ。」
ガッシリと熱い友情の言葉と握手を交わしたのだった。
出発は今すぐらしく、ミヤギは簡単に荷物を纏めるとまるたに乗ってシンタローの元へと出発した。
パプワ島についてからいろいろあった。
しゃべる生物に無敵のちみっ子。
そしてそのちみっ子にめちゃめちゃこき使われているが、見た事もない位生き生きとしたシンタロー。
全力で戦ったがあっさり負けて植物にされた事もあった。
次々と新しい刺客が現れたりもした。
それでもシンタローは全戦全勝。
No.1の名は伊達ではなかった。
シンタローにリベンジする為、トットリとミヤギはよくコンビを組んであれやこれやと考える。
いつも失敗するのだが、それでもやるのだ。
「ミヤギ君、僕そろそろバイトの時間だっちゃ。」
「こげな夜遅くにか?」
「遅くって…そんなに遅くないっちゃよ。」
「それもそうだべな。」
パプワ島には時計がない。
だがら日が沈むと、とっぷりと暗くなったように思える。
トットリを送り出した後、ミヤギは何もする事がなく、横にごろんと寝転がった。
星が近くに見える。
手を伸ばせばそこにある気がした。
「何してんだ、オメー。」
気を抜いていたのだろう。
ミヤギは声をかけられて初めてシンタローの存在を知った。
食料を取りに来たのか、大きな、蔓で編んだ籠をしょっている。
「ス、スンタロー!!」
いきなり目の前に現れた人物に、思わず大声を出した。
そして、素早く起き上がる。
「な、なすてオメーがここに居るべ!!」
そう言って、生き字引の筆の柄に手をかける。
戦闘体制だ。
しかし、当のシンタローは特に気にした様子もなく、さっさとミヤギの場所から離れて行く。
どうやら、ただ通り道だっただけらしい。
オラ、めちゃくちゃ意識しすぎだべ……!
むしろ、シンタローが俺様過ぎるだけなのだが、惚れた弱みというか、なんというか。
それだけでなく、ミヤギの頭が弱いというか……。
「無視すんでねーべ!スンタローッツ!!」
「アアン?何だヨ。」
「クッ……自分から質問投げかけてきたくせにこの仕打ちはねーべ……」
悔しがるミヤギにシンタローはたいした興味もないとばかりにちらっと一瞥してさっさと行こうとした。
なので、慌ててシンタローの腕を掴む。
「き、今日こそオメを倒すてガンマ団No.1の座を頂くべ!!」
シンタローの腕を掴んだまま、生き字引の筆を抜こうとした時。
「お前に俺を倒せる訳ねーだろ。……だってお前、俺に惚れてるもんナ。」
…………
…………
…………
一瞬時が止まったと思った。
サワサワと風が木々を揺らす音すら聞こえない。
「……な、なすて……」
声が裏返ってしまう。
隠せてた。隠し通せてた。
確かにそう思ったのに。
どうしてこの男には解ってしまうのだろう。
考えを読まれてしまうのだろう。
「えッ、マジで?」
「は?」
ミヤギの慌てぶりを見たシンタローは内心慌てた。
冗談で言った言葉。
ミヤギとは士官学校時代からの知り合いであった。
昔からシンタローに対して尊敬しているような所があって。
シンタローと同じ学年の人間は三つのパターンがあった。
一つはガンマ団総帥の息子である自分に気に入られようと媚びを売る人間。
もう一つは、そんなシンタローを疎ましく思う人間。
そして、最後の一人は、シンタローをシンタローとして見て尊敬する人間。
ミヤギはこの三番目のタイプの人間であった。
だが、まさか惚れてるなんて。
「騙したんだべか!スンタロー!!」
「人聞きの悪い言い方すんなよナ。オメーが勝手にベラベラ喋ったんじゃねーか!」
「オラ、ベラベラなんて喋ってねーべ!」
「喋ったからこーなったンじゃねーかッツ!」
「それはスンタローが知ってるよーな口ぶりだったからだべ!」
「だからー……やめよう。水掛け論だ。」
ふぅ、と一息ついて、シンタローはその場に腰を落とした。
背負っていた籠を横に置いてミヤギを見上げる恰好になる。
立ち尽くしていたミヤギだったが、自分だけ立っているのも、と思い、地面に座った。
「ま、一回位なら抱かせてやってもいいぜ。」
「は?」
ミヤギが座ったと同時に言われ、これでもかという位、間抜けな顔をした。
何て言った?
パチクリと目をしばたかせた。
「俺、お前嫌いじゃねーし、お前の髪と目の色、結構好きだし。」
「え、と……」
これはスンタローも好き、とかいう美味しい展開なんだべか。
ドキドキしながらシンタローを見る。
動悸がしてるのだから当然顔も熱くなってきた。
静まれ~!静まるベ!オラの心臓ッツ!!
ゴクリと生唾を飲み込む。
そんな雰囲気のせいか、はたまた動悸のせいか、いつもよりシンタローが色っぽく見えた。
「だけど付き合うとか、そーゆーのはナシな。」
え。
シンタローの言葉にミヤギは固まった。
それは俗に言う体だけの関係ってやつだべか?
「………馬鹿にすんでねーべスンタロー。そんなの要らない。オメも、もっと自分の体、大切にすろ!」
そうだ、そんな心が伴っていない関係なんてなりたくない。
両思いかも、なんて浮かれていた自分が恥ずかしい。
「恋人なんてのになっちまったらその時点から別れのカウントダウンだぜ。俺はお前とはそうなりたくない。」
真面目な顔つきで言われた。
「そ、そんな事言われても騙されねーべ。心が大事なんだ!」
「俺はきっと誰とも付き合えない。オメーも解ってンだろ?秘石取り戻して、コタローを外の世界に出せたとしても、結局俺はマジックに掴まっちまう。そうゆう運命なんだよ。」
そう吐き捨てるように言うシンタロー。
オラと一緒に逃げよう。コタロー様の事は忘れちまえ!
そう言いたいのを喉元まで出かかって言うのを止めた。
言える訳がない。
だって、そうだろう?
コタローの為に危険を犯して、父であり、総帥であるマジックから逃げ出した。
そして。
ミヤギは思い出す。
学生時代、コタローを監禁された時のシンタローを。
あんなに明るくて元気だったシンタローが人が変わったようにニコリともしなくなった。
その位弟が大切なのだ。
自分はどうなってもいいから弟を助けたいのだろう。
ああ、そうか。
それが秘石を持ち出した理由か。
答えはこんなに簡単だったのだ。
「オメーだってガンマ団の人間である以上、総帥であるマジックには逆らえねーだろ。」
その腕を握って逃げていける程自分は強くもないし、弟を見捨てろ、なんて言える権利もない。
体だけの関係はシンタローにとっての最大限の愛情の証なのだと気付いた。
やはりシンタローは頭がいい。
常に自分の一歩先を見ている。
「で、すンの?しねーの?言っとくが、したからってイイ事なんて一つもねーぜ?」
少し間が開いてから、ミヤギの形の良い唇が動く。
「する。」
「ん、ふ、ぁッ!」
控え目な鼻にかかった声が辺りに漏れた。
既に暗くなっているので、ナマモノも家に帰っているらしく、昼間の喧騒が嘘のように静まりかえっていた。
街頭なんてものもないから、明かりは空に浮かぶ三日月だけ。
その三日月も雲に隠れようものなら辺りは真っ暗になってしまう。
体だけの関係をあれ程拒んでいたミヤギではあったが、それがシンタローの最大の譲歩だと気付いたお陰か熱くシンタローを抱く。
南国の島だから開放的になっているのも加わるが、真ん中の芯の部分は憧れの人を抱いている高揚感。
今オラが触ってる髪も、顔も、胸も、四肢も全てスンタローのモンだ。
そう考えると、益々興奮する。
「あ、あふ、ミ、ミヤギ……ッツ!」
「スンタロー……」
確かめるようにシンタローの顔を指で撫でる。
ミヤギの金色の髪がサラリとシンタローの汗ばんだ腹に落ちる。
シンタローの黒髪も辺りに散らばるように流れた。
「あ、あ、」
ツンと尖った乳首に手をかける。
一差し指と親指で摘んでやればさらに固くなって指を押し返す。
体を揺らし、シンタローの中へ既に入っている己の雄は内側から締まる肉に絡められ正直直ぐに達してしまいそうだった。
下と上。
その両方を犯されて、シンタローも気が狂いそうな程感じでいて。
ミヤギの事は昔から目についていた。
その金色の髪と青い目が好きだった。
そして何より、その屈託のない笑顔。
秘石眼とは違う温かい青い瞳。
隠す事のないお国言葉。
彼が自分を好きだという事は昔から知っていたが、恋愛対象として見ている事は知らなかった。
だが、そんなミヤギに今自分は抱かれている。
「……大丈夫だべか?スンタロー……」
白い肌だから頬が赤いのがよく解る。
「大丈夫に……ッツき、決まってんだろ……?」
そう言ってシンタローはミヤギを抱きしめた。
鍛え抜かれた肌がミヤギの布一枚ごしに密着する。
熱い吐息がミヤギの耳にかかり、益々興奮した。
そして。
「ミヤギッツ……もっと、もっと、激しく…ッツ!!忘れさせて……!!」
「……ッツ!!」
悲しくなった。
それはシンタローの気持ちがここにはないと勘違いした訳じゃない。
ダイレクトに気持ちが伝わったから。
この思い運命から逃れられないシンタロー。
一時でいいから全て忘れたいのだろう。
何も考えず、ただ子供のように全て忘れたいのだ。
あの頃に戻りたいのだ。
「ン、ふッツ!」
「いくぞ、スンタロー……。」
シンタローの足を思いきり開かせ、膝を肩の方まで折り曲げる。
流石に恥ずかしいのか、シンタローは己の手の甲で顔を隠した。
「オラが忘れさすてやるべ。」
今にも泣きそうなシンタローにそう投げかけ、ミヤギは自信をギリギリまで抜き取ると一気に貫いた。
「ああああああッツ!!」
声をあらわにシンタローが叫ぶ。
「んんッツ!!」
その瞬間、キュウウッ!と内壁が締まり、ミヤギは力を入れて堪えた。
シンタローの顔を伺うと、うっすらと涙で濡れている。
そのまま激しく揺さぶると、ガクガクと腰が揺れ、ビクビクと足が震えていた。
可愛いという思いと、可哀相という思いが交差する。
汗ばんでピッタリとくっついている黒髪の上からおでこにキスをした。
「ふ、う、」
そして、涙を舌で掬った後、唇にも。
「スンタロー、少し口さ開けるべ。」
情にまみれた熱い声で言うと、おずおずとだが、シンタローが口を開く。
そこにミヤギは舌を入れた。
「ん、ンンッツ……!ん、ふッツ!」
くちゅくちゅという水音が聴覚を刺激し、ぬめりとしたミヤギの舌が快感をより一層強いものにしていく。
トロンとした目がやけに官能的だった。
「スンタロー………」
唇を離すと、はっ、はっ、と息を吸うシンタロー。
溢れた唾液がシンタローの唇から流れ落ちた。
「あ、あ、ミヤギッツ!も、もぉやべぇ……ッツ!!俺、も、イッちゃ……!」
ヒクヒクとシンタローは体を痙攣させたかと思うと、ミヤギの服の端を強く握った。
「アッ、アッ、アアッ!いっちゃッツ―――!!」
「――ッツ!!」
ビクビクと体をわななかせ、シンタローは白濁の液体を思いきり吐いた。
その官能的な表情を見たミヤギも又、シンタローの中に己の精を吐き出したのであった。
事が終わり、肩で息をする二人。
荒い息遣いがやけに響いているな、と感じた。
トットリはまだ帰って来ない。
この有様を見せる訳にもいかなかったから良いのだが。
ほんの数分熱に浮かれた体を寄せ合っていた二人であったが、シンタローは直ぐに衣服を整え始めた。
それを止めたいミヤギであったが、止める術を彼は知らない。
恋焦がれていたシンタローを先程までこの腕で抱いていたのに。
一気に現実に戻される気分だった。
夢でも見ていたような気分になる。
唯一夢でないと理解出来る事があるとすれば、まだ覚めやらぬ熱と、中にまだ残る快感。
「忘れろとかは言わねぇ。この事は誰にも言うな、とも言わねぇ。」
見出した衣服を完璧に整え、腰の紐を縛りながらシンタローが呟いた。
シュ、と、布の擦れる音がした。
既に一つに縛った髪が暗闇より黒くて、振り向いた解きに綺麗に弧を描く。
「確かに俺はお前に抱かれてお前は俺を抱いた。でも、それ以上にはなれない。」
「解ってるべ。それを承知でオメを抱いたんだ。」
「だけど俺はお前を……」
最後の言葉は聞こえなかった。
言わなかっただけかもしれない。
ミヤギも衣服を整えた。
その間帰ろうとしたシンタローの後ろからミヤギの声が聞こえる。
「オラはオメが好きだ。」
「――ッツ!!」
ビクンとシンタローは肩を一瞬震わせた。
「サンキュ。」
消えそうな声でシンタローは走り出す。
ミヤギは止めなかったし、シンタローも振り向かなかった。
月明かりだけが二人を平等に照らす。
なんでこの道を選んでしまったんだろう。
二人の思いは交差するばかり。
終わり
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「せっかくのクリスマスだし、恋人らしくどっか行こうよ!」
そうマジックが言い出した。
言ったらウザイ位聞かない奴だから、仕方なくという感じでシンタローは了承した。
シンタローの本音を言ってしまえば嬉しいのだが、表面では表現できない性格なので終始仏頂面。
「やだよ。さみーし。」
「何でそんな事言うの!クリスマスは世界で1番恋人達が愛を語り合う日なんだよッツ!」
シンタローが座っている机の上に両手を思いきり叩く。
バンッ!!と大きな音がしたので、ビク、と、シンタローはマジックを見た。
なんだかんだ言ってシンタローはマジックを一目置いている。
シンタロー自身はそうだと認めないだろうが、心の奥底ではマジックを自分より上だと思っていて。
「シンちゃん、パパの話し聞いてる?」
「きーてるヨ。だから、行きたくねぇんだって言ってんだろ!」
「……どうして。」
マジックの秘石眼が光った。
オイオイ、息子脅すんじゃねーヨ!
少したじろいて、シンタローは「解った」と頷きざる得なかった。
それからマジックの行動は早かった。
もう勝手に予約してあるホテルの地図をシンタローに渡し、時間も決めてある。
「じゃ、ここに午後8:00に待ち合わせだよ!」
そう言い残し、マジックは満面の笑みで、じゃあね、と言い残し去っていった。
「………あんだったんだ。」
あまりの迅速さに呆然とするシンタロー。
背中に日差しを浴び、マジックの去ったドアを見つめた。
仕事の合間に何度も時計を見る。
あくまでもチラチラと、人に気付かれないように。
マジックと出かける事を楽しみにしている、という事を他人に知られたくなかったから。
ここからだと、マジックが予約したホテルまでざっと一時間位か。
少し早めに着いたり、ピッタリに着いたりして、マジックに嬉しがられるのも嫌だった。
しかし。
仕事が今日に限って早く終わってしまった。
これならホテルまで充分間に合う。
「チッ!」
舌打ちをしてからシンタローは着替える為に自室へ。
お洒落してマジックに会うという事には疑問はないらしい。
お気に入りの服を着て、コートを羽織って、シンタローは部屋を出た。
地下の駐車場から車を出して目的地へと向かう。
車は混んでいたが、シンタローの予測通り一時間程で着いた。
ネオンが光り輝く豪華なホテル。
いかにもマジックが好きそうなたたずまいで。
そのホテル庭にある、噴水の縁にシンタローは座った。
そこからだと時計がよく見える。
時刻は8時5分前。
時計の文字盤も光っているので、綺麗だし見やすい。
「俺より先に来てねぇなんて何様のつもりだ、あンのクソ親父ッツ!」
小さい声で悪態をつくが、後5分もしたらやってくるであろうマジックの事を思うと、実はそんなに腹がたたない。
どっかりと座り込んで、コートをすっぽりと首まで覆った。
今日は何だかとても冷える。
ぶる、と身を震わせて父が来るのを待った。
約束の時間になって、5分が過ぎ、10分が過ぎてもマジックは現れなかった。
ホテルの中に入るには、シンタローの居る場所のすぐそばを通らないと入れないので先に中に入っている可能性はないだろう。
シンタローが来る前に来ているのだとしたらさっさと煩い位に連絡が入っているはずだ。
約束の時間から一時間を過ぎた頃、目の前にチラチラと白いものが落ちていく。
は、と、白い息を吐きながらシンタローは空を見た。
「雪……」
どうりで寒いはずだ。
ホテルのイルミネーションに反射して、七色にキラキラ輝く雪のカケラ。
寒いが綺麗だなと、シンタローは空を仰いだ。
シンタローは待つ事には慣れている。
小さい時から父はいつも多忙だったから、決められた時間いっぱい一緒に居られた事がない。
半ばシンタローも諦めのようなものが身についていて。
だからいつも期待しないように、しないように、と言い聞かせていたのだが、その場になるとどこか期待している自分がいて。
そして裏切られて寂しい気分を味わうのだ。
今回も、総帥業を自分が継いだのだから忙しくない、と。
今回だけは違うと思ってしまっていたがために、いつもより悲しい気分を多く味わってしまった。
涙が出てきそうになる。
遅れるなら連絡位しろっつーの!
ポケットから携帯を取り出すとナイスタイミングでマジックから電話がかかってきた。
かじかむ指で急いで通話ボタンを押すと、マジックと繋がる。
『モシモシ、シンちゃん。』
「おう。」
『パパちょっとお仕事入っちゃって今日行けなくなっちゃった。ごめんね。』
やっぱりな、と思った。
いつもいつもどうして俺は性懲りもなくマジックに期待してしまうんだろう。
「だからやだって言っただろーが。」
『うん。ごめんね。もう待ってた?』
「まさか。」
待ってたって言うのが嫌だった。
楽しみにしてたと思われるのも嫌だったし、自分がマジックを必要としてると知られるのも嫌だった。
『そっか。じゃあ、暖かくして寝るんだよ。』
「はーいはいはい。」
『じゃあね。』
「おう。」
ぷつ、と回線が途絶えてから、シンタローは上を見上げた。
温かいものが頬を伝う。
「勝手な奴ーー。」
涙でぼやけているせいで、七色の雪が余計幻想的に見える。
コートの裾でゴシゴシと涙を拭く。
はーー。と一息つくと、白い煙りが口から出た。
「嘘つきシンちゃん。」
聞き覚えのある声が後ろから聞こえて、シンタローは振り返る。
そこには昼間見た父が微笑んで立っていた。
「それを言ったら私も同じか。お待たせシンタロー。」
そう言って抱きしめられた。
寒空の中一時間以上も待たされていたシンタローは冷たくて。
温かいマジックに抱きしめられて、シンタローは軽く目を閉じた。
頬を両手で掴まれると、顔が温かい。
そのままマジックの顔が近づくので、シンタローは黙って目を閉じたのだが、急にばち、と目を開けた。
「アンタ!そんなんじゃ騙されねーぞ!遅くなるならなんでもっと早く連ら…むぐっ!」
怒りをマジックに当てようとしたのに、マジックに唇を手で塞がれて最後まで言えなかった。
「怨みつらみは後で聞くから。
それより私は嬉しいよ、シンタロー。私の為にずっと待っててくれたんだね。」
そう言われてしまえば黙るしかない。
「愛してるよ、シンタロー。今夜は待てそうにない。」
その言葉の意味を理解して、シンタローは顔が熱くなるのを感じた。
ホテルのVipルームに入るやいなや、シンタローはふかふかのダブルベッドに押し倒された。
スプリングの利いたベッドがギシリと大きな音を奏でる。
押し倒したシンタローの上に馬乗りになり、ジャケットを脱ぎ捨てる。
言葉だけじゃなく、本当に今日は余裕がないらしい。
「早くお前に会いたかったよ。待たせてごめんね。」
なんて優しい声で言うから。
いつもの調子がでねぇじゃねぇか。
先程お預けされたキスをかわす。
舌を入れられ歯をなぞられた。
「ふ…ぅんッ…」
口を無理矢理こじ開けられ、ぬめりとしたマジックの舌がシンタローの舌に絡み付く。
苦しいけど心地良い、そんな感覚。
うっとりとしていると、マジックの指がシンタローの素肌に触れた。
キスをしている間にさっさと脱がせていたようだ。
いつもより焦っている感じがシンタローは新鮮で。
マジックの人間らしい部分を目の当たりにした心境だった。
「シンちゃん、ごめんね。」
「ふぇ?」
いきなり謝られて、何の事だろうと気の抜けた返事をすると、いきなり襲い掛かる下半身への快感。
「あああっ!ま、待った!ちょっ!待ったッツ!!あ、あああ!!」
マジックがシンタロー自身を口に加えこんだのだ。
ぢゅぷぢゅぷと唾液を湿らせる。
その快感に、シンタロー自身は促されるようにヒクヒクと天に向くのである。
舌先を固くして、先端をくるくる回すように嘗めたり、上下にグラインドさせたり、シンタローの性感帯を熟知した動きをされる。
「や、やだ!あ、あぅ……」
マジックの髪を掴むと、意外にもサラサラな髪はするりとシンタローの指を抜ける。
口をすぼめて激しく吸い付くと、シンタローはビク、と、体を震わせた。
マジックの口の中では、唾液とは違う、シンタローの出す液体が充満してくる。
それを美味しいと感じてしまうのは相当やばい証拠だろう。
「父さんッツ!あ、あ!」
上で喘ぐシンタローの声に反応してしまう。
可愛くて仕方のない息子。
だから。
つぷり、と濡れたシンタローの蕾に指を入れた。
「あ!あん!だ、ダメだっ!!ああん!!」
唇からは溢れ出した唾液。
目には生理的な涙がうっすらと見える。
「シンちゃん、可愛いよ。」
優しく口は動くのに、指は容赦なくシンタローの蕾をかきまぜる。
シンタローはイヤイヤと頭を振る。
指の本数が段々増えてゆき、三本になった所で一気に引き抜いた。
「やああああッツ!!」
ビクビクン!と、体を震わせるシンタローを見て、既に余裕のないマジックは、シンタローの蕾へ自身を何度かヌルヌルとこすりつけたかと思うと、ずる、と、中へ混入させた。
「ひゃあああっ!」
海老剃りになり、シンタローは目を見開いた。
目の前がチカチカする。
「シンちゃん、シンタロー。」
「あ、あ、とぉさん…!」
マジックの背中に腕を絡め、腰には逃がすまいと無意識のうちに足を絡める。
パンパンと、筋肉のぶつかり合う音が聞こえた。
気持ち良くて死にそうだった。
玉の汗が跳ぶ。
ダイヤモンドみたいにキラキラして見えた。
マジックがシンタローの腰を鷲掴みにして、動かしまくる。
「し、死ぬッツ!死んじゃう!!ちょっ……」
「気絶するまで気持ち良くてしてあげるよ。」
理性は既に手放してしまっていて。
マジックにすがりつく。
マジック自身をくわえ込んだ所が熱くて堪らない。
息が上手くできなくて。
大粒の涙がシンタローの頬をいく筋もつたった。
「シンちゃんの中、きゅうきゅう締まって暖かいよ。」
「て、テメッツ!!」
そーゆー事を言うんじゃねぇ!と言いたくても声がでない。
だからマジックの背中に爪を立ててやった。
「フフ、痛いよシンちゃん。」
でも、嬉しそうに笑うから、シンタローのいやがらせはどうやら逆効果だったらしい。
シンタローの頬に触れるだけのキスをすると、ラストスパートと言わんばかりに激しく腰を打ち付けた。
「ちょ、待っ…!あああっ!!」
余りの激しさに声どころか息を吸うのもやっとで。
マジックの背中をぎゅっと抱きしめる。
そして、マジックの頬に自分の頬を擦り寄せた。
下半身だけが自分のものではないような感覚。
でも、髪を掻きむしりたいくらいの快楽はずっと下半身からふつふつと沸き上がっていて。
熱くてたまならい。
「シンタロー、中に出すよ。」
少しかすれた声でそう言われた。
余裕がないのが見て取れる。
だから。
シンタローは何も言わない代わりに頭を前へコクリと下げた。
その瞬間。
「あああああああッツ!!」
マジックの白濁の液体がシンタローの中に注ぎ込まれる。
その熱と、既に限界だったのが重なり、シンタローも保々同時に精子を吐き出した。
「と…さん……ッツ!」
ドクドクと中に注がれるそれを下半身で感じる。
「あ、あつい……」
グス、と、鼻を啜ると、マジックがシンタローの涙を指で掬ってくれた。
ずる、と、抜かれると、蕾からはマジックの出した液体がゴポと、音をたて、溢れ出した。
「ん、んん…」
「シンちゃん、メリークリスマス。」
ぼんやりとしてきた意識の中、マジックの声だけがはっきりと聞こえて、その心地良さにシンタローは意識を失った。
目が覚めたシンタローは、掠れた声でマジックに聞く。
聞く、というか問い詰める。
それも喧嘩ごしで。
「何で遅れたんだヨ!遅れるなら連絡位しろっつーんダヨッツ!」
その質問に、マジックはニコ、と笑うと、さっき脱ぎ捨てたジャケットのポケットを何やらごそごそと漁る。
取り出したのは小さな箱。
「ンだよ、コレ。」
「まあまあ、開けてみて。」
指輪か、と思い込んでいたシンタローは度肝を抜かれた。
そこに入っていたのは、ブルーサファイアの原石。
しかもでかい。
「シンちゃんの好きなブルーサファイアを買いに行ってたんだ。買っておいた原石より大きいのが入ったって連絡があったからそれを買いに行ってたら遅くなってしまったよ。」
ごめんね、と、もう一度謝るから、ムカつくけど許してやる。
大好きなブルーサファイアは、やっぱりマジックの目と同じ色をしていた。
終わり。
そうマジックが言い出した。
言ったらウザイ位聞かない奴だから、仕方なくという感じでシンタローは了承した。
シンタローの本音を言ってしまえば嬉しいのだが、表面では表現できない性格なので終始仏頂面。
「やだよ。さみーし。」
「何でそんな事言うの!クリスマスは世界で1番恋人達が愛を語り合う日なんだよッツ!」
シンタローが座っている机の上に両手を思いきり叩く。
バンッ!!と大きな音がしたので、ビク、と、シンタローはマジックを見た。
なんだかんだ言ってシンタローはマジックを一目置いている。
シンタロー自身はそうだと認めないだろうが、心の奥底ではマジックを自分より上だと思っていて。
「シンちゃん、パパの話し聞いてる?」
「きーてるヨ。だから、行きたくねぇんだって言ってんだろ!」
「……どうして。」
マジックの秘石眼が光った。
オイオイ、息子脅すんじゃねーヨ!
少したじろいて、シンタローは「解った」と頷きざる得なかった。
それからマジックの行動は早かった。
もう勝手に予約してあるホテルの地図をシンタローに渡し、時間も決めてある。
「じゃ、ここに午後8:00に待ち合わせだよ!」
そう言い残し、マジックは満面の笑みで、じゃあね、と言い残し去っていった。
「………あんだったんだ。」
あまりの迅速さに呆然とするシンタロー。
背中に日差しを浴び、マジックの去ったドアを見つめた。
仕事の合間に何度も時計を見る。
あくまでもチラチラと、人に気付かれないように。
マジックと出かける事を楽しみにしている、という事を他人に知られたくなかったから。
ここからだと、マジックが予約したホテルまでざっと一時間位か。
少し早めに着いたり、ピッタリに着いたりして、マジックに嬉しがられるのも嫌だった。
しかし。
仕事が今日に限って早く終わってしまった。
これならホテルまで充分間に合う。
「チッ!」
舌打ちをしてからシンタローは着替える為に自室へ。
お洒落してマジックに会うという事には疑問はないらしい。
お気に入りの服を着て、コートを羽織って、シンタローは部屋を出た。
地下の駐車場から車を出して目的地へと向かう。
車は混んでいたが、シンタローの予測通り一時間程で着いた。
ネオンが光り輝く豪華なホテル。
いかにもマジックが好きそうなたたずまいで。
そのホテル庭にある、噴水の縁にシンタローは座った。
そこからだと時計がよく見える。
時刻は8時5分前。
時計の文字盤も光っているので、綺麗だし見やすい。
「俺より先に来てねぇなんて何様のつもりだ、あンのクソ親父ッツ!」
小さい声で悪態をつくが、後5分もしたらやってくるであろうマジックの事を思うと、実はそんなに腹がたたない。
どっかりと座り込んで、コートをすっぽりと首まで覆った。
今日は何だかとても冷える。
ぶる、と身を震わせて父が来るのを待った。
約束の時間になって、5分が過ぎ、10分が過ぎてもマジックは現れなかった。
ホテルの中に入るには、シンタローの居る場所のすぐそばを通らないと入れないので先に中に入っている可能性はないだろう。
シンタローが来る前に来ているのだとしたらさっさと煩い位に連絡が入っているはずだ。
約束の時間から一時間を過ぎた頃、目の前にチラチラと白いものが落ちていく。
は、と、白い息を吐きながらシンタローは空を見た。
「雪……」
どうりで寒いはずだ。
ホテルのイルミネーションに反射して、七色にキラキラ輝く雪のカケラ。
寒いが綺麗だなと、シンタローは空を仰いだ。
シンタローは待つ事には慣れている。
小さい時から父はいつも多忙だったから、決められた時間いっぱい一緒に居られた事がない。
半ばシンタローも諦めのようなものが身についていて。
だからいつも期待しないように、しないように、と言い聞かせていたのだが、その場になるとどこか期待している自分がいて。
そして裏切られて寂しい気分を味わうのだ。
今回も、総帥業を自分が継いだのだから忙しくない、と。
今回だけは違うと思ってしまっていたがために、いつもより悲しい気分を多く味わってしまった。
涙が出てきそうになる。
遅れるなら連絡位しろっつーの!
ポケットから携帯を取り出すとナイスタイミングでマジックから電話がかかってきた。
かじかむ指で急いで通話ボタンを押すと、マジックと繋がる。
『モシモシ、シンちゃん。』
「おう。」
『パパちょっとお仕事入っちゃって今日行けなくなっちゃった。ごめんね。』
やっぱりな、と思った。
いつもいつもどうして俺は性懲りもなくマジックに期待してしまうんだろう。
「だからやだって言っただろーが。」
『うん。ごめんね。もう待ってた?』
「まさか。」
待ってたって言うのが嫌だった。
楽しみにしてたと思われるのも嫌だったし、自分がマジックを必要としてると知られるのも嫌だった。
『そっか。じゃあ、暖かくして寝るんだよ。』
「はーいはいはい。」
『じゃあね。』
「おう。」
ぷつ、と回線が途絶えてから、シンタローは上を見上げた。
温かいものが頬を伝う。
「勝手な奴ーー。」
涙でぼやけているせいで、七色の雪が余計幻想的に見える。
コートの裾でゴシゴシと涙を拭く。
はーー。と一息つくと、白い煙りが口から出た。
「嘘つきシンちゃん。」
聞き覚えのある声が後ろから聞こえて、シンタローは振り返る。
そこには昼間見た父が微笑んで立っていた。
「それを言ったら私も同じか。お待たせシンタロー。」
そう言って抱きしめられた。
寒空の中一時間以上も待たされていたシンタローは冷たくて。
温かいマジックに抱きしめられて、シンタローは軽く目を閉じた。
頬を両手で掴まれると、顔が温かい。
そのままマジックの顔が近づくので、シンタローは黙って目を閉じたのだが、急にばち、と目を開けた。
「アンタ!そんなんじゃ騙されねーぞ!遅くなるならなんでもっと早く連ら…むぐっ!」
怒りをマジックに当てようとしたのに、マジックに唇を手で塞がれて最後まで言えなかった。
「怨みつらみは後で聞くから。
それより私は嬉しいよ、シンタロー。私の為にずっと待っててくれたんだね。」
そう言われてしまえば黙るしかない。
「愛してるよ、シンタロー。今夜は待てそうにない。」
その言葉の意味を理解して、シンタローは顔が熱くなるのを感じた。
ホテルのVipルームに入るやいなや、シンタローはふかふかのダブルベッドに押し倒された。
スプリングの利いたベッドがギシリと大きな音を奏でる。
押し倒したシンタローの上に馬乗りになり、ジャケットを脱ぎ捨てる。
言葉だけじゃなく、本当に今日は余裕がないらしい。
「早くお前に会いたかったよ。待たせてごめんね。」
なんて優しい声で言うから。
いつもの調子がでねぇじゃねぇか。
先程お預けされたキスをかわす。
舌を入れられ歯をなぞられた。
「ふ…ぅんッ…」
口を無理矢理こじ開けられ、ぬめりとしたマジックの舌がシンタローの舌に絡み付く。
苦しいけど心地良い、そんな感覚。
うっとりとしていると、マジックの指がシンタローの素肌に触れた。
キスをしている間にさっさと脱がせていたようだ。
いつもより焦っている感じがシンタローは新鮮で。
マジックの人間らしい部分を目の当たりにした心境だった。
「シンちゃん、ごめんね。」
「ふぇ?」
いきなり謝られて、何の事だろうと気の抜けた返事をすると、いきなり襲い掛かる下半身への快感。
「あああっ!ま、待った!ちょっ!待ったッツ!!あ、あああ!!」
マジックがシンタロー自身を口に加えこんだのだ。
ぢゅぷぢゅぷと唾液を湿らせる。
その快感に、シンタロー自身は促されるようにヒクヒクと天に向くのである。
舌先を固くして、先端をくるくる回すように嘗めたり、上下にグラインドさせたり、シンタローの性感帯を熟知した動きをされる。
「や、やだ!あ、あぅ……」
マジックの髪を掴むと、意外にもサラサラな髪はするりとシンタローの指を抜ける。
口をすぼめて激しく吸い付くと、シンタローはビク、と、体を震わせた。
マジックの口の中では、唾液とは違う、シンタローの出す液体が充満してくる。
それを美味しいと感じてしまうのは相当やばい証拠だろう。
「父さんッツ!あ、あ!」
上で喘ぐシンタローの声に反応してしまう。
可愛くて仕方のない息子。
だから。
つぷり、と濡れたシンタローの蕾に指を入れた。
「あ!あん!だ、ダメだっ!!ああん!!」
唇からは溢れ出した唾液。
目には生理的な涙がうっすらと見える。
「シンちゃん、可愛いよ。」
優しく口は動くのに、指は容赦なくシンタローの蕾をかきまぜる。
シンタローはイヤイヤと頭を振る。
指の本数が段々増えてゆき、三本になった所で一気に引き抜いた。
「やああああッツ!!」
ビクビクン!と、体を震わせるシンタローを見て、既に余裕のないマジックは、シンタローの蕾へ自身を何度かヌルヌルとこすりつけたかと思うと、ずる、と、中へ混入させた。
「ひゃあああっ!」
海老剃りになり、シンタローは目を見開いた。
目の前がチカチカする。
「シンちゃん、シンタロー。」
「あ、あ、とぉさん…!」
マジックの背中に腕を絡め、腰には逃がすまいと無意識のうちに足を絡める。
パンパンと、筋肉のぶつかり合う音が聞こえた。
気持ち良くて死にそうだった。
玉の汗が跳ぶ。
ダイヤモンドみたいにキラキラして見えた。
マジックがシンタローの腰を鷲掴みにして、動かしまくる。
「し、死ぬッツ!死んじゃう!!ちょっ……」
「気絶するまで気持ち良くてしてあげるよ。」
理性は既に手放してしまっていて。
マジックにすがりつく。
マジック自身をくわえ込んだ所が熱くて堪らない。
息が上手くできなくて。
大粒の涙がシンタローの頬をいく筋もつたった。
「シンちゃんの中、きゅうきゅう締まって暖かいよ。」
「て、テメッツ!!」
そーゆー事を言うんじゃねぇ!と言いたくても声がでない。
だからマジックの背中に爪を立ててやった。
「フフ、痛いよシンちゃん。」
でも、嬉しそうに笑うから、シンタローのいやがらせはどうやら逆効果だったらしい。
シンタローの頬に触れるだけのキスをすると、ラストスパートと言わんばかりに激しく腰を打ち付けた。
「ちょ、待っ…!あああっ!!」
余りの激しさに声どころか息を吸うのもやっとで。
マジックの背中をぎゅっと抱きしめる。
そして、マジックの頬に自分の頬を擦り寄せた。
下半身だけが自分のものではないような感覚。
でも、髪を掻きむしりたいくらいの快楽はずっと下半身からふつふつと沸き上がっていて。
熱くてたまならい。
「シンタロー、中に出すよ。」
少しかすれた声でそう言われた。
余裕がないのが見て取れる。
だから。
シンタローは何も言わない代わりに頭を前へコクリと下げた。
その瞬間。
「あああああああッツ!!」
マジックの白濁の液体がシンタローの中に注ぎ込まれる。
その熱と、既に限界だったのが重なり、シンタローも保々同時に精子を吐き出した。
「と…さん……ッツ!」
ドクドクと中に注がれるそれを下半身で感じる。
「あ、あつい……」
グス、と、鼻を啜ると、マジックがシンタローの涙を指で掬ってくれた。
ずる、と、抜かれると、蕾からはマジックの出した液体がゴポと、音をたて、溢れ出した。
「ん、んん…」
「シンちゃん、メリークリスマス。」
ぼんやりとしてきた意識の中、マジックの声だけがはっきりと聞こえて、その心地良さにシンタローは意識を失った。
目が覚めたシンタローは、掠れた声でマジックに聞く。
聞く、というか問い詰める。
それも喧嘩ごしで。
「何で遅れたんだヨ!遅れるなら連絡位しろっつーんダヨッツ!」
その質問に、マジックはニコ、と笑うと、さっき脱ぎ捨てたジャケットのポケットを何やらごそごそと漁る。
取り出したのは小さな箱。
「ンだよ、コレ。」
「まあまあ、開けてみて。」
指輪か、と思い込んでいたシンタローは度肝を抜かれた。
そこに入っていたのは、ブルーサファイアの原石。
しかもでかい。
「シンちゃんの好きなブルーサファイアを買いに行ってたんだ。買っておいた原石より大きいのが入ったって連絡があったからそれを買いに行ってたら遅くなってしまったよ。」
ごめんね、と、もう一度謝るから、ムカつくけど許してやる。
大好きなブルーサファイアは、やっぱりマジックの目と同じ色をしていた。
終わり。
黒く長い髪をたなびかせ、戦場で鬼のように戦う人。
しかし、息子には優しかった。そして、厳しい人だった。
子供は父のようになりたいと願い、父の後ろ姿を見て育つ。
いつか父を超える男になろうと胸に秘めながら。
子供の名前はシンタロー。幾年月がたち、彼は成人を過ぎ、28になる。
しかし、彼の中でもっとも偉大な父親は、背中こそ小さくなりはしたが威厳を持ち、威風堂々としていて。
真っ黒だった髪はいつしか白髪混じりになったが、剣の腕は衰えを感じさせない。
そんな中、大きな戦にシンタローと父は行く事になった。
心戦組の最大の敵であるガンマ団。
沢山の軍団を所有しており、総帥の一族は何やら怪しい術を使うとか。
「シンタロー、油断はするなよ。」
「解ってる。」
父に背中をあずけ、父もまたシンタローに背中をあずけ戦う。
腰に下げた愛刀が、今日はやたらにずっしりと重く感じた。
父は隊長という職務にはついていなかったが、彼の腕は心戦組の隊員全てが一目置いていて。
シンタローはそれを自分のことのように誇らしく思っている。
「配置を言い渡す。」
局長である近藤イサミが幾重にも畳まれた紙を解きながら配置を言う。
シンタロー達は激戦区ではなかったが、要となる場所に配置された。
山南ケースケが調べた所、どうやらその場所にはガンマ団の主要人物が来る事になっているらしい。
総帥の息子か、はたまた兄弟か。
とにかく総帥の血縁者が来る、という情報があったらしい。
腕がなる、と、シンタローは己の愛刀を見る。
黒漆で作られた光沢のある鞘。
中にはきちんと手入れをされた直刃が控えている。
触って感覚を確かめた。
「シンタロー、戦場は遊びじゃないんだ。気を引き締めろよ。」
「解ってるさ、親父!」
眉間にシワを寄せる父親に、シンタローは笑顔で答えた。
激戦区から少し離れた場所が自分達の持ち場であった。
雑魚どもは何人か見たが、山南の言っていた主要人物らしき者は見ていない。
山南さんの言った事は外れた事ねーんだけどナ。
ぼんやりそんな事を考えていたら、父に又叱咤された。
へーへー、解りましたよー。
唇を尖らせ、父を横目で見た後、又刀を構える。
しかし、ここで主要人物を捕らえる事ができたら、位が上がり、隊長になる事だって夢じゃない。
シンタローは野心に燃えた。
胸に抱いた父を超えるという夢を実現できるかもしれない。
期待に胸を膨らませる。
早く来いよー?ガンマ団のお偉方!
ジャリ、と、林から砂を踏む音が聞こえた。
足音からして一人。
この地区を任された隊員達は総てシンタローの目の届く範囲に要る。
終戦したとの情報も通達されていない。
ともすれば。
ガンマ団という事しか考えられない。
一人で複数の中に来るなんて、よっぽどの馬鹿か、それだけ強いかどちらかだ。
後者であればガンマ団に大打撃を与えられる。
自然と鞘を握る手に力が入った。
林から現れたのは金髪碧瞳の男で、真っ赤なブレザーを着ている。
余裕しゃくしゃくな態度、蔑む顔、心戦組の人間なら誰もが知っている顔だった。
主要人物どころじゃない。要の人物そのものだった。
マジック!!
シンタローは初めて見たガンマ団総帥に恥ずかしくも、動けなくなってしまった。
力の差が歴然としている。
これ程までとは。
嫌な汗が背中を伝った。
「覚悟!」
隊員が五人がかりでマジックに襲いかかったが、マジックの瞳が一瞬怪しく光ったかと思うと、隊員達は細切れに吹っ飛んでいた。
「あ、ああ……」
「た、助けてくれッツ!!」
逃げ惑う隊員達。
負け犬にもマジックは容赦はしなかった。
再び光る閃光が、シンタローの横を掠める。
断末魔すら浴びる事を許されなかった隊員は弾け飛んだ。
ビシャ、と、シンタローの頬に隊員の血が飛び散る。
呆然とその光景を見詰めるシンタロー。
さっきまで一緒に生きて戦っていた仲間。
同じ釜の飯を食い、共に笑い、共に悲しんだ。
それを一瞬で奪われた。
コイツに。この男に。
沸々と沸き上がる怒りと悲しみ。
「マジックーーーッツ!!」
気が付いたら刀を握りしめ、泣きながらマジックに向かって行っていた。
許せない、許せない!!
仲間を虫ケラのように殺したこの男を。
しかし、マジックは冷笑すると、又瞳を光らせる。
畜生!アイツに傷を付ける事さえ敵わねぇのかヨ!!
ぎゅ、と目をつぶったシンタローであったが、いつまでたっても痛みが訪れない。
不思議に思って目を開けると、そこには信じられない光景があった。
「無事か、シンタロー……」
全身から血を流す父の姿。
「お、親父……」
信じられないものを見るように、シンタローは父を見た。
シンタローを庇って背中に眼魔砲を受けたようだ。
父の滴り落ちる血の付いた指先が、シンタローの頭を撫でた。
「逃げなさい、シンタロー。そして、生きるんだ。」
一瞬だけ父が笑ったような気がした。
シンタローが父を抱き抱えようと手を延ばしたが、それとすれ違うように父はドシャリと地面に落ちた。
呆然とするシンタロー。
何が起きたか理解できない。いや、したくない。
「と……さん……?」
しゃがんで父に触れてみる。
ドロリとした生暖かい血の感触が不快だった。
触れた所が段々温かさが無くなっていく気がする。
さっきまで動いていた父さん。
生きろ、と、頭を撫でてくれた父さん。
もう、動かなくなった父さん。
「うわああああッツ!!」
叫んで黒い頭をかきむしった。
俺のせいだ!俺が浅はかな行動を取ったから!
油断するな、とあれほど父が言ったのに!!
「父さん!父さん!父さぁんッツ!!」
叫んでも父が動く事はない。
どうやったら父が動くんだっけ?どうやったら人って又息を吹き返すんだっけ?
シンタローはその方法を必死になって探したけれど、そんな方法はあるはずもなく。
涙が先程の感情と入り交じり、より深い悲しみを放出させていた。
「無駄な人口は増えん方がいい。」
悲しみにくれるシンタローにマジックの卑劣な言葉が浴びせられる。
強くきつく睨むシンタローだが、マジックもそんな瞳を真っ向から受けて平然としている。
「テメェなんか人間じゃねぇ!人の皮を被った化け物だッツ!」
そうシンタローが叫んだ瞬間、回りの空気がピリッと震えた。
シンタローは言ってはいけないキーワードを言ってしまったのだ。
「……父の下へ直ぐに連れていってあげようと思ったが、気が変わった。君には死ぬより辛い拷問にかけてあげよう。」
そう言うと、マジックは秘石眼の力でシンタローを押さえ付けた。
父の腹の上に顔を押し付けられる感覚。
身動きが取れない。
「く……ッツ!!」
歯を食いしばって悔しい、と、涙を飲む。
さ、と、マジックがシンタローの後ろにまわると、シンタローの腰にある刀を抜き、帯紐を切った。
ぱさりと落ちる紐。
それと同時に引っ掛けてあった黒漆塗りの鞘も落ちる。
ガシャンと重たい音が耳を掠めた。
無言でシンタローの袴を脱がす。
ぱさ、と絹の擦れる音がした。
あらわになったフトモモと、下半身を隠す褌。
そして、外気に触れられた肌が寒さで鳥肌を立てる。
褌も、紐をシンタローの刀で破かれた。
ビリビリと嫌な音がする。
「よく切れるね、この刀は。手入れを怠っていない証拠だね。」
売ればいくらになるだろうね、なんて言う。
「ふざけ…ンな!ッツ!!返せッツ!!」
その刀は俺が親父から元服の際に貰った刀だ。
一人前の男になったあかつきにくれたんだ!
それをお前なんかに!お前なんかにやるものかッツ!!
下半身を曝されて、秘石眼の力で身動きの取れないシンタローは、ただただ悔しさに唇を噛む。
すると、マジックの指がシンタローの前へ延びてきて、中止部分をいじる。
ビクリと体が強張った。
「ふざけんな!止めろッツ!!」
マジックのテクニックは凄かった。
しゅ、しゅ、と前を激しく動かしたかと思うと、親指で先端をぐりぐりと円を描く。
つるつるした表面をマジックは楽しんだ。
父の死体を押し潰しながらマジックは容赦無しにかきたてる。
「ンンッ!や、やめ……」
酷くしてやるのは簡単だ。
いきなりぶち込んで気絶させたら殴って起こさせる。
しかし、終わった後私だけのせいにして、精神の安定をはかるだろう。
それよりも。
アンアン鳴かせて、気持ち良くさせて、感じさせて。
終わった後心のバランスを崩させる方がよっぽど楽しいじゃないか。
特にこういった人種にはこれが1番きくだろう。
「いやらしい男だね、君は。父親の死体の上で、父親を殺した私になぶられて喜んでる。」
耳元で囁いてやると、蚊の鳴く声で「ち、ちが……」と、聞こえた。
「何が違うんだい?ち〇ぽこんなに大きくして。だらだらヨダレ垂らしてるのに、何が一体違うのか私に教えてよ。」
シンタローの肩を掴み、ぐるりと仰向けにする。
劣情に落ちる自分を嫌悪する顔がそこにあって。
マジックは益々ゾクゾクした。
シンタローは既に力が入らないらしく、それでも必死に快楽から抵抗している。
シンタローの既にはだけた襟からは外気に余り触れていない桃色の乳首が固く尖っていた。
マジックは舌なめずりをした後シンタローの腕を上で束ねると、秘石眼の力を解いた。
圧迫感を抜け出すと、シンタローにはもう快楽しか残されていない。
先程嘗めた唇で、シンタローの乳首を甘く噛む。
「ンンッ!」
ビクリと体を震わせて、声を出さないように唇を強く噛み締める。
「乳首なんかが気持ちいいの。私なんかより、君の方が化け物だね。父親を殺した男に抱かれて喜んでる。」
嫌だ、嫌だ!
快楽に負けそうな自分が死ぬ程嫌だ。
背中に感じる冷たくなっていく父の骸。
バタバタと体を動かしてみるが、マジックにあっけなく押さえつけられた。
「も、やめ、やめて……やめて下さ……」
命令系から懇願になる。
ヒクヒク感じる自分の体に嫌悪する。
ず、ず、と鼻をすすり、生理的な涙が頬を伝った。
その顔にマジックは何故だか引かれた。
久しぶりに感じる高揚感。
体が熱くなるのを感じた。
私はこんな男がタイプだったかな?
自問自答してみるが答えがかえってくるはずもなく。
マジックはそのまま片手をシンタローの尻の間に持っていった。
シンタローの先走りで指は充分過ぎる程濡れていて。
つぷ、と入れると、シンタローは苦痛に歪んだ顔をした。
「ひ、い、痛…いたぁ…ッツ!」
そんな言葉は聞かず、マジックはどんどん指を中に入れ、くるくると何かを探すように指を回した。
「ンひッツ!!」
ビクビクとシンタローが奮えたのを見て、マジックはほくそ笑んだ。
見つけた。
その一点をぐりぐりと集中してやるとシンタローの体は魚のように跳びはねる。「いや!や!やだ!ア、ア、や!やぁッツ!!」
頭をフルフルと震わせて快楽を取ろうと試みるが上手くいくはずもなく。
「ひぁ、ああああッツ!!」
ぶるりと震えたかと思うと、ビクンビクンと性器が奮え、マジックの手の中に白濁の液を吐き出した。
涙でぐちゃぐちゃの顔で呆然とし、荒い息遣いの為、肩が引っ切りなしに動いている。
「う、うう……」
イッてしまった。
父の骸の上で。
父を殺した男の手で。
悲しみと嫌悪と憎悪がぐるぐるとシンタローを渦のように巻き込む。
「まだ終わりじゃないよ。」
悪魔の囁きが耳をかすめた。
初めての快楽にシンタローは脱力しきっていて、足も腰も立たない。
無理矢理足を開かせ、先程までマジックの指が出入りしたソコに別のものが宛てがわれた。
それは指よりも熱くて太いもので。
それが何だか理解できたシンタローはサッと血の気が引いたのを感じた。
「やめ!お願い、やめて!!」
必死になって懇願し、身をよじるが、既にくたびれてしまっている体は思う通りには動いてくれなかった。
「じきにガンマ団がこの戦いを制するだろう。その時総帥不在では示しがつかないからね。早めに終わらせようか。」
言うが早いか、マジックはシンタローの間に自身を推し進めていく。
「ああああ……!」
喉が上下にコクリと動く。
何かにしがみつきたくて、シンタローは無意識のうちにマジックの服を掴んだ。
それにはマジックも驚いた様子だったが、顔には出さず、シンタローの黒髪を撫でた。
「名前は?」
そう聞いた自分にまた驚く。
私が他人に関心を持つなんて。
しかし、一向に返事をしないシンタロー。
だから、下から上へ思いきり突き上げてやった。
ガンガン腰を振られ、奥まで突っ込まれる。
初めての結合で、血がシンタローのフトモモを濡らしていた。
「名前は、と、私は聞いたのだが。聞こえなかったのかな?」
私は気の長い方ではないんだよ。
そう耳元で地を這うような低音で言ってやると、「……ロ…」
ボソッと声が聞こえた。
「もっと大きな声が出せるだろう。さっきまであんなに大声で鳴いていたのだから。」
「……くっ…シ、シンタローッツ!!」
これ以上激しく体を揺さぶらないで欲しくて、シンタローは戸惑っていた己の名前を叫んだ。
「ふぅん。シンタロー君…ね。」
きっと私が彼に興味を持ったのは、彼の中が想像以上に気持ち良かったから、だろう。
だから今度は優しく抱いてやる。
その方が彼は望まないから。
じゅぷ、じゅぷ、といやらしい音が辺りを支配する。
その時、ピピピ、とトランシーバーの音。
マジックも一瞬止まるが、また、行為を再開させる。
鳴っていたのは父のトランシーバー。
「形勢はかなり不利だ。一旦引け!モシモシ、聞こえているかい?もしもーし!」
山南だ。
トランシーバーはこちらから押さないと、会話ができない。
山南が自分達を心配する声を聞きながら二人は快楽を求めていた。
「シンタロー君、ボタン、押してあげようか?」
もしかしたら助けに来てくれるかもしれないよ?
「嫌、押さないでッツ!」
こんな恥態を誰にも見せたくなかった。
マジックが後ろだけでなく、前をいじり始める。
既に限界に近かったシンタローは呆気なく二度目の放出をした。
「と……さん」
それだけ言うと、長い髪がふわりと浮いて落ちた。
きゅ、と締め付けられて、マジックもシンタローの中へ吐き出したのだった。
目が覚めると、見慣れない場所で。
腰に手をやると刀がなく、体に酷く残る鈍痛に夢でなかった事を理解した。
父が死んで、父を殺した人に抱かれて、喘いだ自分。
人の風上にも置けない。
あいつの言う通り俺も、イヤ、俺の方が化け物なのだろう。
服は自分の上着だけ身に纏っていて。
色々思い出すうちに、心が壊れていくのを感じた。
俺は親父の骸の上で散々犯された。
しかも喘いでいた。
親父を殺し、仲間を殺したマジックの腕の中で。
不快感で胃が浮き上がる感じがした。
そして、それだけの犠牲を伴ったにも関わらず、心戦組はガンマ団に負けたのだろう。
おそらくここはガンマ団の鑑の中。
どうにかここを抜け出さないと。
腰が痛いので、ベッドに捕まりながら立とうとしたその時。
運が最悪に悪いのだろう。
マジックが入ってきた。
「目が覚めたのかい?シンタロー君。昨夜は凄かったよ。」
そう言われて顔が赤くなるのを感じた。
「ぶっ殺してやるッツ!!」
怒りに顔を歪ませて睨んでやるのに、当のマジックは涼しい顔でシンタローを見つめている。
「何故?お互い様だろう。何故君は怒る?心戦組の君達に切られた団員には家族が居ないとでも思ったのかい?これはね、シンタロー君。戦争なんだよ。」
そう言われてハッと我に返る。
確かにこの両手でガンマ団の奴らを殺した。
昇級したくて、英雄になりたくて、父を越えたくて。
「私が君を抱いたのだって、私が独りよがりのセックスをしたなら謝るが、シンタロー君だってノリノリだったじゃないか。アンアン喘いで私にしがみついて。……君のお父さんを布団代わりにして、ね。」
体中の血が一気に沸騰したような、凍りついたような、今までにない感覚に、シンタローは唇を片手で覆う。
口の中が酸っぱい。
胃液が込み上げてきて、思わず吐きそうになる。
「私を殺したければいつでも来なさい。最も君の父が死んだのは君の浅はかな行動のせいだが、ね。」
「おぇ……」
胃液を我慢出来ずにその場で吐き出す。
そんなシンタローを見て、マジックはまるで楽しい玩具を見つけたように、薄い唇の端をあげる。
このテの男程自虐精神が強い。
そして、自分を恐れないその目。その目をマジックは大変気に入った。
長い事独裁者をやっていると、誰も自分に本音を言わないし、拒否しない。
だから例え怨まれても本音を語る人物は久しぶりであった。
そして、初めて出会う自分の思い通りにならない人間。
過去が変えられないようにそれだけは変えられないだろう。
なんと言っても実父を殺したのは紛れも無いマジックだから。
「君は負けた。だから、君は私の戦利品になる訳だ。君の意思に関係なくね。だからね、君は今日から私の玩具だよ。」
苦痛に歪める顔が何とも言わずイイ。
このじゃじゃ馬を立派に開拓した時、きっと今以上の快感が得られるだろう。
怨まれ、いつか殺してやる、という瞳も気に入った。
この世の中には楽しいか楽しくないか、の二種類しかなく、マジックの中でシンタローという存在は前者なのだ。
ゲームのように楽しむ感覚。
父の遺言を守り、歯を食いしばって耐えるシンタローをまた押し倒し行為を行う。
シンタローの心が砕けるのが先か、マジックが飽きるのが先か、
それとも………
終わり
しかし、息子には優しかった。そして、厳しい人だった。
子供は父のようになりたいと願い、父の後ろ姿を見て育つ。
いつか父を超える男になろうと胸に秘めながら。
子供の名前はシンタロー。幾年月がたち、彼は成人を過ぎ、28になる。
しかし、彼の中でもっとも偉大な父親は、背中こそ小さくなりはしたが威厳を持ち、威風堂々としていて。
真っ黒だった髪はいつしか白髪混じりになったが、剣の腕は衰えを感じさせない。
そんな中、大きな戦にシンタローと父は行く事になった。
心戦組の最大の敵であるガンマ団。
沢山の軍団を所有しており、総帥の一族は何やら怪しい術を使うとか。
「シンタロー、油断はするなよ。」
「解ってる。」
父に背中をあずけ、父もまたシンタローに背中をあずけ戦う。
腰に下げた愛刀が、今日はやたらにずっしりと重く感じた。
父は隊長という職務にはついていなかったが、彼の腕は心戦組の隊員全てが一目置いていて。
シンタローはそれを自分のことのように誇らしく思っている。
「配置を言い渡す。」
局長である近藤イサミが幾重にも畳まれた紙を解きながら配置を言う。
シンタロー達は激戦区ではなかったが、要となる場所に配置された。
山南ケースケが調べた所、どうやらその場所にはガンマ団の主要人物が来る事になっているらしい。
総帥の息子か、はたまた兄弟か。
とにかく総帥の血縁者が来る、という情報があったらしい。
腕がなる、と、シンタローは己の愛刀を見る。
黒漆で作られた光沢のある鞘。
中にはきちんと手入れをされた直刃が控えている。
触って感覚を確かめた。
「シンタロー、戦場は遊びじゃないんだ。気を引き締めろよ。」
「解ってるさ、親父!」
眉間にシワを寄せる父親に、シンタローは笑顔で答えた。
激戦区から少し離れた場所が自分達の持ち場であった。
雑魚どもは何人か見たが、山南の言っていた主要人物らしき者は見ていない。
山南さんの言った事は外れた事ねーんだけどナ。
ぼんやりそんな事を考えていたら、父に又叱咤された。
へーへー、解りましたよー。
唇を尖らせ、父を横目で見た後、又刀を構える。
しかし、ここで主要人物を捕らえる事ができたら、位が上がり、隊長になる事だって夢じゃない。
シンタローは野心に燃えた。
胸に抱いた父を超えるという夢を実現できるかもしれない。
期待に胸を膨らませる。
早く来いよー?ガンマ団のお偉方!
ジャリ、と、林から砂を踏む音が聞こえた。
足音からして一人。
この地区を任された隊員達は総てシンタローの目の届く範囲に要る。
終戦したとの情報も通達されていない。
ともすれば。
ガンマ団という事しか考えられない。
一人で複数の中に来るなんて、よっぽどの馬鹿か、それだけ強いかどちらかだ。
後者であればガンマ団に大打撃を与えられる。
自然と鞘を握る手に力が入った。
林から現れたのは金髪碧瞳の男で、真っ赤なブレザーを着ている。
余裕しゃくしゃくな態度、蔑む顔、心戦組の人間なら誰もが知っている顔だった。
主要人物どころじゃない。要の人物そのものだった。
マジック!!
シンタローは初めて見たガンマ団総帥に恥ずかしくも、動けなくなってしまった。
力の差が歴然としている。
これ程までとは。
嫌な汗が背中を伝った。
「覚悟!」
隊員が五人がかりでマジックに襲いかかったが、マジックの瞳が一瞬怪しく光ったかと思うと、隊員達は細切れに吹っ飛んでいた。
「あ、ああ……」
「た、助けてくれッツ!!」
逃げ惑う隊員達。
負け犬にもマジックは容赦はしなかった。
再び光る閃光が、シンタローの横を掠める。
断末魔すら浴びる事を許されなかった隊員は弾け飛んだ。
ビシャ、と、シンタローの頬に隊員の血が飛び散る。
呆然とその光景を見詰めるシンタロー。
さっきまで一緒に生きて戦っていた仲間。
同じ釜の飯を食い、共に笑い、共に悲しんだ。
それを一瞬で奪われた。
コイツに。この男に。
沸々と沸き上がる怒りと悲しみ。
「マジックーーーッツ!!」
気が付いたら刀を握りしめ、泣きながらマジックに向かって行っていた。
許せない、許せない!!
仲間を虫ケラのように殺したこの男を。
しかし、マジックは冷笑すると、又瞳を光らせる。
畜生!アイツに傷を付ける事さえ敵わねぇのかヨ!!
ぎゅ、と目をつぶったシンタローであったが、いつまでたっても痛みが訪れない。
不思議に思って目を開けると、そこには信じられない光景があった。
「無事か、シンタロー……」
全身から血を流す父の姿。
「お、親父……」
信じられないものを見るように、シンタローは父を見た。
シンタローを庇って背中に眼魔砲を受けたようだ。
父の滴り落ちる血の付いた指先が、シンタローの頭を撫でた。
「逃げなさい、シンタロー。そして、生きるんだ。」
一瞬だけ父が笑ったような気がした。
シンタローが父を抱き抱えようと手を延ばしたが、それとすれ違うように父はドシャリと地面に落ちた。
呆然とするシンタロー。
何が起きたか理解できない。いや、したくない。
「と……さん……?」
しゃがんで父に触れてみる。
ドロリとした生暖かい血の感触が不快だった。
触れた所が段々温かさが無くなっていく気がする。
さっきまで動いていた父さん。
生きろ、と、頭を撫でてくれた父さん。
もう、動かなくなった父さん。
「うわああああッツ!!」
叫んで黒い頭をかきむしった。
俺のせいだ!俺が浅はかな行動を取ったから!
油断するな、とあれほど父が言ったのに!!
「父さん!父さん!父さぁんッツ!!」
叫んでも父が動く事はない。
どうやったら父が動くんだっけ?どうやったら人って又息を吹き返すんだっけ?
シンタローはその方法を必死になって探したけれど、そんな方法はあるはずもなく。
涙が先程の感情と入り交じり、より深い悲しみを放出させていた。
「無駄な人口は増えん方がいい。」
悲しみにくれるシンタローにマジックの卑劣な言葉が浴びせられる。
強くきつく睨むシンタローだが、マジックもそんな瞳を真っ向から受けて平然としている。
「テメェなんか人間じゃねぇ!人の皮を被った化け物だッツ!」
そうシンタローが叫んだ瞬間、回りの空気がピリッと震えた。
シンタローは言ってはいけないキーワードを言ってしまったのだ。
「……父の下へ直ぐに連れていってあげようと思ったが、気が変わった。君には死ぬより辛い拷問にかけてあげよう。」
そう言うと、マジックは秘石眼の力でシンタローを押さえ付けた。
父の腹の上に顔を押し付けられる感覚。
身動きが取れない。
「く……ッツ!!」
歯を食いしばって悔しい、と、涙を飲む。
さ、と、マジックがシンタローの後ろにまわると、シンタローの腰にある刀を抜き、帯紐を切った。
ぱさりと落ちる紐。
それと同時に引っ掛けてあった黒漆塗りの鞘も落ちる。
ガシャンと重たい音が耳を掠めた。
無言でシンタローの袴を脱がす。
ぱさ、と絹の擦れる音がした。
あらわになったフトモモと、下半身を隠す褌。
そして、外気に触れられた肌が寒さで鳥肌を立てる。
褌も、紐をシンタローの刀で破かれた。
ビリビリと嫌な音がする。
「よく切れるね、この刀は。手入れを怠っていない証拠だね。」
売ればいくらになるだろうね、なんて言う。
「ふざけ…ンな!ッツ!!返せッツ!!」
その刀は俺が親父から元服の際に貰った刀だ。
一人前の男になったあかつきにくれたんだ!
それをお前なんかに!お前なんかにやるものかッツ!!
下半身を曝されて、秘石眼の力で身動きの取れないシンタローは、ただただ悔しさに唇を噛む。
すると、マジックの指がシンタローの前へ延びてきて、中止部分をいじる。
ビクリと体が強張った。
「ふざけんな!止めろッツ!!」
マジックのテクニックは凄かった。
しゅ、しゅ、と前を激しく動かしたかと思うと、親指で先端をぐりぐりと円を描く。
つるつるした表面をマジックは楽しんだ。
父の死体を押し潰しながらマジックは容赦無しにかきたてる。
「ンンッ!や、やめ……」
酷くしてやるのは簡単だ。
いきなりぶち込んで気絶させたら殴って起こさせる。
しかし、終わった後私だけのせいにして、精神の安定をはかるだろう。
それよりも。
アンアン鳴かせて、気持ち良くさせて、感じさせて。
終わった後心のバランスを崩させる方がよっぽど楽しいじゃないか。
特にこういった人種にはこれが1番きくだろう。
「いやらしい男だね、君は。父親の死体の上で、父親を殺した私になぶられて喜んでる。」
耳元で囁いてやると、蚊の鳴く声で「ち、ちが……」と、聞こえた。
「何が違うんだい?ち〇ぽこんなに大きくして。だらだらヨダレ垂らしてるのに、何が一体違うのか私に教えてよ。」
シンタローの肩を掴み、ぐるりと仰向けにする。
劣情に落ちる自分を嫌悪する顔がそこにあって。
マジックは益々ゾクゾクした。
シンタローは既に力が入らないらしく、それでも必死に快楽から抵抗している。
シンタローの既にはだけた襟からは外気に余り触れていない桃色の乳首が固く尖っていた。
マジックは舌なめずりをした後シンタローの腕を上で束ねると、秘石眼の力を解いた。
圧迫感を抜け出すと、シンタローにはもう快楽しか残されていない。
先程嘗めた唇で、シンタローの乳首を甘く噛む。
「ンンッ!」
ビクリと体を震わせて、声を出さないように唇を強く噛み締める。
「乳首なんかが気持ちいいの。私なんかより、君の方が化け物だね。父親を殺した男に抱かれて喜んでる。」
嫌だ、嫌だ!
快楽に負けそうな自分が死ぬ程嫌だ。
背中に感じる冷たくなっていく父の骸。
バタバタと体を動かしてみるが、マジックにあっけなく押さえつけられた。
「も、やめ、やめて……やめて下さ……」
命令系から懇願になる。
ヒクヒク感じる自分の体に嫌悪する。
ず、ず、と鼻をすすり、生理的な涙が頬を伝った。
その顔にマジックは何故だか引かれた。
久しぶりに感じる高揚感。
体が熱くなるのを感じた。
私はこんな男がタイプだったかな?
自問自答してみるが答えがかえってくるはずもなく。
マジックはそのまま片手をシンタローの尻の間に持っていった。
シンタローの先走りで指は充分過ぎる程濡れていて。
つぷ、と入れると、シンタローは苦痛に歪んだ顔をした。
「ひ、い、痛…いたぁ…ッツ!」
そんな言葉は聞かず、マジックはどんどん指を中に入れ、くるくると何かを探すように指を回した。
「ンひッツ!!」
ビクビクとシンタローが奮えたのを見て、マジックはほくそ笑んだ。
見つけた。
その一点をぐりぐりと集中してやるとシンタローの体は魚のように跳びはねる。「いや!や!やだ!ア、ア、や!やぁッツ!!」
頭をフルフルと震わせて快楽を取ろうと試みるが上手くいくはずもなく。
「ひぁ、ああああッツ!!」
ぶるりと震えたかと思うと、ビクンビクンと性器が奮え、マジックの手の中に白濁の液を吐き出した。
涙でぐちゃぐちゃの顔で呆然とし、荒い息遣いの為、肩が引っ切りなしに動いている。
「う、うう……」
イッてしまった。
父の骸の上で。
父を殺した男の手で。
悲しみと嫌悪と憎悪がぐるぐるとシンタローを渦のように巻き込む。
「まだ終わりじゃないよ。」
悪魔の囁きが耳をかすめた。
初めての快楽にシンタローは脱力しきっていて、足も腰も立たない。
無理矢理足を開かせ、先程までマジックの指が出入りしたソコに別のものが宛てがわれた。
それは指よりも熱くて太いもので。
それが何だか理解できたシンタローはサッと血の気が引いたのを感じた。
「やめ!お願い、やめて!!」
必死になって懇願し、身をよじるが、既にくたびれてしまっている体は思う通りには動いてくれなかった。
「じきにガンマ団がこの戦いを制するだろう。その時総帥不在では示しがつかないからね。早めに終わらせようか。」
言うが早いか、マジックはシンタローの間に自身を推し進めていく。
「ああああ……!」
喉が上下にコクリと動く。
何かにしがみつきたくて、シンタローは無意識のうちにマジックの服を掴んだ。
それにはマジックも驚いた様子だったが、顔には出さず、シンタローの黒髪を撫でた。
「名前は?」
そう聞いた自分にまた驚く。
私が他人に関心を持つなんて。
しかし、一向に返事をしないシンタロー。
だから、下から上へ思いきり突き上げてやった。
ガンガン腰を振られ、奥まで突っ込まれる。
初めての結合で、血がシンタローのフトモモを濡らしていた。
「名前は、と、私は聞いたのだが。聞こえなかったのかな?」
私は気の長い方ではないんだよ。
そう耳元で地を這うような低音で言ってやると、「……ロ…」
ボソッと声が聞こえた。
「もっと大きな声が出せるだろう。さっきまであんなに大声で鳴いていたのだから。」
「……くっ…シ、シンタローッツ!!」
これ以上激しく体を揺さぶらないで欲しくて、シンタローは戸惑っていた己の名前を叫んだ。
「ふぅん。シンタロー君…ね。」
きっと私が彼に興味を持ったのは、彼の中が想像以上に気持ち良かったから、だろう。
だから今度は優しく抱いてやる。
その方が彼は望まないから。
じゅぷ、じゅぷ、といやらしい音が辺りを支配する。
その時、ピピピ、とトランシーバーの音。
マジックも一瞬止まるが、また、行為を再開させる。
鳴っていたのは父のトランシーバー。
「形勢はかなり不利だ。一旦引け!モシモシ、聞こえているかい?もしもーし!」
山南だ。
トランシーバーはこちらから押さないと、会話ができない。
山南が自分達を心配する声を聞きながら二人は快楽を求めていた。
「シンタロー君、ボタン、押してあげようか?」
もしかしたら助けに来てくれるかもしれないよ?
「嫌、押さないでッツ!」
こんな恥態を誰にも見せたくなかった。
マジックが後ろだけでなく、前をいじり始める。
既に限界に近かったシンタローは呆気なく二度目の放出をした。
「と……さん」
それだけ言うと、長い髪がふわりと浮いて落ちた。
きゅ、と締め付けられて、マジックもシンタローの中へ吐き出したのだった。
目が覚めると、見慣れない場所で。
腰に手をやると刀がなく、体に酷く残る鈍痛に夢でなかった事を理解した。
父が死んで、父を殺した人に抱かれて、喘いだ自分。
人の風上にも置けない。
あいつの言う通り俺も、イヤ、俺の方が化け物なのだろう。
服は自分の上着だけ身に纏っていて。
色々思い出すうちに、心が壊れていくのを感じた。
俺は親父の骸の上で散々犯された。
しかも喘いでいた。
親父を殺し、仲間を殺したマジックの腕の中で。
不快感で胃が浮き上がる感じがした。
そして、それだけの犠牲を伴ったにも関わらず、心戦組はガンマ団に負けたのだろう。
おそらくここはガンマ団の鑑の中。
どうにかここを抜け出さないと。
腰が痛いので、ベッドに捕まりながら立とうとしたその時。
運が最悪に悪いのだろう。
マジックが入ってきた。
「目が覚めたのかい?シンタロー君。昨夜は凄かったよ。」
そう言われて顔が赤くなるのを感じた。
「ぶっ殺してやるッツ!!」
怒りに顔を歪ませて睨んでやるのに、当のマジックは涼しい顔でシンタローを見つめている。
「何故?お互い様だろう。何故君は怒る?心戦組の君達に切られた団員には家族が居ないとでも思ったのかい?これはね、シンタロー君。戦争なんだよ。」
そう言われてハッと我に返る。
確かにこの両手でガンマ団の奴らを殺した。
昇級したくて、英雄になりたくて、父を越えたくて。
「私が君を抱いたのだって、私が独りよがりのセックスをしたなら謝るが、シンタロー君だってノリノリだったじゃないか。アンアン喘いで私にしがみついて。……君のお父さんを布団代わりにして、ね。」
体中の血が一気に沸騰したような、凍りついたような、今までにない感覚に、シンタローは唇を片手で覆う。
口の中が酸っぱい。
胃液が込み上げてきて、思わず吐きそうになる。
「私を殺したければいつでも来なさい。最も君の父が死んだのは君の浅はかな行動のせいだが、ね。」
「おぇ……」
胃液を我慢出来ずにその場で吐き出す。
そんなシンタローを見て、マジックはまるで楽しい玩具を見つけたように、薄い唇の端をあげる。
このテの男程自虐精神が強い。
そして、自分を恐れないその目。その目をマジックは大変気に入った。
長い事独裁者をやっていると、誰も自分に本音を言わないし、拒否しない。
だから例え怨まれても本音を語る人物は久しぶりであった。
そして、初めて出会う自分の思い通りにならない人間。
過去が変えられないようにそれだけは変えられないだろう。
なんと言っても実父を殺したのは紛れも無いマジックだから。
「君は負けた。だから、君は私の戦利品になる訳だ。君の意思に関係なくね。だからね、君は今日から私の玩具だよ。」
苦痛に歪める顔が何とも言わずイイ。
このじゃじゃ馬を立派に開拓した時、きっと今以上の快感が得られるだろう。
怨まれ、いつか殺してやる、という瞳も気に入った。
この世の中には楽しいか楽しくないか、の二種類しかなく、マジックの中でシンタローという存在は前者なのだ。
ゲームのように楽しむ感覚。
父の遺言を守り、歯を食いしばって耐えるシンタローをまた押し倒し行為を行う。
シンタローの心が砕けるのが先か、マジックが飽きるのが先か、
それとも………
終わり
「パパ。」
「何だい?シンちゃん。」
「どうして僕は皆と違って髪の毛も、目の色も真っ黒なの?」
ついにこの話しが来た、とマジックは思った。
「シンちゃん、一人だけ違うっていうのは本当は凄い事なんだよ。」
ちょこんとシンタローを膝の上に乗せて語りかけるように優しく話す。
マジックの低い声色が、シンタローの耳に心地良く入ってくる。
「僕、凄くなくてもいいよ。皆と同じ金色の髪と青い目が欲しいよ。」
自分で言って悲しくなったのか、シンタローが泣き出す寸前の顔をしたので、マジックは慌ててシンタローを自分の方に引き寄せる。
「シンちゃん、そんな事言わないで。パパはシンちゃんのその髪の毛も、目の色も大大大好きさ!」
ぎゅうっと抱きしめて、今にも零れ落ちそうな涙を舌ですくった。
でも、シンタローは腑に落ちない顔をしている。
マジックは困ったように心の中で溜息をついた。
そして、ある話を思い出す。
「シンちゃん、“赤鼻のトナカイ”ってお歌知ってる?」
いきなりの話題転換に意味が解らなかったシンタローだが、コクリと頷いた。
「真っ赤なお鼻の~トナカイさーんーはーってやつ?」
一小節目を歌ってやると、目尻をだらし無く垂れ下げ、マジックは、シンちゃん上手ー!と、拍手を送る。
「そう。ソレ。実はね、このお歌、お話もあるんだよ。」
「ふうん。」
たいして興味なさそうにシンタローが相槌を打った。
今聞いているのはそんな事じゃない。
話を反らされた気がして、シンタローは膝から下りようとした。
でも、すかさずマジックがシンタローの体を包み込んだので、それは叶わなかった。
「シンちゃん。トナカイの鼻って本当は赤くないんだよ。」
耳元で優しく囁かれる。
その事実を知らなかったシンタローは驚いたようにマジックを見た。
本物のトナカイは見た事がなかったし、俗世離れしているマジックはテレビというものを余りシンタローに見せたりはしなかった。
そういえば動物園に行った時、トナカイを見たような気がするのだが、鼻をまじまじと見た訳ではないので記憶が薄い。
まして、子供の記憶力なんてたかが知れている。
驚く息子に微笑みかけて、マジックは愛情たっぷりに話し始める。
「トナカイにとって1番名誉な事は何だと思う?」
「うーん。なぁに?パパ。」
「それはね、サンタさんのソリを引く事だよ。
クリスマスの日、サンタクロースは良い子にプレゼントを配る為に沢山のプレゼントを袋に詰めて出発するんだよ。そこに選ばれたのは素晴らしいトナカイ8頭。でもね、困った事が起きたのさ。」
「なぁに??」
困った事って何だろう、と、シンタローはマジックに話を急かす。
マジックの胸元を軽くキュッと握って話を急かす。
その動作が愛らしくて、鼻血を垂らすマジック。
心なしか微笑んでいる。
「パパ、鼻血……」
「おっと。」
恥ずかしそうに笑い、マジックは胸ポケットに閉まってあった白いハンカチを広げ鼻に当てる。
つつ…と流れた鼻血を拭き取り、話しを再開した。
「困った事っていうのはね、とっても濃い霧が辺りを包んでしまったんだよ。これじゃあ空に飛び立てないって皆慌てたんだ。だって、雪は深々と降っているし、霧は出てくるしで、自分の鼻先すら分からない。これじゃあ煙突も見えないし、子供達の家すら解らないだろう?」
「でも、僕にはちゃんとサンタさんプレゼントくれたよ?」
どうやったんだろう?
シンタローは考えた。
サンタさんは良い子にしかプレゼントをくれない。
だからいい子にしていればサンタさんは欲しいものをくれる。
僕はパパと一緒に居たいってお願いしたから、クリスマスの日、遠くに行ってたパパが帰ってきてくれたんだ!
僕がいい子にして、パパに本当はお仕事行かないでって我が儘言わなかったからサンタさんはプレゼントをくれたんだよ。
ちゃんと僕の家が解ったんだからサンタさんはちゃんと良い子の家が解ったんだ。
グンマだって、欲しがってた天体模型のライト貰ったって言ってたし。
どうやったんだろう。
「そうだね。シンちゃんの所にちゃんと来たもんね。そう。ちゃんとサンタさんは空に飛び立てたんだよ。どうやったかって言うとね、サンタさんは見送りに来ていたルドルフの所に行ったのさ。ルドルフは鼻が真っ赤でピカピカしていて、皆から馬鹿にされていたんだ。でもね、こんな視界の悪い日にはルドルフの鼻が必要だった。サンタさんはルドルフに先頭に立つように言ったんだよ。」
そう話すと、シンタローは大きな目をキラキラと輝かせた。
一人だけ違うトナカイのルドルフ。
そのトナカイに自分を重ねていた。
金色の中に混じる黒色。
自分とルドルフは正に同じ境遇であった。
「勿論ルドルフは大喜び!いつも馬鹿にされていた赤い鼻が役に立つ。これでシンちゃんや、グンちゃん達のような良い子達にプレゼントを配る事ができる。ルドルフは元気よくトナカイの列の先頭に立ったんだ。彼の鼻があれば暗い視界の悪い道もへっちゃらだった。」
「………。」
「それからルドルフは皆に愛されるトナカイになったんだよ。」
話が終わると同時にマジックの大きな手がシンタローの頭を撫でた。
「だからね、シンちゃんの髪と目が黒くても気にする事ないんだよ。ルドルフがそうであったように、シンちゃんだって皆を助けてる。シンちゃんが知らないだけでね。パパはお前がその色で生まれてきてくれてとても嬉しいよ。」
そう言ってシンタローの真っ黒な髪にキスをした。
僕もルドルフみたいになれるのかな、と、父親が褒めた髪を摘んでみる。
「だからシンちゃん。パパが困ったら助けてね。パパはサンタさんじゃないし、シンちゃんもルドルフじゃないけど、パパ、シンちゃんが居ないの本当は堪えられないんだよー!」
スリスリと擦り寄るマジックに、シンタローはしょうがないなぁと笑ってみせた。
時は流れて、シンタローの出生の秘密が解った。
金髪碧眼しか生まれない一族に黒目黒髪の子供が生まれたのは、赤の一族を騙す為だった。
赤の一族と同じ色にし、本当の青の一族を封じ込め、青の番人もその魂の中に潜り込ませた。
シンタローは影だったのだ。
24年間、父を越える為、認めて貰う為に必死だった彼はマジックの息子どころか赤の一族にとっても青の一族にとっても要らない人間で。
こんなに悩んで生きて前を向いて頑張ってきたのに何故今更要らない人間だと言うのだろう。
マジックの息子ではないと言われた瞬間、信じられなくて、思わず叫んだあの言葉。
いがみ合ったり喧嘩もした。
最愛の弟、コタローを幽閉されたあの日から、父の考えが解らなくなった。
それでも。
自分はマジックの息子なんだと、心の片隅で誇りに思っていた部分も確かにあって。
自分の生きてきた全てを否定された瞬間は後にも先にもあの出来事であろう。
しかし、マジックは自分を息子だと言ってくれた。
コタローの暴走を止める為に、死期を悟りながら。
その言葉に嘘偽りはなかったし、シンタローもマジックの死期を悟り、行くなと止めた。
弟も大切だが、父も又、大切だから。
そして、親友との別れ、弟の眠りにより、一族は再び一つに纏まり和解した。
ガンマ団本部に戻って一番最初にした事は、父との会話。
「シンタロー。」
初めに話し掛けてきたのはマジックで。
シンタローもそれを待っていた。
長い間の仲たがいの後で、やはり父であるマジックが突破口を開こうとしてくれたのだろう。
シンタローも素直にマジックの話しに耳を傾ける。
「お前に総帥の椅子を渡そう。」
「なッツ!?」
驚いた声を出したシンタローであったが、マジックは穏やかな顔をしていた。
ここ何年も見ていない顔。
そう。まるでシンタローが幼少期だった頃の父親の顔だ。
「例えお前と血の繋がりがなかろうと、私の後継ぎはお前だよ、シンタロー。お前は私の息子だからね。ガンマ団の指揮を取りなさい。お前のしたい事を思いっきりやりなさい。」
マジックの白くて骨ばった指がシンタローの頭に触れる。
一瞬ビクリと体が強張ったが、その温かい指先に懐かしさを覚え、目を細めた。
やりたい事。
確かにある。
パプワとの約束を果たしたい。
自分は普通の人より、出来る事が大きい。
団のトップに立ったら尚更。
軍隊のようなガンマ団である。
総帥が右、といったら右に行き、左、といったら左に行くだろう。
思いのまま、動かせる。
それに。
シンタローがガンマ団を解散する、と言えばガンマ団が無くなる事も出来るのだ。
………だが。
シンタローは怖いと思う。
自分にこの巨大な団の総帥になれる自信は少ない。
しかも、マジックは青の一族の中でも稀有な存在であった。
果たしてその後を自分が継げるのだろうか?
青の一族ですらない自分が?
父のように完璧なまでの総帥になれるだろうか?
いや、きっとなれないだろう。
「グンマが適任じゃねぇのか。一応あんなでもアンタの正当な長男だぜ?」
「……シンちゃん、本気で言ってるの?グンちゃんができる訳ないでしょ~…」
はぁー、と、溜息をついてオーバーリアクションで肩を竦める。
「第一グンちゃんは開発課なんだよ?発明品造る為ならあの子全ての用事をほっぽらかすよ。団員達の訓示もきっと来ないね。断言できるよ。」
そう言われてしまえばそうだ。
グンマは昔から物事を真剣に取り込むと回りが見えなくなる。
しかもツメが甘い。
「じゃ、キンタローは……。」
「キンタローはルーザーの息子なんだよ、シンタロー。お前は私の息子だ。」
そう言われると凄く嬉しい。
こんな影でしかない自分を認めてくれて有り難いと思う。
でも。だからこそ。
シンタローは思うのだ。
これ以上この一族を掻き回したくはない、と。
大好きな家族だから、大好きな人だから。
自分がこの一族の頭に立つのだけは嫌だった。
「シンタロー。私のお願いだ。お前になら任せられる。」
「………。」
マジック達青の一族が築き上げてきたものを、全く何の繋がりもない赤の他人が掲げるなんて、そんな事できないし、したくない。
でも、父が言う事なのだ。
父と信じていて、父だと言う人が言うのだ。
しばらくの葛藤の末、シンタローは口を開いた。
「解った。」
そう唇が動いた瞬間、マジックはバンザーイ!と手を上げて喜ぶ。
しかし、シンタローは眉間にシワを寄せていた。
「ただし、条件がある。」
その声は凛としていて、普段シンタローの前ではおちゃらけているマジックも、動きを止めた。
「条件って、何?」
「コタローがガンマ団をつぐまでの間だ。」
そうキッパリ言い放つ。
マジックも、その条件は予想の範囲内だったようで瞼を落とした。
「コタローがいつか目を覚まし、大人になるまで、って事だね?」
「ああ。」
マジックにとってコタローはとても意味のある息子でいる事に変わりはない。
コタローにしてしまった事の間違いを全て受け入れ、そのうえでコタローを受け入れようと思う。
マジックとて、コタローが憎かったり、嫌いだった訳じゃない。
善悪の感情もないのに巨大な力を秘めているコタローを野放しにできなかった。
それは総帥として団員を殺されない為でもあったし、訳も解らぬ息子が他人を殺す所を見たくないし、又、殺しを何の戸惑いもなくしてしまうのが怖かったのだ。
「シンタロー、解ったよ。でも、これだけは聞かせて欲しい。もし、コタローがガンマ団を継ぎたくない、と言ったらどうするんだい?仕事を誰かに押し付ける?総帥の仕事を継続する?それとも…」
マジックが一旦言葉を切った。
そして、目をつぶって空を仰ぐ。
それからシンタローの目を見つめた。
青い瞳がシンタローの黒い瞳に写る。
「逃げてしまうのかな?4年前のように。」
4年前、確かにシンタローは逃げ出した。
大切な弟を助け出したかったし、何よりこの父親に奪われる事の憤りを解らせてやりたかった。
言葉を考えていると、マジックが表情を緩める。
そして、シンタローの頬に指先を這わせた。
「シンちゃん、昔、パパに何で自分だけ髪の色と目の色が黒いのかって聞いた事覚えてる?」
いきなり話題変換されて、シンタローは少し戸惑った。
しかし、マジックが話を聞かない事はいつもの事なので、とりあえず思い出してみる。
そういえばそんな事も聞いたような気もしなくもない。
子供心にとても気になっていた事。
まだ小さかった頃にはものも解らないだろうと知らない人達に「グンマ様の影武者」なんて言われていた事もあった。
グンマの、ではなかったが、影武者は当たってたかな、なんて思う。
「そんな事もあったかナ。」
「うん。あったよ。その時、赤鼻のトナカイの話しで例え話しをしたんだけど、シンちゃん凄く気に入ってくれてね、おっきな目をキラキラさせて話しを聞いてくれた。」
だんだんマジックの顔が近づいてきて、あ、キスされるな、と解ったから静かに目を閉じた。
予想通り薄い唇がシンタローの唇に当たる。
啄むような、触れるだけのキスをされる。
ちゅ、ちゅ、と優しい音が時々聞こえた。
「その時にね、パパの事助けてって言ったんだよ。」唇をくっつけて話しを始めたので、シンタローは少し目を開けた。
目の前には見慣れた父親の顔。
「そしたらお前はね、しょうがないなって、笑ったんだ。」
だからね、シンちゃん。パパを助けて。
そう付け加えてシンタローを抱きしめた。
「俺はもう、何処にもいかねーヨ。」
そう言ってやると、酷く安堵した顔で笑った。
その顔がコタローとダブって見えて、やっぱり親子なんだな、と嬉しい気分になる。
「シンタロー、ありがとう。愛してるよ。」
親子なのに恋人同士とか、本当ややこしい関係だと解っている。
でも、マジックに愛してると言われる度にいつもほんわかした気持ちになれて。
戸惑いとか確かに昔はあったけれど、今はただただ嬉しい。
俺、結構コイツにハマっちゃってんだナ。
絶対言ってなんてやらないけど。
「コタローがもし総帥にならないって言ったら、コタローの子供ができるまで総帥、やってやるよ。」
よしよし、と頭をポンポンと叩いてやると、困ったようにマジックは笑った。
「それって遠回しのプロポーズって取っていいのかな?」
「深読みすんな、馬鹿。」
そう言ってこずいてやったら、痛い、って言って嬉しそうに笑う。
マジックに息子と認めて貰い、恋愛感情的にも愛して貰っていると解るだけで、赤とか青とかどうでも良くなってしまう。
俺の心の大半を占めてる人。
いつかコタローが目覚めたら、今度こそ皆笑って幸せな家庭が築けると思う。
触れるだけのキスから、だんだん濃厚なキスに変わっていく。
マジックが口をあけて、シンタローにも開けるように催促をするので、ちょっとだけ開けてやると、舌を入れてきた。
決して無理矢理なんかじゃなく、優しく、包み込むように。
両手で頬を持ち上げられて、歯をなぞられる。
「んん、ふ……っ」
眉をしかめて苦しそうにすると、マジックがキスを解いた。
銀色の糸が明かりに照らされてテラテラ光って見えた。
「シンちゃん……」
今日は二人で寝たいと、お互い思う。
子供の時のように、二人でベッドに包まって、マジックに抱きしめられて眠りにつきたい。
平均的な体を大きく上回る二人が同じベッドで寝るなんて、はたから見ればおかしな光景かもしれない。
それだけれども。
やはり父であり、息子であり、恋人同士であり。
ほんわかした気持ちの中、子供のように眠りたいのだ。
総帥になる、と言ってしまったからには、それに見合う代償も必要で。
それは、時間だとか体力だとか色々あるけれど、きっと今までみたいに会いたくなったら会えるとか、そんな事はできないだろう。
昔から父の背中を見て育ってきたシンタローには解る。
外交に仕事に明け暮れ、家に中々戻って来られない父。
子供心に忙しいのだな、と思っていた。
それに。
自分のやりたい事。
それはこの素晴らしい世界を守っていく事。
パプワとの約束だ。
このガンマ団を一から変えなければならない大仕事。
大変かもしれないが、やらなければならない。
決してシンタローは安請け合いをした訳ではないのだから。
ガンマ団を変えて、世界を変えて。
出来る事から始めよう。
これはその第一歩なのだ。
マジックの温かい体温を全身で感じながらシンタローは瞳を閉じた。
何だかとても眠い。
マジックの服の端っこを握り締めながら、シンタローは眠りについた。
「シンちゃん、寝ちゃったの?」
意識の端っこでマジックの声が聞こえる。
その、心地良いトーンの声に無意識のうちに安堵している自分が居た。
「おやすみ、シンタロー。」
マジックの唇がシンタローの額に触れたような気がした。
それから数日後、シンタローがガンマ団総帥を継ぐ事を発表された。
あの島で共に戦った戦友達も幹部へと格上げされて。
彼が一番最初にやった事は“殺さず”。
人殺し軍団から、正義のお仕置き集団に変貌を遂げる。
ガンマ団の根底をひっくり返し、団員達から反感を持たれるかとも覚悟していたが、中々どうして。
結構素直に受け入れて貰えた。
涙を流して喜ぶマジックが祭壇の端っこに見える。
襲名を終え、祭壇を後にした時、シンタローはマジックに耳打ちをした。
“俺はルドルフになれたみたいだ。”
お前の鼻が役に立つのさ
終わり
.
「何だい?シンちゃん。」
「どうして僕は皆と違って髪の毛も、目の色も真っ黒なの?」
ついにこの話しが来た、とマジックは思った。
「シンちゃん、一人だけ違うっていうのは本当は凄い事なんだよ。」
ちょこんとシンタローを膝の上に乗せて語りかけるように優しく話す。
マジックの低い声色が、シンタローの耳に心地良く入ってくる。
「僕、凄くなくてもいいよ。皆と同じ金色の髪と青い目が欲しいよ。」
自分で言って悲しくなったのか、シンタローが泣き出す寸前の顔をしたので、マジックは慌ててシンタローを自分の方に引き寄せる。
「シンちゃん、そんな事言わないで。パパはシンちゃんのその髪の毛も、目の色も大大大好きさ!」
ぎゅうっと抱きしめて、今にも零れ落ちそうな涙を舌ですくった。
でも、シンタローは腑に落ちない顔をしている。
マジックは困ったように心の中で溜息をついた。
そして、ある話を思い出す。
「シンちゃん、“赤鼻のトナカイ”ってお歌知ってる?」
いきなりの話題転換に意味が解らなかったシンタローだが、コクリと頷いた。
「真っ赤なお鼻の~トナカイさーんーはーってやつ?」
一小節目を歌ってやると、目尻をだらし無く垂れ下げ、マジックは、シンちゃん上手ー!と、拍手を送る。
「そう。ソレ。実はね、このお歌、お話もあるんだよ。」
「ふうん。」
たいして興味なさそうにシンタローが相槌を打った。
今聞いているのはそんな事じゃない。
話を反らされた気がして、シンタローは膝から下りようとした。
でも、すかさずマジックがシンタローの体を包み込んだので、それは叶わなかった。
「シンちゃん。トナカイの鼻って本当は赤くないんだよ。」
耳元で優しく囁かれる。
その事実を知らなかったシンタローは驚いたようにマジックを見た。
本物のトナカイは見た事がなかったし、俗世離れしているマジックはテレビというものを余りシンタローに見せたりはしなかった。
そういえば動物園に行った時、トナカイを見たような気がするのだが、鼻をまじまじと見た訳ではないので記憶が薄い。
まして、子供の記憶力なんてたかが知れている。
驚く息子に微笑みかけて、マジックは愛情たっぷりに話し始める。
「トナカイにとって1番名誉な事は何だと思う?」
「うーん。なぁに?パパ。」
「それはね、サンタさんのソリを引く事だよ。
クリスマスの日、サンタクロースは良い子にプレゼントを配る為に沢山のプレゼントを袋に詰めて出発するんだよ。そこに選ばれたのは素晴らしいトナカイ8頭。でもね、困った事が起きたのさ。」
「なぁに??」
困った事って何だろう、と、シンタローはマジックに話を急かす。
マジックの胸元を軽くキュッと握って話を急かす。
その動作が愛らしくて、鼻血を垂らすマジック。
心なしか微笑んでいる。
「パパ、鼻血……」
「おっと。」
恥ずかしそうに笑い、マジックは胸ポケットに閉まってあった白いハンカチを広げ鼻に当てる。
つつ…と流れた鼻血を拭き取り、話しを再開した。
「困った事っていうのはね、とっても濃い霧が辺りを包んでしまったんだよ。これじゃあ空に飛び立てないって皆慌てたんだ。だって、雪は深々と降っているし、霧は出てくるしで、自分の鼻先すら分からない。これじゃあ煙突も見えないし、子供達の家すら解らないだろう?」
「でも、僕にはちゃんとサンタさんプレゼントくれたよ?」
どうやったんだろう?
シンタローは考えた。
サンタさんは良い子にしかプレゼントをくれない。
だからいい子にしていればサンタさんは欲しいものをくれる。
僕はパパと一緒に居たいってお願いしたから、クリスマスの日、遠くに行ってたパパが帰ってきてくれたんだ!
僕がいい子にして、パパに本当はお仕事行かないでって我が儘言わなかったからサンタさんはプレゼントをくれたんだよ。
ちゃんと僕の家が解ったんだからサンタさんはちゃんと良い子の家が解ったんだ。
グンマだって、欲しがってた天体模型のライト貰ったって言ってたし。
どうやったんだろう。
「そうだね。シンちゃんの所にちゃんと来たもんね。そう。ちゃんとサンタさんは空に飛び立てたんだよ。どうやったかって言うとね、サンタさんは見送りに来ていたルドルフの所に行ったのさ。ルドルフは鼻が真っ赤でピカピカしていて、皆から馬鹿にされていたんだ。でもね、こんな視界の悪い日にはルドルフの鼻が必要だった。サンタさんはルドルフに先頭に立つように言ったんだよ。」
そう話すと、シンタローは大きな目をキラキラと輝かせた。
一人だけ違うトナカイのルドルフ。
そのトナカイに自分を重ねていた。
金色の中に混じる黒色。
自分とルドルフは正に同じ境遇であった。
「勿論ルドルフは大喜び!いつも馬鹿にされていた赤い鼻が役に立つ。これでシンちゃんや、グンちゃん達のような良い子達にプレゼントを配る事ができる。ルドルフは元気よくトナカイの列の先頭に立ったんだ。彼の鼻があれば暗い視界の悪い道もへっちゃらだった。」
「………。」
「それからルドルフは皆に愛されるトナカイになったんだよ。」
話が終わると同時にマジックの大きな手がシンタローの頭を撫でた。
「だからね、シンちゃんの髪と目が黒くても気にする事ないんだよ。ルドルフがそうであったように、シンちゃんだって皆を助けてる。シンちゃんが知らないだけでね。パパはお前がその色で生まれてきてくれてとても嬉しいよ。」
そう言ってシンタローの真っ黒な髪にキスをした。
僕もルドルフみたいになれるのかな、と、父親が褒めた髪を摘んでみる。
「だからシンちゃん。パパが困ったら助けてね。パパはサンタさんじゃないし、シンちゃんもルドルフじゃないけど、パパ、シンちゃんが居ないの本当は堪えられないんだよー!」
スリスリと擦り寄るマジックに、シンタローはしょうがないなぁと笑ってみせた。
時は流れて、シンタローの出生の秘密が解った。
金髪碧眼しか生まれない一族に黒目黒髪の子供が生まれたのは、赤の一族を騙す為だった。
赤の一族と同じ色にし、本当の青の一族を封じ込め、青の番人もその魂の中に潜り込ませた。
シンタローは影だったのだ。
24年間、父を越える為、認めて貰う為に必死だった彼はマジックの息子どころか赤の一族にとっても青の一族にとっても要らない人間で。
こんなに悩んで生きて前を向いて頑張ってきたのに何故今更要らない人間だと言うのだろう。
マジックの息子ではないと言われた瞬間、信じられなくて、思わず叫んだあの言葉。
いがみ合ったり喧嘩もした。
最愛の弟、コタローを幽閉されたあの日から、父の考えが解らなくなった。
それでも。
自分はマジックの息子なんだと、心の片隅で誇りに思っていた部分も確かにあって。
自分の生きてきた全てを否定された瞬間は後にも先にもあの出来事であろう。
しかし、マジックは自分を息子だと言ってくれた。
コタローの暴走を止める為に、死期を悟りながら。
その言葉に嘘偽りはなかったし、シンタローもマジックの死期を悟り、行くなと止めた。
弟も大切だが、父も又、大切だから。
そして、親友との別れ、弟の眠りにより、一族は再び一つに纏まり和解した。
ガンマ団本部に戻って一番最初にした事は、父との会話。
「シンタロー。」
初めに話し掛けてきたのはマジックで。
シンタローもそれを待っていた。
長い間の仲たがいの後で、やはり父であるマジックが突破口を開こうとしてくれたのだろう。
シンタローも素直にマジックの話しに耳を傾ける。
「お前に総帥の椅子を渡そう。」
「なッツ!?」
驚いた声を出したシンタローであったが、マジックは穏やかな顔をしていた。
ここ何年も見ていない顔。
そう。まるでシンタローが幼少期だった頃の父親の顔だ。
「例えお前と血の繋がりがなかろうと、私の後継ぎはお前だよ、シンタロー。お前は私の息子だからね。ガンマ団の指揮を取りなさい。お前のしたい事を思いっきりやりなさい。」
マジックの白くて骨ばった指がシンタローの頭に触れる。
一瞬ビクリと体が強張ったが、その温かい指先に懐かしさを覚え、目を細めた。
やりたい事。
確かにある。
パプワとの約束を果たしたい。
自分は普通の人より、出来る事が大きい。
団のトップに立ったら尚更。
軍隊のようなガンマ団である。
総帥が右、といったら右に行き、左、といったら左に行くだろう。
思いのまま、動かせる。
それに。
シンタローがガンマ団を解散する、と言えばガンマ団が無くなる事も出来るのだ。
………だが。
シンタローは怖いと思う。
自分にこの巨大な団の総帥になれる自信は少ない。
しかも、マジックは青の一族の中でも稀有な存在であった。
果たしてその後を自分が継げるのだろうか?
青の一族ですらない自分が?
父のように完璧なまでの総帥になれるだろうか?
いや、きっとなれないだろう。
「グンマが適任じゃねぇのか。一応あんなでもアンタの正当な長男だぜ?」
「……シンちゃん、本気で言ってるの?グンちゃんができる訳ないでしょ~…」
はぁー、と、溜息をついてオーバーリアクションで肩を竦める。
「第一グンちゃんは開発課なんだよ?発明品造る為ならあの子全ての用事をほっぽらかすよ。団員達の訓示もきっと来ないね。断言できるよ。」
そう言われてしまえばそうだ。
グンマは昔から物事を真剣に取り込むと回りが見えなくなる。
しかもツメが甘い。
「じゃ、キンタローは……。」
「キンタローはルーザーの息子なんだよ、シンタロー。お前は私の息子だ。」
そう言われると凄く嬉しい。
こんな影でしかない自分を認めてくれて有り難いと思う。
でも。だからこそ。
シンタローは思うのだ。
これ以上この一族を掻き回したくはない、と。
大好きな家族だから、大好きな人だから。
自分がこの一族の頭に立つのだけは嫌だった。
「シンタロー。私のお願いだ。お前になら任せられる。」
「………。」
マジック達青の一族が築き上げてきたものを、全く何の繋がりもない赤の他人が掲げるなんて、そんな事できないし、したくない。
でも、父が言う事なのだ。
父と信じていて、父だと言う人が言うのだ。
しばらくの葛藤の末、シンタローは口を開いた。
「解った。」
そう唇が動いた瞬間、マジックはバンザーイ!と手を上げて喜ぶ。
しかし、シンタローは眉間にシワを寄せていた。
「ただし、条件がある。」
その声は凛としていて、普段シンタローの前ではおちゃらけているマジックも、動きを止めた。
「条件って、何?」
「コタローがガンマ団をつぐまでの間だ。」
そうキッパリ言い放つ。
マジックも、その条件は予想の範囲内だったようで瞼を落とした。
「コタローがいつか目を覚まし、大人になるまで、って事だね?」
「ああ。」
マジックにとってコタローはとても意味のある息子でいる事に変わりはない。
コタローにしてしまった事の間違いを全て受け入れ、そのうえでコタローを受け入れようと思う。
マジックとて、コタローが憎かったり、嫌いだった訳じゃない。
善悪の感情もないのに巨大な力を秘めているコタローを野放しにできなかった。
それは総帥として団員を殺されない為でもあったし、訳も解らぬ息子が他人を殺す所を見たくないし、又、殺しを何の戸惑いもなくしてしまうのが怖かったのだ。
「シンタロー、解ったよ。でも、これだけは聞かせて欲しい。もし、コタローがガンマ団を継ぎたくない、と言ったらどうするんだい?仕事を誰かに押し付ける?総帥の仕事を継続する?それとも…」
マジックが一旦言葉を切った。
そして、目をつぶって空を仰ぐ。
それからシンタローの目を見つめた。
青い瞳がシンタローの黒い瞳に写る。
「逃げてしまうのかな?4年前のように。」
4年前、確かにシンタローは逃げ出した。
大切な弟を助け出したかったし、何よりこの父親に奪われる事の憤りを解らせてやりたかった。
言葉を考えていると、マジックが表情を緩める。
そして、シンタローの頬に指先を這わせた。
「シンちゃん、昔、パパに何で自分だけ髪の色と目の色が黒いのかって聞いた事覚えてる?」
いきなり話題変換されて、シンタローは少し戸惑った。
しかし、マジックが話を聞かない事はいつもの事なので、とりあえず思い出してみる。
そういえばそんな事も聞いたような気もしなくもない。
子供心にとても気になっていた事。
まだ小さかった頃にはものも解らないだろうと知らない人達に「グンマ様の影武者」なんて言われていた事もあった。
グンマの、ではなかったが、影武者は当たってたかな、なんて思う。
「そんな事もあったかナ。」
「うん。あったよ。その時、赤鼻のトナカイの話しで例え話しをしたんだけど、シンちゃん凄く気に入ってくれてね、おっきな目をキラキラさせて話しを聞いてくれた。」
だんだんマジックの顔が近づいてきて、あ、キスされるな、と解ったから静かに目を閉じた。
予想通り薄い唇がシンタローの唇に当たる。
啄むような、触れるだけのキスをされる。
ちゅ、ちゅ、と優しい音が時々聞こえた。
「その時にね、パパの事助けてって言ったんだよ。」唇をくっつけて話しを始めたので、シンタローは少し目を開けた。
目の前には見慣れた父親の顔。
「そしたらお前はね、しょうがないなって、笑ったんだ。」
だからね、シンちゃん。パパを助けて。
そう付け加えてシンタローを抱きしめた。
「俺はもう、何処にもいかねーヨ。」
そう言ってやると、酷く安堵した顔で笑った。
その顔がコタローとダブって見えて、やっぱり親子なんだな、と嬉しい気分になる。
「シンタロー、ありがとう。愛してるよ。」
親子なのに恋人同士とか、本当ややこしい関係だと解っている。
でも、マジックに愛してると言われる度にいつもほんわかした気持ちになれて。
戸惑いとか確かに昔はあったけれど、今はただただ嬉しい。
俺、結構コイツにハマっちゃってんだナ。
絶対言ってなんてやらないけど。
「コタローがもし総帥にならないって言ったら、コタローの子供ができるまで総帥、やってやるよ。」
よしよし、と頭をポンポンと叩いてやると、困ったようにマジックは笑った。
「それって遠回しのプロポーズって取っていいのかな?」
「深読みすんな、馬鹿。」
そう言ってこずいてやったら、痛い、って言って嬉しそうに笑う。
マジックに息子と認めて貰い、恋愛感情的にも愛して貰っていると解るだけで、赤とか青とかどうでも良くなってしまう。
俺の心の大半を占めてる人。
いつかコタローが目覚めたら、今度こそ皆笑って幸せな家庭が築けると思う。
触れるだけのキスから、だんだん濃厚なキスに変わっていく。
マジックが口をあけて、シンタローにも開けるように催促をするので、ちょっとだけ開けてやると、舌を入れてきた。
決して無理矢理なんかじゃなく、優しく、包み込むように。
両手で頬を持ち上げられて、歯をなぞられる。
「んん、ふ……っ」
眉をしかめて苦しそうにすると、マジックがキスを解いた。
銀色の糸が明かりに照らされてテラテラ光って見えた。
「シンちゃん……」
今日は二人で寝たいと、お互い思う。
子供の時のように、二人でベッドに包まって、マジックに抱きしめられて眠りにつきたい。
平均的な体を大きく上回る二人が同じベッドで寝るなんて、はたから見ればおかしな光景かもしれない。
それだけれども。
やはり父であり、息子であり、恋人同士であり。
ほんわかした気持ちの中、子供のように眠りたいのだ。
総帥になる、と言ってしまったからには、それに見合う代償も必要で。
それは、時間だとか体力だとか色々あるけれど、きっと今までみたいに会いたくなったら会えるとか、そんな事はできないだろう。
昔から父の背中を見て育ってきたシンタローには解る。
外交に仕事に明け暮れ、家に中々戻って来られない父。
子供心に忙しいのだな、と思っていた。
それに。
自分のやりたい事。
それはこの素晴らしい世界を守っていく事。
パプワとの約束だ。
このガンマ団を一から変えなければならない大仕事。
大変かもしれないが、やらなければならない。
決してシンタローは安請け合いをした訳ではないのだから。
ガンマ団を変えて、世界を変えて。
出来る事から始めよう。
これはその第一歩なのだ。
マジックの温かい体温を全身で感じながらシンタローは瞳を閉じた。
何だかとても眠い。
マジックの服の端っこを握り締めながら、シンタローは眠りについた。
「シンちゃん、寝ちゃったの?」
意識の端っこでマジックの声が聞こえる。
その、心地良いトーンの声に無意識のうちに安堵している自分が居た。
「おやすみ、シンタロー。」
マジックの唇がシンタローの額に触れたような気がした。
それから数日後、シンタローがガンマ団総帥を継ぐ事を発表された。
あの島で共に戦った戦友達も幹部へと格上げされて。
彼が一番最初にやった事は“殺さず”。
人殺し軍団から、正義のお仕置き集団に変貌を遂げる。
ガンマ団の根底をひっくり返し、団員達から反感を持たれるかとも覚悟していたが、中々どうして。
結構素直に受け入れて貰えた。
涙を流して喜ぶマジックが祭壇の端っこに見える。
襲名を終え、祭壇を後にした時、シンタローはマジックに耳打ちをした。
“俺はルドルフになれたみたいだ。”
お前の鼻が役に立つのさ
終わり
.
総帥室で顔を向かい合わせて話しているのはガンマ団総帥シンタローと、幹部のアラシヤマであった。
昨日夜半から起きたN国のクーデター。
その抑圧をすべく組まれた隊の隊長がアラシヤマであり、本日正午過ぎ、一旦情報を提示する為アラシヤマのみ帰還してきた。
どうやら内乱はさほど激しくはなく、後一週間もしたら抑圧できるだろう、というのがアラシヤマの報告であった。
クーデターを起こした理由はどうやら国の政治のやり方に不満があったようで、反乱した者達もただ単なるエゴではなく、自分達が生きる為必死だったらしい。
「腐った国どした。」
それがアラシヤマの本音であった。
ここに居ては依頼者側の話しか聞く事はできない。
鵜呑みにする訳ではないが、どうしても情報が偏るものだ。
「どうやらN国の国王は実権は握ってのうて、大臣達が国を動かしとります。水増しやら、税金やらでかなりぼったくっとるようでしたわ。」
アラシヤマの話に耳を傾け、作成された簡易の書類に目を通す。
“腐った国”とアラシヤマが言うように、内部情勢は本当に腐っていた。
国のトップにあるまじき行為。
トップの人間が良ければそれでいい、という考えの政治。
人々は働く場所すら奪われ、それでも高額な税金を納めなければならない。
N国は物作りの盛んな国で、そこの国民達は争いを好まない。
今まで堪え忍んできたものが一気に爆発したのだろう。
「お前の意見は?」
「へぇ。わてはシンタローはんがこのままN国側でいろと言いはるんでしたらそれに従いますわ。けど……」
そこで一旦区切り、シンタローの目に己の焦点を合わせる。
「悪い奴限定お仕置き集団だとしたら、クーデター側に行くべきやと思います。ただし、ギャラはかなり少なくなりますけどな。」
そう言って取り出した紙をシンタローに見せる。
そこにはガンマ団がこの戦いで使う経費と、N国側が報酬で払う金額、そして、クーデター側が払えるであろう金額が書いてあった。
「クーデター側はおおよそどす。」
「フーン。N国側と一億は違うナ。」
「ま、元々国民の金どすから。奴等が稼いだ金なんぞ鐚一文あらしまへん。」
ひらひらと紙を指の間に挟み、シンタローが笑う。
「命令変更だ。団員達は一旦ガンマ団本部へ退却。新たな指示を言い渡す。」
「了解どす。」
ビ、と、敬礼をして、アラシヤマは部屋から出て行った。
アラシヤマはそのままモニター画面付きの外線器で部下達に話を伝える。
『了解しました。』
担当の隊員が敬礼をし、外線は切れた。
己の役割を果たすと、アラシヤマは再びシンタローの元へと舞い戻る。
さっき行ったばかりなのに又戻ってきたアラシヤマに、シンタローは思い切り不機嫌な顔をした。
「シンタローはーん!」
「キモいしウザイから何処かに消え失せろ。」
「いややわー、シンタローはんたら恥ずかしがって!」
しなを作り頬を染めるのが又ウザイ。
アラシヤマという男は仕事に私情を一切出さない。
戦闘の事では尚更。
多分シンタローが死ね、と命令すれば何の躊躇もなく死ぬだろう。
勿論シンタローはそんな事は言わないが、団に身を置く事しか能がないと思っているアラシヤマはそれが自然で当たり前の事なのだ。
しかし、一度団から離れれば唯のストーカーと化す。
今回作戦変更となった為、アラシヤマはその瞬間からフリータイム突入なのだ。
そして、彼の趣味はシンタローをストーカーする事。
常に見ていたいし、声を聞きたいし、触れていたい。
しかし、シンタローが職務中である為触れる事はしないのだ。
黙ってろ、と言われて、アラシヤマは話す事を止めた。
しかし、見つめる見つめる!
穴が開くんじゃないかと心配する位じーーっとシンタローを見つめるのだ。
見るな、と、言えないシンタロー。
なんだかんだ言ってシンタローだってアラシヤマが好きなのだ。
そうでなければ大人の関係は持てないだろう。
好きでもない奴に体をいいようにされるのを好む程の変態ではないし、プライドがまず許さない。
彼はシンタローにとって、唯一自分をさらけ出せる相手でもあるのだ。
アラシヤマは優しい。
自分がどんなに暴言を吐いても、暴力で語っても笑顔で許してくれる。
それに甘え過ぎてもいけないのだが、甘えている、という気分にさせないようにするのも又上手い。
心は狭いが優しいのだ。
寛大ではない。それだけは絶対ない。
黙々と作業を進めるシンタローに、アラシヤマは飽きるという事を知らないように、じーーっと見つめている。
少し居心地が悪いが、仕事に夢中な為、段々そんな気分も無くなっていく。
ふわ、と温かい温度が頬を掠め、同時に芳しい匂いが鼻孔をくすぐった。
匂いのする方へ目線を送ると、いつのまにかアラシヤマが温かいコーヒーを入れてきたようで、カップをカチャリと邪魔にならない所に置いた。
「サンキュな。」
そう御礼を言えば、照れ臭そうに微笑む。
その顔がやはりキモかった。
アラシヤマの入れたコーヒーを一口飲んで、初めて自分が喉が渇いている事に気付いた。
コクコクと喉を鳴らし、瞬く間に飲み終える。
白いカップに入っていた黒い液体がみるみるうちに無くなっていく。
カチン、と、皿の上にコーヒーカップを置くと、又アラシヤマがコーヒーを注いでくれた。
時計をふと見ればもう夜で。
あれから何時間アラシヤマは何も話さずここに居たのか、と考える。
つまらなくないのか、と。
ふと、コーヒーを注ぐアラシヤマを見るとニコニコしていて楽しそうであった。
ああ、又甘やかしてくれやがって。
シンタローは軽く伸びをする。
今日しなければならない仕事はもう終わった。
そろそろ帰る準備をしようと席を立つ。
「帰るんどすか?なら、わてと食事でも……」
ぱあっと花が咲いたような雰囲気で笑い、誘うアラシヤマに、シンタローは心底疲れた顔をして見つめる。
「断る。」
そんな、殺生な!
泣き崩れるアラシヤマを興味のない目の端で見下し、シンタローは彼が回復するのを待った。
しかし、やはりアラシヤマ。
ねちっこさは天下一品である。
仕方ない、と、シンタローは肩をつぼめて溜息を吐いた。
「じゃあ特別に今回は一緒に飯食ってやるヨ。だけど俺疲れてるから、お前何か作れヨ。」
「へえ!おおきに!嬉しいどすー!シンタローはん!!」
肯定してやれば、さっきまでの泣き崩れは一体何だったのか、と思う。
まぁ、どう考えたって泣きまねだと知っていたが。
ルンタッタと足どり軽やかにシンタローの手を引っ張る。
もう夜遅いので、所定の場所にしか警備は居ない。
人前でのこの行為は死ぬ程嫌ではあったが、人が居ない所では許していた。
アラシヤマが慣れた手つきで自分の部屋の警備を解除した。
ドアを開けてシンタローを押し込める。
シンタローも勝手知ったというように電気を付ける。
相変わらず殺風景な部屋。
簡易ベッドにテーブル、スタンドにパソコンとクローゼット。
必要最低限の物しか置いていない。
テレビや書庫がないのはどうしてだ、と、以前聞いた事があるのだが、その時のアラシヤマの解答は、テレビは談話室、本は図書室で見ているとの事だった。
「さーて、シンタローはん、何にしましょ。」
エプシロンをして、笑顔で聞いてくるアラシヤマに、シンタローはやはりウザいと思うのだった。
「まぁ、食えるモンなら何でも……。」
そういえば、こいつの作る料理を食べるのは初めてだ。
一体何を作るのか。
「解ったどす!腕によりをかけますえ!!」
腕まくりをして、手早く料理を作っていく。
そういえばパプワ島でこいつは一人暮らししていたようなモンなんだから料理位は出来ていたンだろーナ、と、シンタローはふと思う。
マーカーの弟子なのだから、中華風かと思いきや、和風なものがシンタローの前に置かれた。
献立は、白米、キノコの吸い物、カブの漬物、里芋のにっころがしに、ぶりの照り焼き。
いただきます、と、二人で手を合わせてから箸でつつく。
「どうでっしゃろ。」
「………薄い。」
ニコニコ聞いてくるアラシヤマに、シンタローはズバリと思った事を述べた。
京料理は味が薄い。
ましてシンタローはイギリス人の父親に育てられたのだ。
父はシンタローの体を気遣うのもあったし、自分自身があまり濃い味付けが好きではないので薄口ではあったが、それでも京料理に比べれば充分濃のだ。
「シンタローはんて、味覚は子供舌なんどすな……。」
「あんだとッツ!?」
料理の事で馬鹿にされるのはシンタローは嫌だった。
何てったって、趣味、料理と書く位料理は好きなのだ。
色々研究して、独自に開発していったり、新しいレパートリーを増やしたりしている。
「京料理は食べ物そのままの味を楽しむもんどす。味付けは、素材の味を失わん程度に引き立て役としてしか使いやしまへん。」
そう言われ、シンタローは唸った。
確かにまずくはない。
それが又シンタローをいらつかせる理由でもあった。
「濃い味は嫌いなのかヨ。」
「まぁ、嫌いではあらしまへんけど得意ではないどすな。」
じゃあ、俺が作った料理も嫌々食ってたのかヨ!
そう考えると苛々する。
せっかく作ってやったのに。
それが顔に出ていたのか、アラシヤマは笑顔でシンタローを見る。
「あ、シンタローはんの料理はとってもおいしゅう頂かせとります。何たって、最大の調味料は“愛”どすえ。」
ブーーーッ!!
いきなりな台詞に、シンタローは飲んでいた吸い物を吹いた。
アラシヤマの顔面に直撃したが、彼は平然としていて…いや、むしろ喜んでいるようであった。
咳込むシンタローと、タオルで顔を拭くアラシヤマ。「でも……」
ふわ、と、アラシヤマの顔がシンタローの顔に近づいた。
もう少しで唇が触れそうな距離。
「1番美味しいのはシンタローはん自身どす。」
歯の浮くような台詞にシンタローはアラシヤマを蔑むような目で見たが、本心としてはくらっ、ときてたりする。
唇が重なり合い、それが合図となって、二人はベッドに重なり合った。
簡易ベッドな為、ギシギシと安っぽい音が奏でられる。
それと合唱するかのように、熱い吐息と甘い声が部屋に静かに響いた。
「あ、あ、」
途切れ途切れに聞こえる遠慮がちな喘ぎ。
汗で張り付く長い髪を気にする事なく突き上げられる。
シーツを掴み、腰を高く掲げられ、後ろから有無を言わさず快感を与えられた。
「シンタローはん。逃げないでおくれやす。」
無意識のうちに腰が引けていたらしい。
思いきり腰を引っ張られて、少し後ろに引きずられた。
畜生、何でこう、コイツはこうゆう時ばかり強引なんだ。
ムカつく、と、頭の中で悪態を吐くが、快楽のせいで息を吸うのもままならない口からは、いつもの毒舌は生まれなかった。
生まれるのは喘ぎ声だけ。
唇を噛み締めて声を押し殺そうともしたが、酸欠になりそうなので止めた。
アラシヤマに触れられている所が全て熱い。
自分も熱に浮かされているのに、こうも温度差を感じるのはアラシヤマが特異体質だからだろうか。
「ふ……ぅ……あ、ああ」
「もっと声聞かせておくれやす。シンタローはんの情事にまみれた声、わて、大好きなんどす。」
後ろから聞かされた為、顔までは見る事はできなかったが、その声色は酷く楽しそうで、そして、掠れていて色っぽい。
そんなアラシヤマの声が実はシンタローも好きなのである。
その証拠に、話し掛けられると、シンタローの蕾は、きゅうきゅうとアラシヤマ自身を締め付けるのだから。
上から覆いかぶされて、片手で腰、もう片方で乳首をいじめられる。
「んんッツ!あ、や、いや……」
ふるふると頭を振るのだが、止める気配はさらさらなかった。
「シンタローはんの乳首、えらい可愛らしおすなぁ。ピンクで、ツンツン尖って。わてに弄られて喜んどりますえ。」
ベロリと首筋を舐められ、シンタローはぶるり、と震えた。
前はいじって貰えず、かといって前のめりになっている自分は触る事すら出来ない。
涙が溢れた。
「あ…あらしやま……ッツ!」
舌ったらずの言葉遣いでアラシヤマを呼ぶ。
後ろでは、己とアラシヤマの液体が、ぐちゃぐちゃといやらしい音を奏でていた。
「何どすえ?」
耳元で囁かれる甘い声。
ぴったりとくっつき合う肌と肌が汗ばんでいて、少し気持ち悪い。
「も、だめ……あ、あ、」ゆるゆると腰が動いている。
それはシンタローの理性が途切れた合図でもあった。
「後ろだけでイッてみたらどうどっしゃろ。ふふ、恥ずかしどすなぁ?男やのに突っ込まれてヨガるなんて。」
今の状況を他人事みたいに言われて、かぁっ!と顔が熱くなる。
そして、思い知らされた。
恥ずかしいのに、又、きゅうっと蕾が絞まる。
「酷い事言われて感じとりますの?いやらしい体どすな、シンタローはんの体は。」
そう言ってシンタローの蕾に指を入れた。
「やあああ!い、痛あぁああッツ!!」
ビリビリと電流が流れて、シンタローは体を海老剃りに曲げた。
太腿がぴくぴくと痙攣をおこす。
「痛がってますのに、ここはガチガチどすな?痛いの本当は好きなんどっしゃろ。痛くされてよがるなんて……シンタローはんも大概変態どすな。」
酷い事を言われているのに、体は感じてしまって。
嫌なのに気持ち良い。
もっと激しく貫かれて、どうにも出来なくなる位になって。
頭が真っ白になり、何も考えられなくなる。
その時、くるりと正面を向かされた。
アラシヤマの顔が。シンタローはんの顔が。
見える。
「イク時のシンタローはんの顔、絶対見なあきまへん。」
「……こ、この、へんたいッツ!」
「それはお互い様どっしゃろ。」
アラシヤマの動きが早くなる。
熱い。自分もアラシヤマも。
胸に落ちる汗が、冷たくて、そしていやらしかった。
アラシヤマの息遣いも、段々荒くなっていく。
そんなアラシヤマを愛おしく思ってしまう俺は、もしかしたら相当コイツにやられてるのかもしれない。
おもむろにシンタローは腕をアラシヤマの背中に回した。
一瞬目を見開いたアラシヤマだったが、小声で一言、おおきに。と呟いてシンタローの奥不覚に貫いた。
「あ……アラシヤマ…!」
「クッ……!」
びゅくびゅくとシンタローの精子はだらし無く垂れ流され、シンタローの腹の上に注がれた。
アラシヤマは素早く己自身を抜き取り、シンタローの顔へと噴射したのであった。
「あ、熱……」
呆然としていたシンタローであったが、アラシヤマにされたこの仕打ちに対して、段々頭がクリアになる。
俺、まさか顔射されたのか?
顔を指でなぞると、明らかに汗ではないドロっとした感触。
「こォの腐れ野郎ーーーッツ!!」
シンタローの右ストレートパンチがアラシヤマの鳩尾にクリティカルヒットした。
次の日、言われた通り退却してきた団員。
彼等が見たものは、闘ってもいないのにボコボコにされたアラシヤマ。
しかし、顔はどこかスッキリとしていた。
そして、やはりスッキリした顔をしたシンタロー今回の戦いの作戦指示を出す。
「総帥からの命令どす。心して聞きなはれ。」
アラシヤマがそう言うと、団員達はビシッと敬礼をし、シンタローに向き直った。
「今回、諸君等にはN国側について貰っていた。だが、報告書を見る限り、悪はN国側と推測する。俺達ガンマ団は正義の団体として生まれ変わったのは諸君等も解っていると思う。弱きを守り、強きをくじく為にも俺達はクーデター側につく!」
そう熱弁すると、団員達から喝采が起きた。
正義感溢れる者達が今のガンマ団には多い。
シンタローとアラシヤマはそんな部下達を見て、少し顔を綻ばせた。
「作戦内容はラシヤマに伝えてある。コイツに従い、今まで通りやってくれ。以上だ。」
ぷつり、とマイクが切れた音がした。
シンタローと交代で、アラシヤマがマイクを握る。
しかし、対人恐怖症の為、斜め下を見ているアラシヤマ。
だが、団員達は慣れっこなので気にしない。
むしろアラシヤマが正面を向いて話した方が団員達には驚きだろう。
「さ、作戦内容は、まず、総帥に和平解決でけへんかN国の大臣に言って貰います。それで交渉成立でけへんかったらわてらの出番どす。N国の国王は実権を握っとりまへん。そやから大臣に少し脅しをかけます。税金の軽減、全ての大臣達の辞職、これが目的どす。」
挙動不信になりながらもとりあえずそれだけ言う事が出来た。
団員達も敬礼しながら話を聞き、返事を声高らかにしたのであった。
団員達への通達が終わると、当然ながら指揮官としてアラシヤマは戦地へ赴かなければならない。
団服の上にコートを羽織り、少ない日用品をアタッシュケースに詰めて艦に乗り込む。
団員達の誰よりも先に仕事に付くのがアラシヤマである。
仕事に生きる、いや、生かされている。
この仕事が彼にとっての天職であり、これしか自分ができる仕事がない。
タラップを上がろうとした時、横に居る赤い服の黒い髪。
「シンタローはん……」
思わず呼んでしまう。
この時間にこんな所に居ていい人間ではない。
仕事の合間に見送りに来てくれたのか。
そう思うと思わず心がほっこりした。
「きばって来いよナ。」
風で髪がたなびく姿を見て、ああ、この人を好きになって良かったと、アラシヤマは素直にそう思えた。
だから。
彼の激に答えなければならない。
「へぇ、行ってきますえ!」
満開の笑みを見せ、タラップを上がる。
彼の為に自分が出来る事を精一杯やろう。
それが彼にできる自分の全てなのだから。
柔らかな気分のまま、アラシヤマは戦地に向かう艦に乗り込んだ。
生きて帰ろうと誓う。
終わり
昨日夜半から起きたN国のクーデター。
その抑圧をすべく組まれた隊の隊長がアラシヤマであり、本日正午過ぎ、一旦情報を提示する為アラシヤマのみ帰還してきた。
どうやら内乱はさほど激しくはなく、後一週間もしたら抑圧できるだろう、というのがアラシヤマの報告であった。
クーデターを起こした理由はどうやら国の政治のやり方に不満があったようで、反乱した者達もただ単なるエゴではなく、自分達が生きる為必死だったらしい。
「腐った国どした。」
それがアラシヤマの本音であった。
ここに居ては依頼者側の話しか聞く事はできない。
鵜呑みにする訳ではないが、どうしても情報が偏るものだ。
「どうやらN国の国王は実権は握ってのうて、大臣達が国を動かしとります。水増しやら、税金やらでかなりぼったくっとるようでしたわ。」
アラシヤマの話に耳を傾け、作成された簡易の書類に目を通す。
“腐った国”とアラシヤマが言うように、内部情勢は本当に腐っていた。
国のトップにあるまじき行為。
トップの人間が良ければそれでいい、という考えの政治。
人々は働く場所すら奪われ、それでも高額な税金を納めなければならない。
N国は物作りの盛んな国で、そこの国民達は争いを好まない。
今まで堪え忍んできたものが一気に爆発したのだろう。
「お前の意見は?」
「へぇ。わてはシンタローはんがこのままN国側でいろと言いはるんでしたらそれに従いますわ。けど……」
そこで一旦区切り、シンタローの目に己の焦点を合わせる。
「悪い奴限定お仕置き集団だとしたら、クーデター側に行くべきやと思います。ただし、ギャラはかなり少なくなりますけどな。」
そう言って取り出した紙をシンタローに見せる。
そこにはガンマ団がこの戦いで使う経費と、N国側が報酬で払う金額、そして、クーデター側が払えるであろう金額が書いてあった。
「クーデター側はおおよそどす。」
「フーン。N国側と一億は違うナ。」
「ま、元々国民の金どすから。奴等が稼いだ金なんぞ鐚一文あらしまへん。」
ひらひらと紙を指の間に挟み、シンタローが笑う。
「命令変更だ。団員達は一旦ガンマ団本部へ退却。新たな指示を言い渡す。」
「了解どす。」
ビ、と、敬礼をして、アラシヤマは部屋から出て行った。
アラシヤマはそのままモニター画面付きの外線器で部下達に話を伝える。
『了解しました。』
担当の隊員が敬礼をし、外線は切れた。
己の役割を果たすと、アラシヤマは再びシンタローの元へと舞い戻る。
さっき行ったばかりなのに又戻ってきたアラシヤマに、シンタローは思い切り不機嫌な顔をした。
「シンタローはーん!」
「キモいしウザイから何処かに消え失せろ。」
「いややわー、シンタローはんたら恥ずかしがって!」
しなを作り頬を染めるのが又ウザイ。
アラシヤマという男は仕事に私情を一切出さない。
戦闘の事では尚更。
多分シンタローが死ね、と命令すれば何の躊躇もなく死ぬだろう。
勿論シンタローはそんな事は言わないが、団に身を置く事しか能がないと思っているアラシヤマはそれが自然で当たり前の事なのだ。
しかし、一度団から離れれば唯のストーカーと化す。
今回作戦変更となった為、アラシヤマはその瞬間からフリータイム突入なのだ。
そして、彼の趣味はシンタローをストーカーする事。
常に見ていたいし、声を聞きたいし、触れていたい。
しかし、シンタローが職務中である為触れる事はしないのだ。
黙ってろ、と言われて、アラシヤマは話す事を止めた。
しかし、見つめる見つめる!
穴が開くんじゃないかと心配する位じーーっとシンタローを見つめるのだ。
見るな、と、言えないシンタロー。
なんだかんだ言ってシンタローだってアラシヤマが好きなのだ。
そうでなければ大人の関係は持てないだろう。
好きでもない奴に体をいいようにされるのを好む程の変態ではないし、プライドがまず許さない。
彼はシンタローにとって、唯一自分をさらけ出せる相手でもあるのだ。
アラシヤマは優しい。
自分がどんなに暴言を吐いても、暴力で語っても笑顔で許してくれる。
それに甘え過ぎてもいけないのだが、甘えている、という気分にさせないようにするのも又上手い。
心は狭いが優しいのだ。
寛大ではない。それだけは絶対ない。
黙々と作業を進めるシンタローに、アラシヤマは飽きるという事を知らないように、じーーっと見つめている。
少し居心地が悪いが、仕事に夢中な為、段々そんな気分も無くなっていく。
ふわ、と温かい温度が頬を掠め、同時に芳しい匂いが鼻孔をくすぐった。
匂いのする方へ目線を送ると、いつのまにかアラシヤマが温かいコーヒーを入れてきたようで、カップをカチャリと邪魔にならない所に置いた。
「サンキュな。」
そう御礼を言えば、照れ臭そうに微笑む。
その顔がやはりキモかった。
アラシヤマの入れたコーヒーを一口飲んで、初めて自分が喉が渇いている事に気付いた。
コクコクと喉を鳴らし、瞬く間に飲み終える。
白いカップに入っていた黒い液体がみるみるうちに無くなっていく。
カチン、と、皿の上にコーヒーカップを置くと、又アラシヤマがコーヒーを注いでくれた。
時計をふと見ればもう夜で。
あれから何時間アラシヤマは何も話さずここに居たのか、と考える。
つまらなくないのか、と。
ふと、コーヒーを注ぐアラシヤマを見るとニコニコしていて楽しそうであった。
ああ、又甘やかしてくれやがって。
シンタローは軽く伸びをする。
今日しなければならない仕事はもう終わった。
そろそろ帰る準備をしようと席を立つ。
「帰るんどすか?なら、わてと食事でも……」
ぱあっと花が咲いたような雰囲気で笑い、誘うアラシヤマに、シンタローは心底疲れた顔をして見つめる。
「断る。」
そんな、殺生な!
泣き崩れるアラシヤマを興味のない目の端で見下し、シンタローは彼が回復するのを待った。
しかし、やはりアラシヤマ。
ねちっこさは天下一品である。
仕方ない、と、シンタローは肩をつぼめて溜息を吐いた。
「じゃあ特別に今回は一緒に飯食ってやるヨ。だけど俺疲れてるから、お前何か作れヨ。」
「へえ!おおきに!嬉しいどすー!シンタローはん!!」
肯定してやれば、さっきまでの泣き崩れは一体何だったのか、と思う。
まぁ、どう考えたって泣きまねだと知っていたが。
ルンタッタと足どり軽やかにシンタローの手を引っ張る。
もう夜遅いので、所定の場所にしか警備は居ない。
人前でのこの行為は死ぬ程嫌ではあったが、人が居ない所では許していた。
アラシヤマが慣れた手つきで自分の部屋の警備を解除した。
ドアを開けてシンタローを押し込める。
シンタローも勝手知ったというように電気を付ける。
相変わらず殺風景な部屋。
簡易ベッドにテーブル、スタンドにパソコンとクローゼット。
必要最低限の物しか置いていない。
テレビや書庫がないのはどうしてだ、と、以前聞いた事があるのだが、その時のアラシヤマの解答は、テレビは談話室、本は図書室で見ているとの事だった。
「さーて、シンタローはん、何にしましょ。」
エプシロンをして、笑顔で聞いてくるアラシヤマに、シンタローはやはりウザいと思うのだった。
「まぁ、食えるモンなら何でも……。」
そういえば、こいつの作る料理を食べるのは初めてだ。
一体何を作るのか。
「解ったどす!腕によりをかけますえ!!」
腕まくりをして、手早く料理を作っていく。
そういえばパプワ島でこいつは一人暮らししていたようなモンなんだから料理位は出来ていたンだろーナ、と、シンタローはふと思う。
マーカーの弟子なのだから、中華風かと思いきや、和風なものがシンタローの前に置かれた。
献立は、白米、キノコの吸い物、カブの漬物、里芋のにっころがしに、ぶりの照り焼き。
いただきます、と、二人で手を合わせてから箸でつつく。
「どうでっしゃろ。」
「………薄い。」
ニコニコ聞いてくるアラシヤマに、シンタローはズバリと思った事を述べた。
京料理は味が薄い。
ましてシンタローはイギリス人の父親に育てられたのだ。
父はシンタローの体を気遣うのもあったし、自分自身があまり濃い味付けが好きではないので薄口ではあったが、それでも京料理に比べれば充分濃のだ。
「シンタローはんて、味覚は子供舌なんどすな……。」
「あんだとッツ!?」
料理の事で馬鹿にされるのはシンタローは嫌だった。
何てったって、趣味、料理と書く位料理は好きなのだ。
色々研究して、独自に開発していったり、新しいレパートリーを増やしたりしている。
「京料理は食べ物そのままの味を楽しむもんどす。味付けは、素材の味を失わん程度に引き立て役としてしか使いやしまへん。」
そう言われ、シンタローは唸った。
確かにまずくはない。
それが又シンタローをいらつかせる理由でもあった。
「濃い味は嫌いなのかヨ。」
「まぁ、嫌いではあらしまへんけど得意ではないどすな。」
じゃあ、俺が作った料理も嫌々食ってたのかヨ!
そう考えると苛々する。
せっかく作ってやったのに。
それが顔に出ていたのか、アラシヤマは笑顔でシンタローを見る。
「あ、シンタローはんの料理はとってもおいしゅう頂かせとります。何たって、最大の調味料は“愛”どすえ。」
ブーーーッ!!
いきなりな台詞に、シンタローは飲んでいた吸い物を吹いた。
アラシヤマの顔面に直撃したが、彼は平然としていて…いや、むしろ喜んでいるようであった。
咳込むシンタローと、タオルで顔を拭くアラシヤマ。「でも……」
ふわ、と、アラシヤマの顔がシンタローの顔に近づいた。
もう少しで唇が触れそうな距離。
「1番美味しいのはシンタローはん自身どす。」
歯の浮くような台詞にシンタローはアラシヤマを蔑むような目で見たが、本心としてはくらっ、ときてたりする。
唇が重なり合い、それが合図となって、二人はベッドに重なり合った。
簡易ベッドな為、ギシギシと安っぽい音が奏でられる。
それと合唱するかのように、熱い吐息と甘い声が部屋に静かに響いた。
「あ、あ、」
途切れ途切れに聞こえる遠慮がちな喘ぎ。
汗で張り付く長い髪を気にする事なく突き上げられる。
シーツを掴み、腰を高く掲げられ、後ろから有無を言わさず快感を与えられた。
「シンタローはん。逃げないでおくれやす。」
無意識のうちに腰が引けていたらしい。
思いきり腰を引っ張られて、少し後ろに引きずられた。
畜生、何でこう、コイツはこうゆう時ばかり強引なんだ。
ムカつく、と、頭の中で悪態を吐くが、快楽のせいで息を吸うのもままならない口からは、いつもの毒舌は生まれなかった。
生まれるのは喘ぎ声だけ。
唇を噛み締めて声を押し殺そうともしたが、酸欠になりそうなので止めた。
アラシヤマに触れられている所が全て熱い。
自分も熱に浮かされているのに、こうも温度差を感じるのはアラシヤマが特異体質だからだろうか。
「ふ……ぅ……あ、ああ」
「もっと声聞かせておくれやす。シンタローはんの情事にまみれた声、わて、大好きなんどす。」
後ろから聞かされた為、顔までは見る事はできなかったが、その声色は酷く楽しそうで、そして、掠れていて色っぽい。
そんなアラシヤマの声が実はシンタローも好きなのである。
その証拠に、話し掛けられると、シンタローの蕾は、きゅうきゅうとアラシヤマ自身を締め付けるのだから。
上から覆いかぶされて、片手で腰、もう片方で乳首をいじめられる。
「んんッツ!あ、や、いや……」
ふるふると頭を振るのだが、止める気配はさらさらなかった。
「シンタローはんの乳首、えらい可愛らしおすなぁ。ピンクで、ツンツン尖って。わてに弄られて喜んどりますえ。」
ベロリと首筋を舐められ、シンタローはぶるり、と震えた。
前はいじって貰えず、かといって前のめりになっている自分は触る事すら出来ない。
涙が溢れた。
「あ…あらしやま……ッツ!」
舌ったらずの言葉遣いでアラシヤマを呼ぶ。
後ろでは、己とアラシヤマの液体が、ぐちゃぐちゃといやらしい音を奏でていた。
「何どすえ?」
耳元で囁かれる甘い声。
ぴったりとくっつき合う肌と肌が汗ばんでいて、少し気持ち悪い。
「も、だめ……あ、あ、」ゆるゆると腰が動いている。
それはシンタローの理性が途切れた合図でもあった。
「後ろだけでイッてみたらどうどっしゃろ。ふふ、恥ずかしどすなぁ?男やのに突っ込まれてヨガるなんて。」
今の状況を他人事みたいに言われて、かぁっ!と顔が熱くなる。
そして、思い知らされた。
恥ずかしいのに、又、きゅうっと蕾が絞まる。
「酷い事言われて感じとりますの?いやらしい体どすな、シンタローはんの体は。」
そう言ってシンタローの蕾に指を入れた。
「やあああ!い、痛あぁああッツ!!」
ビリビリと電流が流れて、シンタローは体を海老剃りに曲げた。
太腿がぴくぴくと痙攣をおこす。
「痛がってますのに、ここはガチガチどすな?痛いの本当は好きなんどっしゃろ。痛くされてよがるなんて……シンタローはんも大概変態どすな。」
酷い事を言われているのに、体は感じてしまって。
嫌なのに気持ち良い。
もっと激しく貫かれて、どうにも出来なくなる位になって。
頭が真っ白になり、何も考えられなくなる。
その時、くるりと正面を向かされた。
アラシヤマの顔が。シンタローはんの顔が。
見える。
「イク時のシンタローはんの顔、絶対見なあきまへん。」
「……こ、この、へんたいッツ!」
「それはお互い様どっしゃろ。」
アラシヤマの動きが早くなる。
熱い。自分もアラシヤマも。
胸に落ちる汗が、冷たくて、そしていやらしかった。
アラシヤマの息遣いも、段々荒くなっていく。
そんなアラシヤマを愛おしく思ってしまう俺は、もしかしたら相当コイツにやられてるのかもしれない。
おもむろにシンタローは腕をアラシヤマの背中に回した。
一瞬目を見開いたアラシヤマだったが、小声で一言、おおきに。と呟いてシンタローの奥不覚に貫いた。
「あ……アラシヤマ…!」
「クッ……!」
びゅくびゅくとシンタローの精子はだらし無く垂れ流され、シンタローの腹の上に注がれた。
アラシヤマは素早く己自身を抜き取り、シンタローの顔へと噴射したのであった。
「あ、熱……」
呆然としていたシンタローであったが、アラシヤマにされたこの仕打ちに対して、段々頭がクリアになる。
俺、まさか顔射されたのか?
顔を指でなぞると、明らかに汗ではないドロっとした感触。
「こォの腐れ野郎ーーーッツ!!」
シンタローの右ストレートパンチがアラシヤマの鳩尾にクリティカルヒットした。
次の日、言われた通り退却してきた団員。
彼等が見たものは、闘ってもいないのにボコボコにされたアラシヤマ。
しかし、顔はどこかスッキリとしていた。
そして、やはりスッキリした顔をしたシンタロー今回の戦いの作戦指示を出す。
「総帥からの命令どす。心して聞きなはれ。」
アラシヤマがそう言うと、団員達はビシッと敬礼をし、シンタローに向き直った。
「今回、諸君等にはN国側について貰っていた。だが、報告書を見る限り、悪はN国側と推測する。俺達ガンマ団は正義の団体として生まれ変わったのは諸君等も解っていると思う。弱きを守り、強きをくじく為にも俺達はクーデター側につく!」
そう熱弁すると、団員達から喝采が起きた。
正義感溢れる者達が今のガンマ団には多い。
シンタローとアラシヤマはそんな部下達を見て、少し顔を綻ばせた。
「作戦内容はラシヤマに伝えてある。コイツに従い、今まで通りやってくれ。以上だ。」
ぷつり、とマイクが切れた音がした。
シンタローと交代で、アラシヤマがマイクを握る。
しかし、対人恐怖症の為、斜め下を見ているアラシヤマ。
だが、団員達は慣れっこなので気にしない。
むしろアラシヤマが正面を向いて話した方が団員達には驚きだろう。
「さ、作戦内容は、まず、総帥に和平解決でけへんかN国の大臣に言って貰います。それで交渉成立でけへんかったらわてらの出番どす。N国の国王は実権を握っとりまへん。そやから大臣に少し脅しをかけます。税金の軽減、全ての大臣達の辞職、これが目的どす。」
挙動不信になりながらもとりあえずそれだけ言う事が出来た。
団員達も敬礼しながら話を聞き、返事を声高らかにしたのであった。
団員達への通達が終わると、当然ながら指揮官としてアラシヤマは戦地へ赴かなければならない。
団服の上にコートを羽織り、少ない日用品をアタッシュケースに詰めて艦に乗り込む。
団員達の誰よりも先に仕事に付くのがアラシヤマである。
仕事に生きる、いや、生かされている。
この仕事が彼にとっての天職であり、これしか自分ができる仕事がない。
タラップを上がろうとした時、横に居る赤い服の黒い髪。
「シンタローはん……」
思わず呼んでしまう。
この時間にこんな所に居ていい人間ではない。
仕事の合間に見送りに来てくれたのか。
そう思うと思わず心がほっこりした。
「きばって来いよナ。」
風で髪がたなびく姿を見て、ああ、この人を好きになって良かったと、アラシヤマは素直にそう思えた。
だから。
彼の激に答えなければならない。
「へぇ、行ってきますえ!」
満開の笑みを見せ、タラップを上がる。
彼の為に自分が出来る事を精一杯やろう。
それが彼にできる自分の全てなのだから。
柔らかな気分のまま、アラシヤマは戦地に向かう艦に乗り込んだ。
生きて帰ろうと誓う。
終わり