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【愚者】

シンタローは

あの子は
私に、理想を抱いてる部分があると思うんだ。

具体的に何て言えば良いのか。

難しいな。

シンタローにとって、私は。
生まれた時から「総帥」で。
きっと私なら何でもできるって
小さい頃からそう思っていて
多分今でも、私だったら‘親父だったらできるはずなのにオレは’とか
そんな事を考えたりする事もあるんじゃないかと思う。

だから、私はあの子の前では何でもできるスーパーマンでいたかった。

でも本当は全然、何もできなくて

壊したり失くしたりするばっかりで

私は本当に何も持ってない男なんだよ。と秘書の膝に頭を置きながら
そう呟いた。

これ以上ない位もう、あの子は私の醜い面を知っていて
それを知っても、尚、私の背中を追おうとする。
だからどんどん私は付け上がって、もっと最低になろうとする。
でもシンタローは、私を追うのをやめないんだ。

それが嬉しいんだ。私は。

だから、もっと、もっとって、これでもかって、ますます自分を穢して
あの子の気持ちを確認しようとする。

私が進むと、あの子も後ろにいて、一緒に歩いてやらないくせに
ちゃんとついて来ているか、目をやっていないと不安で、
あの子が、逆へ行こうとすると、必死で追いかけてしまうんだ。

熱いものがこみ上げて来て、口から声が毀れそうになり
咄嗟に抑えた。

シンタロー、ごめん。

シンタロー

大好きなんだ。

愛してる。

嘘だらけの私の世界で、これだけは真実で

好きで、好きで、たまらない。

触りたい。抱きしめたい。好きなんだよ。大好きなんだ。
でも、ちゃんと、どうしたら良いのか全然解からないんだ。

シンタローをどうしたいのか、
シンタローにどうして欲しいのか、
自分でもちっとも解からないんだよ。
ただ、お前が、私から離れて行こうとすると不安で死んでしまいたくなる。
それなのにこんな弱音すらお前の前で吐けなくて、
でも、自分の中だけに押し込めておける程強くもなくて
こんな、別の誰かに甘えて、吐き出して、
もう、私は、ぐちゃぐちゃだ。

ティラミスの手が頬に触れる。冷たくて心地よい。



そんなに



そんなに壊れそうになる程、



彼が好きですか、と尋ねられて



Yes,と答えた。
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 シンタローは、コンビニ袋を手にぶら下げ、足音も荒く廊下を歩いていた。
 (ったく、何でアイツ、冷蔵庫に何も入れてねーんだよ?それに、2年前のコーヒーなんて置いとくなっつーの!とっくに賞味期限切れてんのに、『まだ飲めるはずやから、捨てんといておくれやす~』って信じらんねぇ!!)
 イライラしながら歩いていたが、(あっ、俺用の茶を買い忘れた。ちょっと遠回りだけど、仕方ねぇ・・・)と休息室の方に足を向けた。
 入り口からみた様子では、どうやら室内には誰もいないようであった。自動販売機でペットボトルのお茶を購入し、帰ろうとすると、ふと、誰かが奥の方のベンチに寝転がっているのが見えた。
 (あれって、キンタローじゃねーか?)
 シンタローがそちらに足を向け、
 「オマエ、こんなとこで何やってんだよ?」
 上からのぞきこむと、キンタローは少し目を開け、
 「グンマが『僕もお手伝いするヨ~v』と言って実験中のプログラムをいじったら、大変な事になってしまった。一区切りついたので今は休憩中だ。俺は3日間寝ていない」
 と、眠そうに答えた。
 「それは・・・、ご愁傷様だな。ほどほどに頑張れヨ」
 シンタローは立ち去ろうとしたが、不意に片手をキンタローに掴まれた。
 「このベンチは硬い。あと5分だけ寝られるのだが、お前の膝を貸してくれ」
 「・・・似たり寄ったりだと思うゾ」
 呆れたようにそう答えると、
 「いいから」
 と、キンタローはもう一度シンタローの手を引っ張り、座らせた。
 キンタローは気持ちよく眠っているようである。シンタローはその間手持ち無沙汰であったので、膝の上のキンタローを起こさないように、そっとキンタローの髪の毛を数本手にとり眺めてみた。
 (―――親父の髪の色とソックリだナ)
 自分の黒い髪になんとはなしに目を移すと、その時、キンタローの腕時計のアラームが鳴った。
 「5分経ったゾ?」
 「まだ眠い」
 不満そうながらも、キンタローは渋々起き上がった。
 「これから俺は研究室に戻るが、暇だったらお前も来ないか?グンマもいるぞ?」
 「あー、悪ィ。ほんっとーに一応、なんだけど、先約があるんだわ」
 「そうか、わかった」
 キンタローが頷いたので、シンタローはベンチから立ち上がり、
 「じゃーナ!」
 と言ってその場を後にした。


 ドンドンと扉を敲くと、ガチャリ、と内側からドアが開き、
 「シンタローはーん!おかえりやす~~vvvあんさんに言われたように、棚の中の賞味期限切れのお茶とか探し出して全部捨てときましたえ~!いや、今でもわて、あれは立派に非常食になると思うんやけど・・・」
 アラシヤマが顔を出した。
 「テメェ、まだ言うか?」
 「そんなことよりも、早う借りてきたビデオ観まへん?」
 「ああ」
 シンタローは、アラシヤマに続いて部屋に入った。
 

 「―――なんや、これぐらいのアクションやったら、わてらでもできそうな気がしますナ・・・」
 「テメェ、一々しらけさせるようなこと言ってんじゃねーヨ!いいから、集中して見ろッツ!!」
 2人はビデオを観ていたが、シンタローが真剣に観ていたのに対し、アラシヤマはビデオに飽きてきた、というか集中できていないようである。
 「なんか、オマエ、さっきよりも近くに寄ってきてねーか・・・?」
 ふと、シンタローがそう言うと、
 「き、気のせいどすえっ?それよりも、シンタローはん、一つお願いがあるんどすが・・・」
 「何だヨ?」
 いつもよりも比較的機嫌が良さそうとみたからか、アラシヤマはシンタローの両手をとり、
 「わ、わてにも、膝枕しておくれやす~~~vvv」
 と、何やらモジモジしながら言った。
 「ハァ?何言ってやがんだ?」
 シンタローは、握られていた手を思わず振り払った。
 「なっ、何でキンタローはよくって、わてはだめなんどすかぁ??」
 「だって、オマエ、あかの他人だし。そもそも、何でそんなこと知ってんだよ!?やっぱりストーカーかテメェ!?」
 「・・・あんさんが、中々帰ってきはらへんから、心配になって途中まで迎えに行ったんどすが、恋人同士みたいにええ雰囲気で声をかけそびれてしまいましたわ。まぁ、あかの他人やさかい、わてには関係あらしまへんわな」
 「・・・」
 シンタローが無言で立ち上がり、アラシヤマに背を向けて部屋を出ていこうとすると、床に座っていたアラシヤマに腕を強く引かれた。バランスを崩したシンタローはアラシヤマの上に倒れこんだが、アラシヤマはそのままシンタローを抱えると立ち上がり、シンタローをベッドの上に放り投げた。
 シンタローはすぐに身を起こしてアラシヤマを睨みつけたが、アラシヤマは冷たい目つきでシンタローを見下ろし、
 「別に、膝枕やのうて他のことでも、わては全然かまいまへんえ?」
 と言った。










 (あれは、わてのせいやない。シンタローはんが悪いんや・・・)
 そうぼんやりと考えながら、アラシヤマは休息室の煙草の自販機に背を預け、座り込んでいた。
 手の中には、たった今買ったばかりの煙草がある。
 「なんで、こないなことになってしもうたんやろか・・・」
 アラシヤマは溜め息を吐いた。
 しばらくすると廊下の方角から靴音が聞こえ、誰かやってきたようである。しかし、アラシヤマは立ち上がる気もしなかったのでそのままの状態でいると、煙草の隣の飲料の自販機でガコンと音がし、誰かが飲み物を買ったらしい。
 「貴様、こんな所で何をしている?」
 上から声が落ちてきたので、アラシヤマは面倒そうに上を向いた。
 「見たらわかるやろ?別に何もしてまへんわ。そういうあんさんこそ、何でこんな所におるんどすか?」
 声を掛けたキンタローは、少し考えた挙句、
 「さっき、廊下でシンタローを見かけた。・・・俺なら、シンタローを傷つけるような真似はしない」
 と短く言った。
 「いきなり何どすの?あんさんには関係ないやろ。えろう余計なお世話どす」
 アラシヤマはそう言って立ち上がると、休息室を後にした。キンタローがまだ何か言いたげにこちらを見ていることには気がついていたが、あえて、無視した。
 
 
 アラシヤマが自室に戻ると、案の定、誰もいなかった。
 彼を部屋から叩き出した張本人は、やはり戻っては来なかったようである。
 期待したつもりは無かったが、それでもどこか少し期待していたのか、いつもよりも部屋が余計にガランとして見えた。
 アラシヤマは、寝乱れてクシャクシャになったシーツが敷かれたままのベッドの端に腰掛け、テレビをつけると箱から煙草を一本取り出した。
 煙草をくゆらせてみたが、むせたので火を消し、煙草を咥えたままベッドに寝転がった。
 TVの画面は見えなかったが、ふと、聞こえてきた台詞が耳に衝く。
 『君が幸せならいいんだ』
 (いかにも、キンタロー辺りが言いそうどすな!ムカつきますわ・・・)
 アラシヤマがシンタローに対して自室から叩き出されるような行為をしたそもそもの原因に考えが及び、思わずフィルターを噛み潰した。
 「けど、わてはそんな台詞は言えやしまへん。―――無理や分かってても、シンタローはん、わては、あんさんをわてだけのものにしときたいと思いますえ?」
 そう呟くと、テレビを消し、備え付けの電話に手を伸ばした。









+-

 「なんつーか、狭いよナ・・・」
 シンタローは、自室に置かれた色とりどりのラッピングがほどこされたたくさんのプレゼントの山を見て、思わずそう呟いた。決して狭い部屋ではないはずだが、それにしてもプレゼントの量が多すぎた。
 (ったく。昨日から色んなヤツラと飲みすぎたせいか、頭も痛ぇし・・・)
 少しウンザリとした気分でプレゼントの山を一瞥した。ここに置いてある物は全て身近な人達からの贈り物であったが、それ以外の物はまた別の場所に保管されていた。
 (そういやアイツ、ここしばらく姿を見せねーけど遠征中かな。―――別に、どうでもいいけど)
 酒の酔いが残っているせいか、うまく働かない頭でぼんやりと考えながら、シンタローがなんとなく壁に掛けられた時計を見ると、既に時刻は12時前であった。
 (もう、寝るか)
 と、寝室に足を向けたところ、
 ドンドンドンッツと、部屋の扉を叩く音がした。
 そして、
 「シンタローはーん!開けておくれやすぅ~」
 と叫ぶ、情けない声が聞こえた。
 しばらく放っておいても中々諦めそうになかったので、仕方なくシンタローが、
 「うっせーナ!でかい声を出されると頭に響くんだヨ!!」
 そう言いながらドアを開けると、そこには血や土や木の葉が付着したままの迷彩服姿のアラシヤマが居た。シンタローは、眼魔砲を撃とうと思っていたが、アラシヤマの服に着いた血を見て撃つのを止めた。
 アラシヤマが、
 「シンタローはんッツ!今何時どすか??12時過ぎてまへんかっ!?」
 と、ものすごく焦った様子で部屋に入ってきたので、
 「12時1分前だけど・・・」
 シンタローがアラシヤマの勢いに少し引き気味になりつつ、時計を振り返って時刻を答えると、彼はホッとしたようにシンタローに、
 「シンタローはん、お誕生日おめでとうございます」
 と言った。
 「なんとか、間に合いましたわ」
 アラシヤマが嬉しそうに話すのを聞きながら、シンタローが
 「まさかオマエ、わざわざそれを言うために来たのか?別に、そんなのいつでもいいじゃねーか」
 呆れたようにそう言うと、
 「ちょっと待っておくんなはれ。あんさんが生まれた日は、わてにとって一番大事な日どす。ほんまやったら、一番にオメデトウを言いたかったんどすえ?でも今回、シンタローはんの誕生日前から急に個人任務が入ったんで、何とか今日中に還ってきてあんさんに伝えたかったんどす」
 と真剣な顔で言った。
 続けてアラシヤマが、「これは絶対誰かの嫌がらせや」とか「呪ってやりますえ~」とかブツブツ言っていたのをシンタローは遮り、
 「オマエ、怪我してんのか?大丈夫なのかヨ?」
 と訊いた。
 「あ、コレ?わての血やあらしまへんわ。あっ、いうときますが、一応今回は殺してまへんえ?」
 アラシヤマが慌てたように弁解するのを聞きながら、
 「あっそ。もう寝る」
 シンタローがアラシヤマの背を向け、寝室の方に歩いていこうとしたところ、手首を掴まれ、
 「わての部屋に来まへんか?」
 アラシヤマがそう言った。シンタローがアラシヤマを見ると、彼は慌てて手を離し、下を向いた。
 「―――ま、いいけど。とにかく眠いし、寝るだけだからナ!」
 「えっ?寝るだけ?!し、シンタローはんッツ!あんさんが積極的で嬉しおすー!!」
 アラシヤマはシンタローに抱きつこうとしたが、
 「眼魔砲」
 酒に酔っているせいか、いつもより威力は弱かったものの、眼魔砲を撃たれた。
 

 アラシヤマの部屋に着くと、アラシヤマはまず風呂に入ろうとし、
 「シンタローはんも一緒に・・」
 シンタローに声を掛けたが、
 「嫌だ」
 0.1秒で却下された。
 「ええんどす、ええんどす。どうせわてなんて・・・」
 アラシヤマが落ち込んでいると、
 「とっとと、行ってこいッツ!テメー、ウゼェんだヨ!!」
 と、枕を投げられた。
 アラシヤマは、風呂からあがると、
 「お待たせしました、シンタローはんッツ!ハッピー☆バースデーどす~!そして、プレゼントはもちろん、わ・てvvv」
 返事が無かったので、アラシヤマがベッドの近くまで行ってみると、シンタローは枕を抱えて目を閉じていた。
 「シンタローはーん、寝たふりせんといておくんなはれ・・・。いくらわてでも傷つきますえー?ちゃんと今の聞いてはりました?」
 「―――超いらねぇ。どーせなら、金目のもん寄こせ」
 「あっ、あんさんがそう言うと思って、用意しておきましたえ~vvvわての給料3ヶ月分どす」
 アラシヤマは小さい箱を差し出したが、
 「・・・やっぱし、いらねェ。どーせ、俺は着けないし」
 シンタローは寝返りを打ち、向こうを向いてしまった。
 アラシヤマは苦笑いし、
 「そう言わはると、思ってましたわ」
 そう言って、ベッドサイドに座ると、向こうを向いたままのシンタローの髪を撫でた。
 「―――例えば形見分けやったら、受け取ってくれはります?」
 髪を撫でながら、アラシヤマは戯言のように話しかけたが、返事は無かった。
 「冗談どす。そうなると、シンタローはんにいつまで経っても受け取ってもらえまへんやろ?」
 シンタローがこちらに向き直ると、何か言おうとする前にアラシヤマはキスをした。
 「ほな、もう寝ますか」
 そう言うと、ベッドサイドのライトを消した。
 しばらくするとシンタローの微かな寝息が聞こえてきたが、アラシヤマはまだ寝ていなかったらしく、
 「シンタローはん。生まれてきてくれて、ありがとうございます」
 と噛み締めるように、言った。







なんだか、シンちゃんを祝えているかどうかイマイチ不安です。
・・・風呂あがりアラシヤマは、一応服を着ているということでお
願いします(着ていなかったら、非常にマヌケな気が・・・/汗)


-

 アラシヤマは、眠りから覚醒したとも覚醒していないともいえないあやふやな状態であり、起きるのが面倒であったので目を閉じていたが、外は既に陽が昇っているらしく、目を閉じていても目蓋の裏側に明るさが感じられた。
 目覚まし時計にセットしておいた時刻ではなかったが、何時までも眠っているというわけにはいかないので、渋々起き上がると足元に揃えてあった軍靴を手に取り逆さにし、簡易寝台の縁に数回軽く叩き付けた。すると、中からは白っぽい砂埃が零れ落ちた。
 彼はうんざりした様子で床に落ちた砂埃を見たが、軍靴を履き、机の上に置いてあったファイルを手に取ると部屋の入り口から出た。
 戦況は、既に数ヶ月膠着状態を迎えていた。これまで諜報活動が重要な位置を占めており情報戦が主であったので、特に派手で激しい戦闘は無く、彼の役割は集められた情報を分析し、戦略を立てることであった。
 アラシヤマは埃っぽい廊下を歩きながら、
 (あぁー、早うガンマ団に帰りとうおます。わて、こんな仕事よりも実際に戦う方が好きどすわ。まぁ、今回は仕方ありまへんけど・・・)
 作戦本部が置かれている部屋へと向かう途中、やはり砂埃で汚れている窓から外の風景が見えたが、若い兵士たちがサッカーや野球をして遊んでおり、非常に楽しそうであった。戦闘が始まらないと出番の無い彼らは、暇をもてあましていた。  
それを見たアラシヤマは、
 (こんな砂埃しかない所で朝っぱらから元気で楽しそうどすなぁ。―――ムカつきますわ。わては、ずっとシンタローはんに会えへんから最近苛々しとりますのに。・・・もう、そろそろ集められる情報も限界どすし、一気に片をつけてもええ頃どすな!)
 アラシヤマは、持っていたファイルを開き、パラパラと見直しながら、廊下の奥へと消えていった。


 シンタローは、自室のベッドで眠っていたが、ちょうど夢から覚めかけている頃合であった。
 「うーん・・・。パプワ、チャッピー!飯はまだだッツ!!」
 そう大きくはなかったが、シンタローは自分の声で目が覚めたようであった。
 「あれッ、俺・・・?」
 彼はベッドの上に身を起こすと、それでも未だ夢の名残を探すように辺りを見渡したが、彼が期待した状況ではないと知り、溜息を吐いた。
 「だよな。PAPUWAハウスの布団が、こんなに寝心地いいわけねェし・・・」
 そう言いながら、シンタローはベッドから降り、窓の方に歩いていった。しかし、窓はブラインド式であり、光は入るが開け放つことが出来ない構造になっていたので外の景色は見えなかった。
 シンタローは溜息を吐き、それでもブラインドを最大限にずらすと、隙間からは蒼い空の色が少し見えた。
 彼は窓を閉めると、壁に架かっている赤い総帥服を見た。
 シンタローは、歩いて行き、服をハンガーから外すと着替え始めた。


 それまでの諜報活動が功を奏してか、決着はあっけないほど簡単に付いた。相手方からガンマ団に寝返る者が続出し、人心の掌握はほぼ出来ていたので圧倒的に有利であった。
 戦闘はほぼ形式的なもので済み、明日、ガンマ団に帰還することが決まった。若い兵士達は、やっと帰れるとのことで、大喜びであった。
 (やっと、この埃っぽい土地ともお別れどすな。嬉しおす)
 アラシヤマは未だ夜が空ける前に目が覚め、暗い部屋でそのままベッドの上に寝転がっていたが、ふと思い立ち、建物の外に出てみる事にした。
 制服を着たまま寝ていたので、靴を履くとすぐに支度が出来た。
 建物の正面側では、撤退のための準備作業が続けられており、慌しい雰囲気であったので、裏口の方から外に出た。
 土壌は本来白っぽい乾燥した土であったが、朝露が降りたのか湿っていた。周囲には何も無かったが、少し離れた場所に木立が見えたので、アラシヤマは其処まで行ってみることにした。
 (確か、航空写真にも写ってましたな。ここら辺に生える木はセイヨウハコヤナギぐらいでっしゃろか)
 近くまで行ってみると、やはりセイヨウハコヤナギであったが、中には思いもかけず広葉樹が1本混じっていた。その地域には分布しておらず、自然に生えるはずはないので、誰かが植えたものかもしれない。気温がこれまでよりも暖かかったせいか、濃い樹脂の香がした。木の根元には団栗が落ちていたが、芽吹く事はないように思われた。
 アラシヤマは、何となく足元にあった団栗を拾うと、ポケットに入れた。
 「ほな、帰るとしますか」
 太陽が地平線から姿を現し、灰白色の土壌を照らし始めた。風が吹き、木の葉や枝がザワザワと音を立てた。


 ガンマ団に帰還すると直ぐ、アラシヤマはシンタローに報告を行うため、総帥室を訪れた。
 事務的な報告を一通り済ませると、
 「シンタローはん、お久しぶりどす」
 と、アラシヤマは声を掛けた。
 「わてが居らん間、寂しくありまへんでした?」
 「いや、全っ然。」
 「またまた、シンタローはんったら、照れ屋さんどすなぁvvv」
 アラシヤマは眼魔砲を撃たれるかと反射的に身構えたが、案に反して、シンタローは、溜息を吐いたのみであった。そして、そのまま書類を読み始めた。
 「―――あんさん、籠の中の鳥みたいどすな。シンタローはんらしゅうありまへんえ?」
 アラシヤマは少し何か考えると、ポケットから団栗を掴みだし、デスクの上に置いた。
 「シンタローはん、お土産どす」
 「何だよ、コレ?」
 「砂漠に、ポプラに混じって一本だけしぶとう生えとった樫の木の団栗どす。わて、珍しく感心したんどすえ。・・・芽が出るかどうかわかりまへんが、ガンマ団の敷地内の何処かに植えてもよろしゅうおますか?」
 「ああ。別にいいゼ」
 そう言って、再び書類に目を落としたシンタローの腕をアラシヤマは引っ張り、
 「あんさんも、来ておくれやす」
 と有無を言わせない口調で言った。
 「何で俺が。忙しいし」
 「いや、これはシンタローはんへのお土産どすから。それに、ちょっとぐらい休んでも誰も文句は言いまへんやろ。あんさん、総帥どすし」
 シンタローはまだ乗り気ではなさそうだったので、アラシヤマは、
 「一緒に行ってくれまへんと、今ここでキスしますえ?」
 と言った。
 「じゃあ、行く」
 「えっ?何でやけにそんなにあっさり言うんどすかッツ!?シ、シンタローはーん・・・」
 アラシヤマは、少々落ち込んでいるようであった。
 シンタローはそれを無視して先に部屋を出た。そして、アラシヤマは慌てて後を追いかけた。


 誰かに見つかると説明が面倒なので、2人は人気の無い林まで来た。
 アラシヤマは日当たりの良い場所を選び、コンバットナイフで土を掘って団栗を埋めた。
 シンタローは、それを見るでもなく、少し離れた場所に座っていた。
 団栗を埋め終えたアラシヤマが、シンタローの傍に来ると隣に座り、
 「あぁ、空を見てましたんか」
 しばらく2人は何も話さなかったが、アラシヤマは、
 「―――シンタローはん、目に見える範囲は限られてますけど、空は、何処へでも繋がってますえ」
 と言った。
 シンタローは、アラシヤマを見ると、
 「ああ」
 と応じた。 









a

 先程まで、古参の幹部への現状報告を中心とした長い会議が行われ、今やっとそれが終わったばかりであった。
 彼らは、我先にとシンタローの方にやってきて挨拶を済ますと、気が済んだのか、お互い懐かしげに話し合いながら部屋を退出したり、既知の相手を見つけその場に留まり世間話に興じたりしていた。その中、シンタローは机に片腕で頬杖をつき、
 「ッたく、何で俺が、長々とジジイどもの相手をしなきゃなんねェんだ?報告だけだったら、別にオマエだけでもいいんじゃねーの?」
 と、隣で書類を片付けているアラシヤマに言った。どうやら、久々に子ども扱いされたことに対して不貞腐れているようであった。
 「―――あの爺さん連中は、同期の桜にもどすけど、何より一番あんさんに会いとうて、出席してはるんでっしゃろ。まァ、老い先短い連中ですし、たまにはええんちゃいますのん?ちなみにわては、爺さん連中に全く人気がありまへんわ(というか、あんさんの傍に居るというだけで、ライバル視されてますしナ。全く、いつまで経っても元気な連中どすわ・・・)」
 シンタローは、彼らが自分や仲間達にこの機会を利用して会えるのを楽しみにしているということを分かりつつも、退屈な会議が長々と続く事が納得がいかないのか、まだ拗ねている様子であった。
 アラシヤマは、こちらを見ないシンタローの背に、声を掛けた。
 「シンタローはん、ずっと此処に居ってもしょうがないですし、そろそろ行きまへん?最近ちょっと暖こうなってきましたし、公園の中を通って戻ってみまへんか?」
 シンタローは、少し考え、
 「別に、いいゼ」
 と言って立ち上がった。
 
 建物の外に出、ガンマ団内の公園の入り口に差しかかった。時刻は既に黄昏時で、空は菫色に染まっていた。やがて、空の色は濃い藍色へと移り、空には何時の間にか白い三日月が懸かっていた。
 アラシヤマとシンタローは無言で並んで歩いていたが、不意に、強い風が吹き、2人は思わず目を瞑り、足を止めた。風はシンタローの長い髪を乱した。
 風が通り過ぎた後、目を開け、シンタローが忌々しそうに
 「何なんだヨ!?今の風!!」
 そう言うと、アラシヤマは、
 「東風でっしゃろか」
 と答えた。
 シンタローが数歩、歩き出すと、アラシヤマは、
 「ちょっと、待っておくんなはれ」
 と言って後ろからシンタローの腕を掴み、自分の方へと引き寄せた。
 「―――眼魔、」
 「いや、ちゃいますって!さっきの風のせいか花びらが髪の毛に付いてたんどす!わてはただそれをとってあげようと思っただけどすえ~!?」
 シンタローを離さないまま、アラシヤマは後ろから、
 「これが証拠どす。どうやら梅の花みたいどすな」
 と言って白い小さな花弁を差し出した。
 シンタローは不審気な様子であったが、
 「―――とっとと取れヨ!・・・妙なことしやがったら、殺す」
 と嫌そうに言った。
 「わて、そないに信用ありまへんの~・・・」
 アラシヤマは、黙々とシンタローの髪に付いた花びらを取っていったが、最後の一枚を取り終えると、両腕で彼を抱きしめた。シンタローは、勿論振り払おうとしたが、アラシヤマが腕に力を込め、真剣な声で、
 「あと、ほんの少しでええんどす。お願いですから、もうちょっとだけ、このままで許してください」
 と言ったので、逃げるのをやめた。
 「―――シンタローはん、わて、毎日どんどん、あんさんのことが好きになります。それは、わてには予測もコントロールできへんことなんで、わては、怖うおます」
 そう言ったきり、アラシヤマは黙ってしまった。
 暫く時が経つと、シンタローは不意に、自分を抱きしめているアラシヤマが見知らぬ男であるような気がして不安になった。
 シンタローが身動ぎをすると、今度は簡単に腕は外れた。シンタローは、アラシヤマの方に向き直ったが、辺りは既に暗く周囲には街灯も無かったので、至近距離ではあったが表情は、分からなかった。
 「アラシヤマ?」
 シンタローがそう呼ぶと、不意に引き寄せられ、キスをされた。
 シンタローが呆然としていると、
 「シンタローはん。・・・やっぱりあんさん、めちゃくちゃ可愛いおす~vvvも、もう一回キスしてもええですやろか??」
 そう言ってアラシヤマが再びキスをしようとしたので、シンタローは、
 「眼魔砲ッツ!」
 と、ものすごく至近距離から、手加減せずに眼魔砲を撃った。アラシヤマは、芝生の方に吹き飛ばされたが、シンタローは振り返りもせずに一人帰って行った。
 芝生に取り残されたアラシヤマは、
 「アイタタた。今の眼魔砲、全く手加減なしどしたわ。シンタローはんは、照れ屋さんどすなぁ・・・」
 そう言って、芝生の上にゴロリと仰向けに寝転がった。
 細い月はいつしか中天に昇っており、何処からか、梅の香が流れてきた。









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