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 その日も吉原は不夜城との名を体現するかのごとく煌々と灯が夜空を照らし、人通りが絶えることがなかった。
 田園が広がる暗闇の中に突如出現する花街は、そこを目指してやってくる男達にとって極楽と思えたに違いない。
 華やかな張見世をのぞき軽口をたたいて遊女とのやりとりを楽しむ者、揚屋に向かう花魁道中にぼんやりと見惚れる者など様々である。
 揚屋の二階、八間行灯の灯りが広い部屋を照らしきれていない中、男が一人、酒肴の膳を前に魂が抜けたように項垂れていた。
 身なりは裕福な商人のようであるが、あばたの痕が点々と顔中にあった。それが灯りに照らされて彼の容貌を一層醜く見せていた。
 隣の部屋からは、芸者の弾く三味線の音、幇間の調子の良い掛け声、遊女と客達のさんざめくような笑い声が聞こえてくる。
 彼も、先程までは彼らとまったく同じ立場であった。身請けの祝いにと宴を設け、郷里から呼んできた商人仲間たちを前にひどく気分が高揚していた。
 誰もが美しい花魁を身請けすることに対するやっかみと、感嘆の眼差しで自分を見ていたはずであった。
 しかし、その心持ちは打ち砕かれた。今宵、妻となるはずの花魁からの突然の愛想づかし。彼女が何を言ったか自分がどう答えたか、男はその内容などほとんど覚えてはいなかった。
 呆然と目線をさまよわすと、襖の陰に男が一人立っているのに気がついた。痘痕面の自分とは大違いの、役者のような男振りであった。
 花魁はそちらに目を遣り、小さい朱唇を噛むと、
 「栄之丞は、私の間夫」
 と言い切り、昂然と席を立った。
 水を打遣ったかのようにその場は静かになったが、次第に失笑が漏れ、
 「いやいや、次郎右衛門どん、とんだことで」
 「いや、なかなか面白い趣向を見せていただきましたよ」
 「これは、郷へのいい土産話になった。みんな大笑いするだろうに」
 散々に勝手なことを言い放ち、仲間達は宿へと引き揚げていった。
 彼は、顔を上げることも出来なかった。情けないやら腹立たしいやら、とうてい感情の整理がつかないまま身じろぎもできず、ずっと座敷に座っていた。
 「花魁、そりゃァちとそでなかろうぜ」
 ふと、口からそのような台詞がこぼれ落ちた。
 男はその言葉を何度か呟いてみると、深々と胸が締め付けられるような、ゆっくりと心が芯から凍っていくような、奇妙なこころもちがした。



 マジックから再三呼び出しの文を受け取ったシンタローが、仕方なく久々に自宅へと戻ると、珍しく本人ではなく用人のティラミスが出迎えた。
 廊下を歩きながら彼に問うと、
 「親父の用って、何だよ?」
 「シンタロー様、私からは少々申し上げにくく……」
 常に冷静で表情を変えないティラミスが、なんとはなしに困ったような顔をして言葉を濁したのでシンタローはいよいよ不審に思った。
 いつの間にか部屋の前に着き、
 「こちらでお待ちです」
 と、一礼して彼は去っていったので、シンタローが用心しいしい襖を開けると意外にもマジックは部屋で端座して待っていた。その前に座布団が一つ置かれており、どうやらシンタローのためのものらしい。
 「シンタロー、そこに座りなさい」
 とマジックは浮かれた様子も見せず淡々とそう云った。
 (道場のことか?でも、それは一応決着がついているはずだしナ……)
 思案をめぐらせながら、シンタローが座布団に正座するとマジックは、
 「話がある」
 そう云ったぎり中々話し出さない。
 「何だヨ!?早く言いやがれ」
 「実は、さる筋から縁談を申し込まれた」
 「親父が?別に見合いでも何でも勝手にすりゃいいんじゃねーの?」
 「私ではない。お前に、だよ。」
 シンタローは一瞬目を見張ったが、
 「俺は、見合いも結婚も今後一切するつもりはねぇ。悪ぃが、断ってくれ」
 キッパリとそう言った。
 マジックは何も云わない。シンタローはもう一度念を押しておいた方がいいかと思いつつ、口を開こうとすると、突然、
 「シンちゃーん!やっぱり、シンちゃんはいつまでたってもパパのシンちゃんだよネvお見合いはシンちゃんが嫌だったら断っておくから心配しなくても大丈夫だヨ!あ、でもさっきの『見合いでも何でも勝手にしたら?』っていうのは、パパ、結構傷ついちゃったヨ?」
 そう言って嬉しそうにマジックはシンタローを抱き寄せた。
 シンタローは、常にないマジックの真剣な様子に油断していた事と、とっさの出来事でかわす事ができなかったらしい。半ばあきらめの気持ちで彼はしばらくの間じっとしていた。
 「いやでも、まさか、どこの馬の骨とも分からない野郎どもに可愛いシンちゃんが騙されているんじゃ・・・!?そんなことないよね?与力とか同心連中にもシンちゃんのファンがたーっくさんいるし、パパとっても心配だヨ!!」
 (――一体どこをどう考えやがったらそうなるんだ?親父、頭が湧いてんじゃねーの??ったく、頭痛がしてきたゼ・・・)
 どうにかマジックを押しのけ、座布団に座りなおすと、
 「この際だから、はっきり言っておく。俺はこの家の跡は継がねぇ。コタローにアンタの跡を継いで欲しい」
 低く云った。座敷には、殺気が漂った。
 「シンタロー、それはお前の一存で決めることはできない」
 常人なら竦みあがるような殺気の中、マジックは平然としていた。
 そして、
 「コタローのことに拘るよりも、自分の幸せを一番に考えなさい」
 有無を言わせない口調で、そう断言した。
 二人は暫く睨み合っていたが、業を煮やしたのかシンタローがついに立ち上がった。
 「――こんのクソ親父ッツ!!」
 「非道いよシンちゃんッツ!パパをクソ親父なんていう悪い子に育てた覚えはありません!パパ大好きvって言ってヨ!!」
 「うるせえッツ!!俺はもう帰るからナ!当分こっちにはこねぇから、アンタも道場に来んじゃねーぞ!?」
 襖が高い音を立てて閉め切られた。
 「シンちゃんの意地悪~」
 マジックは飾ってあったお手製シンちゃん人形をとりあげると、頬擦りした。
 しばらくすると、襖越しに、
 「……コタローは、元気なのか?」
 とボソリと問う声が聞こえた。シンタローはまだ帰ってはいなかったらしい。
 「ああ。相変わらず容態に変わりはないが、サービスが万事面倒をみてくれている」
 「そうか」
 気配が、その場から消えた。
 「――せっかく会えたのにコタローのことばかりだと、パパ焼きもちやいちゃうヨ?」
 マジックが庭に面した障子を開けて外廊下に出ると、冷たい空気が肌を刺した。
 庭には弱々しく冬の日差しが注いでおり、一隅に植えられた南天の実が鮮やかに紅く色付いていた。


 師走も中ごろとなり、家屋の煤払いを済ませた人々は新年を迎える用意ができた嬉しさからか、誰もが清々しい顔つきで街中を往来していた。
 昼九つの頃、アラシヤマが奉行所内の詰所を訪ねると、室内にはミヤギ一人しかおらず彼は火鉢の傍で弁当を食っている最中であった。
 「暢気なもんどすな」
 「なんだべ、アラシヤマか」
 ミヤギは顔を上げると、握り飯を頬張った。アラシヤマは戸棚から人相書の綴りを取り出し、ミヤギとは反対側の火鉢の前に座った。特にお互い会話をするわけでもなくミヤギは食事に専念しアラシヤマは帳面を読んでいたが、しばらく経つとミヤギは何か思い出した様子で「そういえば、」とアラシヤマに声をかけた。
 「オメさ、来る時シンタローに会ったべか?」
 「なんどすか!?シンタローはんが来てはるんどすかっ!?」
 帳面を放り出し、急いで出て行こうとするアラシヤマの背に向かって、
 「外で会ってないなら、すれ違いだっぺ?なら、もうとっくに帰ったはずだべ」
 ミヤギが声をかけると、アラシヤマは振り向いてミヤギをにらみつけ、
 「……あんさん、ほんまに気ぃききまへんナ!もう間に合わへん」
 と不機嫌そうにブツブツ言いながら戻ってきた。
 ミヤギは、(この根暗に、そこまで言われる筋合いはないべ?)と思ったが、呆れた気持ちも混じっていたので文句はいわず、とりあえず手に持っていた握り飯の最後のひとかけらを口に放り込んだ。
 「どうも、シンタローの顔色があまり冴えねぇような気がしたんだけんども」
 「そら、あの親馬鹿親父と親子喧嘩でもしたんでっしゃろ」
 アラシヤマは湯のみを持ってくると、鉄瓶から勝手に白湯を注いで飲んだ。
 「そうなんだべか。普段シンタローを猫っ可愛がりしてるくせに、あの親父、ムカつくべ」
 「そう単純な話やないとは思いますけど、あの親父がえらくムカつくんは事実どすな。想い合うわてと心友のシンタローはんとの仲をいつも邪魔しはりますし!」
 「……アラシヤマ、どう考えても全部おめさの一方通行だべ?いいかげん、妄想はやめた方がいいんでねぇべか?シンタローにもますます嫌われるだけだべ」
 「……聞き捨てなりまへんな。わてのどこが嫌われていると云わはるんどすか?シンタローはんは、照れてはるだけどす!頭の足りへんあんさんには分からんやろうな」
 アラシヤマは目を細めてミヤギを見ると、
 「そういやあんさん、先程からえらくシンタローはんに肩入れしてはりますなァ?忍者はんが知ったら悔しがりますえ?」
 と小馬鹿にしたように言って、鼻で笑った。
 「トットリのことは関係ねぇ。オメェこそさっきから偉そうに何様のつもりだべ?」
 ミヤギがアラシヤマを睨みつけ、片膝を立てると、
 「上等どす。わてに喧嘩を売ったことを、せいぜい後悔せんことやな」
 アラシヤマも腰を浮かせ、立ち上がろうとした。
 しかし、不意に
 「君たち、所内での喧嘩は御法度だヨ?」
 という声が聞こえ、何の気配もなくマジックが不意に襖を開けて姿を現した。
 アラシヤマとミヤギは、幽霊を見たかのように一瞬動作を止め、あわてて居住まいを正した。
 「偶然、さっきから話を全部聞かせてもらっていたんだけどねぇ?・・・どうやらまだまだ、私の耳は遠くなってはいないみたいで安心したよ」
 マジックは笑みを深めたが、見ている二人の背には油汗が伝った。
 「アラシヤマ、今日はどこへ行くつもりなんだい?」
 とマジックは平生と変わらぬ調子で聞いたが、アラシヤマは中々答えない。
 「いいから言いなさい」
 「――浅草寺で歳の市の見廻りどす」
 「ミヤギ、君は?」
 「オラは昼からは調書を仕上げます」
 それぞれの予定を聞くとマジックは、しばし思案し、
 「ミヤギ、今日はアラシヤマの見廻りについて行きなさい」
 と云った。それを聞いて、いち早く反応したのはアラシヤマであった。
 「お奉行!一体何の道理でわてが、この顔だけ阿呆の面倒をみなあかんのどすかっ!?はっきり言わんくても邪魔どすえ!!」
 「オラもこんな根暗野郎とこれから浅草くんだりまで行きたくねえべ!調書を書き終わったら、今日は非番のはずだっぺ!?」
 マジックは、いきまいて抗議する二人を眺め、
 「五月蝿い」
 と、ひとこと言って姿を消した。
 アラシヤマとミヤギは顔を見合わせ、息を吐いた。
 「あれって、絶対八つ当たりだべ……」
 「わても同感どす。なんやえらい阿呆らしゅうなりましたナ……」
 「仕方ないっぺ」
 「ほな、さっさと行きまひょか」
 「あーあ、全くついてないべ」
 ミヤギは再度、長々と嘆息した。


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 (ったく、すっげー時間の無駄だったゼ・・・)
 親父に再三呼び出されて、あまりにもしつこいんで久々に帰ってきたら、やっぱりろくなことを言いやがらないし。
 俺が、ムカつきながら奉行所の裏門を潜って外に出ると、土塀の陰に不審者が居り、どうやらいかにも見つけてもらいたげな様子だったので、益々ムカついて、持っていた小束を投げた。
 「シンタローはーん、酷うおます~」
 と、言いながら、編み笠に小束の刺さったままのアラシヤマが塀の影から出てきたけどそれを無視したら、慌てて後を追いかけてきた。
 「お奉行に、“絶対、今日は奉行所に来るな”って言われましたから、たぶん、あんさんが来るかと思ったら、案の定どしたわ」
 「―――いつから、そこに居たんだヨ?」
 半ばウンザリとした気分で聞くと、
 「あっ、ずっと待ってたわけやおまへんえ?房楊枝の納品の帰りに寄ったらシンタローはんに会えたわけなんどす~vvv」
 焦ったようにそう言っていたが、どこまで本気なのかそうでないのかよく分からない。俺が確かめるようにアラシヤマの顔をじっと見ると、ヤツは一瞬真顔になり、その後すぐにヘラヘラと、
 「そんなに見つめはりますと、照れますえ?」
 と言った。
 ―――何だか往来でこうしている事が段々馬鹿らしくなってきた。もう夕暮れ時とはいえ、まだ暑いし。
 「俺は、もう帰っから」
 「ちょ、ちょっと待っておくんなはれ!せっかく久々に会うたんやし、夕涼みとでもしゃれこみまへんか?あんさん、今日は道場をリキッドにまかせてきはったんやろ?少々遅うなってもええんちゃいますの??」
 まぁ、コイツの言う事にも一理あるかとも思った。夕涼みにも少し心が動かされたし。・・・コイツの案に素直に従うのは癪に障るけどナ。
 「でっ、何処に行くんだヨ?」
 「両国の川沿いがええんちゃいますの?もう涼み台がたくさん出てましたわ」
 ヤツがそう言うので、俺たちは両国の方へと歩き出した。今は夕暮前なせいか、人通りも多い。
 ふと、アラシヤマが立ち止まったので、俺が、
 「何だ?」
 と声を掛けると、アラシヤマは軒下に吊るされた菖蒲を指差し、
 「シンタローはん、何どすかアレ?」
 と聞いてきた。
 「あぁ、あれは、“菖蒲の占”だ。“思ふこと軒のあやめに言問はん、叶はばかけよささがにの糸”って歌があるだろ?」
 「何かの呪いどすか?」
 「子どもの遊びだ。確か、菖蒲に蜘蛛の巣がかかると願いが叶うとかそんなんだったかな」
 「やっぱり、呪いの一種どすな!呪いやったら、わては得意どす」
 アラシヤマはそう納得していたけど、違うと思う。
 「どんな願いやわかりまへんが、叶うとええどすな」
 不意にヤツが真面目な顔をしてそう言っていたので、俺が、
 「そうだな。叶うといいよナ」
 そう応じると、アラシヤマは、
 「なんやシンタローはんがそう言わはると、絶対叶わん願いでも、成就しそうな気がしますわ」
 と真剣に言った。俺はその時どんな顔をしたら良いのかが分からなかった。
 「ほな、行きまひょか」
 何事もなかったかのようにアラシヤマは先に歩き出した。俺がすぐにヤツに追いつくと、ヤツは俺を振り返り、
 「あっ、シンタローはんッツ!可愛いおす~vvv」
 とか訳の分かんねぇことを言ってやがったので、
 「なんか、ムカツク」
 と、ヤツを一発殴っておいた。








 

 トットリは、神田の古着屋街で任務に必要と思われる衣服を少々購入した後、両国に向かった。両国は、屋台や見世物小屋が立ち並んでおり、たくさんの人が行き交い、たいそう活気に溢れた様子であった。
 持っていた卜占の荷物を道の隅で広げ、台の上に筮竹や暦などを置いた。
 客足はほとんど無かったが、それでも、始めのうちは1人、2人と女性が立ち寄ったりもした。彼女らにコージの妹のことを聞いてみたが、一向に手掛かりは得られなかった。
 ある時間帯を境に客足はパタリと途絶え、非常に暇になったので、トットリは本日はもう店仕舞いをしようかと思った。
 「それにしても、暇だっちゃ・・・」
 トットリが台の上に、頬杖をついていると、
 「トットリじゃねェか。久しぶりだナ!こんなところで何してるんだ?」
 と、トットリに声をかける者があった。

 アラシヤマとシンタローは、茶店で落ち合った後、神田明神にまず参拝した。桃山風建築の壮麗な社殿が構えられており、お参りをする人々で辺りは混雑していた。
 「やっぱり、一番お参りしとかなあかんのは、縁結びの神様でっしゃろ。ということで、大国さんどす~」
 「俺は、厄除けに一番お参りしときたいがナ・・・」
 「えっ?シンタローはん、なんや厄介ごとに巻き込まれてますの!?わてに一言も相談してくれへんとは、みずくさいどすえ?わてが力になりますよってー!!シンタローはんのためなら焼き豆腐の覚悟どす!!」
 「・・・(ってゆーか、一番厄介なのはオマエだし)」
 2人は一応全部の社殿にお参りし、その後、両国の方に向かった。
 両国では、大道芸が盛んであり、豆蔵と呼ばれる曲芸師が撥を手玉に取ったり曲独楽を見せたりしていた。他にも、粟餅の千切り投げなどというものもあった。
 「シンタローはん、駱駝とかいう変な動物が見られるみたいどすえ?」
 「うーん、それよりも、楊弓にしねぇか?どっちの点数が高いか競争しよーぜ」
 「(嬉しそうどすなぁ・・・)ほな、楊弓にしまひょか!!負けた方は勝った方に晩飯を奢るということで」
 「よし!ぜってー、勝つ!!」
 いつもより、アラシヤマの前で子どもっぽい様子を見せるシンタローに、アラシヤマは、
 (かっ、可愛いおす~!今日のデートは大成功どす!!)
 と、心の中で感激していた。
 楊弓の後、シンタローとアラシヤマは、見世物の屋台などを冷やかして歩いたが、そろそろ夕飯を食べようかという頃合になったので、人波を抜け、神田の方面に足を向けた。
 「さっきの豆蔵の、包丁と桶と卵の手玉芸のあの卵は本物かな?あんなに重さの違うものを同時に投げたり受け取ったりすんのは難しいんじゃねェか?」
 「本物でっしゃろ。たぶん、最初は危険やないものを使って何遍も練習するんやと思いますえ?」
 「フーン。道場の門人どもにも見習わせてェな!ったく、あいつ等すぐにサボりたがるし。おい、アラシヤマ。あれってトットリじゃねぇのか?」
 アラシヤマには、トットリであると分かったが、(せっかくのデートが台無しになったら困りますしナ!)と思ったので、知らないフリをしようとした。
 「さぁ。たぶん、よく似た別人やおまへんか?ほっといたらええんちゃいますの?」
 「でも、トットリみたいだけど・・・。よし、確かめるゾ!!」
 アラシヤマの制止を振り切り、シンタローはトットリの方に歩いていったので、仕方なくアラシヤマもその後を追った。

 トットリは、シンタローに声を掛けられ、いささか驚いた。そして、さらにアラシヤマも一緒にいるのを見て目を丸くした。
 「シンタローやないか。久しぶりだっちゃ。それにしても、何でアラシヤマと一緒に居るっちゃね?お前ら、そんなに仲が良かっただらぁか?」
 「そんなことよりも、お前、今何やってんだ?同心じゃなかったのか?」
 「シンタローはん、そんなこと、どうでもええですやろ?もう行きまへんか?」
 と、アラシヤマはシンタローの着物の袖を引っ張ると、小声で言った。
 その様子を見ていたトットリは、
 「フーン」
 と言うと、笑顔になり、
 「ぼかぁ、今、易者をやっとるんだわ!中々中るって評判だっちゃわいな。シンタローに限り、今回特別に無料で診てやるっちゃ!」
 そう、親切そうに言った。
 「タダか・・・。なら、診てもらおうかな。でも、俺は占いは信じねぇゾ!」
 「まぁ、聞き流しといてくれたらええわな。ということで、手。」
 トットリは、自分の手を前に差し出し、シンタローに手を貸すように促した。すると、アラシヤマが、
 「ちょっと、待っておくんなはれッツ!あんさん、その机の上の筮竹はなんですのん!?それで占うんやったら、何も手を握る必要はないですやろ!!」
 と、異議を唱えた。
 「うるさい男っちゃね。僕は、手相も見るんだわ。筮竹の方は時間が掛かるしややこしいから、料金も高いっちゃ!!」
 「わてが払いますから、シンタローはん、筮竹の方にしときなはれ!!」
 アラシヤマが決め付けるように言うと、
 「何で、お前に一々ツベコベ言われねぇとなんねーんだヨ!タダで占ってくれるって、言ってんだからそれでいいじゃねぇか。ホラ」
 そう言って、シンタローはトットリに手を差し出した。
 「シンタローはーん・・・」
 アラシヤマは、情けなさそうにそう言った。その様子を見て、トットリは一瞬、意地の悪い笑みを浮かべたが、それはアラシヤマしか見ておらず、トットリはすぐに真顔に戻った。
 「どうやら、手相ということに落ち着いたみたいっちゃね。そげだぁ、診てみるわ」
 そう言って、トットリは真剣にシンタローの手相を眺めた。
 「占いを信じてないんやったら、あまり詳しい事は言わん方がええとおもうけど、とりあえず、シンタローは非常に珍しい手相だっちゃ。物事は、困難があっても悪い方向には進まんっちゃ。―――ただ1つ、困った事に、男難の相が出とるっちゃ」
 「・・・普通、女難とか、水難じゃねェのか?」
 「いーや、男難だっちゃ。思い当たることはないだらぁか?」
 「そういや、最近、」
 「シンタローはん!あんさん、結局信じてますやん!!そう易々と、他人の口車に乗ったらあきまへんえ?」
 シンタローが何か考えようとすると、アラシヤマが横から声を掛けた。シンタローはムッとした様子で、
 「別に、信じてねェし!」
 と言った。
 なんとなく、その場の雰囲気が刺々しくなりかけた時、背後から、
 「おんしら、何しとるんじゃあ?」
 という声と、
 「ヤッホー!シンちゃん♪なんだか珍しいメンバーだね♡」
 という声が聞こえた。








 


 「そういう、あんさんらの方こそ、珍しい取り合わせどすな。グンマはんとコージはんの接点がわてには全くわかりまへんえ?」
 と、アラシヤマが言うと、
 「僕ら、偶然会ったんだけど、さっき一緒にカラクリを観てきたんだよ♪ものすごく細かい動きができていてすごかったけど、あれは、たぶん糸で操ってるんだよねぇ。アイデアはいいんだけど、耐久性の面から言うと、ちょっとなァ・・・」
 と、グンマはさっき見たカラクリの構造について考え込んでいた。
 「人形が生きちょるみたいで結構面白かったけぇ、おんしら、まだ観てなかったら、ぜひ観とくべきじゃぁ!のぉ、先生?」
 コージは懐手をしつつ豪快にそう言った。
 シンタローは、グンマに向かって、
 「おい、グンマ。お前、そろそろ帰んなくてもいいのかヨ?あまり遅くなると、高松が捜索願を出すんじゃねェのか?」
 と言った。
 「やだなァ、シンちゃん。いくら高松でも、そこまで過保護じゃないよォ」
 ―――その場にいた他のメンバーたちは、全員、(そんなことはない)と思った。
 コージが溜息をつき、
 「ワシが先生を近くまで送っていくわ。トットリ、おんしも一緒に来んか?昼間のお礼になんか奢るけぇの」
 「暇やから、行ってもええっちゃよ」
 「シンタローとアラシヤマも来るか?」
 「俺は今回パス。実家のやつらに見つかると色々とうるせーし」
 「アラシヤマは?」
 「わては、シンタローはんが行かへんのやったら、もちろん行きまへんわ」
 トットリが卜占道具を片付けるの待ち、挨拶を交わすとそれぞれ思う方向へと歩き出した。

 アラシヤマは、シンタローと並んで歩きながら、
 「シンタローはん、やっと2人きりになれましたナ!」
 そう言うと、
 「何言ってんだ?それよりも、晩飯はお前の奢りだからな!」
 とシンタローはにべもなく答えた。
 「あ、あれは、あんさんズルイどすえ~!!弓を引くとき、腕まくりしてましたやろ!!色仕掛けは反則どす!!動揺して撃てまへんでしたえ?」
 「色仕掛け?動揺??さっきから、分けわかんねぇ言い掛かりばかりつけてんじゃねェッツ!とにかく、負けは負けだからナ!!潔く認めろヨ」
 「奢るのはべつにええんどすが、やっぱり、心配でたまりまへんな・・・。どこまで信用してええもんか分かりまへんけど、忍者はんも、シンタローはんには男難の相が出てるいうてましたし。これは道場破りの3人の闇討ち決定ですやろか・・・」
 「何、1人でブツブツ言ってんだヨ?とっとと行くぞ」
 「シンタローはーん、何か食べたいものがおますか?」
 「うーん、桜飯は?ふろふき大根とかもいいな」
 「ほな、ちょっと足を伸ばして叶屋まで行きます?」
 「そうだな」
 2人はしばらく無言で暗い夜道を歩いていたが、不意に、アラシヤマが、
 「あーっ!すっかり、忘れとりました!!」
 と叫んだので、シンタローは驚いた。
 「驚かせんじゃねェッツ!!」と言って、シンタローはアラシヤマを軽く殴ったが、
 アラシヤマは、痛いとも言わず、
 「シンタローはん、手を貸しておくんなはれ」
 とのみ、言った。
 シンタローは、(分けわかんねぇ)と思ったが、何となく(まぁ、別にいいか)と思ったので片手を差し出した。
 アラシヤマは、シンタローの手をギュッと握ると、
 「今日は、色々ありましたけど、大体は、ええデート日和でしたな!」
 と、笑顔で言った。
 シンタローは、眉をしかめつつ、
 「デートじゃねェけど。でも、まァ、一応は楽しかったな。ところで、そろそろ手、離せヨ!」
 「嫌どすえ~。真面目な話、もうちょっと、こうしといてくれまへんか?わて、昔から一回も友達と手を繋いだ事ないんどすわ」
 茶化したようにそう言うアラシヤマの顔の方を見、シンタローは一瞬何か言おうとしたが、少し迷った末、結局口をつぐんだ。
 「・・・店に着くまでだからナ!!」
 シンタローが、いかにも渋々といった様子でそう言うと、
 「嬉しおす」
 アラシヤマは、少し笑って、シンタローの手を大切そうに両手で包んだ。
 2人はしばらくそうしていたが、不意に、シンタローは手を振り払うと、
 「・・・やっぱ、気が変わったかも」
 先に歩き出した。
 アラシヤマは、
 「そない、殺生な~!シンタローはーん!!」
 と言いつつ、慌てて後を追った。
 2人が路地を曲がり、その姿が完全に見えなくなると、灯のついていない常夜灯の影から黒猫が道に飛び出し、辺りを窺った。
 やがて、猫の姿も見えなくなり、路地には生き物の気配が全く感じられなくなった。
 その後、今まで姿を隠していた月が雲から出て、静かに人気のない路地を照らしていた。


 


 トットリは、家に帰ると易者の格好に着替え、コージとの待ち合わせ場所である丹波笹屋に向かっていた。丹波笹屋は、江戸には珍しい鹿肉や猪肉などの獣肉を専門に扱う鍋物料理店であった。
 トットリが丹波笹屋の暖簾を潜ると、既にコージが座敷に座って紅葉肉の刺身で酒を飲んでいた。
 「おお、先に来ちょったぞ!遅かったのォ」
 コージがトットリに向かって手を挙げ、場所を知らせると、トットリは易者の道具を入り口の方に置き、
 「朝から、ちょっと野暮用があったんだわや」
 と言いながら、コージの向かい側の席に座った。
 「ここは、確か山鯨鍋が有名っちゃね。コージもそれでええだらぁか?」
 「ワシはなんでも食うけんのォ。好き嫌いが無いのが自慢なんじゃ!」
 「そんな感じがするわな」
 トットリは、山鯨鍋を注文し、改めてコージの方に向き直った。
 「それで、聞いときたいんやけど、妹さんを探す算段はどうなってるんだっちゃ?」
 コージは、一言、
 「手掛かりは無い」
 と言った。それを聞いたトットリは、呆れた顔をし、
 「そんなんで、よく探そうという気になるっちゃね」
 とコージに言うと、
 「全く無いという訳ではないんじゃが、国元の奴に聞いたところによると、どうも江戸に出てきとるみたいなんじゃ。小さい頃に生き別れたきりじゃけぇ顔もよう分からんけど、たぶん、ワシに似て美人じゃろ!!あと、確かワシと同じ形の痣があるはずじゃあ」
 そう言って、コージはトットリに「これじゃ」と痣を見せた。
 トットリは、しばらく考え、
 「うーん、美人かどうかはともかく、まず、コージに似とる娘さんやナ。言葉もたぶん同じだっちゃわいな。それにしても、痣というのは、顔とか手とか普段目に見える所にあったらええけど、もし、着物の下とかだったらどうするっちゃ?妓楼に行ってもええけど、通う金も暇もないわ」
 と言った。
 コージは渋面になり、
 「妓楼には、できればいてほしくないのォ。でも、今おんしに言われて気づいたんじゃが、そういう可能性も捨てきれんの。おんしには、街中での情報収集の際に、それとなくワシの妹のような娘を見かけたり、何か手掛かりを聞いたりしたら、それをワシに教えて欲しいんじゃ」
 「それやったら、協力できるっちゃ。まぁ、あまり期待せんといてくれっちゃ」
 トットリがそう答えると、コージは、明るい顔になり、
 「スマンのォ!おんしが協力してくれると大助かりじゃア。ワシにとって妹は、たった一人の肉親じゃけん、見つけたら、今までの分まで色々と面倒をみてやりたいのォ」
 「見つかるとええわな」
 その時、丁度、料理が板場の方から運ばれてきた。店員は大鍋を下げてきたが、鍋の中では、葱や白滝や、ボタン肉などが、美味しそうな具合に煮えていた。
 「・・・肉ばっかり食べんと、葱も食べるがや」
 「やっぱり、ボタン鍋は肉が美味いのォ」
 「少しは、遠慮しろっちゃ!!」
 トットリとコージは、小競り合いをしながら鍋を食べ終え、トットリが勘定を払い、店の外に出た。
 「ご馳走様じゃあ」
 「これから、コージは、どうするだぁか?」
 トットリがそう聞くと、
 「ワシは、妹を探しに行くけぇ。妓楼の方にでも行ってみようかの。おんしは?」
 「僕は、両国とか人の多い場所に行ってみるっちゃ。丁度、易者の格好しとるし、情報が集めやすいと思うわ」
 「くれぐれも頼んだけぇ。じゃあの」
 「ああ、またナ」
 2人は、お互い軽く手を挙げると、それぞれ別の方向に向かって歩き出した。


 


 コージは、なんとなく、吉原の方角に向かって歩き出した。吉原には、力士時代何度か行った事があったので、馴染の芸妓に聞いてみようと思ったのである。町中の人通りの多い、通りを歩いていると、不意にコージの目は、今にも財布を掏り盗られようとしている十徳姿の若者を捉えた。
 自分にも後ろ暗い部分があるので、知らない人間だと係わり合いになりたくないと思ったが、生憎、相手はあながち知らない相手ではなかったので、仕方なく、コージは逃げようとしている掏りの老人を追いかけるとその手首を掴んだ。
 老人は、巨漢のコージの登場に、青くなった。コージが小声で、 
 「今、あの兄ちゃんの財布を掏ったじゃろ?あれは一応ワシの知り合いなんじゃ。それを返すと、見逃してやるけぇの」
 と、老人に言うと、老人は震える手で財布を差し出した。
 コージが老人を放すと、老人は一目散に逃げていった。
 (ワシ、柄にも無く何やっとんじゃろ)
 と、思いながらも、コージは十徳姿の若者に声を掛けた。
 「先生、これに見覚えはないかの?」
 「あっ!それって、もしかして、僕の財布?どうして、コージ君が持ってるの??」
 「さっき、掏りに掏られちょったんで、ワシが返してもらってきたんじゃが」
 「わァ、ありがとー♪何でか、僕って、よく財布とか掏られちゃうんだよね」
 グンマはコージから財布を受け取ると、大事そうに懐に仕舞った。
 (そりゃー、先生は、金持ちそうで、おまけに何も考えず暢気に歩いているように見えるからの。ワシが掏りじゃったら勿論、いいカモじゃ思うし)
と、コージは思ったが、口には出さなかった。
 「コージ君、何処かへ行くところだったの?もしよかったら、お礼に何か奢らせてよ♪」
 コージは、少し考え、(まぁ、いいじゃろ)と判断した。
 「それじゃあ、お言葉に甘えようかのぉ。ところで、何処の店に入るんじゃ?」
 「じゃあ、あそこの汁粉屋に行かない?あそこの汁粉は美味しいんだよ~♡」
 そう、グンマは言うと、コージを引っ張って、「しるこ餅 代十二文 そうに せんさい」と書かれた看板の置かれている店に向かった。
 2人はグンマお勧めの汁粉を頼んだ。待っている間、コージは、特にグンマと共通の話題が思い浮かばなかったので、少々居心地が悪かった。そこで、グンマが何処にいく最中であったのかを聞いてみることにした。
 「ところで、先生は何処へ行く途中だったんじゃあ?」
 「え、僕?僕は、吉原から帰るとこだったんだヨ」
 コージは非常に驚いた。
 「えっ!?先生が吉原通い??―――それは、意外じゃのォ」
 「うーんとね、妓楼の主人に頼まれて時計の修理に行ったの。櫓時計と枕時計なんだけど、どっちも調整が必要なんだよネ!本当は高松が頼まれたんだけど、歯車とかカラクリが知りたかったから、僕が高松に頼んで行かせて貰ってるの♪」
 屈託なく話すグンマに、コージは頭を掻き、
 「それならワシも、腑に落ちるわ」
 と苦笑しながら言った。
 汁粉が運ばれてきたので、2人は黙って汁粉を啜っていたが、ふと、グンマが椀を置き、
 「コージ君。僕ねぇ、自分で動く大きいカラクリを作りたいんだ」
 と言った。
 「自分で動くカラクリ?」
 「うん。そしたら、危険な場所での作業とかそのカラクリに任すことができるでしょ?」
 「何だか、夢のような話じゃのォ。先生、聞いてもええもんか判らんけど、実現できそうなんか?」
 「うーん、理論は考えてるんだけど、実際に作るのはなかなか難しいよ」
 「そうなんか・・・」
 それきり、沈黙になってしまったが、しばらくしてコージが、
 「そうじゃ、先生!今、両国の見世物で、自分で弓を手にとって引いて的に当てるカラクリ人形が評判になっとるんじゃけど、参考にならんかの?」
 「えッツ、そんなのがあるんだ?見てみたいなぁ」
 「じゃあ、今から見に行かんか?未来の大先生にちょっとでも貢献できたらワシも嬉しいけぇの!」
 「ありがとう!それじゃ、さっそく見に行こうよ♪」
 2人は、汁粉を食べ終わると、両国の方に向かった。



 継裃を着たアラシヤマが、報告のためマジックの役宅を訪ねると、用人のチョコレートロマンスが、
 「お奉行が来られるまで、もう少々時間がかかるかと思いますので、竹の間でお待ちください」
 と、アラシヤマに言った。
 アラシヤマがチョコレートロマンスの後からついていき、チョコレートロマンスが障子を開けると、そこにはやはり礼装の継裃を着たトットリが座っていた。トットリはアラシヤマを見ると、少々嫌そうな顔をした。
 「それでは、失礼致します」
 そう言って一礼し、チョコレートロマンスが去っていったので、アラシヤマは仕方なく、トットリの横に置かれていた座布団の上に座ったが、
 「何で、アラシヤマが居るんだらぁか?」
 「何で、って言われましても。わてはお奉行に呼ばれて来たんどす。そういう忍者はんこそ、何でここに居るんどすか?」
 「僕も、マジック様に呼ばれて来たっちゃ。それにしても、今日は縁起が悪そうだっちゃ・・・」
 「・・・あんさん、さりげなく座布団の位置を離してはりませんか?」
 「ぼかぁ、細かい事を一々いう奴は、好かんっちゃ!」
 「それは奇遇どすな!わても、笑顔で嫌味を言うお人は、好きやおまへんナ」
 その場には一瞬、険悪な雰囲気が漂ったが、ほどなくして障子が開き、奉行のマジックが入ってきた。
 「やあ。待たせたね」
 そう言いながら、マジックは上座に座ると、2人に向かって、
 「今回の特別任務、2人とも御苦労であった。おかげで何とか事は滞りなく収まった。明日からまた通常通りの任務に戻ってもらうが、これからもこのようなことは度々あると思うので、よろしく頼む」
 と声を掛けた。
 2人は頭を下げて聞いていたが、トットリが、顔を上げ、
 「お奉行様、また、アラシヤマと組まんとだめなんだぁか?できれば、それは遠慮したいっちゃ!どうせ同心と組むならミヤギ君とは息も合ってて、やりやすいんやけど」
 そう言ったが、マジックは、
 「ミヤギは、隠密廻り同心じゃないから駄目だよ。隠密廻り同心は君たち2人だから、お互い協力し合うように」
 あっさりと答え、ティラミスが持ってきた三宝に載せた小さい包みをそれぞれ2人の前に置いた。
 2人がそれを受け取ると、マジックは、
 「じゃあ、今日はもう帰っていいよ。詳細はまた追って連絡するからね」
 と言うと立ち上がり、部屋を出て行った。
 残されたアラシヤマとトットリであったが、アラシヤマはふと、口を開き、
 「あんさん、自分がプロやいう自覚、ありまへんのか?いくらわてと組むのが嫌でも、それは任務上でのことで、我慢せなあかんことやろ。あの場でお奉行に言うべきことや無いと思いますえ」
 そう淡々と言った。
 トットリは、図星を突かれたようで一瞬言葉に詰まったが、
 「・・・そんなこたぁ、僕もわかってるわな。でも、お互いに信頼できん人間同士が任務に当たると、いつどこで失敗するかわからんっちゃ。今回は、アラシヤマと組む比重が少なかったけど、いつもそうとは限らんし」
 トットリがアラシヤマの方を見ずにそう言うと、アラシヤマは、
 「それは、ただの我侭どす。結局、あんさん次第や思いますえ?」
 刀掛けに掛けられていた刀を持って立ち上がり、
 「ほな、お先に失礼しますわ。まァ、当分はあんさんと会うことも無いと思いますし、大丈夫ですやろ」
 と言って退出した。
 部屋に一人残されたトットリは、
 「・・・ぼかぁ、やっぱり、アラシヤマは好かんだっちゃ」
 眉間に皺を寄せ、腕を組んで呟いた。



 

 役宅の門を出たアラシヤマは、家路へと道を急ぐすがら、先程のことを思い返してみたが、
 (あの忍者はんは、どうもわてのことが嫌いらしいどすけど、別にわては嫌われる事をしたような覚えはありまへんえ?ま、相性が合わんいうたらそれまでどすな!そんなことよりも、急がんとシンタローはんとの待ち合わせの時刻に遅れてしまいますわ。遅れたらシンタローはんは待っててはくれまへんやろし・・・)
 結局、シンタローとの待ち合わせの事に気を取られ、すぐにトットリとのちょっとした諍いについては忘れてしまった。
 アラシヤマは家に着くと、着流し姿に着替え、家を出た。
 (明神さんへお参りに行くのはええんどすけど、その後、何処へ行きまひょか・・・。やっぱり両国あたりですやろか?シンタローはんにも訊いてみまへんとナ)
 あれこれ思いつつ歩いていると、いつの間にか道場近くまで来た。
 「まさか、シンタローはんはまだ来てまへんやろな・・・」
 そう思いつつ、角を曲がると、茶店の外に置かれた長椅子にシンタローが座っていた。シンタローはアラシヤマを見つけると、
 「遅い」
 と、一言言った。
 アラシヤマは、冷や汗を掻きつつも、
 「えろうすんまへん。朝から少々野暮用がありまして。それにしても、シンタローはんの方が先に来てくれとるとは、わて、夢にも思いまへんどしたわ。あっ、もしや、シンタローはん、わてとのデートをそんなに楽しみにしてくれてはったんどすか!?う、嬉しおす~vvv」
 「んなわけねェだろ!ただ、今日は朝から道場破りの馬鹿が3人も来やがって、揃いも揃って全員俺を指名しやがるから、ボコボコにしてやった。そいつら、念友がどうとか言ってたけど、一体何なんだ?売られた喧嘩は基本的には買うけど、昼からもそんな奴等ばかりが来たらウゼェから、後はリキッドに任せて逃げてきた」
 ふてくされたように言うシンタローを見ながら、アラシヤマは、少々引き攣った笑顔で「そうなんどすかー」と相槌を打っていたが、心の中では、
 (シ、シンタローはん!そいつら、全員、あんさんに下心がある連中どすえ!!よりにもよって念友になってくれやなんて、わてかてシンタローはんにそんなこと言った事おまへんのに!!!・・・そいつら全員、後で始末しておいた方がええですやろか?うーん、でも一応、私闘は禁止されとりますしな。やっぱり闇討ち?まぁ、しばらく様子を見て、シンタローはんに付き纏うようやったら考えなあきまへんな。―――それにしても、シンタローはんはやっぱり全然分かってへんみたいどすなぁ・・・。これは、前途多難そうやな)
 などと、考えていた。アラシヤマが色々と考えていると、
 「でっ、今日は何処に行くんだ?」
 と、シンタローが座ったままアラシヤマを見上げていた。その様子は心なしか少し嬉しそうであった。
 (かっ、可愛いおすー!!)
 アラシヤマが感動していると、シンタローは不審気な顔つきでアラシヤマを見た。アラシヤマは、慌てて我に返り、
 「今日は、両国とか神田の方に行きまへんか?色々と面白いものがあると思いますえ」
 と言うと、シンタローは、
 「おう」
 と言って、長椅子から立ち上がった。

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