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アオザワシンたろー




 もしも、マジックが本当に俺の嫌がることをしたら、俺はそれを許せるのだろうか?

 シンタローが自問したのは、人よりかなり遅い自立への第一歩だったのかもしれない。今までマジックは、そういった小さな芽をこまかく摘みあげてきた。
 シンタローが『マジック』項目に関しては何も考えずにすむように……何も、考えさせないように。
「パパはシンちゃんがだぁいすきだよv」
 マジックがいつものようにシンタローの首にするりと両腕を掛けた。こんなふうにされると、たとえその腕に力がこもっていなくとも、逃げ出すことは容易ではない。
 マジックの存在とは、そのくらい強いものだった。
「どうしたの?難しい顔をして」
 シンタローの心中を知ってか知らずか、この父親は頬に唇を寄せた。
「別に、…ちょっと、ヤバイって思っただけだよ」
「ヤバイ?何か失敗しちゃったのかい?」
 親子の間の親子以上の関係は、マジックにとっては失敗のうちに入らない。少なくともシンタローの前では、そんな関係を悔いた言葉は出てこなかった。
「親父は平気なの?」
「何が?」
「……」
 この父が、常識を知らないはずはないのだ。ただ、それを己のモラルと同一視しないだけなのだ。
「だからさ、……こういう……コト」
 シンタローが口ごもるとマジックはおかしそうにその唇を指で押さえた。
「なんにもいわなくていいヨ。全部パパに任せておきなさい。私を信じていればいいんだよ」
「…でも…」
「でも、何?」
 反論することを、認めているにもかかわらず、そうはできない雰囲気が、言葉にはあった。
「……だって、俺…」
「言ってごらんシンタロー。『でも』…それから?。このパパに言いたいことがあるんだろう?」
「……」
「さあ」
 促されると、言えなくなる。
「なんでもない」
 そうとしか、言えなくなる。
 まだシンタローは幼かったから。体だけは大人になったのに、マジックが籠の中で育てたから、シンタローは幼かったから。
「シンちゃんはいいコだね」
 ご褒美のように、マジックがシンタローを抱き締める。小さかったころから何一つ変わらぬように。
 ……否、変えぬように。
 やがてシンタローに弟ができ、二人の間に大きな溝が出来る。その溝が、変わらなかった関係を変えてゆくのだ。


END




--------------------------------------------------------------------------------
ありがちな1コマです~。いやほんと、当時はコレで頭の中、妄想グルグルでした!なんて非生産的な!(笑)


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はじまりの物語(サービス編)

アオザワシンたろー




 六月になって、マジックから、息子の顔を見に来いという連絡が入った。
 兄貴の息子だから、俺にとっての甥ということになる。
 一族の長の子の誕生は、長にとってはさほど喜ぶべきことではないことを俺は知っている。
 それをわざわざ見に来いとは、何か裏にあるのだろうか。秘石眼を失ってからは、失う前よりも安全で役に立たないこの弟を呼び寄せる理由が、他に何か……。

 二つの秘石眼を持つ男マジック。
 一族の長にしてガンマ団の総帥である兄さんにとって、必ず秘石眼を持って生まれてくる息子は、一番自分の地位を脅かす存在でしかない。
 周りは必ず子供を総帥の後継者として見るだろう。やがて反逆が生まれる。
 もっともマジックなら、そうなる前に息子といえども戦地へ送り込むくらいのことはするだろう。実の弟である俺を、激戦区へ追いやったように。
 そして自らの力で仲間を傷つける苦汁を嘗めるのだ。
 マジックの子として生まれた以上、その悲劇は約束されたも同然のことだ。
 いや、弟の俺よりも息子であるほうが苦しいかもしれない。
 兄さんは自分が、世界を手にする気でいるのだから。

マジック  「見ろ見ろ見ろー!サービス、これがシンタローだよ!!愛らしい瞳、桃色の頬っぺた、天使の笑顔、なぁんて可愛いのだー !! 」
サービス  「に…兄さん?」

 水色のベビー服にくるまれた、息子シンタローに頬擦りをする父親。
 顔が緩みっぱなしで、そこにはガンマ団総帥の威厳はカケラもない。

マジック  「ほぉーらシンちゃん、あそこにいるのはシンちゃんの叔父さんだよー」

 マジックに抱き上げられた小さな赤ん坊は、こちらを見て無邪気に笑っている。もう顔の区別はつくのだろうか。
 うう?
 可愛い。
 あの兄貴の子とはとても思えん !! それとも血の繋がった赤ん坊というのは、格別可愛らしく見えるものなのだろうか。

マジック  「かわいーだろー」
サービス  「ああ、驚いた」

 赤ん坊の可愛らしさと、兄貴の態度に。
 おおよそ敵らしい敵の無いマジックにとって、最大の敵となりうるのが、その息子だというのに、この可愛がりようはどうだ。
 ちょっとだけだぞ、泣かせたら許さないぞ、と言いつつ、その手の感触を知って欲しがるマジックが、息子を預けてくれた。

 とても軽い。
 赤ん坊なんだから当然か。
 きゃきゃと、シンタローと名付けられた赤ん坊は初めて見る顔に笑い掛ける。

サービス 「うわー」


なんだか不思議だ。こんな小さな手足が、生きている証拠にばたばたと動く。
 一番不幸なはずの子供。長の子であるがゆえに、一番愛を貰えないはずの子供。

 しかしシンタローは……。

マジック 「さぁ、シンゃん、ミルクの時間だヨ」


 シンタローは、そうはならないかもしれない。
 今まで、一族最強の者がもつ遺伝子情報は何ものにも優性だった。
 けれど、シンタローをみてみろ。
 あのマジックの持つ姿を、彼は受け継いではいない。
 彼の持つこの黒髪と、黒い……双の普通の瞳は母方のものだ。
 だからマジックは息子を受け入れられた。愛せないはずの息子は、生涯に渡って彼の敵にはなれないと分かったから。
 秘石眼の威力は守られた。
 もう誰にも、マジックを止めることはできない。

 おそらく一族の中で真に愛される子供。
 ………この子が、何の力も持たないなんて信じられるだろうか。あのマジックをただの父親に変えてしまったこの不思議な子供が。
 血筋の運命をただ一人逃れた小さなマジック・ジュニア。


マジック 「おい、サービス、そこのカメラを回すのだっ。いいか、ちゃんと撮らないと許さないぞ。二人の愛の記録にするのだー」
サービス 「兄さん、シンタローだっていつまでも子供ではいないよ。自分の眼で物を見、自分の頭で考えるようになる。反抗だってするだろう。その時、兄さんはシンタローを手放せるのか」
マジック 「手放す?」

 マジックはシンタローを抱き締め、口元を歪ませる。

マジック 「いきなり何の話だ。こんなに私に懐いているのに、何故手放す必要があるのだ?サービス」
サービス 「……っ…」
マジック 「私は、反抗なんかできないように育てるつもりだよ」

ガンマ団総帥であるその男の言葉に、嘘はない。
 やるといったらやる男だ。既にシンタローの一生はシンタローのものではない。



 数年後、シンタローと再び会う機会があった。
 格段に可愛らしくなって叔父に飛びつき、言ったものだ。

シンタロー  「僕ねっパパのお嫁さんになるのっ」
サービス 「シンタロー、男の子は、お嫁さんにはなれないんだよ」


       サービス 「にいさん。一体どういう教育をしているんだ。日本で学校にやるんじゃなかったのか」
マジック 「やるとも。私は勉強も運動もできる子がいい。しかしそこで余計な知識を吹き込まれると困るな。シンちゃんと、ちゅーできなくなってしまう」
サービス 「(日本ではできないほうがシンタローの身のためになるんだぜ兄さん)」
マジック 「何か言ったか」
サービス 「いや、何も。(シンタロー、腑甲斐無い叔父を許せ)」






シンタロー  「おじちゃ、痛いの?」

 瞬間的に落ち込んだとき、それをめざとく見つけたシンタローが寄ってくる。
 ああ転ぶ転ぶ、どうしてもっとしっかり歩けないんだ、この子は。
 まだ体に対して頭が大きいのか。高い重心にはらはらする。

マジック 「サービス、お前ももちろん私の教育方針には賛成だろう?」

 シンタローに与えられるのは、檻の中の自由と、愛情という名の鎖。


サービス 「(何か間違ってる。だがどうすればいい)」
シンタロー 「おじちゃ、ちゅう、したげる」

サービス 「お、俺はどうしたら…ッ !! 」




ここで終わりなんだな。



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たぶん、原作設定と一番食い違っちゃった話ですね。これを書いた当時はまだ原作には獅子舞サマすら出てきてませんでしたからねぇ・・・。しかも実はこれ、漫画と小説の一人リレー作品だったんです。ほら、文章の繋がりとか流れが段落細切れでしょう?さら~と読み流してくださいませ。



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はじまりの物語(アラシヤマ編)

アオザワシンたろー




 わてがガンマ団日本支部から本部へ移籍するよう言われましたのは、わてが十五になる前のことどす。
 当時の本部には年若い訓練生はわてと…あの男しかおりまへんのどした。
あの男…マジック総帥の一人息子で、態度が大きうて口が悪うて顔が良くないこともないあの…シンタローという男です。

シンタロー  「なんだおめェ」
アラシヤマ  「わては今日付けで本部コースに編入するアラシヤマどす。あんさんこそ何者」

 本部に着いた時、わてが何にもしてないのに寄ってきてじろじろ見はるのんが、シンタローはんどした。
 その時は総帥の息子だなんて知りまへんから、失礼な奴の鼻っ柱折ってやるつもりで足ひっかけてやったんどすわ。したら奴さん、初め自分が転んだことが信じられないというふうどしたが、直ぐに真っ赤になって怒りだし、ついに取っ組み合いになってしまったんどす。 

シンタロー  「てめェ新入りのくせに態度デカいぞ!」
アラシヤマ  「礼儀知らずに教えてあげとるんどす」

 本部に日本人がいるとは聞いとりまへんどしたが、そいつの見かけは日本人で、年も背格好もわてと同じ位で、嫌味なことに強さまで似通っとりました。
 こう見えてもわては日本支部の訓練生内ではトップ成績を誇るエリート、格闘技は常に上の学年を相手にしてたんどすえ?それなのに苦戦してもぅたんどす。
 
シンタロー  「脇が甘ぇーよッ」
アラシヤマ  「なんですて !? 」

 手刀、というのがあります。実践で使うことは余り無いと教官が以前ゆうてはりましたが、使いこなせれば負けはありまへん。
 その手刀の、奴の肘から先がまさに刃のように空を裂き、わての懐に飛び込んできたんどす。
 後方にステップすることで直撃を避けられたんは、わての反射神経あってのことやと思います。
 自分の技が通用しないとわかったときの奴の悔しそうな顔!
 その時は、教官殿の采配で勝負はお預けになりました。
 奴の正体を知ったのもこの時どす。
 黒髪に驚きましたが、総帥の奥方が日本人だったので奴のような子が生まれたと、後から噂を耳にしました。総帥が溺愛してはると、恐れをもって語られとるんどす。

 本部の設備は日本とは比べ物にならず、演習場も広く、より実践的な訓練ができはるようどした。
 そこでは近々本部コースの下にジュニアコースを作りはるというので、わてはそれの寮長だとか委員長だとか色々面倒臭い肩書きを貰いました。

 ジュニアコースのメンバーが選任されるまでの間は、シンタローと一緒に本部コースにまじって訓練に参加しました。
 その中ではっきりわかりましたわ。
 シンタローという男は、ただものではおまへん。
 総帥のお子という立場に違わず、ジュニアコースなどというレベルではありまへんのどす。
 もちろん、わてもどすけどな!


 わてが総帥に呼ばれたんは、本部の生活にもなれた頃のことどした。
 映像や肖像画で顔は知っとったんどすが、本物の総帥はなかなか迫力モンどしたわ。ひっくーい声で、情熱的な赤い制服と対照的に、冷たい青い眼をしてはりました。

マジック   「良く来た。お前を本部へ呼んだのはこの私だ。貴様にひとつ、任務を与えようと思ってな」

 初めに断っておくと、総帥がわてのような訓練生に御会いになるのは異例のことなんどす。まして直々に任務を与えようなどとは…!
 ええどす。わての任務のためにここまで手間隙かけてくれはったんどすから、うかがおーではおまへんか。

マジック   「今のお前とシンタローの実力はほぼ互角。お前の任務は正当な手段であれを抜くことだ」
アラシヤマ  「御子息を…ですか。もちろん、誰であろうと手を抜くつもりはありませんが…」
マジック   「あれは私の息子だぞ。取り入った方が利口だとは思わないか」

 総帥は、穏やかな口調で任務を辞退させるようなことを言わはる。わても子供や思てなめられたもんどすな。


アラシヤマ  「わての目的は強くなることどす」
マジック   「シンタローは我が一族の後継者だ。それがどういう意味を持つかわからないわけではあるまい」
アラシヤマ  「わてが御子息を抜いても、そんな彼を後継者として指名できはるんどすか」
マジック   「フン。報告通り、頭も悪くないようだ。よかろう、今後シンタローと組め。ただしお前の任務を悟られるな。今後シンタローに取り入ろうとする者が増えても、だぞ」

 ふいに、わてにはわかったんどす。総帥の考えてはることが。
 マジック総帥は、わてにシンタローを育てるための手駒になれと言うてはるんどす。
 同じ年頃で、実力も突出しているどうしで、仲よぅのうて、……そんな奴が側におったら、否が応でも強うなりますわな。
 まだほんのちょっとしか話したことありまへんが、シンタローはんは、そない悪い奴でもないようどしたが。
 なんや、ハラたちますな。
 父親の手のなかで何の心配も無く育ちはって、あの強さゆうんは…なんやハラたちます。


シンタロー  「よぅ、アラシヤマ、いつかの決着をつけようぜ」

 シンタローがそう声かけてきはったんは、総帥に呼ばれた日の夜のことどす。夜間訓練場が使えるゆうことどした。
 なんやハラたつんどす。自分の将来になんの心配ものぅて、黙ってれば全部総帥がしてくれはって、それでいてわてと同じくらい強いなんて。

アラシヤマ  「…ええどす。お相手しまひょ」

 叩きのめしてやろう。そういうつもりで返事しましたんどすけど、シンタローはんたら、嬉しそうな顔、しはったんどす。そないに決着つけたかったんどすやろか?  
 わて、ホントは頭だって良いんどすよ。
 だからわかってしまったんどす。
 シンタローはんて、総帥の息子ゆうんで、結構苦労してはるんやないかって。
 ここにはわてらより強いんの、他にもおるんですもん。でも、わての所に来はった。
 ふうん。ライバル、ゆわはる、それも、ええねえ。

アラシヤマ  「手加減するつもりはないどすよ」

 ほしたらシンタローはん、やっぱり嬉しそうに言うん。

シンタロー  「できる余裕があるならやってみな!」



 わてらの付き合いゆうのは、こうして始まったんどす。





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ええ京都弁なんててでたらめですとも!そこ!注目しないように!!





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aa*

 「シンタロー、ここ数日何をイライラしている?」
 金色の髪をもった青年は紅茶のカップを手に取ると、対面に座っている同年代と思しき黒髪の青年に声をかけた。
 「別に、イライラなんかしてねェよ」
 黒髪の青年は、自分のカップをひっつかむと一動作で飲み干した。
 「…アラシヤマのことか?」
 「何で、俺があんな根暗のことを気にしなきゃなんねーんだ?」
 低く、真意を探るように黒髪の青年は言葉を発し、金色の青年をねめつけた。
 「あいつが団に帰還しているのにお前の周りをうろつかない、報告書も自分で持っていかず部下に持ってやらせる。いつもと違う状況だ」
 黒髪の青年は不機嫌そうに目を眇めた。対する金色の青年は顔色一つかえず、
 「気にしていないと言うなら、一切考えるな。アラシヤマのことなどしばらく放っておけ」
 と黒髪の青年の顔を見つめ、言った。
 黒髪の青年は真摯な表情を浮かべた彼の顔を見つめ返し、口を開こうとしたが結局は言葉を飲み込んだ。
 ソファから立ち上がり、彼は自分のマグカップを片付けると、
 「キンタロー。茶、ごちそうさん。そろそろ帰るわ」
 去り際にそう言って出て行った。
 金色の髪をした青年は、依然としてソファに座ったままであったが、
 「考えないでくれ、と言うべきだったか…」
 と、呟いた。


 (一体何を勘違いしてんだ?キンタローのヤツ。どこをどう考えたらそう思えるのかがわかんねェ。俺はイラついてなんかいねーし、だいたいアラシヤマが姿を見せねーことなんかで不機嫌になるなんて、どう考えてもありえねぇっつーの!)
 シンタローは怒りにまかせて廊下を大股に歩いていたが、どうも向かっている道が今まさに頭のすみに浮かんだ人物の部屋がある方角だと気づき、足を止めた。
 (キンタローのいう通り、放っておきゃいいんだよな。…でも、どうもすっきりしねェ)
 どうしてここ数日アラシヤマは自分を避けているのかということを考えてみても、シンタローには特に思い当たる節もみあたらず、釈然としなかった。
 よくよく考えているうちに、アラシヤマが生意気にも自分を避けている、という事実に腹が立ってきた。
 (―――何か、色々ムカつくよナ。顔を見せたら出会いがしらに眼魔法でもくらわしてやろう)
 そう思うと、少し気分が軽くなった気がした。


 「何ひきこもってやがんだ、この根暗。開けろ」
 ノック、ではなく、シンタローがドアの下部を蹴飛ばすと、ドアを隔てた向こう側に部屋の主の気配が感じられたが、返事は返ってこなかった。
 しばらくして、
 「…わては今留守どすえ」
 という声があきらめたような口調でインターホン越しに聞こえた。
 「なめてんのか、テメェ?眼魔…」
 「わかりました。今開けますさかい、眼魔法はやめておくれやす」
 ドアが少しだけ開いた。
 「まさか、あんさんが直接来るとは思いまへんでした。不覚どす」
 と、隙間から顔を覗かせ、苦々しげにアラシヤマは言った。どうやら、シンタローを部屋に入れるつもりはないらしかった。
 「…俺は、今誰にも会いたくない気分なんや。特にあんたはんには会いとうなかった。だから帰っておくれやす」
 アラシヤマは視線を逸らせ、シンタローの顔を見ようとしない。
 「ああ、そう」
 シンタローが踵を返してその場を去ろうとすると、
 「シンタローはん!」
 切迫した調子で、後ろから声が呼び止めた。シンタローは、声が震えると嫌なので返事をしなかった。
 「報告書、読みはりました?」
 意外なことをアラシヤマが聞いた。
 「読んだけど、それがどーしたんだ?」
 「わて、あんさんとの約束を破ってしもうたんや。そこに、敵の死傷者が記載されていたと思うんやけど、あの2名はわてが殺したんどす。殺すのに一瞬の躊躇もおまへんでした」
 少し、笑いを含んだアラシヤマの声は、常とは違い暗く翳っていた。
 「でも、オマエ、窮地に陥っていたガンマ団の兵士を助けるために仕方なくやったことなんダロ?」
 「あれ、別に相手を殺さへんでも助けられたんどすえ?ただ、久々に血が見てみたかったんどす。ほとほと自分自身に呆れましたわ」
 シンタローが一歩ドアに近づくと、
 「来ぃひんといておくれやす。…今のわては、あんさんに何をしてまうかわからへん」
 低く、凶暴さを無理やり押し殺したような声がし、ドアの後ろで一歩後退る気配がした。
 「…あんさんに傷ついてほしゅうないし、醜いわても見られとうはない。怖いんどす。でもわてはずるいから、本当はあんさんに一緒にいてもらいとうおます」
 声は、だんだん弱々しく小さくなっていった。
 「テメェ、俺様を誰だと思ってやがんだ?俺はオマエを好きでもねぇし、テメーごときのやることで傷なんざつかねぇ」
 シンタローがキッパリとそういいきると、
 「―――ああ、そうどした」
 しばらくして、泣き笑いのような震えた声で返答が返ってきた。


 シンタローが電気も何もつけていない暗い部屋の中に入ると、肩口を掴まれドアに押し付けられた。
 (痛ってぇ…)
 乱暴に押し付けられたさい打った頭がズキズキと痛むのにシンタローは顔をしかめたが、抗議しようと口を開くと、声を発する前に口を塞がれ、生温かい舌が滑り込んできた。
 ぎこちなく舌を絡ませながらアラシヤマは性急に総帥服をはだけさせたが、触れた肌が震えていることに気づくと、キスを解き、
 「すみまへん」
 小さくわびた。そして、ひとつひとつボタンをはめ直した。
 アラシヤマは、シンタローの手を取ってソファに座らせると、
 「シンタローはん、やっぱり、帰った方が」
 と、ためらっているような様子で言った。
 「俺は、オマエのそういうところが嫌いだ」
 そう言うとシンタローは、繋がれたままだった手を自分の方へと引いた。
 自然、アラシヤマはシンタローを押し倒す格好となり固まっていたが、しばらくすると笑いだし、大切そうに、そっとキスをした。


 ベッドの上で前戯もそこそこに、アラシヤマが身の内に入り込んでくると、シンタローは呻き声を噛み殺した。
 背後からは、今自分がどんな表情をしているのか分からないだろうという点のみが救いであった。
 アラシヤマは、シンタローの背が弓なりに反ったのを見て彼が苦痛に感じていることを知り、動きを止めた。
 「シンタローはん、これ以上無理やったら、やめときますえ?」
 シンタローの手を握っていた手とは反対の手で長い髪を撫で、アラシヤマは彼の背に口付けを落とした。身を引こうとすると、シンタローは少し振り返り、
 「ヤメルナ」
 と、掠れて声にはならなかったが、唇を動かした。
 本人は全く意図したものではなかったであろうが、眼や、汗で髪が首筋に張り付く様子に、凄絶な色香があった。
 アラシヤマは思わず息をのむとシンタローの腰を引き寄せ、ゆっくりと身を進めたが、全てが収まりきった頃にはシンタローは意識を失いかけていた。
 「ありがとう、シンタローはん」
 はっきりとは分からなかったが、自分の背に水滴が数粒、落ちてきた気がしたので、
 「泣くな」
 とシンタローは言った。


 シンタローが目を覚ますと、こざっぱりとした服を身にまとっていた。どうやらアラシヤマが後始末をして着替えさせたらしい。
 寝返りを打ち、向こうを向いたシンタローを後ろから抱き寄せ
 「すみまへんでした」
 と彼は言った。 
 「わては、やっぱり根っからの人殺しなんかもしれまへん。どうも、殺したらあかんということが、今も時々ようわからんようになります」
 「…生まれつきの人殺しなんていねーよ。これからは、殺さねぇことに慣れろ」
 「慣れるんどすか?」
 「ああ」
 「…無茶、言わはりますなァ」
 「できる。つーか、やるんだ」
 そう言うと、シンタローは目を閉じ、再び眠ってしまった。
 「あんさんが言わはると、ほんまにできそうどすな」
 アラシヤマは苦笑すると、シーツの中でシンタローの手を探り当て、しっかりと握った。
 そして、いつしか彼も眠りに落ちた。









a*

 あたり一面、火の海、だった。
 ややもすると、味方にも被害が及ばないとも限らない。
 「アラシヤマ上官ッツ!規定では敵味方に関わらず、誰も殺すなと総帥がおっしゃられていましたが・・・!?」
 熱風が吹きつける中、焦ったように補佐官が彼に注進したが、
 「五月蝿うおます」
 その言葉は、低く、一刀両断に切り捨てられた。
 「この方が、効率がいい。お前も燃やされたくなければ、ゴタゴタ言うな」
 信じられないような面持ちで、彼は炎の照り返しが赤く映るアラシヤマの顔を見たが、慌てて踵を返し、陣営まで駆け戻っていった。
 アラシヤマは、その場に立って眼前に広がる火を眺めていた。


 シンタローは無言で、バサリ、と机上に報告書の束を投げ出した。
 「味方に一人も被害は出てまへんし、状況が好転しつつありますが?」
 目の前の男には反省の念が全く見られない、自然、シンタローの声に苛立ちが混じった。
 「規定に背いたら、どうなるのかわかってんのか?」
 「わかってます。今の任務が終わったら激戦区行きでっしゃろ?望むところどす」
 俯いてはいたが、声音に悲壮感は見当たらず、どうやら口角が上がっている。その様子を、シンタローは注意深く観察していた。
 「―――やめた」
 「えっ?」
 「オマエは、今の任務から外す。1ヶ月間懲罰房で反省してこい」
 初めて、男の様子に動揺がはしった。
 「何でどすかッツ!?シンタローはんッ!!わてがおらん間、部隊の指揮を執れるもんが誰もおりまへんやん!?」
 「うるせぇッ!この作戦は、ミヤギに指揮を執らせる!!」
 「―――それは、本気で言ってはるんどすか?わて以外には無理や思いますけど」
 「決定だ。明日、迎えをやるから、部屋に戻れ」
 シンタローは書類を読み始めたが、アラシヤマはまだその場に立ったままでいた。
 時計に目をやると、結構な時間が経っていたので、シンタローは溜め息を吐いて渋々口を開いた。
 「何だ?テメー、しつこいな。何か言いたいことがあんなら、10秒だけ聞いてやるから言ってみろ。そしたらすぐに帰れヨ!」
 「―――シンタローはん。抱かせて」
 シンタローは、目を見開いた。


 薄暗い室内で、男が長い黒髪の青年を組み敷いていた。
 「失望、しはりました?」
 陰鬱な目で、彼は青年を見下ろしていた。
 「・・・もともと、てめぇに何も望んでなんかいねーよ」
 青年は、強い目つきで男を睨みつけた。
 「嘘吐きどすな。でもわて、あんさんが好きどす」
 貪るように、アラシヤマは体を進めた。
 「どんなに汚そうとしても、あんさんは綺麗なまんまや。たまに、憎たらしゅうなりますえ?」
 そう言って、彼は苦痛に顔を顰めるシンタローの髪を優しく撫でた。
 「キスは、すんな」
 シンタローは、近づいてきたアラシヤマの顔を手で押しのけた。
 アラシヤマは、その手を取り、手の甲に口づけ、
 「ああ、わて地獄行きは確実どすけど、できることなら、あんさんと同じとこに行きたいわ」
 戯れのように言って、笑った。
 「そしたら、あんさんのここが手に入るかもしれへんやろ?時間はたっぷりありますしナ」
 しっとりと汗ばんだ肌を辿り、シンタローの心臓のある箇所の上に手を当てた。 
 「ったく、死んでまでオマエと一緒なんてゾッとしねぇ・・・」
 シンタローは溜め息を吐いたが、思い出したように、
 「暑苦しい。さっさと退きやがれ」
 と言ってアラシヤマの肩を押した。
 「そないに殺生な~・・・。だって、わて、まだまだ大丈夫どすし」
 彼がアラシヤマを睨むと、アラシヤマは渋々といった様子で、ズルリ、と自身をシンタローの内から引き抜いた。
 シンタローはその感触に顔をしかめた。
 「シャワー、浴びはります?」
 「後にする」
 シーツを手繰り寄せ、それに包まったシンタローは目を閉じた。少しすると、浴室の方から水音が聞こえてきた。
 しばらくしてアラシヤマが戻ってきたが、シンタローは目を開けなかった。
 「寝てはるんどすか?」
 返事は、なかった。
 規則正しい呼吸の音がかすかに聞こえた。
 「―――あんさんが祈ることなら、わては茨の海でも歩いていきます」
 アラシヤマはそう決意するように呟き、影は一瞬、1つに重なった。
 今度は、口付けは拒まれることはなかった。









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